アルフがなのはの家に運ばれた翌日。
なのはがアルフの血が滲んだ包帯を取り換えていると、アルフの目がうっすらと開いた。
「……あ、起きた?」
「あたし……は……?」
「まだ起き上がらない方が良いよ。私も回復魔法掛けて治療したけど、完全に治った訳じゃないから」
「アンタは……!」
アルフがなのはの姿を見て、驚く声を上げる。
そして、目だけで辺りを見回す。
「ここはいったい……?」
「私の家だよ。アルフさんがここまで運ぶように頼んだんでしょ?」
「……そうか……そうだったね……」
アルフは昨日の事を思い出し、納得する。
しかし、同時にそれ以上の事を思い出し、アルフが咄嗟に起き上がろうとした。
それをなのはに押さえつけられる。
「ちょっと、アルフさん!? まだ寝てないと――」
「そんなことより、フェイトが大変なんだ!」
「え……?」
なのはが思わず力を抜く。
アルフが起き上がり、なのはの腕を掴んだ。
「お願いだ! フェイトを、あの子を助けて……」
力の籠もらないアルフの手では、なのはの腕が痛みを覚える事は無かった。
だが必死にしがみ付くアルフの手を、なのはが振り切れるはずも無い。
なのはの目が険を帯びる。
「……詳しく話してくれる? フェイトちゃんは、いったいどうしたの?」
「話すよ。全部話すから。だからフェイトを……」
アルフの泣きそうな声に、なのははアルフの腕を握る。
「分かった。時空管理局の方にも連絡しようか?」
「ああ。頼むよ……」
なのははレイジングハートに連絡を頼む。
程なくして、クロノが通信に出た。
『時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。
……どうも事情が深そうだな。
正直に話してくれれば、悪いようにはしない。
君の事も、君の主である、フェイト・テスタロッサの事も……』
「……分かった。だけど、約束して。フェイトを助けるって。あの子は何も悪くないんだよ」
『ああ、約束しよう。エイミィ、記録を』
『してるよ』
クロノは傍らに居るエイミィに話しかけ、エイミィもそれに応える声が聞こえた。
『話してくれ』
クロノの呼び掛けに、アルフは重い口を開いた。
「……フェイトの母親、プレシア・テスタロッサが、全ての始まりなんだ……」
アルフは、今までの事を話し始めた。
プレシアとフェイトの関係。
ジュエルシードを欲するプレシア。
母に元に戻ってもらいたいと願うフェイト。
ジュエルシードを集めて来たフェイトに、プレシアが行って来た残酷な仕打ち。
それでも、フェイトはプレシアに従おうとする事を。
アルフは話し続けた。
プレシアの事を話すときは怒りを、フェイトの事を話すときは、悲しみの籠った声で。
「……これで、終わりだよ」
アルフが全てを話し終えて、静かに息を吐く。
「そうだったんだ……」
『なるほど。そのせいで弱っていたからか。
あれだけの力を持っていながら、僕のあの程度の攻撃が避けられないのはおかしいと思っていたんだ』
なのははそれを見つめ、フェイトがどんな思いをしていたのかを知る。
クロノは最初に放った牽制用の魔法に、フェイトが引っ掛かった事の理由が分かって納得する。
「……それにあのババア、最後にフェイトの事、人形だって言ってた」
「人形?」
『……どういうことだ?』
「知らないよ。あたしが知るもんか。
ただ『人形をどうしようが私の勝手だ』って、そんな事言ってただけだ……」
『……エイミィ』
クロノは傍らに居るエイミィに話しかけた。
『はいはい、何ざんしょ?』
『プレシアの家族関係のデータ、出来る限り急いで送ってくれるように言ってくれ』
『オッケー』
エイミィは軽い感じで返した。
『その「人形」とやらについては、こちらでも調べておこう』
「ああ……」
アルフは静かに返す。
クロノが話を聞き終わり、アルフに告げる。
『どうやら、なのはさんの話と現場の状況、そしてアルフ、君の証言に嘘や矛盾は無さそうだな』
「嘘なんか言うもんか!!」
アルフがクロノに怒鳴る。
そして、思いの丈を吐き出す。
「あたしは、ただフェイトを助けたいだけなんだよ……」
それを聞いたなのはは、クロノに話しかける。
「……ねえ、クロノ君」
『何ですか?』
「この場合、どうなるの?」
『プレシア・テスタロッサを捕縛します』
クロノは言いきった。
『アースラを攻撃した事実だけでも、逮捕の理由には十分ですから。
だから、僕達は艦長の命が有り次第、任務をプレシアの逮捕に変更することになります』
「そう……」
『なのはさんはどうするんですか?』
「私はフェイトちゃんを助けるよ」
なのはは即答した。
「アルフさんの話で、色々と納得がいった部分もあるしね。
これは、アルフさんの願いでもあるし、同時に私の願いでもある。
私は、フェイトちゃんには笑ってもらいたいんだよ。
だから助けたいんだよ、哀しい事からね。
まだ分からない所も有るけど、それでも、私がフェイトちゃんを助けたいのに変わりは無いから」
どんな思いを持っていようと、フェイトを助けたいという想いに違いは無い。
なのはは強い意志を固めてクロノに答える。
『……分かりました。
こちらとしても、貴女の魔力を使わせてもらえるのは、ありがたい事ですからね。
フェイト・テスタロッサについては、なのはさんに任せます。
アルフも、それで良いね?』
「ああ。……アンタなら、酷い事にはならないだろうからね」
アルフがなのはを見ながらポツリと零す。
なのはがその言葉に笑みを浮かべる。
「それは、信用してくれるって事かな?」
「……それでいいよ。敵の前でデバイス解除する馬鹿を、信じてみても良いかと思っただけさ……」
「……馬鹿ってのは酷くない?」
「馬鹿だろうに。まあ、そんな馬鹿だからこそ、あたしが頼ろうと思ったのかもしれないけどね」
なのはが複雑な顔をしているのを、アルフが生来の闊達さで笑い飛ばす。
それでなのはも馬鹿らしくなったのか、一緒になって笑った。
そこにクロノが割り込む。
『アルフ、ちょっと良いか?』
「どうかしたのかい?」
アルフがクロノに聞き返す。
『アルフ、君はジュエルシードの数が少ない事に、プレシアは怒っていたと言ったな?』
「……ああ」
アルフの声が沈む。
昨日のフェイトの姿を思い出したからだろう。
『ならば、もう一度来る筈だ。次は僕達のジュエルシードを奪いに……』
「そうだね……」
なのはも同意する。
『早ければ今日、遅くても三日以内には、もう一度現れると思います。
ですから、なのはさんがそれをおびき寄せている間に、僕達はプレシアの居場所を掴もうと思います』
「分かった」
なのはは頷くが、アルフが疑問を呈する。
「待っとくれ。時の庭園の在り処なら、あたしが知ってるよ?」
『……おそらく、アルフの知っている座標じゃ、時の庭園には辿り着けないだろう』
クロノが苦虫を噛み潰したような声で言った。
『時の庭園は移動要塞だ。
高次空間内を漂っているのだから、既にアルフの知っていた場所にはいないだろう。
だから、なのはさんがジュエルシードを持って、フェイト・テスタロッサと闘って下さい。
そうすれば、二十一個全てのジュエルシードが有ると分かった彼女は、間違いなくもう一度出て来ます』
「なるほどね」
なのははクロノが立てた作戦の囮をやればいいという事だ。
なのはならば、以前みたいにデバイスを待機状態にしていなければ、あの雷も防げるとクロノは判断したらしい。
「分かったよ。その役、頑張ってこなしてみせるから」
『お願いします。プレシアがしびれを切らして出て来るまで、闘いは出来る限り長引かせて下さい。
……ああ、そうそう……』
クロノが何かを思い出す。
「? なにかな?」
『艦長からの伝言です。「ケーキを……」だそうです』
「あ、そう……」
クロノはもう開き直ったらしい。
伝言が先程と比べて、明らかに事務的な口調だからだ。
『それでは、闘いに備えて、英気を養っておいて下さい』
そういって、アースラとの通信は終わった。
アルフは、なのはに不思議な視線を送る。
「……艦長のセリフがケーキだけだなんて、アンタいったい何したんだい?」
「私はケーキを作ってあげただけだよ。でも――」
なのはの頬に、汗が一筋流れた。
そして、ポツリと呟いた。
「……ちょっと、やり過ぎたかもしれない……」
あとがき
フェイトとの闘いまでのつなぎの回。
あと一話入れてから闘い始まるよ。多分。
そしてついに50話になりました。
これからもお付き合いをよろしくお願いします。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>素敵な脇役過ぎるだろwwww
ありがとうございます。
ここまで人気出るとは思わなかったです。
>はやて、かっこいいぞ、かっこいいんだ……でも、はやてが言うとなぜかちょっと笑いが……これがはやて補正!?
そうです、はやて補正です。
>はやてならさりげなーくアルフの胸を揉んだに違いない
改めて言わなくても……分かるな?
>乗った客以外からは金を貰わないなんて、素晴らしい考えだ!
乗せた客にはちゃんと払ってもらうというのがポリシーです。
>や、わざわざ普通であることを強調せずとも……リンディ茶の後遺症か…ん?それとも酒が入ってないって意味なのか?
一応ずっとアースラに乗ってましたから。
なのは自身も研究のために砂糖入りを飲んでいたので、それに毒されていないと言いたかっただけです。
>この分で行くと、ヒロインがツンデレで中の人が某釘嬢のライトノベル3作品もきっとあるw
おそらくあります。
>「観光から護送まで、海鳴に来たら八神タクシーをご利用下さい」
護送はまだ無理ですね。
狙われない技術なら持ってると思うんですけど。
>ちょw何ですかこの漢女は!?
それが、はやてさんクオリティ
>はやてさんは出オチとしての威力がありすぎるんだよw
明らかに前回は出オチじゃないくらい出張ってます。
>子供の頃から読書家だったけれど、三十路過ぎてもラノベを読んでいるのは、かなりオタク寄りな趣味じゃないかと思ったw
流行の最先端を突っ走っているだけです。
色々なお客さんと話を合わせるのに必要なんだとでも言っておきます。
このなのは世界は、だいたい私たちと同じ漫画、アニメ、小説、ゲームがあると思ってもらって結構です。
ただ、このなのは世界に存在しないものも当然あります。
ある漫画(リリカルやとらハでは勿論ありませんよ)だけはありません。
この世界と同じ世界としましたから。
それだけは現時点で決めています。
というか、次でその話を出す予定にしたので、なのは世界から無くなっただけなんですけどね。
よかったら、次の話を見るまでに考えてみてください。
……次、はやてさん出るからね。