なのはの手に応えるように、両手でバルディッシュを持っていたフェイトが、ゆっくりと右手を放す。
それがなのはの右手に触れようとした時、海に落雷が落ちた。
紫色の雷は、幾つも幾つも海に降り注いでいる。
フェイトがその雷が降って来た方を向いて、驚きの声を上げる。
「母さん……?」
「お母さんが……?」
フェイトのお母さんがこれをやったの?
そうなのはが口にしようとした時だった。
なのはが反応する間もなく、紫電の光がフェイトに直撃した。
「うああぁぁああっ!!」
「フェイトちゃんっ!?」
悲鳴を上げて気を失い、落下するフェイト。
呼び掛けたなのはの方にも雷は飛び火して、なのはは弾き飛ばされた。
レイジングハートを手に持っていなかったから、とっさにプロテクションも張れなかったのだ。
慌てて体勢を整え手を伸ばすが、遠くに弾かれたなのはには、落ちていくフェイトを掴むことは出来なかった。
フェイトは静かに落ちていく。
下へ。
下へ。
そして海に沈んでしまうと思われたその時だった。
「フェイトぉぉっ!!」
アルフが高速で追いついて、フェイトを海に落ちる前に掬い上げた。
「はぁ……」
フェイトが助かったことに、なのはは胸を撫で下ろす。
「フェイト! 大丈夫かい!? フェイトっ!」
アルフの呼び掛けに、フェイトはうっすらと目を開ける。
「アル、フ……ジュエル……シードを……」
「何言ってんだい、こんな時に!?」
「おね、がい……」
「……くっ」
アルフはフェイトの願い通り、ジュエルシードに向けて飛ぶ。
そしてアルフがジュエルシードまで辿り着き、手を伸ばした。
だが、割り込んで来た杖に、アルフはその手を阻まれた。
ジュエルシードの前に立って、アルフの動きを止めたのはクロノだった。
「邪魔をぉぉぉ……!」
アルフの手に橙色の光が灯る。
「するなぁぁっ!!」
「っ!? うあああっ!」
アルフが手から放った魔力弾で弾かれたクロノは、追い打ちにアルフの回し蹴りが入って海に叩きつけられた。
「!? 三つしかない……」
アルフが浮かんでいるジュエルシードを見て、愕然と呟く。
慌てて蹴り飛ばしたクロノを見ると、その手には掠め取ったジュエルシードが三つ握られていた。
そのジュエルシードがクロノの持つ杖に格納される。
アルフはこれでクロノが持って行ったジュエルシードを手に入れる事が出来なくなった。
「ううううっ!!」
アルフが唸り声を上げ、片手を大きく掲げる。
その手にクロノを吹き飛ばしたのと同じ、橙色の光球が生まれる。
「うあああああっ!!」
ドバンッ!! とアルフは海にその光球を叩きつけ、衝撃で大量の水飛沫を上げる。
それは煙幕のように皆の視界を奪い、それが晴れた時には、そこにはアルフとフェイトの姿は無かった。
「逃げられたか……」
クロノが悔しそうに呟く。
しかし、三つは確保することが出来たと安心する。
そこに、クロノへ念話が届く。
「艦長? ……はい……はい」
クロノは念話を聞きながら了承する。
しかし、その顔はとても嫌そうだ。
「……わかりました」
クロノは念話を切ると、なのはに向かって飛ぶ。
近くまで来ると、なのはに話しかけた。
「なのはさん」
「……何かな? クロノ君」
フェイトが消えた方向と、紫色の雷が降って来た方向を、交互に眺めていたなのはが、ゆっくりとクロノを見る。
「艦長が話があるみたいです。
命令を無視したことは不問にするので、アースラまで来て欲しいそうです」
その言葉に、なのはは苦笑する。
「私はもう臨時局員じゃないよ。
さっきも言った通り、ただの現地協力者。
だから、命令だとか、そんなことを言われる筋合いは無いよ」
なのはが言ったその言葉に、クロノが僅かに上を向き、眉間に皺が寄る。
再び念話を受け取ったのだろう。
「……艦長からの言葉です。
ジュエルシードを封印することに協力してくれた、高町なのはさんを表彰したいそうです。
ですから、これからアースラまで来て下さい、だそうです」
なのはは軽く首を横に振る。
「いやいや、私は表彰されたいから、ジュエルシードの封印をしていた訳じゃないからね。
その表彰は、謹んで辞退させてもらうよ」
なのはのその言葉に、クロノの眉間に更に皺が増える。
なのははクロノに、その先にいるリンディへと話しかける。
「結局、何が言いたいんですか? ねえ、リンディ艦長?」
にっこりと笑みを浮かべるなのはに、クロノがはあ……、と溜息を吐く。
そして嫌そうに、心底嫌そうにクロノは重い口を開いた。
「……艦長からの言葉です。“お願いです。もう一度ケーキを作って下さい。”……だそうです」
なのははクロノのその言葉に苦笑し、納得したように頷く。
「分かったよ。それじゃあ、アースラに行こうか」
なのはが了承したことで、クロノはこれで肩の荷が下りた、と気を抜いた。
そこに、離れていたユーノが近寄って来る。
「……なのはさん、良いんですか?」
「良いって、何が?」
なのはの返しに、ユーノが戸惑う。
「え? だってあんな事を言って出て来たのに、そんなにあっさり戻って良いんですか?」
「ああ、それはね……」
なのははその事に、何でもないように返す。
「言ったよね?
私は時空管理局の事なんて、本当はどうでもいいんだって。
だからね、さっきの事もどうでもいいんだ。
どうでもいいから、私は戻る事に対して、特に確執がある訳でも無いんだよ」
「そう……なんですか……?」
ユーノは釈然としない顔をしている。
「そうなんだよ。だから、ユーノ君も普通にしていれば良いんだよ。普通に、ね」
「……はい」
そう言われても、なのは程切り替えが上手くないユーノは、そんな事が出来るか不安だった。
「それに……」
「……なんですか?」
なのはの続けた言葉に、ユーノが首を傾げる。
「それに、まだ味覚の矯正が、最後まで済んでいなかったのを思い出したからね」
そのなのはの言葉に、ユーノは苦笑する。
なのははクロノに顔を向ける。
「待たせたね。それじゃ、行こうか」
「分かりました。今転移魔法を使用しますから」
こうして、なのはとユーノとクロノは、アースラに帰還した。
この後、艦内に戻った三人が、翠色の長い髪を振り乱して、綺麗に土下座する人を見る事になるのは余談である。
あとがき
最後の人が誰なのかは、言うまでもありませんね?
ともかく、これでやっとアニメの第9話が終わりました。
あと四話分、頑張って書きたいですね。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>つまりアレか!レアスキルは実は「回転」ではなく「酒」で
魔法が回転するのは酒が回るという基本的な作用によるスキルの基礎部分だと(ry(←なんでもかんでも酒に関わらせればいいってもんじゃない
いえ、その可能性は十分にあります。
正しく調べた訳ではないので、そういう事なのかもしれません。
>さて、次のシーンフェイトは墜ちるんかねぇ?
ここのなのはさんならあの砲撃も防いでしまいそうだなぁ
墜ちました。
なのはさんはデバイスを待機状態にしていたので防げませんでした。
>なのはさんスキットル常備とかマジパネッス
当然中身は当然スピリタス(96%)ですよね!
わざと中身は書かなかったのに、何故当てれる!?
>フェイトきゅうさい→昔のなのはに似ている
よって
フェイトさんじゅうにさい→「やっぱりお酒がなきゃ執務官なんかやってられないね」
なんですねわかります
そういうこともあります。
決まってませんが。
>ほほぅ――“まだ”と言う事は、予定としては在りうると・・・(ニヤリ
可能性は無限にある。
昔の誰かはそう言いました。