「何とも呆れた無茶をする子だわ!」
「ええ、無謀ですね。このままでは間違いなく自滅します」
リンディがフェイトの行った凶行に目を見開き、クロノはそれに同意する。
「あれは、個人の出せる魔力の限界を超えている」
「フェイトちゃん……」
なのはが見つめる先には、フェイトが息を切らしながら、竜巻に向かっていく姿があった。
自らが放った魔法によって雷を帯びた竜巻に、フェイトは翻弄され続けている。
「私、行きます」
「その必要はありません」
なのはの言葉を、クロノが却下する。
「何故っ!?」
「放っておけば、彼女は自滅しますから。
仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たした所で叩けば良いだけです」
「そんなっ!?」
「今の内に捕獲の準備を」
「はい」
クロノがクルーに向けて指示を出す。
その様子になのはが絶句していると、リンディが口を出す。
「なのはさん。
私達は、常に最善の選択をしないといけません。
残酷に見えるかもしれないけれど……これが現実です」
「……違う」
なのははそれを否定する。
「そんなの違うっ!」
「なのはさん……」
後ろで控えていたユーノが思わず声を漏らす。
「あの子は疲れ切っている。
私の知っているフェイトちゃんなら、こんなに手こずる筈がない」
なのははモニターの向こうのフェイトを見つめる。
なのはが出会った頃のフェイトとは、スピードや技のキレが、一目で分かる程に落ちている。
「未だにあの子は、一つもジュエルシードを封印出来ていない。
このままでは、あの子が自滅するまで待っていては、次元震が起きることも予想されます」
「それは……」
リンディはなのはの言葉に押し黙る。
「だからリンディ艦長。
優先されるべきなのは、あの子の捕獲よりジュエルシードの封印です。
そしてこの場合の最善は、私が現場に行って封印を施すことです」
リンディは僅かに考え込むが、静かに首を振る。
「……駄目です。
確かに貴女の言う通りですが、まだその時ではありません。
私は艦長として、局員を可能な限り、危険にさらす訳にはいきません。
なのはさん、幾ら貴女が力を持っていたとしても、認める事は出来ません。
これは規則です。
貴女も今は臨時局員として、私の管轄下にあるんですから」
「……そうですか」
なのはは落ち込んだ声を出す。
「では勝手に行きます」
「は?」
なのはの足元に、翠色の魔法陣が浮かび上がる。
「これは……転移魔法陣っ!?」
リンディが驚く中、なのはは平静な顔で後ろを振り返る。
「ユーノ君か。私の考えてる事、良く分かったね?」
そのなのはの言葉に、ユーノはにっこりと笑う。
「なのはさんが何を考えているかなんて、直ぐに分かりますよ。
何だかんだ言って、もう結構長い付き合いですから。
なのはさん、本当は時空管理局の事も、ジュエルシードの事もどうでも良いんでしょう?」
「……うん、そうだよ」
なのはは、ユーノが指摘した事に、何の気負いも衒いもなく答える。
「私は、私の周りに居る人達と、いつまでも一緒に笑い合っていたいから。
だから、その為にはジュエルシードが邪魔なだけなんだよ」
なのはが平穏を噛み締め、幸せを感じる一時を味わう為には、この地球が無くてはならない。
そしてなのはの幸せを、ジュエルシードのような石コロなんかに潰されたくは無い。
だからなのはは集めていただけ。
誰かがそれをやってくれているなら、なのははそんな事も知らず、家でのんびりと酒を飲んでいただろう。
だが知ってしまったのだ。
そしてなのはは、それに対処する力を偶々持っていただけ。
子供みたいな英雄願望なんて無い。
何が何でも、自分がやらなきゃいけないんだ。
そんな事、なのはは思っていない。
時空管理局が現れた時点で、なのはは手を引いても良かった。
専門にしている人達がいるなら、自分がその仕事を奪うことに抵抗もあった。
だからジュエルシードなんて、もうどうでもよかった。
しかし、なのははここに居る。
その理由はフェイトだ。
あの寂しい目をした少女。
昔の自分と、同じ目をした少女。
彼女と話をしたい。
そう思った。
だから、
「時空管理局も、その規則もどうでもいい。
私はただ、フェイトちゃんとお話したいから、仲良くなりたいからここにいるんだ。
だから、フェイトちゃんを助けに行く事を邪魔されるなら、直ぐにでもこんな組織抜けるよ」
「やっぱり、そうなんですか」
ユーノは自分の考えが当たっていた事に、納得のいった顔をする。
「でも良いの? フェイトちゃんと話したいのは、私の我が儘。ユーノ君とは関係ないのに」
ユーノはなのはの言葉に頷く。
「確かに、関係は無いかもしれません。
だけど僕は、なのはさんの力になりたい。
なのはさんは、困っていた僕を助けてくれました。
だから、なのはさんが困っている時は、僕もなのはさんを助けたい」
「ユーノ君……」
ユーノはなのはを見ながら、ある言葉を言った。
「『困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるのなら、その時は迷っちゃいけない』」
「それは……」
なのはが目を見開いて驚いているのを、ユーノはしてやったりと笑った。
「それを教えてくれたのは、なのはさん達ですよ」
「……ありがとう、ユーノ君」
なのははユーノに感謝の言葉を告げる。
そしてなのはは、リンディへ向き直った。
「それではリンディ艦長。
これより私は、時空管理局の臨時局員ではなく、海鳴市に住むただの現地協力者です。
私に魔法を教えてくれたユーノ君は、ジュエルシードを見つけたら即座に封印しろ、と言っていました。
そして、今私はジュエルシードを発見しました。
ですから、ユーノ君の探しているジュエルシードを封印に行くので、邪魔をしないで下さい」
リンディは立ち上がり、声を張り上げる。
「ま、待ちなさい! そんな屁理屈が通るとでも――」
「ああ、そうでした」
なのはは思い出したかのように声を上げる。
「私はいなくなるので、もう特製ケーキは食べられないと思って下さいね?
あれのレシピは、私しか知りませんから」
リンディが絶望的な表情を浮かべる。
なのははそれを後目に見ながら、転移魔法は発動した。
そしてアルフが張った結界の中へと、なのはは転移するのだった。
あとがき
ユーノの影が薄いと言われたので、見せ場を作ってみた。
というより、原作の見せ場を取る事は、あまりしたくないですから。
私の文章力だと、複数の人間を一度に出せないので、大体はその場にいるはずです。
多く登場させても、合いの手を入れるだけになるんですよね。
もっと上手くなりたいものです。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>別次元に行ったらアリサやすずか経由でのお酒が手に入らなくなるかもしれないもんね。
その通りです。
>さて、そろそろシリアス全開ですね。お酒はしばらくお預けかな?
それともフェイト助けに行ってかけつけ一杯?
分かりません。
>ここまで調きょ、じゃなかった開は、でもなかった啓蒙されたリンディさんが桃子さんのケーキを口にしたりしたらどうなるんでしょう?
口から砲撃魔法をぶっ放す程度で済めばよいのですが
なのはさんが翠屋二号店の看板を背負えているのは、桃子さんから自分と同じレベルに達したとお墨付きをもらっているからです。
なのでそんなことにはなりません。
寧ろ好みが分かっている分、なのはの方がリンディにとって美味しいお菓子を作る事が出来ます。
>ところで、最近ユーノ君の姿が見えないのですが、彼は今どこで何をしているのですか?
個人的には次回フェイトさん@封印中に助力に行く際のイベントが、彼の無印最大の見せ場だったと思うのですが
忘れてたので書いて見ました。
リンディさんがOKを出すと見せ場が無くなるんでこうなっちゃいましたけど。