「飲まなきゃやってられない」
なのはがその日、全てを終わらせてベッドに潜り込んだ時に呟いた言葉である。
姉が自分が思っていた以上に強かったことを知り、安堵したのも束の間。
フェレットがなのはの投げ捨てた泡立て器を拾ってきて、封印をしろと言った。
今はダメージを受けて一時的に機能を停止しているだけなので、封印をすればもう安心なのだとか。
その言葉に、俄かに自分の出番が廻って来たか、となのはは期待したものだ。
だが、フェレットの言うとおりに泡立て器を持って、姉の見ている前で
「リリカル・マジカル 封印すべきは忌まわしき器 ジュエルシード封印!」
という羞恥プレイをやらされたなのはは、帰り道でずっと鬱になっていた。
呪文を唱えたら、泡立て器がボタンも押してないのに勝手にクルクル回り出して、なんか桃色の光が回転しながら出て青い石にぶち当たったのは、いったいなんだったのだろうか。
封印し終わったなのはが、そのジュエルシードとかいうのを格納するとき、八つ当たり気味に、ジュエルシードに泡立て器を叩きつけたのは責められることではないだろう。
あれから警察のサイレンの音が響いて来たので、いつまでもそこにいるわけにはいかず、引き揚げることにした。
そして町はずれの公園にまで来たところで、やっと一息吐くことが出来たのだ。
「……」
なのはは無言でワンカップを開ける。
小銭しかないが、ジャージのポケットにお金を入れていた過去の自分に、今とても感謝していた。
このさびれた公園の片隅に酒の自販機が置いてあったことにも。
一気に呷りながら、隣で美由希とフェレットの会話を聞く。
「そういえば君、なのはの話だと酷い怪我だって言ってたけど、そんな動き回って大丈夫なの?」
「怪我は平気です。もうほとんど治っているので……」
そう言ってフェレットは身体を震わせ、シュルシュルと包帯を引き剥がす。
その下からは、綺麗に生え揃った毛並みが顔を覗かせていた。
「へぇ、本当だ。怪我の痕がほとんど消えてるよ」
「明日には全部治ると思います」
「魔法って結構凄いね」
「助けてくれたおかげで、残った魔力を治療に回せました」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「そういえば自己紹介してなかったね」
「あ、そうでしたね」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「私は高町美由希。高町が名字で、美由希が名前だよ。さっきの見て分かると思うけど、結構腕には自信があるんだ」
「僕はユーノ・スクライアといいます。スクライアは部族名なので、ユーノが名前です」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「へぇ、そうなんだ。ユーノ君、で良いかな?」
「あ、はい。どうぞお好きなように呼んで下さい」
「そ。じゃあよろしくね、ユーノ君」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「それにしても、凄かったです。まさか魔法も使わずにあの思念体を倒す事が出来るなんて……」
「大したことじゃないよ。あれぐらい家のお父さんやお兄ちゃんだって朝飯前だし」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「ええっ!? そうなんですか!?」
「そうだよ。で、あっちにいるのが妹の高町なのは」
「高町なのはさん……」
「呼ぶ時は名前の方で呼んでね。同じ高町だから。あの子もそっちの方が好きだし」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「わかりました。それにしても、貴女達を巻きこんでしまいました……」
「気にしなくていいよ。私は平気だから」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちて来ない。
「……」
ボタンから恐る恐る指を離すと、そこには赤い、とても紅い、なのはの大嫌いな言葉が浮かんでいた。
「売り……切れ……?」
そんな、馬鹿な……、とばかりにその場に膝をつくなのは。
「そうだ。ユーノ君、まだ怪我が全部治っている訳じゃないんだし、ここじゃ落ち着かないでしょ?」
「いえ、そんなことは」
「とりあえず、私達の家に行こうか」
「え、でも女性の家に上がるのは……」
遠慮しようとするユーノ。
「もう夜も遅いし、話は明日ってことで」
「は、はい……」
だが、美由希の勢いに押され、ユーノは頷いてしまう。
「よし、じゃあ帰ろうか。なのは、行くよ」
「……お酒……」
そして、この長いようで短い一日は幕を閉じたのだった。
あとがき
短くてすいません。
今回、二話も飲んでなかったのとやけくそなのとで、なのはは飲みまくってます。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>………これでフェイトと争うのか? マジで?
マジです。
>まずはなのははユーノに回復補助防御系魔法と固定砲台魔法を教えてもらった方が良いと思うよ。体力的に。
私もそう思います。
>そもそも40まで鍛え続けた美由希さんに勝てる存在がいるのだろうか
アルカンシェルならなんとか出来るんじゃないですか?
>「あ、泡だて器の魔王っ!」
そもそもそんな働かないと思います。
仕事あるし。
>泡立て器…砲撃の時は回るんですね、わかります。
回ります。めっちゃ回ります。
イメージが湧かない方は「ダイの大冒険」に出てくる「獣王激烈掌」みたいな感じと思ってください。
>そういえば前回美由希を美由紀と書いてしまった。
「みゆき」で変換しても美由紀にしかならないので面倒です。
>魔王呑んで泡だて器を回転させるとエヌマ・エリシュになるんですね?
>なのはさんにはエヌマ・エリシュを覚えていただいて対抗していただかねば。
そんな展開全然考えてなかった。
>PS.おたまとフライパンではダメですか?
レイハさんには射出機構はあれど分離機構は搭載されていません。
そのためデバイスで作っても、片方は何も出来ない張りぼてにしかなりません。
>なのは色々擦り切れてるなぁ。
>だが経年劣化したなのはさんもまたいい。
こういうのもいいですよね。
>酒瓶…
あるRPGで使ってるキャラもいたし主人公も装備できる武器としてあったから、
問題はなかったんだけどなあ…
マジでそんなキャラいたんですね。
>………なんか戦闘中に飛ばしそうだな…
やりそうですね。
>戦闘においては、バインドからのアルコールが効果的かと、とくに小さい相手には、
うちのなのはさんは他人に与えるアルコールなど持っていません。
>電動泡立て器・・・・ある種ドリルミサイルと化しそうだ。
化しそうです。
>なのはさん38歳……もしや、スバル助けたらゲンヤさんといい仲にとか?
そもそもミッドチルダに行かないということに。
>やっぱ、淫獣は一緒にお風呂入ったりして人間だったってばれたら折檻?
子供に折檻するほどうちのなのはさんは心が狭くありません。