エイミィ・リミエッタの高町なのは観察日記。
一日目。
今日から、例のあの人が私達の艦で寝泊まりすることになった。
昨日聞いた通り、名前は高町なのはというらしい。
クロノ君はまだ警戒してるけど、私は大丈夫だと思うな。
私も警戒してたけど、住所まで教えてくれたので、これは信用しても良いと思う。
他の人達とも、自己紹介して仲良く喋ってた。
高町さんって呼んだら、なのはで良いよって返って来た。
初めて会ったのに、下の名前で呼んで良いって、優しい人なんだなって思った。
だから私もエイミィで良いですよって返した。
そうしたら、エイミィさんって呼ばれた。
正直、エイミィさんとか言われ慣れてないから、とても気恥かしくて、くすぐったかった。
だから、呼び捨てで良いって言ったのは間違いじゃないと思う。
エイミィって呼ばれると、とてもしっくり来たから。
あとなのはさんは、手作りのクッキーを焼いて来てくれた。
リンディ艦長が凄く喜んでた。
全部一人占めしようとしたリンディ艦長を、なのはさんが柔らかく窘めてた。
……大人だ。
私も少し分けて貰った。
もの凄く美味しかった。
やっぱり良い人だと思う。
……でもなんでなのはさんは、あんなにリュックいっぱいに水筒を詰めてやって来たんだろう?
中にいったい何が入ってるのかな?
二日目。
今日はジュエルシードが発動した。
なのはさんが一人で出かけて行って、あっさり暴走体を倒して帰って来た。
鳥に取り憑いていたから、けっこう苦戦するかとも思ったけど、そんな事は無かった。
確かに初めの一、二分は戸惑っていたけど、直ぐに立てなおしてた。
空中にバインドを設置して、シューターで自分から其処へ飛びこむように誘導して捕まえた。
これでシリアルVIIIのジュエルシードをゲットした。
あの鳥速かったと思うんですけど、なのはさんよく捕まえられましたね。
帰って来たなのはさんに、そう言った。
そしたら、なのはさんは動きが遅かったから簡単だったよって言ってた。
あれで遅いって……いったい普段何と戦ってるんだろう?
それと、凄いですねって言ったら、私なんかまだまだだよ、って返って来た。
あれでまだまだってことは、これ以上成長すんの?
それって、凄くやばいんじゃない?
あと、そう考えるってことは、なのはさん以上の人がいるってことだよね?
なのはさんの事が、ますます分からなくなった。
あと今日は、定番のショートケーキを作ってくれた。
リンディさんが、自由に厨房を使っていいって許可を出したらしい。
これも美味しかった。
リンディさんも至福の表情をしてた。
厨房で作っているなのはさんを見てたけど、お菓子作っている時の方が楽しそうにしてた。
あと料理長から、何か細長い瓶を貰って嬉しそうにしてた。
三日目。
今日もまた、ジュエルシードが発動した。
……なのはさんがお菓子を作っている時に。
プリンを作る予定だったらしいけど、ジュエルシードが暴走したせいで食べれなかった。
なのはさんも怒ってた。
暴走してたあの猿っぽい動物も空気読んでほしかった。
散々暴れて逃げ回った後、なのはさんに瞬殺された。
これでシリアルIXの封印が終わった。
その怒り具合から、怒らせちゃいけないと思った。
そのことをなのはさんと一緒に居た、ジュエルシードを発掘したユーノ・スクライア君に話してみた。
でもユーノ君は青い顔をして、なのはさんは本気で怒ったらこんなものじゃないと震えていた。
いったいどれ程怖いのか、ちょっと興味がある。
怖いモノ見たさってやつだね、これは。
終わった後になのはさんと愚痴をこぼしながら、色々と盛り上がった。
その時に、リンディ艦長のことを聞かれた。
何か探ってるのかと思った。
でもお茶にどれくらい砂糖を入れるのかとか、そんな質問だったから答えた。
そんな事を知っても、何かの脅しのネタになる訳でもないしね。
四日目。
やられた!
ジュエルシードを持ってかれた!
二日続けて発動したから、流石に三日連続はないと気が抜けていたらしい。
強制発動させて、急いで封印をしたみたい。
慌ててこっちが向かった時には、とっくの昔に逃げられてた。
勿論、ジュエルシードを持って。
なのはさんは出動の機会が無かったから、厨房でずっとお菓子作ってた。
私がその事を話すと、なのはさんは会えなかったことに残念な顔をしていた。
前にも聞いたけど、その子、フェイト・テスタロッサはお母さんに言われて集めているらしい。
でもどうして集めるのかはわからないんだって。
其処までしか聞き出せなかったみたい。
今日のは、甘さ控えめの抹茶ケーキだった。
なのはさんが、クロノ君でも食べられるようにと作ったらしい。
クロノ君も最初はケーキだってことで嫌がっていたけど、一口食べたら大人しくなった。
そのあと黙々と食べてたから、やっぱり美味しかったみたい。
だけどリンディ艦長は、ちょっと不満そうだった。
いつもより多く砂糖をお茶に入れてたから。
五日目。
今日はお仕事で忙しいからなのはさんの観察は無理だった。
なのはさんが言っていた、フェイト・テスタロッサについて調べていたから。
クロノ君が言うには、かつての大魔導師と同じファミリーネームなんだって。
その人は、だいぶ前にミッドチルダの中央都市で、魔法実験の最中に次元干渉事故を起こして追放されたみたい。
何か関係がありそうだし、その事もちょっと調べてみないと。
今日は作るところは見れなかったけど、ティラミスをなのはさんは持って来た。
エスプレッソの香りが良い感じ。
ケーキは甘いのに、少し苦みがあって大人の味がした。
クロノ君も食べてた。
リンディ艦長はお茶に砂糖を入れてた。
別に苦い食べ物が駄目とかいう、子供みたいな味覚じゃないのに、どうして入れるんだろう?
こうして見てるとリンディ艦長の方が、観察していて何か新しい発見をしそうだ。
そろそろ体重計に乗るのが怖い。
六日目。
今日、ジュエルシードが発動した。
また前と同じ鳥型。
なのはさんは前のでコツを掴んだのか、封印には苦労してなかった。
というより、虚を突いて封印したと言っても良い。
なにしろ、転移して空中に出された後、地面に降り立つまでに捕縛、封印とやってのけたから。
鳥型の暴走体は、なのはさんを認識する間も無かったんじゃないかな。
ともかく、これで三つめ。
シリアルXIIの封印が終わった。
あ、今日はフルーツが多めに乗ったタルトだった。
さっぱりしていて、やっぱり美味しい。
なのはさんはニコニコとしていたけど、少し溜息を吐いているのを見かけた。
それが少し気になった。
七日目。
読み返してみると、何か別のことも結構書いてるな、私。
クロノ君とかリンディ艦長とか、そっちの事とお菓子の事ばっかりだ。
別に悪い人じゃないって分かったし、もう書く必要もないんだけど、面白いから続けよ。
だから今日は、本来のなのはさん観察日記に戻ろう。
とりあえずは、なのはさんに密着取材でもすることにする。
といっても、なのはさんは普段はほとんど厨房に居るから、そこに座って眺めることしかやる事が無い。
だから、なのはさんに頼んで一緒にお菓子を作らせてもらった。
なのはさんは快く了承してくれた。
っていうか、一人で全部作るのはちょっとつらかったみたい。
私が手伝うって言ったら、凄く喜んでくれたし。
で、手伝ってみた。
料理は結構得意なつもりだったけど、お菓子となると難しい。
ちゃんと配分を決めて、きっちり作るのは結構神経を使う。
家庭料理とはまた違った出来あがりだった。
出来あがったシフォンケーキを、二人で一足先に食べてみた。
自分で作ったこともあって、とても美味しかった。
その時、なのはさんがまた溜息を吐いたので、どうかしたのか聞いてみた。
すると、驚くべき答えが返って来た。
なんとなのはさんは、リンディ艦長に緑茶に砂糖を入れるのを、止めさせようとしていたらしい。
確かに、あの量は異常だと思うけど。
でもリンディ艦長は、これが正しい飲み方なのよって言ってたんだけど。
それを聞いてみたら、そんな事は無いらしい。
少なからずそういう飲み物はあるけど、基本的に緑茶はそのままで飲むのだそうだ。
リンディ艦長はさも当然のように入れていて、その文化を知らなかった私達は、それを正しいと思ってたみたいだ。
なのはさんは、お茶にあんなに砂糖を入れたら、砂糖の味しかしなくなると言っていた。
確かにそう思う。
私も最初、言われるがままに同じだけ入れて飲んだから、その気持ちは良く分かる。
入れるのは構わないけど、限度を考えるべきとなのはさんは主張していた。
頑張って欲しいな。
クロノ君とか、見ているだけでつらそうだし。
なにより、砂糖の消費量が馬鹿にならないから。
八日目。
また持ってかれた。
かなり高性能なジャマー結界を張っているみたいで、気付いた時には遅かった。
おかげで捕捉したジュエルシードを横取りされた。
問題はフェイトちゃんじゃなくて、そのサポートをしているアルフって狼の使い魔の方が厄介だ。
そのことをなのはさんに報告に行くと、また会えなかったと沈んでいた。
なのはさんはリンディ艦長のこともそうだけど、あのフェイトちゃんと仲良くなりたいだけらしい。
何でも、昔の自分に似ているからだそうだ。
昔のなのはさんがどんなだったのかは、ちょっと話して貰えなかったけど、きっと優しい子だったんだろうなって思った。
あと色々と悩んでいるみたいだ。
どうしたら砂糖を入れるのを止めるのか、色々試しているみたいだけど、それが実を結んではいないみたい。
そう考えると、私達は実験台ということになるのかな?
……美味しいからいいけど。
なのはさんはどうしたらいいのかな? って私に聞いて来た。
どんな物を作れば、リンディ艦長がお茶に砂糖を入れるのを止めるのだろうか?
でもそんな事私が分かる訳も無いし、適当に発想を逆転させてみたらどうですか? って言ってみた。
すると、何かに気付いたのか、なのはさんはまた厨房に入っていった。
あと少しお酒の匂いがした。
行き詰ってヤケ酒でもしてたのかもしれない。
九日目。
いつもの時間になっても、なのはさんがお菓子を届けに来ない。
その事で、皆が少しピリピリしてる。
そもそも、アースラにはお菓子職人がいない。
料理人はいるけれど、お菓子を専門に作る人はいないのだ。
なにより、お菓子職人の管理局員がいない。
だから、食べたい場合は料理長に頼むか、自分で作るしかない。
それか、長持ちするものを航行前に買いだめしておくくらいだ。
なにしろ次元航行艦船だ。
時には戦闘も行うからか、わざわざ乗りたいと思う人は少ない。
けれど、最近はずっと出来たてのお菓子を食べる事が出来た。
短い期間だけれど、私達はそれの虜になってしまったらしい。
艦長程ではないとはいえ、私達はみんな甘いモノが大好きなのだ。
つまり、いきなりそれが途切れれば、心配になるのも仕方がない。
なのはさんの事が心配になったので、厨房まで行ってみると、そこには惨状が広がっていた。
辺り一面に甘い匂いが立ち込めて、クロノ君だったら立ってられないくらいの強い匂いだった。
その中心でなのはさんが、レイジングハートを握り締めて、何かをずっと掻き混ぜてた。
鬼気迫る物を感じて、ちょっと怖かった。
恐る恐るなのはさんに尋ねると、良いアイディアが浮かんだから、ずっと試作を繰り返し作り続けているらしい。
そして、その甘い匂いに惹かれたのか、いつまでたっても来ないからか、リンディ艦長が自ら来た。
その艦長に、なのはさんはこれでも舐めてて下さい、って言って角砂糖を一袋渡していた。
リンディ艦長は泣いていた。
十日目。
その日、アースラが震撼した。
「か、母さんが……」
クロノ君は信じられない目で、リンディ艦長の姿を見ていた。
「砂糖を入れずに、お茶を飲んでいるだと……!?」
あとがき
止めときゃよかった。
凄くめんどくさい回だった。
エイミィの餌付け日記みたいになったけど気にしない。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>「わたしの名前は八神なのは(仮)」です
>だめだ名前を言ったら「友人帳」に載せられてしまうww
(いや別に「瓢箪の中」でも構わないとは思いますが)
>名前で引っ張られるとどうしても偽名名乗ってるイメージがwww
ただ普通に高町なのはですといっても収まりが悪い気がしたので、そうしただけです。
>そういえば、序盤に活躍した美由紀さんがいない…
結界内に魔力を持たない人間は入れませんから。
>なのはさん!お店再建したらオリジナルブレンド呑ませて!
お店まで来てくれたら大丈夫です。
>…やっぱ無理かな
地球上なら何とか出来たと思うんですけどね。
>それにしても八神タクシィのタイミングが絶妙すぎる。ま、まさか・・・
既に闇の書の主として覚醒してて全てまるっとお見通しですかHAYATEさん!
覚醒しているなら守護騎士が出て来ているはずです。