「なるほど、そうですか。
あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのは、あなただったんですね」
ユーノの話を聞き終えたリンディは、クロノがお茶菓子として出した羊羹を切り分けながら言った。
ユーノは俯きながら続きを言う。
「それで、僕が回収しようと……」
「立派だわ……」
「だけど、同時に無謀でもある」
リンディがユーノの行為を、感心した声を出す。
しかし、クロノは逆に険しい顔で警告する。
「あ……」
ユーノは項垂れる。
なのははそれを見て、リンディに話しかける。
「あの、ハラオウン艦長」
「リンディで構いませんよ。ハラオウンだと、クロノと同じですから」
「ではリンディ艦長。そういう注意は私が既にしました。
この子も既に、その事は十分反省していますし、これ以上責めるのは止めて頂けませんか?」
「あら、ごめんなさい。
責めてなんていなかったんですけど、クロノの言い方がきつかったかしら?」
なのははユーノに目を向ける。
「この子がいなければ、私達の世界は既にありませんでした。
現に私も、ジュエルシードの被害で、大切な物を失いました。
それはとても悲しいことです。
ジュエルシードがこの世界に落ちなければ、こんな事にはならなかったでしょう。
ですが、彼が居てくれた事で、それだけの被害で済んだのも事実です」
なのはの言葉に、リンディが眉をひそめる。
「……あの、言いたくない事でしたら構いませんが、貴女が失くされた物とは?」
なのはは目を閉じ、亡くなってしまった彼らの事を想った。
「……お店です。私が開いた……小さなお店です」
「そう……ですか……。もしかして、そのバリアジャケットは……」
「私のお店の制服です」
その言葉に、リンディが顔を顰める。
「……ごめんなさいね。
私達の動きが遅かったせいで、貴女の大切な物を壊してしまった。
それに、貴女達の事情も考慮せず、その子の行為を、無謀の一言で切り捨ててしまって」
「いいえ。言ったのは僕です。すいませんでした」
リンディが頭を下げ、それに追従する形で、クロノが横で頭を下げる。
それを見てなのはは、この人達は信用しても良いのかもしれないと考えた。
なのはは小さく首を振る。
「……良いんです、もう。お店はまた、建て直せば済む話ですから」
なのははユーノの頭に手を乗せる。
「それに、この子が私と出会ってからは、ずっと私が封印作業を行って来ました。
出来る限り無茶はさせないよう、私が守って来ました。
ですから、この子をあまり責めないでやって下さい」
リンディは頷く。
「分かりました。ではその話は、これで終いということで。
ジュエルシードの話に戻りましょうか」
「そうですね」
なのはも頷く。
それでリンディは言葉を続けた。
「貴女達が探しているジュエルシードは、彼の話とこちらの調査の結果、次元干渉型のエネルギー結晶体と判明しました。
幾つか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合次元断層さえ巻き起こす危険物です」
クロノが後に続き、言葉を繋げる。
「こちらで、昨日の夜頃に起きた震動と爆発、あれが次元震です」
なのはは昨日、フェイトが封印に失敗した時の事を思い出した。
激しい衝撃が走り、フェイトは吹き飛ばされてビルの外壁に叩きつけられた。
その上、レイジングハートのような不思議な金属で出来ている、デバイスのバルディッシュがボロボロになった。
持って見れば分かるのだが、デバイスはかなり固い金属で出来ている。
だというのに、それが一瞬でボロボロになってしまったのだ。
ジュエルシードがどれほどの物か、なのはは改めて恐ろしさを再確認した。
「たった一つのジュエルシードで、全威力の何万分の一でも、あれだけの影響力があるんです。
複数個集まって動かした時の影響は、計り知れません」
「聞いた事があります。旧暦の462年、次元断層が起こった時の事を……」
ユーノがその言葉を、己の知識と照らし合わせる。
「ああ。あれは酷い物だった」
「隣接する並行世界が幾つも崩壊した、歴史に残る悲劇……」
クロノとリンディは目を伏せる。
そしてリンディは、砂糖壺から角砂糖を一つ、スプーンで掬う。
「繰り返しちゃいけないわ……」
「え゛……?」
リンディはそれを緑茶の中にポチャンと入れる。
「あの……何してるんです?」
なのはは思わず尋ねた。
「え? 砂糖を入れているんですけど?」
リンディは、何故問われたのか分からないと、不思議な顔をする。
「普通、緑茶に砂糖は入れないんですよ?」
「あら、そうなんですか? こんなにも美味しいのに……」
リンディは更にもう一つ砂糖を入れ、それを飲む。
その姿に、なのはは絶句した。
有り得ないものを見る目でリンディを見て、これが異世界人の味覚なのかとなのはは疑う。
そういえば、ユーノもずっとクッキーを食べていた。
もしかして、なのははまだ飲んでいないが、なのはの目の前に置かれたお茶にも、既に砂糖が入っているのかもしれない。
飲むのは止めよう、そうなのはは思った。
本当に異世界人の味覚はおかしいのか、となのはが思い始めた時、目の端にクロノの姿が映った。
「……クロノ君は、砂糖、入れないの?」
「……僕は甘いモノが苦手です」
この人と一緒にしないでくれ、と目でなのはに懇願するクロノ。
その言葉と様子になのはは、やっぱりリンディが変わっているだけなのだと理解した。
あと少しクロノに好感を持った。
しかし、外国でも緑茶に砂糖や蜂蜜を入れる事があると、なのはは聞いたことがある。
そう考えれば、リンディの行為も、あまり目くじら立てるものでもないだろうと、なのはは自らに言い聞かせた。
リンディはお茶を飲み干すと、音も立てずに湯飲みを置いた。
「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については、時空管理局が全権を持ちます」
「え?」
ユーノが驚きの声を上げる。
「あなた達は今回の事は忘れて、それぞれの世界へ戻って、元通りに暮らして構いません」
「ですが……」
ユーノが反論しようとする。
クロノはそれにきっぱりと断りを入れる。
「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルじゃない」
「う……」
ユーノはそう言われれば、何も言い返せなかった。
その姿を見かねたのか、リンディが助け舟を出す。
「まあ、急に言われても、気持ちの整理が付かないでしょう。
今夜一晩、ゆっくり考えて、二人で話し合って、それから改めてお話をしましょう」
クロノが立ち上がる。
「送って行きましょう。元の場所で構いませんね?」
「……はい」
なのははそう言った。
ユーノは何も言わなかった。
クロノによって、元の海鳴臨海公園にまで、二人は転送された。
なのはは其処で、ふぅ、と大きく息を吐いた。
「緊張したねぇ」
「……そうですね」
ユーノが暗い顔で返す。
これ以上関わるなと言われたことがショックだったのだろう。
責任感の強いユーノからすれば、それはとてもつらいに違いない。
「……そういえば、ユーノ君って、九歳だったんだよね」
「え? ええ、はい」
「私驚いたよ。年下だとは思っていたけど、子供だとは思わなかった」
「もしかして、怒ってたりしてます?」
ユーノはなのはが怒っている所を間近で見たので、少し顔を青ざめさせる。
しかし、なのはは首を振る。
「ううん。そんなに小さかったとは思ってなかったから、驚いただけだよ」
「すいません」
「謝るのはこっちだよ」
なのははユーノにごめんね、と頭を下げる。
「ユーノ君、発掘の指揮を執っていたって言っていたから、もうとっくに大人なんだと思ってた。
だからお酒一緒に飲もうかって言ったんだけど。
そうだよね、九歳じゃほとんどお酒なんて飲めないよね」
「いえ、言わなかった僕が悪いんです。
それに、一族の中では、もう大人として扱われていますから。
僕は大人として扱って欲しかっただけなのかもしれません」
ユーノは首を振ってなのはの言葉を否定する。
しかし、なのはもまた、ユーノを窘める言葉を発する。
「駄目だよ、ユーノ君。
身体が成長しきる前に、お酒飲んだりしたら、身体を壊しちゃうよ。
そういう事は、大きくなるまで待たなきゃ」
「すいません」
ユーノも頭を下げる。
そして、互いに頭を下げ合っている状況に、互いが同時気付く。
二人共がクスリと笑みを浮かべた。
「……帰ろっか?」
「そうですね」
ユーノは頷くと、再びフェレットの姿になる。
そしてなのはの腕を伝って、肩の上にまで昇る。
「しばらくは、またこの姿でいようと思います。
こちらの方が、便利ですから」
「分かった。話の続きは、晩御飯を食べてから。それから、ゆっくり考えようか」
そしてなのははユーノを肩に乗せて、家に向けて歩き出した。
「おねーさーん、今からわたしとお茶しなーい? 代金はおねーさん持ちやけどな!」
「それ、新しい言い回しだね? どこで覚えて来たの?」
「漫画のやつをちょっと改変してな。でもわたしにはシブタクほどのウケは狙えんな」
「そう……」
「で、どうする?」
「乗るよ。私が淹れればタダだしね」
あとがき
疲れた。
リンディとの会話はこれが精いっぱいです。
もっとドロドロの腹黒い話を読みたかった人はごめんなさい。
なにか気になる人がいても、最後でそんな気になることを吹き飛ばしてくれたら。
そんなことを彼女に期待している私です。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>事情を知る高町家にとっていい酒の肴が増えたw
酒の肴は増えますが、なのはさんしか酒を飲まないんですよね。
>9歳児の美少年を酒のために誘惑したとか、お姉ちゃんとお兄ちゃんに知られたらいじり倒されるぞw
ユーノは自分のプライドの為に、その事は墓の中まで持って行く所存です。
>それと、こちらのなのはさんは家飲み派でしょうか?
よそで飲んでいる描写がいっさい無いので・・・。
一緒に飲みに行く相手がいないだけです。
すずかやアリサの家にはバーカウンターくらいありそうですし。