高次空間内 時の庭園にて
次元の狭間に漂うこの時の庭園に、普段とは異なる音が響く。
いつもは静かなこの空間は、今は騒がしい音に支配されていた。
何かを叩く、鋭い音に。
そしてそれに付随する、少女の悲鳴に。
それは時の庭園の奥、玉座の間からその声は聞こえて来た。
ビシッ!
「あぅっ……」
バシッ!
「うぁっ……」
その声を上げていた少女は、先程まで明るい声で、アルフに話しかけていたフェイトであった。
紫色に光る鎖に両手を拘束され、倒れることも出来ずに、ただ鎖にぶら下がっていた。
その身体には無数の細い傷跡があり、本来身体を守る為のバリアジャケットは、既に用を為していなかった。
そのフェイトに静かに話しかける声があった。
「たったの……四つ?」
フェイトに冷ややかな声を掛けるその女性は、露出の多いドレスを纏い、手には杖を持ち、玉座に座っていた。
「これは……余りにも、酷いわ」
フェイトはその声に反応して、俯いていた顔を僅かに上げる。
「ごめんなさい……母さん……」
フェイトに母さんと呼ばれた女性は、スッと立ち上がり、ゆっくりとフェイトに近寄っていく。
「いい? フェイト。あなたは私の娘。大魔導師プレシア・テスタロッサの一人娘」
自らの名をプレシアと言った女性は、フェイトの顎に手を掛け、上を向かせる。
「不可能なことなどあってはならぬ。
どんなことでも。
そう。どんなことでも、成し遂げなければいけないのよ」
「……はい」
フェイトはプレシアの目を見ながら、かすれた声で小さく返す。
「こんなに待たせておいて、上がってきた成果がこれだけでは、母さんはあなたを笑顔で迎える訳にはいかない。
分かるわね? フェイト」
「はい……分かります」
「だから。だから……覚えて欲しいの」
プレシアがフェイトの耳元で囁く。
「二度と、母さんを失望させないように」
プレシアは僅かに離れると、その手に持つ杖を黒い鞭へと変える。
それを見たフェイトは、虚ろだった目を見開き、その目に恐怖の感情を浮かべる。
プレシアが鞭を振り上げ、フェイトは目を瞑る。
再び、鞭で叩く音と、少女の悲鳴が響いた。
「なんだよ……。いったい何なんだよ、これはっ!?」
離れた場所で、アルフは蹲り、耳を押さえながら叫んだ。
耳を押さえても、アルフの鋭敏な聴覚は、主の悲鳴を聞きとってしまう。
「あんまりじゃないか、あの女……!」
そこで再び聞こえた、一際かん高い悲鳴に、アルフは身体を丸めて縮こまる。
もう耐えきれなかった。
アルフにはその場から離れる事しか出来なかった。
ガンッ! と壁が音を立てる。
拳にジンジンとした痛みが広がる。
「あの女の……フェイトの母親の異常さとか、フェイトに対する酷い仕打ちは、今に始まったことじゃない……。
けど、今回はあんまりだっ!
いったい何なんだ!?
あのロストロギアは、ジュエルシードは、そんなに大切なもんなのか!?」
拳を叩きつける。
ここまで無力な自分が恨めしいと思ったことが、アルフは今まで一度も無かった。
今はそれが十分に理解出来る。
感覚リンクを通して、フェイトの悲しみが、恐怖が伝わって来るのだ。
「フェイトを、娘を鞭打ってまで、手にいれる程の価値があの石コロにあるのかっ!?」
無い。
そんな物は無い。
あるわけがない。
もしもそんな物があったとして、だからはいそうですかと、納得する事など出来る訳がない。
「フェイト、どうして……。どうして……あんな女に従うんだ……」
アルフの嘆きに、答えをくれる者はいなかった。
「ふん……」
ある程度フェイトを鞭打って気が晴れたのか、プレシアは鞭を下げ、再びフェイトに話しかけた。
「ロストロギアは、母さんの夢を叶えるために、どうしても必要なの」
「はい……母さん」
「特にアレは、ジュエルシードの純度は、他の物より遥かに優れている。
あなたは優しい子だから、躊躇ってしまうこともあるかもしれないけど、邪魔するものがあるなら、潰しなさい。
どんなことをしてでも!
あなたにはその力があるんだから」
プレシアは鞭を元の杖へと戻し、フェイトを吊り下げていた鎖も消した。
重力に従って、床に倒れ伏すフェイト。
「行って来てくれるわね? 私の娘……可愛いフェイト」
フェイトは手を付いて無理矢理顔を上げ、プレシアに答える。
「はい……出来ます、母さん」
「……しばらく眠るわ。次は必ず、母さんを喜ばせてちょうだい」
「はい……」
「……」
プレシアは踵を返し、ゆっくりとその場から立ち去って行った。
後に残されたフェイトは、身体を起こしてなんとか立ち上がる。
顔を横に向けると、プレシアに毛ほどの価値さえも見出されなかったケーキの箱が、そこにあった。
「ケーキだけじゃ、駄目なんだ……」
フェイトはその場を後にする。
痛みに疼く身体を引きずりながら。
外で待っていたアルフの耳に、フェイトが足を引きずりながら歩く音が聞こえた。
「フェイトッ!」
急いで主の元へ駆けつけると、アルフの姿を目にしたフェイトは、そのまま前向きに倒れ込む。
それをアルフは手を伸ばして支える。
アルフはフェイトを座らせ、フェイトの傷に顔を顰める。
「フェイト、ごめんよ。身体は大丈夫?」
「なんで? なんでアルフが謝るの? 私は平気だよ、全然……」
フェイトはアルフの顔を見ないまま、平気、平気、と繰り返している。
それを見て、アルフの目に涙が浮かぶ。
「平気なもんか! そんな傷で、そんな身体で! 平気な奴なんているもんか……」
アルフの頬に涙が一筋伝う。
「こんな……こんな事になるなんて思わなかった。
ちゃんと言われた物を手に入れて来たのに……。
あんな酷い事されるなんて、思わなかった……。
知ってたら、絶対に、絶対に止めたのに……」
膝から崩れ落ち、悔しさと悲しさと怒りで、床に拳を叩きつける。
フェイトはアルフの頬に伝う涙を、破けて剥き出しになった指で拭う。
「泣かないで、アルフ」
「フェイト……?」
アルフは涙を流すのを止め、フェイトを見る。
「酷い事なんかじゃないよ。母さんは、私の為を想って――」
「思ってるもんか、そんな事! あんなの、あんなのただの八つ当たりだ!」
アルフは叫ぶように言い捨てる。
だがフェイトは、それに小さく首を横に振る。
「違うよ。だって……親子だもん。
ジュエルシードは、きっと母さんにとって、凄く大事な物なんだ。
ずっと不幸で、悲しんで来た母さんだから、私、何とかして喜ばせてあげたいの……」
「だって……、でもさぁ……!」
アルフには、フェイトを説得するだけの言葉が思い浮かばなかった。
「アルフ、お願い。大丈夫だよ、きっと。
ジュエルシードを手に入れて帰って来たら、きっと母さんも笑ってくれる」
フェイトはアルフの頬に手を添える。
「昔みたいに優しい母さんに戻ってくれて、アルフにもきっと、優しくしてくれるよ。ね?」
アルフは、フェイトのその目を見て、その頬笑みを見て、もう何も言えなくなった。
フェイトはアルフの身体を支えにして、自分の身体を持ち上げ、ゆっくりと立ち上がる。
「だから、行こう」
魔力でマントを作り、それを羽織る。
「今度はきっと、失敗しないように」
フェイトは痛む身体を押して歩きだした。
「母さんに、笑ってもらうために……」
アルフはそれを、ただ見つめる事しか出来なかった。
あとがき
プレシア登場シーンです。
ほとんど内容はアニメと変わりません。
ちょっと言葉を付け足しただけです。
なのはさんはいません。
歳と同じ三十二話ですけどいません。
今回は時の庭園組だけの出演です。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>年齢的になのはさんと釣り合う男が現時点でほとんどいないことが問題だ。
実際そろそろ結婚しないとヤバイw 候補はいるけど、23歳差はちょっと……w
そうなんですよね。候補はいるんですけど、なのはさんが誰かと付き合っているのが想像出来ないんですよね。
>来た!リンディ艦長来た!コレで勝つる!
我が世の春が来たぁぁぁぁぁぁ!
果たしてあなたの思っているリンディ艦長かな?
……すいません、理想通りに書けるかわかりません。
>そして、アリサへのOHANASHIタイム&SUKOSHI★ATAMAHIYASOUKAタイムの始まり始まり。
罪状!『年齢計皮肉罪・魔王様侮辱罪』
判決!『死刑』
なのはさん(32)『悪魔の様に殺してあげるわ・・・』
以上脳内裁判でしたw
だから、なのはさんは寛容な性格をしていると何度も言っているでしょう。
ある事を除いて。
>そういえば、海鳴市の地酒はないのでしょうか?
山もあるし、そこそこ美味い酒が作れると思うのですが・・・
あると思いますけど、流石に登場してないですからね。
架空のお酒は馴染みがないですし。
(私はどれも馴染みなんてないんですけど)
>百年の孤独はうちの宮崎の知り合いの家系が代々作ってるよなのはさん
送ってあげたらうちのなのはさん、喜びますよ?