遠見市 住宅街にて
アルフはフェイトの手の傷の手当てをしていた。
手を消毒してガーゼを当て、上から包帯を巻くだけのお粗末なものであったが、それでもやらないよりは遥かにましだった。
「つぅっ……」
「ああっ! ごめんよ、フェイト。ちょっと我慢して」
フェイトが手の痛みに声を漏らす。
アルフはそれを悲しく思いながらも、手に巻く包帯の手は止めない。
「平気だよ。ありがとう、アルフ」
手を開閉させ、大丈夫だとアルフに見せる。
「明日は母さんに報告に戻らないといけないから、早く治さないとね……。
傷だらけで帰ったら、きっと心配させちゃうから……」
「心配……するかぁ? あの人が……?」
フェイトの言葉にアルフが顔を顰める。
そんなアルフをフェイトは窘める。
「そんなこと言っちゃ駄目だよ。母さんは、ただ少し不器用なだけだよ。私には……ちゃんと分かってるから」
「報告だけなら、あたしが行って来れればいいんだけど」
アルフはソファーに深く腰掛け、深刻な顔をする。
「母さんはアルフの言う事、あんまり聞いてくれないものね……」
フェイトは包帯を巻かれた手で、アルフの頭を軽く撫でる。
「アルフはこんなにも優しくて良い子なのに」
「ま、まあ大丈夫だよ。こんな短期間でロストロギア、ジュエルシードを四つも集めたんだし。
これで褒められこそすれ、叱られるようなことはまず無いもんね?」
アルフはそう言ってフェイトを元気づける。
フェイトもそれを聞いて、薄く微笑む。
「うん。……そうだね」
部屋に飾っている、母と自分が写っている写真を眺めながら、フェイトはそう返した。
同日 同時刻
海鳴市 高町家にて
「あ~、やっぱり動いた後のビールは美味しい」
なのはは先程ビールを三本しか飲めなかったので、その続きを飲んでいた。
なのはは帰ってから、ユーノにどうなったか問い詰められたものの、負けたと言って何とかごまかした。
「ユーノ君、ごめんね。ジュエルシードを賭けて戦ったんだけど、また負けちゃったよ」
「そうですか……。なのはさんがまた負けるなんて、そんなに強かったんですか?」
「うん。強かったよ、とても……ね。やっぱり、一朝一夕で勝てる程甘くはないね」
そういうと、ユーノは怪我が無くて何よりですと言って、客引きで疲れた身体を休める為に直ぐに寝床に着いた。
なのはがフェイトと戦ったのは事実だし、なのはがフェイトに負けたと感じたのも事実だ。
あの時、フェイトは自分の身体が傷つこうとも、それでも封印をしようとジュエルシードに向けて一直線に走った。
それは、今のなのはには無理な事だ。
あれ程の向こう見ずな若さを、なのははもう持っていないから。
「若いよねぇ。フェイトちゃんも、わざわざこんな所まで一人で来るユーノ君も」
今の自分ならば、一瞬躊躇してしまう。
そのせいで、ジュエルシードに向かって一直線に飛ぶフェイトを、なのはは茫然と見送るしかなかった。
ビールの缶をプシッと開ける音を聞きながら、ポツリとなのはは呟く。
「フェイトちゃんには認めてもらったけど、やっぱり最後のアレが効いたのかな?」
アレとは、なのはがフェイトの真似をして、後ろに回り込んでからデバイスで殴り掛かったものだ。
アレで前回なのはは、フェイトにノックダウンさせられたのだ。
だから、同じ事をやればインパクトが強いと思い、なのはは同じように行動した。
なのはの腕力の貧弱さや、レイジングハートの殴り掛かるには不適切な形状など、問題はあった。
これではダメージなど与えられないという問題が。
しかし、元々なのはは、フェイトを傷つけたくて戦っていた訳ではない。
ただ、認められる方法が、戦って実力を見せろというものだから、仕方なく戦っただけ。
ダメージを与える必要など、最初から無かった。
認められるかどうかなのだから、なのはの攻撃が、より相手に印象強く残ればそれで良いのだ。
「でも、ただ認められただけだし、まだまだジュエルシードの取り合いは続くんだろうねぇ」
残りのジュエルシードの数を指折り数えて、うんざりとした溜息を洩らす。
その気持ちを洗い流すかのように、なのははグイッと缶を傾ける。
「ぷはっ。……にしても、お母さん……ねぇ」
なのははフェイトの事を考える。
フェイトは母がジュエルシードを欲していると言っていた。
だが、なぜジュエルシードが欲しいのかは言ってはくれなかった。
「どうしてお母さん自身が取りに来ないんだろうねぇ」
なのはには其処がどうしても解せない。
必要ならば自分で取りに来れば良いのだ。
最初に会った時のフェイトの反応を思い出す限り、現地で集めているなのはの存在を知っていたようにも思えない。
フェイトをあそこまで育てた人が、ジュエルシードを集めることに苦労するとも思えない。
それなのに、実際はフェイトがジュエルシードを探しに来た。
「何か理由が有るのかな? でも、あんな危険な物の蒐集を、フェイトちゃんに一任するのに、いったいどんな理由がある?」
危険な物を集めるのに、自分が安全な所で高見の見物を決め込むとは思えない。
娘のフェイトを見れば、そんな事は分かる。
あんな良い子なのだ。良い親に育てられたに違いない。
酒もう一本取り出しながら、なのはは考える。
「病気? それとも事故? それが理由で探しに来れないから?」
缶を開けて、なのはは次のビールを口に含む。
「じゃあ考えを変えて、ジュエルシードを集めて、いったい何がしたいのかなぁ?」
願いを叶える宝石で、人が願うことを考える。
「やっぱり、アレだね。願いを叶えるって言うなら、シェンロンとかから考えた方が良いかな?」
なのはは昔に読んだ漫画から、具体的な事を考える。
「確か、あの漫画の中で叶えられた願いは、結構あったよね。
富と名声、永遠の若さ、世界征服とか……最後のは無理だったような気もする。
でもそんな所だよね。
病気や怪我の治療のために、シェンロンに頼るってのは有ったかな?
……そういえば、身長を伸ばしたいって言っていた人もいたね」
流石に、身長を伸ばしたいが為に、わざわざジュエルシードを集めるとも思えない。
「あとは……そうだね――」
なのははそこで、一番多く叶えられていた事を思い出した。
「――死者蘇生とか?」
なのははそこまで考えて、自分の考えに笑う。
「馬鹿馬鹿しい……」
随分と酔いが回っているみたいだ。
酔っている時には、突拍子もない考えに行き着くことがある。
だが、幾らジュエルシードが人の願望を叶える物だったとしても、そんな事は無理だ。
そもそも、ジュエルシードは思った通りの事が叶うとは限らない。
猫の時は成功したかもしれないが、普通は歪んで叶う物なのだ。
例に上げた漫画だって、所詮は漫画。
人の考えた空想でしかない。
そもそも、あの漫画は生と死の境界が曖昧過ぎる。
生きているのに閻魔に会いに行ったり、死んでいるのに下界に降りて行ったり。
そんな事が日常茶飯事に起きている世界で、死ぬということがどれほどのことなのだろうか。
あんな世界ならば、死んだ人にもまた会えるような世界なら、死者の蘇生なんてものを願う人は減るのかもしれない。
「もう寝ようかな。こんな訳の分からないこと考えていても、正解になんか辿り着けないし」
なのははもう寝床に着くことにする。
これ以上考えても、実のある考えにはならないと判断したからだ。
飲み終えた空き缶を始末し、部屋に戻った。
長年愛用しているベッドに潜り込みながら、なのはは誰にともなく呟いた。
「おやすみなさい。明日も良い日でありますように」
そしてなのはの意識は、深い場所へと静かに落ちていった。
あとがき
今回、別の漫画を引き合いに出していますが、多分有るだろうと考えて登場して頂きました。
龍球陣と美由希が戦ったらどうなるかと考えるのも面白いかもしれません。
前回なのはさんが殴り掛かったことに違和感を覚えた人がいたので、ちょっと説明を加えてみました。
そもそもノリで書いているので、後付けたっぷりです。
ですから、そんな深く考えずに、ユルイ気持ちでご覧下さい。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>最後のはやてに全て持っていかれた。
>ちょwwはやてwww
>はやてさん、卑怯すぎますぜw
>ていうかいたのかよ!?
>そしてはやて、レアスキル「蒐集」はリンカーコアが対象だ、タクシーの客じゃない
>ベストタイミングで登場して、いかした気遣いを見せるはやて(運ちゃん)に惚れたw
>ナイスすぎるタイミングのはやてタクシー。
>はやて、いい仕事してるwwww
>さすがだね、はやてさん(32)
>はやてがメッチャかっくいい!
>にしても、はやてさんもいいなぁ。
>考えてた感想が全部はやてで吹っ飛んだけどね!!
やっぱりはやてさんは人気ですね。
まだ八神さんとしか呼ばれてないんだけど。
>前回でBJをスカートからズボンに履き換えてたけどスパッツがよかったな・・・お尻のお肉的にw
Youその設定で書いちゃいなyo
>そう言えば流石になのはさんでも、料理の材料に使う酒まで手を付けたりしないよね。
そんなことするわけ無いじゃないですか。
同じのを買って飲むか、味見をちゃんとするだけです。
>やっぱなのはさんは強いですねぇ。アメリカには最強のコックがいて日本には最強のケーキ屋一家がいる。この世界は平和です。
ええ、とても平和ですね。
>脳内ではやてがドア開けてルーフに肘おいて立ちながら親指立ててニヒルに笑ってました
それで概ね間違っていないと思います。
>なのはさんフェイトちゃんに治癒魔法かけてあげてつかーさい……
アルフ「施しは受けない!」
だそうです。
>…32歳魔王様のスタイル想定すると乗ったときのほうが危なく感じる!
胸的な意味で!!
流石にそんなことは……無いと思います。
>だけどそのセリフ、おれはナンパ調で言って欲しかったよ、はやてさん
どんな感じで言えば良かったんですかね。
>はやてじゃない新キャラだったら大爆笑。
オリキャラは一人もいないので、多分彼女で間違いないと思います。
>冷静に考えてみたら、この当時のフェイトって九歳ですよね。
促成栽培されている可能性もあるので、本当はもっと年下かもしれません。
>アームドでもバルディッシュみたいな魔力刃でもない杖で殴ってもなのはさんの腕力じゃバリアジャケットすら抜けなさそうな気がしないでも
>泡立て器で殴りかかっている事とか、2戦目にして既にフェイトと同等あるいはそれ以上に渡り合っている事とか、なんか色々つっこみたい
これで納得して頂けたでしょうか。
そうでないなら、私の文章力の低さが原因です。すいません。
フェイトと同等なのは、なのはさんは美由希が投げた飛針が見える程の動体視力と、
ブリッツアクションで後ろに回ったフェイトに反応出来る程の反射神経を持っています。
ただ、普段は身体がついていかないだけなので、それを魔法でカバー出来るならこれぐらいは出来るかと思いました。