なのはが美由希に、水差しに仕込んだ酒のことがばれて説教を受けてから三日。
「治った」
痛みをこれ以上味わいたくなかったなのはは、膨大な魔力に任せて、昼夜問わず回復魔法を掛け続けた。
そのおかげで魔法も上達し、なのははなんとか問題無く歩ける程にまで回復した。
悪化してもっと長引くところを、酒に対する愛で治したのだ。
軽く動いて屈伸運動などをしても、腰に痛みが走ることは無く、もう大丈夫と言っていいだろう。
「長かったな……」
なのはは遠い目をして、この三日間を思い出す。
美由希に説教を受けてから、なのはと美由希の戦いが始まった。
一度飲むと決めたなのはは、例え説教を受けようと、何が何でも飲むという覚悟を決めたのだ。
ベッドの下に隠していた酒を飲む事2回。
魔法を使用して、部屋に隠していた酒を取りよせる事3回。
ユーノを説得して酒を取りに行かせる事2回。
ユーノを買収して酒を取りに行かせる事1回。
ユーノを脅迫して酒を取りに行かせる事1回。
ユーノを誘惑して酒を取りに行かせる事1回。
成功率は低かった。
そのほとんどを、何かの気配を感じ取ったのか、ユーノの手際が悪くて感付かれたのか、美由希がやってきて取り上げていくのだ。
最初は素直に聞いていたなのはだったが、何度も飲む直前で取り上げられたことで爆発した。
なのはは主張した。
酒を飲めば身体が温まり、傷が治る感覚を覚えるのだと。
美由希は反論した。
身体が温まるのは酒を飲めば誰でも起こることで、消毒は出来ても酒で傷が治るなんてことは無いのだと。
そして四時間にも及ぶ激闘の末、妥協案で養命酒ならば、と何とか説得したのだ。
しかし、養命酒だけではなのはも飽きる。
だがなのはも、美由希との口論で妥協案を受け入れた以上、別の酒を飲むことは出来ない。
だからこそ、こうやって治るのを心待ちにしていたのだ。
「これで、心置きなく飲める……」
もはや誰にも文句は言わせない、と手をギュッと握り締めて固い決意を抱く。
早速冷蔵庫で冷えたビールを飲もうと思い、階下に下りる。
キッチンに行き、ガチャッと冷蔵庫を開けると、なのはの顔に冷気が当たった。
ずらりと並ぶビールの缶を、どれにしようかなと一本一本手に取りながら、じっくりと品定めをする。
なのはの顔には、歓喜の表情が張り付いていた。
そして、その中の一本を手にする。
「ヱビス、君に決めた」
黄金に輝く表面を、なのはは愛おしそうに撫でる。
冷蔵庫で冷やされて表面に結露を浮かべるその姿が、なのはにはあの寂しげな目をした少女の姿に見えた。
プルトップに指を掛け、缶を開けようとしたなのはだったが、そこであることに気付き、指がピタリと止まる。
「どうしようかな……」
数瞬悩んだ後、なのはは結局ビールを開けずに冷蔵庫に入れて、そのまま閉めた。
「やっぱり、そっちの方がいいよね」
決意を固め、なのはは素面のまま、風呂場へと向かった。
服を脱いで浴室に入ると、シャワーを流す。
適温になるまで待ちながら、なのははポツリと呟いた。
「うん。やっぱり、身を清めてからにしよう」
水垢離では風邪を引くので、温かいシャワーで。
折角の完治祝いである。
万全の態勢で、なのはは挑みたかった。
なのははこの後来る至福の瞬間の為に、敢えて飲むのを後回しにしたのだ。
「早く済まそう。ビールが待ってるんだ」
アルフがおやつとしてドッグフードをぼりぼりと齧りながら、フェイトの部屋に入る。
部屋の中には、使い魔であるアルフの主のフェイトが、ベッドに横になっていた。
「あ~っ! また食べてない!」
アルフがベッドの横のサイドテーブルに置いておいた食事を見て言う。
ベッドに腰かけたアルフは、横向きに横たわっているフェイトの頭を撫でながら注意する。
「駄目だよ、ちゃんと食べなきゃ」
フェイトはアルフに頭を撫でられるがままにしている。
「少しだけど食べたよ。大丈夫」
それを聞いてアルフは、もう一度残されたままの食事を見る。
確かに、フェイトの言うとおり、パンは僅かに欠けていて、スープを飲むのに使ったスプーンも僅かに濡れていた。
「こんなんじゃ食べた内に入らないよ。もっと、せめて半分だけでも食べないとさ。元気になれないよ」
「大丈夫だよ、アルフ。私は元気だから」
もぞもぞと身動きすると、フェイトは身体を起こした。
その背にはまだ新しい、何かで叩かれたような痕が、数多く残っていた。
アルフはそれを見て顔を顰める。
フェイトはアルフの方を見て、行動を始めると告げる。
「そろそろ行こうか。次のジュエルシードの大まかな位置特定は済んでるし……」
そこでフェイトはアルフではなく、前を見て続きを語る。
「あんまり、母さんを待たせたくないしね……」
アルフはそれを聞くと、下を向いて、足をブラブラとさせながら愚痴を言う。
「そりゃまあ、フェイトはあたしのご主人様だし、あたしはフェイトの使い魔だから、行こうって言われりゃ行くけどさ……」
アルフのその様子を見て、フェイトはクスリと笑う。
「それ、食べ終わってからでいいから」
「え?」
フェイトの言葉の指し示す先をアルフが見やると、アルフの持っているドッグフードがそこにあった。
慌ててアルフがそれをフェイトから隠す。
そしてフェイトに向き直る。
「そ、そうじゃないよ。あたしはフェイトが心配なの。
広域探索の魔法は、かなりの体力使うのに、フェイトってば碌に食べないし、休まないし。
その傷だって、軽くは無いんだよ!?」
「平気だよ。私、強いから」
フェイトは首を振り、何でもないことのように言う。
その言葉に、アルフはそれ以上、何も言えなくなってしまった。
フェイトは両手を重ね、バリアジャケットを形成する。
立ち上がり、魔力でマントを作ると、それを体に纏う。
「フェイト……」
アルフが消え入りそうな声で、もう一度フェイトを止めようとする。
だがフェイトは歩きだした。
傷を負った身体で、物憂げな顔をしたアルフを脇に従えて。
「さあ、行こう。母さんが待ってるんだ」
あとがき
本当にこの後どうしようかな。
全然面白そうなことが思い浮かばない。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>変なにおいがする液体。わたくしはそれを要介護者であるなのはさんのお小水かと推察しました。そりゃ恥ずかしいよねと……w
書いててそんな想像する人が絶対いるだろうなと思ってました。
>なのはさん(32)にとって酒は魔力の源であり治癒の効果も持つ飲み薬だったんだ!
「「「な、なんだってぇ!」」」
まず、酒で摂取したカロリーまた各種酒の栄養素がリンカーコアを育成する。
この育成の段階で微々たる物ではあるが身体能力が鍛えられているわけだ!
酒を飲まなかった場合のなのはさん(32)では走る・急な階段20段以上を上る事は無謀だった訳だ!寧ろ死んでいたかもしれん!
「「「な、なんだってぇ!」」」
それで行きましょうか。
どうせ酒を飲まなかった場合の未来なんて分かりませんし。
>ニッポンハ蛇口ヒネレバ、オ酒ガデルノデ~スネ☆
ノー。蛇口ヲヒネレバ、オレンジジュースガ出テキマス。
(探せばあります)
>それと「ぎっくり腰」は冷やすより温めながら牽引するリハビリに通う必要がありますよ(経験者)
炎症を起こしているので、最初は冷やすほうがいいらしいです。
でなければ風呂が地獄とは言われないと思います。
>そこまで酒を愛していますか、さすがなのはさん(32)です
ベストフレンドです。
酒蔵の酒たちは我が子同然に扱ってました。
>どんだけここにライダーファンがいるんだ………
何故か多いですね。
なのはさんが「答えは聞いてない」って一度言っただけなのに。
意図してやったわけでもないんですけどね。
>・・・ダメだ・・・このなのはさん・・・なんとか・・・しようがないですね♪
ないですね♪
>それはともかくバインドがどれも回転してるというんだったらむしろトルク強化で関節技開発に走れば良いのではないだろうか。
なのは「とる……く……?」
>なのはさんとお酒に全く違和感を感じなくなりました。
責任取って下さいw。
最後まで書きあげるので、それで責任を取ることにします。
>……こうして、高町なのはさんは無料で機械の身体をくれるというスカリエッティ研究所を目指して時空鉄道999に乗って金髪の美少女と共に旅立ったのでした。
そんなStSはどうでしょう?
その考えは無かったわ。
でも転位魔法あるし、一日で終わりそう。
>あと、どうやら呑めば呑むほどリンカーコアの生成に効くようですね。
ネタで言ったんですけど、もうそれでいいです。
うちのなのはさんの魔力が尽きるとこなんて、私が想像出来ないし。