なのはが魔女による二撃目を喰らった翌日。
当然のことながら、なのははまだ寝込んでいた。
「痛い……」
ぎっくり腰が再発しなければ、魔法治療で今日にはもう歩けるようになっていただろう。
だがそれはただのIFでしかない。
それを幾ら論じたところで、現実は変わらない。
なのはのぎっくり腰が再発し、今なのはがベッドに寝たきりになっているのは変わらないのだ。
そのなのはの耳に、階段をトントンと上がってくる音が聞こえた。
姉の美由希だ。
扉を開けて入って来た美由希は、手に氷の入った袋を持っていた。
「まったく!」
その袋を、なのはの腰にベシッと押し当てる。
昨日と比べて、行動が刺々しい。
「いぇあ゛あ゛あ゛っ!?」
急に腰に当てられた冷たさと痛みと驚きで、なのはが奇声を発する。
そんななのはの様子を見ながら、美由希が氷袋を更にグリグリと押し当てる。
ちなみに、昨日は氷袋をタオルで包んでいたが、今日は直である。
「私、大人しくしてろって言ったよね? 何でこんなことになっているんだろうねぇ?」
「痛い痛い痛い……」
なのはは壊れた機械のように、痛い痛いと繰り返す。
美由希も怒っているのだ。
魔法で直ぐに治ると思っていたら、治る直前で急に動いて台無しにした。
おまけに最初より悪化していると来た。
確かに美由希にも、なのはにどんな思いがあって、どうして練習をしていたのかは分かっている。
その思いを叶えるチャンスが目の前にあったのなら、思わず掴み取ろうとしてしまうのも分かるのだ。
だが、だからこそ、病気を悪化させたなのはに、美由希は怒っているのだ。
「ご、ごめんなさい……」
消え入りそうな声で、なのはが美由希に謝る。
それを聞いて美由希は、氷をグリグリと押し当てるのを止めた。
はぁ、と溜息を吐く。
美由希は寝たきりのなのはの髪を、指でそっと梳きながら、なのはの行動を窘める。
「ねえ、なのは。なのはが焦る気持ちは分かるよ。
ジュエルシードは危険な物だし、それを誰かが、何の目的で持って行こうとしているのか、それが気になるのも分かる。
でもね、完治もしていないのに戦いに赴いて、それで勝てるほど弱い相手じゃないでしょ?
今の状態で行っても、また負けるって分かっていたよね?
それが分かっていながら、まずは完治させることを第一に考えるべきだって分かっていながら、なのはは自制を忘れたね?
もう32歳なのに、今の状況をちゃんと判断出来なかったのは、駄目だって私は言ってるんだよ」
「……うん」
顔を伏せて、美由希の言葉に頷く。
ギュッとレイジングハートを握り締め、なのははフェイトの事を思い出す。
「分かってる。ううん、分かってると思ってた。
フェイトちゃんは、私が怪我してるからって、ジュエルシードを渡してくれるようなそんな子じゃないだろうし。
攻撃手段が無かったとはいえ、それでも私は、あっさりやられちゃったから。
だから早く元気になって、フェイトちゃんに認めてもらって、それで話を聞くんだって、そう思ってた。
でも、昨日のジュエルシードが発動したとき、会いに行かなきゃって思った。
分かっていると思っていたのに、全部どっかへ行って、他には何も私の頭には無かった。
ただ会いに行こうとして、それでこの有り様だよ」
なのはは自嘲の笑みを浮かべる。
そこで言葉を一端止め、水差しを手に取って口の中を潤し、なのはは言葉を続ける。
「フェイトちゃんってね、昔の私に似てる気がするの。
まだ一回しか会ったことないけど、あの目が、あの寂しそうな目が、とても気になるの。
多分、またジュエルシードが発動したら、私はもう一度同じことをするんだろうね……。
意味がないと分かってても、身体が動いちゃうんだ。
ごめんね、お姉ちゃん。心配掛けちゃって。
こんなこと、今まで無かったんだけどな……」
なのはは顔を上げて、天井を眺めながらポツリと呟く。
美由希はそれを聞いて、顔に苦笑いを浮かべる。
「まったく、なのはのそれは、幾つになっても変わらないね。
こうと決めたら一直線で、他の何も目に入らなくなる。
まるで猪か、闘牛みたい。ひらりマントが欲しい所だよ。
その性格はなのはの良い所だとは思うけど、同時に悪い所でもあるよね」
「そうかな?」
「そうだよ」
「でも人の性分は、そう簡単には変えられないよ?」
なのはの言葉に、美由希が頷く。
「分かってるよ。
そんな簡単に変わるようじゃ、性分とか言わないしね。
だから必要なら私が、無理矢理縛り付けてでもなのはを抑える。
なのはが無茶をし過ぎないように、私が引っ張り戻す。
それで良いんでしょう?」
「うん。……ありがとう、お姉ちゃん」
「家族だもの。これ位はどおってことないよ。私は鍛えてるからね」
「それ関係あるの?」
「あるよ、大ありだ」
「へぇ、そうなんだ」
なのはが感心する。
そんななのはに向かって、美由希はニヤリと笑い、話を続ける。
「だいたい、鍛えてないと猪なのはの突進なんて、受け止めきれないでしょ?」
「ちょ、酷くない? 猪って……」
「事実でしょうが。後先考えずに突っ走ろうとして、出鼻を挫かれたのは誰だっけ?」
「……」
なのはが黙り込む。
その場には、先程の重苦しい雰囲気は何処かへ消え、和やかな空気が流れていた。
「ま、今度こそ大人しくしときなさい。でないと、言葉通りに縛り付けるよ」
「うん。……そうだ、お父さん達は?」
なのはは頷き、そこで初めて士郎達のことに気付く。
痛みで今まで考えが及ばなかったらしい。
「もう温泉に行ったよ」
「そう」
「大丈夫。なのはみたいにならないように、二人にはよく言っておいたから」
「私みたいに、って……?」
「腰は大事にするように言っただけだよ。
なのははこの家で一番若いのに、この家で一番年寄り臭いからね」
「酷い……」
「事実でしょうが。還暦迎えてるのにまだ元気なお父さんより、先に腰が逝ったなのはに、何か反論することはある?」
「……ありません。うう……」
美由希の言葉に涙目になるなのは。
美由希はそれを見て笑い、ゆっくりと立ち上がる。
「なのは、喉渇いてるでしょ? 水、冷たいのに取り換えて来てあげるよ」
なのはの枕元に置いてあった水差しを持ち上げる。
「あっ!?」
「ん? なのは、どうかしたの?」
その水差しを見て、なのはは驚きの声を上げる。
それを美由希に尋ねられて、なのはの額から僅かに汗が流れる。
「い、いやその、まだいいよ。
お姉ちゃんの手間になるだろうし、そんなに喉渇いてないっていうか……。
だ、だからそれはそのままで良いよ」
「……なのは?」
「うん、私生温い水好きだし、私、そんな冷たいの飲んだらお腹壊すから。だからその……」
なのはの視線は、美由希の持っている水差しに注がれている。
美由希も手に持つ水差しを見やる。
そこには、透明な液体がなみなみと入った、普通の水差しがあった。
「……ねえ、なのは」
「な、何かな?」
「これ、私が昨日淹れて来たのより、多く入っているような気がするんだけど?」
「き、気のせいじゃないかな? ほら、記憶なんて曖昧なものだし!」
「これ、水にしては少し、匂いがある気がするんだけど?」
「き、気のせいじゃないかな? ほら、上等な水って、良い匂いがするものだと思うし!」
「なのはの顔、少し赤い気がするんだけど?」
「き、気のせいじゃないかな? ほら、私って元々顔が赤かったし!」
「へえ……」
苦しい言い訳を続けるなのは。
美由希は水差しの蓋を開けて、指を中の液体に浸す。
それをペロリと舐めて、中のモノの正体を確信する。
既になのはは、傍から見て分かりやすい程に汗を流している。
「これ、お酒の味がするんだけど?」
「……う」
なのはが口篭もる。
美由希がなのはに詰め寄る。
「ねえ、なのは。正直に言って? この中に、いったい何を入れたのかな?」
なのはは黙秘権を行使しようとしたが、美由希の視線に耐えられず、おずおずとその中身のことを口に出す。
「……く、薬?」
その日、高町家で何かの悲鳴が聞こえたが、それを聞いたのは小さなフェレットだけであった。
あとがき
次の戦いどうしようかな、本当に。
もの凄く悩んでます。
原作と大して変わらないことになるかも。
あ、ついにPV十万突破しました。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
これからもなのはさんのことを応援してあげて下さい。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>ところで、リリなののカップリングには『ゲンはや』というジャンルがあってだな……
オジ婚ですね、わかります。
でもミッドまで行かないと接点がないんですよね。
>日々の酒÷日ごろの運動不足=・・・
・・・絶対に摂取カロリーと消費カロリーがあってないと思うw
リンディさんは魔法の消費カロリーが高いとか屁理屈捏ねれるけど
ここのなのはさんは魔法覚えるまで余剰カロリーどこに消えてったんだw
桃子さんよりも不思議の塊だw
二日酔い回復の魔法は気にしてもダイエット魔法(無駄にカロリー消費とか)気にしてないみたいだしw
なのはさんの体重はstsから変わっていません。
余剰カロリーについては……リンカ―コアの成長と魔力の生成に使われるということで。
>そういえば、闇の書事件ではヴィータに吹っ飛ばされてビルに突っ込まれてたような・・・
突っ込んだ先がなのはさんの第二の酒蔵ではありませんように・・・
それいいかも。
事件が起きたらの話ですけど。
>そんなアッシは、「スカなの」なるジャンルが好物だったり・・・?
やぁ、あの敵幹部と繋がって、味方欺きながらの『愛(注:ドロドロ?)』という展開に快感を覚えましてなぁwww(下衆
まさかそんなものがあるとは……。
>ちょ!なのはさん!!なにフェイトフラグ回避してるんですかwww
>なのはさんが腰を痛めたために温泉行きは無しですかw これではフェイトとのフラグが立たないぜw
>フェイトと絡まなくなっちゃうよ~!
フラグ回避ではありません。
ただ出会ってないだけです。
>強敵との壮絶な戦いで深い傷を負ってしまった高町なのは、次第に激しさを増す戦いに彼女の体は耐えられるのか
本当に、耐えられるんでしょうかね、彼女は。
>右手から左回転のトルネードバスター、左手から右回転のトルネードバスター、その二つの砲撃の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的砂嵐の小宇宙!
トルネードバスターは四つの回転が絡み合って前方に直進する魔法です。
>「当たったら確実に死ぬ」攻撃って非殺傷が基本のミッド魔導師にはなじみが薄いだろうから、当たらなくても自分に向かって撃たれるだけで相当なストレスだろうし。
管理局員は犯罪者相手に大立ち回りをやっているので、大して変わらないかもしれません。
>もしこのぎっくり腰の場面、恭也が見ていたらどうなるんでしょうか。
運動不足のなのはを叱るのか、
この状況を読めなかった美由希をどつくのか、
反応が気になります。
その両方をやった後で、死ぬまでからかいます。
>わかるライダーネタは響鬼のみですか………
すいません。終わったら全部見ようかと思います。
>おばあちゃんが言っていた・・・
寧ろ早く接骨院行け・・・と。
あのおばあちゃんは万能ですね。
カリム以上に全ての状況を予知していますし。
なのはさんは病院嫌いです。