なのはは走っていた。
「ハアッ……ハアッ……」
誰かがなのはに助けを求めているから。
「ゴホッゴホッ……」
なのはは走っていた。
「ヒュー……ヒュー……」
自分がこの声の主を助けたいと思ったから。
「か、身体……ゲホッ……き、鍛えとけば……ヒュー……よかっ、た」
そして立ち止まった。
「もう無理」
何かに呼ばれて家を飛び出したものの、ペース配分も考えずに全力疾走したせいでもう身体はボロボロだ。
思えばもう10年以上もまともに走って無い。
高校の時のマラソンを乗り切った後は、もう意地でも走るものかとそんな事とは無縁に生きてきたのだ。
そのツケがこんなところで回ってくるとは思っていなかった。
「あ~あ、やっぱり」
「え?」
振り向くと、そこには美由希が立っていた。
「だらしないなあ、なのはは。まだ10キロも走ってないっていうのに」
どうやら美由希は、なのはが必死になって走って来たこの道のりを、汗一つかかず踏破したらしい。
「お、お姉ちゃ……、どうして……ここに……」
「あんなこと言って飛び出して行ったんだから、気になるに決まってるでしょ。だから、私も行くよ」
「え……でも……」
言葉を続けようとした矢先、なのは達の耳に聞き慣れない轟音が響いた。
「今の……」
「この先からだ」
美由希が眼鏡を外し、常ではあまり聞かない低い声を出して警戒する。
「行かなきゃ……」
何かに急き立てられるようになのはは前に進む。
その肩に美由希が手を添え制止する。
「なのは、行っちゃダメ!」
「でも……!」
美由希に反論しようとするなのは。
だがその時、なのはの視界の端を小さな影が横切る。
「あれは……」
「あれがなのはの言ってたフェレット?」
「うん。そうだけど……」
そのフェレットは、なのは達のことになど気付いていないらしく、こちらに向かって走って来る。
まるで、何かから逃げるように。
近くまでやって来たフェレットを抱え上げると、何かに怯えるように震えている。
「逃げ出して来たのかな?」
「でも、檻の中に居たはずなのに、どうやって……」
最後まで言葉を発するより前に、なのはが聞いたあの声が腕の中から聞こえてくる。
「来て、くれたんですね……」
「え?」
「しゃ、喋った!?」
驚いて腕からフェレットが落ちそうになるのを慌てて抑える。
「なのは。とりあえず、この場から離れよう。ここは危ない」
「う、うん」
美由希に促され、そこから走りだす。
「で、何が起きてるか分からないんだけど、君は何か知ってるの?」
走りながら、美由希がフェレットに質問する。
フェレットはなのはを指差しながら答える。
「この人には資質が有ります。お願いです。力を貸して下さい」
「ハァッ……ハァッ……し、資質……?」
息も絶え絶えになのはが問い返す。
「僕は、ある探し物の為に、ここではない世界から来ました」
「別の世界? パラレルワールドとかそんな感じ?」
「今はそう考えて頂いて構いません。でもこの探し物は、僕一人の力では、想いを遂げられないかもしれないんです」
だから、とフェレットは続ける。
「迷惑だと分かってはいるんですが、資質を持った人に協力して欲しくて……」
「なるほど」
そこでフェレットはなのはの腕の中から飛び出し、なのはと目を合わせる。
「お礼はします。必ずします。ですから、僕の持っている力を、魔法の力を、貴女に使って欲しいんです」
「まほう?」
なのはが胡散臭そうに目を細める。
そこで上空から獣のような雄叫びが響き、なのは達目掛けて黒い光が飛び込んできた。
「なのは! 危ないっ!」
美由希に抱えられ、その場から離脱する。
黒い光はコンクリートを穿ち、地面に大穴を空けていた。
衝撃で舞い上がった砂埃に、思わずなのはは目を閉じる。
風が収まり、顔を上げたなのは達の目に映ったのは、黒い毛玉。
……
……
……
「私、飲みすぎたのかな? 今日は度数の低いお酒で済ませてたはずなんだけど」
「そんなこと言ってる場合じゃないよなのは! アレ私にも見えるよ!」
「えええええっ?」
どうやらなのはが酔って見せた幻覚などではないらしい。
しかし、毛玉としか言いようのない丸い体躯をしている。
中心にはギョロギョロとした目のようなものがあり、周りにはなのはの胴体よりも太い触手のようなものが蠢いている。
「何アレ? あんなのが居るなんて聞いてないよ?!」
「それよりもアレ、こっちに来るよ」
美由希が腕を振ると袖から飛針が2本飛び出し、それを投げつける。
投げられた飛針はブレることなく直線的に進み、毛玉の手前の地面に突き刺さる。
しかし毛玉は、威嚇目的で放たれたそれには目もくれず、身体を引きずりながら、尚もこちらへやってくる。
「なのは、アレは私が抑えるから、なのははそのフェレットをお願い」
「えっ? 危ないよ!」
「大丈夫。動きは遅いし、飛針を警戒しようともしない。あまり頭も良くは無さそうだ。あんなのにやられるほど柔な鍛え方してないよ、私は」
そういってもう一度腕を振り、今度は4本の飛針を取り出す。
その姿を見て、なのはも渋々頷く。
「わかった。けど無理しないでね」
「わかってるよ」
美由希は前へ、なのはは後ろへそれぞれ走りだす。
しかしなのはを制止する声が聞こえる。
「無茶です! あの人は魔法が使えないんでしょう!? 魔法の使えない人にはあの思念体は倒せません!!」
「大丈夫、お姉ちゃんは強いから」
なのはは安心させるようにフェレットに言う。
ある程度離れたところで、なのはは立ち止まる。
「それよりも魔法っていったよね? その資質が私にあるって」
「あ、はい」
「その魔法があれば、アレをなんとか出来るの?」
フェレットはなのはを見つめ、静かに返す。
「貴女が力を貸してくれるなら、必ず……」
なのははフェレットのその言葉に笑みを浮かべる。
「わかった。じゃあ私は何をすればいいの?」
「これを」
フェレットは首に掛けられていた赤いビー玉を、なのはに見せるように掲げる。
「温かい……これは?」
手に取ってみると、まるで生きているかのような温かみが感じられた。
「インテリジェントデバイス、魔法を使うための杖です」
「これが……?」
杖と言われても、なのはにはただの赤いビー玉にしか見えない。
「今は待機モードの状態なんです。ですから、貴女の力で目覚めさせて下さい」
「え、どうやって?」
「目を閉じて、心を澄ませて、僕の後に続いて唱えてください」
「あ、うん」
フェレットに促され、なのはは目を閉じる。
「我、使命を受けし者なり」
「(え? なにそれダサい)……わ、我、使命を受けし者なり」
どもりながらも、なのはは答える。
「契約の下、その力を解き放て」
「契約の下、その力を解き放て」
ドクン、と手に持つ赤いビー玉が、鼓動を始める錯覚をなのはは覚える。
「風は空に、星は天に」
「風は空に、星は天に」
唱えていると、手の中の宝玉はドンドンと熱を帯びていく。
火傷しそうな熱さを感じながら、それでもなのはは手放さない。
それと同時に、手の中の熱と同種の熱が、身体の奥底から湧き上がるのを感じたから。
「そして、不屈の心は」
「そして、不屈の心は」
なのははもうフェレットの言葉を聞いていない。
聞かずとも、自然と、何を言えばいいのかが分かるから。
――この胸に――
「この手に魔法を! レイジングハート! セットアップ!!」
唱え終わると同時に、桃色の光が天へ向かって迸った。
あとがき
一話に一回なのはさんに酒飲ませようかと思ったのに……なぜこんなことになったんだ。
なのはの容姿はsts時と変わらないとお考え下さい。
高町家はそれがデフォです。
レイジングハートの形状をちょっと変えようかなって思ってます。
候補は2つあるんですが、どちらが出るかはお楽しみに。
少し気になったレスに返そうかと思います。
ここで出なくても他の感想にも全て目は通していますのであしからず。
>ちょwwwww
魔王wwwwwwww
なのはさんは魔王が大好きです。
>芋焼酎「魔王」。チョイスがなんというか30代だ。
というか、焼酎のつまみがケーキって、悪魔的な組み合わせだと思うのだが。
悪魔ですから。
>この場合リリなのにスイッチしない純とらハ世界のなのはの未来の一例と言う事で良いのでしょうか
とらハだと父親の士郎が死んでいるらしいので、この話はとらハ世界ではありません。
あくまでリリカルの未来の一例です。
>この高町なのは(32)は、運動音痴なまま大人になった…んですよね?
……ソニックムーブとかで高機動戦闘したら、容易く腰が逝ってしまふのでは…?
逆に考えるんだ。
動かなければいいじゃないと考えるんだ。
>処女で30歳超えると魔法使いになるの?
もちろんです。魔法の力は男女関係なく与えられると考えています。
>ユーノ「すいません。チェンジお願いします(え~どう見ても二十代後半だよね?十代には見えないよ)」
見た目は余裕で十代です。
>え~出来ればユーノを見捨てる話を読みたかったです。
>逝き遅れで、二日酔いで普通に生活しているものが在っても良いと思う。
気が向いたらね。
>化物語か
なのはさん蕩れ
>なのはが32歳………あれ?じゃあ美由紀と桃子さんは(真っ赤な死体ぃぃぃぃぃぃ!
原作の場合、無印開始時点で美由希17歳、桃子33さ(真っ赤な死体ぃぃぃぃぃぃ!
>魔法熟女エロカルなのは、はじ(ry
君に「魔法熟女エロカルなのは」を書く権利を与えよう。
>少し細かいのですが、美由希は結婚しているはずですよ。
実はとらハ3の忍・ノエルルートのエンディングで、翠屋にアルバイトとして入った青年とゴールインしたとメッセージが出ますからね。
知らなかった。
まぁこの話ではまだ独身という設定でお願いします。
>なのはさんじゅうにさい
この話のネタを思いついたのはニコニコで「えーりんさんじゅうななさい」というのを見たからです。
さんじゅうにさいなのはなんとなく。
>二日酔いのその日の晩に、アルコールに手を出すとは流石なのはさん
真似できねー
真似しちゃいけません。
>たかまちなのは小学27年生www
それもいいかもしれないw
>とりあえず、なのはも最終学歴が中卒ではなさそうですね。やはり短大程度は出てるんでしょうね。
とりあえず高校は出ているはずです。
>あれということははやてさん32歳?
勿論。
>え~と、槙原女医がいくつぐらいになる設定かというと…。
教えて下さい。私には知ることが出来ませんでした。
ちなみに現在、体力的には、
stsなのは(めっちゃ体育会系)>A'sなのは(成長期)>無印なのは(初期状態)>この話のなのは(運動不足&酒でボロボロ)
となっています。