なのはは子猫を抱えて、屋敷まで戻っていた。
「まさか電気ショックで起こされるとは思わなかったよ……」
フェイトが子猫のジュエルシードを封印した時、なのははその近くに倒れていた。
フェイトの封印は電気を伴うものだったため、傍にいたなのはまで感電したのだ。
その大半は、気を失っても尚レイジングハートが展開し続けてくれたバリアジャケットで、なんとか防ぐことが出来た。
だがその全てを防ぐことは、気絶していたなのはには無理だったらしい。
気絶するのは初めての経験で、電気ショックで起こされるのも初めてだった。
おかげでなのはにとっては、最悪に近い目覚めとなってしまった。
「痛っ……」
おまけに、フェイトに肝臓打ちを喰らって吐きそうになるのを、乙女的な何かで必死に抑え込んだのだ。
刃ではなく、石突の部分を使ったことが、フェイトがなのはに手加減してくれたものと信じたいが。
起きてからは回復魔法で治したものの、なのはの魔法はまだ完全に回復が出来る程では無いようだ。
肉体的にも、精神的にも、なのはの身体はボロボロだった。
「でもフェイトちゃんか……。ジュエルシードを集めて、いったい何がしたいのかな……」
先程初めて会った少女の事を考える。
寂しそうな目をした、とても綺麗な子だった。
なのははその少女に、自分と似た物を感じたのかもしれない。
なのはは小さい頃から良い子だった。
否、良い子であろうとしていた。
父、士郎が事故で寝たきりになってしまった時、母の店である翠屋はまだ開いたばかりだった。
桃子は寝食を惜しんで店を切り盛りし、兄の恭也と姉の美由希はその手伝いに追われた。
その間、なのはは一人だった。
良い子にしていてね。
そう言われた。
なのはは子供なんだから、外で元気に子供らしく遊ぶと良い。
そう言われた。
それは桃子たちの愛情だったのだろう。
自分達の都合で、子供に苦労など与えたくは無いという、そんな想い。
しかし、その想いこそがなのはを傷つけた。
なのははまだ小さいからと、店を手伝うことをさせてもらえなかった。
なのははただ、苦しくても、辛くても、それでも一緒に居たかっただけなのに。
遠回しの愛情などではなく、率直に愛情をぶつけて欲しかった。
なのはは、ただ皆の近くに居られれば、それだけで良かったのに。
小さいからという理由で、なのはは納得など出来なかった。
しかし、なのはは言い付け通り、良い子であろうとした。
幼いなのはには、言われたこと以外の方法を知らなかったから。
良い子にしていれば、いつかは家族が振り向いてくれる。
そう信じて、なのははずっと、ずっと良い子であろうとした。
そんな孤独を、なのはが小さい頃に味わったあの孤独を、少女もまた、宿しているようになのはには感じられた。
なのはがブツブツと呟いていると、聞き慣れた声が聞こえた。
「あ、なのはちゃん!」
なのはの親友であるすずかが駆け寄って来た。
「どこに行ってたの? そんな恰好して」
「え? 何か変かな?」
バリアジャケットは既に解除しているから、いつもの服装のはずだが。
「変っていうか、服に泥が付いてるし、何だかとっても疲れた顔してるよ?」
そういって、すずかがなのはの髪に手を伸ばし、髪に絡まっていた葉っぱを摘んで取る。
「ありがと、すずかちゃん。ちょっとこの子が、木に登って降りられなくなってね……」
なのはは腕に抱えた子猫を持ちあげて、すずかに見せる。
疲れていたからだろうか、なのははとっさに嘘をついた
ちゃんとした話はまた後日でもいいと思ったのだ。
大体、魔法なんてものを使って変身して、日夜変な化け物と戦ってるなんて、そんな恥ずかしいこと言える訳がないし。
笑われたりはしないだろうが、なのはが恥ずかしい。
「ああ、ご飯の時にいないから、どこに行ってたのかと思ってたんだけど、そんなところにいたんだね……」
すずかはなのはから眠ったままの子猫を受け取る。
すると、今までずっと寝ていた子猫が目を開ける。
「ニャァ……」
なのはの方を見て、小さく声を上げる。
「あら? 起こしちゃったかな?」
「そうみたいだね。お腹空いてるだろうし、ご飯あげて来るよ」
「そう。いってらっしゃい」
「うん。それじゃ」
すずかは子猫を抱えて、来た道を戻る。
しかし、数歩歩いたところで、足を止め、なのはの方を振り向く。
「ああ、なのはちゃんのお酒は、さっきのお部屋に用意してあるから。ちょっと冷めてるかもしれないけど」
そういって、すずかは歩いていった。
なのははその言葉に目を見開く。
「そういえば私、すずかちゃんにお燗頼んでたんだった……」
なのはにしては珍しく、酒のことを忘れていたことに気付くのだった。
先程の部屋に戻ると、お酒の入れられた徳利が、テーブルの上に置いてあった。
椅子に座ってそれを手に取ると、なのはの手に、ほんのりと温かみが伝わって来た。
お猪口に注いで、口に持って行く。
白いトロッとした酒が、なのはの口に入る。
一口含むと、酒がなのはの身体を巡り、傷ついたところを癒やして行く。
そんな感覚をなのはは覚えた。
すずかはちょっと冷めてると言っていたが、人肌にほど近い温度になっているこのお酒は、今のなのはには丁度良いものだった。
そのままグイッと飲み干し、徳利からもう一杯注ぐ。
「はぁ……」
「溜息なんかついて、どうしたの? 年寄り臭いよなのはちゃん」
「あ、すずかちゃん」
なのはが顔を上げると、そこにすずかが立っていた。
「あの子は?」
「今は元気にご飯食べてるよ。よっぽどお腹空いてたみたい」
「そう……それはよかった」
ジュエルシードの力など借りなくても、しっかり食べて、しっかり眠れば、いずれあの子は大きくなるだろう。
なのははお猪口を揺らし、表面に立つ小さな波を見ながら考える。
「そうだ、なのはちゃん」
「ん? 何?」
すずかが名案を思い付いたかのように手を叩く。
なのははすずかの行為に首を傾げる。
「今日泊まっていきなよ」
「え? いや、私は……」
「うちの子を助けてくれたんだし、お礼がしたいの」
「お礼ならもう十分もらってるよ?」
なのははそういって、手に取った徳利を、見せびらかすようにフリフリと軽く動かす。
すずかは目を閉じて首を横に振る。
「駄目だよ、それじゃ私の気が済まない。
服を汚してまで助けてくれたんだから、せめて綺麗にして返さないと、月村家の恥だよ」
「え? そ、そこまで言うの?」
たかがちょっと服が汚れただけで、家の恥とまで言われるとは思わなかった。
なのははすずかの新しい一面を見た気がした。
「飲み終わる頃にはもう日も暮れてるだろうし、泊まっていったほうがいいよ」
「いや、私はタクシーで――」
「帰りは明日、ファリンに送らせるから」
「う、うん……」
すずかの勢いに押され、なのはは頷いてしまう。
なのはは一つ溜息を吐くと、すずかに告げる。
「すずかちゃん、なんだか変わったね」
「そうかな?」
「うん。何だか少し……押しが強くなった」
「駄目……かな?」
少し悲しそうな声で、すずかがなのはに聞く。
「いや、良いと思うよ」
「本当? 良かった」
すずかは喜ぶと、なのはの持っていた徳利を自分で持ち、なのはの持つお猪口に注いで酌をした。
「はぁ……」
あのあとずっとすずかに酌をされて飲み続けたなのはは、宛がわれた部屋で休んでいた。
なのはは首に絡まらないように外して、ベッドの横のサイドテーブルの上にレイジングハートを置く。
「お酒飲んでるから、お風呂は明日だね」ということで、風呂は明日にして、着替えてベッドに寝転んでいた。
何度も断ろうかと考えたが、すずかに「駄目……かな?」と悲しい目をされると、頷かなければいけない気がする。
「すずかちゃん、本当に変わったな……」
なのはは押しが強くなったと言ったが、正確には、強かになったと言った方が良い。
自分のしたいようにするために、他人を都合よく動かすのが上手くなった気がする。
今もなのはは、32歳にもなって、すずかに渡された猫柄のパジャマを着ているのだ。32歳にもなって。
「前はあそこまで世話好きじゃなかったと思うんだけどな……」
結婚してから家事の楽しさにでも目覚めたのだろうか。
そういえば、以前ファリンがなのはの店に一人で来て、珍しく愚痴を零していた。
なんでも、すずかが家事を全部自分でやってしまうから、ファリンがすることがないと言っていた。
おまけに、いつもラブラブなのを間近で見させられているから、一人身が寂しくなったとも。
先程すずかから聞いたが、ここ数日、その旦那は出張でいないらしい。
特に仲が悪いとは聞いていないから、本当に唯の出張だろう。
だからすずかも寂しくなって、なのはを呼んだのだろうか。
珍しいお酒が手に入ったといってなのはを呼んで。
来たら更に別のお酒を出して。
服が汚れたから洗うと言って。
「あれ? もしかして私、孫悟空?」
釈迦の掌の上で踊っていた孫悟空のように、すずかに上手い事踊らされている気がする。
しかもそれが別に嫌じゃない。
勢いに押されたが、今思えば、家の恥だとかを持ち出したのは、唯の建前だったような…?。
「気のせいだよね?」
なんだか少し怖くなったなのはは、別のことを考える気がする。
そして思い浮かぶのは、やはり昼間なのはをボコボコにしたあの子のこと。
「フェイトちゃんか……ねえ、レイジングハート」
『なんでしょうか?』
サイドテーブルの上のレイジングハートが、返事をするようにチカチカと点滅する。
「あの子のこと、どう思う?」
『そうですね……』
僅かに思案したあと、レイジングハートは喋り出した。
『あれだけの技量を、あの歳で持っていることには、非凡な才を感じます。
彼女は良い師に巡り合えたのでしょう』
「そうだね、凄かった」
なのはは威力があり過ぎるということで、自分からは攻撃が出来なかったが、それでもあっさりやられてしまった。
プロテクションに張り付くような魔法があるとも思っていなかったし、それが爆発するとも思っていなかった。
動体視力には多少の自信があるなのはでさえ、最後は姿を見失ってしまったのだ。
「今度は対等に戦えるように、練習しないと……」
人にも使えるレベルの、弱い魔法を覚えなければいけない。
ジュエルシードを狙うのならば、またいずれ出会うことになる。
せめて対等であるだけの力量を身につけないと、話を聞いては貰えないだろう。
なのはは酒でぼんやりとした頭で考える。
「ねえ。レイジングハートもそう思うよね?」
『そうですね』
「うん。あの子――」
なのははフェイトが名乗った時の顔を思い出す。
「――車みたいな名前だったね」
『What?』
いきなり何を言い出すのかと、レイジングハートは戸惑う。
「うん。やっぱりあの目はそれでいじめられたからなのかな?
『テスタロッサのくせに赤くない』とか言われて。
それでジュエルシードを集めているとか?」
『あの、マスター?』
「名前を変えたいから、ジュエルシードを探してたのかな?
『フェラーリ・テスタロッサになりたいんです』とかかな。
でもジュエルシードは歪んで願いを叶えるから、そんなこと願ったら、本当に車になっちゃうかも……」
なのははレイジングハートのことを無視して話を続ける。
どうやら酔いがかなり回っているらしい。
それからもブツブツとなのはは取りとめの無いことを言い続けていたが、しばらくすると静かになった。
寝入ってしまったらしい。
レイジングハートはそれを見ながら、デバイスにありえない溜息を洩らす。
そして、この駄目人間でありながらも、人を思う気持ちに間違いはない主に声を掛ける。
『おやすみなさい、マスター』
あとがき
なんかすずかがおかしい。何故だろう。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>母性本能の固まりだな、と思いました。シリアスなのに和んだ私がいる。
桃子さんの子ですから。
>最後の台詞が台無しすぎるw
>最後のセリフが色々と台無しだけどw
>でも起きあがった後の一言は締まらないと言うか飲兵衛らしいというか……。
それこそがなのはさん(32)クオリティ
>いよいよ砲撃に目覚めるのかな。
もうワンステップ置くと思います。
>翠屋裏メニューの最多利用者は某長男。
なるほど。とらハは知らないんで、そんな事情があったんですね。
>それとすごい今更ですが、アリサとすずかの旦那さんてどんな人なんでしょうね?
特にすずかの旦那さんは、夜の一族の設定ありだと色々と大変そうです。
アリサとすずかを嫁に貰うことが出来るような人格者です。
ですが、登場しても嫌われるだけなので出てきません。
>お酒の話、醸造酒である清酒と蒸留酒である泡盛では、根本的な製法が違うので比較にならないと思いますが?
ワインとブランデーどっちが美味いか、みたいなものです。
えっと、なのはさんは全部の酒を愛しているということでお願いします。
ただ焼酎が一番好きなだけで。
>つ 仮面ライダー電王
おかしいな。電王見た事無いんですけど。
どっかでそのネタ使ったss読んだからかもしれません。
>cv.鈴村健一
好きなんですね、鈴村健一さん。
>ばんっきゅっぼん?
つ魔法少女リリカルなのはStrikerS
>なのはさんが非殺傷設定を知らなかったが故の敗北だと信じたい。
あの二つは非殺傷が効きません。
>魔王らしからぬ平和的な説得のようですが・・・きっと覚醒してしまうのですねwww
どうなんでしょう。まだ決まってません。
>・R33オーテックバージョン(4ドアGT−R)
・C35ローレル改(RB26喚装済み)
・フーガ(333psバージョン)
・16系アリスト(80スープラ6速MT喚装済み)
大穴
・オペルベクトラ改(ヴォルケンリッターつながり。DTMのカリブラ並みに1万8回転オーバーなイカレポンチスペックなヤツ)
すいません。車にも詳しくないんです。
あなたの思い描く車にはやてさんは乗っています。