なのはは親友との久しぶりの再会もそこそこに、渡された村尾を開けていた。
「美味しい……」
タダ酒はとても美味しいのだということを、なのはは再確認した。
「ふふっ。あいかわらず、なのはちゃんはお酒が好きだね」
すずかが笑いながら、お盆を持って現れた。
その手にはカステラが載っている。
「はい、カステラ。福砂屋のやつ」
「ありがと、すずかちゃん」
そう言ってなのはは、一口大に小さく切られたカステラを口に入れる。
フワフワと甘い生地が、なのはの歯によって抵抗なく千切られていく。
底に付いているザラメは、僅かにひんやりとしていて、シャリシャリとした食感をなのはに与える。
なのはは洋菓子が専門なので、こういった方面はあまり作らないから新鮮だった。
ゆっくりと味わい、静かに飲み込む。
「ん~、おいしい。こういうのもいいねぇ」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
すずかがまた笑う。
そしてすずかが立ち上がり、棚から別の酒を取り出して持って来る。
「なのはちゃん、はいこれ」
「え?」
なのはがその酒瓶を受け取る。
「『梅錦』と『冬将軍』?」
「村尾の近くに、一緒に置いてあったの。梅錦は愛媛で、冬将軍は新潟の方のお酒みたいなんだけどね。
ウチは私の他もあまり飲まないから。なのはちゃんにあげるよ、それ」
「あ、ありがとう」
なのはは手渡された梅錦と冬将軍を眺める。
梅錦は清酒で、透き通った透明感がある純米吟醸酒だ。
それに対して冬将軍は濁り酒で、翠色の瓶の中に白い澱粉が沈殿している。
「飲んでみて、なのはちゃん」
「うん」
すずかに促され、なのはは冬将軍を横に置き、梅錦を開けてグラスに注ぐ。
トクトクと鮮やかな色をした、透明度の高い酒が流れ出てくる。
同時に芳醇な香りが部屋に広がる。
なのはがコクリとグラスを傾けると、冷たい酒がなのはの喉をさらさらと流れていく。
「美味しい……」
「よかった」
なのはの顔が綻ぶのを見て、すずかが我が事のように喜ぶ。
「私、お酒は苦手だけど、なのはちゃんがそうやって、美味しそうにお酒を飲むのを見るのは好きだよ」
「そう? ありがとう、って言えばいいのかな?」
「そうだよ」
「そうなの?」
なのははすずかとそう言って笑い合う。
小学生の頃とは、互いに少し変わってしまったが、それでも二人の間には和やかな空気が流れていた。
「じゃあ今度は、こっちの冬将軍の方を飲んでみようか」
そういってなのはは、もう一本へと手を伸ばす。
「お燗にしても美味しそうだね」
「じゃあそうしようか?」
なのはの呟きに、すずかがそう返す。
「そうだね。それじゃ、そうしようかな」
「じゃあ待ってて。温めて来るから」
そう言ってすずかは、冬将軍を両手で抱えて、部屋から出ていった。
なのははそれを見送りながら、脇に置かれていた村尾をもう一度手に取る。
清酒も濁り酒もいい。
ワインもシャンパンもいける。
だけどやっぱり、焼酎が一番好き。
そんな事を思いながら、なのはは村尾を傾け、口へと含む。
その時、なのはの近くに小さな子猫が近づいて来た。
すずかが出ていった扉がちゃんと閉まっていなかったのだろうか。
なのはが見たことの無い毛並みをしていたので、なのはがしばらくこない間に、新しく生まれたか、すずかが拾ってきたのだろう。
子猫は初めて見るなのはに、興味津々で近寄って来る。
「君も飲む?」
そういってなのはは村尾の注がれたお猪口を、子猫の顔の前に持って行く。
子猫は鼻を近づけて、村尾の匂いを嗅ぐ。
「フギャァッ!?」
子猫はその場から飛び跳ねて逃れ、踵を返して部屋から出ていった。
「フフフ……あの子にはまだ早いか」
なのはは微笑ましそうに子猫の姿を眺めていた。
それを見ていると、昔のことを思い出した。
珍しく士郎が晩酌をしていて、珍しく遅くまで起きていたなのはが、それを見つけたのだ。
なのはが興味を示した酒を、士郎は一口だけ、飲ませてくれた。
あの時の士郎も、こんな気持ちだったのだろうか。
なのはが飲んだのは確か……「大雪の蔵」といったか。
士郎が言うには、友達が好きだった酒だという。
他にも、「獺祭」という、当時のなのはには読めない字で書かれていた酒を、静かに飲んでいた時もあった。
興味に惹かれて飲んだのはいいが、幼かったなのはには、美味しさが分からなかった。
次の日、桃子に二人揃って怒られたのが懐かしい。
今なら分かるのにな、と悔しい思いが湧きあがる。
そういえば、初めて酒を飲んで吐き出してしまったとき、「なんでこんなのを飲むの?」となのはは聞いたことがあった。
士郎はそんななのはの様子を見て、微笑みながら「僕にも分からない」と言っていた。
いったいあれはなんだったのだろうか。
そんな、取りとめもないことを考えていた時、もう慣れてしまったあの感覚が、再びなのはを襲う。
「また? せっかくのいいお酒なんだから、静かに飲ませて欲しいんだけど……」
そんな愚痴をいいながら、なのはは立ち上がり、ジュエルシードの発動地点へと向かって歩き始めた。
あとがき
すいませんが、お酒の紹介をするのはちょっと控えて下さい。お願いします。
感想欄が酒の紹介だけになるのはどうかと思います。
どうしてもなのはさんに飲んでほしいんだ!! って思うのでしたら構いませんが、飲んでくれるか(私が書けるか)はわかりません。
なにぶん、飲んだ事も、見たこともないお酒を飲む表現を考えるのは難しいので。
つまり、そのぶん今回みたいに酒を飲んでるだけで終わり、話が進まなくなります。
ちなみにまだ私は十代ですので、お酒を飲んだことは当然ありません。
ですので、ここおかしいと思った点があれば、ご指摘よろしくお願いします。
あと、私は福砂屋のカステラと最中が大好きです。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>タクシー!?
八神さんなにやってんのwww
>はやてが運ちゃんwww
料金はタダ券でおkとかw
>ただのタクシーの運ちゃんかと思えば、はやてかよw
なんかふつーに暮らしてそうだね、はやてさん。
>はやてさんなにやってんのww(心の声:ブライト・ノア)
>まさかのはやて登場ってタクシーの運ちゃんかよ!?
>まさかタクシーの運ちゃんがはやてさんだったとは意外です。
やはり人気ですね、はやてタクシー。
以前タクシーが超重要な伏線なんだろとか言われたんで絡めてみました。
>ところで、有頂天って怒りを表すときに使いましたっけ?
ブロントさん名言集でググって下さい。
>きっと見てて引くんだろうね、魔法使うおばs
箱入りのフェイトは、すぐ傍であんな派手な格好したおばさんを見てるので大丈夫です。
>しかし、これだとなのはさんはペトリュスあたりも隠し持っていそうな予感。
2000年もののボルドーなんてケース買いしてそう。
私にもちょっと分けてください。
全部砕け散って瓦礫の下です。
>作者の代わりに説明してみた。
代わりに説明していただけたのは嬉しいんですが、コメントへのコメントは荒れる原因になるので控えて下さい。
私としては、こういう互いに教え合うようなコメントは好きで、出来れば了承したいところです。
ですが、ここの場所を借りて投稿させてもらっている以上、ここの規約には従わなければいけませんので。
>つか、今までバーターで乗っていたのかww
後付けですけど、こんな感じでなんとかやってます。
ケーキって高いのだと一切れ三、四百円ぐらいしますが、タクシーは近場だと五、六百円ほどで済みます。
なのはさんは売り上げは二の次でやっているので、なのはがタクシーにお金を払って、はやてが普通にケーキを買うより、
こっちの方がはやてが得してます。
>なんかはやてのタクシーって某映画みたいな改造されてて庭園に突っ込んで来そうだ
個人タクシーですから、そんな改造をされてても納得出来ます。
しかし、描写が出来ないのでおそらく出てきません。
>実は既婚で子供も居たけど、夫と子供に先立たれて上に、
両親も亡くなって居る天涯孤独の身なのかと思ってしまったって言われても驚きません。
なにその超設定。
私に使えるんでしょうかそれは。
難しいと思います。