場に気まずい空気が流れる。
「と、とりあえず! 話を戻しましょうか!」
ユーノがその気まずい空気を吹き飛ばそうと、無駄に陽気な声で皆に話しかける。
「……うん、そうだね」
なのはが俯いて暗い声を出しながら賛成する。
その様子にユーノはさらに冷や汗を流す。
「でも、もうだいぶ魔法のことは分かったと思うけど、まだ何かあるの?」
「あ、はい。といっても、あとは射撃魔法と砲撃魔法くらいですけど……」
「え? それってどこか違うの? 同じに聞こえるんだけど」
なのはが首を傾げる。
ユーノがそれに答える。
「射撃魔法は魔力を弾にして撃ちだす魔法です。
同時複数射撃、誘導による曲射、連射といった色々な効果を付け加えることが出来ます。
しかし、一発一発の威力は低いです。
これに対して、砲撃魔法は魔力をそのまま放出する魔法です。
こちらは一撃の威力は高いんですが、射撃魔法に比べて誘導などの付加効果を付けるのが難しいので、ほとんどが真っ直ぐ進みます」
「一長一短ってことかな?」
「そうですね」
そこまで話したところで、ユーノは一息つく。
「これで大体の魔法の説明はしたと思います。
僕達の使う魔法は遠・中・近距離全てに対応出来ますが、近距離で戦おうとする人はほとんどいません。
遠くから攻撃出来るのなら、そちらの方が安全ですからね。
あとは周囲に被害を与えない為の結界や、僕が今使ってるトランスフォームくらいですが……」
「えっ? ユーノ君ってフェレットじゃなかったの!?」
美由希の驚く声が上がる。
「え? ええ。僕は今魔力を節約するためにこの姿を取っているだけなので、本来は人間です。
ですが、これを使っている人は、僕達一族以外ではあまりいません。
この魔法は、僕達みたいに遺跡発掘などで狭い所を探索する以外では、ほぼ役に立ちません。
魔力の節約という意味では有用性はありますが、適性がある人も少ないので、使える人はほとんどいませんから」
「なんだ。通りでフェレットにしては頭が良すぎると思ったよ。人間だったんだね」
「はい。というか、なのはさんには以前、僕が人間であることはお伝えしたと思いますが……」
「え? そ、そうだったっけ……?」
「はい」
美由希と同じように驚いていたなのはが、ユーノの指摘にタラッと汗を流す。
話を聞いたときに、二日酔いで苦しんでいて「どうでもいいや……」と切り捨てたなのは。
今のなのはの頭には、そんなことを聞いた覚えなど無く、幾ら思いだそうとしても頭には出てこない。
「ま、まあそれは置いておいて。もうそろそろ私、仕事に行かなきゃ!」
そういってなのはは立ち上がり、足早に家を出ていった。
「行ってきま~す!」
「……逃げた」
後に残された美由希がポツリと呟く。
ユーノはなのはが何故そんなことをしたのか分からず、釈然としない声で美由希に尋ねる。
「あの、どうしてなのはさんは逃げたんでしょう?」
「さあね。ちょっと前のことなのに、思い出せなかったから、老いでも実感したんじゃない?」
「はあ……」
それでもユーノはまだ納得出来ないようだ。
そうしていると、後ろから声が聞こえてきた。
「そういえば桃子さん。この間言ってた小じわ、消えてないかな?」
「あら? 本当だわ」
そんな、いちゃつく声が聞こえたという。
美由希がそれを聞いて、どんな反応をしたかは、誰にも分からない。
なのはは翠屋二号店まで来ていた。
仕事に行く、というのはあの場から逃げる為の方便だったのだが、それでも仕事が無い訳ではない。
そもそもなのはの道楽でやっている店なのだから、開けるも閉めるもなのはの裁量次第でどうとでも出来る。
ちゃんと売り上げは上げているし、商品の味を落としている訳でもない。新商品の開発も行っている。
本店の翠屋ではなく、なのはがやっている小さな店だからこそ、出来ることもまたあるのだ。
「レイジングハート、だいぶ上手になったね」
『ありがとうございます』
なのははバリアジャケットを展開し、レイジングハートでクリームを混ぜていた。
そもそもが翠屋の制服をバリアジャケットに設定したのだから、そのままで店に立てるのだ。
「最初は回転が強すぎて、ボウルの中のクリーム全部吹き飛ばしちゃってたからね」
『すいません』
「気にしなくていいよ。誰だって最初は失敗するものだからね……」
こうしてレイジングハートが張り切り過ぎてクリームが服についても、バリアジャケットだから展開し直せば元通りになる。
バリアジャケットだから着替えや洗う手間が省ける。
混ぜ終わったら、レイジングハートを待機状態に戻せば、泡立て器に付いてしまったクリームを落として全て使いきることも出来る。
まさに一石二鳥にも、一石三鳥にもなる、なのはにしか出来ない裏技なのだ。
「レイジングハートも、こういう仕事の方がいいよね? 荒事なんかより、こっちの方が人を幸せに出来るもの」
『私はどちらでも構いません』
「そう? じゃあ今度は麺棒にでもなってみる?」
『そうですね……』
そんな会話をしながら、なのははケーキを焼き上げ、クリームを塗っていく。
甘い香りが、小さな店内に満ちていく。
それが店から漏れ出し、近所の若奥様達を引き寄せるのだ。
なのはが特に宣伝などしていなくとも、口コミで客は引き寄せられる。
それが美味しいのなら、リピーターもまた増えていく。
なのはの店は小さいのだから、良く注意して見なければわからない場所にある。
けれど。
雑誌などに載らなくても、なのはの作るお菓子を美味しいと言ってくれる人がいる。
そしてそれを眺める自分がいる。
それでいいのだ。
これが高町なのはの日常。
これこそが高町なのはの幸せ。
だがその幸せは、思いも寄らないことで、容易く崩れ去ってしまう。
なのはは昼休憩を取っていた。
一人で厨房の仕事を全てやっているのだから、こうして休憩を取らなければ、なのはは直ぐに倒れてしまう。
「あ~、疲れた~」
ふう、と溜息を洩らす。
だが、その疲れは心地の良い疲れであり、全力疾走したり、階段を全力で登ったりした時の疲れとはまた違う。
「お酒飲みたいな……」
だがまだ勤務時間内である。
さすがに、酔っ払った状態で店を開こうなどとは思えない。
ここは我慢して、家に帰ってからゆっくりと飲むのが一番なのだ。
立ち上がり、さて始めるかと思ったとき、
「……っ!?」
ジュエルシードの反応がなのはを襲った。
慌てて店の外へ出て、ジュエルシードの反応を探る。
『なのはさん!』
頭の中にここにいないはずのユーノの声が響く。
これが念話というものだろう。
耳に手を当て、ユーノの念話に集中する。
「聞こえてるよ、ユーノ君」
『よかった。分かっているかと思いますが、ジュエルシードが発動しました』
「うん、私もわかったよ。しかもこれ、移動してる」
こうして話している間にも、ジュエルシードは移動を続けている。
『移動速度はそれほど速くありません。もしかして人が持っているのかも……』
「おそらく、そうだろうね」
『だとしたら危険です。
子犬の単純な、漠然とした願いですらあんなことになったんです。
強い思いを持った者が、願いを込めて発動させたとき、ジュエルシードは一番強い力を発揮します。
それが人間ならば、一体どれほどの事態になるか……』
最悪の事態を思い描いたのか、ユーノが身震いするのが感じられた。
なのははジュエルシードの反応を確かめていると、それが一点で止まった。
「……止まった?」
何故か、今まで止まらずに移動を続けていたジュエルシードは、とある場所で動かなくなった。
「信号にでも捕まったのかな。まあいいや、タクシー……っ!?」
手を上げ、タクシーを呼ぼうとしたところで、なのはの身体に今まで以上の悪寒が走った。
待機状態にして、首から下げていたレイジングハートを、泡立て器に展開し、握り締める。
『発動しました!』
ユーノの声が聞こえると同時に、地震が発生する。
「きゃっ!」
そのあまりの揺れの激しさに、なのはは立っていることが出来ず、思わずその場に片膝をついて目を瞑り、なんとかやり過ごそうとする。
それと同時に、地面からコンクリートを突き破って、植物の根がなのはに襲いかかって来た。
『Protection』
レイジングハートがなのはの魔力を使用して、その植物を弾き返す。
襲いかかった植物は、なのはを狙っていたわけではないらしく、弾かれた後は別の方へと根を伸ばして行った。
そのままレイジングハートは、なのはをプロテクションで守り続けた。
辺りが植物に蹂躙されていく。
なのはの耳に、家が、道路が、悲鳴を上げているのが聞こえる。
やがて、地震が収まり、なんとかなのはが立てるようになった頃。
なのはが目を開けると、そこは既になのはの知っている海鳴の街ではなかった。
辺りを植物に侵食され、道路は滅茶苦茶になり、もう車が走れるようにはなっていなかった。
家々にも植物は巻きついており、中にはもう建て直さなければいけないような家もあった。
そしてなのはが目を後ろへ向けたとき、
「あ……ああ……」
なのはは再び、その場に膝をついた。
「お店が……」
泡立て器の形をしたレイジングハートが、その手から離れ、カシャンと音を立てて零れ落ちた。
「私の……」
茫然とした表情で、なのはは声を漏らす。
「翠屋が……」
なのはの視界の先には、ジュエルシードが生み出した植物によって、見るも無惨に破壊された翠屋の姿があった。
あとがき
ついに魔法の説明編が終わって次が大樹編です。
サクッと終わらせたいですね。
気になったレス返しです。
前回忘れていたので、それも一緒にします。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>.無印放送時、主人公達じゃなくリンディさんや桃子さんなど人妻や未亡人を熱心に見てたのは内緒だぜwww
同士よ。
>しかしここのなのはさんは、かなり好みです。出来過ぎたガキよりダメな大人の方が好みなのですよ、このダメ人間は。
私も生意気な糞餓鬼よりこっちのほうが好きです。
>そんな私好みのなのはさんが、泥のように酔いつぶれるところが見たかったり。つか嫁に欲しい。
You書いちゃいなyo!
>魔法で老化を防止が迷信どころか体現してる人々が何人もいるような
気にしちゃいけません。
>こんな気軽にタクシーに乗れるなのはさんは店の常連にタクシーの運転手がいて、券をくれてたり・・・
どうなんでしょうね、本当にww
>・・・なんてマダオ(まるで、ダメな、おb(SLB
マダオは……お好きですか?
>エプロンはともかく、泡立て器はいい加減変えたげて…
レイハさん可哀そうです…
レイハさんもそれなりに気に入ってます。
張り切ってなのはをクリーム塗れにするくらいには。
>魔法少女リリカルももこ 始まり・・・ませんでしたorz|||
始まらせません。
>この話のなのはさん(32)は血縁者かもしれないフラグがwww
あくまで「かもしれない」といった程度です。
>ユーノが考古学者らしく言っているけど、よく分からんと匙を投げているだけにも見える。
その通りです。
桃子が若い、しかも魔力持ってる→桃子は違うと言っている→なら先祖に回復魔法を極めた人がいたんじゃね?
→しかし現在の技術じゃ無理→アルハザードなら出来るんじゃね?
そんな考え方です。
そもそも、たったあれだけで真相が分かる筈無いです。
>今更ですが、まだプレシアって御存命?
地球組以外は原作通りの年齢なので、血を吐きながらもまだ生きています。
>桃子を変身させて士郎は何をしたかったのか──
ナニに決まってr
>桃子さんの若作りの技術は魔法レベルなんだね!
そうかもしれません。
>あと、このままだとA's編って無理じゃね?
無理だと思います。
>ってことはstsまで続かないんじゃ…
私もそう思います。