なんやかんやといろいろありはしたものの、俺がようやく六課での生活サイクルを形成し終え、それに身を任せるようになり始めたころ、新人たちが初任務に出向く運びとなった。
俄かに慌ただしくなる六課の中で、俺だけは特にやることもなかろうと焦ることもなく書類まとめてたわけなのだが、なぜだか知らんがこの任務に高町やツヴァイとともに同行してくれるよう頼まれた。
こんな錚々たるメンバーが出向くのになぜにわざわざ私まで行かなければならんのですかと通信で出先の八神に聞いてみると、なんか俺が六課に来たせいで高町のリミッターランクが一段階上がってしまったので保険をかけたいのだそうだ。
要するに今現在高町の魔力量は俺と同じAランク。新人の援護をするのには問題なかろうが、ちょっと心配なので様子見についていってほしいのだとか。
と言うかこんな所でもそんな弊害発生してたんですね。だから俺なんか呼ばなけりゃ万事問題無く事が進んだでしょうに……とか嫌味言ったら「せやね、ごめん」とか素直に謝罪してきて鳥肌立った。
そこにいつもの不敵な笑みはなくて、本気で謝っているのが分かったから。
……さすがに俺も、こういう風に謝られると文句言ってるのがどうかと思えてくる。
そんなわけで俺の横でなぜかちょっと嬉しそうな表情浮かべてた高町と「ニヤニヤしないでください、これから任務なのですから態度を引き締めていただかないと困ります」「あ、はい。ごめんなさい」てな感じの八つ当たりっぽい会話繰り広げてから共に移送用のヘリに乗り込んだら先に乗り込んでたティア嬢にむっさ微妙な視線向けられた。
なんかよく分からんのだけど、三日ほど前から会うたびにこの調子なのだ。しかもこちらには何かした覚えがないだけにどうすればいいのかもわからず、俺に剣呑な視線を寄越す割には毎朝の俺の訓練には他の奴らと一緒に顔を出しているのでマジで疲れる。
一回この件についてスバ公に、なんでやと思う?とか八神風の言葉づかいで質問してみたのだが、返答の内容は芳しくなかった。スバ公もいきなりティア嬢がピリピリし始めたのでちょっとどうすればいいのか困っているらしい。
日常では普通にしているのに、セイゴさんが近くに来ると様子が変になるんだー、とか言われたんだがそれ俺嫌われてんじゃね?
まあ俺の態度とか嫌いな人は嫌いだろうしそれならそれで仕方ないんだけど、俺の中のティア嬢のイメージってどちらかと言うと嫌いな奴にはあんた嫌いだから近寄んなとか平気で言いそうな気がするんだけどそうでもないのかね。
まあこの問題もとりあえず保留。今は任務に集中ですよっと。
そんなわけで今回の任務に俺もついていくことを高町がフォワード陣に説明。するとエリ坊が目を輝かせた。
こいつにもこの数日ですっかり懐かれたものである。体力作り他いろいろと面倒見てるせいかなんか俺のこと年の離れた兄貴みたいに思ってくれてるらしい。
それはわりと光栄だと思うんだが、こっちでの新居が決まるまで彼の部屋にあがりこんでいる関係上、毎晩のようにベッドで一緒に寝ようとか言われるのが結構辛い。
これも別に一緒に寝てやってもいいんだがここで一緒に寝たら何か負けな気がする。お前それ下らんプライドじゃんと言われればまさにその通りです。
しかし男って下らんプライド守ってなんぼだと思うんだ。そりゃ切り捨てるときはばっさり切り捨てますが。
そんなこと考えてると高町が任務先での心構えを新人共に説き始めてた。その姿はまるで先生のようで────って、ああそうか。こないだからこいつに感じてた違和感ってそれか。
普段俺に見せる態度が態度なだけに、こいつが余所行きの様子で公私分けてると「おー」と思ってしまうというわけだ。
しかしこれ、微妙に意思疎通はかれなくなりそうな気がするんだが俺の気のせいだろうか。教師と生徒の間にある溝って、昔っからいい結果を生みださない気がする。教師の抱く心配は、生徒にとっては鬱陶しかったりするしねー。
まあそんなこと俺が気にしても仕方ないので、話を続けてる高町に背を向けて運転席の方へと向かう。
そこには俺よりちょびっと年上くさい男性の姿が。
どうも、誠吾・プレマシー准空尉です。今日は命お預けしますねと自己紹介すると。
「了解です。こっちはヴァイス・グランセニック陸曹。どうぞよろしく」
と言われたのでとりあえず右手出して握手。適当に話してたらやっぱり俺より年上。24歳。仲良くなれそうな気持ちのいい人だったので、今度飯行きましょう飯、もちろん無礼講で。とか言ったら、お、いいっすね!とか言ってくれたのでもっと親交深めようと思う。
ヴァイスさんの操縦するヘリで目的の列車まで到着。
高町の新人共への再度の説教が終わると、そのご本人がじゃあ行こうかとこっちに言いだしてきたので拒否をした。
「え、なんで? 一緒に行った方が効率いいでしょ?」
「この任務の主役はここの新人たちですし。今回の俺の役目はあなたのとりこぼしのフォローですから。見通しのいいここから誘導弾を打っていたほうが効率がいいです」
とか言ったら高町以外全員目を丸くして「ここから!?」とか驚いてたのでちょっと俺もビビる。
ああそうか。こいつら俺のデバイスの性能知らないままだったか。しかしまあ、ひけらかすのもめんどい。大体あのデバイスとか、そもそもこいつらにはあんまり見せたくない。
「まあとにかく、あなたのとりこぼしとか新人たちの援護とか俺が何とかしますから、どうぞ遠慮なく暴れ回ってきてください」
とか言ってごまかしながら高町の背を押す。高町はそれに微妙な表情をしながらも仕方がないとヘリから飛び降りた。
ひゅるるるるるーと落下しながらデバイス起動してバリアジャケット着て、それから飛行魔法使って空飛んでガジェットの密集地帯へと向かう高町。
途中でフェイトさんと合流して空飛ぶガジェットどもを一掃していった。あれなら俺いらんでしょ。
そんなこと思ってるうちにツヴァイが任務内容の再確認を終え新人共も出動の運びに。とりあえず俺も頑張れよーとか落ち着いていけーとか声掛けて送り出す。
……相変わらずティア嬢の視線が微妙すぎて泣きそうだ。エリ坊とキャロ嬢の素直な反応がマジで俺の心のオアシス。
で、あいつらも飛び降りて落下中に変身。……ていうか何で変身してから飛び降りないんだろうね。効率悪くない? つか危なくない? 下からの攻撃とかさ、警戒してしかるべきじゃね? とか思うので後で高町に聞いてみよう。
てかいつの間にあいつらデバイスもらったんだろ。あれ多分シャーリーの新作だよね。
とか思うけどまあいいや。……俺も一応デバイス起動。
「ファントムガンナー、セットアップ」
始動キー口にすると俺が首から下げてた翡翠色の宝石が適当に輝いてから二つの武器を形作る。
左腰に鞘付きの、尤もカートリッジ機能つけてあるから不自然に刀身が変形している刀が、右肩にホルダーごと提げた無骨な黒の装飾銃が。
もちろんバリアジャケットも勝手に展開。色は灰を基調にしてところどころに青とか散らされてるやつ。上にロングコートも装備。前は開いてあるので結構楽。
それらすべての作業の際、ちょっとリンカーコアに痛みが走るが、まあいつものことである。
それはともかく、
『ふ、ふはははっははははっは! ようやく私の出番かマスター! 今回の起動は何日ぶりかな私はもう二度と起動されないのではないかと肝を冷やしたこの数日間以前はもっと頻繁に私を必要としてくれたというのに何だ最近のこの体たらくはもっと私を使えもっと私をしゃべらせろもっと私を活躍させろおおおおおおおっ!』C.V福山潤
…………うぜえ。
てか起動自体は昨日の晩もしたじゃんか痴呆ですかこのデバイス。確かに刀振り回してただけだからお前の出番なかったけどそんくらいカウントしとけと言いたい。
と言う気持ちを込めつつ低いトーンで言った。
「……うっせーんだよこのクソデバイスもう少し静かにしろ」
『出来るわけがないだろうこの私を常時喋っていなければ退屈して死んでしまうような体にしてくれたのは誰だと思っているのかねこの鬼畜外道!』
「俺ですけど体って何? この指で挟んで全力で力入れたらあっという間に砕け散りそうな安っぽい宝石のこと言ってんの? いやないでしょ、お前とか普通に宝石砕けて死んでもターミネーターのごとく復活するだろどうせ」
『そんな仕様は私にはない! だからやるなよ、絶っっっっ対にやるなよ!』
「振りか」
『すんません調子乗りましたマジでやめてください!』
とりあえず宝石摘んだら謝罪したので許してやることにする。で、そんなやり取りをしてる俺たちにヴァイスさんが一言。
「……ず、随分と個性的なデバイスっすね」
「……騒がしくてすみません。あまり気にしないでください」
俺が頭下げると気を遣ってくれたのか話題を変えてくれた。
「それにしてもそのジャケット、なんか……」
ただしその話題も地雷です。
「……言わなくてもいいです。……数年ほど前に、高町さんに無理矢理デザイン変えられまして、なぜかあの人のと男女のペアみたいなお揃いに……。戻そうかとも思ったんですが、そこの部分だけパスワードかかってて変更不可なんです……」
これ俺のデバイスなのにね。……なんでだろう、涙でてきそう。
と、テンション駄々下がりになってきたところでシャーリーから連絡。高町たちとは別の方向から数機のガジェットが接近してきているそうなので援護してくださいとのこと。
開けっぱなしのヘリのドアへと近付き、身を乗り出して左手で装飾銃を構える。
高町の方は気にする必要も無さそうなので列車の方を視認。
と、高町たちが向かった方とは関係の無い方向から、八機ほどのガジェットが列車に近付いていっている。あんな空中系の敵にこのまま接敵されると、ティア嬢やキャロ嬢はともかくスバ公とかエリ坊とかがきつい。足場悪いし。
……リミッターもかかってるし、カートリッジケチるとこの距離じゃちょっと心許無いか。
「ファントム、カートリッジフルロード」
『ふはははは了解した! カートリッジフルロード!』
ファントムのウザい復唱とともに、装飾銃に装填されていた六発のカートリッジがすべてロードされ、空薬莢が排出される。
視界の端でヴァイスさんがその様子を目を剥いて見ていた。まあ、こんなこと普通の……と言うか、まともな人はしないよね。
俺はそれを黙殺し、列車の上にいる新人共全員に連絡。
爆風で吹き飛ばされるなよと警告してから、照準を定めた。
「ファントム、誘導任せる────ヴァリアブル・シュート」
『ガイドバレット! ふはははは撃っていいのは!?』
「────…撃たれる覚悟のあるやつだけだー」
なんとも間抜けな掛け合いとともに引き金を引くと、リンカーコアの疼きとともに俺の構えた装飾銃から八発の誘導弾が発射。
それらは結構な距離を飛んでから高速で列車へと近づく八体のガジェットを悉く打ち抜き、爆散させた。
それを確認すると、俺は集中を解いて息を吐きだした。
……と、
「あ、あんた……ほとんど狙撃手並の腕前じゃないか……」
マジで驚くヴァイスさん。MOVである。下らない話はさておき、説明タイム。
「これ俺の実力じゃないっすから。このそっち方面だけは優秀なデバイスが勝手にやってるだけ。現在座標と目標座標から逆算して最短ルートを決定、あとはそれに添った威力の弾丸を俺が撃つだけ。なので魔法弾の制御も簡単」
『ま、マスターが私を……この私を褒めただと……っ!? う、嬉しくなんてないんだからねっ!』
「……うわあ」
マジでキモイので止めて欲しい。まあそれはともかく、これで俺の出番は終了だろう。あとはじっくりあいつらの雄姿を観戦していようと思う。
あのあと、一応周囲を警戒しつつ戦闘を観戦してたら、男の子的なプライドっぽい物で無理したエリ坊が車両から振り落とされて崖下に真っ逆さまなピンチに陥ってそれからフリードが超大きくなって背中にキャロ嬢乗せてエリ坊助けてた。
あれが成長期から成熟期への進化ですねわかります。デジヴァイスはどこだ。
というか件のひも君はデジモンだったのか。これは驚き。
このままいくときっと完全体に超進化したり、究極体にワープ進化したりするんだろうな。
なんかちょっと楽しみだわー、いや冗談抜きで。
でも冗談抜きで心臓に悪かったよねあれ。流石に俺もヘリから飛び出そうかと思ったくらいにはさ。
まあ飛び出したところで距離的にどうせ間に合わなかっただろうし、あの車両の上の新型ガジェットがあの上余計なことしないように牽制のヴァリアブル・シュート撃ってたから無理だったけどさ。
こんなことなら最初からあいつらの方へでもついて行った方が良かっただろうか。まあ、こんなこと今ここで考えた所で今更な話なのだが。
それから車両に戻ったエリ坊が敵の親玉っぽいガジェット仕留めて任務は終了。
結局俺あんま役に立たなかったけど、ま、いいか。
介入結果その十 エリオ・モンディアルの決意
セイゴのおこなった、誘導弾による驚異的な狙撃。その模様は、僕を含めフォワード陣の全員が唖然として見ていた。
列車に乗り込んでからしばらくして、シャーリーさんから後方に警戒してくれと言う連絡が来た。
それからすぐにセイゴから来た連絡。その内容は、
『おーい、後ろにいるガジェット吹っ飛ばすから、爆風で車両から落っこちんなよー』
と言うものだった。
僕は戸惑いながらも機関部へと向けて駆けていた足を止め、列車の後方を見た。
そこにはどこからかやってきたガジェットの姿が八体。
こちらへと向かってくるその敵の姿に内心焦りを覚え────そして次の瞬間には、その焦りは消え失せていた。
なぜならその敵を、さらにその背後から来た灰色の魔力光が貫いてしまったから。
僕の知らない魔力光。その攻撃は間違いなく、セイゴの一撃。
周囲にある山の関係か、僕たちの乗ってきていたヘリは列車からはかなり離れた場所にあった。
なのにセイゴは、そんな距離のことなどなんでもないかのように八体のガジェットを破壊してしまった。
胸の奥から震えが来た。
僕も彼のように強くなりたい。
彼と共に戦場を駆けたい。
そう思ったから、とにかく今は目の前の任務を精いっぱいやろう。そう思えた。
結果、少し失敗してキャロ達に迷惑をかけてしまったけど、セイゴに無理して何やってんだ馬鹿と怒られてしまったけど、僕はもっと頑張りたいと、自然とそう思えていた。
……けど、隊舎に戻ってから見たティアナさんの思いつめたような表情が、どこか僕を不安にさせていた。
2009年6月26日 投稿
2010年9月27日 改稿
2011年8月16日 再改稿
2013年6月2日 再々改稿
2015年3月16日 再々々改稿