とりあえず、済ますべきことは済ませたと思うので、今日の目的は達したと思う。
俺の方から起こせるアクションはあんなものだっただろう。
件の掲示板はこれから暇があったら見たらいいんでないでしょうかとアドレスは渡しておいたので、後は好きにしてくれればいいと思う。
もともとあの掲示板は、俺が自分の噂話が立ったりしていないかと調べるために時々使っていたもので、管理局員がいろいろと仕事の愚痴を書き込んでたりしてた場所だ。
あまり認めたくないけど、俺も結構悪目立ちはするほうだったので、名前が挙がったこともそれなりの回数あった。
それがこんなところで役に立つとは思っていなかったんだけど。
別に、あそこに書かれていることが全てというわけでもない。中には六課に肯定的な意見だってあったし、良くも悪くも誰が書いているのか分からない以上、思ってもないようなことを書く奴だってもちろんいる。
ただ、悪意を知っていて無視するのと、知らないで見過ごすのとでは全然違うと個人的には思う。とかいろいろ言ってるけど単純な話、下の意見もぜひ知っておいて欲しいってだけな下の人間の願い。
しかし、しばらくは仲直りって感じでもない感じ。昔っから八神にはいろいろと苦汁を舐めさせられてきてるし、簡単には割り切っていけそうにはなかった。
とか考えながらオフィスで書類仕事。
グリフィス准尉が今朝俺に渡していった書類片付けてると、ロングアーチの女子二人組が絡んできたので適当に挨拶して自己紹介。それからまた仕事。
しかし無駄に物量が多いのはやっぱどこの課も同じだな。あそこよりは少ないけど。
新設の課ってのもあるのかもなーとか思いつつそんな感じで昼頃まで過ごしてたんだが、飯食って書類整理午後の部始めようとしたらなんでか知らんが人づてにフェイトさんに取り調べ室に呼び出された。
なんでだろう。もしかして俺に取り調べやれとかそう言うあれだろうか。
別にやってもいいけど俺の話術とか基本的に堅気さん以外には通用しないのでやめた方がいいと思います。
なんか犯罪者さん各位の皆さんは、俺が何喋っても自分を馬鹿にしていると思う自意識過剰でシャイなあんちくしょうが多いんだよね。
とか不毛なこと考えてたけど多分普通に調書書く役に抜擢されただけだろうね。何で俺になのかはわからないが、面倒な相手じゃないといいけど、時間かかると俺残業ルート確定だし。
とか考えて取り調べ室入ったと思ったらいつの間にか椅子に座らされてフェイトさんと向き合っていた。
何が起きたか分からなかった。
催眠術だとか拘束術だとかそんなちゃちなもんじゃ断じてねえ。
もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ……。
とかかっこつけてみたのはいいが、オチは泣きそうな表情のフェイトさんに押し切られ、俺が犯人が座る用の椅子に座らされただけだったりする。
……なぜだ。俺がいつどんな犯罪を犯したというのだ……。
……は! まさか以前に「テスタロッサ・ハラオウンって略すとT・Hか。……某ギャルゲしか思い浮かばんな」「To Heartですね、わかります」とか友人どもとふざけてたのがバレたというのか!?
て、んなわけねーよ。もしそうなら真っ先に高町とかが抗議に来る。
じゃあなにこの状況。いやちょっと待て落ち着いてよく考えろ俺れれれ冷静になれこれってもしかして。
俺は准尉→この人一尉扱いの執務官→つまり上司の呼出→俺の転属理由って理不尽→進路相談
…………女上司の個人面談……だと……?
とか思ってわなわなしてたら、「昨日、なのはと何かあったの!?」と必死な表情で聞かれた。
「は?」
とか思って話を聞くと、彼女高町と同室なもんだから昨日六課を出た時は落ち込んでたのに部屋戻ったら笑顔満開で何事かと思ったんだとか。
で、今朝から俺のことちょくちょく観察してたんだが、特に昨日と変わったところを見つけられなかったので呼び出してみたんだとか。
別に隠すことでもないので昨日から今朝にかけてあったことをさらっとおさらいしてみた。
そしたら、
「じゃあ、なのはともはやてとも仲直りしたんだね」
「その発想はなかった」
「えぇっ!?」
何を驚くことがありましょうか。
確かにプライベートのあの二人と話はしたのだけれど、許したとかそういう話では無かったと思う。
いやそれは別にいいんだが、高町はともかく八神の方には仕事中に下げる頭はないとまで言われてしまっているわけで。
だからこれからその辺のことチクチクつついて行こうと思うんだ、とか言ったらちょっと悲しそうな顔をされた。
でもそんな顔をされても、こればっかりは俺だってちょっと譲りたくない、
俺のターンが終了したら今度はフェイトさんのターン。
今回の事件は八神と愉快な守護騎士一部の独断であって、高町やこの人はその日の朝まで俺の異動のこと知らなかったんだとか話してくれた。
やっぱり経緯はそういうことかーって納得の気持ちと、けど、この積極的に高町をかばってるのが分かる感じって正直どうよと思う気持ちがある。
諸警察機関において身内の発言は証拠能力持たない理由はこの辺にあるのだろうね。
大体高町だってそれなりの役職ついてるんだからもうちょいマインドコントロールとかポーカーフェイスとか身につけるべき。少なくとも身内騙せるレベルの。
八神を例にあげよう。あの面の厚さをどこで身につけたのかは知らんが、社会の荒波にもまれて十数年の俺もあんなんなかなか見かけなかった。
昨日勝てたのは状況と運が俺向きだったってだけ。
で、一通り話も終わったら今度はエリ坊たちのこと聞かれた。ちなみにこの時点だけは敬語やめてます。こんな場所でくらいはいいかなと思ったので。
で、この人エリ坊とキャロ嬢の保護責任者なんだって。
19で10の二人の子持ち……ゴクリ。とか思ったけどもちろん口には出さない。なんかいろいろあるんだべ。
昨日泊まるところがなかったのでエリ坊の部屋の床貸してもらったとか話したら驚いてた。
そういえば部屋のこと八神に聞いたら、元からエリオの所に共同で住まわせる気だったらしい。が、俺としては寮とか嫌だなーとか思う感じなので借りてるだけ的認識。
なので今夜も借りるって話になってると言ったら羨ましそうな表情して、
「いいなーエリオとお泊り、私も一緒しちゃだめかな?」
「ない。絶対ない。つーかあんた年頃の娘が知り合いってだけの男がいる部屋に上がり込むっておかしいでしょ普通に」
とか言ったら、べ、別にセイゴなら大丈夫だよ……とか言っていたのは嬉しめばいいのか悲しめばいいのか。
とにかくそろそろ戻んないと残業になるからと言って部屋を後にした。
最後まで羨ましそうだったことについてはなんかきっちり話し合わなきゃいかんのかなーと思ったりしてた。
書類整理は終えてたので定時でタイムカードきったら背後に気配を感じて飛びのいた。
そこにはなぜかまた暗いオーラを纏った高町がいた。後ろには走ってこっちに追いついてきたらしいティア嬢とスバ公たちがいる。
「……ど、どうしましたか高町さん」
「……ちょっとここじゃちゃんと話せないから、とりあえず隊舎を出ようか」
とか言って手を取られた。まだ仕事の残ってたグリフィス君とかに助けを求める視線を送ってみたけど逸らされた。裏切り者!
心の中で三回目のドナドナを歌い始めたあたりで隊舎の外へ連れ出された。
で、
「せーくん! わたしにも愛称つけて!」
わけのわからんこと口走りだしたから、とりあえず額を小突く態勢を作ったら手で頭をかばう態勢を作られた。昨日の経験が光る。
「何で今さら愛称の話題ですか。面倒くさい」
「だって、スバルたちにはつけてあげたって聞いたよ! なら、わたしにも!」
面倒なことになったなーとか思いつつ近くで気まずそうにしてるスバ公たちを睨む。全員目を逸らした。
つーか呼び名の件については8年前に決着ついたじゃないか。それを今さら蒸し返されても困る。
「どうしてもつけて欲しいか?」
「うん」
「どうしても?」
「どうしてもっ」
「だが断る」
どうしてもつけて欲しければ実力行使で来るといいよ、ただし素手でな!
とか言ったらマジで「にゃああ!」とか言いながら突っ込んで来たので右手とって「そぉい!」と一本背負いした。
しかしそこは流石高町、きっちり受け身とってた。
高町とはこれまでもいろいろあったので、魔法無しの肉体魔力強化のみのじゃれあいならなんとかやれるレベル。
まあ死ぬほど頑張ってこのレベルまで引き上げたんだけども。
ちなみに言っとくと俺と高町が二人して本気になったら俺が確実に負ける。勝てるわけ無い。
「うー……。せーくんが酷いよぅ」
「酷いのはお前の暴走っぷりだ。見ろ、新人四人組がお主の醜態を見て驚愕しているぞ」
「え」
驚きとともに高町がそちらを見る。
全員唖然茫然しとる。
高町は慌てて体裁整えて彼女らのフォローへ。
本当に意味のわからんことで暴走するよね。いつもはもっと聡明なくせに。
なにはともあれ高町の憧れの上司フィルターが一枚剥がれた。やったね!
とか思ってたらまたこっち来たのでとりあえずグチグチ愚痴ってみた。
「つーかね、昨日の今日でこのテンションははしゃぎ過ぎだと思うのですけどどう思う?」
「ご、ごめんなさい」
本当、もっと落ち着いてほしい。わりと切実な願い。
介入結果その七 スバル・ナカジマとティアナ・ランスターとエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエの驚愕
「「「「ありえないと思った」」」」
2009年6月20日 投稿
2010年8月23日 改稿
2011年8月16日 再改稿
2013年6月1日 再々改稿
2015年3月16日 再々々改稿