side:なのは
どうしてこんなことになったんだっけ。
そんな事を、目の前の状況を飲み込みきれない頭で考えていた。
「……あんた、なに。僕になんか用?」
「え……?」
そんなわたしの意識を呼び戻したのは、隣でわたしを見上げる、少し不機嫌そうな表情を浮かべる小さな男の子。
なにがなんだか、本当に分からなかった。
周りの状況に何とか意識を向けて、ここがおそらくどこかの病院の敷地で、わたしはその中庭のようなところで、いきなり件の男の子とベンチで隣り合わせになっている。って、そこまでを頭の中で確認。
けれど、自分の中の最後の記憶と、ここで座っている今までの経緯が、上手く繋がらない。
と、そこで隣の男の子がすごく警戒した表情でわたしを見ていることにようやく気が付いて、慌てる。
「あ、ごめんね! わたしは、高町なのは。キ、ミは……?」
「……なに?」
勢いで話しかけて、その時にようやく男の子の顔をちゃんと見たことで気が付いた。
目の前に居る男の子。その子は、すごく、驚くくらいに、
「せー、くん……?」
「なにそれ。僕のこと? ……あんた、僕のこと知ってんの?」
子供だとは思えないくらいの警戒心を浮かべたその表情。
それは、わたしが出会った頃よりも、もっと幼くはなっていたのだけど。
その子の顔は、あの頃の彼そのものだった。
「まあ、いいや。それで、さっさと答えてよ」
「……? なにに、かな?」
そう聞き返すと、彼は察し悪いな、みたいな表情になって、一瞬口を尖らせてから仕方なさそうに言う。
「だから、僕に何か用かって聞いてる」
「あ、そ、そうだったね! えっと、用っていうか……」
混乱した頭でその質問への答えを探す。
けれど、答えも何も、今の自分の状況すら分からない私には、なにを言うことも出来なかった。
だから、わたしの口からこぼれたのは、当たり障りの無い誤魔化し。
「特に、用ってことは無いの。隣に来たのが気に障ったなら、ごめんね」
「……ふーん」
ぎこちないのを自覚しながら何とか笑いかけてみるけれど、男の子の表情はこれっぽっちも晴れなかった。
それがすごく気まずくて、何とか話題を探そうとして、
「あ、と、ところで、キミの名前は?」
「……? 知ってるんじゃないの。さっき、"せーくん"とか言ってたくせに」
「あ、あれは、キミが知り合いに似てたからとっさに言っちゃっただけで、キミの名前は知らないんだよ」
「……まあ、なんでもいいけど」
警戒感のある表情。そこにジト目まで加わって、ちょっとだけ泣きそうだった。
そんな中、彼の口から飛び出したのは────
「────僕は、セイゴ」
「────え?」
思わずぽかんとした声が出るような、よく知っている彼の名前と────
「セイゴ・ミズシロ。ミズシロでいいよ、タカマチおねーさん」
全く知らない。聞き覚えもない。
けれど、日本人ならありえるかもしれない。
そんな、知っているのに知らないって、そういう言葉こそ似合いそうな、不思議な名字だった。
その気持ちに、上手く名前をつける事が出来なくなったのは、いつからだったっけ。
最初はきっと、ただの好奇心だった。
特別な気持ちだったわけでは、確か無くて。
ただ、自分とは全然違う価値観への、単純な好奇心。
それが、今みたいになったのは、いつのことだったのかな?
そんな事を、たった今見つけた、少し先を歩く彼の背中を見ながら思っていた。
「せーくんっ!」
少し大きく呼びかけたわたしの声に反応して、離れたところを歩いていた彼の背中が小さく跳ねた。
あからさまに迷惑ですって言いたそうな仕草と声音でため息一つを落としてから、ゆっくりと彼がこちらを振り向く。
「何か用ですか、高町さん」
「うん。せーくん今から出張任務だよね?」
「……あの、なぜそれを?」
いやな予感を感じてますって、そんな風に言いたそうな表情をする彼。
とりあえず場所を移しましょうって、近くにあった休憩所のほうを指差す彼に促されて、そこに向かいながら説明する。
「はやてちゃんから、今日はキミに同行して任務に当たるように、って、さっき連絡があったんだ」
「……えー?」
って、せーくんは不満そうに眉根を寄せた。
あまりに不満そうだから思わず後ずさりそうになるけれど、何とかこらえて相対する。
「さ、最近のせーくん、頑張りすぎだから。任務に同行して、体調とかに問題があるようなら報告するように、ってことだったよ?」
「……真面目にやってたらやってたでそれですか」
なんだか妙にやる気をそがれますよね。って、彼は表情を歪めた。
拗ねたような彼の態度に、思わず苦笑した。
「はやてちゃんも心配なんだよ。せーくんすぐ無茶するから」
「それは大いに余計なお世話ですし、あなたにだけは言われたくない言葉No.1なあれですね」
「……え、えへへー」
気持ちいいくらいの反撃に、思わず愛想笑いを浮かべて目を泳がせる。
「なに愛想笑いで誤魔化そうとしてんですか」
「うっ。……で、でもでもっ、最近は、できるだけ無茶なことしないように気をつけてて……」
「いや知りませんよ。俺が言ってるのは主に過去の話ですし」
「……うー」
思わず、「いじわる……」と不満を漏らすと、彼は皮肉気に口の端を持ち上げた。
「ハッ、根性ねじくれてるので有名ですから」
「……そういうの、少しは改めようとか思わないのかな」
「思いませんよ。理由が無いですから」
そのにべもない言葉に反論しようとすると、それを遮るように彼が言う。
「まあ、それならそれでしょうがないですね。────で、今日の任務の内容は把握されてますか?」
「……え、あ、うん。さらっとした概要はメールで。ロストロギアの封印と回収だよね?」
「詳細は?」
「まだ教えてもらってないの。はやてちゃんからのメールにも、詳しいことはキミに聞くようにって書いてあったから」
思っていたよりあっさりと同行を許してくれた彼に思わず首を傾げそうになるけれど、変なことを言ってやぶへびになるのも嫌だったのでとりあえず聞かれたことに意識を向ける。
「ああ、そうですか。……その辺も含めて、丁度いいってことなんですかね」
「ちょうどいい? どういうこと?」
「いや、まあ、ちょっと面倒そうな事情があるんですよ」
「そうなの?」
問いかけると、彼は「ええ」と頷いてから一つため息を落とした。
「回収って名目なんですけど、そのロストロギアもう回収されてます。というか、既に管理局の施設に収容までされてんですよ」
「……。嫌な予感が」
「そりゃそうでしょう。嫌な話ですから」
言いながら、彼は制服の胸ポケットの内側に手を滑り込ませて、タバコの箱を取り出した。
むっと思って彼の顔をじっと見つめると、それに気付いた彼がばつが悪そうに口を歪めた。
それでも手元のそれを仕舞おうとしないので、視線を逸らさずに見つめ続けると、
「……分かりましたよ。上司の目の前で、ってのもあれですしね」
「────っ。うん、ありがと!」
「────…!」
思わず笑みがこぼれて、そのままの勢いでお礼を言ったら、せーくんは微妙そうな表情を浮かべてため息をついた。
「……やり辛い」
「それで、今の状況は?」
「事前のやり取り無かったことにするの早すぎですけど……」
自分でもそうは思うんだけど、最近彼がこういう態度に弱いことになんとなく気付いてきたので、こんな時には使わせてもらっていたりする。
そんな事を知っているのか知らないのか、彼は一つ舌打ちして、それからわたしの方を見た。
「お察しの通り、既に暴走状態です。詳細不明のよく分からないロストロギアだったらしく、詳しい解析の最中に研究員が手違いで暴走させたみたいです。とりあえず効果の発動時に展開されてるフィールドに触れると特殊な空間に引っ張り込まれる、いわゆる劇場型みたいですけど」
「その言い方だと、その中で起こってることは分かってないの?」
「ええ。中に入った人、一人残らずその中での記憶が無いそうです。最初に暴走に巻き込まれた研究員二人は外に出てきてはいるみたいですからそこはいいんですけど、暴走状態は続いているので並の魔導士だと外からは封印も出来ないという」
「あ、それならわたし、役に立てないかな?」
わたしが魔導士になったきっかけのあの事件。
ロストロギアの封印は、わたしの"原点"みたいなものだった。
だからそう提案してみたんだけど、
「まあ、周囲を吹き飛ばすような類の暴走ではないようですけど。効果の発動状態維持のために周囲の魔素を吸い込みまくってるみたいな状況のようですが。Aランクまで落ち込んでる魔力で頑張ってみます?」
「……う、うーん」
そこまでの暴走だとすると、流石に厳しいかもしれない。
限定解除が出来るのなら話は別なのだけれど、いざというときのための切り札を、そう簡単に切るわけにもいかない。
「まあ、そんな感じの状況なので、とりあえず近隣の動ける魔導士を適当に送り込んで、中からなんとか機能停止をさせようと試みてるみたいですが、皆様軒並み、中での出来事のみ記憶喪失で帰ってくるという非常にあれな状況のようです」
「……軽く言ってるけどそれ全然笑えるような状況じゃないよね」
「そりゃそうでしょう。笑えない話ですから」
言いながら彼は肩をすくめた。
「ちなみに中には二人ずつしか入れないんだとか。一人でも三人以上でもダメだそうです。で、入った二人が出てこないと、次の二人は入れない。と」
「……あ、もしかしてわたしの同行を認めたのって、一緒に入るパートナーがいなかったから?」
「まあ、そうです。あなたに声を掛けられるまでは、適当に見繕えばいいかくらいにしか思ってませんでしたけどね」
どうでも良さそうに言いながら、彼は手振りでわたしを促してから先に歩き出した。
それに小走りで追いついてから、彼を見上げつつ言う。
「というか、そういう時には声かけてくれていいのに。わたしが行けない時はティアナとスバルに行ってもらってもいいし」
「嫌ですよ。来てもらったらもらったで俺的にあなたがメンドクサイ」
「酷いことをあっさりと言うよね……」
「あ、もちろんティアとスバルが来てくれる分には問題ないですけど」
「酷いことをあっさりと言うよね!?」
思わず声を荒げると、両手の手のひらをわたしに向けて、どうどうって声にまで出して宥めようとしてくる。
「まあ落ち着いてくださいよ。あと殺さないでください」
「そんなことしませんけど!?」
「冗談ですよ。高町さんは元気だなぁ」
「なんでそこでわたしが能天気で空気読めないみたいな言い方なのかな……」
「誰もそこまでは言ってませんが」
言ってるも同然だと思う。
「……もう、いいよ。とにかくっ、少なくとも今回は一緒に行ってもらうからね!」
「了解です。高町一等空尉殿」
「……」
「なんですかその反応」
「きゅっ、急に素直になるからだよっ!」
びっくりするでしょ! って思わず強く言ってしまう。
「せーくんが素直だとなんか調子が狂うのっ!」
「やっぱり置いてってもいいですかね」
「わ、わー! ごめんなさいごめんなさい!」
そんな会話を交わしてから、わたし達は六課を出発した。
その先で起こるあんな出来事のことなんて、まだ何も知らずに。
────ミズシロ。
男の子の口から告げられたその名字に、思わず困惑してしまった。
そんなわたしを見て、男の子はすっと目を細める。
「その反応、やっぱり嘘だね」
「────…え?」
「あんた、本当は僕の名前を知ってるはずだ」
手の平の上にいる。そんな言葉が頭に浮かんだ。
見た目だけかもしれないけれど、今の自分より何歳も年下の少年に、自分の反応を見透かされてる。
そんな現実に、少しだけ落ち込んだ。
「……先に言っておくけど」
何も口を開かないわたしに何を思ったのか、目の前のミズシロくんは相変わらずのジト目で言う。
「別に僕、嘘は言ってないから。僕のお父さんがプレマシー。お母さんがミズシロだった。それだけのことだし」
「ミズ、シロ……」
ミズシロ────"水城"、かな?
そういえば、わたしはせーくんのお母さん────真さんの結婚する前の名字を聞いた事が無かった。
って、それも大事なことなんだけど……。
問題は、やっぱりこの子のお父さんの名字の方だった。
「プレマシー……。セイゴ・プレマシー、くん?」
「なに、その変な反応……」
わたしの中の最後の記憶は、目の前で暴走しているロストロギアに、彼と二人で手を伸ばしたところ。
つまり目の前の状況は、あのロストロギアが引き起こしたもの……だと思う。
そして、ここからはわたしの勝手な予想だけど……。
ここはもしかしたら、彼の記憶を元に作り出された世界?
目の前の彼は、十中八九過去のせーくんに違いないはず。
こんなに頭が回って、子供っぽくない子供で、名前がセイゴなんて、わたしの中では彼以外にありえない。
だけどさすがに、過去に飛ぶ事が出来るようなロストロギアなんてそうそうあるとは思えない。
それに、このロストロギアの世界から帰ってきた人たちは、みんな記憶を失っていた。
だから、今わたしがこうして意識を保っていられているってことは、出てきた人たちが記憶が有るのに嘘を言っているか、この後なんらかの原因で記憶が消されるか、どちらかのはず。
でも、前者みたいな嘘をつく必要性はあまり感じられないし、後者の線が濃厚だから、このロストロギアは記憶に干渉してる可能性が高い。
と、すると、今は彼のほうも、もしかしたらわたしの記憶で創られた場所に居るのかもしれない。
それとも、目の前の男の子が、過去の記憶の頃まで遡った彼そのもの……?
そこまで思考が至ったところで、男の子がまた口を開いた。
「わざわざ僕に構いに来るなんて、もしかして、お父さんの商売敵の人? だったら無駄だよ。僕のこと誘拐したって、今更なにも起こったりしない」
「え? いや、わたしはそういうのじゃ……」
「だいたい僕の体、発信機が埋まってるから危ないよ。ここの敷地から出ようとしただけで、警備の人が飛んでくるから」
「────発信、機?」
彼の言葉の意味を飲み込むまでに、少し時間がかかった。
けれど、頭が言葉に追いついた瞬間に、かあっと思考が熱くなる。
「なに、それ────! キミみたいな子供に、そんなっ!」
「……"なにそれ"は、こっちのセリフだけど。そういう綺麗事、あんまり他人の前で口にしないほうがいいよ」
うっとうしく思う人も居るから。……僕みたいに。
皮肉たっぷりの言い回しに、ああ、少なくともやっぱり昔の彼の姿なんだなぁと思いながら、諌められて少しだけ勢いがしぼんだのを自覚しながら、それでもと彼に反論しようとする。
「でも、やっぱり、そんなの……」
「いいんじゃないかな、別に。むしろ僕みたいな厄介者は、ここまでしてもらえるだけありがたく思わないと」
「だ、ダメだよそんな自分を傷つけるような言葉! キミのお母さんだって……」
「やめなよ」
鋭い声。
彼が怒っているとき特有の、感情の起伏の少ない声。
こんなに小さな頃から変わらなかったらしい、彼の怒り方。
じゃあ、彼の怒りの原因は?
その疑問は、彼の言葉で一瞬にして解ける。
「僕のこと調べてるなら、知ってるでしょ。僕のお母さんの生死くらい」
「……っ」
「死んだ人は何も思ったりしない。だからお母さんも、今更僕のことを思うこともない」
だからこそ、と、彼は口の端を皮肉気に歪めた。
「────僕はもう、何があったとしても許されることは無いんだから」
突き放したような喋り方。
わたしが彼と初めて出会った時と同じか、あるいはそれ以上に淡白な彼の声色。
懐かしいような寂しいような、不思議な気持ちが胸を満たして、うまく言葉にならない。
「……まあ、あんたにこんなことを言っても、仕方が無いか」
「せ、セイゴくん……」
「だから、さっきからあんたのその反応はなに?」
僕の事情、知っててここに来てるんじゃないの?
そう言ってセイゴくんは、警戒に満ちてた表情を困惑で歪ませた。
「もしかして、本当に僕のこと何も知らないで、横に座ったの?」
どう答えるか少しだけ迷って、わたしはゆっくりと頷き返した。
それは別に、嘘じゃなかった。
だってわたしは、いま目の前に居る男の子の事情なんて、何も知らない。
セイゴくんは大きくため息を吐いてから目を閉じて、首を左右に振った。
「そう。……なら、さっさとどこかに行ったほうがいいよ」
「え?」
「僕の近くにいると、面倒に巻き込まれる。今度の学会でお父さんの新技術が発表になるから、最近はそれをやめさせたい人がよく僕にちょっかいをかけに来るんだ」
発信機はその対策に、僕が自分でつけてくれるように頼んだんだ。
そう言って彼は、小さくため息を吐いた。
「それならどうしてキミは、こんな所にいるの?」
「……それは」
それまで淡々と話していた彼が、少しだけ言い淀んだ。
けれど、隠すことでもないと判断したのか、ちらとこちらを伺うように見てから言う。
「釣り、かな」
「つ、り? って……。まさか────」
まさか、わざとこんな目立つ場所に一人で居ることで、囮になってるってこと?
「そっ、そんなの危ないよ! 何かあったら────」
「それならそれで構わない」
「────!」
「僕は、せめて誰かの役に立てないと、生まれた意味が無い」
「……セイゴ、くん」
その子が無表情で放った言葉。
それはわたしの中の、言葉にしきれない感情を刺激した。
わたしは一体、今まで彼の何を知った気になっていたんだろう。
こんなにも痛くて、悲しくて、寂しい、この子の思い。
彼が、あのジェッソさんとの喧嘩以来、わたしの前では口にしてくれなかった、本当の感情。
自分のせいでお母さんを失ってしまったと思っている彼の、心の叫び。
それが、今のこの子の先にあるはずの"彼"の中で、癒されているのか。
……癒されて、いなかったとしたら。
「だからせめて今、僕に出来る精一杯で、お父さんを……」
────なんとかしたい。って、そう思った。
わたしの痛みを癒してくれて、悲しさを支えてくれて、寂しさを埋めてくれた、彼を。
わたしは思わず手を伸ばす。
その子の体を引き寄せて、抱きしめて、頭をゆっくりと撫でた。
彼は驚いたように身を竦ませていたけれど、驚いた気持ちが収まり始めたのか、さっきまでと同じ平坦な声で、
「あんた、一体何のつもり?」
「……っ」
この気持ちを、わたしはなんて呼ぶんだろう。
同情なのかもしれない。
憐れみなのかもしれない。
友達のためにって、友情もあるのかもしれない。
だけど、それだけじゃない。
だって、それだけだったらきっと、こんな気持ちになってない。
こんな、自分のことなのに名前も付けられないような、半端な気持ち。
歯がゆくて、もどかしい。けれど、きっとわたしの中で1,2を争うくらいに大切な気持ち。
だから────、
「これは、宣戦布告、かな?」
「……なに言ってんの」
頭大丈夫? とでも言いたそうな彼の雰囲気に、少しだけ笑ってしまう。
「大丈夫、だから」
「は?」
「キミは、誰かの役に立てる。今すぐは、難しいかもしれないけど……」
少し先の未来で、わたしを助けてくれる彼。
きっと彼は、それを生まれた意味なんて思ってはくれないだろうけど、でも……
「キミはこの先の未来で、いろんな人に必要とされる。わたしも、その一人」
「あんた、頭大丈夫?」
「あはは、言われちゃった」
やっぱり小さくても、彼は彼だ。
だからこそ、目の前のこの子の気持ちは、きっと今の彼に通じている。
これはきっと、フィールド内に巻き込んだ人の心の傷を再現するロストロギア。
だから、
「わたしが、キミを支えるよ。わたしの出来る限り、ずっとそばで」
だからこれは、いつかに続いての宣戦布告。
この子の未来にいる彼への、少し遠回りな、追加の決意表明。
けど、わたしのそんな気持ちを知るはずもない腕の中のセイゴくんは、
「……変な人。よく初めて会ったばかりの子供に、そんなプロポーズみたいなセリフが言えるね」
「────え?」
────プロ、ポーズ?
「え? あ、いや、わたしそんなっ!」
「自覚ないの? ますます変」
「え、えぇっ?」
返す言葉が思いつかなくて慌てていると、彼はわたしの腕の間からするりと抜け出てこちらを見上げ、にこりと微笑んだ。
「けど、ありがとう。そして、おめでとう」
「────え?」
瞬間、世界がはじけた。
2016年3月12日投稿