介入結果その三十二 高町なのはの休日ver.三年前のとある日
なんの変哲もない、けれど平日には人の出入りが極端に少ないから待ち合わせに最適だって隣にいる友達に勧められたとあるファミレスの一席で、私は待ち合わせの相手と向き合って座っていた。
「と、言うわけで」
そんな言葉を前置きに、紙紐で束ねられた雑誌二冊分ほどの厚さのある手紙や封筒の山をドンと言う音と共に、待ち合わせ相手の少年、誠吾・プレマシーくんが、並べられた料理の間を縫って目の前のテーブルに置いた。
その紙束のうちの一通を躊躇しながら慎重に手にとって、先日の通信から二日振りに顔を合わせた彼に、私は窺うように聞く。
「えっと、これが?」
「ええ。御所望のあれです」
面倒そうな表情で、小さくはぁと息をつきながら、それでも明確に答えてくれるせーくん。
前々から彼やユーノくんに注意を促されていたお話ではあったし、他の男性局員の人たちからも彼たちほどではなくとも似たようなことを聞かされていた。
それに、私自身も自分からこの件に関わって、少しでも事態をよくできるように努めていたから、事態の深刻さを分かっているような気になっていたけれど……。
ここ最近はどうしてかは分からないけれど彼にそういう手紙が送られてくることはなかった。ユーノくんやその他の局員の人からは気をつけるように言われていたのは変わっていなかったけれど、そっちも以前よりは回数もかなり減っていたのに。
なのに、なぜかつい先日、彼の元にまた数通のそういう文章が送られてくるようになった。
「こ、これ本当に全部脅迫状なの……?」
「脅迫状と言うか抗議文と言うか。もしくはあなたへのファンレター?」
詐欺師の人みたいな笑顔と一緒に告げられたその言葉に、私は頬をひくつかせた。
確かにそういうお手紙はいっぱい貰っていて、凄く励みになっているけど、友達に迷惑をかけるようなファンレターはちょっと……と彼に告げると、
「別に手紙だけなら大した迷惑でもないですけどね。それにしても……」
テーブルに肘をついて頬杖をつきながら目の前に置かれた手紙を見て、本当、人気者ですねえ、あなたは。とどうでもよさそうに言ってから、注文したサンドイッチに手を伸ばすせーくん。
その様子は本当に何か悩みがある風ではなくて、本当に脅迫状のことなんか気にしていないみたい。
「内容は歴代の方たちとあんまり変わり映えはしないですねー。なんだかいろいろと書いてあるんですけれど、総じてあなたの隣にお前は相応しくないから消えろ。と言った内容でした」
「む、むー」
そんなこと、全然ないのにと思っていると、サンドイッチをぱくつきながら彼が言った。
「どーします? 俺もその内容には全くもって賛同ですので、もっと明確に距離でもとってみますか?」
そうすれば、こういう人も少しは減るかもしれませんよと聞いてくるせーくんに、私は即断即決でそれは嫌だと拒否をした。
せーくんは、「まあ、分かってましたけどね」と諦め混じりに苦笑した。
「本当、妙な所で頑固な人です」
「ご、ごめんね」
謝る私に、もう慣れましたよとせーくんは肩を竦めた。
以前までなら、こういう場面では必ずと言っていいほどに追加で文句を言っていた彼がこんな風になにも言わないのは、もしかしたら最近の彼の変化に関係あるのかなって思う。
暇を見つけては彼に連絡を取り続けている私だけど、ここ最近の彼の眼に宿っている精気は、どこか私と出会った頃の彼を思い出させていたから。
でも、こういうことがある度に、それを言い訳にして彼が私から離れていこうとしていることを知っている。
だからさっきの確認みたいなやり取りも、彼が最初にこういう手紙を貰ってから、もう何度しているかも分からないくらいに交わしているものになる。
思い返してみれば彼から最初にあった連絡は、「あなたをストーカーするなんて奇特な人がいるみたいなんで、気を付けた方がいいと思いますよ」なんてもの。
でも、セリフの割には普段と違って少しだけ私を心配してくれているような雰囲気があって、とても嬉しく感じたように思う。
あとで聞いた話では、昔から自分のいろいろが原因で狙われることの多かった彼にとっては、緊張感を感じるまでも無いようなレベルのことだったらしいし、ジェッソさんが別の理由で似たような手紙を貰うことも珍しくは無かったから、一応『こういうこと』の先輩風を吹かせて心配しているポーズをとってみただけです。だなんて聞かされたんだけど……。
それでも嬉しかったんだよね。と、隠れて小さく笑みをこぼしていると、
「なのはちゃんへの純粋すぎる愛が、ファンのみんなの中で誠吾くんへの憎しみに変わってしまったんやね。あ、このケーキおいし」
「……ところでなぜお前がここにいる」
せーくんが、私の横でケーキをつつきながら幸せそうな顔で煽るようなことを言っているはやてちゃんに視線を向けた。
はやてちゃんは、せーくんの睨みつけるような視線をさらりと無視しながら、ケーキに向けていた顔を上げてとってもかわいい笑顔を浮かべた。
「あ、えっと、ごめん。せやね。本当なら、なのはちゃんと二人っきりで会いたかったに決まっとるよね?」
「おい、その訳知り顔の近所のおばちゃんみたいな雰囲気やめろ。イラっイラするッ! そもそもここに来るのヴィータさんだったはずだよね!?」
「あ、ごめん、ホンマごめんね。わかっとるんよ、私はわかっとる」
「おい、ちょっと高町さん。ホントなんでこいつ連れて来たんすかホント。つかマジでなんでこいつこんなしっとりした雰囲気出しながらケーキ食べて俺を馬鹿にしてるのホントォォ!」
「わ、わわっ! せーくん落ち着いてっ!」
今すぐ席を立ってはやてちゃんに飛びかかりかねないほどに憤っている様子のせーくんになんとか落ち付いてもらえるよう私が焦って宥めていると、そんな事は気にしてもいないらしいはやてちゃんはいつも通りの自然体でお話を続ける。
「それにしても誠吾くん。随分とバッサリ髪の毛切ったんやね。さっぱりやー。いつものグラサンもしてへんし」
「……チッ」
「そ、そんなに怒らなくてもいいやんかー。さっきのはちょっとしたジョークやのに……」
はやてちゃんがせーくんの舌打ちを怖がる。
彼のこういう仕草がポーズだって言うことを長い付き合いでやっと分かることが出来た身としてはその様子がどこかおかしくて、けれど数年前の自分を重ねて微妙に笑えなかったりもする。
そんな私の複雑と言うのか面倒と言うのか、そういう気持ちに気付くことも無く、せーくんは面倒事をさらりと流そうとする気持ちに従ったらしく簡潔に答えた。
「両方とも邪魔になったから取った」
「取ったって……。髪を?」
「髪と、グラサンを」
「ふぅん?」
ヅラやったん、あれ。っていうはやてちゃんの質問に、別にその認識でも構わないというか本当どうでもいい。なんて言い合っている二人を見ながら、あれ、さっきまで喧嘩してなかったっけと首を傾げるしかない。
ちなみに、せーくんが髪を切ったのもサングラスを外したのも、三週間くらい前のことになる。
理由は噂程度に聞いているけれど、以前の彼と比べると真面目にしているとは言えなかった戦闘訓練を最近、本格的に始めたから。
さっきの言い方からみて明確に説明する気はないみたいだけど、本当に邪魔になったからだと思う。訓練に。
だからそれをはやてちゃんが知らないってことは、二人はここ数週は顔を合わせるようなことはなかったってことかな?
sound onlyでの通信くらいなら、あったのかも知れないけれど。
ただ、髪はともかくサングラスまで今つけていないのはどうしてだろうって思わなくもない。今言っていないってことは、聞いても答えてはくれないだろうけれど。
けど、なんだろう? そもそも二人が直接会ってることなんて、私が知る限り本当に数えるくらいしかないのに、いがみ合っている感じが強いとはいえ、なぜこんなにも息の合った会話が出来るのかな?
もしかして、私の知らない所で連絡を取り合ったりしている? と、そこまで考えた辺りで、二人の会話をもう一度反芻しようとしていたことでさっきのせーくんの言葉遣いを思い出して私は、その中身に強烈な違和感を覚えて────
「あ……れ?」
「ん? どうかしたん、なのはちゃん?」
「なんか知りませんけどまた面倒なこと考えてそうな風情ですね」
私の異変に気付いて、二人がこっちを見た。私は驚愕に見開いているんだと思う目を、せーくんに向けた。
「け、敬語……」
「敬語がどしたん?」
「敬語がなんすか」
「どうしてはやてちゃんに敬語使ってないのっ!?」
思わず立ち上がって、テーブル越しのせーくんの肩を掴んでこちらに引き寄せる。
互いの吐息が感じられるくらいに体を引き寄せて、少し気恥ずかしくはなったけれど、それでも顔が赤くなりそうなのをぐっとこらえてそのままお話を始めようとすると、せーくんが悲鳴のような声を抑えた声音で器用に上げた。
「────ちょっ、近……っ!?」
「ていうか、あれ? その話今更するん?」
「ど、どどどどういうことなのはやてちゃん!?」
彼との距離を保ったまま首だけをはやてちゃんに向けて混乱を隠しきれずに聞くと、彼女は珍しく少し困ったような笑顔を浮かべて、
「えっと、どういうことと言われても……?」
「だ、だからそのっ、せーくんが────!」
「は、話ずる前に俺の首にがげた手を離じでぐれまぜん……? 割と本気でじぬ……!」
「あ、わわっ! ごごごごごごめんなさいっ!」
いつの間にか彼の首を鷲掴みにしていた手を慌てて離し、私はせーくんに平謝りした。
相変わらず、錯乱すると人の命を無意識に狙う怖いお人だと、せーくんは首を撫でながらため息をついて、その言葉に更に恐縮して縮こまると、そう言えばこうなって以降に高町さんの前で八神と会話するのって初めてですから、知っているわけはないですよね。と、せーくんが説明をしてくれた。
「いろいろあって、一月くらい前から、人間的に尊敬できそうにない人に敬語を使うのをやめるようになりましたとさ。ちゃんちゃん」
「わー。前に面と向かって一回言われたことやけど、やっぱりすんごいムカつくねホンマ」
怒っている時の笑顔を浮かべているはやてちゃんと無表情のような笑顔を浮かべているせーくんが、視線で火花を散らしているように見える。
けれど私はそんな二人に気を使う余裕も無くて、間に割り入った。
「い、いろいろってなに?」
「こないだ新しく配属されたトコの部隊長とのいろいろですよ。そのせいで、自分を抑圧して生きることに微妙に疲れたものですから」
友人的に仲がどうなってもいい人相手には、上司だろうがなんだろうがこんな感じにすることにしました。とあっけらかんと言うせーくんに、なんて言えばいいのか分からず、私は絶句した。はやてちゃんは「むー」って不満そうに口をとがらせる。
新しい部隊長さんって、ジェッソさんの言っていた、セイス・クーガーさんって人のことかな?
私を庇ったあの一件から、あんなにいろいろと落ち込んでいたせーくんをたった数ヶ月で立ち直らせてしまった人だって聞いていたから、凄い人なんだろうなとは思っていたけれど。
髪を切ったり、サングラスを外したり、以前のような凛々しい目つきに戻っていたり。
確かに最近の彼の変化はめまぐるしかったけれど、まさかあれほど仕事相手には敬語で接することにこだわっていたはずのせーくんの意思を、こんなにほんの少しの期間で変えてしまうなんて本当、どれだけ凄い人なのか想像もつかない。
でも。な、なんなのかな? この場合、敬語を継続して使われてる私は、一応気にかけてくれてる友達の中に入っているわけだから、いいのかな?
で、でも……
「私、せーくんには、尊敬されるよりも一緒の目線で対等なお友達として見て欲しいな……なんて」
「相も変わらずそんなこっ恥ずかしいことをよくも平然と……」
顔に手を当てながら頭を抱えるような格好になるせーくんに、はやてちゃんがカラカラ笑いかけた。
「まあまあ誠吾くん。それもなのはちゃんのええとこやん」
「……確かに、この荒んだ管理局世間にどっぷりとつかっている割に裏表のない所は、以前から好ましかったですけれどね」
「え、ほ、ホントっ?」
あまりにも珍しいせーくんの褒め言葉に、胸の奥が少しだけふわっとした気持ちに包まれたような気がしたけれど、
「それは今は全く関係ないですけどね」
「うー」
きっぱりと断言して、「そもそも」とその場をし切りなおすように言うせーくん。
「今後もまともに休みを取るかどうか分からないので、なにか直接的な用事があれば今日のうちに済ませようと言うのが八神がこじつけた本日の目的だったはずですが」
だからわざわざ久々の休日にこんな手紙持参でこんなトコまで来てあなた方と昼食共にしてるんでしょうが。と言って、せーくんは机に投げ出されるように置かれていた手紙を一通手に取って、中身を透かすように天井から降る蛍光灯の光に翳した。
「しかし本当、あなたも筋金入りの人気者ですねえ。まるでアイドルの追っかけでもされてるみたいだ」
「そんな可愛い女の子と知り合いやなんて、誠吾くんは本当恵まれてると思わん?」
「そうやってまた話を妙な方へと逸らそうってのは一体どういう魂胆なんだよお前は。と言うかマジで八神は何故こんな所にいるんだ」
「それは簡単な話やね。ヴィータに急な仕事が入ったから、ちょうど暇やった私がなのはちゃんに付いてきただけや」
「おっせーよその一文喋るのに一体どんだけの時間をかけてんだよ見事なまでに俺の注文したサンドイッチがはけちまってんじゃねーかよ」
「むー。口うるさいなぁ。大体さっさと食べ終えたんは誠吾くんの判断やんかー」
そもそもこんな手紙のこともあるし、外出するときは二人以上でってなのはちゃんに注意喚起したのも誠吾くんやん? って勝ち誇った笑顔で言うはやてちゃんに、せーくんが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「いや、俺は頼りになる人と二人以上と言ったのであって、一緒に居てもたいして役に立ちそうにない人を数に含めた覚えはない」
「あーっ! い、言ってはいけないことをっ!?」
というか誰が役に立ちそうにない人やねん! と叫ぶはやてちゃんに、だってお前、近接戦じゃその辺の子供にだって負けかねないだろと呆れたように言うせーくん。
「それを言うたら誠吾くんかてこの件始まってからもう何年も経っとるのに大したこと出来てないやんか!」
「もう何度か襲われてその犯人撃退してるんだけど俺」
「ご、ゴメンね、二人とも。いっぱい迷惑かけちゃって……」
二人の言い合いに申し訳ない気持ちが抑えきれなくなって謝ると、二人がキョトンとしてから苦笑した。
「なのはちゃん、水臭いこと言わんといて」
「別にいいんですよ。あなたの熱狂的な追いかけに狙われ出して早数年。引っ張ったのが4件ほどでしたっけ」
あなた本人に突貫する馬鹿が出てないことが、今の所の救いとは言えるのでしょうかね? とせーくんは首を傾げた。
「にしてもあなたも物好きと言うかなんというか。俺宛の脅迫文をわざわざ読みたいだなんて。しかも今更」
ああでも、逮捕された犯人の所に一人一人面会に行って、一日中話し続けるような勢いでもう二度と似たようなことしないように説得して回るような人だし、物好きは今に始まったことでもないか。とせーくんは楽しそうに笑った。
「あぅ。ごめんなさい……」
「いや、謝られても。てか、あなたを責めるような意図は全くないですし」
「て言うか誠吾くんも、どうしてこんなに綺麗に保存しといたん?」
後生大事に仕舞い込んどく類のものでもないやろ? と聞くはやてちゃんに、あー、と何かを思い出すみたいに目を逸らしてから、せーくんは「一応な」と前置いて言う。
「こんなん通報しても、なにか物理的に起こらない限りはまともに相手にしてもらえる方が珍しくはありますけど、時々真面目に捜査しようとしてくれたりする真面目な人いますからね」
だから別に高町さんに見せるために保存しといたわけじゃないんでその妙な視線を今すぐヤメロと言うせーくんに、はやてちゃんが余計なことを言う前に彼女の口をふさいでから遮るように口を挟む。
「そ、捜査に使うかどうかはともかく! 犯人さんの考えていることも、知っていかなきゃいけないかなって思ったの」
またこんなことになっているわけだし。と言うと、せーくんはすっごく呆れたみたいな表情になってしまった。
「いや、別にあなたが悪いわけでもないし、前から思ってましたけどそこまでやらなくても……」
「えっと、そうなんだけど」
私が困ったように言葉に詰まると、二人がそれを見て視線を交わした。
それからはやてちゃんの方は額に手を当てて、せーくんの方は目頭を揉みほぐすような仕草をして、二人一緒に俯いた。
「「……はぁ」」
「え。なんでため息吐くの?」
「いえ別に。ただなんかもう、高町さんて聖女の生まれ変わりかなんかなんじゃないかって気がしてきてですね……」
「せ、聖女? お、大袈裟だよせーくん」
「大袈裟らしいぞ、八神」
「大袈裟なんかなぁ? 私やったら、そこまでアフターケアしようとは夢にも思わんのやけど」
「そういえば、八神のとこにも何件か来てるんだよな。そういう手紙」
「シグナム達が草の根かき分けてでも犯人捜し出すゆーて、相手にしたらあかんてみんなを落ち着けるの、結構大変やったんよ?」
「それはお疲れ様です。そう言えばフェイトさんにもそういうの届いて、クロノさんが心配してるのを慰めるのが大変だったってユーノくんも言ってたなぁ」
皆さん人気者で大変ですねえ、ホント。と、自嘲するみたいに笑ってから、せーくんは切り替えるように言った。
「さて。それで、今日の用事はこれで終わりでよかったでしたっけ?」
「誠吾くん、分かってて言っとるよね?」
「今だけいい。記憶喪失になりたい」
「誠吾くんは今からなのはちゃんとお買い物っ!」
はやてちゃんの断言に、せーくんがげんなりした表情になる。
「俺の奢りでだろー? 八神さー、確かに金は有り余ってるわけだし別にいいけど、そういうことするから変な手紙来るんじゃね? とか思うんだけど」
「これから忙しくなるって言うてたんやし、一つくらい心労が増えたかてべつにいいやん」
「お前はよほど俺の胃に穴を開けたいと見える。そんなに強くねーから俺の胃壁」
「ご、ごめんね。ごめんね」
やっぱりどこか申し訳なくて謝ると、せーくんは胡散臭そうに私を見た。
「謝るくらいなら、今日俺を帰してくれる気は?」
「それは嫌なのっ!」
分かっちゃいたけど少しくらい悩んでもらえません!? と叫ばれた。
「あなたは本当に謝意と誠意を同居させていただけませんかと訴えたい。謝るだけ謝って事態は悪化させようとするってちょっと本気でシャレになってない」
「ごめんね。それでも、私にも譲れないものはあるんだ」
「なにをキリッとでも擬音が付きそうな表情浮かべてるんですかあなたは。この人素晴らしいくらい話通じねーよマジでヘルプミー」
「さ、誠吾くん。昼食は終わったし、清算して街へと繰り出そうやないか」
「しかもこいつ付いてくる気満々だよ……」
とんとん拍子で話を進めるはやてちゃんに、せーくんががくりと項垂れた。
そんな二人のやり取りはやっぱり距離感が近くて、私もこんな風に彼と接することが出来ればいいのにと思うけど、言うほど簡単なことじゃなくて、今もはやてちゃんの手を借りているのが、少しだけ情けない。
そんな事を考えている私をよそに、言っとくけどお前には何も奢らないからなとはやてちゃんに忠告するせーくんに、あの、やっぱり私、自分の分は自分で払った方がいいんじゃ? と聞くと、
「だめやなのはちゃん! 今日は絶対にいろいろ奢ってもらっていろんな意味で既成事実をやね……はっ」
「策士が矢面に出て来て語るに落ちる場面てのはこういうのを言うんでしょうね」
何だかもう既に疲れ切った様子になっているせーくんだったけど、だったらもういいですよと立ち上がった。
「さっさと行きましょう。本当に時間がもったいないです」
「あ、うん」
「あ、二人ともちょっと待ってーな!」
立ち上がったせーくんが歩きだす。
私はテーブルの上の手紙の山を手早く手元のバッグにしまって、彼のあとを追う。
私たちのあとを、はやてちゃんが慌てて追ってくる。
久しぶりに彼と休みを合わせることが出来た休日。
この日を境に、休日に彼に会うことがほぼできなくなってしまうことを、この日の私はまだ知らない。
『久々にお前宛の脅迫状が届いたのだが』
六課のオフィスでの事務仕事中。時間が無くて昼飯の大役を与えたカロリーメイトさんを銜えながらかかってきた通信を片手間につなげると、そんな言葉とともに親父の顔がウインドウへと姿を現した。
画面越しの親父は、俺のキョトンとした様子を気にかけることも無く、どう処理すればいいのか分からなくてな、困っているのだが。と、困っているようには全く見えない無表情で言った。
この人はこれがデフォルトなので気にするだけ無駄なのは分かりきっているわけで、ちょっとシグナムさんとの訓練に熱を入れすぎて時間を忘れ書類の締め切りの方がカツカツになってしまった現状、俺は仕事の手を緩めることなく極めていつも通りに返答した。
「いろいろと文句を言いたい場面ではあるんだが最初に言っておこう。俺宛の手紙を勝手に読むな」
『仕方があるまい。差出人の書いていない封書が数十通単位でお前宛となると、脅迫状以外に思い当たる節が無かったのだから』
家に届く郵便は重要なもの以外は暇な時しか目を通さない関係上、たまたま暇になった今日にまとめて整理していたら、おかしな封書を何通も見つけたんだとか。
悪いとは思ったのだがな。と悪びれずに言う親父にまあ確かにとため息をつく。
「……そう言いたくなるのが分かるくらいには、前例が前例だけどさ」
『うむ。ちなみに消印を見るに最初の封書がお前がそちらに出向して数日、あとは週に一度か二度ずつ届いているな。要件的に見て差出人はなのはくんのファン。基本的には同一人物、または同一グループの犯行とみていいだろう。それにしても、随分とこまめなストーカーだ』
「最近不本意にも悪目立ちしちまってるからなぁー。どっかからなにかしらクレームの一つも来るだろうとは思ってたけど、高町さん関連だったか。しかしアレな内容の手紙とはいえ、そこまで熱心に手紙を出し続ける相手を結果的に無視し続ける形になったのはなんだか申し訳ない気がしないでもない」
いろんな意味で叶わぬ恋に手を出している彼らを、せめて俺だけでも相手にしてあげたいと思うのは、相手側にしてみれば迷惑以外の何物でもないのだろうが。
てかマジな話だが、高町と親密な関係になりたいと言うのなら、そんな手紙を俺に出すよりも宛名を高町にして差出人欄に自分の名前書いて友達になりたいですって内容の手紙出す方がよっぽど建設的であると思う。
そんな風に言われれば、あいつは文通の一つや二つくらいは当たり前のようにやると思う。
それから文通を重ねて信頼を得て、誠実な文面でまともな待ち合わせ場所を指定すれば、流石に一人で行くようなことは無いだろうが会うのに時間を割く努力をするんじゃねーかなと思わされるくらいには、高町なのはってのは律儀な子だ。
とはいえ、そこから先は士郎さんとか恭也さんとか高町本人とかいろいろ大変だろうけど頑張ってくださいとしか言えないが。
ただそんな俺の思いとは裏腹に、なぜか俺が襲われたり嫌がらせ受けたりしてるわけなんだが。
『とにかく内容は全て検めさせてもらった。中身は九割方お前への悪口だ。残りの一割はなのはくんへの歪んだ愛についてだな。彼なのか彼らなのかは知らないが、手紙にしたためられた情熱的な文言は一応、一字一句全てを記憶させてもらった』
「その記憶は是非とも数年単位で維持してくれ。そして、やつらがその若気の至りを忘れたころに過去の黒歴史を思い切り突き付けて差し上げる俺の壮大な計画の要になってくださいお願いします」
俺が覚えてるのは苦痛すぎて嫌なのでと言うと、親父は不機嫌そうに表情を顰めた。
『謹んで辞退するわこのバカ息子が。それにしても、この手の嫌がらせも随分と御無沙汰だな。以前に届いたのも年単位で前だったように思うが』
「ここ数年は、俺あんま表で目立つようなことしてなかったもんよ」
ただ最近は数階級特進したり聖王教会関連で引き抜きされたりといろいろあったのでなにがあってもおかしくないなとは思っていた俺だった。
『ところで、なのはくんの方には行ってはいないのか?』
「さあ? 少なくとも俺は聞いてないな。あいつ六課来てから基本的にミッドでの住処にはほとんど帰ってないし、わざわざこっちに転送してない限りは届いてても完全無視になってる可能性はあるかねー」
一応あとで注意するように伝えとくよと告げると、親父はああ、そうだなと頷いてから「しかし……」と言い淀んだ。
『出した手紙がこれほどまでに悉く読まれること無く放置されているとは、なんとも不憫な犯人だ。是非とも励ましの手紙を送りたいと思ってしまうほどに』
「一応実の息子に脅迫状送ってる相手に励ましの手紙送るってのは、一体どういう神経なんだろうな……」
『別にいいではないか。排除対象の親に励まされる犯人の心理状態がどうなるか、お前も多少は興味もあるのでは?』
「このおっさん極悪人だよ……」
天を仰ぐような動作をすると、親父は心外だと肩を竦めた。
『極悪人のつもりはないが、一応かわいい一人息子に危害が加えられているわけだからな。多少感情的になることにも目を瞑ってもらうことにするさ』
「はいはい、父親にそこまで思われていて俺は幸せ者ですよ」
『うむ。分かっていればいい』
「ただの皮肉をここまで正面から受け止められると微妙な気分になるな」
『安心しろ。分かった上でやっている』
そうでしたねこういう父親でしたねとか思いながらも気持ちの重さに比例して俺の沈黙時間も順調に伸びていくという公式。
「…………まあいいや。一応知り合いの地上部隊の人に相談してみるよ。で、今日の要件はそれだけか?」
『あとは個人名義でのお前への感謝の手紙が何通かあった。管理世界在住の男性四人に女性三人だったか。どれも次元犯罪の手から救っていただきありがとうございましたと言うような内容だったが、一人だけ妙に情熱のこもった文章を書いている若い女性がいたのでその点に関しては注意が必要かも知れん。そちらは全てエリオくんの部屋宛に転送しておいた』
「ああ、どうもありがとう。それと何度でも言うが俺宛の手紙を勝手に読まないで貰えません!?」
結局差出人が書いてあろうが無かろうが内容チェックとはどういう了見だコノヤロォォ! とでも叫びたかったのだが、一応読まれて困るような郵便が送られてくる予定は無いのでぐっとこらえた。
『それから個人的────ではないのだろうが』
はやてくんとシャマルくんに用件があるのだが、今の時間、連絡先はこれでいいのか一応聞いておきたくてな。と告げる親父の言葉に、一つの思い当たる節を見つける。
「ああ、こないだのゼストさんとの交戦中にファントムが無駄な高性能で採集した、バイタルデータの分析結果か」
分析を外部委託で局側に微妙に隠蔽しつつ行うと言っていた気がするので、多分内密に親父に任せたとかそんなところだろう。
『守秘義務が発生しているな。私からは何も言えん』
詳しい話は直接お前の上司に聞け。とあっさり俺を突き放す親父。
正直、そんな言い方をしている時点でゼストさんの件だってのは丸バレな気がするが、内容については明言してはいないのでおそらく問題はないと思われる。
「はいはい。聞いた所で今の所は答えてくれるとも思えんけどね」
『そこから先はお前達の問題だ。まあ、頑張るんだな』
「了解ですよっと。────ええと、うん、これ八神さんのプライベート回線に直接つながるやつだな」
親父から送られてきた連絡先を確認し、問題は無いようなのでそのように返答した。
『そうか、手間をかけたな。すまない、ありがとう』
「あいあい。じゃあまたな、親父」
『ああ、また。それと体には気をつけろ』
「承知してますよっと」
そんな感じで会話を終えて、その間にもマルチタスクで片手間に進めていた事務作業に本格的にとりかかろうとした所で周囲から視線を感じて周りを見渡すと、キラキラと目を輝かせるアルトと、あっちゃーって感じを前面に押し出してるルキノがいつの間にか昼食から戻って来てこっちを見ているのを発見。
どこから聞いてたか知らないが、どこから聞いてても質問の内容がめんどくさそうですね分かります。
うわーい面倒なことになりやがったと毒づきながら、どうやってこの二人の追及を回避しようかと思考を巡らせつつも手元の仕事を進められることをマルチタスクに感謝しつつ、ビシビシ叩きつけられる視線に対して全力で無視を敢行する俺なのだった。
ちなみにこの後、俺に気付かれないように距離をとっていたせいでさっきの会話で聞こえなかった部分を都合よくカットしてものすげー局所的に盗み聞きしてたこの二人というか主にアルト的な方が、そんな手紙が来るなんて俺と高町が陰ながら付き合ってるからなんじゃないかとか、親父と八神がプライベート回線で繋がっているなんてもしかしてただならぬ仲なんじゃないかとか、とても目も当てられない誤解とともに俺の胃壁にダイレクトアタックをかけるかのようなストレス要素たっぷりの質問をぶつけてくるのだが────
まあ、いつもの通りに余談である。
介入結果その三十三 烈火の将シグナムの考察
私との訓練後、仕事があるからと全力で走り去るプレマシーの背を見送りつつ、私はふむと呟きながらBJを解除し、近くの休憩スペースへと向かった。
午後からは任務の入っている関係上六課を空けなければならなかったため、訓練ならば午前のうちにしてくれと私が願い出た末、先ほどまであいつに向けて打ち込み30手を施していたのだ。
だがどうやらあいつは期限の差し迫る書類のことを忘れていたようで、訓練の終了とともにそれを思い出し、私へのあいさつもそこそこにオフィスにある自分の席へと向かったという事情になる。
全くなんと言うか、つつがなく仕事をするようでいて、こういう間の抜けた一面も持つ、なんとも評価のし辛い男だ。
尤も、やることはやる男ではあるから、おそらく書類自体は期限に間に合わせるのだろうが。
そんなあいつだが、ここ最近、私との訓練で見せる成長の度合いは目覚ましいものがあると言えるだろう。
単純な斬撃による直線的な攻撃の軌道とその後の連撃への配慮についてはもう文句のつけようも無いほどの練度に達している。
現に今のあいつは、あの見るからに煩わしそうな拘束具を付けているにもかかわらず、当初の目標である30手回避のうちの15手ほどをコンスタントに出すほどの成長ぶりを見せている。
精々5手が限界だった訓練始めの頃を思えば、格段の成長ぶりだ。
だからこそ、そろそろ私の方もシュランゲフォルムの訓練時解放を考え始めていた。
そう多くない日数の中で、私の動きに必死に食らいついてこようとするあいつが、連結刃による動きの読みにくい攻撃をどう受けるのか、今から楽しみと言えよう。
ただ、そんな私の心踊る様とは裏腹に、以前から気にかかっている事柄がいよいよ気持ち悪さだけでは表現できなくなってきていた。
「……何かを隠している。そう考えるのが妥当か?」
違和感は早くからあった。
プレマシーの魔力ランクはAA。にもかかわらず、移動、攻撃、防御、補助、あいつが使う魔法のほとんどが、魔導士の使う魔法の中では比較的初歩のものばかり。
ヴァリアブルシュートなどの例外はあるが、そういう例外は本当に数少ない。
それが悪いと言う気はない。
そもそもあいつの使う魔法の練度は、私の目から見てもかなりの域に達している。
高町ほどではないまでも、魔力消費を抑えた、それでいて妙に魔力効率の良い威力の高い魔法。
多くの無駄を排除した、見事なまでの魔法行使の効率化。
ホテルアグスタで見せた手際の良さ。
全体として見た際の威力に多少難があるとはいえ、魔法発動から攻撃までのラグを出来る限り削減したうえで発動する魔法は、あの年頃の魔導士が扱うものとしては破格であり、感嘆の一言を持って表していい。
研鑚に研鑚を重ねなければ、あの場所にまで辿りつくようなことは無いだろう。
年に数度。都合をつけて貰うことで行なっていた手合わせを思い出しても、少ない手札で多彩な戦闘を行える、面白い男だと思っていた。
初歩があっての応用。
私の攻撃とて、剣の一振りが全ての初歩にして起点。
そして、その一振りを極めてきたという自負もある。
極めた初歩をもって放つ技は、どんな小細工を弄すよりも確実に自分の武器となる。
卵が先か鶏が先かは知らないが、あれほどまでに執拗に基礎を極めようとしている様から見て、その重要性はあいつとて理解の範囲内だろう。
だがそれ故に、プレマシーの持つ魔法の中に切り札が無いことが気にかかった。
やつの腕で放つ切り札ともなれば、その威力は推して知るべし。
保有する魔力ランクに則した威力だとは考えにくいだろう。
だからこそ、やつが昨今の戦場でその切り札を使うことのない現状が、なんとも気にかかる。
ヴィータや高町の話では、プレマシーが墜ちたあの件以前には、そういう魔法も使っていたそうなのだが……。
以前あいつが勤めていた課では、単独での任務を主としていたと聞いている。それ故に魔力の無駄を減らすことで戦闘を安全にこなすという名目の元の魔力節制だと、そういう説明も通らなくはないが……。
「一人で複数の敵と戦うことを想定しての節制の可能性もあるか? だとしても疑問は残るが」
複数の敵と戦うことを想定しているのだとしても、高威力の攻撃方法を使わない理由にはならない。
報告によれば、プレマシーはどのような敵を相手取る時にも、カートリッジを使用した魔力の底上げによって敵をねじ伏せているそうだ。
しかもそれは度が過ぎると言うような場面すらあって、この課に来てからの記録だけでも、カートリッジフルロードによる魔力弾発射が少なくないという。
単純に威力の高い魔法を使った方が明らかに効率的である場合もあると言うのに、だ。
そうまでしてあいつが魔力の消費を抑える理由とは何か。
「理由として考えられるものの中で一番辻褄の合うものは……」
やはり高町を庇っての怪我か?
あの怪我で何かしらのハンデを負い、それが理由で魔法の使用に制限が……?
そう言えば、あいつと果たした初めての模擬戦。
「あの酷い結果も、そのハンデと関係があるのか?」
一合を打ち合うことも無く私が勝利し、高町やヴィータに聞いていた前情報からそれなりの期待をやつに向けていた私は拍子抜けした。
その後、あいつは魔力ダメージを負ったせいで真っ青な顔色で連行されて行き、担ぎ込まれた医務室のベッドで、私に同行していた高町と共に対面を果たすと、
「すみません。反応も体も鈍っているみたいです」
この様子では、本調子を取り戻すには時間がかかりそうですね。と苦笑した。
心配そうに本当に大丈夫なのかと問う高町の隣で、そういう事情があるならば────と、思っていた。
だが思えばあの時、プレマシーは試合の前から顔色が悪くはなかったか?
調子が悪かったとはいえ、斬りかかる私に、刀を目の前に掲げる以外の防御策を全くとっていなかったのはなぜだ。
まさかとは思うが、魔法を通常通りに使うことが困難になるほどの異常が、あの時にあった?
だとすれば────
「リンカーコアに何か……?」
それが理由だとすれば、一時期職務を真っ当にこなし切れていなかったという事情にも、あいつのやる気が急に無くなったなどという言い訳よりは遥かに筋が通るが……。
しかしそうならば、なぜ入院中にそれが発覚しなかったのか。そして、なぜ今は魔法を使うことが出来ているのか。それらの説明が上手くつかない。
そして何より問題なのは、その事実をあいつが隠しているのだとして、それが何のためであるのかという所だ。
尤も、こんな事実を隠蔽することのメリットなど、考え付くものはそう多くは無いのだが……。
私はそこまで考えて、詰めていた息を吐き出した。
「考えるのは、どうも私の性には合わないな」
考えれば考えるほど、泥沼に嵌まっていくようだった。
そもそも、あいつ過去にそのような事実があったとして、それを今更掘り返してどうしようと言うのか。
いくつか不審な点はあるが、あいつは今、大きな問題も無く魔法を行使し、最初に私と戦った頃とは比べ物にならないくらいの食らい付きを見せている。
そしてあいつの使う魔法には、あいつの重ねてきたいくつもの努力の片鱗が見えていた。
プレマシーがなにを抱えていようと、あいつが今真摯に自分の実力と向き合っていることは間違いない。
それを、根拠に乏しい邪推であいつが今まで積み重ねてきた高町たちとの関係にまで余計な茶々を入れるようなことが、私の今取るべき手なのだろうか。
自分に足りないものを手にしようと努力し、今まで目を背けていた事実と向き合う覚悟をあいつが決めたというのなら、私にできることはあいつに向けて手を抜くこと無く剣を振ること以外にはないのではないのか。
「……とはいえ、少し気をつけて見ていることにはしようか」
今の時点ではただの邪推であるとはいえ、もし本当に何かがあると言うのならば、それがなんであれ主には報告しなければならないだろう。
だから当面の目標として、あいつとの訓練に付き合える時間を出来るだけ作ることにしようかと思う。
そうすることで、あいつの動向を追うことにしよう。……と、我ながら下手だと感じざるを得ない言い訳をしながら、私は訓練所を後にした。
もしも私の邪推が正当なものであったと仮定して、プレマシーの隠匿しているその事実が白日の下に曝された時、心情的に見てその影響を最も受けるだろう人物。
高町なのはとヴィータ。
なるほど高町に昔から聞かされ続けていた話の通り、あいつは真実お人好しのようだった。
尤もこれすらも、今の時点ではただの邪推の延長線上にある考察でしかない。
だがそれ故に、この考察が真実であったならば、あの男の生きることの下手さは筋金入りだな────と、苦笑するのだった。
2011年4月25日投稿
今回は早めに投稿することが出来ました。良かったです。
次のお話はこの記事に追記することになると思われますので、ご了承いただければと思います。
それでは、また次の更新で会いましょう。
2011年5月15日 大幅加筆「烈火の将シグナムの考察」追加