隊長室の前にたどり着くと、ティア嬢が入室の手続きを取り始めた。
「八神部隊長、ティアナ・ランスター二等陸士です。セイゴ・プレマシー准空尉をお連れしました」
堅苦しい口調でコンソールにそう告げると、入ってええよーと気の抜けた返事が聞こえる。
それを確認してティア嬢はスバ公たちを促して先に入室した。そして邪魔にならない位置に控える。さすが真面目少女、動きに無駄がない。
このまま廊下に突っ立ってても話が進まないので、俺も入室。
部屋の中には見た顔三つ。高町に八神にフェイトさん。なぜフェイトさんだけ名前呼びかというと、名字が長いからである。ちなみに八神だけデスクについて似非ゲンドウポーズしてた。
「お、来たね誠吾くん」
「いらっしゃい、セイゴ」
「ち、直接会うのは久し振りだね。いらっしゃい」
……なに、このお帰りなさい的雰囲気。さすがに予想外なんですが。
あんな方法使って呼んだ手前、さすがにもうちょっとこう、仕事っぽい感じで接してくるだろうと思っていたのだけど。
八神はまあ、八神だからいい。でもフェイトさんは今の反応的に、俺がここに来た理由を知らないのじゃないだろうか。こういうことは普通に反対しそうな人だしね。
その点高町の微妙そうな口調はそのまんまの反応だなーと思う。しかしなんだか違和感もある。まあ、俺の反応見ようとしておっかなびっくりしているといった感じなのかもしれない。
ならば反応してみよう。嫌がりそうな感じで。
俺は八神の対面に気をつけをして立つと、キビキビした動きを心がけて敬礼をした。
普段は絶対に浮かべないような満面の笑みを浮かべながら。
「本日付で、時空管理局本局、古代遺物管理部機動六課へと配属されました、誠吾・プレマシー准空尉です。お久しぶりです、皆さん」
高町の目が見開かれた。
八神の方も微妙に表情が崩れてた。
しかしそこはさすが八神、一瞬にして表情を取り繕い、余裕を見せるように笑顔を浮かべる。
それとは対照的に、フェイトさんは「え?」と首を傾げている。高町は眦を下げて何か言いたそうにしていたけれど、そっちの方からは目を逸らした。
「この度は私のような一局員の出向に、わざわざ面倒な手続きを踏ませてしまいまして、申し訳ありませんでした」
「────あ、うん、それはええんよ。ただね、誠吾くん。そ、その敬語は嫌がらせやろか?」
苦笑を浮かべながらそう言う八神。そうです、嫌がらせです。嫌がらせなんですが、
「申し訳ありません。仰っている意味がよくわからないのですが」
「……そかそか。ま、それでもええよ。きみがどういう態度をとっても、私もキミへの接し方を変える気はないしね」
さすが八神、俺たちに出来ないこと(真黒な腹芸)を平然とやってのける。
しかしそこに痺れもせんし憧れもしないけども。
あー、しかし久しぶりの八神とか相手の真面目な敬語疲れる。腹芸し合うのはもっと疲れる。
だけどここで折れたら意味がないので頑張れ頑張れ負けるな俺心にもないセリフを絞り出せ俺。
「そうですか。……しかしそれにしても、私ごとき不良局員のために出迎えまでよこすというのは、流石にやり過ぎではないかと思うのですが」
「そんなことないよ。不良なんかやないし、誠吾くんはとっても優秀や。ね、なのはちゃん」
「……うん。彼は今年の初めから今日まで、違法魔導師逮捕11件、魔法災害救助23件、通常災害救助25件、軽犯罪の処理39件の解決に尽力してくれてるよ」
……驚きを隠せないんですが。
なにこの娘。何で俺本人も覚えていないよう情報網羅してんのストーカーなの? しかもアカペラでスラスラ言うとか丸暗記ですかそうですか。
これ絶対なんか裏に有りそうだから訴えたら勝てんじゃね? ……いや無理だ。俺がここにいるとこから考えて法的権力は明らかにあちら側に傾いてる。勝ち目ねー!
「それにキミにはレアスキルもある」
レアスキルってあれですか? あの使えるのか使えねーのかいまいちよくわからんやつのことですか。
てかそれ今ここで言うほどすげー能力じゃねーじゃん。確かにレアスキル持ってるやつとか大抵すげー奴だけど、俺の能力微妙じゃん。
つか余計なことを言うから横にいる連中超動揺してるんですけどアフターサービスの用意は勿論万端ですよね。ていうか万端にしろコノヤロー。
「……やー、お言葉ですけど。いろいろ一ヶ所に集め過ぎるのは、些かどうかと思いますが」
「確かにな。けどな誠吾くん。うちの隊にはいろいろ過ぎた力が必要なんよ。それは分かってもらえんかな?」
ああ、なんてお手本みたいな暖簾に腕押しなのだろうか。俺だってそれなりにいろんな場面で交渉はしてきたつもりだったけど、まだまだ至らないことは多いものだなと微妙にため息が出る。
ていうか、こんな過剰戦力集中する理由なんか分かったらいろいろ危なそうだから分かりたくないんですけど。
「……、いや、まあ、その話は、わざわざ迎えをよこすこととは関係ないのでは?」
「誠吾くん。私がなーんもせーへんかったら、辞表書いてとんずらしてたんと違う?」
「……」
「ま、誠吾くんは見も知らない他人に直接的に迷惑のかかることは嫌うからな~。ティアナたちを迎えに行かせたら、きっと逃げられなくなるやろなと思たんや」
それを聞いて、敬語を駆使する俺を茫然と見ていた(まあ、何かするとは言ってたけれど、何をどうするとまでは伝えていなかったから、俺の変わりように驚いているみたいだった)エリ坊たちの態度が目に見えて変わる。
汚いな、流石狸きたない。
論点の逸らし方が昔からえげつない。周囲の人間使って自分に都合の悪い話から逃げるとかいろんなものの風上にも置けないでしょう?
「そ、それって、もしかしてセイゴ……じゃなくてプレマシー准空尉は僕たちのために……?」
「せやでエリオ。『自分が逃げたら迎えにきたそいつらが怒られる。そいつら悪くないのにそれは可哀想じゃね?』とか思たんと違うかな」
……そんなに分かりやすいだろうか、俺は。ていうか、この四人組さっさと出て行ってもらったほうが良かったかなぁ。
やー、それはないか。あれだけ何か言いたそうにしてる高町が何も言ってこないのは、この四人がいるからだろうし。
部下の手前、外聞を気にしてはいるらしい。それがなくなった高町に詰め寄られたら、多分俺は流される。どっちがマシかといわれたら、多分今の方だろう。
つか、あいつらの方チラ見したら全員の表情が個人差はあるもののそれぞれアレな感じで非常に嫌な感じなんだけどどうしよう。
特にスバ公とかなんで目が輝いてるのやめてその目はさっきロビーで高町を褒めてた時の目でしょこっちに向けないで。
「ん、誠吾くんどうかしたん?」
分かってて言ってるよねこの人。なんだろうかそのニヤケ面は。額に『肉』の字を書きたくなるからやめるべき。
「……いえ、なんでもありません。それで私にどのような仕事をさせるおつもりで?」
「ん。それはこの書類見てくれれば分かると思う。リミッターの設定もよろしく。誠吾くんのは一段階分下げることになっとるから、ランクはAになるね」
八神の寄越した文面を適当に流し見してから、げんなりした。
「……これは要するに、六課の雑用を一手に担えと、そう言う捉え方をして構いませんか?」
「うん、かまへんよ。私もなのはちゃんたちも、誠吾くんには期待しとるからな」
期待(笑)
管理局期待の三人娘さんとか世間から騒がれている人たちの期待の結果とやらに書類雑務と庶務系雑事まで混ざっているとは何事だろうかと小一時間くらい話し合いたい気がした。いやしないけども。
「……了解しました。では正式着任は明日からのようですので、今日はこれで失礼させていただきます」
「あ、ちょっと待って誠吾くん。も少し世間話でも────」
「いやです」
脊髄反射よろしく言うと、八神が「む」と押し黙る。なんかいろいろとタイミングのよい状況っぽい気がしたのでついでに言いたい事でも言っとこうかなって感じで追い討ってみる。
「八神部隊長、あまりグダグダ言いたくは無いので、一つだけ」
「────なにかな?」
「申し訳ありませんが、職場で『誠吾くん』とか呼ばないでください」
「む……」
状況がそれなりだったからか、珍しく八神が動揺した。
「────なら、どう呼べばいいかな?」
それでもその表情のまま苦々しげに聞いてきたので、出来る限りよそよそしく、プレマシーとか呼んでいただけると嬉しいですと笑顔で返して身を翻すと、俺はそのままドアの方へ近づいた。そのまま部屋を出ようとしたところで、
「せーくん、待って!」
高町に、呼び止められる。
「お話、お話しよう! ね、お願い……っ」
なんだか、随分と必死な声だなと思った。
なぜそんなにも必死なのだろうかと、疑問に思わないでもない。
こういうやり方、以前から俺に対しては遠慮なくやってたじゃんかと思う。他のやつにやってるかどうかは知らないけど。
まあ、仕事上でまでこんなんされたのは、初めてだったけどさ。
俺はその場に立ち止まって静かに深呼吸する。そして声のした方へと向き直り、
「高町さん」
「────っ」
そう呼びかけると、彼女は驚いたように身を硬直させた。これ以上追い打ちをかけるような真似もどうかと思うけれど、なんだか自制が利かなかった。
このとき自分が割と苛立っていたらしいってことには、結構後になってから気付いた。
「いまの私は、あなたの部下です。だからいま、普段みたいに接するようなつもりは、少なくとも私の方には無いんですよ」
「そ、れは────…」
「……でも」
ご命令とあらば、私に拒否権はありませんけれど。
八神部隊長もあなたも、先程の要件は、ご命令ですか?
それに対する高町の返答なんて、分かっていながらそう聞くと、高町は目を瞑って予想通りに髪を振り乱した。
だから俺は、
「なら、私はこれで失礼させていただきますね」
「……ぁ」
「────では」
それだけ言い置いて、部屋を後にした。
部屋を後にしてしばらく廊下歩いてたら後ろからドタドタとこちらへ複数人が駆けてくる音がした。ので振り返るとティア嬢達がこっちに全速前進DA☆状態で突貫してきたのでさすがにビビる。
で、
「あんた、さっきのあの回りくどい態度はいったい何よ」
「セイゴ、さっきの僕たちのために逃げなかったって話本当なの!?」
「セイゴさんって凄いいっぱい事件解決してたんだね!」
「セイゴさんってレアスキル持ちだったのっ?」
「キュクルー!」
四人と一匹で一斉に話しかけないでください。
聖徳太子の有能さを改めて認識しなくてはいけなくなるじゃないですかやだー。
「まあいろいろとあるんだろうけど、とりあえずちょっと教えてくれない、ティア嬢」
「え、私? ……なによ」
「高町さんのことなんだけど、あの人いつもどれくらいの時間に仕事あがる?」
「なんでそんなこと……」
「いいからいいから」
若干詰め寄る俺の雰囲気に気おされて、なんなのよ。とか文句言いながらも答えてくれるティア嬢。
「そっか、あと二時間はあるか」
「今日はこの後訓練もないから、多分だけどね。ていうか、答えたんだから私達の質問にも答えてよね」
「ああ、そうだな。じゃ、俺の頼みもう一つ聞いてくれたら答弁タイム突入ってことにしよう」
「……なに?」
ものすごく警戒した様子で聞いてくるティア嬢。なにその態度、別に大したことしねーよつーか何かされるとか思ってるなら心外。
とか思ったけどとりあえず苦笑しながら言う。
「キミ達確か今日はもう非番だよな。それなら六課の中、案内してくれない?」
六課の中を粗方案内され終わってから、俺は高町が寮に戻る時に通るという道で、もうすっかり暗くなった夜空を見上げながら突っ立っていた。
近くの物陰のどっかにティア嬢達が隠れているはずだが、俺に気配を辿らせないとは相当離れてるのか結構手練なのか知らないが、やるなーあいつら。
とか思ってると、こちらへと近づいてくる足音を感知。そっちを見ると、俯いて落ち込みオーラを振りまきながらこちらへとやってくる一人の少女を発見。
と、不意にこちらを見て、驚いた表情をしたそいつ。俺は軽く手をあげて挨拶する。
「こんばんは、高町」
「あ……」
なんで、さん付け外しただけで滅茶苦茶嬉しそうな表情を浮かべるのだろうか。こんな状況、普通嫌そうにするか怖そうにしない?
昔からだけど、なんか妙なトコずれてるよなー。とか思いつつ、さっきとはうって変わった雰囲気を漂わせながらこっちに駆け足で近づいてくる高町を見てそのあまりに楽しそうな様子になんだかイラっとくる。
イラっときたので、嬉しそうな顔で近づいてきた高町にチョップを入れてみた。
俺の動きが予想外だったのか知らないが、馬鹿正直に俺の一撃を食らった高町が叩かれた所を押さえて蹲る。
「────っ!? な、なにするのせーくんっ!」
痛みに少し悶えてから、立ち上がって涙目で顔を近付けてきたのでのけぞるように遠ざかりながらもう一発額にチョップ。
「あうっ!?」
そこから連続で怒涛の連発チョップへ移行。
高町も叩かれた所をガードするが、目をつぶって受動的に防いでいるだけなのでガードの無い所を狙って両手でビシビシとダメージを与え続ける。
「いっ、痛いよせーくんっ!?」
「ああ、俺も痛い。手が」
「そこは嘘でも心が痛いって言う所じゃないのっ!?」
「それはとても笑える冗談ですね」
「嘘でもいいから容赦が欲しいよぅっ!」
無理だと思う。俺だし。
というか、多少の八つ当たりくらいは許してほしい。ほら、オレタチトモダチダロ?とか言ったら高町が、言い方がぜんぜん嬉しくないよぅ!とか泣き言言ってた。
まあ、それはともかく今回のこれ、セイス部隊にどれだけ迷惑かけたんだろうか。
仕事の引き継ぎも、こんな中途半端な時期に俺に代わる人財探すのも、管理局に勤めて長い高町なら並の苦労で出来ることじゃないってことくらい分かっていると思う。
なにしろ、最近の俺の日課と来たら、新人のフォローで残業フルコースからのお泊まりがデフォルトだったのだ。ただでさえ局の仕事ってのは物量が多いから大変だってのに、余計なことしてくれたおかげでもう単純な残念って言葉が痛く霞むくらいの残念さ加減に突入のはずである。
あ、セイスってのはあの鬼ボスゴリラの名前です。
とか、誰に向けているのかいまいちわからん説明を心中で入れつつ、高町の頭を狙うチョップの雨をさらに加速させる。
「いたたたたたっ!? ちょ、ちょっと待ってホントに痛いよ!?」
「そうなのかー。大変だなー」
「気持ちが篭ってないっ!?」
そりゃそうですね篭めてないですものねとか思いながらそのまましばらく叩き続けていたんだが、そのうち頭抱え込んでうずくまりながらごめんなさいごめんなさいと呟き続けるようになってきたので攻撃をやめる。
高町は、
「うぅ……あたま痛い……」
って感じで泣きかけてたんだが、そこから管理局有数の力を持つ魔導士の誇りかなんかよく分からんもので気持ちをなんとか持ち直したようで、
「ご、ごめんね、せーくん。わたしのせいで、こんなことに……」
本当に、ごめんなさい。と、蹲ったまま視線を伏せつつそう言う高町。
何だか調子狂うくらい落ち込んでるなと思いながら、俺も口を開く。
「ま、高町が八神の力を借りて無理矢理……ってのは、いつも通りではあるんだけどな」
これは流石にちょっと。と言うと、高町の肩がビクリと震えた。
高町の予想外に怯えきった様子に、やりすぎたかなと俺は所在無げに頭をかいた。
そして、言い訳染みたニュアンスで口を開いた。
「でも、ま。俺がもっと、しっかり断ればよかったんだよな」
「……え?」
高町がキョトンとしながら俺を見上げた。
「……せー、くん?」
「途中から、まともに話も聞いてなかったような気もするし」
「……」
高町が、蹲りながら落ち込む。……あぁ、もう、どうでもいいか。
どうせ全部今更で。なにを言ったってもう仕方ない。
いろんなことにキチンと対応しておかなかった俺にだって、責任は求められるべきだろうし。
「高町」
「え────あ…っ」
高町の手を引いてとりあえず立たせる。顔を見ると涙の痕があったけれど、謝るのも何か違うだろうと思った。
「とにかく、今度隊長んところ挨拶行こう。とりあえず顔出さないと」
「あ……う、うん!」
一瞬驚いて呆けてから、気を入れなおすようにしっかりと返事をして頷く高町。
それを見て、これ以上彼女にさせる釘なんてないなと溜息をつく。
にしても今日は、やたらと疲れた。とにかく帰ってもう寝たい────って、あ。
「? どうかしたの、せーくん」
突然固まった俺の方を見て高町が不思議そうな顔をした。一方俺はそんなことどうでもいいくらい今日一番の焦りを感じていた。
いろいろと怒涛の連続に巻き込まれて忘れてたけど、俺の住まいってここから電車でどう頑張っても数時間じゃね? つまり、
「……俺、今日泊まる場所ない」
「……あ」
高町も俺の今の状況に気付いたのか、ポカンと口を開いた。
ああ、あれだけの理不尽にさらに重ね付けしてこんなオチか。神様なんてみんな不幸になればいいね。
このあと、わたしの部屋に来る?などと言いだした、女性としての感性が根こそぎ逝かれてるんじゃねーかと思う高町の額を小突いてからその辺に隠れてたエリ坊たちを見つけ出し、今日の俺の宿を獲得する作業が始まるのだが、ここでは割愛。
しかし、割愛とは別に補足を一つ。
「あ、そうだ」
「? どうしたの?」
「いいこと思いついた」
「……なに、かな?」
「今日のこの何と言うか、もやっとした感じをしばらく忘れないために、とりあえず職務中は徹底して敬語使い続けてみよう。うん」
「え゛……」
心底嫌そうに顔を歪めたこの時の高町の表情を、多分半月くらいは忘れない。
介入結果その四 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの心労
隊長室に入って来た時から様子のおかしかったセイゴが、言葉でなのはを突き放して部屋を出て行き気まずい雰囲気が流れる中、エリオたちが私たちに礼をして部屋を出て行ったあと、
「あかん、誠吾くんあれマジギレや。さすがにあかんかったかなー……」
はやてが頭を抱えてつぶやいた言葉を聞いて、私はその真意を問いただした。
そうして私が知ったのは、最近目に見えて元気のなかったなのはのために、彼女が勝手にセイゴをここへ無理やり呼び寄せたという話だった。
私は愕然とした。
確かに最近なのはに少し元気が無かったのは分かっていたけど、その原因がセイゴの意思によるものだった以上、私にはどうする事も出来ない。
彼にだって事情があって、私たちの勧誘を断ったはずなんだから。
それが分かっていたから、いつかみたいな危険なことが起こらないようにって、私はいつも以上になのはに気を掛けて、そのフォローに徹していた。
今回新設したこの機動六課に、なのはが積極的にセイゴのことを誘っていたのは知っていた。
なのはとしては久しぶりに彼と一緒に働くいい機会だと思っていたらしく、それこそ毎日のように彼に通信をかけていた。
その様子を時々見ていた私も、日に日にげんなりしていくセイゴの様子を苦笑しながら眺めていた。
だけどセイゴは、頑としてそれを受け入れようとはしなかった。
理由は教えてくれなかったけど、それだけの何かがあったのだと思う。
だからこそ、セイゴの怒りは当然だった。
それを察したからこそ、なのははさっきから俯いて何も言わないのだろうから。
今朝はやてに二人一緒に呼び出されて、セイゴが六課に来ると言われた時の表情とは、何もかもが違いすぎる。
そのあとすぐに任務に赴いた私は知らないことだけど、なのはは私が出て行った後に、はやてにセイゴを呼んだ方法を聞いて、彼がエリオたちに連れられてこの部屋に来た時には罪悪感を感じていたそうだ。
心配になって大丈夫?と聞くと、か細い声で大丈夫だよと言って笑ってくれた。けど、全然大丈夫には見えない。
そのあと、今日は訓練を丸一日休みにしてあったので、気まずい雰囲気のまま書類整理を始めるためにオフィスへ。
だけどなのははやっぱり酷く落ち込んでいて、元気が無かっただけの昨日までと比べても全然仕事が進まない。
仕方が無いから今日はもう帰るように言ってなのはを送り出し、私が彼女の分の書類を変わる。
グリフィスたちにも手伝ってもらってそれを終わらすと、もう既に夜の8時を回っていた。
手早く帰り支度をして、寮へと急ぐ。
きっとなのはは今頃落ち込んでいるはずだ。だから慰めることはできなくても、傍には居てあげたい。そう思ったのだけど────
「あ、お帰りフェイトちゃん! にゃはは」
────寮に帰りついて自室で見たのは、笑顔満開のなのはだった。
……何が何だかわからない。
帰り道で何かあったのかと思いついて翌日セイゴのもとへ行ってみたけど、セイゴの態度は昨日と変わらない。
……本当に、なんなんだろう……。
訳がわからなくて、でも誰も説明なんてしてくれなくて。
……私の心労は、こうして順調にたまっていくのだった。
おまけ-数日後の会話-
「でもせーくん、もし辞表書けて管理局を辞められたら、どうするつもりだったの?」
「ん? んー……ほとぼりが冷めたころに嘱託魔導師試験受けて探偵業とか始めてもよかったかもなー。あ、マジでそれ楽しそうだわ。今からでもやるか」
「だ、だめ! せーくんは一生管理局で働くの!」
「おい誰が管理局の奴隷だ。つーか定年退職無しとか鬼畜すぎだろ管理局。それと労働基準法って言葉を知ってますか高町」
「そ、それは地球の法律だもん! ここはミッドだからいいの!」
「いや、こっちにもそれに準じる法律は────…」
「わたし最近休暇一切使ってないけど何にも言われないからいいの! ────あ」
「……おい」
「……に、逃げますっ!」
「あ、ちょ、待てコラ! 今度親父呼んで健康診断させるからな! 絶 対 させるからな!」
「それ、振りー?」
「マジですけどね!?」
2009年6月18日 投稿
2010年8月23日 改稿
2011年8月16日 再改稿
2013年5月30日 再々改稿
2015年3月15日 再々々改稿
2018年7月8日 再々々々改稿