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No.9553の一覧
[0] 【習作】半端な俺の半端な介入録(リリカルなのはsts オリ主)最新五十八話更新[りゅうと](2017/05/22 20:30)
[1] プロローグ-別れと出会いと-[りゅうと](2018/07/08 02:01)
[2] 第一話-旅と道連れ世に情け-[りゅうと](2018/07/08 02:23)
[3] 第二話-驚き桃の気キャロさんの気-[りゅうと](2018/07/08 02:41)
[4] 第三話-愛しさと切なさとなんかいろいろ-[りゅうと](2018/07/08 03:00)
[5] 第四話-朝練と三等空尉と部隊長と-[りゅうと](2018/07/08 03:11)
[6] 第五話-六課の中の誠吾-[りゅうと](2015/07/26 21:34)
[7] 第六話-朝と依頼と高い所と-[りゅうと](2015/07/26 21:42)
[8] 第七話-初任務とあれ以来のそれ-[りゅうと](2015/07/26 21:45)
[9] 第八話-始まりと決意と焦りと-[りゅうと](2015/07/26 21:53)
[10] 第九話-一つの出会いと焦りの果て-[りゅうと](2015/07/26 21:59)
[11] 第十話-中二×理念=フラグ-[りゅうと](2015/07/26 22:09)
[12] 第十一話-経過と結果と副作用-[りゅうと](2015/07/26 22:17)
[13] 第十二話-休暇×地球×海鳴-[りゅうと](2015/07/26 15:24)
[14] 第十三話-ホテル×ドレス×着火-[りゅうと](2015/07/26 16:01)
[15] 第十四話-接触×考察×燃焼-[りゅうと](2015/07/26 17:24)
[16] 第十五話-人によって出来ごとの価値が変化していく不思議-[りゅうと](2015/07/26 19:46)
[17] 第十六話-言葉にすれば伝わることと言葉にすると伝わらないものを使い分けることに対するさじ加減について-[りゅうと](2015/07/26 22:33)
[18] 第十七話-とある日常-[過去編][りゅうと](2015/07/26 23:56)
[19] 第十八話-出会う日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:15)
[20] 第十九話-起きる日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:20)
[21] 第二十話-駄弁る日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:26)
[22] 第二十一話-出向く日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:31)
[23] 第二十二話-語らう日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:42)
[24] 第二十三話-廻る日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 23:39)
[25] 第二十四話-真実隠蔽-[りゅうと](2015/09/12 00:00)
[26] 第二十五話-似通う境遇-[りゅうと](2015/09/13 01:50)
[27] 第二十六話-桃色発起-[りゅうと](2015/09/13 02:01)
[28] 第二十七話-父子の顛末-[りゅうと](2015/09/13 02:24)
[29] 第二十八話-旧知再会-[りゅうと](2016/01/01 02:57)
[30] 第二十九話-敗者の日-[りゅうと](2016/01/02 04:41)
[31] 第三十話-交差する未明-[りゅうと](2016/05/16 01:01)
[32] 第三十一話-嘘も方便-[りゅうと](2016/05/16 01:44)
[33] 第三十二話-平穏?な幕間-[りゅうと](2016/05/21 23:38)
[34] 第三十三話-明かせぬ過去-[りゅうと](2016/05/22 00:39)
[35] 第三十四話-その情報、危険につき-[りゅうと](2016/05/22 00:59)
[36] 第三十五話-接触其々-[りゅうと](2016/06/05 01:03)
[37] 第三十六話-擦れ違う言葉-[りゅうと](2016/08/06 19:45)
[38] 第三十七話-忘却事件-[りゅうと](2017/02/27 23:00)
[39] 第三十八話-想い混線-[りゅうと](2017/02/27 23:00)
[40] 第三十九話-風邪っぴきなのはさん-[りゅうと](2017/03/01 01:10)
[41] 第四十話-ユーノくんとの裏事情-[りゅうと](2010/11/28 18:09)
[42] 第四十一話-彼と彼女の事情-[りゅうと](2011/02/28 23:49)
[43] 第四十二話-桃色奮起-[りゅうと](2011/04/20 03:18)
[44] 第四十三話-連鎖するいろいろ-[りゅうと](2011/05/15 01:57)
[45] 第四十四話-微進する諸々-[りゅうと](2011/06/12 02:06)
[46] 第四十五話-高町トラウマパニック-[りゅうと](2011/07/08 03:14)
[47] 第四十六話-それは己の未来の如く-[りゅうと](2011/11/20 02:53)
[48] 第四十七話-変化は微細に-[りゅうと](2012/05/05 23:46)
[49] 第四十八話-答えの日①-[りゅうと](2013/01/04 03:56)
[50] 第四十九話-答えの前に考察を-[りゅうと](2013/09/08 23:40)
[51] 第五十話-答えの日②-[りゅうと](2013/11/11 01:13)
[52] 第五十一話-友達として-[りゅうと](2014/10/29 00:49)
[53] 第五十二話-ファントム分隊-[りゅうと](2014/10/29 00:48)
[54] 第五十三話-彼の思うゼロの先-[りゅうと](2015/06/18 23:03)
[55] 第五十四話-動き続ける思惑の裏-[りゅうと](2015/12/21 01:51)
[56] 第五十五話-そしてわたしは名前をつける①-[りゅうと](2016/03/12 23:53)
[57] 第五十六話-そしてわたしは名前をつける②-[りゅうと](2016/05/06 00:37)
[58] 第五十七話-そしてわたしは名前をつける③-[りゅうと](2016/06/26 02:46)
[59] 第五十八話-そしてわたしは名前をつける④-[りゅうと](2017/05/22 00:40)
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[9553] 第三十七話-忘却事件-
Name: りゅうと◆352da930 ID:73d75fe4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/02/27 23:00
俺より少しだけ、彼女が先行していた。
ただ、それだけの差だった。
彼女の千切れるような悲鳴を聞いた瞬間には、もうソニックムーブは発動していた。
一瞬でケルベロスのような外観の対象に肉薄すると、魔力刃を纏わせた刀を首筋に一閃。更に斬りつけたのと寸分違わず同じ場所に一つカートリッジロードした状態で今の状況に合わせてヴァリアブルシュートを六発ブチ込む。
纏った魔力皮に邪魔されて効果的と言えるようなダメージを与えるには至らないものの、左腕に噛みついた顎を開かせて彼女から引き剥がすことに成功。
やったこと相応に怯んでいるようだったので、そのまま刀の方のカートリッジを三発ロード。
スタンダードな輪っか型のものではあるものの、密度だけならその辺のものには負けない自信のあるバインドを三つ、口と胴と前足二本を拘束する形で展開する。
それから、負傷した左腕を押さえて唇を千切れんばかりに噛み、悲鳴を堪えている彼女を抱えてソニックムーブ。
追ってきている可能性を考えてサーチャーを飛ばすと、うしろで桜色の閃光が光の柱を作っているところだった。
それを見て、問題が一つ片付いたと安堵する。
そのまま十分距離をとったところで、彼女の左腕の屑キレのようになったバリアジャケットを剥ぎ、傷の具合を確かめて手当てするために、一も二も無く最近俺が独自に開発した診察用の走査魔法を発動。彼女はその時点で、痛みへの防衛本能が働いたのか気絶していた。
だから、焦る。以前の付き合いが長かったから分かるが、痛みにはかなり耐性のあるはずの彼女が────骨が折れた時だって歯を食いしばるだけで痛みを耐えるような彼女が、耐えられないほどの苦痛。
そしてその焦燥は、悪い予感を的中させる。
『無機質な声で事務的に事実のみを告げる』ファントムから、最悪の答えを得る。
対処できる魔法が俺の手持ちに無い。それ以前に、この世に存在していない。
単なる細胞浸食じゃない。ロストロギア特有の未知の魔法による細胞破壊。
時を止める魔法でも持ってこなければ、浸食を止めることすらできないレベルの魔力。
驚愕とともに限界まで見開いた眼で患部を凝視する。
牙に裂かれて血の流れ出る患部から、周囲の細胞にむけて少しずつ肌の色が紫色に変色していっている。
浸食スピードが異常だ。このままじゃあ、あと数十秒で左腕全てを蝕むだろう。
数分したら、全身までも蝕むかもしれない。
そうなった時の結果も、ファントムが平坦な機械音声で口にした。


────死────



いや、死ぬ? 彼女が? あの彼女が? 俺の恩人が? こんな、こんなたったひとつの失敗だけで?
いや、そんなわけないだろ、なんて、俺達より先行して、通信もサーチャーによる偵察も出来ない帯域に偵察に出た他の隊員の人達がなぜ帰ってこなかったかの理由を察した。
きっと、きっとさっきの黒い獣に、全員やられたんだろう。
ふざけるな。と、絶叫した。
ふざけるな。滅茶苦茶だ。分隊長たちが全員死んだ? あの人たちが? あの気のいい人たちが?
そして、目の前で苦しんでいる彼女も、もうすぐ死ぬ?
久しぶりに会ったんだ。久しぶりに会って、あの時のように皮肉を言いあって、あの時のように肩を並べて戦えると思ったんだ。
それが、それがこんな形で幕切れをするなんて、冗談じゃない……。



────やるしか、ない。



彼女を助けるには、俺が今この場でやるしかない。
医療班を待ってられる時間なんて、きっと無い。
仮に待ったとしても、治せる保障すらない。
それじゃ駄目だ。助けられない。助けたいのに。死なせたくないのに。
やるしかない。俺が。やるしかない。



患部を。患部を────



目の前の現実に絶望して、狂ってしまえたらどんなに楽だろうか。
けど俺は、彼女を助ける方法を理解してしまっている。
あれだけ読んだ医学書の中の、断片的に覚えている無数の知識が、この場で最も確実に彼女を助ける方法を理解してしまっている。
魔力刃を纏わせたスラッシュの非殺傷設定を外した。ガンナーで麻酔と止血と治療用の回復魔法を組み上げた。
そこから先のことは、おぼろげな記憶としてしか残っていない。
全てが終わった後に、向こうの処理が終わったのか息せきかけて飛行魔法で駆けつけてきたあいつが悲鳴をあげている気がした。
あいつが獣を倒したせいか、通信が回復して異変を悟って駆けつけてきたセイス隊長たちが、崩れ落ちて口元を押さえて絶句しているあいつを介抱している気がした。
自分の手元で発動している魔法が、彼女の傷口をなんとか現状維持している気がした。
全てがふわふわして曖昧な記憶でしか残っていないのに、なのに、一つだけ明確に残っている記憶があった。
そう、斬り落とした彼女の腕が、浸食の最終段階に石化して風化して砕けて影も形も無くなったのだけは────



────やけに鮮烈に、脳裏に焼き付いていた。






























悪夢と言って差し支えない感じの夢で目が覚めて、その時うなされてたのをエリ坊に見とがめられて、それを適当に誤魔化してから出勤して、朝練して、朝飯食って、書類仕事の前に新人共相手に模擬戦の真似事をすることになったんだがアレだ。
体が素晴らしく重い。
別に、精神的疲労とか筋肉的疲労とかそういう類のあれが原因じゃあない。
それらの要因が全くないとは言わないが、これの決定的な原因を説明するなら、BJの上から両手首と両足首と腹部についてる輪っかが発生させているバインドっぽいなにかに責任があると言える。
まあ、自発的に着けてるわけだから狙い通りと言えば狙い通りなんだが。ちなみにティアも同じものつけてます。
デバイス展開時にモード選択で自主練モードを選択するとBJと一緒に展開されるように設定してあるそれは、要するにその辺のスポコン漫画で主人公がつけたりするなんたらかんたら養成ギプス的な何かである。
バインドとはいうものの、っぽいとつくだけあって本物とはかけ離れた目的の下に構成されてるその魔力的な何かは、拘束力が本来のバインドの性能を馬鹿にしてるとしか思えない程度しかない。
とはいうものの通常の機動を出来るほど甘ったれた拘束力でもないので、自然と行動に影響が出る。
具体的にはカートリッジをワンロードしてからソニックムーブをかけないといつも通りの加速が得られないとかそういうレベルのあれなのだが、ではそこで魔力をいろいろ無駄遣いしていつも通りに動いた結果発生する魔力消費疲労に慣れるとか魔力運用を上達させるのが主な目的かってーとそういうわけじゃない。
この拘束魔法の目的は、戦闘機動時の無駄を出来る限り無くそうと努力する試みにある。
要するに、体を効率的に動かす方法を学ぶためにはどうすりゃいいんだろうかと考えた俺が遠い昔に実行した策の一つなのであった。
これをつけての訓練を通して、体を楽に動かす筋力の使い方を学んでいただくのが目的です。
楽とはいっても、変なズルをして妙な癖をつけるってことじゃなくて、いらない力の一切を省いた肉体運用を身につけてもらうってことなんだが。だから妙な動きしたらそのあたりはその場その場で注意しなきゃなんだが。
そうすりゃちょっと飛んだり跳ねたりしたくらいじゃ疲労なんて感じなくなるはずだから。俺みたいに。
ティア達の中での俺の認識が、無駄に体力だけはあるやつって感じなアレなんだが実は少し違う。
確かに体力もあるにはあるが、俺がいつもやってる鍛練であんまり疲れなかったり息が切れにくかったりするのは、無駄なことをしないように心がけてるから。と言うか体に覚え込ませてるから。
無駄ってやつはホントにこう……無駄だからね、ホント。俺のボギャブラリーじゃ言葉で説明できなくてもどかしいんだが無駄ってやつは本当、最高に無駄なので出来る限り無くしたいのが俺の心情。
俺の見る限り大抵の局員の方々はティアも他のやつらも含めて動きが無駄だらけで見ててイライラする時もあったりなかったりだが、まあ戦闘スタイルも体の動かし方も人それぞれなのでいちいち文句言ったりはしないんだけども。
その点シグナムさんの体運びとか素晴らしいの一言に尽きる。あれが理想と言っても過言じゃない。素晴らしすぎて到達できる気が全くしないんだけどね!
で、とりあえず体力だけでもつけさせようと思っての活動が今までの俺につき合わせてたアレ。で、今回のこれは次のステップ。
まあ、ティアが本格的に俺に近接戦を習うなんて言い出さなかったらやる気なんてさらさら無かったんだけど。
前にも言ったと思うけれど、ティア達は高町の生徒だ。ちょっとした心構えとか体力作りの手伝いくらいならともかく、訓練内容そのものに、俺なんかが口出ししていい訳が無い。
でもその先生にまで頼まれたので、やれと言われたら自分の出来る精いっぱいくらいは協力してやりたいくらいには彼女たちにも情が湧いていた。
ただ、これが正しいかはよく分からないのでちょっと不安だったりはするのは前にも言った通り。俺には合ったってだけで、ティアにも合うかは微妙なところだ。
けど、拘束の負荷で体がうまく動かないのもあって、ついでに判断力と見切りの向上とかも出来たりするので一石二鳥……のはず。まあ俺が身につけられたくらいだからティアなら楽勝でしょうと言う判断の下に実行した。
まあ長々といろいろ説明したのだが、高町庇って俺撃墜事件以前までの俺とか、セイス隊所属(更生済み)の時の俺とかが自主練中に使っていたものの流用だった。ではなぜそれを今更俺まで着けているかと言えば、鍛えなおしたかったから。
尤も、俺の方は体の運用がどうのだけじゃなくて、体に負担をかけての疲労への慣れと疲労中呆けた頭での集中力の向上の方も狙っているものだから、ティアにかけてる負担の倍ほどの負担をかけてるわけだが。
おまけに、拘束に使ってるバインドもどきへの魔力供給は自前なのでそのあたりの関係で魔力運用の無駄も無くさないとすぐに魔力切れ起こすからそっちも注意。
と、いう感じの状況で、俺は地面に座り込んでへばっていた。
もう既にさっき説明した状態で模擬戦一つ終えた状態なので流石に体が休憩を欲しがってる状態だったというかなんというかな状況だった。
そんな中、あっちはあっちで肉体的疲労でへたばっている新人たちが高町のお説教を終えたらしくこっちに近寄ってきた。
その中でもさっきティアの援護を一身に受けながら気をつけろと高町と一緒にいつも言っているにもかかわらずフェイント無しに俺に向けて突貫してきたスバルは、俺がここ数日での経験を生かして援護を全て撃ち落とした上でカウンターのガンナー魔力刃を合わせて吹っ飛ばしたのでボロボロだった。
怪我で左手しか使えない上に、新人たちに合わせて真っ向からの戦闘想定である都合上俺も必死だったから手加減が一切できなかったとはいえ、そのなんとも情けない姿を見てるとつい先日高町とヴィヴィオの関係の件でぽろっと本音を漏らした俺に対して「大丈夫だよっ! なのはさんは絶対大丈夫!」とまで超強気で豪語してこちらを絶句させたのと同一人物とはどうしても思えないよね。
つーかスバルの抱いているあの高町への異常的なまでの信用はどこから来るのだろうか。そういえば今まで聞いたことが無い。
と言うわけで近付いてきたあいつらに話を聞くと数分休憩のようなので、ちょうどいいので話を振ってみたのだが。

「え、お前あの空港火災にいたの?」
「うん。そこでなのはさんに助けられたんだ」

四年前の空港火災で空港内で遭難していたところを高町に助けられたんだと告白を受ける。
で、さらに話を聞いて、なるほどー。高町がディバインバスターで空港の屋根に穴開けた原因がこの子かー。と納得を深める。
まあどうせ焼け落ちる建物内でいちいち破損に対して謙虚でいたら助けられる命も助けられないのでガンガン破壊すればいいと思うから俺としては壊そうが壊すまいがどっちでもいいんだがしかしアレだ。

「ふーん。じゃあそん時俺とも会ってるかもなー」
「え。セイゴさんもあの時いたの?」

んー。まあ、いろいろあって……と口を濁す俺。まあいつも通りに八神にはめられて、入れた休暇を強奪されただけなんですけどねーとでも愚痴ってやろうかと思ったけれど、愚痴ったところで休暇が帰ってくるわけでもないのでやめた。
で、その時ちょうど高町が俺たちがたむろってる所に近付いてくるのが見えたのでナイスタイミングですね分かりますとか思いながら辿りついた高町にさっきのあれを聞いてみる。
そしたらメッチャ目を丸くされた。

「え、せーくん覚えてないの?」
「覚えてないってなにがですか」
「わたし、普通にスバルのことせーくんに預けたよね?」
「記憶に無い」

高町が、うわー……って顔をした。そんな顔されても覚えてないもんは覚えてない。その辺ご勘弁願いたい。
ちなみにスバルも「えー」って感じで覚えてない様子。なんだお互い様ですね分かります。

「ほ、ホントに覚えてないんだ……」
「まあ、滅茶苦茶忙しかったですからね、俺。簡単に治療したらすぐ次の人って具合でしたし」

大方お前もそのバケツリレーで即行別の場所に回されたんじゃね? 多分。と言うと、スバルが物凄く心外そうな顔になった。

「えー。でも私だって自分の手当てしてくれた人くらい覚えてるよー。髪の毛は確かに黒かったけど、セイゴさんより全然長くて肩に届くくらいだったし。声もセイゴさんよりもっと落ち着いてて、私みたいな子供にも敬語を使ってくれた、凄く丁寧な人だったよ。それになんだかすごく凛々しかった」

あ、でもサングラスしてたから顔はわかんないかもとのスバルの言葉に、高町が「あっ」と何かに気付いたように声を出した。
俺の方も、あー、なるほどーと納得した。
俺達二人の反応に、新人たちが首を傾げる。
説明はメンドイが下手に隠すにも今の反応のせいで誤魔化せる気もしないので、どうやって伝えようか少し悩んでから、ああ当時の再現すればいいんじゃんとポンと手を叩いた。
一人気まずそうな高町以外が、俺の行為に首を傾げる
俺は一つ深呼吸をすると、いろいろと手順を踏んで、当時の自分の酷い有様の記録をファントムの記録中枢から掘り出して、一つの魔法を発動させる。
俺の目の前に、幻影魔法で作った当時の自分のイメージが現れる。
で、その幻影見てスバルがメッチャ目を丸くした。

「こ、この人っ! ……って、あれ? なんでセイゴさんがこの人知ってるの?」

……そんなに不思議そうな顔をされなきゃならんほど似てないかな、この頃の俺と今の俺。
確かに髪伸びすぎで肩まで届いてるし目とか髪の間から何とか覗いてるだけだし身長も今よりは少し低いけどさすがに横に並べたら顔の形同じだろうよ。いや、俺の前に出してるから比べられないのかも知らんけど。
てかバリアジャケット今と同じデザインなんだから気付けよ……て、あ。そういえばあの時は高町とほぼおそろいのデザイン見られるのが嫌で本人がいるときは極力バリアジャケット展開しないように心がけてたから展開してないような……。
いやまあそれはしょうがないかなって感じなのであれなんだが、ここまでやって気付かれないと説明する気力が湧かなくなってくるよね。おまけに今より昔の方が声に落ち着きがあるとか凛々しいとか超泣ける。なんかさっきの言い方だと俺に落ち着きがないみたいじゃんか。いや無いけど。
けどこう……認めたくないものだな。若さ故の(ryというわけでお前の相棒だろどうにかしろよと言う意味合いを込めてティアのほうを見たんだが、なんかメッチャ瞠目してる感じの彼女と目があった。
え、なにこれ怖い。そういう顔されると俺なんかやばいことしたんだろうかと不安になるからやめて欲しいよね。

「いや、ここまでやられたら気付けよ。コレ俺だろうが」
「え、ええっ!?」

めっちゃ驚かれた。いや、そうだと思ったけどねとか思いながら若干の悲しみを背負いつつ会話の中身でもかき回してやろうと思ってターゲット変更。

「見ろ、お前がそんなだからそっちでお前の相棒がお前の馬鹿さ加減に驚愕しきってるぞホレ」
「ティ、ティアっ!?」
「……違うわよ。確かに驚いてるけど、私が驚いてるのはあんたがなんの前触れもなく幻影魔法使ったからよっ」

そんな風に言われ、え? あれ、言ってなかったっけと思う。と言うわけでその辺のこと聞いてみたんだが、知らないわよとのご返答。いままで戦闘にだって使わなかったじゃない。とまで付け加えられてあー、確かにと納得。
でも無理。戦闘中に使うとかよっぽど工夫しないと燃費悪すぎる。確かに最初は戦闘で活用できたら色々出来そうだなーと思って勉強したんだが、俺の魔力運用の方法と相性悪いのか知らんけど、無駄に使うとあっという間に魔力の三分の一くらい持ってかれるからねコレ。
多少集中できる環境が必要とはいえあれだけ大量に幻影出してまだ余力残してるこの子とかバケモンなんじゃないかと思う。俺とか質の高いの一体出しただけでごっそり魔力がお亡くなりなのだ。
とか何とか説明しようとしたんだが、スバルに空港の話の方の先を促されたので仕方なくあーはいはいと返事をする。
とはいえ俺が説明できることなんてそう多くはないのだけど。
あの事件からは既に四年、セイス隊長には未だ巡りあっておらず、任務に失敗は少ないものの出来るだけ目立たないように決着は人任せ。
休日には八神と高町とヴィータに振り回されてそのあとでフェイトさんとかユーノくんとかに慰められるようなことが続いている日々。
思えば俺がフェイトさんをさん付けで、ユーノくんをくん付けで名前呼びし続けているのも、このあたりでの優しさへの感謝と敬意が理由なのかもしれない。
それはともかく、そんな中でまた八神に呼び出されたのが、あの空港だった。
何をどう逃げても追いかけてくることが分かっていたので逃げる努力もしなくなっていたこの頃だったが、この時ばかりはそれで幸いだったと思う。
奇跡的に死者の出なかった事件として扱われていたあの件だったが、当然のごとく相応に怪我人は出た。
にもかかわらず応援が来たのはかなり時間が経ってからで、助けた怪我人の手当ては空港の医療班の人たちと俺でなんとかしたのだ。
高町もフェイトさんも救出のお仕事。八神は指揮系統でのいろいろがあったので、あの場で自由に動けるのは俺ぐらいだった。
死にはしないと言っても痛いものは痛い。だからそれを和らげる手当の雑用くらいなら喜んで協力する。
喜んで協力して、高町とフェイトさんが連れてきた怪我人を魔法で手当てして。
そして、あらかた状況が落ち着いたところで、ファントムの治療ログで作った怪我人の簡易カルテと報告書をレイジングハートに送ってから、現場を後にしたのだった。
状況的にもう高町たちと休暇って話も御破算だったし、怪我人を介抱したという評価さえ、俺にとってはいらないものだった。
だから渡したカルテと報告書は、空港の医療班の人たちが頑張ってなんとかしたように見せかける細工を施していた。医療班の人たちにも、私のことは伏せてくださいとお願いした。
あれを高町がどう処理したかは聞かなかったが、どこぞの部署から何も呼び出しが無かった所を見ると、特に問題無かったようなので気にもしなかった。
それがあの件の顛末だ。
しかし、確かにあの頃と今とじゃ心持ちからして違うわけだけれど、こうまで別人だったかのように扱われていると微妙な気分になってくるなーとか思った所で、周りの連中が考え込んでる俺を見て固唾を呑んでるのに気付いたので仕方なく緊急手段。軽く笑って誤魔化すことにした。

「はーっはっはっは、当時の俺は超絶真面目くんでな。誰に対しても丁寧な敬語を忘れない優等生だったのだ。それ解き放った反動で今こんなだけどね」

適当なこと言ってから棒立ちになってた幻影魔法を消して、もう今日の訓練で俺の出番は無いはずなのでバインド拘束ごとBJ解いて立ちあがって、じゃあまたあとでとか言いつつその場を後にする感じ。
余計なことを聞かれるのも、聞かれて余計なことを口走るのもメンドイ。あとは大変申し訳ないが高町にお任せコースでいってみよーって感じでその場から逃げだす俺なのだった。






























介入結果その二十六 エリオ・モンディアルの疑問





セイゴがそそくさとその場を去ってからすぐ、なのはさんは僕達に事情の説明をしてくれた。
ちょうど休暇で、フェイトさんや部隊長、それにセイゴと空港に立ち寄っていたその日に、大規模な火災が空港で起こったこと。
その場で果敢に救助活動をしたなのはさんやフェイトさんの後方で、身を削るように回復魔法を連続で行使して、セイゴが怪我人の人たちを助けていたこと。
救助が終わってすぐ、セイゴがその場から姿を消していたこと。

「あの頃のせーくん、自分が周りの人にどう見られているかなんて、全然気にしてなかったんだよね。むしろ昔の知り合いの人に見た目で自分だって気付かれないように────って、積極的に髪を伸ばしたりしてたから……」

そのせいか、身だしなみもさっきの幻影魔法みたいに滅茶苦茶で……。と、なのはさんが、あはは……と苦笑いした。
でも、何で昔の知り合いに気付かれないようにする必要があったんだろう? ティアナさん達もそのことでちょっと疑問があるみたいだけど、それを聞く前になのはさんが話の続きを口にしたので、聞きそびれてしまった。

「他にも仕事中は全然笑わなかったり、誰に対しても敬語を使ってたり……」
「そういえばこのあいだそんな事言ってたような……。今のあいつからじゃ全然想像出来ない……」
「笑わないセイゴさんって、なんだか不安になるね……」
「ふ、二人とも、それはちょっと酷いんじゃ……」

ティアナさんとスバルさんの言葉にソワソワしてるキャロに苦笑しながら、僕は疑問を口にした。

「でも、それならどうしてセイゴは今みたいに……?」

ちょっと失礼な聞き方かもしれないなんて思ったけど、これ以外に聞きようが無くてそう聞くと、

「あ、それは。きっと────」

はっとしたように、息を呑んだ。
その奇妙な反応に、眉をひそめる僕。ティアナさん達もどうかしたのかと不思議そうな顔になる。
黙り込んだなのはさんの反応を待ってしばらく。僕がもう一度口を開こうとした時だった。

「────そう、だね。そろそろみんなに伝えておかなくちゃいけないことが、あるんだよね」

その言葉の意図は、僕にはよく分からなかった。
けれど、なのはさんが僕達に伝えようと思ってくれているそれは、僕達に何か大きな変化をもたらしそうな気がする。

「ごめん。まだきっとうまく言葉には出来ないから、もう少し、待ってて」

そう言って、寂しげに微笑ったなのはさんに、僕たちは相槌を打つことしかできない。
なのはさんのその表情の理由を知ることになるのは、しばらく後のこと。






























2010年8月30日 投稿

2017年2月27日 改稿

最初に謝罪しておきます。すみません。今回載せた内容が、次回予告にまで届きませんでした。
正確には、次回予告まで書いた分を載せると今回の分量の約3倍ほどにまでなってしまうため自粛したのですが……。

そういうわけですので、次回の更新はそれなりに早く出来そうです。
内容予告は前回のものを流用すればという感じなのですが、強いて言えば最後の方なのはさんが乙女チックです。
誠吾のせいであれ以上の乙女チックは今のところあり得ないので、お楽しみにどうぞと言う感じです。
というわけで、また次回の更新でお会いしましょう。では。

ところで、改稿作業の方がようやく落ち着きましたのでこの場で報告させていただきます。


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