そんなこんなでやっとこ帰宅。取り敢えず要冷蔵は早々に冷蔵庫へ。
「む……済まん、降ろしてくれんか?」
肩車したままだったエヴァンジェリン嬢が何やらモゾモゾと腰を揺らしながらいって来る。
「どうかしたのか、エヴァンジェリン嬢」
「い、良いからとっとと降ろさんか!」
「だが断る。このサムライ先生DXの」
「早くせんかーっ!!」
ポカポカと頭を叩かれたので仕方無くネタは中断してエヴァンジェリン嬢を降ろす。
途端に急ぎ足でエヴァンジェリン嬢が向かった先を見て納得し、一声かける。
「手伝おうか?」
「要らんわっ!!」
手、使えないだろうに……。取り敢えず雑巾ぐらいは用意しておくか?
「しばらくは介添えしてやるからいい加減陰を背負うのを止めにせんか、エヴァンジェリン嬢」
あの後、どことはいわんが床掃除をしたり、エヴァンジェリン嬢の下半身を洗ったり、洗濯機を回したりと忙しかったので現在時刻は20時を回った辺り。夕食にはやや遅い時刻になってしまったな。
ちなみに何があったのかはエヴァンジェリン嬢の名誉のために伏せさせていただく。
読者のみんなも何があったのか考えたりしちゃ駄目だぞ。おにーさんとの約束だ。
「安心しろ、茶々丸嬢以外にはいわんから」
「茶々丸にも秘密でお願いします……」
本気で落ち込んでいるみたいだな、普段の微笑ましい尊大さがなりを潜めているし。
「あー……失敗は誰にでも有るものだ。過ぎたことを悔いてばかりでは前には進めんぞ?」
「この歳になってする失敗じゃない……」
「外見的にはまだ大丈夫だと思うぞ?」
「それで慰めているつもりかっ!?」
そのつもりなんだがなー。
正直、今のエヴァンジェリン嬢で遊ぶのは気が退けるしな。
それに外見年齢ならかなりギリギリかも知れんが、実年齢ならむしろ――。
「どーした、エヴァンジェリン嬢」
「貴様、今物凄く失礼なことを考えていなかったか?」
「はて、何の事かなエヴァンジェリン嬢。疲れているのか? それとも呆けが来たのかね?」
「いーや、絶対に考えていた! あと呆けとはなんだ、呆けとは!!」
「木瓜、バラ科の落葉低木。樹高約2メートル。開花時季は3月から4月、葉より先に開花する」
「そのボケではないわー! 貴様アレか、私を虚仮にしているんだな、そうだろう!!」
「苔、コケ植物や地衣類・シダ類・種子植物のごく小形のものの総称。湿地・岩石・樹木等に生える」
「うがーっ!!」
「せめて人語で返してくれないか? 惚けにくいのでな」
「くぅぅっ、この腕さえ動けば今すぐにくびり殺してやるものを……」
「殺されてはかなわんな、それでは生きていられんではないか。まー、なんだ。エヴァンジェリン嬢の様に愛らしい外見では被害妄想の誇大妄想は似合わんよ」
取り敢えず頭を撫でて誤魔化しておこう。む、子供扱いは気に入らなかったのか? 顔を真っ赤にして……御冠だな。
まー、エヴァンジェリン嬢の見た目に被害妄想の誇大妄想が似合わんのは事実だ。アレはやはりピクニックフェイスの糞デブや豚肉スフレや痴豚に限る。
扨置き、
「そろそろ食事としようではないか」
「あ……ぅ、む、そうだな……」
撫でていた手を退け、食卓の準備に取りかかる。
台所にあった中でも一等大きなフライパンを十分に熱し、胡麻油をさっとひいて神速モードで餃子を並べる。芳ばしい香りが鼻に届くと同時にお湯を差して再び神速モードで蓋をする。
蒸し焼きが終わるまでの間にご飯とスープの準備。おお、流石は最新の電子ジャーだな。ご飯が立ってるじゃまいか。
言っておくが、ジャマイカ米じゃないぞ。魚沼産コシヒカリだ。なんと言うか、エヴァンジェリン嬢の金の使い方はおかしい気がする。どれだけ贅沢にできているんだ、真祖の吸血鬼。
スープは時間がなかったのであ○印の炒飯の素を湯で溶いたもの。醤油を一滴落としてすり胡麻をパラリ、と。
む、音からするに餃子は出来上がったな。蓋を開けて大皿に移す。ふむ、こんがりきつね色だな。
と、言う訳で、
「「いただきます」」
熱々のうちにいただきましょう、そうしましょう。
ちなみにエヴァンジェリン嬢はまだ手が使えないので俺が食べさせなければならない。差し向かいでは面倒なので膝の上に乗せようとしたら暴れられた。
冷めたら味が落ちるからと無理矢理説得しなんとか大人しくしてもらった。
さて、まずは味見もかねて俺の分を……。
「まずは私からだな、もらうぞ」
取ったら盗られた。いや、エヴァンジェリン嬢、それは、
「ぶはっ!?」
「む、エヴァンジェリン嬢。レディにあるまじき声をあげながら噴き出すのはどうかと」
エヴァンジェリン嬢のヒロイン度が12下がった、と心中にて呟く。
「貴様! 本場ではニンニクは入れないんじゃなかったのか!?」
「うむ、本場では入れないな」
ネタ元のせいで信憑性は低いが。ネタ元? 前話参照でよろしく。
「ならば何故入っているんだ!」
「?」
「不思議そうな顔をするなっ!!」
「俺はニンニク好きだから、作るとしたら基本日本式だぞ?」
「聞いとらんぞっ!」
「あー、言い忘れてた。メンゴメンゴ」
若干棒読み気味に言ったらえらく睨まれた。
「くぅぅっ……美味いのに、美味いのにニンニクが主張してくる……っ!」
「大変だなー」
「誰のせいだっ!!」
「俺の料理の腕のせいか?」
これで不味かったり凡庸な味だったりすればエヴァンジェリン嬢も迷わずに食べないって選択肢をとったんだろうが、な。
苦手食材使いつつ美味いと思わせる自分の技量が恐ろしい。
「ちなみにここら辺はニンニク使っていないぞ」
まー、苦手と言っていたからなー。単なる食わず嫌いで食べたらいける可能性もあったが、念の為にニンニクを使っていないものも用意しておいたんだ。
ニンニクを使っていない餃子を取って口許に運ぶと、恐る恐る口を開くエヴァンジェリン嬢。何故か目をギュッと瞑っている。むー、こうして見ると意外とエヴァンジェリン嬢も小動物的な愛らしさを発しているな。
「むぐ、んぐ…………こ、これはっ!?」
「うむ、ツナチーズ餃子だ」
単純にニンニク抜き餃子を作るのも面白くないので、ツナ缶と刻みタマネギと塩コショウを和えた餡に賽の目にしたチーズを混ぜて包んでみたんだが、どうやら成功した模様。
気に入ったのかパクパク食べる様は何とも微笑ましい。ご飯を食べさせろとか、次はスープだとか色々と注文をつけられて俺が食べる暇がないが、自分が作ったものを実に美味そうに食べる様子を見ているとそんな些末事は気にならんものだなー。
ん?
「ふむ、エヴァンジェリン嬢」
「んぐっ…………何だ?」
「お弁当付いてるぞ」
ひょいパク
「~~~~!?」
子供っぽいところを指摘されたからか、エヴァンジェリン嬢が真っ赤になる。
ふむ、実に平和な夕食だ。
感想掲示板を見たらこんな作品でも更新時期を思い出してチェックしている人がいらっしゃるようで……ありがとうございます。短くて済みません。