僕は、今もこの地で生きている。彼女と出会って四年
彼が死んでから四年。
彼女たちが居なくなってから三年。
一人はもう会う事も出来ない所に行ってしまった。
三人は世界の裏の闇に紛れてしまった。
彼の事は話しには上がらない。誰もが其処から眼を逸らす。
彼女の噂は聞こえない。居るのかどうかも分からない。
皆、変わらない。僕は変わったのだろうか? 僕自身は変わっていないと思う。
彼女も、変わっていない。外見は変わった。より美しくなったと僕は思う。でも、中身は変わっていない。
僕は知っている。彼女が偶に涙を流しているのを・・・
僕は知っている。彼女が寝言で彼等の名前を呼ぶのを・・・
僕と彼女には約束が有る。一年に一度の約束、誓いなのかも知れない。日本ではない彼の生まれた国で、僕達は毎年報告をする。
『幸せです』
『寂しいです』
と、二つの報告をする。
その訃報が僕達に・・・正確には僕に届いたのは四年前の夏。彼が死んでから一日過ぎた四年前の丁度明後日事だった。
嘘だと思った。
「・・・あははは、もう嫌ですよ高畑先生。冗談も程ほどに・・・」
だってソレは有り得ない。彼はついこの間まで笑ってた。
疲れた眼でタバコを吹かしてた
「・・・本当なんだよ・・・瀬流彦君」
否定して欲しかった。
僕の大事な友達。
僕と彼女を繋いでくれた彼。
彼女にとって父親だった彼。
「なっ・・・んで・・・なんでですか!! アギ君が向かったのはメルディアナでしょう!! なんでそこで・・・そこで・・・彼が・・・アギ君が!!」
殺されなきゃ成らないんだ!!
僕は泣いていたんだろう。夜だというのに、大人だというのに泣きながら帰った。僕の部屋に来ていた小夜ちゃんの事を忘れて・・・
彼女は・・・小夜ちゃんは、僕の話を黙って聞いてくれた
最初は彼との出会いから・・・最後の方は小夜ちゃんも知っている僕と彼との短い話し。
僕は情けない自分を全部垂れ流して、喚いて、彼女が泣いているのに気付くのが遅れた。
僕より彼女の方がショックが大きいのは当たり前の事だった。
彼女は静かに泣いていた。どうして、どうしてと泣いていた。その答えを僕は知らない。知ったのは彼の葬式に出た時だった。
彼の祖父が公表した。彼が創り上げた魔法薬を。
悪魔の呪いを解いた霊薬を・・・
彼は正しく魔法使いだったんだと思う。マギステル・マギではない。御伽噺に出てくるような魔法使いだったんだと思う。
突然現れ、ひっそりと消える。消えた後は誰もが気にしない。ガラスの靴を与えるような魔法使い。
学生時代、彼の教師をしていた魔法使いが言った
「流石は英雄の子だ」
彼の友人だという魔法使いが言った
「あいつは凄い奴だったんだぜ」
嘘だと思った。彼の友人には居そうに無い連中だったっていうのも有るけど・・・メルディアナ魔法学校校長。
ルグリス・スプリングフィールドがそう言った連中を睨みつけていた。
勝手に盛り上がる連中に向けて、ルグリス校長は言い放った
「好い加減にしろ!! 魔法使いの何たるかも理解しきれない小僧共が!!」
解放された魔力に、空間が軋んだ。僕にはそう思えた。
「あの馬鹿孫に貴様等の様な恩人が!! 友人が居ると思うてか!! 死人を侮辱する発現は控えよ!! 貴様等が影で奴をどう思い、なんと言っていたかワシが知らぬと思っておったのか!!」
彼の言葉で、僕の心はスッとした。良かったと思った。あんな目をした人間が彼の友人に居る訳が無い。
そう思った事が正しくて・・・僕は安心した。
彼の葬儀は僕が考えていたモノよりも、ひっそりと行われた。ルグリス校長が殆どの人間を追い出したからっていうのも有るけれど・・・
彼の葬儀に出た人間は、僕でも知っている有名人が多かった。
関西呪術協会・長。近衛詠春
関東魔法協会・理事長。近衛近右衛門
神鳴流・師範。青山鶴子
そして・・・彼の弟。ネギ・スプリングフィールドとその従者達。
エヴァンジェリンさんは、家から出てこない。小夜ちゃんは一度会ったようだけど、その時の彼女は僕にこう言った
「・・・瀬流彦さん・・・・・・永遠って辛いんですね・・・」
その一言で、僕は理解できた。彼女は・・・エヴァンジェリンさんは理解していたんだ。遅かれ早かれ、別れがくるのを・・・
ソレからの一年、僕は出来る限りの有給を使って小夜ちゃんを麻帆良の外へと連れ出した。
彼女には笑っていて欲しかった。幸せで居てほしかった。
次の一年、僕と彼女の仲が悪くなった。原因は僕。僕は良かれと思って彼の事を話さなかった。ソレが原因。
小夜ちゃんが言った
「何で瀬流彦さんまで、忘れようとするんですか!! アギ先生は!! ア・・・ギ先・・・生は・・・友達だったじゃ無いですか・・・」
僕はこの時初めて気が付いた。一番、未練がましい自分の事を・・・彼が死んだのが悲しくて・・・何も出来なかった事が悔しくて・・・
彼の事を忘れようとしていた自分に気付いた。
次の一年。僕達はウェールズの山奥にひっそりと立てられた彼の墓に、本当の意味で向き合った。
そこで泣いてしまった僕は情けないのだろう。でも、恥かしくは無かった。此処に彼が居たのならば、困ったような顔をした後で面倒臭そうにタバコに火を付けてこう言うんだろうなぁと思ったから
『瀬流彦さんだから仕方が無い』
どうやら、僕の記憶に有るアギ君は何処かオカシクなったようだ。そう思った瞬間、涙が止まっていた。悲しみが吹き飛ばされた。
そうだね。僕は僕だから仕方が無い。でも、約束は護るよ。
今思えば、この時の僕は何処か可笑しかったんだと思う。
「小夜ちゃん。結婚しよう。もう少し頑張れば貯金も堪るしさ・・・来年になるけど・・・式を上げよう。」
だって、こんな情けない事を言っちゃったんだ。
「はい・・・待ちます。貴方に出会えるまで数十年も幽霊だったんですから・・・」
でも、こんな僕を彼女は受け入れてくれる。
(御義父さん・・・娘さんを貰います)
『ちゃ~んと幸せにしてねぇ。じゃないとエヴァさんが殺しに行くよ?』
そんな声が、聞こえた様な気がしたんだ。
次の一年も含めてだけど、僕は仕事を増やした。夜の警備にも積極的に出てお金を稼いだ。出来るだけデートも控えて、小夜ちゃんと一緒に部屋でマッタリする事が多くなった。
特に会話も無い時間が有ったけど、僕も小夜ちゃんもその何も無い時間が幸せだった。
時々耳掃除をしてくれると死んでも良いかもと思ってしまうぐらいには幸せだった。
一緒に台所に立った。一緒に部屋で映画を見た。
そうやって過ごした。相変らず、新田先生に怒られる時が有るけど・・・新田先生には良く相談に乗って貰っている。
勿論、明石教授にもだ。
結婚生活に必要な気遣いとかは為になった。そうやって、酒を飲むと二人は寂しそうな顔をして言う
「「・・・何時か娘も・・・」」
出来れば、女の子より男の子の方が欲しいと思う一時だった。
四年という時間は長く、短い。そう感じた。
(幸せだよ、アギ君。僕も小夜ちゃんも・・・でも・・・結婚式に両親が出ない小夜ちゃんは、何処か寂しそうだよ? 僕に小夜ちゃんを泣かすなって言っておきながら・・・コレは無いんじゃないかな?)
堪らず、心の中で愚痴ってしまう。
どうやら、男もマリッジブルーになってしまう様だ
明日は結婚式。今日はもう寝よう。
僕は隣で眠る、愛しい彼女の寝顔を眺めながら電気を消した。
まだ、清い関係だよ? エヴァンジェリンさんが怖いんだもん
【何処か】
「根性ないねぇ~瀬流彦先生も」
「フン!! 結婚する前に小夜に手を出していたら、既に私が八つ裂きにしている!! お前がそんな考えだから小夜があんな馬の骨に!!」
はいはいと言いながら、女性を宥める青年はプヒーと煙を吐き出して言った
「それじゃぁ、行こうか? エヴァさん」
「当たり前だ!! 娘の晴れ舞台に出席しない親が居るか!!」
素直じゃないんだから、もう
青年はそう思った後、グラスにワインを注いで飲み干した
「ちょ?! アギ!! ソレは私が取っておいた最後のビンテージ!!」
「・・・・・・お休みエヴァさん」
「ん、お休み・・・って待たんか!!」
はっはっは。アギ・スプリングフィールドは華麗に逃げるぜ!!
「変わりませんね。お二人は・・・」
「そうそう変わる二人じゃないさ。明日は私達が頑張らないとな、茶々丸?」
「はい。そうですね真名さん。」
主に、農作業を・・・
「ヤッベー。コノ果実酒美味イ」
元・殺戮人形が酒をツマミ飲みしている事に四人が気付くまで後十分
続きは・・・まぁそのうちにね? 今の状況じゃ連投できんて・・・仕事が辛いです