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No.9327の一覧
[0] 【習作】異世界からの手紙~竜肉美味しかったです~[暗泥藻](2009/06/21 22:51)
[1] 二通め[暗泥藻](2009/06/11 18:18)
[2] 三通め[暗泥藻](2009/06/21 22:50)
[3] 四通め[暗泥藻](2009/10/23 05:31)
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[9327] 三通め
Name: 暗泥藻◆cd275989 ID:62b9700a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/21 22:50


久しぶり。って毎回この書き出しで始めるのも芸がないよなぁ。

まぁ、他に思いつかないからこれで勘弁してくれ。


だいたい半年ぶりか?

そういや、この前はラノベ用意してくれてサンキューな。
釈放されるまでの暇は存分に潰せたぜ。
まぁ何度もゲート開くはめになったのには閉口したけど。

あと人の注文を全力で無視したラインナップはどうなの? バカなの? 死ぬの?

ハイファンタジーばっかりなところに作為的なものを感じるんだけど。つーか、わ
ざとだろテメー。

唯一の現代?ファンタジーがウィズ・ドラゴンとか、どう考えてもドラゴン食った人間に送る話じゃないよね。ブラックすぎて笑えないと思うんだ。

そりゃエルマーの冒険よりはマシだけどさ。

そうそう。今回、そのお礼ってわけじゃないけど、こっちの土産も一緒に送ったぜ。

手紙がくっついてたボトルあるだろ? それ、こっちの酒だから。
『ドラゴン殺し』っていうリキュールなんだが、飲むときは気をつけろよ。

なんせ、俺達の世界でいうスピリタスだからな。こっちの世界最強。

俺は知らずにそのまま干して死に掛けた。

この体、内臓も強くなってるみたいでさ。他の酒ならいくら飲んでも平気だったから調子に乗ったんだが……そいつは別格だった。

とにかく。悪いことは言わんから割って飲め。

味もかなり癖があるし、それが一番だ。
じゃなければ、せめてロックにしとけ。間違ってもストレートで飲むなよ?

三途の川でトライアスロンすることになるぞ。

それと中に漬けてあるでかい目玉は気にするな。マムシ漬けるみてぇなもんだから。

カトブレパスって毒牛の尻尾についてる目玉なんだけど、毒はほとんど抜けてるから安心してくれ。

その目玉も食えるらしいぞ(チラッ

こっちじゃ金持ちや貴族でもない限り飲めない酒だからじっくり味わってくれたまえ。



さて。

実は今回は頼みっていうか相談があるんだ。

酒飲みながらでいいから聞いてくれないか?





――東京都在住、鈴木さん(仮名)の自宅に届いた親友からの手紙――





今、俺がどこにいると思う?

帝都? ファイナルアンサー?

……残念っ! なんて。

あー手紙でやると、かなりむなしいなコレ。

インクだから書き直せないし……もう、これでいいや。

それにしてもミリオネアとか自分でネタやったくせに、すげぇ懐かしいんだけど。
テレビ、見たいなぁ。うん、テレビ見たい!

アニメを、俺にアニメをっ! 燃え滾るようなアニメを!

あとマンガだな。 うむ、マンガ読みたい! 怒涛の勢いで読み漁りたい!

ていうか、ゲーム、ゲームやらせて! 脅威の16連射やってのけるから! コントローラ6台買い換えた実績は伊達じゃない!

ていうかほんと何なの、この世界! 娯楽が少ないよ!

一応、演劇とか演奏会なんかあるけど、どれも内容が宗教的で堅苦しいしさぁ。無駄に長いし。

のきなみ気軽に楽しめるものじゃないし。

そもそも数少ない大衆的な作品でさえ微妙に俺のツボとかけ離れてたり、変に道徳的だったり。

面白くないわけじゃないんだ。見てても色んなところに凄いと感心しまくりだしさ。
こっちの世界独特のファンタジックな楽器や演出、衣装とか。奏者や役者の技術とかに。

でもさ、残念なことに内容が俺の好みとかけ離れてるんだ。悲劇が多いし。

せめて手品くらいないのかよ……。魔法があるから需要ないって訳じゃないだろうに。魔法じゃないから面白いんだし。

ラノベとかマンガとか。ニコ○コとかどれだけ素晴らしいものだったか思い知ったね。

俺が欲しいのは童謡とか小噺的なのじゃないんだ!

そう、言うならばネタ! そして中二! いや、厨二っ! 何より萌え!

そういう成分が足りない!

現代日本人のカルシウム以上に足りてない!

ファンタジーな世界の癖に足りてない!!

もっと遊び心があってもいいじゃんか!

俺にエンターテイメントを感じさせてっ。

この世界にはっ、萌えとっ、厨二病とっ、インターネットが致命的に足りてないっ!

これはもう、本格的に取り組まねばなるまい。

この世界の人類にエンタメへの関心とオタク文化を教育し、意識改革を行い。

そしていつの日か、萌えと厨二とエロとコスプレで溢れた夏と冬の祭典を開催するのだ!


これは俺の、俺による、俺のための文化革命っ!



――名付けて『人類補完計画』!!



……下手にラノベ読んだせいか、最近、妙な発作が起きるようになってさぁ。

しかもラノベはラノベで面白いけど、リアルファンタジーの世界にいる俺からすると笑えないところがあったりして前ほど素直に楽しめなかったり。

その分、読んでると共感することが多くなったけど。



と、盛大に話がずれたな。


今、俺はナナリール王国にいる。んで、王様が用意してくれた仕事部屋でラノベ片手にこれ書いてる。ブランデー付きで。

傍目には仕事してるように見せかけてサボってるのさ。

俺の仕事はフィールドワーク中心だから、普段ここでする仕事なんてほとんどないんだけど。

魔術師の仕事内容なんて知ってる人間はほとんど居ないから問題ないぜ。ていうか俺もよくわかってないし。

万が一見つかっても素人の触れないマジックアイテムの研究ってことにすれば余裕でしのげる。

こっちの世界の人は誰も日本語読めないしね。
デフォルメされたイラストや萌え絵も彼らからすれば、古文書に描かれたかろうじて人間とわかるイラストと同じように見えるらしいし。

ほんと、昼間から酒が飲めるっていいわ。ぐすん。


……それにしても。

改めて思うけど、なんで俺こんなところにいるんだろう?

いや、そりゃあ、理由も経緯もわかってるんだけどさぁ。

それでもドドンタールに就職しにいって、なぜナナリールに就職することになるのか。

志望企業の面接受けたら、見たこともない会社から合格通知が来た並のウルトラCじゃね?

もしくは自衛隊に入隊したはずがロス市警に居たみたいな。

……なんでロス市警?

あぁ、ほんと不思議でしょうがない。まぁ、アイネのせいなのはわかってるんだけどね。

いや、おかげと言うべきか?



なんにせよ、どこだろうが衣食住さえ揃っていれば、基本的に文句言わないのが俺クオリティ。

どうせどこ行ったってパソコン無いんだから……。

しかし、そんな俺でも勤務内容については流石に泣き言を言わざるを得ない。

なんでこの世界にはオー人事が無いんだってくらいストレスたまりまくりですよ。

あったら今にも電話するのに。

そのまえに電話がないけどさ。さらに人事関係ないっていう。

先にサボってると書いたけど、逆だ。

休みがないからこうして自主的にサボらざるを得ないんだ。

じゃないとホント死ぬ。

マジ、この一週間のスケジュールなんて殺人的にヤバイから。

比喩表現? ちげーよ、ちくしょー。

訳わかんないだろうけど、とにかく俺の寿命がストレスでマッハ。




おっと、違う、本題はそこじゃないんだった。


なぁ、女の子って誕生日に何プレゼントすれば喜ぶと思う?

あ、色恋関係ないから。




まぁ、なんだ。あれから何があったのか順に書くわ。





あのあと牢屋で大人しくラノベ読んでたら、爺さんのところから兵隊さんたちが帰ってきた。

モンスターに襲われたり砂嵐に巻き込まれることもなく、日程どおり。

兵隊さんGJだぜ。

ラノベもローテーション6週目に入ったところだったし、いい加減飽きてきてたとこだったんだ。

そういや、ラノベ取るためにゲートの魔法を使ったらガチムチに怒られた。

でも、仕方がないって感じで許してもらえた。

次からはやる前に俺に言えって。

何でも俺が本気になったら誰も止められそうにないからだって。

「ただし、殺すことは出来るぞ」って釘さされたけど。

それでも牢屋で大人しくしてる分には構わんって言うんだからガチムチは話のわかる奴だ。

さすが爺さんに育てられただけのことはある。

そうそう、ガチムチは爺さんに拾われて育ったらしいよ。頭使うのが嫌で魔法は諦めたらしいけどね。

なんかさ、俺のこといきなりぶん殴ったのも、爺さんが心配で頭が沸騰してたんだと。

無罪が証明されて檻から出た途端に深々と謝られた。

それにしたって、殴るのはどうなの? と思ったけれど、いまさら波風立てるのも嫌だったから許してあげた。

それに爺さんの話で盛り上がったし。



釈放された俺はすぐさま皇帝に会うことになった。

あの一張羅で。なんか叱られたけど他に持ってなんだから仕方ない。

借りようにも俺に合うサイズの服なんて誰も持ってなかったし。

ガチムチサイズまでならあったんだけど、俺が着た途端ビリビリって……。

周りの目が痛かった。思い出すだけで恥ずかしさで死にたくなる。

皇帝っていうからにはでっぷり肥えた女好きのおっさんかなー? って思ってたけど全然そんなことなかったぜ。

超渋くて凛々しいオジサマだった。

あれだ、例えるなら色黒のショーン・コネリー。昔のジェームズ・ボンド役の人。
見た目だけだけど。

無駄にでかくて豪華な玉座で、足組んでふんぞり返っていても嫌味にならないって、どういうことなの。オーラが溢れてるって感じ。いわゆる覇気?

思わず小声でで、かっけぇ……、って呟いちゃったね。

イケメンは敵だけど、渋くてカッコいいオッサンには嫉妬を通り越して憧れるぜ。

で、ドドンタール帝国皇帝陛下バロコ・ドルネド・エリアール・ドドンタールさんの言うことにゃ、俺は“要らない”らしい。

思わず、ハァ!? と言ってしまって睨まれた。ちびりそうになった。ドラゴンの睨みよりもやべぇ。

声も最高に渋い重低音。皇帝が口を開くたび、腹にズンとくるようなイメージ。
ああいう人をカリスマっていうんだろうか。




もちろん、話もちゃんと聞いてたぜ。

何でも、俺が居ると各国のパワーバランスが崩れてしまうんだと。

ドラゴンイーターってのは一部とはいえドラゴンの力を身につけている。(俺は例外だけど)
肉を食べたものは無敵の戦士となり、心臓を食べたものは天候すら操れる魔術師になる。

と、一応いわれてる。

実のところ、個人の実力や才能に差があるから言葉通りになるわけじゃないらしい。

それでもドラゴンイーターが恐ろしいほどの力を持っているのは変わらない。

そして俺はそのドラゴンイーターだ。

俺を帝国が手に入れたら他の国に要らぬ緊張を強いることになる。

今現在、確認されているドラゴンイーターは5人。そのうち4人が大国に戦力として保有されている。

1人ずつってことは戦士か魔術師のどちらかってことだ。

ドドンタールにはすでにガチムチがいる。さらに俺は魔術師(ってことになってる。一応爺さんの弟子だし)

ドラゴンイーターの戦士と魔術師が揃ったとなると他の国は確実に警戒する。

これは後になってガチムチから聞いた話なんだけど。

帝国には100年位前に3人のドラゴンイーターを主力に他の国へ攻め込みまくり、最後は他国総出でフルボッコにされた歴史があるらしい。

だから余計に警戒されてしまうだろう、だとさ。

ともかく、皇帝は下手したら戦争か、良くても他の国から吊るし上げを食らうだろうって言った。

それだけドラゴンイーターが厄介ってことらしい。

ドラゴンイーターが一人居れば一万の兵に匹敵するとか。

人型決戦兵器ですね、わかります。

まぁ、そっちの世界で言えば核兵器みたいなものなんだろうね。抑止力になってるんでしょ。

今、五大国のうちナナリールを除く国全てが一人ずつ抱え込んでるらしいし。

自分がそんな物騒なものと同じ扱いをされるなんて思ってもみなかったし、実感すらない。

けどまぁ、とんでもない力を持ってるのは事実なんだよね。しゃーないわ。


だから俺も、それでは仕方ないですね、お騒がせしてすみませんでしたって言って出て行こうとした。

ガチムチに止められた。ていうか、その場に居た人全員が何やら慌てだした。

玉座のナイスミドルもちょっと眉を上げて、ふむ、その反応は予想外だったな、だって。

出てけって言われたから出て行っただけなのにね。

爺さんだって皇帝に断られたって言えば納得してくれるだろうし。


皇帝はまだ俺に話があるらしかった。

「お前はここを去ってどうする気だ?」

なんて聞くもんだから、適当に仕事見つけます。とりあえず居酒屋で働いたことあるんでどっかの飲み屋で給仕の募集してないか探してみますって答えた。


爆笑された。そりゃもう豪快に。


こっちは本気だったんだが、あそこまで思いっきり笑われたら怒る気も起きなかったね。

ひとしきり笑って落ち着いてきたのか。
手すりにひじ立てて顎に手を当てたまま、面白い奴だな、だって。

はぁ、どうも。って言ったらまた笑われた。

なんか、まだ話があるみたいだったから笑い終わるまで待ってた。

で、皇帝が真面目な顔で口を開いて。

「先に述べたことも事実だが、実のところお前を取り込むだけの余裕が今の我が国にはないのだ」

なんか、ドラゴンイーターって維持費凄いらしいよ?

お給料とかたくさん上げて、それ以外の面でも厚遇しなきゃいけないらしい。

どこの国もドラゴンイーターを欲しがるからどんどん条件が釣り上がる。だからドラゴンイーターがいるのは大国ばっかりなんだって。

中にはドラゴンイーター用の国家予算を組んでいる国まであるとか。

まぁ、食費がかさむからねぇ。

でも、ドドンタールはここ数年不作が続いていて他国からの食料輸入に頼っているらしいのでお金もない。

だからといって、ドラゴンイーターを野に放ったままにしておくのもマズイんだってさ。
劣化版ドラゴンが人間の形して歩いてるようなものだから何するかわからないし、討伐も難しい。

何かの拍子に野心に溢れた小国にでも雇われたら戦争の火種になるかもしれない。


「我としても貴重なドラゴンイーターをそう簡単に手放したくはない。しかし、お前の存在を隠そうにも、すでにナナリールの人間に知られてしまっている。
 かといって他の国に拾われても厄介だ。
 よって、お前は我が国から友好の証として同盟国のナナリールに送ることにした。
 このことはナナリールにもすでに打診してある。そのために、お前にはドドンタールの貴族になってもらおう」


……えっと、つまりどういうことかというと。

お前は要らん。けど他に取られるのも癪だ。

じゃあ、ひとまず唾つけてから欲しがってる隣に押し付けちゃえ。ということらしい。

ひでぇなぁって思ったけど、断る理由もないから「あ、はい、わかりました」って答えた。

某ナイト風に言えば、長いものが巻かれるという名台詞を知らないのかよ! ってね。

微妙に間違ってるのがポイントらしいよ。リアル話。

そしたら皇帝陛下大爆笑。フ、ハッハッハッって腹から声だして笑ってた。

そんでニヤリって感じの不敵な笑顔で「本当に面白い男だ。ふむ、スハラが空いていたな。お前にやろう。今後はスハラ候と名乗れ」だとさ。

このときは気にしてなかったけど、今思えばなんという独裁政治。

もっと時間かけて他の貴族と相談したりしなくて大丈夫なのか帝国。

あと、謁見が終わってからガチムチに「お前……すげぇな」って言われてちょっと得意な気分になった。

なんで誉められたのか、わからんけども。

とりあえず、就職していきなり転勤決まるとかひどくね?



で、一ヵ月後にイケメンたちの迎えが来るから、そのとき一緒に連れて行ってもらうことになった。

つってもレッドコメットで後ろにくっついてくだけなんだけどね。

それまで帝都の中なら自由にしていていいってんで、ガチムチに案内してもらった。

他に知り合い居ないし、ガチムチも暇そうだったからちょうど良いと思ってさ。

そう言ったら、暇なのはお前のせいだって呆れられた。

なんでも、俺には監視が何人もついていて、いざってときは連絡を受けたガチムチが止めに来ることになっていたらしい。

いつでも動けるように仕事は副官に任せてるんだと。

そういうことは本人に言っちゃいけないんじゃないか?

そう思ったけど、「お前が相手じゃ隠しても隠さなくても同じだ」だって。


強いから? って聞いたら、変だからだって。

本当に失礼な筋肉だ。

こんなのが将軍なんだぜ。大丈夫か帝国。

あ、でも叩き上げだって言ってたな。

竜の肉食ったのは将軍になってからだっていうし。

将軍だって初めて聞いたときは信じられなかった。第一印象が酷すぎたからね。

あんな短気な将軍が居てたまるか、と思ってたのよ。

けど、怪訝な俺の様子が不服だったらしいガチムチ。

嘘じゃないことを証明してやるっつって嫌がる俺を練兵上まで引きずり、凹にしてくれた。

俺が疑ったのは腕っ節じゃないのに……。脳筋すぎる。

ちなみに開始3分でKOされたぜ。

素人が軍人に素手で勝つなんて無理です、ハイ。

打撃は急所狙いでメチャクチャ痛いし。関節だって容赦なく狙ってくる。

無駄に体のスペック高いからそれらに耐えられちゃうのが逆に辛かった。

関節技なんて外し方わからないから無理やり力技で外した。

たとえばガチムチごと持ち上げて地面に叩きつけたりしてね。

やったら関節ごと外れたけど。超痛かった。

最後はいくら殴っても倒れない俺に業を煮やしたガチムチが絞め技で俺を落として終わり。

肉体のスペックは圧倒的に俺の方が上なんだけど、職業軍人(プロ)は伊達じゃないって思い知らされた。

体の使い方からして違う。年季も違う。何よりやる気が違う。
痛いのは嫌です。

帝国は実力主義なんだ、特にバロコ陛下が即位されてからはな、とはガチムチの弁。

ふーんって返したらお前も他人事じゃないんだぞ、わかってるのか? だって。

なんで? と聞いてみたら、俺の知らないうちにとんでもないことになってた。



俺、帝国で一番広い領地貰ったんだって!

しかも侯爵っていう貴族階級でも上から二番目!!

さらに一番上の公爵は侯爵が功績を挙げて一代限りでなれるもので、今は居ないらしいから、実質一番上。

すげぇ! なんかすげぇ出世した! なんもしてないのに!

って、アホみたいに喜んでたら「確か、領地のほとんどは砂漠だし、領民もほとんど居なかったはず。多分、全貴族の中で一番給料低いぞ」だとさ。

政治や権力も「それにお前、ナナリールに行くんだろ?」の一言で有ってないようなものだと気付きました。

なんというぬか喜び。

……所詮、こんなもんですよね。現実なんて。えぇ。

現代知識でチート政治とか俺には出来っこないから別にいいんだけどさ。

それなのに「それでもお前はドドンタールの貴族だってことを忘れるな」なーんて、また変な釘刺されたし。

ようは与えた名誉と報酬に見合うだけの仕事をしろってことだろ? って言ったら微妙に違う、だって。

なんか、ドラゴンイーターって貴族にはなれないらしいよ。基本的に。

ただでさえ力がありすぎるからどこの国も権力を持たせたがらないんだって。

貴族のドラゴンイーターなんて元々貴族だった奴くらいだってさ。

ただでさえ数少ないドラゴンイーターのほとんどが平民出だってことを考えればドラゴンイーターの貴族っていうのは本当にありえないことらしい。

一応、力で強引にもぎ取った奴とか自分で国を興した奴も歴史上、居るらしいけどなんともはや。

莫大な富と軍人としての名誉は手に入っても貴族の地位と権力は手に入らない。

それがドラゴンイーターの常識だとさ。

だから俺の貴族入りは破格の厚遇と見てもいいらしい。

……いや、実がないんじゃ意味ないって。

名誉なんて誰かを守って死ぬときだけでいいです。ハイハイ、俺中二病乙。



なんだろ、入社一年目で課長補佐になって喜んでたら実質は平と変わらず、しかも他社に派遣させられるみたいな扱い……。

仮にも国家公務員なのになぁ。


そういや、このやり取りの後、帝都に居る間、毎日のようにガチムチに呼び出されて組み手という名のストレス発散に付き合わされるようになった。

ドラゴンイーター相手に全力で相手できる奴なんてそうそう居ないから、楽しかったらしい。脳筋め。

帝都に来て良かったことってガチムチが贔屓にしてる店々で私服や礼服を揃えられたことと、色んな酒が飲めたことぐらいなんだが。

しかも全部ガチムチ頼み。四六時中むさいおっさんと一緒なのは精神的にきつかった。

頼んだのはこっちだから文句も言えないし……。


でも、ガチムチとは服や顔の悩みで意気投合したから意外と仲良くなった。

お互いに見た目が犯罪レベルだから人の目が辛いし、話しかけたりすると理由も無く怯えられる、または逃げられる。

服も体に合うサイズがほとんど無くてほぼオーダーメイド。

ガチムチは礼服を破いてしまって、友人の結婚式に半裸で出席したことがあるとか。

笑いたかったけど、自分を省みると笑えなかった。俺も同じことしそうで怖い。



自棄になったわけじゃないけど、あらゆる苛立ちは観光を楽しむことで忘れることにした。

まぁ、ほとんど食って飲んでばっかりだったけど。

飯はどれもこれもスパイス効きまくりだったり甘すぎだったり。辛くは無くても、たいてい味が濃かった。育ち盛りなら喜びそうな味付けかな。

てかさぁ何が辛いってほとんどの店で入店拒否されたことな。物理的に。

体がでかすぎてドアをくぐれないとか俺涙目。だからほとんど同じ店で飲んでた。おかげで店主とは仲良くなりました。

あとは色町に行ってみようとしたけど仮にも貴族、しかも侯爵が行くんじゃない。

どうしても相手が欲しけりゃ、高級娼婦を呼べとか言われた。

……流石にデリバリーは恥ずかしいとです。



あとは、そうだなぁ。

あ、ガチムチが帝国のことを色々教えてくれたね。

たとえば雪が降るとかな。

砂漠に雪が降るとかありえなくね? って疑ったけど店主のおっちゃんがマジだって肯定した。
なんでも昼と夜の温度差が激しいから一夜で雪に埋もれる地方もあるとか。自然って凄いな。もしかして俺らの世界でもそういうところあったりするのかね?

とりあえずこの世界じゃ、砂漠でブリザードが起きてもFBIは動かないみたいだ。



それにしても。爺さんに一般常識を習ったつもりだったが、意外と知らないことって多いのな……。

まぁ、魔法の修行と料理の練習をしながら、半年程度でなんでもかんでも覚えられるわけないかぁ。

そういや、爺さん、帝国に俺送ったらどうなるか考えてなかったのかなーと漏らしたら

弟子が出来て浮かれてたんだろ、ってガチムチが言ってたなぁ。

こそばゆくて死にたくなった。


と、とにかく。

あっというまに一月たってナナリールの迎えが来た。

ガチムチが見送りに来てくれた。

あらかじめ渡されていたドドンタール貴族の証明になるブローチと魔術師の証であるブレスレットを身に着けて準備万端。

食料もたんまり積み込んだ。特に買うものがないから食べ物には金をかけた。

日用品なんて着替えと石鹸的なのがあれば基本的に何にもいらないし……。

準備金やら軍資金やらをたんまり貰ったが使い道が思いつかなくてほとんど残ってしまった。

まぁ、衣食住なんて揃ってるだけで御の字ですよ。タバコは吸わないし、娯楽もラノベがある。そのうち飽きるだろうけど。

あと初給料も前倒しでもらえた。しばらく受け取れないだろうからって。

全部合わせればこの世界で贅沢しなければ一年くらいは遊んで暮らせる額らしかった。

給料だけで計算すると切り詰めて一ヶ月ってところだけど。


あぁ、そういや書き忘れてたけど最初に拾った大剣な。爺さんが調べてくれるっていうから預けてきた。

殴った方が早いしね。



そして出発。

俺は一ヶ月の間で見慣れてしまったムサイ面に手を振りながら、そろそろヒロインの登場してもいいよねぇ、なんて考えてた。

ほんと神様って意地悪なんだな。信じてないけど。


そうそう、アイネとキャラバンの人たちだけど彼らも俺と一緒にナナリール行き。

実はキャラバンの人たち全員、ナナリール王国の人だったらしい。処分は国に帰るまで保留ってことだった。

つーわけでまた一緒の旅。

ただ、彼らはイケメンの船から出て来れないし、アイネもイケメンが俺に会わせようとしない。

帝都にいるあいだも一度も会えなかったんだよ。教育の続きをしたかったんだがなぁ。

出発のときにチラっと見かけたがイケメンがとんでもない眼つきで睨んできた。

とりあえず中指をおっ立てておいた。

俺、ちょっと強気。なんせ一回勝ってるわけだし、今の俺はドドンタール貴族。そう簡単に手は出せまいってね。

決闘とか言われたらすぐさま土下座するつもりだったけどなっ。


このときは過保護すぎると思ってたけど、アイネの事情を知った今はあの態度にも納得。

……いや、やっぱあのイケメン頭おかしいわ。うん。




王国は帝国の東にあるんだが国境までほぼ砂漠なので例の魔力式ヨットでいける。

ていうかヨットすげぇよ。砂漠だけじゃなくて海の上まで走れるんだぜ。土の上は無理だけど。

リリダール王国は帝都に次ぐ国土を持っているけど、そのほとんどが海と湖で埋まってるというこれまたファンタスティックな土地柄。

ていうか馬鹿でかい島国。

国境越えたらすぐに海を船で渡るとか俺の常識じゃ考えられないね。

砂漠がそのまま砂浜になってて笑ったよ。

まぁ元の世界でも外国なんて数えるほどしか行ったことない俺の常識なんて高が知れてるわけですけども。ヒキオタナメンナー。



国境越えて海に入る前の野営で、アイネが俺のところにやってきた。

イケメンたちの包囲網からこっそり抜け出してきたらしい。

そのとき俺はレッドコメットの甲板でハエを追い払いながらナン的なモノを齧ってたんだが、彼女はいつのまにか隣に居た。


――フリフリのドレス姿で。


思わず口の中のものを噴き出しちまったよ。ブホッて。

そんな俺の様を見てアイネはくすくす笑いやがった。

ムカついたからコブシで頭をグリグリして、大人への礼儀を教えてやった。

もちろんお仕置きは手加減したぜ? 本気でやったらスプラッターだし。

すぐ謝ったから二度と大人を笑わないように注意して頭をわしゃわしゃ。

俺にだって自尊心くらいあるのだよ。吹けば飛ぶけど。



なんで女の格好してるんだ? って言ったらポカポカ叩かれた。

なんか、最初から女の子だったらしい。最初からって言い方はおかしいか。
元からだな、元から。

俺が勝手に勘違いしていただけだとさ。訂正してくれればいいのにって言ったらそっちのほうが都合良かったんだって。

まぁ、その理由はあとで書くとして。

なんにせよ、アイネが女の子だからって対応が変わるわけじゃあない。
ガキはガキだ。

男装美少女は大好物だが、最低でもあと4年分は育たなきゃ射程範囲外だからな。

あ、二次元ロリは別腹ね。



で、何しに来たんだ? って聞いたら、ちょっと涙目でごめんなさいだって。

もう許してあげただろって言うと、そのことじゃないって首を横に振った。


ずっと巻き込んでしまったこと、命を助けてもらったのに迷惑かけてしまったことを謝りたかったってさ。(迷惑=イケメンの言いがかりのことね)

アイネは本当にいい子だ。

まったく、どこかのイケメンに見習わせたいよ。

あいつ、誤解が解けても一度も謝りになんかきてないぜ。

俺は何でお前が謝るんだ、大体、子供はそんなこと気にしなくていいって言ったが、そういうわけにはいかない、だって。

なんで? って聞くとあのキャラバンは私のワガママだからって言われた。

なんでもアイネが姉と慕う人物と、キャスパル聖王国の王子様がデキていると。

本当に仲が良いのよ、なんて続けるアイネに俺は首をかしげた。

それがアイネにどう繋がるのかわからなかったからだ。

そしたら、まだ、気付いてないの? だって。

何のことだか本気でわからなかったから……何の話? って聞いたらこれまたとんでもない事実が。

アイネはナナリール王国の第三王女様なんだと。

……そういや、爺さんに教わった一般常識の中でアイネ・メルトヒ・メートヒェン・ナナリールって名前があったよ。

王族とかどいつもこいつも名前が長ったらしくてほとんど覚えてなかったんだ。
でもさぁ。

まさかお姫様がキャラバンと一緒に、しかもお付もなしで砂塵にまみれて砂漠を横断してるなんて誰が思うよ?

口調や考え方もお姫様っぽくないというか普通にその辺の子供と変わらないし。

そりゃちょっと見ないくらいに出来た子だけど、それだけだし。

しかも、だ。黒くて艶のある髪の毛もばっさり切っててどう見ても男の子……いや、女の子にも見えるか。

くりっとした黒目がちの目も、もちっとした頬っぺたも女の子特有……なのか?
子供なら男でも居そうな気がするぞ。

それでも男装して、薄汚れた格好で逃げ回ってるお姫様、なんて二次元でも早々居ないと思うんだが。

有翼騎士団のエウフェミアじゃあるまいし。あれはもっと深刻だけど。

あれの男達はどいつもこいつもかっこよすぎて泣いたなぁ。

お前に貸してたまんまだっけ。

次ゲート開くとき返してくれ。久々に読みたくなったわ。



おっと話がずれたな。

で、お姫様なアイネは王子様の許婚なんだと。思わず、何……だと……? って某死神漫画ばりに驚愕。

歳を聞いたらやっぱり12歳だった。いやー現代日本の一般人の感覚だと信じられないねぇ。だってまだガキだよ?

まぁ、二次元的にかんがえたらよくある話だけどさ。幼な妻っていい響きだよね。


つまりアイネは姉ちゃんと自分の姉妹丼が嫌だから逃げ出したんだなって言ったら不思議な顔された。……俺自重。


しかし、俺はそこで思いついた。

アイネの姉ってことはやっぱりお姫様なわけだ。それもアイネより序列が上の。

それなら姉が正妻になれるんじゃないか?

そういうとアイネは困った顔で言った。

「そのお姉ちゃんは王族じゃないの。血の繋がりもない、一般人……とはいえないかもしれないけど。私が一方的に姉と慕ってるだけで……」

実の姉とは違う人物らしい。平民と王族のラブロマって本当にあるんだね。

この子は姉の幸せのために自分が居なければいいと考えたってわけだと、そのときの俺は考えた。

それで家出したのか、子供の癖に泣かせるよなぁ、なんて。

俺の推測は見事に外れたんだけども。

「家族には相談しなかったのか? その人とは結婚できないって」
と聞くと、
「したよ。だから私はここに居るんだもの」と笑って言った。

その後もアイネは説明を続けて、彼女の婚約は聖王国との繋がりを深める大事なもの~先の大戦での援助に報いる~長年の悲願を~世継ぎが~云々かんぬん。

うん、細かいことは忘れた。

けど当事者たちの意見なんて関係ないってのは理解できた。

それでも親父さんはアイネのワガママを条件付きで聞いてくれることになったそうだ。

その条件ってのが


――3年の間に自分で相応しい結婚相手を見つけられれば婚約をなかったことにする。
ただし、身分を隠し、誰かにバレた時点で即帰還――


というものだったらしい。

しかも厄介なのが“相応しい”ってところな。その辺の男をとっ捕まえてきてもダメなんだと。

なんという無理ゲー。

それでも。

相手だって望んでいないとはいえ、婚約を解消するってことは一国の王族に泥を塗ることになるわけだから、これくらいの難易度も致し方ないってことなんだろうな。

しかも、婚約したはずの王女が婿探しをしているなんてキャスパル王国に知られたら困るので、公には行方不明ってことにされていたらしい。

つまりアイネのことを探す鬼もいるってことだ。ほんと無理ゲー。

だからイケメンは勘違いしたらしいんだが、それを聞いても納得いかないものがあるのはあいつがいけ好かないからなんだろうか。

ともかく、アイネは協力してくれる護衛の騎士を連れて旅立ったんだと。

それがあのキャラバンだったらしい。

ナナリールの隣国はドドンタールとキャスパル。

キャスパルで婿探しはまずいだろうということでドドンタールへ。



聞いてて思ったけど、王様もアイネのことが可愛いんだろうね。

国のためにはアイネのワガママなんて無視してそのまま王子と結婚させるべきだ。

でも、アイネのためを思うなら。

他に好きな人がいる相手と結婚して、しかも相手の想い人は自分が姉と慕う人で。

正妻の座を奪った負い目を感じながら一番に愛してもらえない人生。

どう考えても昼ドラです。本当に(ry

幸せな結婚生活とか難しくね?



そして、この計画は始まって二月もしないうちに失敗したわけだ。

俺のせいでイケメンに見つかったから。

そのことに気付いた俺は光速でアイネにDOGEZAを敢行した。

お兄さんは悪くないよ!って逆に慰められた。頭ナデナデ付きで。

うああ、思い出したら死にたくなってきた。恥ずかしすぎる。

12の女の子に頭ナデナデされて慰められる成人男性。

しかもハルクやバーサーカーみたいなでかい図体の癖に、だぜ。

客観的に見たら笑える構図だけれど、当事者からすれば悶死ものだぞ、コレは。

でかい図体して情けない、誰かにそう言われたら自殺してたね。間違いない。


しばらくしてイケメンとか兵士たちのアイネを探す声が聞こえてきた。

そろそろ戻ったほうがいい。これ以上待たせるとイケメンが心労で禿げてしまうかもしれないぞ、と冗談めかして言ったら笑ってくれた。

うむ。普通に可愛かったぜ。年相応。

笑いの種にされたイケメンからすれば不服かもしれんが、12歳の女の子に出し抜かれるような奴が悪いのさ。

それに彼女を笑顔にできるならイケメンの髪の毛なんて安いもんだべ。



「それじゃあまたな。ラ・ヨダソウ・スティアーナ」

「らよだそ、すてぃあな? 何それ?」



俺の故郷に伝わる、再開を誓う別れの挨拶さ。と教えてやると笑顔で繰り返してくれた。

教育は忘れない俺GJ

……なんか方向性違うけど、まぁいいよね。

アイネは最後に、気にしちゃだめだよっ、と言ってイケメンたちのところへ帰っていったけど、俺としてはもう何としてでも助けになってやりたくなっていた。

だって、このままじゃ情けなさ過ぎるだろ?

元の世界じゃ小学生やっててもおかしくないくらいの子に気を使われたまま、なんてさ。

けれど碌に使ったことのない俺の頭じゃ、どうすりゃいいかなんて全く思いつかなかった。

人付き合いも最低限しかしてこなかったからな。男女の問題、ましてや国家間の政治的問題なんて俺には未知の領域過ぎた。

二次元なら経験値どっさりなんだが。

日頃の行いってこういうことでも大事なんだなぁって思ったよ。経験者は語るその5、かな?



帝都を出てヨットで二週間、ナナリール王国の王都に辿り着いた。結構な長旅だった。

それでも、途中の町は全てスルーし、真っ直ぐに進んだからかなり早くついたらしい。

本来ならもっと時間がかかるものらしいよ。結構無理して進んできてたからだって。

時々キャラバンの時以上にたくさんのモンスターが襲ってきたりしたけど、こっちもたくさんの兵隊が居たし、加えて俺の魔法と俺の筋肉で軽く撃退。

モノマネしながら俺TUEEEEE楽しいです。

旅すがら、俺はアイネのためにしてやれることはないか考えていたんだが、何も思いつかなかった。

下手の考え休みに似たり、とはこのことか。

……所詮、こんなもんですよ。俺なんて。えぇ。



王都は驚くことに水の上にあった。海の上に、どでんと。

――正確には海のど真ん中にある岩山を中心に、周りを囲む7つの島と浮き島で繋げてある。
城は岩山を直接くりぬいて出来ており、城下町にいたっては島の敷地だけでなく、その周りに浮島をつなげ、毎年少しずつ拡大しているんだ――

と、兵隊さんの一人が自慢げに教えてくれた。

確かにはじめて見た時のインパクトは凄かった。まさにファンタジー。

ど真ん中の城は岩山っつーかどうみてもピンクの馬鹿でかい巻貝だし。

雨降ったら大変そうですね。と、言ったら水位は変わらないようになっているらしい。


岸辺からは随分と離れているが、無数のゴンドラと屋形船(に似た船)や魔力船(魔力で動くヨットの総称らしい)が行き来している。

ファンタジーっぽいところでは手足に尾ひれのついた牛に引かせる水牛船とか。

さらに変り種じゃあ馬車みたいな大きさの蛙に素のまま乗るとか、象よりでかいアメンボ?みたいな奴に乗って移動する人が居た。

……ファンタジーってすげぇな。うん、改めて思った。

初めて見たときも思ったけど、こうして文章にしてみるとインパクトが違うね。

だって字面じゃあ現実味が全くないもの。ほんと荒唐無稽だわ。



街中も水路が縦横無尽に張り巡らされててゴンドラで移動するのが普通みたいだった。

ヴェネツィアってこんな感じなのかね?

むしろ個人的にはポ○モンの映画を思い出したんだが。ほら、ラティなんとかの。
あれのヒロインは可愛かったなぁ。

とりあえず王城へ向かい王様に会うことになった。

入場も船で出来るとか、もうね。ほんと遠いところにきちゃったなぁって感じ。



あ、どうでもいいけどナナリールの水さ、超綺麗なんだぜ。

澄んでるし、場所によってはエメラルドとかマリンブルーって感じに輝いてる。

飲んでも平気って言うからちょっと飲んでみたらけっこう美味しかった。

空は基本的に快晴続きだし。たまに天の高いところをロック鳥なんかが飛んでたり。

照り返しはきついけど、潮風が涼しいし。

朝から晩までの移り変わりを眺めてるだけでも良いリフレッシュになると思う。
気候も穏やかでエーゲ海だか地中海って感じ。

どっちもテレビでしか見たことないけどね。

まぁ、いいとこだよ。旅行先として本気でお勧めできるところだと思う。

永住したいとは思わないけど。パソコンないし。



王宮の中もそこかしこを水が流れていた。仮にもドドンタール暮らしを経験した俺からすれば贅沢極まりないことである。砂の国だと水はかなり貴重なのですよ。

いくら有り余ってるとはいえ、ドドンタールの宮殿じゃ砂なんか流れてなかったのになぁ。

そんなことを考えながらキョロキョロしてたら近くを歩く女中さん(生メイドに俺歓喜。惜しむらくはいささかお年が……)に笑われた。ちょっと恥ずかしかった。

しかも、その直後にイケメンの野郎が、「田舎者め」ってボソっと呟きやがった。
いつか〆る。

王様はすげぇ優しそうな人だった。

結構年取ってて「なぜなら彼もまた特別な存在だからです」なんていいながら孫に飴玉をあげそうな雰囲気。

ドレスに着替えたアイネに抱きついておいおいと涙する姿を見たら余計にそう思った。

末っ子だから余計に可愛いらしい。

ちょっと苦しそうにしながら弾んだ声をあげるアイネは普通に子供だった。

政略結婚とかこの人たちには似合わないなぁって思った。



次いでイケメンをよく見つけてきたって、一応笑顔で誉めてた。王様はあんまり嬉しそうじゃなかった。

イケメンは超嬉しそうだった。真面目な顔で王様の台詞聞いてたけど、嬉しくて仕方がないって感情がにじみ出てた。気がする。

あいつが誉められてるのは棚から牡丹餅みたいなもんだよなぁ。

しかもアイネのこと考えると素直に喜べることじゃないし。

なんて考えてたらイケメンが俺のほうを見てフフンって得意げに笑いやがった。

それがまた癪に障る。何なのあいつ。


ま、それはともかく。

俺は王様にドドンタール式に則った挨拶を交わしてこれから厄介になる旨を伝えた。

そしたら王様、君がアイネの言っていた男か。娘を救ってくれて本当にありがとう。これからもよろしく頼むよ、だって。

王様は超ニコニコしてたけど、それを見て俺はなぜか言い知れぬ不安を感じたね。

ほんと。なんでかわからないけど。こう、知らないうちに見えないクモの巣に引っかかったみたいな。


ちなみにナナリールでの俺の立場だけど。

具体的には核兵器兼貴族兼魔術師。……漢字多いなぁ。

対外的にはナナリールのドラゴンイーターとして抑止力になり。

対内的にはドドンタール貴族兼使者として(建前上は)振る舞い、扱われ。

仕事的には爺さんの直弟子として、ナナリールで魔術師をやっている、と。

……ほんと、ややこしい。

それに魔術師って変な仕事なんだよ。やってみてわかったんだけど。

よく言えば魔法のプロフェッショナルというか、なんというか。

例えば、戦争のときは軍師とは別に魔法的な知識で助言したり、病が流行ったら魔法的見地を述べたり、災害が起きるのを予見したり予防したりするらしい。

でも俺はそんなこと出来ない。だからできる範囲で色々やってきた。

モンスターを退治したり、魚獲ったり、雨降らしたり。畑耕したり。

人命救助したり、土木工事したり、治水工事したり。

魔法の研究をしたり、古代文明を研究したり、遺跡の調査をしたり。

犯罪者をふんじばったり。貴族を宴会開いてもてなしたり、魔法の講義を開いたり、魔術師たちの勉強会に出席したり。

治安改善のための草案を考えたり、観光名所の目録作ったり。

闘技場用のモンスターを捕獲してきたり、アイネの遊び相手になったり、兵士たちと訓練したり、何かの取材に応じたり。

……やっぱ、いくらなんでも手広すぎじゃね? なんか内容が曖昧だし。

攻撃魔法しか使えないから、ほとんど自力だったりするしさぁ。

それでも俺は爺さんに魔術師ってのはこういうもんだって教わったから。

ナナリールに着てからはずっとこれで続けてきた。

なんでも魔法の発展に尽力し、魔法を世の中のために使うんだ、とか。

……でもなぁ。

最近、これは普通じゃないんじゃないか? って思うようになったんだ。

俺以外の魔術師たちはどいつも一人で色々とやることはまず無いみたいで、魔法の研究だけをする奴とか兵隊と一緒になって戦う奴とか、それぞれ専門分野があるっぽいんだわ。

魔物の討伐も一人じゃなかったり、兵隊がやってたりするみたいだしさ。

なんで俺だけこんな忙しいのよ。

毎日のように仕事が増えるし。休日返上で取り掛かっても無くならない。

ていうか元々休日なんて無い。

あぁ、労働条件確認しておくんだった……。

さっきもいつのまにか俺の秘書的なことをしてくれているメイドさんがどっさり仕事をもってきたんだぜ。

机の上にどさどさどさって。ありえん。

……でも、いまさら仕事を選べるわけがないんだよなぁ。

うがぁーっ、あまりにも理不尽すぐるでしょう!?



と、違う違う。本題違う。

とにかく、俺はこうしてナナリールで魔術師をしてるわけですよ。

で、相談したいのはアイネの誕生日プレゼントのことなんだ。

なんかこの間アイネと遊んでたときに、招待状貰ってさ。

来月らしいんだがそのときに渡すプレゼントをずっと考えてるんだが何も思いつかなくて。

女の子にプレゼントなんてしたことないから、喜ぶものなんてわかんないんだよね。

……心を込めて送ったら泣かれたりキモイって言われたのはノーカンだろ。
俺のログには何もないな。

よく、自分が送られて嬉しいものっていうけど、信じて行動したら絶対失敗しそうだし。(ていうかしたし)

直接、本人に何が欲しいか聞こうかとも思ったんだけど、なんかアイネ、俺にすげぇ期待してるみたいでさぁ。

俺も男だから見栄を張りたくなったんだよね。

男は見栄を張ってなんぼの生き物だって爺さんも言ってたし。

お前、妹いただろ。いつも何あげてんの?

個人的には喜ばれる上にオタク教育に役立ちそうなものがベストなんだけど。

貴金属の類はたくさん持ってるみたいだし、絵本なんて子ども扱いされたと思って、ふてくされるかもしれん。かといってラノベあげても読めないし。

食べ物なんてパーティで仰山でるし。お酒にいたっては飲めないだろうし。

お金なんていらないだろうし。

アイネの年頃だと小学生から中学生か。

小学生といえば……ランドセル?

……俺って馬鹿なのかな。

いや、小学生で考えたからダメなんだな。
そう、13ならむしろ中学生だ。

中学生と言えば……セーラー服?

……。死にたい。





とりあえず花束とカードは用意するとして。本命が決まらないんだよなぁ。

こっちの世界じゃ手に入らないのも良さそうだよなぁ。

なにかいいものないかな……。


あー、思いつかん。

スマンが、何かいいアイデアあったら教えてくれないか?

自分でも考えてみるけどさ。ほんと、お願いします。

用意するのに時間かかるプレゼントもあるかもしれないから来月の頭あたりにゲート開くよ。それまでに何かしらの案を用意しておいてくれると助かる。

ほんと頼ってばかりで悪いけど、お願いします。

……借りばっかり作ってるなぁ。何かこっちの世界で面白そうなのあったらまた送るわ。

それじゃあ、またな。





ps就職活動するときは業界と企業をよく研究するべき。そうすべき。経験者は語るその6なり。






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