よぉ、久しぶり。手紙書くのは2週間ぶりか。
図鑑とレポート、サンクス。グロ画像満載でおいちゃん発狂しそうだったわ。
ハリガネムシ怖いです。宿主を投水自殺させるとかマジありえねぇ……。
竜虫も同じ性質持ってたらどうしよう?
やっぱり宿主の姿形や生態を変えちまう寄生虫もいるのな。生殖機能を失わせた
り、変な物質を分泌して性格変えたり。
俺の姿が変わっちまったのはドラゴンを食ったからだと思ってたけど、まさか竜虫の仕業だったりとかしないよな?
まぁ、なんだ。図鑑は心情的に不安増大、と微妙な結果。
竜虫の特徴や生態がほとんどわかってないから比較して推測を立てられないことに読んでから気付いたよ……。
しかも今わかってる特徴なんて魔力食うことと竜に寄生する?ことくらいだし。
どっちも元の世界には無いっていうね。
まぁ、知識として手元に置いておいて損は無いと思うけど。そのうち役に立つかもしれんし。
ただよぉ。図鑑に挟んであった手紙、ありゃなんだ。
「ワロタ、続き希望」ってアホかっ!
同じ一言でもせめて頑張れとかイキロとかさぁ。うちの両親のこともノータッチだし。
もしかしてお前、まだ冗談だと思ってんじゃないだろうな?
……うん、信じてもらえる方がおかしいや。
どう考えても厨二の妄想だし。
仕方ないから頼みを聞いてくれただけありがたいと思っとくよ。
それも半分だけみたいだけどなぁっ
まぁ前置きはこれくらいで。
また頼みたいことがあるんだ、これが。
――東京都在住、田中さん(仮名)の自宅に届いた親友からの手紙――
その話をするまえに、俺が今いるところどこだと思う?
ヒントは鉄格子と臭い飯。
そう、牢屋だよ。
なんか知らんが帝都に着いた途端、犯罪者として捕まっちまった。
罪状は……うん、まぁそれは後で書くよ。
言っておくが無実だからな。神にだって誓える。神様信じてないけどさ。
それでも冤罪なのは間違いないんだ。俺が三年かけて集めたスク水フォルダをかけたっていい。
足りなければ世界の夜景フォルダもつけるぜ。
いや、ほんと、ただ状況と相手が悪すぎた。何言っても信じてもらえねぇの。
くそっ、あのガチムチとイケメン野郎。今思い出してもムカつくぜ。
……あぁ、いきなり書いてもわかんねぇか。
とりあえずあのあと何があったのか順番に書いていくよ。
そっちに手紙送ってから爺さんに紹介状貰って帝都へと旅立った。
またあの砂漠を歩くのかってかなり鬱になったけど、それは爺さんが解決してくれてね。
ヨットだぜ、ヨット! 砂の海を魔力で進むとか。しかも俺専用の特別仕様で超でけぇ。
日差し避けどころか、寝室ついてんだぜ。
思わずこれがヨット? って疑問が浮かぶほど豪華なサイズ。
それでも爺さんがヨットだって言い張るからヨットなんだろう。爺さんが言うんじゃ仕方ない。
ていうか爺さん曰く「お前の体が重すぎて、普通サイズの船体じゃあ傾いて転覆するかもしれない」だとさ。
本当にバーサーカー並みの体。嬉しいような悲しいような。
あと船体が真っ赤。角つき。←この辺が特別仕様な。
このヨット?は爺さんが宮廷仕えを引退するときに当時の皇帝から貰ったんだって。
いつだったか、俺が乗り物は赤くて角を生やしてるのが俺の中じゃスタンダードって適当ぶっこいたのを覚えていたらしい。
皇帝からの贈り物をわざわざ塗り替えて俺にくれるとか。
いいんですかって聞いたら「弟子の就職祝いだ、構わん」だって。
不覚にも泣きそうになったね。
帝国は五大国の中で一番広いうえに国土の七割が砂漠だから役に立つだろうだって。
軽く感動ものなんだけど。爺さん頼りになりすぎる。
それだけ目にかけてくれていたというか、期待されてるってことなんだろう。
まぁ、冤罪とはいえこうして牢屋にぶち込まれて、のっけから躓いてるわけだが。
俺はヨットに一週間分の水と食料を積み込んで旅立った。
ちなみに俺の一週間分=常人の一か月分な。
この体すげぇ燃費悪いんだよ。すぐに腹が減る。ガタイが良すぎるのも考えもんだぜ。
爺さんとこは地下に農園があったし、もしもに備えて食料を蓄えてたから俺も養えたけど、これが他の人間に拾われてたら飢え死んでたかも。
ほんと爺さん様様。爺さんマンセー。
もしかしたら俺があんまりにも大食らいだからさっさと追い出したかったのかもしれないけどな。
それは流石に失礼か。
衣類とか生活雑貨も多少は積み込んだ。ただ、服はほぼ腰布オンリー。あとは砂避け用のターバンくらい。
俺に合うサイズの服なんて爺さんが持ってるわけ無いっていうね。
流石にふんどし一丁で皇帝の前に出るわけにはいかんから、爺さんのお古を適当につなぎ合わせて全身覆えるローブ?を作った。
マジみすぼらしいけど俺の一張羅。
汚すわけにもいかんから普段は腰布のみの半裸で過ごしてる。
まぁ、爺さんと俺だけで他に誰も居ないから別に問題なかった。
昼の砂漠は暑くても日光を遮るために服を着てた方がいいんだが、無いものは無いで仕方がない。
馬鹿にしか見えない服を着てるんだと自己暗示。意味ねーけど。
で、準備万端、帝都目指して砂の海原を大航海、なんてな。
実際は魔力でヨットを動かしながら甲板に布で天幕張って日陰でのんびりだったけど。
でもまぁ、体はチートでも暑いものは暑いのな。寝室とか正にサウナ。
夜は冷え込むからちょうどいいけど、昼間にここで寝てたら干物になりそうなほど。
魔法で温度を下げることもできるんだが、魔力の制御が絶望的な俺にヨットを動かしながら他の魔法を使うなんて超絶技巧が出来るわけがない。
第一、魔法で温度を下げようとしたら砂漠でブリザードなんてX-ファイルも真っ青な不思議現象が起きちまう。
腰布一枚の俺には暑さより寒さが敵です。
で、三日たったあたりでイベント発生。
イベントとか自分で書いてて笑えるけど実際、起きたんだから仕方ない。
ていうかホント退屈だったんだよ。イベントキターって思うくらい。
三日間、進めど進めど砂ばかりの光景。時々モンスターを見かけるくらいで何にもねぇ。
モンスターもこっちが近づくとすぐ逃げるか砂にもぐる。
まぁ馬鹿でかい船が近づきゃ逃げるわな。
たまに襲ってくるやつもいたけど、かる~く一発ぶん殴るか、蹴っ飛ばすだけで地平線の向こうに吹っ飛んでく。
ちょっとだけ楽しかった。
そうそう、モンスターって書いてるけどこの世界的にはただの動物だから。
ただそっちの世界より凶暴で魔力をもってたりするだけ、な。あと姿形も変なのが多いけど。
空気より軽いガスを腹の袋に溜めこんで逆さまに浮くカワウソっぽい見た目の生き物とかな。名前は確かガンバノだったかな。
爺さんのペットの一匹だったんだが、ぷかぷかと袋にしがみ付くみたいにして漂う姿はちょっと可愛かった。本来は東のナナリール王国に生息してる生き物らしい。
おっと、イベントの話だったな。
簡単に言えばキャラバンがモンスターに襲われてたのを助けました。まる。
名前は忘れたけど犬ぐらいの大きさのサソリ、あと無毛の犬?とかが百匹近く居てさ。
極めつけに小山くらいある超巨大なアンモナイトみたいなのまで居た。無数の触手がくねくねしていてナチュラルにキモイ。
あ、あとゴブリンいたわ。青魔道士じゃねーからゴブリンパンチは覚えられなかったけど。
ほんと、お前ら今までどこに隠れてたってくらいの数がキャラバン襲ってんの。
襲われてるのは20人くらいの大きなキャラバンだった。
アルルピーっていうダチョウとラクダが混ざったような生き物とドンタトラスっていうゾウみたいな大きさのリクガメを何匹も引き連れてたな。
あ、ドンタトラスはゾウガメよりでけぇぜ。甲羅のてっぺんが人間の身長と同じくらいの高さだから。
俺がその場についたときには、すでにアルルピーの何匹かがモンスターたちの餌食になっていた。
きっとパニックを起こして逃げ出そうとしたところをやられたんだと思う。
それでも幸いか、人間はまだ誰も倒れていなかった。
何人か武器を持って戦ってるみたいだったけど、モンスターの数が多すぎて全滅も時間の問題って感じだったね。
そこに偶然通りがかった俺。
ヒーローは本当に偶然そばを通りかかるものらしいが、その場に居たのはちょっとばかしヒーローに憧れるオタでしかない。ヘタレゆえに。
正直、助けるべきかどうか迷ったね。
一匹一匹なら俺の方が強いってわかってるからどうってことないんだが、ざっと見ても百匹は居そうなモンスター相手に戦える自信がなかった。
ていうか怖かった。
いや、ホントうじゃうじゃいてさ。かなりのショッキング映像だって、ありゃ。
実は見なかったことにしてスルーしようかとまで思ったんだぜ。
でもこっちは馬鹿でかい船に乗ってるから目立つ罠。
戦ってる人たちはあんまりこっちを見る余裕は無いみたいだったけど、ドンタトラスの背中に跨った子供が俺の方をガン見してた。
俺は舳先に立って様子を見てたんだが、その子とばっちり目があっちゃってさ。
次の瞬間、助けてって叫んでくれた。
で、逃げるタイミングを失った俺は何をトチ狂ったか、キャラバンを取り囲んだモンスターの群れのど真ん中に飛び込んじまった。
多分、良心の呵責に耐え切れずって感じだったんだと思う。
力一杯ジャンプして着地したから、ズドンってメートル単位で砂が巻き上がった。
突然現れた巨人(俺)にモンスターも人もみんな呆気にとられてた。
で、注目された俺はテンパって、とりあえず威嚇した。どうしたらいいかわかんなかったから、完全に本能でやったんだと思う。
もしかしたらマンガとかの真似を無意識にしたのかもしれんけど。
だって「ぶるぅぁああああああああっ!」って咆えたんだぜ。うん、若本は偉大だ。
ちょっと口に砂が入ったけど、気にせず俺は動いた。
どぉりゃーとかでぇりゃーとか、ちぇすとーなんて奇声あげながら手近なモンスター達をちぎっては投げちぎっては投げ。
文字通り引き千切ったあたり我ながらチート乙といわざるをえない。
なんという筋力。これはブラックホールを作れるに違いないってね。
あの作品はタイトルホイホイでした、男装美少女は大好物です。お前も好きだったよな?
格闘技とかやったことないから完全に力任せの大暴れ。
緊急事態だし、手加減とか何それ美味しいのってくらい全力全開。
なんか戦ってるうちにハイになってきてさ。噛みつかれても気にするほど痛くないし、歯もほとんど刺さらないんだもの。アドレナリンって凄い。
調子に乗って尾を噛み千切ったり、ハサミごと踏み潰したり、甲羅を叩き割ったり、触手引っつかんでジャイアントスイングで投げ飛ばしたり。
「今死ね、すぐ死ね、骨まで砕けろぉっ!」
「貴様らの死に場所はここだぁ!」
とか叫んだり叫ばなかったり。
ノリノリじゃないかって?
うん、まぁムシャクシャしてたからね。
いきなり砂漠に放り出されて寄生されて、爺さんと二人っきりのむさ苦しい生活を一年近く続けて、ネットもマンガもゲームもアニメも全部お預け。
ぶっちゃけストレス溜まってたんだよ。
気がつけば周りには一匹も残ってなかった。俺が潰したやつ以外はほとんど逃げたみたい。
今、思い返してみるとどっちがモンスターかわからない暴れっぷり。
つーかキャラバンの人までビビってた。
命の恩人に土下座とか。ほんと野蛮で申し訳ない。
あと俺のまわりには変な肉片や体液が飛び散って激しくスプラッター。
俺の手にや体にもこびりついてやがった。
臭いがきつかった。あんまり酷くて吐きそうなくらい。
ドラゴンはそんなことなかったのにな。食欲って偉大。
うんまぁ、我ながら、この世界に動物愛護団体があったら訴えられても仕方ないレベルの残虐ファイトだったね。
そもそも喧嘩なんかほとんどしたことない半引きこもりオタクが他人のためになけなしの勇気を振り絞ったことを評価していただきたい。
でも思い返しながらこうして書いてるとすげぇ恥ずかしいんだけど。
だって結局、俺TUEEEEEとか無双乙ってことしかしてないんだもの。
これはひどい。
あ、魔法だけどキャラバン巻き込みかねないから使わなかった。
魔法の使用に関しては爺さんにすげー言い含められてんだよね。無闇に使うなって。
マジで天変地異起こせるレベルですから。
というのはもちろん建前で本当は忘れていただけだったり。
魔力を扱うことは出来てもとっさに使えるほど慣れてなかったってことなんだろうね。
まぁ、結果オーライだからいいんじゃね。
ほんと自分のチート振りに笑いたくなるぜ。不安要素が無ければ手放しで喜べるんだがなぁ。
戦い終わって呆けてると、恰幅のいいおっさんが話しかけてきた。浅黒い肌と髭がなんとも厳つい。俺、カイゼル髭って初めて生で見たよ。
この人はキャラバンのリーダーだそうで助かりました、ありがとうって何度も頭下げられた。
いいですいいです、たいしたことしてませんから頭上げてください、なんて答えながら、ぼんやりこっちでもお礼をするときに頭を下げるんだーとか思った。
日本みたいだよな。まぁ、爺さんのところで習っていても実際に見るのはまた別ってこと。なんか感慨深くてさ。
なんかリーダーは変に感心した様子で行き先を聞いてきた。
俺の目的地が帝都だってわかると一緒に行かないかだって。
このキャラバンも帝都に向かうところだったんだが、それまで護衛を俺にして欲しい、お金もちゃんと払うって言われた。
行き先同じだし、一緒に行くだけでお金がもらえるなんてラッキーと思って引き受けた。
モンスター相手に無双して、俺マジで強いんだって実感したところだったし。万能感みたいなのがあった。
モンスター? ボッコボコにしてやんよ、みたいな。
すぐに元に戻ったけど。調子に乗りすぎて失敗する奴なんか二次三次問わずそれこそ星の数ほどいるからね。
身の程はわきまえてますがな。所詮ヒキオタのブサメンですしおすしー。
でも、ちょっと誤算があった。キャラバンって進みがメチャクチャ遅いのな。
いや、俺のレッドコメット号アナザーワールドエディションが速すぎるだけなんだけどさ。
水の補給に何度もオアシスに立ち寄り、ドンタトラスとか荷物運びのモンスターたちを休ませながら進まないといけない。
帝都まで四日くらいの見込みで食料は多めに積んできたから良かったけど、ほんと歩きならどれだけかかっていたことか。
ヨットの価値を真に理解できたね。レッドコメット、マジ便利。爺さんほんと感謝。
何匹かアルルピーがやられたし、キャラバンの速度をあげるためにかなりの荷物をレッドコメットで運んだ。
あ、あと怪我した人や子供たちもこっちに乗っけた。俺はレッドコメットに魔力を送りながら歩いた。
重量オーバーしそうだったからな。幸い体力は有り余ってたし。
こんな危ない旅に子供を連れて行くものなのかとリーダーさんに言ったら口ごもって、事情があるって言われた。
プライバシーの侵害をしたくないので俺は何も聞かなかった。
厄介ごとに関わりたくないとも言う。つついて蛇を出すのは賢くない。
ていうか、先のモンスターの群れみたいなのに遭遇すること自体滅多にないんだって。
運が悪かったですねというとあながちそうでもないと返された。
俺が首を傾げていると、大笑いして貴方が助けてくれたじゃないですか、だとさ。
どうせなら女の子に言ってもらいたい台詞だね。
おっさんに言われても喜び度激減ですよ。
……嘘、ほんのちょっとだけ感動。
んなこと生まれてこの方一度も言われたことなかったからさ。
キャラバンを助けてその日の夜は砂漠のど真ん中で軽い宴会をした。
日が暮れ始めたころにはさっさとキャンプを設営(つってもシートを張るだけだが)して焚き火を囲んで輪になって座り、毛布を被った。
時々強い風が吹いて砂を巻き上げるけど気にしたら負け。
そのうち誰かが楽器を取り出して演奏し始めた。
いつの間にかみんなで合唱。
空には満点の星空。三つの月が輝いて幻想的な光景だった。
ちょっとだけ旅行も悪くないなって思ったよ。
……旅行ってレベルじゃねーけど。世界レベルで迷子とか不安すぎるからっ!
夕飯に食った肉の骨を食べに小型のモンスターがやってきた。
キツネ的な。名前は忘れたけどかなり可愛い。近づいてこないけどちょっと離れたところをうろちょろ。
おっさん達はほっといていいって言ってたけど、個人的にはもうちょっと近くで見たかった。
残念だなぁ、俺の脚なら捕まえられないかなぁとか考えてたらいつのまにか子供が傍に来ていた。キャラバンが襲われてたとき、目の合ったあの子だった。
なんか、また俺のことガン見してた。
大体12歳くらいかな? 髪は黒くて肌はこんがりキツネ色。かなり細くていとこのガキと同じ扱い(怪獣ごっこの名を借りたスパー)をしたらポキッといきそう。
顔も今はまだ可愛らしいって感じだけど、将来はイケメン間違いなしの美少年っぷり。女の子にも見えるくらいだぜ。
イケメンは敵だが、子供に嫉妬するほど俺は小さい男ではない。
許してやることにした。俺、超寛大。
それにしてもヒロインの登場はまだですかねぇ?
せっかく異世界来たってのに会う奴会う奴、みんな男ばっかりでそろそろくじけそうです。
神様、出来れば美少女でお願いします。個人的に色白で金髪ツンデレツインテールだったら高評価です。おっぱい大きめならさらに↑↑。
シカトしてればどっか行くだろうと思った俺はキツネ?の観察を続けた。子供の相手とかめんどくさかったし。
でもいつまでたっても動かずに俺を見ていた。
黙っているのも気まずいので、何か用か坊主? って聞くと、ちょっとムッとした。
子ども扱いを嫌う年頃なのかね? まぁ俺の知ったことではないが。
特に文句を言ってこないし、自分が子供だってことも理解してるんだろう。
そんで、助けてくれてありがとうだとさ。
ペコりって頭下げたよ。凄いね。俺がこれくらいの歳のときはもっと生意気だった気がするのに。
それと度胸のある子だとも思った。自分で言うのもなんだが、今の俺の見た目はかなりヤバイ。キャラバンの大人でも何人かはびびって近づいてすら来ないんだぜ。
大立ち回りしたから仕方ないかもしれんけど。
ちょい感心したから頭ぐしゃぐしゃに撫でてやった。ちょっと嫌そうにしてたけどまぁ俺の知ったことではない。
とりあえず名前を聞いた。コミュニケーションはお互いの名前を知るところからだよ、うん。
その子はアイネ・メルトヒとニヤニヤしながら名乗った。なんかイタズラを仕掛けて引っかかるのを楽しみにしてるような顔。
まぁ、よくわかんなかったから女みたいな名前だなって言ったら変な顔された。嫌そうな顔じゃなくて、変な顔ね。こう、何言ってるのこいつ、って感じの。
こっちの世界じゃアイネは立派な男性名なのかもしれん。爺さんも一般的な人名は教えてくれたけど、それ以外はあんまり覚えてないし。
そのあとはなんか色々聞かれた。その強さはどうやって手に入れたんですか、どこの出身ですか、とかね。
とりあえず適当に、砂漠で拾いました、砂漠で拾われましたって答えた。うん、大体あってるし。
からかわないでくださいって言われたけど。
他にも色々話した。正直うっとおしいと思わなくもなかったが純粋な瞳で見つめてくる子供あいてに非情にはなれないわけで。
このくらいの子供が好きそうな話が思いつかなかったからラノベやマンガのストーリーを話してやった。そしたらこっちが驚くほど興味を示した。
ときどき、それでそれでっ!とか焦らさないでよっ!とか。
あんまり楽しそうに聞いてくれるんもんでこっちも語りに熱が入っていく。
結局その子が眠るまで話した。最後まで夢中になって聞いてた。ラノベは中二的な魅力満載だからな。
体格がマジでイリヤとバーサーカー並みに違うからなんとも話しづらかった。
座り込んでるのにさらに体を屈めて話し続けるのはかなりしんどかったです。
で、なんか懐かれた。
昼間、砂漠を歩かせるのもアレなので肩に乗せて話ながら歩いた。
内容はやっぱりラノベ。時々映画。ときどきアニソンとか歌って教えた。
夜、全然離れないからまたまたラノベを語って聞かせる。時々マンガ。リズムとって時々ゲーソン熱唱。
異世界でオタク教育楽しいです。
うむ。書いてて思ったが、無ければ作ればいいんだな。
自分で書けないならこうやって教育で同志を増やして書いてもらう!
本格的にオタク文化を普及させてみようかね。
どうやってかなんて思いつかないけれども。
以降、繰り返し。
その後も特にこれといったトラブルなく進んだ。最終日は砂嵐がひどかったけど。
で、塔を出てちょうど一週間、キャラバン拾って四日。
とうとう帝都についた。
都は思っていたよりもでかかった。どれぐらいって言われると比較対象に困るけど。
ディズ○ーのアラ○ンの舞台になった町くらいのサイズはあると思う。
よく覚えてないけどイメージ的には大体あってるはず。
ただなぁ。俺は街中に入る前に捕まったから詳しく知らないんだよね。
まず、俺の船は特別製。色も赤で超目立つ。
だが、それ以上にこのサイズのヨットを個人で所有してる奴なんて限られてくるらしい。何気にマジックアイテムだし。
超高価。車で例えるなら……なんだろ? ロールス・ロイス? よく知らんけど。
こんなのが街に来る=超VIPが来るって方程式が成り立つくらい。
しかも俺のは爺さんが皇帝直々に送られた特別仕様。ぶっちゃけ爺さんしか持ってないオンリーワンらしい。
で、カラーリングが変わってたり余計なものがついててもすぐに爺さんのだとばれたらしい。門番達が大騒ぎ。
門から兵士たちがわらわらと。
さらに一目でモブじゃないってわかるのまで出てきた。それも2人。
一人は俺ほどじゃないけど筋骨隆々ガチムチ。
体中に傷のアル歴戦の戦士って感じ。背中に俺が拾った大剣並みの金棒を背負い、革の鎧を着ていた。
かなりの強面。極道の親分、もしくはマフィアのボスって感じ。
あの顔で話しかけられたら子供は絶対泣く。むしろ大人でも泣くね。
少なくとも俺は泣き顔一歩手前までいく自信があるね。
もう一人は対照的にこぎれいで体も細く、若かった。
甘いマスクとかイケメン貴族とかそんな言葉がよく似合いそうだな。
金髪だし。しかもロングで似合ってるとか絶対イケメンだろ、汚いなイケメンさすが汚い。
……いや、綺麗なんだけどさ。生まれつきとか、あまりにも卑怯すぎるでしょう?
俺なんかバーサーカーにクラスチェンジしちゃったせいで余計に見苦しくなったてーのに。
イケメンは純白の金属鎧を着ていて、腰に片手で扱えそうな細い剣を刺しスラリと長い足で近づいてきた。
前者とは仲良くなりたくないけど、後者とは仲良くなれそうにない。
そんな感じ。
そんな風に近づいてくる二人を観察していて俺は気付いた。イケメンの鎧に刻まれた紋章がナナリール王国のものだってことに。
爺さんの教育は伊達じゃないんだぜ。
こっからは思い出すだけでうんざりするから省きたいんだが、まぁ、そうもいかないよな。
もう気付いてるかもしれないが、この二人が俺を牢屋に閉じ込めた張本人だ。
なんかさ、傍まで近づいてきてイケメンがまず俺をみて目を見開き、次に俺の肩に座ったアイネを見てムンクの叫びみたいな顔してメートヒェン様とか叫んでんだよ。
ていうか、もはや悲鳴だったね。
で、オッサンはそれよりさらに馬鹿でかい声で貴様ッ! メルカッツォ様をどうした!?とか怒鳴ってんの。俺に。
あ、メルカッツォは爺さんの名前ね。本人曰くそれなりに有名、らしいよ。
皇帝からヨット送られるような人物が“それなり”なわけないんだけれども。
なんか変な誤解されたっぽいと察した俺はアイネを肩から下ろして彼らに向かい合った。
そんでとりあえず紹介状を見せようとしたんだが入れておいたはずのポケットに穴が開いていた。失くしたらマズイと肌身離さず持っていたのが仇になった。
きっとキャラバンを助けたときの乱戦で破けたんだろう。
焦った俺は正直に紹介状を失くしたと告げた。
そしたら殴られた。ガチムチに。
ホント、意味わかんないだろ? しかも超いてーの。モンスターに齧られるよりもずっと痛かった。
しかも殴られるなんて思ってなかったから完全に無防備でさ。
殴ったねっ親父にも、なんてお約束ネタをやる余裕も全くなかった。
その一発で俺パニック。鼻押さえて、いでぇえええって呻いた。
しかも、そのままぶっ倒れた俺に今度はイケメンが腰の剣を突きつけてきて貴様がメートヒェン様をさらったのか! だと。
何、この人たち。頭ヒットしてんじゃないの? って思った。
お前もそう思わない? 何事もまずお話だと思うんですよ、人間相手なら。
あ、魔王少女式オハナシは論外な。あと肉体言語も。
アイネが一生懸命に、違うの、違うのって否定してんだけどイケメンの野郎「メートヒェン様は騙されていたのです。
このような下賤のものとこれ以上お関わりになられてはいけません」とかなんとか言って全然聞く耳持たない。
なんで断定口調なのかわかんねぇけど俺ブチギレ。何この展開、理不尽すぎるだろ。
それに子供の訴えを頭ごなしに否定するのも気に食わなかった。まぁ、俺自身がガキだからなんだけど。
立ち上がりざまに、テメェらの血は何色だぁっ!とか叫んでイケメンの顔面に右手でアイアンクロー。
馬鹿力でそのまま持ち上げ腹部にストマッククロー。鎧もぶち抜いて腹を掴む。
よく貫通しなかったもんだ。
リンゴも余裕でジュースに出来る握力で締め上げる。
イケメンが、あがっとか超必死な顔でもがいてたけど知ったことではない。
そのまま頭上に持ち上げ、棍棒を振りかざしてきたガチムチに放り投げた。
二人とももんどりうって転がったが、すぐさま立ち上がると俺を睨みつけてきた。
イケメンなんて腹を押さえながら、貴様ァとか吐いてる。
周りの兵士達もみんな武器を構えて俺を取り囲んでた。
あ、やべ、なんて思ったときにはすでに遅かったね。
今にも襲いかかろうって時に子供の泣き声が聞こえて、全員の動きが止まった。
アイネがわんわん泣いてた。
子供泣かすとかマジ最低、って昔、好きな女の子に言われた俺のトラウマが発動。
……まぁ、それはどうでもいいか。
とにかく、俺はイケメンとかガチムチとか兵士とか全部ほっぽりだしてアイネにジャンピング土下座した。悪かった、許してくれぇって。
泣き止ます方法なんて知らないし。謝るときはジャパニーズDOGEZAが一番と決まっている。
アイネと俺の姿に周りの奴らも毒気を抜かれたのか武器を納めた。
イケメンは俺を睨んだままだったけどな。
で、なんか色々話を聞いて、こっちも説明して。
それでも結局、無罪放免とはいかなかったんだ。
疑わしきは罰せずじゃなくて疑わしきはとりあえずぶち込むが基本方針みたいでさ。
罪状は窃盗、強盗、皇室反逆罪。誘拐はアイネが否定してキャラバンの人たちとかが同じ証言してるから付け足されずに住んだ。
今、爺さんのところに事実確認のための兵隊が向かってる。
その人たちが帰って来たら晴れて釈放なんだそうで。
大体二週間くらいかかるとさ。
ていうか、こっから出ようと思えばいつでも出れるんだよね。鉄格子とかちょっと力入れたら簡単に曲がったし、壁もぶち抜けると思う。
まぁ、だからこそこんなところに居るわけだが。
ガチムチが例の帝国唯一のドラゴンイーターだったらしくてさ。
俺みたいな力を持った奴(しかもが罪人の疑いあり)を放置するわけには行かないってさ。
じゃあおとなしく牢屋で待ってますって答えたときの呆気にとられたガチムチの顔は今思い出しても笑える。
ごねるとでも思ってたのかねぇ。二週間くらい牢屋暮らしするだけで済むってんなら喜んで引きこもるって。
で、アイネとイケメンについてだが、こっちはよくわからん。
誤解は解けたみたいだが、イケメンが俺と関わらないようにしてて、何がなんだかわからないまま。
キャラバンの人たちは同じ牢屋に居る。彼らが何で捕まってるのかわからないけど、アイネ絡みなんだろう。あの子貴族か何かの子供みたいだし。
誘拐とかするような人たちじゃないと思うんだけどな。
それはさておき。
ここで、問題が一つあってな。お前に頼みたいことがあるんだ。ていうか、お前以外に頼れる奴がいない。
マジでこの世界にきてから一番の問題が発生したんだよ。
それが何かってーと。
……暇なんだ。
いやマジで異世界きてから一番の問題だぜ?
寝てすごすのも飽きたし、腹は減るし。大人しくするかわりに多めに貰ってるんだけどそれでも足りない。
キャラバンの人たちとは別々の個室だから話も出来ないし。
暇すぎて軽く拷問なんだけど。
てーことで、ちょっちゲート開くから何冊かラノベ貸してくれない?
今日で牢屋暮らし三日目。あと十日以上もこのままなんて精神が耐えられん。
かといって脱獄するわけにもいかんしさぁ。ラノベ読んでりゃ空腹もごまかせるし。
ガチムチになんとか紙とペンだけ貰ってこの手紙書いてるんだ。ほんとお前だけが頼り。
マジ、お願いします、ある意味、図鑑や親以上に切実な問題なんです。現在進行形で。
明後日の昼あたりに開くからそれまでに用意してくれてると助かる。場所はまたお前の机の上で。
あ、レインとインデックスの新刊でてたらそっち最優先で。あ、終わクロもいいな、長いし。
そっちに帰ったらお礼するからさ。
じゃあよろしく頼む。
ps人助けって牢屋にぶち込まれるくらいの覚悟が必要だぜ。経験者は語るその4な。