あー、久しぶり?
手紙なんか全然書いたことないから何から書けばいいのかわかんないんだけど、とりあえずそっちで俺、どうなってんの? 行方不明? 死亡扱い?
その辺よくわかんないんだけど、まさか捜索届けすら出てないなんてことないよな?
まぁ、なんだ。俺は生きてるよ。健康とはいえないかもしれないけど。
ちょい、助けて。
――東京都在住、佐藤さん(仮名)の自宅に届いた親友からの手紙――
そもそも俺は今、異世界にいるんだよね。
別に探して欲しくないから適当なこと書いてるわけじゃないぞ?
マジでファンタジーな世界にいるんだから他にどう書けと。
いくらお前がオタク仲間だからってこういう妄想乙って感じの内容を信じてくれるとは思わないけどさ、うちの親に送るよりはお前の方がマシそうじゃん。
少なくともここで破り捨てはしないだろ。しないよな?
あー、話がずれたな。戻すぞ。
この世界の名前は知らないっつーか、そもそも無いみたいなんだけど。
とりあえず今、俺が居るのはドドンタール帝国とかいうところでさ。
なんか、インドとエジプトが混ざったようなとこだよ。
インドもエジプトもよく知らないけど、イメージ的に。ターバン?みたいなのを頭に巻くみたいだし。
でさ、一年前にそっちからこっちへと誰かに召喚されたみたいで。本当、笑っちゃうくらいありがちな展開だよな。
実際に遭ってみると全く笑えないけど。
なんだっけ? クギミーの使い魔? あれのほうがずっとマシだぜきっと。
だって衣食住全部揃ってるんだぜ。特に食と住な、食と住。ここ重要。
なんかさ、気がついたら俺一人で砂漠に居たんだよ。まわり砂ばっかで何にもなくて超あっちーの。直射日光バリバリ。
岩とかサボテンとかそんなのも無いんだぜ。
親父の練習に差し入れ持ってく途中だったからポカリ持ってたけど、無かったら干乾びてたね。しかも氷入り魔法瓶。ペットボトルのままだったらと思うとぞっとする。
入れ替えた俺超GJじゃね?
マジ、お前も持ち運ぶときはペットボトルから移し変えたほうがいいぜ。いざってときのために。経験者は語るってやつだ。
とまぁ、水分は良かったんだけど、腹が減ってさ。親父連れ帰ってから飯食う予定だったから何も食べてなかったんだよね。てか、ポカリもすぐ飲みきった。
で、町とかオアシスとかサボテンとか、無けりゃ日陰でいいからって感じで探し歩いたのよ。このままじゃ死ぬと思ってさ。
俺のサバイバルスキルなんてテレビで見たうろ覚え程度だし。
なんだっけ、サボテン切ると水がでるんだっけ?
そもそもサボテンが無いっていうね。
んでまぁ、日差しと熱気に耐えながら彷徨ってるうちに、遠くに真っ黒な何かがあるのを見つけて。
即行で駆け寄った。多分、人生最速。高校のときの購買でやきそばカツサンドが出る日並みかそれ以上。
腹も減ってたけどそれ以上に日焼けがきつかった。大学入ってからの半引きこもり生活で白くなった肌が砂漠の直射日光に耐えられるわけねーっての。
超真っ赤で痛くて痛くて。しかも時々風が吹いて砂が日焼けにビシバシ当たるわ、目に入るわでさっさと何かの物陰に逃げ込みたかった。
最初はジャージを着てたんだけど、色が黒で暑くてすぐに脱ぎ捨てちゃったんだよね。
で、俺はてっきり岩山か何かだと思ってたんだけど、そいつは灰色のゴジラだった。面倒だからポルナレフは省くぞ。とにかく言葉通りなんだ。
いや、ゴジラってほどでかくはないし、羽生えてたし角もあったしドラゴンっぽい顔だったから、どっちかっつーとミラボレアスのほうが近かったかも。
モンハンの。例えるならゴジラ肌のメタボった灰色ミラボ?
ともかくドラゴン?が横たわってたわけですよ。しかも生きてんの。うなり声みたいないびきかいてたし。
いくら俺がドラゴン好きだからって嬉しくもなんともなかったね。や、ほんの少しは感動したけどさ。
あれだ、ライオンが好きでも檻の中に入りたいと思わないのと同じで、出来れば安全なとこから眺めたかった。
驚きすぎて声が出なくて、後ずさりしたら、そいつと目が合っちゃったんだよね。長い首を折り曲げて俺のこと睨んでるの。
で、咆えた。
生物がこんなにでかい声出せるのかってくらいスゲェ音量。なんか口の周りの空気がゆがんで見えたし。
気圧されるっていうのかな。尻餅ついちゃってさ、逃げようにも腰が抜けて立てないの。
そしたら妙に冷静になって死因がドラゴンに襲われてとか日本じゃありえないよなぁ、なんて考えてた。
でも、いつまでたってもドラゴンがそこから動こうとしない。
不思議に思って、よく見るとこれまたアホみたいなでかさの木で出来た杭が二枚の翼と手足を貫いてるのよ。血も流れまくり。
しかも首の根元に俺よりでかい剣が食い込んでた。もう一押ししたら首が飛びそうなくらい。
なんか弱りまくってて俺を襲う力も残ってないっぽかった。
これ幸いとばかりに俺はそこから逃げようとしたんだけど、途中で腹が鳴って考えちゃったんだよね。
――あれ、食えるんじゃね?って。
俺はUターンして尻尾や頭に近づかないようにしながら近寄って、地面にたれた翼からドラゴンの体をよじ登った。
今、思えば死ぬのを待てば良かったんだろうけど、空腹と暑さで頭がやられてたからか、そんなこと思いつかなかった。
ロッククライミングしてる気分だったぜ。表面はごつごつしてたから掴みやすかったけど、呼吸で上下するわ、たまに身じろぎするわ、ほんと大変だった。
実際、何度も振り落とされた。いやー、ほんと地面が砂で助かった。
あと鱗がひんやりしてて、正直ちょっとだけ気持ちよかった。こう、真夏の廊下にへばり付くみたいな。小学生のときはよくやってたんだよ。
で、なんとか首根っこまで辿り着いて、オリンピックの鉄棒みたいな剣の柄に飛び移った。
それだけであっさり首が落ちた。断面から血も噴出した。シャワーみたいに頭から浴びたんだけど、それがビックリするくらい冷たくて、日焼けした肌が逆に痛かったな。
不思議と生臭くなく、ためしに舐めてみたら少し甘みがある上にさらっとしていてむしろ飲みやすかった。
血といえば鉄臭いものだと思うのだが、こいつは全然そんなことなかった。飲んだことは無かったけどスッポンの生き血もこんな感じなのかね?
思い返せば、かなりグロかったのに不思議と吐き気とかも感じなかったなぁ。
解体は全部馬鹿でかい剣でやった。かなり大変だった。
見た目の割りには随分と軽かったけど、それでも両手でなんとか持ち上げて振り下ろすことしか出来ねぇの。
胴体とか切り分けるのは無理そうだったから切り落とした首からほんのちょっとだけ切り取った。
そんで大剣を鉄板代わりにして、ぶつ切り(スライスとか無理)にしたそれを焼いて食ってみたんだ。
これが滅茶苦茶旨いこと旨いこと。歯ごたえはちょっと硬めだったけど噛めば噛むほど味が染み出してきて面白かった。つるっとした舌触りも悪くない。牛肉や豚肉とも違う。鶏肉が比較的近いかもしれないけど、調味料は一切使ってないのに少し辛かった。
おお、思い出すだけでヨダレが出てきた。日本に居たら味わえないね絶対。
ちなみに焼き加減はほぼレア。目玉焼きが焼けそうなくらい温まってたけど焼き目をつけるのが限界だった。
で、夢中になって食ってたら突然、体中が疼きだした。
あんまり気持ち悪いんで転がりまわってるうちに気を失って。
気がついたらムキムキ(笑)
思わずマッスルポーズとっちゃったね。馬鹿でかい剣も片手で振れるとかテラワロス。
……いや、ホント冗談じゃなくてマジ。異世界来てドラゴン食べて強くなるとか冗談にしか聞こえないけどマジ話。
今も俺の腕やべぇよ。そこらの丸太より太い。もはやドラム缶一歩手前。鉄みたいにガチガチ。
シュワちゃんやビリーより確実にマッチョ。ていうか骨格から違う。
身長もぐんと伸びて目線が高い、2メートル余裕で超えてる。なんか肌も真っ黒になってて、ついでに日焼けも治ってた(笑)
でもさ、どうせならこう、細マッチョっていうの?
せめてFateのアーチャーくらいでとどめて欲しかった……。
バーサーカーとかマジ見た目的に問題アリだから。バーサーカー好きだけどね。
男はハートですよ! 女にはそれがわからんのです。
まぁ、それでもそこで俺は思ったわけですよ。俺、主人公? 俺TUEEEEEキタコレ!?って。
ビジュアルは残念だけどさ。
ちなみにドラゴンは翼一枚残して全部食べた。なんか骨もバリバリ噛み砕けた。
モツも良くわかんなかったけど鉄板……もとい大剣で焼いて食った。粉っぽかったりザラザラしてたりグニャグニャしてたり、どれも変な食感だったけど旨かったぜ。
心臓みたいなの食べたあたりで動悸が激しくなって焦ったけど、しばらくしたらそれも収まった。
で、残った翼を非常食兼日傘代わりにして砂漠を全裸で爆走した。力が有り余ってしょうがなかったというか、無性に暴れたい衝動みたいなのに後押しされたんだよなぁ。
途中で変な生き物に襲われたりしたけど、全部弾き飛ばした。ランナーズハイって凄い。
服? 綺麗に弾けとんでたよ。
二日くらい走り続けたあたりで変な塔に辿り着いた。外観はピサの斜塔が斜めになってないみたいな感じ。内装は知らないけど。
誰かいるかもしれない。
人が居たら泊めてもらおうと思った。ちょうど非常食も食いきったとこだったし。
中に足を踏み入れると賢者を名乗る爺さんが出てきた。
思わずロトの紋章かって突っ込んじまったよ。
まぁ、あれは見た目若々しいけど。こっちは皺くちゃだった。
そんで爺さんが俺見て目ん玉丸くしてんだよ。しわに埋もれた目がカッて開くんだぜ。ボビーの目玉芸を初めて見たとき並にビビったね。
爺さんの話だと俺は人間じゃありえないほどの魔力を持ってるんだと。
それこそ並のドラゴン以上とか。
俺がドラゴン美味しかったですって言うとこれまたビックリして、なんか知らんが弟子に誘われた。
なんでも自分は帝国一の魔法使いで昔は宮廷魔術師をやっていたが、今は引退してこの塔で魔法の研究をしていたんだと。そんで凄い魔法を開発したらしい。でも自分ももう長くない。誰かに伝えたいけど、それを扱えるだけの魔力の持ち主が見つからなくて困っていたとのこと。
そこにドラゴン並みの俺がやってきてラッキーってことらしい。
なんか、これは運命だ、なんとか神の導きだとか言ってたけど要約するとそういうことだと思う。
俺も魔法を使ってみたかったから弟子入りした。砂漠をさまようのも嫌だったし。
そこで半年くらい勉強してた。
基本、魔法の修行なんだけど俺が余りに常識を知らないもんだから他にも色々叩き込まれた。それこそその辺のガキでも知ってるような遊びから宮廷作法なんて一生縁のなさそうなものまで。
……んまぁ、結構楽しかったぜ。爺さん教え上手だったし、面白い体験談とか勉学の合間に話してくれたし。
飯も旨かったな。爺さん料理も出来るんだよ。しかも材料は魔法で環境整えて自家栽培。
飯のしたくは弟子がしろって言われたんだがチャーハンくらいしか作れない俺が、見たこともない異世界の食材で料理なんか出来るわけない。
結局、料理も教えてもらうことになった。ていうか、こっちのほうが魔法の修行より大変だったのが笑える。
弟子入りしてから唯一の不満は潤いが無かったことだな。
環境的な意味でに。あるのは乾いた砂としわしわに枯れた爺さんとむさくてゴツイ大男(俺)だけだぜ。爺さん秘蔵のエロいマジックアイテムを見つけなかったら不能になってたかもしれん。例えば(検閲)
そうそう。俺には魔法の才能なんて無かったよ。
使えることには使えるし爺さんの魔法もきっちり覚えたんだが、いかんせんコントロールが下手糞すぎた。
魔力の量が尋常じゃないから力任せになら発動できる。ただ、省エネとか手加減とか全く出来ない。
ライター代わりに火を灯そうとすればガスバーナー並みの火力が吹き出る。
まぁ、魔力なんてマンガやゲームでしか知らない日本人だから仕方がないよな。
あと回復や補助魔法の適正が全く無かった。攻撃一辺倒ってどうなのよ。ただ、どんな属性でも扱えたから、絶望的ってわけじゃないのが不幸中の幸いだな。
ところで俺がチートな肉体を手に入れた原因のドラゴンだが、爺さんのおかげで非常にまずいことがわかった。
爺さんいわく、ドラゴンってーのは限りなく自然現象に近い生物なんだとか。
並みの刃物じゃ傷もつけられない鱗、一晩でどんな傷も治ってしまう生命力。
岩山をも踏み砕く筋力に巨大な体躯を自由自在に飛行させる強靭な翼。
人間の魔法使いが何百人いても打ち破れないマジックシールド。
そして極めつけがドラゴンごとに異なるブレス。その威力は周囲の地形を変えてしまうほどだとか。
そんなのが本能で周期的に人を襲うってんだから最悪だ。
ドラゴンが出現したらその周辺地域の人間は逃げるしかなく、戦うなんて選択肢は端から存在しない。
つまり生物なんだけど自然災害と同様に人にはどうしようもないものってことらしい。
でも、生物だから死ぬときゃ死ぬ。
その証拠にごく稀にだがドラゴンの死体が発見されるらしい。
死因はよくわかってないけど寿命とか病気とかきっとそんなところだろうって爺さんが言ってた。
んで、その血肉には人間を進化させる力があるんだって。
血を浴びればドラゴンの驚異的な生命力が。
肉を食えば万夫不当の剛力が。
そして心臓を食らえば天変地異をも起こせるほどの魔力がその身に備わるとか。
ただしドラゴンの肉は非常に腐りやすいうえ、多量に摂取すると急激な変化に耐え切れず体が自壊してしまう。
よってドラゴンの肉は猛毒とされ、口にする人間はほとんど居ないんだと。
現在ドラゴンイーター(竜肉を食った人間のことをこう呼ぶらしい)として確認されているのは5人だけだとか。それも自壊を恐れて心臓だけ、肉だけ、血だけって奴ばかりらしい。
……俺、全部食ったけど?
自分のチートっぷりを喜ぶより、全身食った俺はどうなるんだろうって不安になったね。
前よりも目や耳が良くなってるのは気付いてたんだが、これもドラゴン食ったからっぽい。
学者の中じゃドラゴンが人間を襲うのは神が人間に課した試練だからだ、っていう人もいるんだとか。
あんまり怖くなったもんだから爺さんに、丸ごと一匹食ったと白状した。
なにっ!? とか凄い顔したけど、すぐに俺の体を魔法で調べだした。
そんでわかった驚愕の事実。
俺、腹の中によくわからない生き物がいるらしい。いわゆる寄生虫みたいなの。
そこだけ魔力の流れが微妙に違うんだと。ほんの少しだけど魔力が食われてるとか。
どうやらそいつが俺の体のバランスを取っているみたいなんだわ。どうやってか知らんけど。
爺さんもこんなの見たことないって言ってた。
俺、ほとんど生でドラゴン食ってたから寄生されたのかもしれん。
そのおかげで逆に助かったみたいだけど。
加熱って大事な。経験者は語るその2ね。
ドラゴンから出てきたっぽいから竜虫って爺さんが名付けた。
でもさ。いくらそれのおかげで命が助かってるとはいえ、寄生虫になじみの薄い現代日本人なら自分の腹に虫がいるなんて聞いて気持ちいいもんじゃないだろ。
体もすでに安定してるみたいだし下してもいいだろうって爺さんも言うから虫下し貰って飲んだ。
無駄だった。
薬は三種類くらいあって全部試してみたけど全然効かなかった。
たしか寄生虫ってかなりヤバげな生態を持ってたよな?
外敵に襲われやすくしたり行動を操ったりするんだっけ。
悪いんだけど、その辺、そっちで調べてみてくれないか?
こっちじゃ寄生虫なんてほとんど知られてないから推測も立てられないんだよ。
またいつか、ゲート開くからさ。お前の部屋の机の上に置いといて。なんなら寄生虫の図鑑でもいいからさ。ほんと、俺を助けると思って、頼む。
あとドラゴンに関してだけどもういくつか俺を不安にさせる情報が……。
ドラゴンには火を吐く火竜とか雷を食う雷竜とかだけ様々な種類がいるそうで。
でさ。問題は俺が何のドラゴンを食べちまったかってこと。
なんでも、ドラゴンの肉を食うとドラゴンごとに対応した能力も手に入るらしい。
例えば、現存するドラゴンイーターの一人、聖王国のマーチンさんは風竜の肉を食べたことで、魔法とは別に風を操れるようになったとか。
一応、爺さんの知ってるドラゴンは8種類。ていうかそれが世界で確認されてる全て。
教えてもらったけど俺の食った灰色のドラゴンはいなかった。
爺さんも黒や白ならともかく灰色のドラゴンなんて聞いたこともないって言うし。
しかも俺が見つけたのは死体じゃなくて、瀕死のドラゴン。
それも明らかに人?との戦闘で死に掛けてた。
馬鹿でかい剣は明らかに人間が作ったものだしな。鉄の塊のようで、意外に鋭いしところどころに不可思議な呪文が刻んである。
人間では倒せないはずのドラゴンを倒す人間?らしき存在。
それと俺の食った新種?のドラゴン。
なんか、余計に不安が増した。
マジ、拾い食いはダメだね。経験者は語るその3。
そういや、爺さんは俺を帝国の魔術師にしたいみたいなんだ。
帝国にはドラゴンイーターが一人いるんだが、食ったのは肉なのでバリバリの戦士。魔力も人並みで大した魔法は使えないらしい。
そこで俺を帝国に使えさせようって考えてるようだった。それだけ魔法が凄いってことなんだが。
んで、ことあるたびに帝国の素晴らしさを説かれた。
正直、俺は帝国って言葉にあんまりいいイメージがなかったから話半分に聞いてた。ほら、マンガやゲームだと帝国って敵国のこと多いじゃん。
現実と創作をごっちゃにしたらいけないのはわかってるけどさ。
だけど、いつまでも働かずにいるわけにもいかないし、恩もある。
持ち前の馬鹿魔力でかなり強引にだけど、爺さん秘伝の新魔法も使えるようになったので、帝国に行くことにした。
秘伝なのに新しいとか矛盾してるような気もするが、間違ってないからいいよな。
家に帰ることなんてこれっぽっちも思いつかなかったあたり、親不孝者だと自分でも思う。
それだけこっちの世界に興味津々だったからな。すっかり忘れてた。
まぁ、今こうして手紙書いてるから許してくれ。
親父たちには申し訳ないけど、お前からなんとか言っといて。帰れそうにないし。技術的にも見た目的にも。
この手紙をそっちに送ったのも魔法なんだが、遺失魔法の一つでさ。
爺さんのところにあったわずかな資料と俺の馬鹿魔力で強引に扉を開いてるんだ。
今は手紙一枚送るのがやっと。爺さんが塔で研究を続けてくれるらしいけど、まだまだ帰れそうにない。
爺さんには言ってあるんだが、きっと俺はこの魔法でこっちの世界に連れてこられたんだと思う。つまり、この魔法を使える奴がいるってことだ。
証拠なんて全くないけど、何の理由も無く気がついたら居ました、よりも、異世界をつなぐ手段がある以上、それで連れてこられたって考えた方がずっと自然だ。
とりあえず犯人見つけたら殴る。そのあとで落とし前つけさせる。
パソコンに触れない生活の苦しさ、お前もわかるだろ。
以上がこの一年の出来事だ。
そんなわけで、この手紙をそっちに送ったら帝都に行ってくる。
両親と寄生虫の件、頼むな。そっち帰ったらまたカラオケ行こうぜ。
じゃあな。
psマジ拾い食いはやめとけ。