とある町の、坂の上。其処には中々立派な教会が建っている。
庭があり門があり、何よりも建物がとてもとは言えないが、そこそこ立派だった。
しかしその教会に寄り付くものは、黒いシャツを羽織った褐色の青年以外に居なかった。
理由は簡単、教会の神父が不気味だからである。
そんな言峰教会の、昼。
珍しく教会の庭の中には一人の少女が居た。
金髪を後ろで編んだ髪の毛は金細工のよう。
小柄な体躯、それでいて引き締まった身体は、見るものの心を奪う。
何よりも、顔が非常に整っていた。エメラルドの瞳にシルクの肌。そして太陽の唇。
これだけパーツが揃っているのだ、見とれない方が不自然と言う物だ。
また、彼女の何かを悩んでいる表情が美しさを増長させていた。
物憂げな表情というのは、持っている美しさを更に磨き上げる物である。
「どうしましょう……意を決して入るべきか……
いや、しかし……」
顎に手を当て、右往左往。
神秘さを含みつつも、少女の仕草はどこか可愛らしい。
……もうお気づきだろうが、少女の名はセイバー。
宿敵とすら言えたギルガメッシュの変貌を暴きに、この言峰教会までやってきた次第である。
なれば、セイバーが突入を決意しない理由は何故か?
言峰教会には、ギルガメッシュの他にもう一人サーヴァントが常駐しているからである。
名はランサー。最も疾き槍兵だ。
セイバーのクラスは聖杯戦争で最も勝利に近いクラス。
それでも、二人のサーヴァントを一度に相手をするのは難しい。
ましてギルガメッシュはセイバーと互角かそれ以上の戦力の持ち主。
勇敢であり誇り高いセイバーと言えど、慎重にもなる物。
……と、いうのは彼女が自身の脳内で繰り返している言い訳だ。
実際はもっと情け無い理由だった。
──そう。右手に握っている見慣れた機械を見てしまえば、一瞬で理解してしまうほど簡単で、情け無い理由だった。
右手に握られるはPSP。我らが駄目サーヴァントの証である。
要するにだ。
セイバーは「入ーれーて」の一言を言うか言うまいかで悩んでいたのである。
言ってしまえば、彼女は何かを捨て去ることになる。彼女はまだ知らないが、紅い弓兵のように。
しかし、それを天秤に掛けてすら、誇りを捨てるのは容易すぎた。
「ぐ……モンハン。誇り。
モンハン。プライド……」
ついに悩みは声となって出始める。
こうなってしまえばもう、後はもろい物である。
セイバーの動きは奇しくも、数日前の──ランサー達の仲間に加わった際のアーチャーを再現している物だったからだ。
「ええい、ままよ!」
そして、ついに彼女は教会の扉を押し開けた。
自己の意思での、決定的な突入。
喩えるのならば飛行機に搭乗する際くぐる、検問のアーチ。
今、その検問に『誇り』という二文字が引っかかってしまったのだった。
「たのもう!」
意を決しての突入。
大切な物を捨て去って押し開けた、魔境への扉。
其処には――
「ぬうう……ランサー! 我は……我はどうすれば……!」
「落ち着けギルガメッシュ! ――クソ! なんて厨パーティーだ……ランサー、君の意見を仰ぎたい」
「メタグロスとボーマンダ……これがタワークオリティーなのか!?
ちっ……氷技が無いのが致命的だな。お互いに相談して対策をとるべきだったか……
まもるとたすきが怖いがフレアドライブを使うしか無いと思うぜ、俺は。」
仲良くポケモンに興じる、信号機の姿があった。
「それしかないのか……? いや、猫騙しを使っておくのはどうだろう?
たすきを潰せるし、まもるを使われても……」
「いや、ボーマンダを縛れてない状況の今、どちらかは確実に落とさねぇと非常に厳しい。
残念ながらマンダを確一、乱一で落とすのは無理だ……急所は期待できないしな。
一方、こっちは猿とサンダース。お世辞にも耐久に優れてるとは思えねぇ。悪けりゃグロスの大爆発で――
いやしかし、今はマンダがスカーフ型で無い事を祈るしかないか……
ここはタワーだ、何が起こるかわからん……」
「我は、我のサンダースはどうすれば……」
「ええい、だからめざパくらい厳選しろっつったんだよ!
氷だったらボーマンダは縛れたのによ……」
白熱するポケモン談義。
タワー攻略中の大きなお友達など、大体こんなもんである。
因みにプレイをしているのはギルガメッシュとアーチャーで、ランサーはアーチャーの相談役としてDSを覗き込んでいた。
「あの……もし……」
困ったのはセイバーだ。
意を決して教会へ突入すれば、其処にはポケモンプレイ中の大きなお友達が三人。
しかもバトルタワー攻略中である。
セイバーは、ポケモンの事はあまり詳しく知らない。
だが、過去にバトルタワー攻略中の士郎とイリヤに声をかけ、こっぴどく叱られたことが在るのだ。
獅子の王を連想するかのような、二人の烈火のごとき怒り。
それは数多の人間を統べ、倒し、見てきたセイバーですらも息を呑む恐ろしさであった。
セイバーは冷静になる。
今彼らに話しかけるのは得策ではない、と。
何より、PSPを掲げつつ無視される自分の姿を冷静に鑑みて、恥ずかしくなったのだった。
「……出直そう」
誰に向けるとも無くそう呟いたセイバーは、一旦PSPを懐にしまい、教会を一時後にするのであった。
彼女は思う。
これは退却ではない、一時的な後退なのだと。
……教会の敷地内に入った時点で全てに敗北した事を知らないのは、彼女にとって幸運だったのか。
「いや、悪かったなセイバー。
まさか来てるとは思わなかったぜ」
数分後の言峰教会。
とりあえずの試練を乗り越え、朗らかになったランサーが快活に笑った。
一応元は敵同士だったとは思えない歓迎振りに、セイバーは戸惑う。
別にもてなされている訳ではないのだが、かつて近づくことすら宣戦布告になっていた時があったと思えば、考えられぬほどの好待遇だ。
だが、セイバーにはそんな物よりももっと気になることがあった。
「……ふう。今回は駄目かと思ったが、意外と何とかなるものだな」
「うむ。控えが大したことが無かったのが唯一の救いであろう。
そろそろ準伝説の育成も視野に入れておくべきか……」
「私もなりふり構ってはいられないな……ラティオスでも厳選してみるか……」
それはこの紅と金の存在である。
ランサーとギルガメッシュ以上に仲の悪い二人。
それが今、仲良く隣に座りあって作戦会議を行っているのだ。
平行世界を渡ろうと、この光景を見るのは生半な事では無いだろう。
故に、ランサーへの返事が遅れたセイバーを、誰が咎めれよう。
というかこの二人、いまだセイバーに気付いていない。
今の彼らになら、気付かれる前のエクスカリバーぶっぱで勝ててしまうのではないか。そんな事がセイバーの脳裏をよぎった。
まあ実際はそう簡単にはいかないだろうが、熱中している彼ら相手なら真名解放までなら気付かれなそうな気もする。
「――む、ああ。来ていたのかセイバー。
私達に何か用か?」
自らの思考に浸るセイバーだったが、当事者でも在るアーチャーの一声で我に返った。
セーブをし終えたのだろう、見ればギルガメッシュもDSをたたむ動作の途中であった。
混乱で飛びそうになる意識を何とかとどめ、セイバーはようやく本題に入る。
――入ろうとしたのだが。
「え、ええ。
しかし、その。
アーチャーはいつの間にギルガメッシュと――?」
ついはぐらかしてしまう。
いや、それもそれで気にはなるのだが。
先ほどのギルガメッシュとアーチャーを見て、セイバーはいくらか冷静になってしまっていた。
そう、自分の状況を再び理解してしまった。
再び、言い出すのが恥ずかしくなってしまったのだ。
心を読む事に長けるアーチャー、そして人間観察に優れるランサーは、セイバーが何かを隠している事を看破する。
特にアーチャーは、数日前の自分と完全に重なるセイバーを見て、何を言い出したいのかを完全に握していた。
しかし、助け舟を出すような事はしない。
敵だった人間の助けを自分の意思で受けるような、生半なプライドを彼女は持っていない事を見越しての判断だ。
まあ実際は自分の通った苦難の道を彼女にも歩ませたいだけだったのだが。英霊のくせに意外と人間臭い。
「ああ――つい数日前だ。
何、話してみればこれが中々分かる奴でな」
さて、はぐらかされた会話に乗ったのは、愉快そうなギルガメッシュだ。
彼こそは、人の上にたった最古の英雄王。あわてる少女一人の胸中を探る事など容易い。
要するにセイバーが話をはぐらかしたという事実は、教会の全員が知っていた。
しかしまた此処でセイバーは冷静を失う。
分かっていたとは言え、想像以上にギルガメッシュの言葉が柔らかい物だったからだ。
喩えるのならば、友人をからかう青年のような、爽やかな対応だったのだ。
前の彼ならば、上から目線で蔑むようなニュアンスが含まれていたはずの言葉。
それがこない事で、セイバーの頭は更に混乱を極めていく。
「あ、え、は。
そ、ソウデスカ。
一体何をきっかけにして、その様に仲良くなられたのですか?」
気がつけばセイバーは、自分でもよく分からない質問をしていた。
まあ核心といえば核心に触れる話題なのだが、セイバーがそれに気付く事は無い。
ここで、ランサーとギルガメッシュも大体あたりをつけた。
このようにして教会を訪れる英霊など、友好を結びに来た――または、それに準ずる目的が在るものくらいだ。
もし、彼らを倒すような事が目的ならば不意打ちを掛けるだろうし、英霊が三人も揃っている時に教会に踏み入るような事はしまい。
しかも、内一人は最速のサーヴァント。もう一人は最凶のサーヴァントだ。いや、もう最凶とか似合わないにも程があるが。
おまけに、最凶(?)のサーヴァントがいれば、それと互角程度の立ち回りは可能になるアーチャーがいる。
バーサーカーですら、この状況で勝利を収めるのは不可能に近いだろう。
では、セイバーは友好を結びに来たと仮定しよう。
いくらプライドが高い彼女でも、友好を結びに着ただけでこのように恥ずかしがるのは不自然というもの。
ならば、何か頼みごとがあって教会に訪れた、と考えるのも自然な思考の一つだろう。
そこでギルガメッシュ達が思いつくのは一つしかなかった。
モンハンである。
それが抗いがたい魅力を持っているのは、ギルガメッシュ達だからこそ良く知っていた。
実際、アーチャーが陥落している。で、あれば最近普通の少女(といっても根っこは英霊だが)と化してきているセイバーがこの様になるのも不思議ではない。
それを知っていて、あえてセイバー自身に「入ーれーて」の一言を言わせるために。
彼らは普通の会話を続ける。あたかもセイバーの目的に気がついていないかのように。
ギルガメッシュ、ランサー、アーチャー。三人ともドSであった。
それから話はしばし平行線を見続ける。
何とか自分の目的を探らせようとするセイバーに対し、三人は知らん振りをした。
その途中でセイバーはギルガメッシュの変貌に驚いたり。
ギルガメッシュ達は徐々に赤くなるセイバーの顔に、笑いをかみ殺した。
だがまあ、この世に永き平定などはなし。
セイバーの突然の爆発で、平行線は形を大きく乱す事となった。
「ええい! 分かっててやっているでしょう!
分かりました! 言えばいいのでしょう、言えば!」
犬歯をむき出しにして叫ぶセイバー。
この台詞に至る直前は、失踪したシロウについて話していたのだから何の脈絡も無い。
延々と世間話を続ける三人の英霊に、とうとうプライドを金繰り捨てることを決めてしまった瞬間だった。
「ほう? 何を言うというのだ?
此処まで秘めておいたのだ、さぞ愉快なものなのだろうな」
もはや、笑いを隠し切れないギルガメッシュ。
見れば、他の二人もまたくつくつと笑っていた。
セイバーは、自分が大切な道を踏み外した事を少し理解する。
だがもう今更止まれないのだ。
「くっ……その、私も仲間に入れてください……」
PSPを差し出しながら、うつむいて言うセイバー。
此処に契約は完了した。
教会モンハン同盟四人目のメンバーが今決定し。
同時に、セイバーのアホ毛がダメ英霊’Sの旗に変貌してしまった瞬間だった。
「これで……沈みなさいッ!」
響き渡るは、凛とした声。
少女独特の高さを響かせるそれは、今まで教会に屯していた三人のサーヴァントのモノとは似ても似つかなかった。
それもそのはず、少女がこうして彼らに混じるのはこれが初。で、あれば教会に新しい音が加わった事に他ならない。
少女の叫びは威力となって。倒れた雪山の主へと向かう。
それは正に断頭の刃。命を擦りきる必殺の一閃である。
死を運ぶそれを雪山の獅子が見る事はかなわない。もがき苦しむ彼は、現在の苦しみを耐えようとするばかりに、これ
から訪れる更に大きな苦痛に気がつかないのだ。
そして、それは振り下ろされる。
無慈悲なまでの鉄塊は、いま静かに──
目標を達成しました
振り下ろされたのだ。
かくして、少女にとってはこれが初。三人のダメ英霊先輩方には四回目のドドブランゴ討伐を成し遂げたのであった。
「やりましたっ!」
嬉しさから叫びを上げるセイバー。
勝利など、アーサー王である彼女からすれば珍しいものではない。
それでも嬉しさのあまりに声を上げてしまうのは、仲間と行う仮想の狩りの楽しさゆえか。それとも──
「よし、難なく討伐できたな。まあギルガメッシュが上達したなら、一人狩り仲間が増えてんだから当然っちゃ当然か」
「まさかこんなに早く、こやつの面を拝む事になるとはな。さすがモンハン、何が起こるかまるで分からぬ」
「これで彼女も正式に我々の仲間という事だな。おめでとうセイバー」
それを祝福してくれる、かつての敵の姿が在るゆえか。
現在時刻はセイバーの爆発から十数分がすぎたころ。
画面に映るのは、緊急クエストの標的となった、倒れたドドブランゴだった。
「これで私も貴方達と同類と思うと、あまり嬉しくありませんが……お礼だけは言っておきましょう」
PSPの画面を見て、意図的に三人の英霊と目を合わせないようにするセイバー。
現在は、横たわるドドブランゴを剥ぎ取っている真っ最中だ。
照れ隠しに獅子猿の解体とは、中々のシュールさをかもし出してはいるが、兎も角。
「これでようやく☆4のクエストが再開できるな」
「ええ、それについては本当に感謝しています。……ありがとう」
快活に笑うランサーにつられ、セイバーが笑った。
そうなのだ。セイバーは加入したばかりで、ハンターランクは未だに1。
彼女が参戦した状況は正に、アーチャーが加入した際に酷似していた。
そのため彼らは入団試験も兼ね、セイバーのハンターランクを上げる為の緊急クエストをクリアすることにしたのだった。
そして今正に、ドドブランゴを打ち倒したのだった。
因みにセイバーのプレイヤースキル、彼ら的には合格である。
知識と経験では若干劣るが、天性の才能と直感で未体験の狩りでもある程度こなす、というのがアーチャーとランサーの見解である。
今、鯖狩猟団(仮)でプレイヤースキルの格付けをしたとすれば、セイバーがいる位置はギルガメッシュより少し上といっ
たところだろう。ギルガメッシュは認めないだろうが。
ともあれ、これで正式に四人目が加入したわけだ。
新たなる仲間のクラスはセイバー。
太刀と大剣をこよなく愛す、今は大剣使いの小柄な少女である。
まあ、駄目英霊には変わりない。ご愁傷様。
「さて……では早速だが、何を狩りに行くか決めようではないか!」
一狩りの後の恒例とも言える、次の標的の決定。
それを告げたのは暫定リーダーとなるギルガメッシュだ。
実力や誰を中心に集まったかを考えればリーダーはランサーだろうが……ランサーはあまり気にしていないし、何より本人がリーダーで無いとダダをこねるであろう事は周知の事実。
暗黙の了解でアーチャーもランサーも、ギルガメッシュをリーダーと認めてはいる。一応だが。
とはいえ一番近い二人の心境は師匠のようなものだろう。ギルガメッシュの技術と心の成長具合を見ていると、素直に楽しい──とは二人が釣りをしている際に苦笑しあった話題である。
ギルガメッシュの話を受け、返したのはランサーだ。
彼はそのことに付いて考えが在るらしく、不敵な笑みを覚える。
「そのことだが、実はもう決まってんだよな。
なあアーチャー」
「うむ。新しい武器が手に入れば、それを振るいたくなるだろう。
今回は私の提案で、ガノトトスを狩りに行く事にした」
「ガノトトス、とは?」
横から話に参加したのは、セイバーだ。
ガノトトスを知っているのは、この場ではアーチャーとランサーの二人のみ。
ギルガメッシュとて知らぬモンスターでは在るが、久々のモンハンの興奮が冷め遣らぬゆえであろう、質問をしたのはセイバーだった。
「ああ、ガノトトスってのは水の中に住むモンスター……水竜だ。
強敵には違いねぇんだが、初心者が何より驚く事が在るのはデカさと攻撃の判定だな」
「一部の巨大モンスターを除けば最大の体躯。
攻撃範囲の割り出しにくい、尻尾による旋回攻撃。
そして何より『亜空間タックル』と呼ばれるほど理不尽な体当たり。
装備も揃ってきた事だし、ここらで強敵と呼ばれるモンスターに挑むのも、良いと思ってね」
それに応えるは、やはりアーチャーとランサーだ。
提案者であるアーチャーと、事情を知っているのであろうランサーの表情は楽しげだ。
まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のよう──否。古い友人に再会したかのような、そんな表情だろうか。
セイバーも二人の表情には気付いていたが、いずれ分かるだろう、と口を挟まない。
それよりも彼女には、まだ見ぬ水竜の方に興味を引かれていた。
まだ見ぬ強敵との邂逅──歴戦の勇士としては、表情が笑みに歪むのを止められない。
だが、そんな笑みの広がる空間でただ一人、表情の浮かぬ者が居た。
おなじみ言峰──は胃を患い入院してしまったので、それが誰かといえば、残った一人に自動的に決定する。
そう、我らがリーダー、黄金の英雄王ギルガメッシュだ。
「む、どうしたギルガメッシュ。
なにやら腑に落ちぬ、といった表情をしているようだが」
「……うむ。我にはどうも貴様の言葉が気になってな」
「と、言うと?」
「フェイカー、貴様は『ここらで強敵と呼ばれるモンスターに挑むのも』……と言ったな?」
「ああ、確かに言ったな。
それがどうかしたか」
アーチャーの言葉を一つ一つ確かめるように質問をするギルガメッシュ。
彼の脳裏には、一体のモンスターが張り付いていた。
「ならばフルフルはなんだったという? 十分に強敵と言える強さを持っていたではないか。
まさか、そのガノトトスというのはヤツを超えるモンスターだというのか?」
そう、それは帯電飛竜フルフル──
彼を苦しめた、沼地の王者(ギルガメッシュが勝手に思い込んでいるだけ)である。
あれが強敵でなくては、ガノトトスとはどれだけの大物であろうか。
ギルガメッシュの額に、冷や汗が浮かぶ。
だがアーチャーはギルガメッシュの心中を察しつつも、なお笑みを浮かべこう言った。
「感じ方は人に依るだろうが、私もランサーもガノトトスの方が厄介な敵だと思うね」
「なんだと──!?」
「だが」
ギルガメッシュの反応を分かっていたかのように──否。
ギルガメッシュの反応を分かっていたアーチャーは、笑みを崩さずにこう言った。
「君はあの戦いで大きく力をつけたはずだ。
……それに、今は新しい仲間もいる。
どうだ、これでも不安かね?」
アーチャーの言葉に、ギルガメッシュはセイバーを見る。
ランサーを、アーチャーを──そして、自分の分身たるハンターGillを。
ふ、と。
ギルガメッシュは自嘲的な笑みを浮かべた。
まだ見ぬ敵に僅かばかりでも恐れを抱こうなどと、自分らしくも無い。
かつての友に──今傍にいるヤツラに顔向けできぬわ。
ギルガメッシュは眼を閉じ、鼻を鳴らす。
「……いいや、全く感じぬな。
まさか贋作に教えられる事が在るとは──褒めて遣わすぞ、フェイカー!」
「ほう? それは光栄の極みだ。
英雄王からの貴重な賛辞、素直に受け取っておこうか」
「へっ、てめえら話が長いんだよ!
んじゃ、さくっと行ってさくっとやっちまおうぜ!
不安なんか、全く無いんだろう?」
かくして、ギルガメッシュの顔に笑顔が浮かぶ。
その笑みは、友への信頼。まだ見ぬ強敵への興味。
美しい友情のあり方が、そこにあった。
……が、教会に在る笑みの数が変動する事は無かった。
なぜならセイバーの表情から笑みが消えていたからである。
「一体ギルガメッシュは何処に行ったのでしょう。
いいえ、ランサーもアーチャーもです。
ここにいるのはきっとギルガメッシュ達ではありません。
私は違う、私は……違う……」
たかがゲームで、人(英霊)は此処まで変わってしまうものなのか。
ギルガメッシュ達三人の変化に動揺を隠せないセイバーは、ただ只管そう繰り返していた──
そんなセイバーに唯一気付いたアーチャーはこう思った。
「(セイバー、抗っているようだな。
だが無駄な事なのだよ。長くても一ヵ月後には、私達の中に溶け込んでいる事だろう……私のようにな)」
過去の自分をセイバーに重ねたアーチャーは、一人不敵に笑うのだった。
そういえば、私もついこの間まで彼女のように困惑していたな……と、アーチャーは思い出してまた笑う。
道連れは多いほうが良い。そんな不穏なことを、胸に秘めて。
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これまた酷い遅れ方だもうだめだ。
待ってなかった人は始めましてOr久しぶり。
待っててくれた人にはごめんなさい。ロボ2号です。
まだガノトトス書けて無いです……気分のったんで、近いうちにはガノ戦を上げたいです……orz
というか、更新二回分でクエストまで入れなかったの久しぶりかも。
セイバーよりギルガメッシュのが影濃いし、なんだろうNE!