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No.9087の一覧
[0] Fate/Monster Hunter【ネタ・サーヴァント達のモンハンプレイ】 七話分開始[ロボ2号](2010/01/19 18:24)
[1] 序章:サーヴァントだってヒマなときはヒマだ[ロボ2号](2009/05/26 14:29)
[2] 第一話 きっと誰もが一度は思う、仕様です[ロボ2号](2009/05/29 18:25)
[3] 第二話 ドスギアノス急襲。と、将来を憂うランサー[ロボ2号](2009/05/27 20:15)
[4] 第三話 先生! お願いします![ロボ2号](2009/06/12 18:02)
[5] 第四話 黄金の衣を纏い、異臭を放つモノ[ロボ2号](2009/06/20 19:48)
[6] 第五話 新たなる戦い! 激突!雪獅子ドドブランゴ[ロボ2号](2010/01/19 18:24)
[7] 第六話 荒んじまった心の末に。アレ思い浮かべた人、荒んでます[ロボ2号](2009/11/10 21:10)
[8] いんたーるーど 外伝・おまけの詰め合わせ[ロボ2号](2009/11/11 18:42)
[9] 第七話 四つ目の刃、捨て去られた誇りは水竜へ [ロボ2号](2010/03/17 22:31)
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[9087] 第四話 黄金の衣を纏い、異臭を放つモノ
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:ab7b2f81 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/20 19:48
 ――昼。
 言峰教会は、今日も静かだ。
 差し込む日の光に祝福され、教会を取り仕切る神父が、無言で箒を動かしている。
 孤独を愉しむ、というのか。神父・言峰の顔は何処までも満足げだ。

 だが、それも長くは続かない。

「おいおい……ポテトチップスはやめとけよお前……
 PSPが脂でギットギトになるぞ」

「む……ソレはあまり愉快とは言えんな。
 ……仕方が無い。今日のところは菓子は諦めるか」

 青と金、二人のサーヴァントが言峰の居る礼拝堂へとやって来る。
 手にはお菓子と缶ジュース。そして、PSP。

 言峰の目が、一瞬で見開かれた。

「……お前達。
 ここは掃除中だ。遊戯をするのならば、他の場所へ行くが良い」

 冷静を勤めてはいるが、その言葉からはありありと怒りを感じ取れる。
 だが、そんなことは意に介せず、ギルガメッシュは宣言する。

「戯け。我がこの場所を使うと言ったら、何があろうと使うのだ。
 と、言うよりだな。わざわざ毎日決まった時間に訪れているのだ。
 掃除を終わらせておき、早々に退散しているが礼であろう」

 当たり前、とでも言うように良い花放つ。
 事実、ギルガメッシュは思ったことをそのまま口に出しただけだ。
 このダメサーヴァント。言峰は心中で呟きつつも、諦める。

 言峰はギルガメッシュとの10年来の付き合いで、多少なりと彼を理解しているつもりだ。
 故に、これ以上何を言っても無駄と言うことを、彼は知っている。

「……了解した。地獄へ落ちろ英雄王」

 もはやお決まりとなった呪詛を呟きつつ、彼は礼拝堂を後にする。
 去っていく背中を見ることもせず、彼らは定位置へと移動した。

「先日の蟹は中々に手強かったな……怪鳥を倒した我には、児戯に等しかったが」

 一日前の激戦を思い出し、不敵に笑う。
 ギルガメッシュが思い出すは、ダイミョウザザミとの一戦。
 ボロボロになりつつも、何とか一死すらせず打倒した、盾蟹のこと。
 もちろん、ランサーは殆ど攻撃を食らってはいない。せいぜい、二回ほど小さな攻撃を食らった程度だ。

「飲み込みの速さは褒めるが……調子に乗って自滅するのが、お前なんだよな……
 まぁ、いいか。
 アイテムは持ったか?」

「あぁ、抜かりは無い。
 シビレ罠、回復薬、砥石――
 ……それと、状態異常生肉。一体、何に使うと言うのだ?」

 ポーチの中身を確認しつつ、疑問を口するギルガメッシュ。
 察しの良い方ならば、お気づきだろう。
 そう、今回のターゲットは――

「あぁ、ソレは次のターゲットに良く効くんでな。
 ……今回のターゲットは、桃毛獣ババコンガだ!」

 桃毛獣ババコンガである。
 桃色の毛を持つ、ゴリラのような牙獣種の一種だ。
 強靭な爪や大きな体重による攻撃、糞や屁などの悪臭攻撃を使用する、下品な獣。

「ふむ。ババコンガ、と言うか。
 察するに、異常が付着している事を分からず――若しくは、知っていながら肉を食らう、食い意地の張った獣と言うところか?」

 ギルガメッシュが腕を組み、見解を述べる。
 ソレに対し、素直に感嘆の声を漏らすランサー。

「良く気付いたな。
 そう。ババコンガは異常が付着した生肉を置いても、ソレで痺れようと眠ろうと関係無しにまた食っちまうバカだ。
 だが、油断はするなよ。
 今まで戦ってきたモンスターの中で、一番攻撃力が高かった筈だ」

 ババコンガの生態について、説明するランサー。
 対するギルガメッシュは、不遜な態度で聞いている。そこに、微塵の不安も無い。
 あるのは、絶対的な余裕のみ。
 言い換えれば、油断である。
 腕を組んだままに、ギルガメッシュは言う。
 それは、やはり油断と慢心を含んだ物であった。 

「ふむ……食い意地の張った下賎な獣等に不覚を取るつもりはさらさら無いが、忠言として受け取っておくぞ、ランサー」

「一々引っかかる言い方すんなぁ……ま、いいけどよ。
 そうそう、ババコンガの屁には気をつけな。
 くらっちまうと臭いが付いて、食べる・飲むアイテムが使えなくなっちまうぜ」

 一応忠告に言葉を足し、ランサーは準備を完了する。
 二・三、ギルガメッシュと言葉を交わしあい、ランサーは準備の完了を告げた。

「とことん下賎な……
 まぁ良い。さっさと出発しようぞ」

 一拍を遅れ、ギルガメッシュも準備を済ませたようだ。
 左上の紙のマークが点滅し始めたのを確認し、ランサーはクエストを開始させた――




 クエストの準備中です。
 いたずら好きの桃毛獣
 クエストを開始します。



「ふむ……ロードと言ったか?
 最初は長いと思ったものだが、やっている内に慣れてくるな」
 
 画面に現れる文字を見つつ、ギルガメッシュが言う。
 その言葉を受け、そういえば、とランサーは思案する。

 思えば、ランサーもこのロード時間は長いと思っていた。
 しかし、いつの間にかランサーも、この時間を長いとは思わなくなっていた。
 それは慣れによるものか、それとも――

「――いや、事実長いだろうさ。
 俺も一人の時は長く感じた。
 そう感じねぇのは、こうやって喋ってるからだと思う」

 近くに、話し相手が居るからこそ短く感じるのだろう。
 ランサーは、ソロプレイを思い出していた。
 BGMすら消えた、沈黙の時間。
 それが、一人の時のロード時間と言う物だった。
 沈黙と言うのは長く感じる物。それは、まだ見ぬ強敵に胸を躍らせているときでも変わりは無い。

「……成る程。
 まぁ、そういう物なのかも知れぬな……
 む、始まったぞ」

 ギルガメッシュに言われ、ランサーは画面を見る。
 場所は、沼地。ただし雨は降っておらず、代わりにどす黒い雰囲気が画面内を支配している。

「くっ……また沼地か。
 我はどうにも此処を好かん」

「まぁ、俺も嫌いなMAPの一つに挙げる程度には嫌いだな。
 言い忘れてたが、場所によっちゃ毒沼が噴出してる。気ィつけな」

「毒沼だと?
 ……あまりいい響きではないな。
 せいぜい気を付ける事としよう」

 沼地<夜>についての小さなレクチャーを行い、二人は歩き出した。
 エリアを移動する際、ギルガメッシュが毒沼を確認しておいたことを此処に記しておく。

「おっと、次でエリア8か。
 そろそろお出ましだぜ」

 マップの切り替え際の短いロード時間、ランサーが呟く。
 ギルガメッシュは頷くことでソレに答え、まもなくしてロードが終了する。

「あれがババコンガか……
 ――は! 品の無い顔をしている!」

 ババコンガの容姿を視界に入れ、ギルガメッシュは叫んだ。
 確かに、ババコンガは高貴な見た目とはいえない。
 だが、幾ばくの油断すらないギルガメッシュに、ランサーは不安を隠せない。

「確かに見た目はアレだが……
 まぁ、いいか。心配しててもはじまらねぇ!」

「お前も我を分かってきたな、ランサー!
 征くぞ! 我らに有るは、進撃・制圧のみ!」

 ギルガメッシュはRボタンを押し込み、Gillを走らせる。
 今回も幕を開けたのはGillの飛び掛り切りであった。
 ランサーは、少しだけデジャヴを感じた。それは、謎の不安感。

 ランサーはその不安感について考える。
 そして、ソレはすぐに答えが出た。

「……うげ、ちょいと待てギルガメッシュ!」

「えぇい! 今更待てん!
 事短に説明せよ!」

「ゲネポスが居る! 黄色いギアノスみたいなヤツだ、気を付けろ!」

 そう、エリア8には、ゲネポスが配置されているのだ。
 モンスターハンターをプレイしたことがある人間ならば、そのウザさは良く知っていることであろう。
 無論、ランサーはその邪魔さ加減を良く知っていた。
 なにせ、モンスターハンターでウザいモンスターと言えば、ある虫に次いで挙げられる名の一つだ。
 それへの注意を、ランサーは促すが――

「――ハ! 黄色いギアノスだと?
 今更、ギアノス如きが我の覇道を止められるモノか!」

「あぁくそ、止められるんだよ! どんな上級ハンターだってな!」

 ギルガメッシュは高笑いをしつつ、全く相手にしない。
 まぁ、ソレがどれほど恐ろしい事かは、後で理解することになるのだが。

「とにかく、気をつけろよな!」

 ランサーもこれ以上の説明を諦め、戦闘に参加する。
 ランスは機動力が少ない。
 すばしっこいゲネポスを、ギルガメッシュに狩って貰おうとしての進言でもあったのだが――
 半ば諦め、ランサーは戦闘を開始した。

 しかし――
 Gillの動きを見つつ、ランサーは考える。

 ほんの二三日前まで、ギルガメッシュは全くの素人だった。
 だと言うのに、かなり抜けすぎているところもあるが、その動きは洗練されつつある。
 たとえば、攻撃のターゲットになったとき。
 英霊であるゆえか、中々良い反応で攻撃を中止し、正面を避けている。
 初見であるためか、ババコンガへの反応はあまりよくないが、あと数回狙われればそのパターンに気付き始めるだろう。
 勿論、それはランサーが行おうとすれば、造作も無いこと。
 だが、昔の自分があそこまで動けたかと思うと――

 ランサーは、感情を隠しきれずに口を歪める。
 それは紛れも無い笑み。
 戦友の持つポテンシャルに対しての、期待。

 そして――

 その、戦友のお馬鹿さ加減。

「な……っ!? 体が……全く動かん!?
 我を助けて、ランサー!」

 ランサーは、盛大に溜息を吐いた。
 画面左上に配置された、Gillの文字の隣には、雷のマーク。
 察しのいい人ならお気づきだろう。

「だからゲネポスには気をつけろとあれほど……」

 ギルガメッシュは、ゲネポスの麻痺牙に掛かったのだ。
 再三に渡る忠告を無視し、ものの見事なまでに。

 ちなみに、ランサーは絶賛戦闘中。
 助けている暇は無い。

「さっきアレだけ忠告したろ。
 攻撃がこない事を祈りな」

「く……この薄情者がっ!
 もう良い! 我が自力で……アッー!
 何故こんな時に限ってくるのだ、この猿めがぁぁ!」

 動けないままに、ババコンガの突進を食らうギルガメッシュ。
 やられは吹っ飛びなので、麻痺は解けるが、手痛いダメージを食らう。

「なんたる屈辱――! えぇい!
 その下品な顔を見るのも汚らわしい!
 その首、すり切ってくれるわ!」

 回復薬を服用し、再びババコンガに切りかかるGill。
 そんなGillを見て、ランサーは再び忠告する。

「あ、おい。
 そろそろモーションの大きい攻撃は止めとけ。
 もうじき怒るぞ、そいつ」

「ふん! 注意するのは怒ってからでもよかろう!」

 ババコンガの怒り移行モーションは、他のモンスターとは違い、攻撃判定が付属している。
 ギルガメッシュの言葉は、ソレを知らぬが故の言葉であった。
 ランサーは溜息を吐きつつも、ソレを忠告しようとする。
 ――が、時は既に遅し。

 丁度、Gillの回転切り――○攻撃が炸裂する。そんな瞬間だった。
 ババコンガが立ち上がり、体を振るわせる。
 そして――

「――あ」

 ランサーが呟くと同時に、それは発射された。
 黄色い霧のような、靄。

 屁であった。

「何だとぉぉぉぉぉっ!?」

 そして、屁を纏い、吹き飛ぶGill。
 それがギルガメッシュの分身かと思うと、笑いが堪えきれないランサーであった。
 ちなみに、ランサーはバックステップで回避済みである。

 ゴロゴロと地面を転げ周り、Gillはようやく停止する。
 屁を纏ったギアノス戦士……序盤見がちな光景ではあるが、やはり滑稽である。

「くそ! 想像を絶する屈辱――!」

 右腕を握り締め、震えるギルガメッシュ。彼のプライドはズタズタだ。
 だが、そんなボロボロの彼の心に更なる追い討ちが加えられる。

「――! なんたるダメージ!
 ヤツの怒り状態がこれほどまでとは――!
 認めざるを得ないようだな――ババコンガ!」

 HPゲージの減りを見て、少し冷静さを取り戻すギルガメッシュ。
 その言葉には、強敵を認めるようなニュアンスが含まれている。
 凛々しい彼の声と合わせれば、ある種の格好良さすら感じる声だ。
 だが――

「悪臭を身に纏いながら言っても、格好よくねぇぞ……
 ほれ、エリア移動して消臭と回復して来い。
 ファンゴとかはいないから、死ぬなよ」

「くっ――! 覚えていろよ、ババコンガ……!」

 冷静なランサーに突っ込まれ、宿敵の名を呼びつつギルガメッシュは退散していった。
 さっきのデジャヴはこれか……と、ランサーは感じた。

 Gillがエリアを移動したのを確認し、次いでHPが回復していくのを見届ける。
 イャンクック戦とは違う結末に胸を下ろしつつ、ランサーは考える。

「(……とはいえ、ランスじゃあコイツ相手はちょいと厳しいな……)
 よし、ギルガメッシュ!」

「……なんだ、薮から棒に。
 心配せんでも、すぐそちらに向かうぞ。
 この場には、無礼な猪もおらんのでな」

 何かを決定し、ランサーはギルガメッシュを呼びつけ、説明を開始する。
 概要は、作戦の決行。
 ランサーはその作戦の効果を。
 ギルガメッシュは雪辱を想い――
 二人は、どす黒く笑い合った。

「んじゃ、作戦が決まった所でさっさと帰ってきな。
 あぁ、研ぐの忘れんなよ」

「ふふん、分かっておるわ。
 ……良し、研げた。今行くぞ!」

 二三の会話をかわし、ギルガメッシュがキャラクターを移動し始める。
 エリアの端で研いでいたのだろう、Gillがエリア8に移動してくるのに、そう時間は要らなかった。

「肉はあんまり端ッこで使うなよ! 斬ろうとしたらエリア移動、なんて目も当てられねぇ!」

 ランサーが叫ぶ。叫んだのは、戦闘中の昂ぶりからだろうか。
 ギルガメッシュはそれに頷くことで答え、アイテムを「痺れ生肉」へと移動させる。

「そうら、我が直々に振舞ってやろう。
 世にも珍しい死の味を持つ肉だ、存分に堪能するが良い!」

 威勢の良い言葉とは裏腹に、Gillは地味な作業で肉を設置。
 ランサーはそれを視界の端にいれ、一旦ババコンガから距離を取った。
 まもなくして、ババコンガは鼻を働かせ始める。
 そして肉への進路からSetantaが離れると同時に、肉に向かって猛突進を始めた。

「ハ――! 聞いていたとおり、食い意地の張った猿よの!」

 痺れ生肉に到達し、凄まじい勢いでそれをむさぼり始めたババコンガを、ギルガメッシュは笑う。
 ランサーは□ボタンで武器をしまいつつも、その猿にボコボコにされたのはどいつだ――と思った。

 が、逆上されミスをされても困るので、ランサーはそれを胸の奥にしまう。
 
 今は――

「よし、痺れたな!」

 痺れたババコンガを、斬ることだけ考えれば良い。

 Setantaはババコンガに到達するなり槍を構える。
 情け容赦など必要ない。今はただ動けぬ相手を斬れるだけ斬ればいい。
 まぁ、とはいっても――

「これは我の恨み! 我の恨み! これも我の恨みだ!
 そうら、たっぷりと受け取るが良い!
 は! 絡め手は好かぬが、中々に爽快なものよ!」

 元々情け容赦など持たない、大人気ない英雄王が隣に居るのだが。

「考えてみれば、恨みをほぼ全部自分で晴らすのは初めてか、コイツ」

 イャンクック戦でギルガメッシュが恨みを晴らしたのは、ランサーが耳を壊してから。
 今回のように健全な状態の怨敵を斬るというのは、何かが違うのかもしれない。
 実際、隣のギルガメッシュは楽しそうだ。
 楽しみ方はどうあれ、楽しむというゲームの最大の目的を果たせている以上、コレでいいのかもしれないが。

「おぉ! トサカが乱れたぞ!」

 なんて事をランサーが考えつつ槍で突いている間に、ババコンガの頭部が破壊された。
 二人がかりでボコボコにすればいつかは来ることなのだろう。

 だが、仮にもボスモンスターがこの程度で終わるはずはない。
 麻痺の拘束は、長くは持たなかった。
 ババコンガは身を震わすモーションを取り、その体から雷のエフェクトを振り払う。

「痺れが取れたぞ! また生肉を――」

 それを見てギルガメッシュに注意を促そうとしたランサーは、あることに気付く。
 それは、見覚えのあるモーション。

「チ――エリア移動か!」

「何!? イャンクックと言いどいつもこいつも――!
 誇りを知らぬか!」

 モンスターがエリアを移動する際に取るモーション。
 鼻をヒクつかせた後に、猛進を開始する桃毛獣の移動。
 ――基本的に、モンスターのエリア移動モーションには攻撃判定が付属する。
 付属しない場合でも、移動までが早いか、何かしらの要素が絡む。
 ババコンガもその例外ではなく、走っている最中には突進と同じ判定が生まれる。
 弱っていれば、その攻撃判定も消えるのだが――
 あいにく、ババコンガは健在の様子。新天地を求め、走り出した。
 ランサーはそれを知らぬであろうギルガメッシュに声を掛ける。

「ギルガメッシュ、一旦離れ――」

 が、願いむなしく。

「逃がすと思うか、汚獣め!
 我が立ちふさがる限り、貴様に退路など――オゥフ!?」

 ギルガメッシュが人の言葉を聞くはずも無く、Gillは気持ちいいくらいに吹き飛ばされた。
 それを気に留めることもせず、ババコンガはエリアを後にする。
 後に残るのは、槍をしまい終えたSetantaと――
 物言わず転がるGillだけであった。

「……」

「……」

 流れる沈黙。
 やがて、どちらとも無く口を開くと、礼拝堂に声のみが響き渡った。

「……追うぞ」

「……ああ」

 声は二種類、それがどちらがどちらのモノであったのかは、省くこととする。
 ただ、一つ分かるのは――

「おのれ牙獣――!」

 悔しそうなその唸りが、ギルガメッシュのものであったと言う事くらいだろうか。



「さぁ――最終決戦と行こうではないか、ババコンガ!」

 場面は、マップ中央やや上に位置する洞窟へと移り変わる。
 ホットドリンクを飲んでおいた英霊二人組みは、寒く薄暗い洞窟へと突入した。
 戦口上を上げる英雄王の姿は勇ましいとも言えるが、相手がピンク色のゴリラだと思うと情けない。

「気ィ付けろよ、左側にもう居るからな」

「む、何処に――そこか!
 ふふん、堂々と待ち構えるか、ババコンガ。
 良いぞ、最終決戦にはお誂え向きな構図よ!」

 高台で吼えるババコンガと、金の英雄王(装備はギアノス)。
 英雄叙事詩に出てきそうな一面である。相手が竜種であればだが。

「此処に逃げ込んだって事は、大分弱ってきてる筈だ!
 出し惜しみは良い、お前は持てる技術を全てつぎ込みな!」

 テンションを勝手に上げまくるギルガメッシュの横で、ランサーも叫び釘をさす。
 こうでもしないとギルガメッシュの耳には届かないと判断したらしい。
 ギルガメッシュは威勢良く返事を返し、片手剣を抜刀する。
 ――本当はしまって置いた方がいいのだが、彼なりの雰囲気作りなのだろう。
 空気を読んでランサーも槍を構えた。

「さあ、来るが良い――雌雄を決しようぞ!」

 ギルガメッシュが、叫んだ。
 それに呼応するかのように、桃色の獣も飛び掛る。
 剣を構え、それを向かい打つGillの姿はまさに勇者と言うに相応しい。――重ねて言うが、相手がババコンガでなければ。
 勝手に最終決戦を始める一人と一匹を見て、ランサーは溜息を吐く。

「そんなのと決するなよ……
 はぁ、ラージャンとか如何するんだ、コイツ……」

 既にG級半ばまでをソロでクリア済みの、中級者さんの心配であった。
 そんな物は何処吹く風でギルガメッシュは死闘を繰り広げている。
 ランサーはそんな彼に苦笑いをこぼしつつ、戦闘に混ざって行った。

 ――戦闘は、激化する。
 ランサーは痺れトラップの使用を考えたが、すんでで思いとどまる。
 確かに、エリア移動を済ませたばかりのババコンガが相手であれば、痺れトラップを無視される心配は無いだろうが……
 隣の友人(仮)が激闘を繰り広げているのだ、水をさすのは野暮と言うモノだろう。

「――ッ! 馬鹿め!
 二度も同じ手を食うか、猿!」

 ギルガメッシュが一撃を加えた瞬間だった。
 ババコンガが立ち上がり、独特のモーションに移行する。
 そう、英雄王が辛酸を舐めさせられた、怒りモーション。
 何度目かになるそれを、ギルガメッシュは遂に自力で見切ったのだ。

 心の中でランサーもそれに賞賛を送る。
 同時に、弟子の成長を見守るって言うのはこんな気分なのか――とも想った。

「ランサー! 話がある! そのまま聞け!」

 怒ったババコンガを捌きつつ、ギルガメッシュが叫ぶ。
 ランサーは無言で言葉の続きを待つと、意外な台詞が飛び出した。

「お前、痺れトラップを持っていたな!
 何とかして奴を罠に掛けろ! 我にはやりたいことがある!」

 それは、自らの激闘を中断させると言う指示。
 ギルガメッシュの言葉にランサーは一瞬だけ驚くが――
 今回は、彼を信じて見ることにした。

「――おう、任せろ!」

 笑みで答えを返したランサーは、隙を見つけ痺れ罠の設置に掛かる。
 ギルガメッシュのヘイトが溜まっていたのか、Gillは今だババコンガと交戦中だった為、罠はたやすく設置できた。
 後は、奴が掛かるのを待つだけ――
 罠を確認したギルガメッシュは、武器を収める。
 そして、こう叫んだ。

「よぅし、我を追って来い! ババコンガよ!」

 知ってか知らずかギルガメッシュは敵を罠に掛けるため、自分とババコンガを結ぶ線の中に、痺れトラップが入るよう移動した。
 モンスターを引っ掛ける際の常套手段だ。

 一部のモンスターは痺れトラップを回避するよう動くこともあるが、ババコンガにそのような知恵は無い。
 まもなくして、ババコンガは罠に掛かる。
 と、なればすることは一つ。
 ランサーはすかさずババコンガに切りかかろうとするが――

「良い、ランサー! 下がっていろ!」

 ギルガメッシュの指示で、それは中断された。
 どういうことかと聞こうとするが――
 ランサーは、すぐに彼の思惑に気付く。

「――成る程な!」

 ランサー、槍をしまい離脱。
 その瞬間、ババコンガの隣にタルが現れた。

 ――大タル爆弾。
 一瞬で大きなダメージを与える、いわばリーサルウェポン。
 その威力は凄まじく、相手の防御を無視し大ダメージを与える、いわば宝具のようなモノである。
 だが、序盤に使用するには思い切れないほど、それは高い。
 黄金率を持つギルガメッシュだからこそ、序盤に惜しげなく使える殺戮兵器なのだ。

 ランサーは笑う。
 敵を罠に掛け、爆弾。
 ある程度ゲームをやれば当たり前のことだが、始めて間もないギルガメッシュが考え付くとはたいしたものだ。
 友人(仮)の成長に、彼は笑みを隠せない。

 ――だが、一瞬にしてその笑みは凍りつく。
 それは、爆弾が二つ並んだ瞬間の事だった。

「食らえ!
 コレが我の新たな宝具――爆☆砕☆斬!」

 なんと、ギルガメッシュは距離を取ることも無く、飛び掛り切りを放ったのだ。
 無論、爆弾に向かって。

「オィィィィ!? ちょっと待てギルガ……」

 勿論ランサーは止めに掛かる。
 が、攻撃は出きっている。後の祭り。
 画面には、二種類の文字が順番に現れた。

 Gillが力尽きました
 目標を達成しました。

 ――通称、漢起爆。
 爆弾を自らの武器または脚をもって起爆し、自分ごとモンスターを滅する最終奥義。 
 ……知ってか知らずかギルガメッシュはそれを行ったのだ。――ペイントボールを持ちながら。

 後に残るは、呆けたランサー。
 ババコンガのこんがり死体。
 そして、やりきった顔のギルガメッシュだった。

「ふ……自己犠牲など、我らしくないことをしてしまったな……
 だがコレでよいのだ。
 ランサー、我は英雄のあり方を思い出した気がするぞ……」

 などと英雄王はのたまう。すっごく爽やかな顔で。
 正直、ランサーはもはや突っ込む気すら起きなかった。
 ランサーはあいた口を閉め、剥ぎ取りを始める。
 最後に、こういい残し。

「……それはいいんだが、お前。
 剥ぎ取り間に合わねぇぞ?」

 その言葉にギルガメッシュはぴし、と固まった。

「それを早く言わぬか、ランサァァァァ!」

 今日一番の大声でそう叫び、Gillは英雄のあり方そっちのけで走り始める。
 後には、なんともいえない空気のみが漂っていた――








おまけ  もんはん・ざ・くろいひと  ※時系列はギル・ランサー開始とほぼ同時

「あれ? ライダー、ハンマーなんだ。
 意外だなぁ。もっと軽そうな武器を使うと思ってたんだけど」

「えぇ、そういうサクラも。
 私はサクラは弓を使うと思っていたのですが、大剣とは。
 意表を付かれました」

 ――薄暗い屋敷の一室。
 間桐邸にて、黒い主従はモンスターハンターに興じていた。
 どこぞのダメ英霊’Sとは違い、ちゃんと場をわきまえてプレイしているあたりは微笑ましい。
 
 今回の会話は、初出撃による集会所でのもの。
 受注するクエストは急襲! ドスギアノスで、二人の会話は互いの武器についての事だった。

「うん、私も最初は弓にしようと思ってたんだけどね。
 兄さんも弓を使ってるみたいだったから、一緒は嫌だなぁ、って」

 桜の言葉に、部屋の隅っこに居た慎二が震える。
 ……桜は、慎二の存在に気付いていない訳ではない。
 それでもあえて言うのは、聞かせているからに他ならない。

「そうですね、シンジと一緒と言うのはいただけません。
 では、何故大剣を?」

 ライダー……かつて慎二に使えたこともある、長髪の美人も桜に同調する。
 無論、あえて言っている。慎二に聞かせるためである。
 慎二、という名前が出るたびに、慎二は震えていた。今までやってきたことを考えれば生ぬるいとも思えるが――
 それでも、彼に同情してしまうのは二人の発する恐怖故か。

「どうせなら豪快な武器の方がストレス解消になるかなって思ったんだ。
 ライダーはなんでハンマーを?」

「私も一緒ですよ、サクラ。
 ストレス解消です。……ふふ、やはり私達は、どこか似ている」

 はにかみつつ言う桜と、微笑を湛えたライダー。
 一見、微笑ましい会話。
 しかし、その言葉から発する黒いオーラは、海中でもないのにワカメを震えさせるに事欠かない。

 などと二人が会話に興じていると、ハンターの名を表す欄、Celsian・Yoshinoの下にblueという名が現れる。
 無論、部屋の隅っこに居る慎二のモノである。微妙に格好つけた名前なあたり、慎二らしい。

 ――が、二人はそ知らぬ顔で会話を続ける。

「……あら? ライダー、見慣れないハンターが居るね」

「……本当です。ああ、みすぼらしい名と格好だ。
 プレイヤーの顔がアタマに浮かんでくるようです。
 ……いえ、CPUなのでしょうか? 人数が足りないと補充してくれるのかも知れません。
 それならば、ブルーなんてありふれた名前も納得できる」

「そっかぁ。じゃあ使わせて貰おうかな?
 狩りの効率が良くなるのはいい事だよね」

 一言一言に、慎二が震える。
 だが勿論、彼女らはそんなモノを見なくてもプレイヤーの正体に気付いている。
 チクチクと言葉で苛めて、楽しんでいるのだ。

 慎二も慎二で逃げればいいのに、この場にとどまるのは単にモンハンの魔力に縛り付けられているからである。
 ヘタレが恐怖に耐えてでも、マルチプレイはしてみたいのだ。
 学校では女子限定で人気のある慎二だが、モンハン仲間は奇跡的なほどに出来なかった。

 そうして、狩りは始まった。

 真っ黒な二人組み+1に依る、ミラボレアスもビックリな黒い黒い狩猟生活が……


おまけのおまけ くろいひと・ざ・かりのにちじょう

「あ、ごめんなさいNPCさん。打ち上げちゃった」

「あぁ、すみませんNPC。叩き潰してしまいました。
 はは、気持ちがいいくらいに転がってますね」

「……( ゜д゜)」
「……(゜д゜)」

「こっち見ないでください、兄さん」
「目障りです、シンジ」

「……( ゜д゜)」
「……( ;д;)」


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またも一週間ぶり、バイト辛いヨー

自分ではちょっと飛ばし気味。ネタ切れが心配。
前にも書いたけど、オリジナル書きたい……
現代ファンタジーが良い、すっごい厨二病の……

とはいえ、次回分少し出来ております。
遂に赤いあの人が! 乞うご期待!
……あれ?乞うご期待って「期待してね!」って意味だよね? 大丈夫なんだろうか、俺


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