クエストの準備中です。
ドスギアノス急襲
クエストを開始します。
流れるように、読みやすい長さの文章が移り変わってゆく。
PSPを覗き込む二人のダメ英霊の間に、緊張の様なものが流れた。
――ドスギアノス急襲。
集会場の依頼を進むハンター達が、最序盤にクリアするであろう、☆3クエスト。
☆の数は、難易度を意味していて、多いほどに高い。
その中でも、ランサー達が受注したクエストは、下から三つ目のモノであった。
「そういえば、ギルガメッシュ。
お前、このゲームはどれくらいやった?」
視線を動かさないまま、ランサーはギルガメッシュに問いかける。
相手の目を見ずに会話する、というのは失礼に当たるのかもしれないが、PSPをプレイしている際にはむしろ基本形である。
ランサーの問いかけに、ギルガメッシュもまた顔を動かさずに答える。
「訓練所とやらを終わらせた程度だ。
基本操作はマスターした、と思って構わん」
「(マスター、ねぇ……)……成る程な。
んで、訓練で使った片手剣を使ってるわけか?」
「否だ。
我に合いそうな、武器がコレくらいしかなかったものでな。
なんだ、ハンマーとか狩猟笛とは。美が無い!」
少し長めなロード時間を、会話して過ごすランサー達。
話に聞くマルチプレイから推察するに、ランサーが抱くギルガメッシュのイメージは「大剣で勇者様」であった事を考えると、少し意外であった。
一方で、片手剣は使いやすいし良い武器を選んだな、とも思う。
少しばかりの逡巡を終えると、画面が切り替わる。
夜の月に照らされる雪山が見える。
――始まった。
「まぁ、余裕が出来たら色々な武器を使ってみるのもアリだろうさ。
と、いうか。お前一応アーチャーじゃなかったか?
おっと、支給品忘れんなよ」
会話を続けつつ、エリアの出口に向かってもうダッシュするギルガメッシュに釘を刺す。
序盤は何かと金欠に悩まされるゆえに、支給品の回復アイテムは貴重なのだ。
「ぐ、分かっておる。
……我がアーチャーではないか? との事だが……
ソレを言うならば、あのフェイカーもそうであろうよ」
苦々しげに呟くギルガメッシュを、眼球の動きだけで一見する。
その後赤い弓兵の姿を思い出し、確かにと小さく呟くと、ランサーは支給品をあさる。
ギルガメッシュが初心者であることを考え、自分のポーチへと移すものは最小限だ。
応急薬×1
携帯食料×1
携帯砥石×1
ペイントボール×1
解氷剤×1
ホットドリンク×2
以上が内訳である。
「支給品も久しぶりだな……」
上位以降での狩りが長いため、思わず呟くランサー。
自分に向けられた言葉では無いと知りつつ、興味を示したギルガメッシュは疑問を口にする。
「どういうことだ?」
「ん、あー。
ゲームが進んで上位クエストってのを受けられるようになるとな、支給品が届くまでに時間がかかるんだわ。
つっても、1、2分で来るときもありゃ終わるまでこねぇ時もある。
要するに、アテに出来なくなるんだな」
「な……職務怠慢ではないか。
敵が強くなれば成る程、救援物資を送らぬとは、なんという組織だ」
思わず、不条理を訴えるギルガメッシュ。
確かに考えれば可笑しな話ではあるが……
まぁ、その辺りはゲームの世界独特のいい加減さに依る物なのだろう。
「ソレは俺も思ったな。
大方その強くなった敵が厄介で、物資が運べない、とかじゃあねぇのか?」
「ふむ……ソレならば理解できぬことも無いか。
細かい事は置いておいた方が良いな……と、ホットドリンクとやらを飲まねば」
キャラクターを洞窟の前まで動かしたギルガメッシュが、ふと立ち止まる。
「おぉ、ちゃんと訓練終わらせたんだな」
「……お前、我をどのように思っているのだ?」
訓練等、まどろっこしい物は全部すっ飛ばしそうなギルガメッシュが、きちんと訓練を受けていたことに驚くランサー。
ギルガメッシュは、やや機嫌を落とし、ジト目を向ける。
ロード時間の関係か、一拍遅れて洞窟の前へと到達したランサーも、ホットドリンクを使用した。
「分かってるとは思うが、一々雑魚を相手にしていたら時間がかかるからな。
序盤はそれでも良いかもしれねぇが……まぁ雑魚の素材が欲しけりゃ、素材クエにでも行った方が早いだろう」
「ふん、元より雑種程度に向ける刃など用意しておらぬわ。
それよりも疾く、ドスギアノスとやらを刈り取ってやろうぞ」
冷静を装うギルガメッシュだが、はしゃいでいるのは誰が見ても分かってしまうだろう。
子供のように目を輝かせるギルガメッシュを見て、ランサーは苦笑した。
本当に今更ではあるが、子供ギルの方がよっぽど大人っぽい。
「あせらなくても、次のエリアには出るさ」
GillとSetantaは、歩調を合わせながらガウシカの群れをスルーしていく。
向かうは、洞窟の出口。
洞窟を抜けると、そこは雪山だった。
雪の積もった地面に、ガウシカの群れ。
しかし、お目当てのドスギアノスは居なかった。
「どういうことだ、ランサー。
居ないではないか」
再び機嫌を落としていくギルガメッシュ。
ランサーは、そんな彼を面倒くさい奴だな……と苦笑していた。
「いや、少し待てば来るさ。
ドスギアノスはこの辺りのエリアをグルグル回ってんだ。
どうしても、ってんなら追いかけてもいいんだが――」
「却下だ。
下級モンスター、雑種に少々色がついた程度の者を、なぜ我直々に迎えねばならぬ?」
「……はぁ、だよな。
だったら大人しく待とうや。
ヒマだったら、採集するのもいいと思うぞ。
俺はそうする」
「王の行動ではないが……
折角の仮想現実だ。ここは郷に従うとしよう」
だったらドスギアノス追いかけてもいいじゃねぇか。
ランサーは心中で呟いた。
そこから先は、少しばかりの無言。
採集中は何故か無口になる二人であった。
しばしの平穏。
雪山草を、薬草を。二人が摘んでいく。
モンスターハンターどこ行った、と言いたくなる風景だが、コレも狩りの為には必要な事だった。
が、そんな平穏も長くは続かない。
画面に映る二人のキャラクターの横に、黄色いマークが現れる。
「来たみたいだぜ」
ランサーは採集に夢中になるギルガメッシュを呼びつける。
気がつけば音楽すら変わっているのに、暢気なものだ。
エリアの入り口へと視線を送れば、一風変わったギアノスのような生物が雄たけびを上げていた。
「ん、おお。
コレがドスギアノスか……
ふむ、爪とトサカ以外はギアノスとそう変わらんな」
ギルガメッシュは冷静に敵を観察する。
確かに、ドスギアノスはギアノスのトサカと爪を伸ばし、一回り大きくしたような風貌をしている。
中々良い観察ではあるが……ランサーはギルガメッシュの言葉に違和感を覚える。
「確かにそうだが……
お前、訓練終わらせたんだったらコイツと一回やってるだろ?」
そう、訓練の中にはドスギアノスの討伐も含まれているのだ。
しかし、ギルガメッシュを見る限り、彼はコレがドスギアノスとの初邂逅だろう。
だがまぁ、考えればすぐにたどり着くことである。
「うむ、飽きたのでな。
我の一存で終わらせた。
それがどうかしたか、ランサーよ」
そう、彼の性格を考えれば。
まともに訓練を終わらせた、なんて言うほど胡散臭い言葉は無かったのだ。
「……まぁ、んなこったろうとは思ったけどよ。
んじゃ、一つ忠告しといてやらぁ。
アイツが吐く雪に気をつけろよ」
「ふ、あんな雑種が吐く雪程度、この英雄王には通じん!」
「オィ、何故PSPを手放す」
ギルガメッシュが目を閉じ、腕を組む。
無論、PSPを置いて。
初歩中の初歩とはいえ、ボスモンスターと対峙した際にとる行動ではない。
故に――
「なっ!? 我の分身が雪達磨に!
どういうことだ、ランサー!」
ドスギアノスに雪を吐かれ、彼が無様な雪だるまへと変わってしまったのは必然と言えよう。
「いわんこっちゃない……
さっさと解氷剤を使いな。
このままじゃ、攻撃もアイテム使用もできねぇぞ」
「う、うむ。
……これか!」
ギルガメッシュは、アイテム欄から解氷剤を選び、使用する。
すると、どうだろう。Gillを縛っていた氷は一瞬にして砕け、Gillは手を天に掲げ、喜びを体現した――
「……素晴らしい! 一瞬で氷が砕け……アッー! 何をする雑種!」
のだが、Gillが手を天に掲げた直後だった。
ランサーの足止めを逃れたドスギアノスが、再びGillに向かって雪を吐いたのだ。
当然、Gillはまた雪達磨に逆戻りである。
「わりぃ、火力足らなくて足止め出来なかったわ。
序盤は怯み値足んなくてなぁ。
まぁアイテム使用の隙を付かれるなんて、モンハンじゃよくあることだし、割り切ったほうがいいぜ」
通称、ハンターのKY行動。
ランサーは真面目な声で言うが、ギルガメッシュの様子を見て笑いを堪えるのに必死だ。
一応、大国の王たるギルガメッシュが、ランサーの笑いに気付かぬ筈が無い。
ギルガメッシュは歯を食いしばり、叫ぶ。
「ぬぅぅ……良い!
こうなれば、後は我一人で片付ける事で恥辱を晴らしてくれようぞ!
良いな、ランサー!」
「……あ?
あぁ、練習にゃ丁度いいかもな。
んじゃ、俺はジャマにならないよう、隅っこで見てるわ」
「ふ……見せてやろうぞ、ドスギアノス!」
キャラを移動させるランサーと、雑種呼称をやめるギルガメッシュ。
彼が雑種という呼称をやめたのは、ドスギアノスを強敵と認識したからに他ならない。
装備が初歩の初歩とはいえ、ドスギアノスに苦戦する英雄王に、ランサーは涙を禁じえなかった。
だが、筋はいい物を持っているようだ。
ギルガメッシュは、苛烈な勢いで攻めつつも、ドスギアノスの引っかき攻撃を巧みにかわしていく。
「おお、中々上手いじゃねぇか」
初心者ながらに中々良い動きを見せるギルガメッシュを見て、素直に感嘆を漏らすランサー。
だが、ランサーは気付いていない。
「何!? フフ、ハハハハハ!
そうであろうランサーよ! ようやくお前にも我の……うおぉ!? またもや雪達磨に!
おのれ、ドスギアノスゥゥゥゥゥッ!」
目を瞑り、高笑いをするギルガメッシュは、再び雪だるまの洗礼を受ける。
……そう、ランサーは彼の「スキル:うっかりEX」を失念していたのだ。
「く……疾く解氷剤を……無い!?
た、助けろランサー!」
そして、彼の持ってきた解氷剤は、二つ。
雪だるまは、三回目。
雪だるまを解くには攻撃を食らうか、走り回るしかない。
「しゃあねぇ奴だな……
待ってろ、今ドスギアノスを――」
「ならん! 奴は、この我が倒す!」
「……」
意地を張る英雄王に、思わず溜息を漏らす。
ランサーは、再びしゃあねぇな、と呟き――
「動くなよー」
Gill目がけ、突進を開始した。
ランスの△+○である。
先述したとおり、雪だるま状態は攻撃を受ければ解ける。
たとえ、それが味方によるノーダメージ攻撃だったとしてもだ。
「な……!?」
そして、攻撃はGillに的中。
Gillは、無様に転げまわる。
対価として、己に付着した雪を落としつつ。
「我に刃を向けるとは、どういう心積もりだ、ランサー!」
「いや、解氷剤が無いような状況だとコレしかないんだわ。
でも、雪は解けたしダメージはないだろ?」
「……む? おぉ! 我を縛る雪が砕けている!
良くやった、ランサー。褒めてつかわすぞ!」
「そりゃどうも」
素直な笑顔で、感謝を表明するギルガメッシュ。
そんな感謝を受けたランサーは、笑っていた。黒い笑顔で。
察しの良い方はお気づきだろう。
確かに、雪だるまは攻撃を受ければ解けるが――
別に、ダウンするほど強力な攻撃でなくても解ける。蹴り位の小さな攻撃でも良い。
それでもランサーが槍による突進を選択したのは――
茶目っ気と腹いせ。この二点に尽きる。
兎も角、ランサーは再び高台の上へと昇り、戦いを観察し始めた。
戦闘の途中、ギルガメッシュが雪を回避したのを見て、舌打ちをしたのは彼だけの秘密。
「む……何!? 我から逃げるか、ドスギアノス!」
戦闘は進み、ギルガメッシュが押し始めた頃、ドスギアノスは体の向きを変え逃亡を始める。
逃げたことに対し怒りを訴えるギルガメッシュに、ランサーは告げる。
「体力が少なくなったんだな。
このまま追って、止めを刺すんだ。
でないと、アイツは回復していくぜ」
「何だと……ええい、追うのは性に合わんが……
付いて来い、ランサー!」
「ヘイヘイ、っと」
別に、ランサーは付いてこなくてもなんら問題は無いのだが……
序盤ではドスギアノスの素材も貴重だ。
素材が欲しいランサーは、逆らうことなく付いて行った。
二人そろってエリアを移動し、索敵を開始する。
「……む? 居ないではないか」
ギルガメッシュが前を見て、一言。
一拍遅れて入ってきたランサーが、言う。
「あぁ、こういう時は大抵――後だな」
「な――いつの間に後を!?」
ランサーに言われ、あわてて後ろを向き、ドスギアノスの雪を回避するギルガメッシュ。
移動したモンスターを追いかけていくと、割とよくある事なのだ。
ランサーはそう説明した。
「……まぁ良い。
決着の時ぞ! ドスギアノスっ!」
一人勝手に最終決戦に挑むギルガメッシュ。
相手がドスギアノスであると、哀愁を誘う。
そして、決着の時は訪れる。
ドスギアノスが、死力を尽くして飛び掛る。
Gillはそれを防がず、横に回避することで凌ぐ。
そして、無常な回転斬り(○ボタン)が行われ――
ドスギアノスは、無様に吹き飛んだ。
「ふ、フフ、ハハハハハ!
やったぞランサー! 我は遂に、成し遂げたのだ!」
天高く右手を掲げ、勝利を叫ぶギルガメッシュ。
最初のボスでこれかと思うと、後々を考えてランサーは泣きそうになった。
まぁ、自分が居るから大丈夫だろう、多分。
目標を達成しました。
一分で村に帰ります。
順番に、文字が現れる。
この一分は長いといつも感じるが――
「おっと、ちゃんと忘れずに剥ぎ取れよ。
ギアノス装備は結構強いからな」
「分かっておる分かっておる。
くくく、強敵と出会うなど滅多に無いゆえ、なかなか楽しめたぞ」
狩りの余韻で会話しつつ、素材を剥ぎ取るには丁度良い時間なのかもしれない。
彼らは、仲良く――ドスギアノスの上に乗っかり、素材を刈り取り始めた――
おまけ:剥ぎ取り中にて
「おい、ランサーよ。
このドスギアノスの頭と言うのは何だ?」
「おぉ、ドスギアノスのレア素材だな。
序盤に入手できりゃ心強いが――
って、手に入ったのか?」
「うむ。しかし、レア素材か。
我の威光にあてられ、引き寄せられてきたというわけか」
「運の良い奴だぜ……たしか剥ぎ取りで2%だっけか?」
「お、もう一つ来た」
「ンだと!? 全く、コレも黄金率の影響か?
……あ、クソ。ギアノスの鱗来やがった」
「くくく、幸運の低いサーヴァントは苦労するな? ランサーよ」
「……なんか、納得いかねぇ」
こんなやり取りがあったとさ。
しかし、ギルガメッシュは気付いていない。
黄金率の限界が、せいぜい巨大なくちばし程度だということに。
モンハンの物欲センサーを突破するには、EX相当の神秘が必要なのだ。