2001年10月30日火曜日 22:12 国連軍横浜基地の隣 自軍基地 自室
「こんなことがありえるのか」
俺は自室の中で呟いた。
視界の中には、かつてこの世界に訪れる前に見たメニュー画面がある。
「三万三千十六ポイント、フフフ、三万三千十六ポイント」
画面を見つつ不気味に呟いてしまったとしても仕方がないだろう。
このポイントで、俺は更なる戦力の増強が行える。
増員か、設備の増設か。
とりあえずメニュー画面を見る。
俺の顔写真と名前の横に、コマンダーレベルと書かれている。
現在のレベルは2になったばかりのようだ。
なるほど、戦えば戦うほどレベルが上がっていくわけだ。
まるでゲームだな。
「ほほう?」
さてさて、メニュー画面に見慣れない文字がいくつか現れている。
それらは同一の内容だ。
ふざけたポップ体でNEW!!と書かれている。
恐らくは何か追加されている事を教えてくれるのだろう。
親切な事だ。
レベルが1で始まったかどうかは確認していないが、恐らくスタート時はそうだろう。
どうやらコマンダーレベルの上昇に応じて新技術や追加ユニットが使用できるようになるらしい。
そんな衝撃の新事実はさておき、設備と書かれたボタンを押す。
「ほうほうほう」
夜更けに一人で呟いている男。
それはどう控えめに見ても怪しいものだったが、それはどうでもいい。
遠隔地拠点防御セット・レベル1。
それが何が出来るものなのかはなんとなくわかるのだが、具体的にどういう物なのかがわからない。
「旧OS搭載無人撃震一個大隊、MCV、第一支部専用クレート5千トン。おまけに一個機械戦闘工兵中隊、だとぅ?」
MCVという単語はなんとなく聞いたことがある。
確か、あれはアメリカ製のリアルタイムストラテジーゲームだったはずだ。
俺の記憶に残されたイメージが正しければ、巨大で鈍足で非武装のトレーラーである。
どうやら、現在画面に映し出されているそれであっているようだ。
そして脳内の記憶と目の前の説明書きを見比べると、違いはないようだ。
ある程度の広さがある場所に自走し、そして司令部を『展開』する事が出来る。
トラックで機材を持ち込むのではない。
車両自体が、司令部施設になるのだ。
そこを基点に、発電設備や兵舎、車両基地などを設け、いつの間にか拠点が出来上がるわけだ。
ゲームの中では当たり前の存在だったが、自分にとっての現実世界で与えられるとその便利さに感謝する。
「カ、カカカ、クカカカカカ」
聞きなれない音だと思ったら、自分の喉が鳴らす笑い声だった。
自分でも知らなかったが、俺はこんな奇妙な笑い声を出せるんだな。
「圧倒的ではないか、我が軍は」
ついでに言うと、機械化戦闘工兵中隊とは本当に小型の人型ロボットで構成されたユニットらしい。
Garden of Eden Servant Unit 略してG.E.S.Uと呼ぶらしい。
発音としてはゲス、であっているはずだ。
直訳すると、エデンの園の下僕とでもなるだろう。。
説明によると、戦術機や設備のメンテナンス、そして陣地構築や基地施設の設営をしてくれるらしい。
人的損害を気にする必要がない無人基地が、戦術機一個大隊と設営のための資材もあわせて三万ポイント。
今ならばロボット戦闘工兵一個中隊もお付けいたします、か。
なんともお得な話だ。
「買った!と言いたいが、出来る男は我慢も出来るものだ」
声に出して自制しつつ、別の項目を見る。
技術情報も更新されたようだ。
追加の項目は全部で五つだ。
21 第四世代戦術機開発技術01:軽量高密度装甲
22 第四世代戦術機開発技術02:発展型FCS
23 第四世代戦術機開発技術03:XM3改初期型
24 第四世代戦術機開発技術04:高初速側面スラスター
25 第四世代戦術機開発技術05:戦術機用重火器
※開発技術01から05で新機種完成
注釈までご丁寧についているが、要するに一万ポイントを使って必要技術を揃えれば、第四世代戦術機とやらが完成するらしい。
これはこれで魅力的な選択肢だ。
第四世代戦術機とやらがどれだけ強力なのかはわからないが、少なくとも撃震や不知火よりは強力だろう。
使用される資材の量にもよるが、例えわずかばかりでも機体が強くなればそれは前線の兵士たちの生存確率向上になる。
「いいじゃないいいじゃない」
咄嗟にクリックしそうになる指を押さえつつ、次の追加項目を見る。
特科連隊を作れるそうだ。
99式自走155mm榴弾砲が一個中隊24門。
一個大隊が三個中隊編成であり、今回納入できる連隊は四個大隊編成なので、合計288門が手に入るわけだ。
完全編成の一個特科連隊をプレゼント。
元の世界の自衛官たちが聞いたら、涙を流して喜ぶだろう。
まあ、直後に部隊を分割し、あちこちの師団に割り当ててしまうだろうが。
「いーじゃないーいーじゃないー」
上機嫌な声が口から漏れてくる。
これまた強力な戦力である。
BETAたちを叩き潰す任務は確かに戦術機の仕事でもあるが、砲兵部隊の仕事でもある。
前線からかなりの距離を持ち、そしてそれなりの護衛部隊も必要となる。
使用される物資の量は膨大で、友軍を巻き込まぬためには高度な作戦指揮も必要だ。
だが、発揮される火力は、それらを全て換算してもペイできる十分な破壊力を持っている。
特に、高速機動で少数による浸透突破を図らないBETAに対しては、有効性をわざわざ主張する必要すらない。
今ならばこれが二万ポイントで購入できるとのことだ。
勝手にクリックしようとする指を全力で押しとどめる。
これは罠だ。
魅力的な選択肢を数多く提示し、俺が全項目を確認しないうちに選ばせてしまうのだろう。
そうはいかない。
「ほーらみろ、俺の思った通りなんだよ」
画面には、別の項目が映し出されている。
XM3搭載不知火戦術機一個連隊、二万五千ポイント。
強力な戦力である。
今までの選択項目でもそうだが、よほど貧弱な人工知能でない限りこの先の日本史を変えられる戦力だ。
それらいずれもが無人部隊であるという点は気にかかるが、大勢の人間を指揮したことがない俺にとっては逆に助かる。
まあ、リンクスたちもそうだが、俺の部下たちはオプションで神様印の安心洗脳サービスを実施できる。
リンクスたちもそうだが、それさえしてしまえば後は問題がない。
とはいえ、そういった手間が必要ないロボットたちの方が遥かに安心できる。
これはこれで魅力的な案だな。
「次で最後か」
俺の独り言タイムも終わろうとしている。
最後の一つは艦隊だそうだ。
戦艦二隻、多連装ロケット搭載艦五隻、駆逐艦八隻からなる部隊だそうだ。
これはこれで強力な日本史を変えることが出来る戦力である。
だが、倒したBETAを回収しなくてはならない我々にとって、強力な海軍を入手するのはまだ早い。
その強力な火力は後々では重要だが、今日の所はこれを選択する必要はないだろう。
独り言と考察はここまでにして、そろそろ選択の時間だ。
現在の我々の目標を再確認しよう。
第一の目標は自給可能な体制の確立である。
これが出来ない事にはこの先の行動全てが成り立たない。
そして第二目標は、日本帝国軍の支援だ。
これはこの先の歴史でオルタネイティブ第4計画を効率的に進めるための布石だ。
「まぁ、無人基地だよな」
実際のところ、悩む必要がない。
戦術機連隊も自走砲連隊も艦隊も、どれもが重要な戦力になりえるが、入手してもそれを維持できるだけの物資がない。
不知火は未だ全面配備が終わっていない装備だし、それ以外の装備はこちら独自のものである。
つまり、帝国軍から融通してもらうわけにもいかない。
だとすれば、今後に備えるという意味でもそうだが答えは一つだ。
「君に決めた!」
新潟への基地建設は、どちらにせよ実施する予定だった。
そのために建設機械を用意していたのだし、リンクスたちから何人か派遣する予定だった。
それをもっと早く、もっと大規模にできるようになっただけだ。
ポイントがガンガン減っていくが、まぁどうでもいい。
受話器を取り、短縮番号ボタンを押す。
「いつもお世話になっております。新潟に分遣隊を置きたいのですが、許可いただけますか?」
受話器の向こうから女性の大声が聞こえてくる。
どうやら、あまり機嫌がよろしくないときに話を持っていってしまったようだ。
「いえいえ、分遣隊はもちろん帝国軍に従いますよ。
BETAの回収さえさせてもらえるなら、我々はそれでかまいません」
またもや大声が聞こえる。
「ですから、理由は研究ですよ。
そういうことにしておいてください。あなたの計画に協力こそしても妨害はしませんよ」
あくまでも譲らないこちらの態度に、あいては諦めてくれたようだ。
返ってくる返事はそれなりに声量を抑えてくれている。
もちろん、諦めたように見えて実際にはこちらのやる事を監視しようとしているのだろう。
「機材の準備は出来ていますので、承認が降りたら教えてください。
必要な面積その他は直ぐにメールします」
戦車が走行可能な地形ならば進めるのがMCVの魅力だ。
まあ、あまりに狭いとつっかえてしまうがな。
なんにせよ、香月副司令が許可を得るために行動してくれるのであれば、それはもはや決定事項だ。
今後は資源入手も随分と楽になるだろう。