2002年2月14日木曜日06:31 朝鮮半島北方 国連信託統治地域 ビックトレー級陸戦艇『リョジュン』 桜花作戦東方軍集団司令部
「この辺りの安全は確保できそうだな」
砲兵による強烈な砲撃が続くなか、グエン大佐は安堵の息を漏らした。
そんな彼を肯定するようにリョジュン以下陸上戦艦たちが一斉砲撃を実施する。
昨晩より続いている防衛戦闘は、人類の圧倒的優勢という形に進んでいた。
朝鮮半島北方から大陸へと進入するための進撃路を確保した彼らは、押し寄せるBETAの集団相手に一歩も引かないどころか戦線を押し上げるという戦果を挙げていた。
補給が行き届き、最新の兵器を揃え、全員が十分な訓練と実戦経験を積み、末端の分隊に至るまで完全充足状態の軍集団とは、それだけの戦闘能力がある。
「報告、前方敵集団の圧力は更に弱まる。
掃討戦へ移行、第278戦車大隊が左舷を通過中。
続けて279、241大隊も続行します」
トランスポーターから解き放たれたばかりの戦車連隊が砂煙を巻きあげて艦隊から離れていく。
掃討戦において、戦車は非常に強力な破壊力を発揮できる。
もちろん、迎撃戦において強烈な第一撃を加える場合も同様だ。
かつて陸戦の王者と呼ばれた戦車は、自動装填式155mm連装砲と衛星通信による広域データリンクという強力な武器を身に付け、今日も戦場に君臨していた。
はっきり言えば、圧勝である。
ここに至るまでに損害が皆無とはいかないが、たかだか連隊が三つほど潰れた程度でしかない。
極めて残念な事に、地球規模で見た場合には局地的優位にしか過ぎなかったが。
「北方軍集団管轄地域のBETAの増援はなおも増大中。
総数五個軍団規模以上、さらに増大中。
全軍に警報、さらに増大しつつある。
東方軍集団管轄地域にも接近中、全部隊警戒せよ」
モニターに映しだされた戦闘地域は酷いことになっている。
戦線はしっかりと維持されており、予備兵力は未だに待機中。
緊急展開部隊は集結を終え、行動を開始している。
だが、それだけだ。
各部隊の足は完全に止まっており、タイムスケジュールは順調に狂っている。
状況は非常に宜しくない。
「できれば早い段階で支援を送り込みたい。
光線級はどうか?」
阻止砲撃が可能であれば、BETAの脅威というものは小さい。
砲兵で叩き、戦術機でかき回し、戦車で潰す。
軍隊というものは目的を達成できる能力を持つようにデザインされている。
祖国防衛のため、民主主義の普及のため、資本主義の豚を叩きのめすため、人類に敵対的な地球外起源種を倒すため。
目的は様々であるが、技術と予算と人員の都合がつくのであれば、必ず目的を達成できるようになっている。
だから、グエンたちはこの戦場において人の心配をするだけの余裕を持っていた。
「光線級は現在のところ殲滅を確認。
先ほど回収したSEAD部隊残存機は二機が修理可能、残りは全数廃棄になります」
初めて聞かされた時はどうかと思ったが、SEAD専用機の投入は成功だったな。
彼らのお陰で、長距離迎撃が容易になっている。
格納庫で修理が行われている僅か二機の残存機に対して、彼は心の底から礼を言った。
史実の合衆国軍に存在した、航空機を撃墜するための陣地を航空機によって破壊するための精鋭。
物量と縦深のあるBETAの大軍団を相手にする場合、通常の戦術機では容易には光線級までたどり着くことはできない。
そこで出番となるのがSuppression of Enemy Air Defence、日本語にするなれば敵防空網制圧を専門とする部隊だ。
口で言うのは簡単だが、当然ながらそれは奇跡や幸運のバーゲンセールの果てに見える幻でしかない。
だが、そこである狂った男は考えてしまった。
光線級を殲滅する。
ただそれだけを目的に、一つの兵器を作ったらどうだろうか。
生還する必要はない。
他のBETAを相手にする必要もない。
さらに言えば、中に乗っている人間という脆弱な部品も気にしないとすれば、どうだろうか。
8492の狂った科学技術と無人化の精神は、最低でも中隊規模以上の重武装特攻無人機による光線級の無力化という解を導き出した。
人間が載ることを全く想定していない完全無人戦術機。
最高速度M2.4で低空というよりもBETAのすぐ頭上を飛び越せ、超高速機動戦闘が可能な決戦兵器である。
水平飛行のための翼、ジェットエンジン。
緊急加速用のロケットブースター。
生体が載っていないからこそ実現できたサイドブースター。
全機が自爆用のS11を搭載し、射耗と同時に巨大な誘導弾と化す彼らは、与えられた任務を忠実に全うしていた。
光線級撃滅というたった一つの目標に特化して設計されたそれは、早い話が手足の付いたミサイルである。
さらにそこにはG.E.S.Uの技術を投入し、全機が常に全軍と連結された状態だ。
システム稼働から現時点までの全軍の戦闘情報がデータとして取り込まれ、判断基準として採用され、行動決定の際の判断材料となる。
彼らは機械ではあるが、限りなく自分で考えながら行動していた。
後に敬意を持って『Wild Weasel』と呼ばれることになる彼らは、光線級の存在が確認されるなり行動を開始する。
全機で一斉突撃を行い、敵陣めがけて浸透攻撃を実施する。
突撃級を無視し、要撃級を飛び越え、要塞級の横をすり抜け、光線級の集団へ殺到していく。
手持ちの弾薬を全て撃ちこみ、殲滅を確認するまで自爆を含めるあらゆる攻撃行動を実施する。
そうして混乱したBETA集団に対しては、当然だが既存の面制圧も行われる。
さすがにこれだけの手間を割けば、光線級を撃破できないわけがない。
「第44旅団が随分と進出しているな。
42と58旅団も付けて境界線付近を押させろ。追加投入した第82師団の様子はどうか?」
ハイヴ攻略という任務を専用の部隊に任せ、純粋に地上戦に特化した兵器で構成されている前線部隊は、十分な戦闘能力を維持し続けていた。
もちろん損害は続出しているが、その程度は事前に想定された範囲を逸脱するものではない。
表示された戦況は、それを明確な数字と進撃位置で証明していた。
「思ったよりも押せているじゃないか。
こちらが優位なうちに砲兵は連隊単位で配置転換させ、それぞれ10km前進する。
移動中の前線支援は洋上艦隊に依頼するから直ちに移動させろ。
ああ、それと支援砲部隊も手持ちは全部出させてくれ」
命令を受け取った支援砲中隊が発艦を開始していく。
彼らは固定式の90mm電磁速射砲を一門だけ装備した実験機に近い機体だ。
その他の装備は無く、短刀すらも持っていない。
固定式の火砲一門と全備重量の三分の一を占める弾薬と冷却材という構成は、兵器として欠陥品という評価を与えられても文句が言えないレベルだ。
だが、BETA相手に過剰とも言える突撃破砕射撃を行えるというのは、価値としては十分以上といっていいだろう。
彼らは戦車と肩を並べて敵の第一撃を粉砕するという任務を与えられている。
戦闘という意味では限りなく汎用性は低いが、戦術的には大きな価値があった。
胴体から飛び出した巨大な電磁速射砲を迫るBETAに向けた支援砲中隊は、全員の発射準備が整うなり発砲を開始。
光り輝くプラズマが撒き散らされ、音速を遥かに超える速度の砲弾が飛び出していく。
「やるじゃないか」
ごく短い時間に成された戦果に、グエンは満足そうなコメントをした。
およそ200体と思われる突撃級たちは、真正面から迎え撃った支援砲中隊の迎撃により全滅している。
「報告。
北方軍集団より緊急連絡、ソ連軍担当地域に軍集団規模のBETAの兆候を確認。
緊急展開部隊および東方軍集団への支援要請がきています」
ちょっとうまくいったと思えばこれだ。
彼は制帽を弄りながら内心で溜息を付いた。
とにかくBETAたちはあまりにも異常な増援がありすぎる。
各軍集団担当地域の境界線付近は、どちらも必要な戦力しか置いていない。
合算すれば結構な数だが、それぞれは各自の軍集団の他の部隊と連携しなければならないため、片方が困っているからといって気軽に送り込めるわけではないのだ。
「全般状況を出してくれ」
手元のモニターに東方軍集団を中心とした全般の戦況が映し出される。
南部と西部軍集団の進撃は好調。
双方の部隊は未だ接触するには至っていないが、最も近い地点では50km程度のところまで来ている。
ハイヴ攻略にどれだけ時間がかかるかにもよるが、この調子ならばタイムスケジュールの前倒しすら考えられるな。
「それにひきかえ、全く困ったもんだ」
いつの間にか置かれていたコーヒーを手に取る。
北方軍集団は敵の猛反撃を受けて進撃速度が鈍り出している。
予備戦力を投入すれば何とでもなる規模ではあるが、ハイヴに取り付く前に予備戦力を使っているようでは先が思いやられる。
そして、我らが東方軍集団も人のことを責めている場合ではない。
境界線付近が押されている以上、このまま手をこまねいていたのでは自分たちに面倒が降り掛かってくるのは時間の問題だ。
「ヘヴィフォーク級三隻が限界だ。
緊急展開部隊に加えて適当な師団を付けて送り込んでやってくれ」
彼の命令に従い、一部の部隊が増援として引抜かれていく。
予備兵力を贅沢に持っている8492戦闘団だけあり、短期的にはその穴を埋めるのは容易なことだ。
だが、現状は最終決戦どころか前哨戦だ。
このような小競り合いで予備兵力に手を出す訳にはいかない。
2002年2月14日木曜日10:09 ソビエト連邦領 カムチャッカ戦線 ソビエト連邦陸軍カムチャッカ防衛区第198狙撃連隊第一大隊第二中隊 警戒陣地
<<旅団本部より前線の各隊。
砲撃警報、砲撃警報、これよりエリアB-12に対し三十五分の効力射を実施する>>
三十五分の効力射!
未だかつてこれほどに贅沢な支援が行われたことがあるだろうか?
あの8492という連中は得体のしれないところが多いが、気前の良さだけは信頼に値するな。
などと感心している間に、頭上を無数の砲弾が通過していくことを感じる。
旅団砲兵の連中ときたら、ピカピカの自走砲を山ほど貰ったものだから、早速使ってみたかったのだろう。
本来であれば、他国から譲渡された兵器を即座に利用できるわけがない。
まず初めに採用の可否を決めるための評価試験を実施。
最終的な採用可否が決まり、採用となれば我が国の教導隊が訓練を受け、訓練マニュアルを作成。
同時並行で修理など運用に必要な全ての訓練を受け、これもマニュアルを作成。
採用計画に従って各部隊が機種転換訓練を受け、ようやく実戦投入が可能になる。
ところが、8492の連中はライセンス国産の許可と設計図を貰っただけで我がソビエト陸軍の正規品と同じ物を用意してきた。
噂では、日本に派遣された技術者たちは、明らかに生産時期が合わない作業機械や試作機に囲まれて名状し難き恐怖を感じたという。
お陰で現地での動作試験の後にすぐさま配備が決定し、全軍から元砲兵の奴は全員転属というか元の部隊に呼び戻されてしまった。
ただでさえ不足している戦力を引抜かれることは勘弁してもらいたいが、まあ、不慣れな歩兵としてよりベテランの砲兵としての方が頼り甲斐もあるというものだ。
<<偵察中のクドリャフカ5より観測データ受信中。
BETA接近中、最低でも五個師団規模以上、距離56000、増加中。
本観測データを最後に偵察部隊は撤退します>>
敵は地平線のすぐ向こうまで来ているらしい。
音響センサーを装備したブラッドハウンドとかいう物々しい名前のトラックは本当に役に立つ。
定置式のソナーは確かに便利ではあるのだが、妙な観測データを確認した場合には結局のところ人間が行って確認する必要がある。
そのような場合には偵察部隊を送り込むわけだが、これが大変なのだ。
ただ行って見てくるだけでは意味がないので、戦闘に直接は役立たない様々な機材を持っていく必要がある。
当然それらを使いこなせるだけの訓練を受けた下士官が必要であり、彼らは入手した情報を正しく報告出来るだけの経験を積んでいなければならない。
最低限の自衛戦闘が出来るだけの武装も必要で、贅沢を言えば護衛も付けたい。
そうなると歩兵では駄目で、偵察車両でも足りない。
つまり、戦術機と経験豊富な衛士が必要になる。
あの奇妙なトラックに乗ったロボット娘たちがその代わりになるわけがないと鼻で笑っていたのだが、まったく、世の中には俺の知らないことがたくさんあったらしい。
今では我が旅団の防衛エリアは彼女たちの献身によって維持されているといっても過言ではない。
<<旅団本部より各隊、光線級を確認。
敵は我が旅団担当エリアへ引き続き接近中。師団砲兵の支援を申請中。
北方軍集団緊急展開部隊が急行しつつある。
到着予定時刻1015時。
東方軍集団からも地上戦艦三隻および一個師団が機動防御のために急行している>>
やれやれ、どうやらここが激戦区か。
激戦区を担当するということは、全軍からの支援を受けられることを意味している。
つまり、その場にいる俺達は、それだけの支援を受けなければならないほどの激しい攻撃に晒されるということでもある。
「よーし、お仕事の時間だぞ!」
俺の号令で、寛いでいた兵士たちは一斉に持ち場へと走りだす。
あるものは携帯徹甲誘導弾を担ぎ、別のものは連装重機関銃砲座に付く。
もちろん我が隊の誇る105mm対BETA牽引砲も同様だ。
ないよりはマシというレベルではあるが、こんなものでも我が中隊で最強の攻撃力を誇る兵器だ。
何が最強だ、畜生め。
戦術機や戦車が暖機運転を始め、そして彼らも動き出した。
「ゴドロフ軍曹、連中が動き出しましたがよろしいのですか?」
伍長の言葉に陣地の端へ視線を向けると、そこでは並べられたコンテナが本性を明らかにしようとしていた。
彼らは国連軍とソ連邦との協定に基づき、情報収集のために派遣された小隊だった。
書類のミスとかでコンテナを山ほど持ち込んだ彼らは、一個戦術機甲小隊、二個機械化歩兵小隊で構成されたどう考えても中隊と呼ぶべき自称増強小隊である。
どうして素直に中隊を名乗らないのかと思えば、どうやら協定に記載された連絡部隊の定義が小隊規模とされていたかららしい。
別に多く部隊を送ってくれる分には一向にかまわないのだが、勲章と一緒に根拠のないプライドを沢山ぶら下げている将軍閣下諸君のお陰でそうもいかないのだそうだ。
一介の下士官に過ぎない俺にはよくわからないのだが、雲の上の方々には色々と難しいことがあるのだろう。
なんにせよ、味方が増えるというのはありがたいことだ。
「えっ?」
だが、そのまま彼らを見ていた俺は、口から知らない間に間の抜けた声を出していた。
そこにいたのは、中隊と名乗るべき増強小隊だけのはずだった。
まあ、コンテナは不自然なほど積まれていたが、それは手違いとのことだからもう慣れた。
「ゴドロフ軍曹殿、いかがなさいましたか?」
俺の言葉に伍長も異変に気がついたようだ。
彼は恐らく、俺が向いている方向に視線を向けたのだろう。
「えっ?」
だからこそ、彼も同じ言葉を発している。
俺の知っているコンテナというのは物を運ぶためのものだ。
幸いなことに、8492戦闘団の彼らも同じ認識は持っていたらしい。
だが、コンテナというものは、天井が開いて重機関銃や迫撃砲や無反動砲らしい砲塔が生えてくるようなものじゃない。
これはあくまでも仮説だが、上に砲台が出てくるということは、コンテナの中には使い切れないほどの弾薬が詰め込んであるっていうわけかい?
それよりも、一番奥のはなんだ?
側面が開いて中から完全に機械らしい歩兵がワラワラと出てきているじゃないか。
定められた規模の部隊を送り込んできたんじゃないのか?
いやまあ、戦力が増えることには何の問題もないのだが。
「戦闘準備。全兵装ユニット展張開始。
師団本部と情報連結完了。
敵部隊は制限規模を突破しなおも増大中。
MCV展開許可、総力戦許可を受信。無制限モード起動」
近くに立っていたロボット娘は誰かと交信しているらしく、独り言のように何かをつぶやき続けている。
だが、そんな事はどうでもいい。
あの妙に巨大なトレーラーは何なんだ?
どうして建物のような形に変わろうとしているのだ?
次々と湧き出てくる建設重機はどこから来たんだ?
「増援部隊のETA1015の予定、当部隊の呼称を第684支隊へ変更。
最大27分で連隊規模戦闘が可能。
増援部隊、到着」
いつの間にか至近距離まで到達していた装軌式トランスポーターが停車していく。
何割かは移動中に故障したらしく、自走してきた戦車もいるようだ。
「すげーな、IJAのタイプ61がこんなに来ているのか」
後ろから部下たちのやり取りが聞こえてくる。
これが噂のタイプ61か。
俺の知っている戦車という兵器の概念を覆すような造りをしているな。
確かに歩兵の対戦車誘導弾や敵戦車との戦闘を想定しない以上、砲を複数持つというのはありなのだろうが、そんな長らく使われていない技術を用いて使い物になるのだろうか。
いや、仮にも主力戦車として採用している以上、使えないはずがない。
それにしても、新兵器にしてはやけに細やかなところまで作りこまれているな。
ヤポンスキーってのは戦車が得意な民族だったかな?
<<こちらは第11戦車連隊、連隊長の池田だ。
緊急展開部隊の先遣を務めている>>
思いがけない高官の出現に俺は緊張した。
連隊長といえば、将官相当じゃないか。
なんで先遣隊と一緒にこんな最前線までやってきやがったんだ?
<<楽にしてくれ。
連絡が来ているものと思うが、当地域には我々も含めて一個師団と、陸上艦隊を分艦隊しか回すことができん。
我々は機動防御の一環としてこれより突撃するので、現場責任者の貴官がここの指揮を執ってほしい。
当方のコールサインはクォックス01だ、宜しく頼む>>
指揮官らしい者から通信が入る。
どの戦車も大げさなアンテナが付けられており、どれが指揮車なのかはわからないが、早くも戦車が連隊規模で増援に駆けつけてくれたらしい。
実にありがたいことだ。
「救援に感謝します。
こちらのコールサインはサバーカ02です。
失礼ですが、中隊長殿とは既にお話になられていますか?」
内心で侮蔑の笑みを浮かべながら尋ねる。
侍の末裔たちに対してではない。
我らが中隊長殿は、上層部だけで決まった最前線勤務に、心の限界に達してしまったらしく、驚くほど後方に陣取っている。
戦車も戦術機も殆どを予備兵力として旅団本部付近にかき集めており、正直なところ、我々は全滅確実な立場に追いやられていた。
<<ああ、前線は君に任せているそうだな。
我々は直ぐに戦闘にいくが、後続の歩兵連隊がもう少ししたら到着する予定だ。
陸上艦隊も駆けつけるので、状況が本当にまずい時には後退して合流してくれ。以上>>
それを合図に戦車大隊はエンジン音を鳴り響かせ、いくつかの集団に分かれつつ進撃していった。
クォックス01の言葉通り、後続とやらは直ぐにやってきた。
正直に言えば、増援は歩兵なのかと失望していた。
だが、実際のところはどうだ?
続々と到着するのは装甲兵員輸送車の大軍、要撃級を踏み潰しそうな巨大な輸送車両、そして大隊規模の戦車と戦術機だ。
更に大きな輸送車両も多数来てるが、こちらからは呆れたことに新型らしい戦術機モドキが次々と降り立っていた。
どうやら、彼らと人類では連隊という言葉の定義が異なるらしい。
全く信じがたいことだが、装甲兵員輸送車から出てきた歩兵たちは、誰もが強化外骨格と言うよりは戦術機のようなフォルムの装備を身に着けている。
<<こちらは第1130機械化歩兵連隊です。
緊急展開部隊として増援に来ました。
ここは後方陣地という位置づけになりますので、必要なものを連絡部隊に要求して下さい>>
拡声器から流れてきているらしいその言葉に視線を向けると、建物に変わろうとしていたトレーラーは、むしろ初めからそうであったかのように立派な建物へと変わっていた。
どこから湧いてきたのかは分からないが、倉庫や防衛設備らしいものが次々と立てられていく。
なんだかねむくなってきたな。
なんにせよ、おれたちはたぶんだいじょうぶだ。
なかまがたくさんいて、たいほうもてっぽうもたくさんある。
きっとだいじょうぶだ。
すこし、やすもう。
2002年2月14日木曜日10:11 ソビエト連邦領 カムチャッカ戦線 国連軍緊急展開部隊
<<クォックス01より各車、展開しろ、発砲は指揮車を待て>>
エンジン音を鳴り響かせつつ戦車隊が散開していく。
あるものは全速で隆起を乗り越え、別のあるものはわずかな窪みに車体を沈めて停車する。
無秩序に見えるが、彼らの行動は一貫して十分な射界を確保するという点で統一されていた。
<<第11戦車大隊配置についたぞ、随伴歩兵展開急げ!急げ!
無反動砲前へ!機関砲座設置急げ、装甲車はこれを援護!>>
巨大な無反動砲や様々な装備を担いだ兵士たちが隙間を埋めていく。
彼らが持っているそれは、一対一ならばまだしも、BETAの大群を相手にするにはあまりにも心細い装備でしかない。
しかし、戦車随伴歩兵とは、別に最前線へ単身で殴りこむ事は任務ではない。
砲撃をかいくぐり、弾幕を抜け、それでも戦車に接近してきた敵を、戦車の手を煩わせずに始末する。
それこそが彼らの任務である。
<<1130歩連HQよりクォックス01、当部隊は第684支隊に更新された。
緊急展開部隊の支援体制確立。
戦力の増産を開始した。
最大四十分で戦車大隊の増援が可能。当部隊の機甲戦力が必要な場合には申請されたし>>
最前線において戦力の増産を開始とは随分と狂ったお話だが、残念なことに8492戦闘団では当たり前の会話だ。
特に今回のような厄介な任務の場合には、それはむしろ着手が遅いとすら言える。
<<こちら支援陸上艦隊第一戦隊、これより支援砲撃を開始する。
既に座標は衛星経由にて特定済み、座標の指定が必要ならばいつでも言ってくれ、初弾発射済、弾着まであと5秒>>
頭上を巨大な何かが飛び越えていく。
陸上艦隊による突撃破砕射撃の始まりだ。
砲弾に混ざり、巡航誘導弾らしいものが高速で飛来する。
大口径砲弾でも、巡航誘導弾でも、そして単なる自走砲の砲弾であっても、どれもが十分な破壊力を持っている。
そして、これらが全部破壊されたとしても、次の、次の、次の次の次の、そのまた次のどれかがBETAに命中する。
砲兵は戦場の女王と呼ばれているそうだが、まったく、大した女性である。
その巨大な包容力の前に、前線の将兵たちはただ身を任せるしかない。
<<報告、第13戦車連隊がB-11に展開中、14戦連も同様にB-14に展開中。
第411戦術機甲連隊戦闘に突入、続いて412戦機連も交戦を開始した。
集成砲兵大隊展開完了、効力射を開始>>
彼らの頭上を無数の砲弾が飛び越していく。
既存のソ連軍砲兵に加え、三隻の陸上戦艦と長距離戦仕様ヴァンツァーの大隊、そして自走砲連隊から放たれた無数の砲弾は、確実なBETAの殺傷を保証している。
敵先鋒の連隊に対して、師団相手でもお釣りが来るほどの阻止砲撃をしているのだ。
効果がないはずがない。
あくまでも延べではあるが、着弾前に迎撃された砲弾の数は7,463発にも上る。
だが、その八倍ほどの数が迎撃を乗り越え、目標へと命中していた。
<<クドリャフカ05より前線の各隊へ、地中聴音に異常なし。
引き続き観測を継続する>>
随分と前に退避したはずの偵察部隊は新たなる指揮系統に組み込まれ、最前線に踏みとどまっていた。
彼女たちは味方の砲弾が降り注ぐ中、必要最低限の安全距離を取り、これまた必要最低限の護衛に囲まれて観測を継続していた。
<<支援砲撃の効果は甚大。
あと三十秒で砲撃終了、全車突撃用意。
ヴァンツァー突撃準備、戦術機甲大隊はこれを援護。
第11戦車大隊は戦果拡張を最優先、機械化歩兵は近接戦闘に備えよ。
ソナー群正常に作動中、周辺に異常音響なし>>
この地域の戦闘は、砲撃だけで防戦から掃討戦へと移ろうとしている。
その場合の戦車の役割とは、当然ながら戦果拡張だ。
「クォックス01より全車へ、あと三十秒で砲撃終了、全車突撃用意。
ヴァンツァーは戦車とともに前へ、戦術機甲大隊はこれを援護。
第11戦車大隊は戦果拡張を最優先とする。機械化歩兵は近接戦闘に備えよ。
ソナーバリアは作動中、周辺に異常音響なしだ。安心して叩け」
輸送コストを度外視して用意された緊急展開部隊は、戦車の打撃力、戦術機の機動力、ヴァンツァーの汎用性を組み合わせて戦力を構築している。
ヴァンツァーは飛んだり跳ねたりはできないが、戦術機以上に武装の自由が効く。
この兵器は陸上戦艦という移動可能な拠点を得ることによって、原作に負けない汎用性を維持していた。
これに加えて機動歩兵による歩戦協同を徹底し、陸上戦艦の火力が与えられる。
遠距離から白兵戦までを完結して行えるだけあり、独立した部隊としては規模がおかしな事になっているが、その異常さがこの非常時では役に立つ。
「最終弾着!」
足元から報告が上がってくる。
全ては予定通りだ。
池田は再び口元を緩めた。
「よし、行くぞ。
戦車前へ!」
足元から、無線機から次々と復唱が流れ、61式戦車5型のエンジンが唸りを上げる。
彼の乗る指揮車は履帯の音を響かせつつ、増速を開始する。
同時に砲塔が旋回する。
前方には未だに砲撃による土煙が立ち込めているが、この戦車はペリスコープごしにしか情報を入手できないわけではないのだ。
「衛星データリンク正常に作動中。
対地レーダーにより目標捕捉完了、誤差修正完了」
各戦場ごとに用意された偵察衛星、各車に装備されている対地レーダーを始めとする複合式射撃統制装置。
それらから収集された情報の処理を陸上戦艦に搭載されている大型電算機が代行し、目標情報として配信する。
「目標自由、各個に撃て!」
大変に複雑なそれらが絡み合った結果がこれである。
放たれたAPFSDS弾は未だに姿を目視できないBETAたちに向かって正確に突進し、必殺の一撃を喰らわせる。
さすがに機関砲並みとまではいかないが、自動装填装置だけが出来る驚くべき早さで次弾が準備される。
「目標撃破!」
直接は見えなくとも、彼らにはそれを知る手段が豊富にあった。
「照準、第二目標」
砲塔が微かに動く。
様々な情報を統合してモニター上に映し出された未来予測位置を正確に捕捉する。
「よしよし、そのままそのまま。撃つぞ!」
池田は発射ボタンを押し込む。
衝撃、轟音、排煙装置が煙を吸い込んでいく。
砲弾はきちんと目標に命中している。
嬉しいじゃないか。
次の目標を探しつつも、心の中に満足感が生まれる。
占守島で散ったはずの俺達が、人類を守るために人類の敵と戦う。
こんなに嬉しいことはない。
「それに、今度は圧倒的な援軍付きだ。
なんとソビエト軍まで友軍とは驚いた話だがな」
思わず苦笑しつつ、次弾を発射する。
史実における大日本帝国陸軍第91師団戦車第11連隊は、1945年8月下旬にソビエト軍との交戦の結果、武装解除している。
「あの可哀想なソ連歩兵に損害はないな?」
BETAの進撃速度を考えれば死守を命じられたに等しいソビエト軍下士官の顔を思い出す。
何時の世も、真面目な人間から使い捨てられる。
「無事なようです!前進してよろしいですね?」
足元から報告と指示を求める声が上がってくる。
「よろしい、当初案のままでいけるな、大隊を割って敵を誘引する。
機動歩兵はしっかりついてこい!」
鋼鉄の騎兵たちは、エンジンを唸らせながら前進を開始した。
「クォックス01より全車、戦闘機動、発砲自由、目標は任意。
車間距離に気をつけろよ!」
一気に増速を始めた車内で池田は部下たちに命じた。
61式5型は全く大した戦車である。
力強いエンジン、強力な連装砲、優れたデータリンクシステム。
戦車兵が欲しがる全てがここにある。
まあ、装甲も実は大したものなのだが、BETA相手に装甲板の頑丈さというものはあまり求められないのが残念だが。
2002年2月14日木曜日11:30 ソビエト連邦領 カムチャッカ戦線 ソビエト連邦陸軍カムチャッカ防衛区第198狙撃連隊第一大隊第二中隊 主力陣地
「おやおや、なかなかに楽しそうな光景ですね」
国連軍から来たらしい太った白人将官は朗らかな笑みを浮かべていた。
中隊長は指揮所入り口に立つ反抗的な軍曹に視線を向ける。
どうして到着の報告とほぼ同時にこの指揮所に現れたのかがわからない。
ろくな準備も出来ずに出迎えたのでは、こちらの能力を疑われてしまうではないか。
だが、この安全な場所に指揮所を設けた頃から反抗的な態度を隠そうともしなくなった彼は、口の端に反抗的な笑みを浮かべることでそれに答えた。
「閣下、大変失礼いたしました。
国連軍より戦域調整のためにご支援を頂けるとは聞いていたのですが、閣下のお力を貸して頂けるということなのでしょうか?」
内心では面倒な事になったと溜息が漏れている。
実際にBETAが押し寄せてきてしまっている以上、支援がもらえることはありがたい。
だが、国連軍の自分よりも階級が上の人間が実際にここへ来てしまっているということは、間違いなく一介の佐官に過ぎない自分は最前線へ出される。
上のほうで何を話し合ったのかは知らないが、カシュガル陥落まで続ける作戦などという狂った妄想に付き合ってなどいられるものか。
そもそもが、どうしてこの将官らしい男は最前線の歩兵中隊の陣地なんかに来ているんだ?
かなりの大部隊を率いてきているんだろうが、もっと後方の、安全な司令部にでも詰めていればいいじゃないか。
「一個師団と陸上戦艦三隻からなる分艦隊。
これが私達が使える戦力です。
最終的にはもう少しもらえる予定ですが、まあ、まずはいま何ができるかでしょうねえ」
今までの常識で言えば呆れるような大兵力を連れてきた彼は、大したことではないかのようにそう告げた。
一個師団に陸上戦艦三隻!
それだけの戦力を増援として連れてこれるということは、つまり我々がここに来る必要など初めからなかったということだろう。
中隊長としては実に腹立たしい限りだった。
上のほうでどんな理想や妄想をぶちあげてくれても構わないが、それに前線の将兵を巻き込まないでいただきたい。
「報告!」
非常識すぎる支援の申し出に指揮所内が静まり返ったところで、裏返りかけた声音の伝令が飛び込んでくる。
「そ、装甲車の集団が多数のトラックを連れて前線へ移動中!護衛も含め、かっ、かなりの数ですっ!」
とてもではないが、正規の訓練を受け、実戦経験まである軍人がする物言いではない。
そもそもだが、報告を求められたわけでもないのに勝手に話しているという事自体がおかしい。
「何だそれは、貴様、ふざけているのか?」
他所の組織の将官の前ではあるが、中隊長は不快そうな様子を隠そうともせずに叱責した。
伝令の物言いは、それほどまでに無礼かつ無様なものだったのだ。
まず第一に、発言の許可を求めていない。
そして、勝手に話し出した上に、内容が全く具体的ではなかった。
一般的に、軍隊における報告とは5W1Hを超える内容が求められる。
報告対象の規模、行動、位置、部隊、時間、装備である。
哀れな伝令のために、彼の報告内容を具体化すると以下のようなものだ。
国連軍の輸送車両が目測で最低100両以上、座標B7からB12に向けて縦列隊形にて移動中。
部隊番号は観測できず。
発見時刻は1131時、移動速度は約時速40km。
護衛は戦術機や戦闘車両による50両以上。
それをたった一行程度の内容に、しかも具体的ではない形でまとめてしまったのだから、残念ながら中隊長の叱責は正しい。
逆に言えば有事の際にそんな報告をしてしまう程度にしか部下を教育できていないという批判にもつながるのだが。
「今は苛立っている場合ではないでしょう。
こちらの情報提供が遅れていた事は謝罪しましょう。
それよりも、行動です」
国連軍将官は笑みを浮かべたまま話を続けた。
行動と口にした瞬間、指揮所内の空気が変わる。
好々爺といっても過言ではない風貌の、太った白人将官。
だが、彼から発せられる空気は、明らかに最前線を知り尽くした最先任曹長に匹敵している。
「機械化歩兵の他、戦車、戦術機、ヴァンツァー、砲兵に補給物資。
あらゆる装備を持ち込んでいます。
うっかりしていて、ソビエトの皆様向けの装備も持ってきてしまったので、それはこちらでなかったコトにしてしまって下さい。
使い道は任せますよ」
恐ろしいことに、援軍に加えて手土産まであるらしい。
それがどれだけ役に立つかは今のところは未知数だが、伝え聞く話を半分にしたとしても、第二中隊は幸せものになることは確実だった。
中隊長は、久しく感じていなかった何かを感じていた。
勇気、やる気、あるいは意欲。
言い方は人によって様々であるが、とにかくそう言ったポジティブな何かだ。
俺達は、ひょっとすると生き残った上に勝てるかもしれないぞ。
「ご支援に感謝いたします閣下。
一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
先ほどの説明の中に聞きなれない言葉があった。
機械化歩兵、これは知っている。
8492戦闘団のそれは本当に機械だったり、馬鹿げた性能を持つ強化外骨格であったりするが、ようするに重武装の歩兵だ。
戦車、戦術機、砲兵。
これも知っている。
これが何かわからないような人間は、戦場にいてはいけない。
だが、ヴァンツァーとやらは何なのだ?
「なんでしょう?
答えられることならばなんでもどうぞ」
国連軍将官は笑みを浮かべて先を促した。
どうにも緊張感がない顔をしているが、そこから漂ってくるものは本物の軍人だけがもてる何かだ。
この男を只の将軍閣下として見てはいけないな。
いまさらながら中隊長は認識を改めつつ、口を開く。
「ヴァンツァーとは、どのような兵器でしょうか?
自分たちにはその種の兵器は縁がないのです」
質問をしている今も自問自答を試みているが、やはり聞き覚えがない。
強いて言えば戦車の独逸語表現であるPanzerに似ているが、これも違う。
戦場において、分からないことをそのままにするのは死を意味している。
「ああ、新型の大型強化外骨格のようなものです。
戦車並みに強く、戦術機より安い。
そんなふうに考えておいて下さい。使い所もそんなところです」
安価な戦術機というわけか。
中隊長の理解は真実に近かった。
ヴァンツァーの実戦投入は、人的資源の有効活用と有り余る資源の使い道の一つとして決定された。
クローンとはいえ人間の脳を使っている関係で、補正し尽くしても戦術機適正が一般兵レベル以上にならない個体というのは意外なほど存在する。
とはいえ、製造にかかったコストを考えれば、それらを歩留まり品として切り捨てるのはあまりにももったいない。
そういうわけで、超高価な歩兵や戦車兵としていたわけなのだが、救いの神は意外なところにあった。
横浜基地から引き上げてきた備品の山。
それらは当たり前ではあるが輸送車両その他を用いて新潟や佐渡ヶ島の倉庫に再配分する。
その設置作業で大活躍してくれたのがヴァンツァーだ。
完全非武装、FCSその他も一切を取り外しているそれは、大きなフォークリフトとして活躍していた。
ある日、それに気がついた国連軍兵士たちは驚愕した。
戦術機より使いやすく、戦車より小回りが効き、歩兵よりずっと強力なものがあるのに、どうして武装させないのか。
調べてみると、ヴァンツァー自体も適正試験は原作同様に厳しいものとなっていた。
だが、跳躍や飛行を行う戦術機に比べれば、随分とその操縦難易度は低かったのだ。
そういうわけで、改造が施された。
試作型歩兵用重外骨格。
そう呼ばれるこの機体は、地上戦に限っての投入を目的にした、高価な戦車だ。
だが、戦術機と同じく武装の自由が効くこと、小回りが効くこと、裏技を使えばプラントで直接生産が出来ることから、急遽歩兵連隊用に数を揃えられた。
ちなみに、裏技というのは非常に単純なものだ。
戦争にも使える強力な出力と装甲を持つ作業用ヴァンツァーを設計し、別口で補修部品として戦闘補助システムを一式を製造する。
完成したら、ユニットごと戦闘用のものに載せ替え、最後に武器を持たせて完成というわけだ。
原作の世界では作業用ヴァンツァーというカテゴリがあったからこそシステムが見落としてくれたのだろう。
作業用戦術機や作業用陸上戦艦があればよかったんだが、無い物ねだりをしてもはじまらない。
とにかく、手始めに緊急展開部隊だけでも全ての歩兵を機械化することに成功したお陰で、中隊長は随分と心強い援軍を得ることができたのだ。
「よろしいですかな?
さあ、戦争を続けましょう。
まだ第一幕すら終わっていないのです、手を休めている暇はありませんよ」
ゴップという名のその国連軍准将は、柔和な笑みを浮かべたまま戦闘指揮を始めた。