2001年12月18日火曜日12:00 日本帝国新潟県佐渡市1-1 日本帝国本土防衛軍佐渡島基地
<<お昼のニュースです。青森県の帝国軍技術工廠第四工場の建設工事は順調に進んでいます。
政府の発表によると、12月末の完成を目指しているということです。
一刻も早い避難民の皆様の生活再建が望まれるところですね。
本日はこの問題に詳しい元帝国本土防衛軍工兵大尉の鳥越さんにお話を伺います。鳥越さん・・・>>
佐渡島奪還から10日。
日本を取り巻く情勢は静かなものであった。
佐渡島にもともと駐屯していたBETAは全滅、朝鮮半島より増援として派遣されたBETA集団についても先日殲滅が宣言されていた。
そのような状況の中、ここ最近で最も活発な軍事行動が行われた佐渡島ハイヴ跡地では今日もBETAの回収活動が継続されていた。
「しかしまあ、これだけの資源をもらえてしまうと何か裏があるのではないかと疑ってしまうな」
ハイヴ内部は現在の帝国軍の調査部隊が入って何かをしている。
安全宣言から五分もしなうちに、俺の指揮下にある部隊はすべてがハイヴ外退去の命令を受けて退去させられていた。
日本帝国軍の連中ときたら、よほど俺にG元素を渡したくないのだろう。
気持ちはわからないでもない。
BETA固有の技術で生み出されていると思われるG元素は、人類にとっては、いわばエレリウム-115のように貴重な物質だ。
それはG弾の原料となり、電磁投射砲のコアユニットに使用できる。
とりあえず序列に入っているというだけの俺には触って欲しくないものだろう。。
そういった次第で、大変に礼を欠く形で俺はハイヴ跡地を追い出され、佐渡島を日本の領土として復興させる任務に当てられていた。
どうでもいいが、G元素を必要ならばトン単位でいくらでも量産できると知ったら、俺を追い出した連中はどんな顔をするんだろうな。
「日本帝国軍はよほど我々が目障りだと見える。
閣下、可及的速やかに軍の再編成を完了させ、別のハイヴへ突撃するというのはどうだろうか?」
そんなルーデルの提案に、思わず頷きそうになる自分が怖い。
開けた場所でやり合うのであれば、BETAに押し負けることはない。
こちらには飛び道具があり、大量破壊兵器も多種多様なものを用意することが出来るからだ。
それに、アームズフォートを旗艦とする陸上艦隊を揚陸させてしまえば、決まった場所に留まらずに作戦行動が可能になる。
戦場が広大になればなるほど、我が軍は全力を発揮させることができる。
そんなこちらの特殊な事情はさておき、日本帝国は一体俺たちをどうしたいのだろう。
味方に引き入れたいのか、使い潰したいだけなのか。
動きに一貫性が見えないところを見ると、帝国内部は随分とひどい有様になっているようだな。
「閣下?本土防衛軍第六十六師団長とやらが来ておりますが?」
ここ最近、すっかり受付担当が板についてきたダンが声をかけてくる。
「だいろくじゅうろく師団?俺の知らない間に、日本帝国軍は随分と拡張されたようだな」
嫌味混じりに棒読みで答える。
別にダンが何かをやったわけではないことは理解しているが、どうにも気分が収まらない。
今すぐ煌武院様を始め帝国の首脳全員で感謝の言葉を発しに駆け寄ってきて欲しいわけではないが、こちらをあまりに舐めきった態度をとられるのは不愉快だな。
大体、第六十六師団など、名前からして予備役師団じゃないか。
「それで?その師団長閣下はどちらに?」
不意に聞こえた足音に振り向くと、見るからに使えない様子の参謀団を連れた将官がこちらに向けて歩いてくる。
階級章を見たところ、中将らしい。
随分と若いな、年齢は三十代前半だろうか?
どうやら片足が義足のようだ。
「君が、新潟戦区防衛担当者かな?」
その人物は俺の前で立ち止まると訪ねてきた。
見たところ、歴戦の勇士とまではいかないが実戦経験はそれなりに持っているようだ。
「はっ!失礼ながら第六十六師団長閣下でありましょうか?」
張り切って訪ねる。
どれだけ不愉快な人物かは知らないが、社会人として第一印象くらいは良いものにしておかなければならない。
「ああそうだ。君の尻を拭くのが仕事の、哀れな上司さ。
さあ、本土防衛作戦も大陸反攻作戦もどうせ練り上げているんだろう?
君の部隊の編成図を見つつ話しあおうじゃないか」
ひねくれてはいるが、無能な人間ではないようだ。
そのような上司を得た幸運に感謝しつつ、俺は司令室へ新たな上官を案内した。
こういう人物を送ってよこすということは、少なくとも日本帝国本土防衛軍の主導権を握る立場の人々は俺を味方に引き入れたいらしいな。
2001年12月18日火曜日12:05 日本帝国新潟県佐渡市1-1 日本帝国本土防衛軍佐渡島基地 作戦司令室
その部屋は、俺が趣味の限りを尽くして建設した部屋だった。
まるで映画館のような巨大な施設。
簡略化された日本列島を映し出す巨大な主モニター。
そこには、無数の戦区(プロヴィンス)で分割された日本列島および大陸沿岸部が映し出されている。
日本海を警戒する艦隊。
佐渡島全域をパトロールする地上部隊。
表沙汰にできるレベルで状況を把握している帝国本土防衛軍各部隊。
国土交通省に頭を下げて情報を提供してもらっている民間船舶たち。
観客席に当たる部分には、無数のオペレーター席が設けられ、そして同じ顔をしたオペレーター達が次々と飛び込む情報を整理している。
横浜にも新潟にも作って、佐渡島にもこのような部屋を作る意味は全く存在しない。
いいだろ別に、こういうの俺の趣味なんだよ。
「なるほど、情報収集に不足はないようだな」
内心で誰かに弁解している俺の隣で、満足げに中将閣下が仰る。
同じ顔をしたオペレーターたちに不思議そうな視線を送り、副官一人しか従えていない戦闘団指揮官に目線を向けてくる。
「参謀がいない事は不可解だが、まあいい。
それで、私が率いるべき戦力はどれくらいいるのかね?」
当然という表情を浮かべて質問された。
まあ、それはそうだろう。
目の前の師団長閣下にとって、自分が率いるべき指揮下の戦力を、事実上の前任者である俺に確認することは当たり前の事だ。
「まずはじめに、妙な表現になることをお許しください」
表に出ている戦力について隠し立てをするつもりがない俺は、早速説明を始めた。
支援AIたちに命じ、主モニターに部隊編成図を出させる。
「現在我が師団は、戦術機甲師団を収容可能なアームズフォート、ああ、要するに陸上戦艦を基幹とした複数の軍団規模戦闘集団を保有しています。
連隊以下の部隊については後ほど報告書をお出しさせていただきますが、現状でこの島および新潟地域には、二個陸上艦隊および一個洋上艦隊、二十個師団が警戒に当たっています」
モニター上に各師団の現在位置が表示される。
日本帝国の総力よりもよほど多い数の戦力がいるという事実に、師団長が率いる参謀たちが色めき立つ。
ありえないだの素晴らしいこれで勝つるだの、好き勝手に口を開いている。
「まあ、編成表自体は後で読ませてもらうから大体で構わん。
現在貴官に与えられた任務は新潟県の防衛で合っているな?」
ああ、そういえば俺の任務はそういう内容だったな。
確かに新潟県の防衛という任務を果たしている。
最寄の敵軍拠点を攻め落とせば、確かに中長期的な意味で敵の攻撃を防ぐ事ができるからな。
「閣下の仰る通りであります。
新潟県を守るという大目標を達成するにあたり、出来る限りの事を行っております。
もちろん、畏れ多くも煌武院殿下より直々に賜った新潟県防衛担当者という職責の範囲内で、ですけれども」
いまいち目の前の人物の目的が分からない。
殿下には大変恐縮ながら、使わせてもらおう。
「防衛担当者だからといって、そこまで守りに入らなくてもよい」
中将閣下は目端を愉快そうに歪めつつそのように仰った。
少なくとも俺の部隊をうまいこと使って上に登っていこうというタイプではないようだな。
あるいは、おはようからおやすみまで全てにケチを付けて貶めていこうというわけでもなさそうだ。
「とりあえず、本土防衛に三個師団を貰う。
それとは別に、用途は秘密だが倍する戦力を維持できる物資を継続的に貰うよ」
瞬間的に沸騰しなかったのは、高効率訓練センターでの長い人生経験のおかげである。
人を試し、そして見るべき点がある人物を使っていく事のできる厄介な人種は、あえてこのような物言いをする事がある。
どこかに優しくナデナデしつつ好きなだけ甘やかせてくれる上官殿はいないものか。
「その見返りはあるのでしょうか?」
当然の質問である。
日本帝国軍の編成表に載っている以上、それは日本帝国の資産である。
だが、一方的な物言いで三個師団もの戦力とそれ以上の物資を引き抜く以上、それなりの見返りを貰わなければならない。
別に個人的に金銭的なメリットが欲しいわけではない。
今の段階で言いなりになっていると、今は少数、ゆくゆくはそれなりの人数になる人間の部下に迷惑がかかる。
おまけに俺の部隊の発言力まで下がってしまう。
欲しいならば一個軍団でも軍集団でも提供してみせるが、言われるがままというのはいけない。
「ごく普通の配置転換だよ君。
何故か君が来る前にはこんな部隊はいなかったはずなんだが、まあ、最前線を任せた部隊にちょっかいを出すわけにはいかないからな」
詳細な説明が嫌ならば部隊を派遣しろということか。
逆に言うならば、所属不明の大部隊の件についてはこれで不問にしてやるというわけだ。
ここはご好意に甘えておくべきだろう。
「直ちに派遣させます。
場所は北海道と九州ですね?」
言われるまでもなく、この日本でまとまった戦力が必要な前線などその二箇所しか無い。
以前にも師団を派遣していたが、どうやら本土防衛軍上層部は前線部隊の総点検を目論んでいるようだ。
新潟及び佐渡島の戦闘で能力を確認した俺の部隊を最前線に貼付け、その間に元々いた部隊を全部下げて補充するのだろう。
まあ、こちらとしては困る事はないし、本土防衛軍将兵の生存確率向上につながるむしろありがたい話だ。
喜んでお手伝いさせてもらおう。
結果として、前線部隊の総入れ替えは想像以上の効果を発揮した。
まず、果ての無い防衛戦闘で消耗していた人員機材の総点検が行えた。
次に、消耗品の消費量が激減したことにより、戦費や国家備蓄にすこしばかりながら余裕が生まれた。
そして、久々に招集が存在しない完全な休日を手に入れた将兵たちは、足早に全国の家族や恋人、友人たちの元へと帰ることができた。
それは終りの無い戦時の中で一服の清涼剤として国民感情に良い影響を与える。
のちに言われる「佐渡島ベビーブーム」である。
また、この時期は日本帝国中で一般消費が大きく伸び、壊滅状態の一歩先にあった国内の民間人向け産業を大きく潤す結果にもなる。
娯楽に飢え、使い道の無い給金を溜め込み、そして感情のタガが外れた軍人たちは大いに楽しみ、精神的な意味でも金銭的な意味でも国民たちに還元をしていた。
帝都を含む全国の主要都市では毎日のようにお祭り騒ぎが行われ、それ以外の市町村でも凱旋式という名目の宴会が催された。
その影では、大切な人を失った多くの人々による陰鬱な空気も存在している。
しかし、それは戦時ゆえに何時の世にもあるものであり、日本帝国としては十分な保障と万全のケア体制を整えつつも祝賀ムードに水を差すようなマネはしなかった。
2001年12月23日日曜日12:00 日本帝国 神奈川県 日本帝国本土防衛軍第六十六師団第8492戦闘団横浜基地
「どうぞお座りください」
日本中が連日のお祭り騒ぎに浮かれる中、やはり働き続けている人々がいる。
それは当然のことだ。
今日が休日ではない全ての公務員、労働者たちは、当然のことながら働き続けている。
のだが、さすがに今日は違った。
世間一般で言うところの日曜日。
それも、北海道・九州の合計三個師団が長期休暇をもらった最初の日曜日である。
定数的には二個師団ほどしかいないが、とにかくその破壊力は絶大であった。
帝都の主要な会場は全て本土防衛軍に貸し切られ、軍務についているものは全員無料で好きなだけ飲み食いができるという催しが行われている。
下は一兵卒から上は師団長まで、誰もが笑顔になり、家族や恋人とともに帝都観光を楽しんでいる。
「ありがとうございます。
いやはやしかし、この度の貴官の働きは、財務省としても勲章をお渡ししなければならないほどですな」
極めて遺憾なことに、俺もその働き続けている一人にカウントされている。
久々に横浜に帰還したこの日、俺は日本帝国財務省の事務次官と楽しいお話をしなければならないと決定されていた。
もちろん俺は休暇申請を出していたし、8492戦闘団は新たな上官殿が率いているはずだったし、どうせ実際は全て部下たちが実務を担当していた。
しかし、その新たな上官殿はお家の事情(彼女は所謂お武家様の長女をしている)で休暇を取っていたし、それにより俺の休暇は自動的に却下されていたし、人間との折衝は俺の担当だった。
「コーヒーでよろしいでしょうか?
それと、私の働きとは?帝国軍人として、国家のために戦うことは当然の事でございます」
帝国軍からつけられた従兵に目線で命じ、コーヒーを入れさせる。
彼は自然な動作で部屋の片隅に置かれたポットからコーヒーをカップへ注いでいく。
天然物だけが出すことのできる芳醇な香りが心地よい。
「これは良い物のようですね。懐かしい香りだ」
事務次官は香りを味わいつつ賞賛の言葉を漏らす。
この世界において、天然物の嗜好品は極めて高級である。
何しろ、日々の食料ですら合成されたものばかりなのだから当然だ。
しばしお互いに無言になり、コーヒーの味と香りを楽しむ。
「お互い本音でいきましょう」
カップを戻した事務次官は、俺の目を見て口を開いた。
「新潟から戻る部隊が持ってきた、謎の天然資源ですよ。
あれらは明らかに異常な数で、そしてその所有者は怪しいところだらけ」
8492戦闘団に後を任せ、元々駐屯していた帝国軍が新潟県から退去したのは随分と前になる。
彼らは、避難民たちを連れて後退している最中、不思議な現象に見舞われていた。
ガソリンを満載したタンクローリーの中隊。
所属部隊が書かれていない輸送車両の大隊。
様々な鉱物資源、天然資源を満載した連隊。
調べると、その総数は下手な輸送船団並であった。
金銭を支払ったとしても容易に入手することはできないこれらの物資は、8492戦闘団の調べによると、新潟県のとある有限会社のものだったらしい。
登記されている情報によると、その有限会社は“日ノ本太郎”なる戸籍のない人物が社長を努めており、従業員数は一名。
一度も法人税を払っておらず、これらの物資は法律上は国家が差し押さえなければならない事になっていた。
奇妙なことに、国税局の記録では、書類上はともかくこれだけの物資を入手できる会社相手に一度も督促をした形跡がなかった。
更に言えば、税関にはこれら大量の戦略物資を国内に入れた記録は残っていない。
しつこく言えば、今回押収された車両は、ナンバープレートが付けられておらず、一度も車検を通しておらず、そもそも製造されたメーカーすら不明だった。
そういった事情はさておき、官僚たちは大喜びでこれら物資を押収し、様々な用途に活用した。
だが、そのあまりに異常な事態に、国家の上層部は密かに裏の事情を探りだそうとしていたのだ。
「経済産業省や国家戦略資源庁の連中は大喜びでしたが、私たちとしてはそれだけで済ませるわけにもいきません。
電子情報の上にしか存在しない、関連情報が一切存在しない会社。
どうやってそれを成したかは不問にしておきますが、あれは貴方の命令で作られたものですね?」
見事にバレている。
だが、俺の心に焦りはない。
彼に同行している官僚が国税局の徴税官でない限りは、であるが。
「それは、何か物的証拠に基づいたお話なのでしょうか?」
型通りの質問をしておく。
今後の立場を考えると、訪ねられるのを待っていたと素直に言うわけにもいかないのだ。
「残念ながら、まるで初めから存在していなかったのように一切の物的証拠はありません。
疎開先を当たりましたが目撃証言は無し。
帝国軍の報告書にも、転進中に発見したとしか記載はない。
会社の登記に関る経緯は不明ですし、日ノ本太郎なる人物は過去に存在していた痕跡すらありません」
それはそうだ。
物資や車両については、事前に周囲を索敵し、人の目の無いところに送り出している。
会社の登記についてはこの世界の人々には想像もできない技術を用いているし、日ノ本太郎という明らかな偽名は書類欄を埋めるために二秒で考えた偽名だ。
「そうなりますと、どういった根拠をお持ちなのでしょうか?」
別に今すぐ降参して話を進めてもいいのだが、思い至った理由に興味がある。
何しろ、相手は事務次官級をいきなり出してきたのだ。
通常、腹の探り合いは下っ端から始まる。
徐々に情報の精度を高め、要望を見定め、双方の合意点を見つけ出し、そして上役を出して合意に至るのだ。
ただでさえ気位の高い、それも財務省の、あろう事か事務次官がいきなりやって来ることなど通常ではありえない。
おまけに、やってきて何を言い出すかと思えば名推理披露である。
目の前の人物は、確かにそれをやりたいと思えば実現できるだけの権力を持っているが、それほど暇ではない。
「一連の不可解な現象の背後には、あるひとつの組織がいつもおりました。
新潟県の防衛を引き継いだ8492戦闘団が現れる以前には、このような事は日本帝国の歴史上一回も起きていません」
それはそうだ。
どうやっているのかは知らないが、俺の前任者たちは全て並行世界のBETA大戦を戦っていたようだし、こんなチート野郎が何人もいてもらっては困る。
「急な撤退は本土防衛軍上層部から出てきた話のようですが、それを指揮するのは8492戦闘団です。
そして、これは治安に関わるある官僚から聞いた話ですが、新潟県全域は、貴方がたの高度な監視体制の中に置かれているそうですね。
合衆国特殊部隊全員の動静を報告書にまとめる事ができるぐらいに」
官僚同士の横の繋がりというやつか。
その事で騒ぎ立てるつもりが無い様子から見ると、少なくとも頭の固い主義者ではないようだ。
「その8492戦闘団は、この件についてとりあえずの報告書しか提出していない。
そして、先程は物資が湧いて出る現象は歴史上一回も起きていませんと申しましたが、貴方がたが出現した後は毎日のように発生しています」
国連軍以外で、できれば日本国内から、この相関関係をあえて突っ込んでくれる人物を待っていた。
下手に煌武院殿下と接触をしてしまった関係から、俺を取り巻く政治的状況はかなり難しいものとなってしまっている。
政治家、官僚、企業、その他政治思想や主義心情。
様々な関係が絡み合い、誰もが手を出してはならないという不文律が生まれている。
本当ならば、俺には思いつかないこの世界ならではの方法で、今後の世界情勢を予測しつつ日本帝国を支援したかったのに、それができない。
上から命じるのではダメなのだ、あくまでも、政府内、できれば官僚から接触してもらわなくては、官僚たちの本気の支援を受けることができなくなってしまう。
「この横浜基地、新潟基地、関越高速鉄道線、疎開地に日々送られる物資、帝国軍を騒がす新技術の山、新潟防衛戦の奇跡、佐渡島奪還。
いつの間にこれらの施設が建設されたのか?物資はどこからやってくるのか?技術は誰が考えついたのか?BETAを押し出した戦力はどこから?
8492、8492、8492。
ありえない事が起きた時、背後にはいつも同じ組織、正確には貴方がいます」
まあ、あくまでも私の妄想に過ぎないといえば、そうなんですけどね。
最後にそう呟くと、事務次官は苦笑しつつコーヒーを飲み干す。
待機していた従兵がすかさずお代わりを注ぐ。
彼は着任の翌日に高効率訓練センターに二日間ほど放り込み、完全にその背後関係および様々な状況を確認の上で同志になってもらっている。
そうでなければ、洗脳もしていない生身の人間を俺のそばに置くわけにはいかない。
「ご賢察のとおりです。
さて、私は何をすればよろしいのでしょうか?何でも、というわけには当然いきませんが」
本題である。
さすがに名推理を聞いて欲しかったわけではないだろう。
「平たく言えば、今後も支援を続けてください。
特に、疎開地と青森の重工業地帯建設を、ですね」
要するに、金なわけだ。
日本帝国は世界中から支援を受けて対BETA戦を戦っている。
しかし、友好価格であったとしても、大小の差はあっても資源の購入には金がかかる。
あるいは、軍隊の動員にもやはり金が必要だ。
全てをこちらに任せて軍を解体する事はありえないにしても、臨戦態勢と休暇配置では必要とされる金額に桁の違いがある。
そして、戦争による大量消費に特化した経済は、それが勝ち目のある、終りがある程度予測できる戦争においてのみ利益を生み出す。
終りの見えない絶滅戦争など、資金切れか資源切れを待つだけの消極的な自殺に過ぎない。
そして避難民たち。
非人道的と罵られてしまうかもしれないが、とにかく彼らは金がかかる。
用地取得、インフラ整備、生活の保護、仕事の用意。
国の命令で生活を奪われた彼らは、国の金で全てでは無いにしろいくらかを返さなくてはならない。
日本帝国は、もうこれらを継続して実施する余裕はないのだ。
「本土防衛軍からも継続せよとの命令が出ています。
そして、拡張する余裕はありますが、やめるつもりはありません。
このような回答でご満足いただけますでしょうか?」
俺の言葉に目の前の二人は目に見えて安堵の様子を見せる。
「物資を用意できる仕組みはよくわかりません。ご説明頂く必要もありません。
ですが、未曾有の国難において、それでもなお国内外の情勢を視野に入れての貴官の行動は、大変にありがたいものです。
今後も本土防衛軍上層部から物資の融通などの要望が入る事があるかもしれませんが、その際には宜しくお取り計らいをお願いします」
なるほど。
俺はようやくカラクリが見えた。
何故、佐渡島奪還作戦のクソ忙しい戦闘の最中にトイレットペーパーの配給依頼が来たのか。
どうして、本土防衛軍は俺に物資を寄越せと言ってきたのか。
もっといえば、どうして増援と物資を提供する事が、余計な追求を黙らせる事につなげられたのか。
バラバラに見ると意味の分からないこれらの事は、全部、目の前の事務次官殿につながっていたのだろう。
こちらに余裕が無い時を見計らって最初の要望を出し、ズルズルとこちらの能力把握を続けていく。
いやはや、俺もまだまだ青いな。
「ところで」
納得が行って俺が思わず笑みを浮かべた所で、これまで沈黙していたもう一人の官僚が口を開いた。
国家戦略資源庁の鈴木と申します。
見たところ、名誉除隊でもしたのだろう、顔面に大きな傷を持ち、右手と左足が古いタイプの擬似生体らしい彼は、笑みらしいものを顔に浮かべて続けた。
「先に頂いた多数の戦略物資ですが、あれは適切な方法が見つけられればさらに入手可能と言うことなのでしょうか?
それとも、さすがにあれで打ち止めなのですか?」
なるほどなるほど、交渉事で無駄にしている時間はもう無いわけだな。
単刀直入にもほどがあるが、いいだろう。
「そうですね、誰にも迷惑がかからないのであれば、こちらとしても気を使う必要がなくなりますから」
この場での回答としてはこれで十分だろう。
資源国が損害を被るような形を取ってはならない。
それは、彼らからの憎悪を産み、際限のない妨害工作へと繋がる。
「わかりました。それでは各国に与える影響を加味した上で、何らかの方策をご提案させていただきます。
その際には、何卒よろしくお願いいたします」
着席したままではあるが、深々と頭を下げられる。
「帝国のため、人類のためです。
ご提案をお待ち申し上げております」
お互いに頭を下げ合うという何とも日本的な光景ではあったが、とにかくこれで話は先に進むことができる。
俺の頭の中では、立場を捨ててここへ来てくれた事務次官への感謝で一杯だった。
だが、ここで空気を壊してしまうのは大変に遺憾だが、もう一つだけ聞くべきことがあった。
「あの、事務次官殿」
二杯目のコーヒーに口を付けていた彼は、こちらを不思議そうに見てきた。
「どうして、我が方の継続的な物資供給能力については訪ねられないのですか?」
俺の質問に、彼は柔和な笑みを浮かべて答えてくれた。
「簡単なことです。貴方が今までに提供してくれたすべての物資と観測出来ているだけの部隊。
これらは、貴方と国連軍が保有している土地全てに地下施設があったとしても、容積的に誰にも気づかれずに収めておく事は不可能であると判断しています。
つまり、備蓄のみではないのならば、何らかの手段で生産していることになります。
そして、少なくとも日本帝国が把握することができる範囲内では、貴方は何一つとして物品を購入したことはない。
以上のことから、我々は安定供給には問題はないだろうと予測していました」
まったく、官僚という生き物は凄い。
ここへ来る前に、無駄な問答がなくてもいいように入念に下調べをしていたようだ。
話が決まった後は早い。
折角の休日に申し訳ありません。いえいえお気遣いなく。
今度ゴルフでもいかがですか?国防産業協会の方々とも是非一度お会いいただきたいですし。
それではゴルフ代はこちらがお出しさせていただきますよ。いやいや、元々私はタダでやらせてもらっておりますからお気遣いなく。
なんともそれはうらやましい。
などと大人の事情満載の会話をしつつ、事務次官と鈴木は帰っていった。
「さて、と」
従兵も追い出し、俺は執務室の中でパソコンと向き合った。
楽しみにしていたレベルアップタイムだ。
前回はコマンダーレベルが11で、パイロットレベルは9、プラント発展度は5だったが、どうなってしまったのだろうか?
早速俺のステータス画面を呼び出すと、想像以上の結果が待っていた。
まず、コマンダーレベルは15になっていた。
前回は新潟防衛で7から11に上がっていたので、苦労の割に上昇度は少ない。
しかし、これはまあレベルが上がれば上がるほど経験値が必要になるということで納得がいく。
例によってさらに多くの技術や施設が作れるようになったらしい。
これは兵器のデザインをするにあたって、もっと強力な物を生み出せる事を意味している。
BETAの進化を促さないためにも余りに現状から乖離した物は駄目だが、それでもありがたい。
施設については、宙対地兵器であるイオンキャノンが使用可能になったようだ。
衛星軌道から打ち出されるイオンらしいよく分からないレーザーのようなもの。
それは、着弾と同時に周囲の全てを吹き飛ばし、焼き尽くす。
地球環境に与える影響は怖いが、レーザー種による迎撃が一切不可能という事がありがたい。
今回は宇宙祭りのようで、スペースコロニーや軌道ステーション、懐かしのAC3SLに出てきた対地攻撃衛星もある。
さらにさらに、アルテミスの首飾りこと対宇宙軌道迎撃衛星も作れるようだ。
これで地球内外に好き放題攻撃できるな。
まあ、衛星軌道にBETAが反撃できるようになると人類終了のお知らせなので、対地の方は最終決戦まで自重しなければならないが。
「ありがたく受け取っておくとして、パイロットの方はどうかね?」
独り言を呟きつつ、パイロットレベルを確認する。
「!?」
声にならない悲鳴を上げてしまったが、無理もないだろう。
9からいきなり21だぞ。
確かに辛く長い戦闘だったが、まさかこれほどとは。
「オーケイ。落ち着け、落ち着いた」
前回は人間を辞めているような結果となったが、今回も酷い事になるのだろう。
アハハ、ほーら、12.7mm弾が効かないってさ。
戦闘力5か、ゴミめってレベルじゃねーぞ。あれはショットガンだっけ?
所持ポイントは50万?ああ、そりゃまあ、レベル一杯上がったもんね。
それになぁにこれぇ?スキルレベルアップ?バカなの?死ねないの俺?
「オーケイ。落ち着けないな俺」
取り乱してしまったが、とにかく俺はいくつものスキルを新規に習得し、さらに既存のスキルも上昇していた。
しかしまあ、こんなことで驚いている暇はない。
大量に回収され、今も回収され続けているBETAたちのおかげで、プラント発展度とクレートの備蓄が凄いことになっている。
プラント発展度は5から11へ上昇し、おかげで生産に必要なクレート量は20%になっている。
これはもう、なんと言ったら良いかわからないが、とにかく凄い。
クレートの備蓄はまあ、あれだけのBETAを倒したのだから凄くはあるが不思議ではない。
BETAもチートを使う事を考えると、今までのように何も考えずに使うわけにはいかないが、使い道を見つけてやれば大きな効果を産むだろう。
そのあたりは、今日できた官僚たちとの繋がりをうまく利用していかなければならないな。
第18次BETA殲滅作戦途中経過
2001年12月23日日曜日 13:07:11
コマンダーレベル:11→15
NEW! 新しい技術が選択可能になりました
NEW! 新しい施設が選択可能になりました
パイロットレベル:9→21
NEW! にんげんせんしゃ Lv2→3
あなたは12.7mm弾までの攻撃に対して無傷で耐える事ができます。
発射距離、使用弾種、使用した銃の違いは関係ありません。
NEW! ニュータイプ Lv3→6
見えます。あなたには敵の動きが手に取るように見えます。
後頭部と頭上と足の裏にも目があるようなものです。
注:肉体の反応速度を上回る動作ができるわけではありません。脳波操縦デバイスの使用を推奨します。
NEW! ケミカルマスター Lv1→2
耐性が向上し、化学変化にも耐えることができます。
それでは恒星間移民船の動作中のエンジンノズルを見に行きましょう!生身で。
注:要塞級の溶解液には耐えられません。
注:無酸素には耐えられません。宇宙に出る際は宇宙服を着用ください。
NEW! 365日働けますか? Lv1→2
もう休む必要はありません。
さあ、終りの見えない戦いに向かいましょう!
注:あなたの精神には適応されません。気を強く持ってください。
NEW! 岩男 Lv1→2
物理的衝撃は貴方には無意味です。
ド○ゴンボールの世界をあなたに。
注:BETAの攻撃には耐えられません。
注:耐えるのはあなたの肉体だけです。所持品及び激突する対象には適応されません。
NEW! 突撃スナイパー Lv1
攻撃の種類に意味はありません。
あなたにとってはどれも同じだけこなす事ができます。
注:白兵戦闘には
NEW! Strong Back Lv1
さあ1tブロックを持ち上げては下ろす作業を始めましょう。
あなたは1tまでの物質を1kg程度の感覚で持ち運び可能です。
注:1,001kg以上の物へは適応されません。落下物を受け止める際にはご注意ください。
NEW! Mysterious Stranger Lv1
あなたは個人的な守護天使(各種特殊弾を装填したPfeifer Zeliskaを持っています)の加護を受けられます。
V.A.T.S.モードで時々現れて、援護射撃を行ってくれます。
注:あくまでも通常の小火器です。戦車級以上のBETAにはほぼ無効と思われます。
NEW! Action Boy Lv1→2
V.A.T.S使用時のアクションポイントが50追加されます。
気が済むまで俺Tueeeしてください。
NEW! Grim Reaper's Sprint Lv1
V.A.T.Sを使って何かを始末すれば、あなたのアクションポイントは最大まで回復します。
さあ戦場を駆け抜けましょう。あなたを止められる相手はもういません。
プラント発展度 :5→11
NEW! 兵器レベル11までの装備が製造可能になりました
NEW! 生産に必要なクレート量が20%に減りました
現在所持ポイント:0 → 500,000
クレート数 :8,001,001t → 101,009,981t