2001年11月12日月曜日 15:36 日本帝国 神奈川県 国連軍横浜基地 第三会議室
「ありのままに起こった事を言うぜ。
俺は帝国軍の将軍たちに査問会から救い出されたと思ったら、帝国本土防衛軍少将の階級章を渡されていた。
おまけにモニターの向こうには柔らかに微笑む政威大将軍殿下がいらっしゃる。
斯衛軍大佐の階級も頂けるそうだ。
おまけに技術研究本部名誉顧問だの帝都名誉市民と新潟名誉市民と勲二等も賜れるとの事。
贈り物で心を繋ぎ止めるってレベルじゃねーぞ」
別に勲章がほしくてこの世界にやってきたわけではないのだが、もらえる物は素直に貰っておく。
日本帝国の中で好きにやるためには、それなりの地位と名誉がある事はプラスに働くからな。
「我が国からの贈り物は気に入って頂けましたか?」
柔らかに微笑んでいるが、その目は少しも笑っていない。
決して口には出さないが、本人としては不本意なのだろう。
俺に対して様々なものを授与する事ではなく、それによって帝国に露骨に縛りつけようとする事がだ。
「謹んで拝命いたします。
しかし、私には国連軍軍人としての立場もあるはずなのですが?」
名誉階級ならばまだしも、正規の階級を二重に持つことが許されるとは到底思えない。
「国連軍からは、貴方を准将として迎えたいという要望が来ています。
しかし、顔写真以外の人事情報はなく、まずは入隊の手続きが必要だとか。
特例ではありますが、本土防衛軍では上官の許可が得られれば兼業が認められる事になりました。
新潟地区防衛担当者としての責務を全うして頂ければ、それ以外の活動を妨げるつもりはありません」
強引ではあるが、こちらとしては願ったり叶ったりだな。
ん?防衛担当者?
「あのう、防衛担当者とは具体的には何をする職務なのでしょうか?」
新潟の防衛担当者とは、職務名からして死亡フラグ満載だな。
BETAの巣を眺めつつ、海岸線陣地で銃を担いで悠々自適なスローライフとは随分とバラ色の未来予想図だ。
「読んで字の通りです。
貴方の持つその優れた軍事組織と科学技術、そして大量のBETAを前にして慎重かつ繊細な作戦行動を実施できる才能。
今の日本には、全てが必要です。
それらを、帝国のために貸しては下さいませんか?」
非常にありがたい申し出だ。
帝国だけを助けることが目的ではないが、大目標達成のためには、日本帝国の存続と発展は不可欠である。
「拝命いたします。
必ずや、新潟地区の安定と、防衛を成し遂げましょう」
別に傲慢な気持ちを持っているつもりはなかったのだが、後に聞いたところでは、その回答は不敬なほどに自信満々なものだったそうだ。
その後は大変忙しかった。
会議が終了するなり帝国軍の法務将校や技術士官や需品課の人間が押し寄せ、任官手続きや技術支援要請や制服の採寸が行われる。
ようやく終わったと一息をつく間もなく、今度は一連の作戦で俺に感謝を述べたいという中隊規模の指揮官が押し寄せ、会議室を占拠したまま戦勝祝賀会が開始される。
夜も更け、ようやくの事すべてから開放されたと思った矢先に、今度は秘蔵の品らしい日本酒を持った香月博士がやってきた。
もうどうにでもなれと二次会が始まり、結局のところ自分の基地に戻る事が出来たのは翌日の昼ごろだった。
2001年11月24日月曜日 09:00 日本帝国 新潟県新潟市秋葉区新郷屋 日本帝国本土防衛軍第8492戦闘団新潟基地
「こちらは新潟基地、定時報告、異常なし」
非常に手短な報告を送る。
本日の新潟県新潟市の気温は10℃。
風はなく、雲量はゼロ、大気は乾燥しており、絶好の砲撃日和だった。
別に砲撃をする予定は無いのだがな。
「第三要塞建設開始、第一および第二要塞は全ての戦闘準備を完了しました。
第二戦術機甲師団は第三師団と交代、定期メンテナンスに入ります」
「関越高速鉄道線の建設完了、現在工兵車両が最終点検を行っています」
「海岸地雷原の構築完了。以後、一時間おきに機雷と地雷の増設を実施します」
「第四戦術機甲師団の編成完了、次回のローテーションより作戦行動に参加します」
「第二十八難民キャンプの設営完了。新潟県への引渡しに入ります」
「市内各所のインフラ復旧率は現在61%になりました。
現在のところ進捗に遅れは無し」
赤い服を着た女性型アンドロイドたちが報告を続ける。
部隊規模が大きくなりすぎた事もあり、指揮官先頭という特権を諦めざるを得なかった俺がクレートから作成した人々だ。
彼女たちは増殖を続ける我が部隊が担当している地域の情報を管理し、定められた計画通りになる様に指示を出している。
「閣下、外線二番に新潟市長代行です。
支援要請を行いたいとのことです」
はて、新潟市民には十分な警護を提供していたはずだが、何か不足があったのだろうか。
相手の本題が予想できないが、とにかく出てみる事にしよう。
「はい、こちらは8492戦闘団指揮官です」
「新潟市長代行です。いつもお世話になっております」
鉄道を建設し、道路を引き、十分な警護を派遣する。
軍隊として十分な事をしていたはずだ。
インフラ整備をこちら持ちで実行しており、さらに目に見える位置に一個戦術機甲連隊および三個機械化戦闘工兵大隊が常に張り付いている。
これで不安だといわれたのでは、無理なローテーションをあえて組んでいる意味が無い。
「何か、ご要望があるとか?」
「はい、現在の時点でも私たち新潟市民は他の帝国臣民ではありえないほどの厚遇を受けている事は十分に承知しております。
これは戦闘団指揮官閣下のご好意に他ならず、私たち市役所職員一同は感謝の言葉をいくら申し上げても足りないほどです。
しかしながら昨今の情勢を鑑みるに、日本帝国政府は、私たち最前線の民間人に十分な食料を供給し続ける事は容易であるとは言いがたい状況である事は否定できない事実です。
現在の新潟市は十分な行政サービスを独力ですべての市民に提供する事は難しく、税収の不足からそれを金銭で解決する事も困難である事は否定できません」
市長代行は、難しい表現で食料が足りない事をこちらに伝えてきた。
このような言葉遊びに近い表現はやめてもらいたい。
本題を簡潔に伝えてもらう事はできないのだろうか。
あくまでも真面目な表情を浮かべつつ、俺は無言で先を促した。
「かような状況において、国土防衛のために日夜命を賭けておられる指揮官閣下にこんな事をお願いする事はとても失礼である事は重々承知しております。
ですが、避難所にいる市民たちへ、生存に必要な栄養や医療を提供する事は日々困難さを増しております。
世界中が厳しい状況である事はもちろん承知の上で、あえて我侭を申し上げさせて頂きます。
どうか、可能な量だけで構いません。
哀れな新潟市民たちのために、帝国軍の物資を少しでも分けていただくことは出来ませんでしょうか?」
ようやくの事で本題が出てきた。
市民に提供する物資が不足しているので、支援が必要だという事か。
まったく考えが不足していた。
インフラを整えればそれで他の者が解決してくれるだろうと考えてしまったとは。
「市長代行殿、貴方は市民を大切に思う心をお持ちのようだ。
ご要望には全てお答えさせて頂きましょう。
必要な事をリストにして、当司令部に送ってください。
あとは、こちらで適切に処理します。
他に何か必要なものはありますか?」
公務員とはこうでなくてはいけない。
しかし、困り果てて帝国軍に連絡を入れてくるほどに困窮していたとは知らなかった。
この世界では何もかもが不足しているという認識が足りていなかったようだな。
「市民たちが生き残れ、そして自らの意思で立ち上がろうと判断できるだけの時間を与えて頂けるならば、他に何もいりません。
リストは早急に用意させます。
いえ、実際にはあるのですが、精査のうえで提出させて頂きます。
戦闘団指揮官閣下。本日はお忙しい中お時間を割いていただきまことに有り難うございます」
衣擦れの音が微かに聞こえる。
どうやら、新潟市長代行殿は電話の向こうで頭を下げたようだ。
「今後はもっと砕けた表現の話し方でも一向に構いませんよ。
自分は立場的には確かに貴方の上に置かれているかもしれませんが、年齢的には下です。
そのような場合、もっと親しい話し方、直接的な表現をしていただくことが可能なはずだと自分は信じます。
本日は貴重な意見を賜り誠に有り難うございました。
失礼します」
電話を切り、指揮所のモニターを見る。
俺の脳内の変化を感知したシステムが、難民キャンプごとの食料割り当てや医薬品の保管状況を表示している。
そこには、シミュレーターでいかに訓練をつもうとも、人間はその本来の能力以上の働きを直ぐにできるわけではないという結果が現れていた。
つまり、思いつく範囲の全てを用意したにもかかわらず、実際には実際には全く不足しているという現実だ。
「プラント管理部隊に食料および医薬品の増産を指示。
最低でも現在のキャンプが全て維持できる規模の物資を用意しろ。
ああ、もちろん配給のための部隊もな」
間違いは素直に認め、そして速やかに改善しなければならない。
リストは当然ながら到着していないが、相当な量を用意させた。
必要な分は当然ながら送らなければならないが、別にあまるほど送りつけても構わんだろう。
他の部隊が聞いたら激怒しそうな事を内心で呟きつつ、俺は指揮を続けた。
時間稼ぎのための第十要塞が完成し、既設の分も合わせて十六個師団体制が整うまでは、心を休める時間は無い。
「第二後方支援大隊完成、増産分の物資を直ちに配給します。
以後の管制は指揮所第三分隊が担当、問題が発生次第報告します」
チート万歳だ。
俺には日本帝国臣民たちが必要とする物資および軍備をいくらでも供給できるだけの用意がある。
先日押し寄せたBETAの軍団がそれを可能にしてくれた。
おまけにコマンダーレベルは7から11に、パイロットレベルは7から9にあがった。
未だに回収され続けるBETAたちの協力により、プラント発展レベルを3から5まで上昇している。
レベルアップに伴うボーナスポイントはなんと15万ポイントにも達している。
コマンダーレベルの上昇は使用可能な兵器の幅を大幅に増やし、パイロットレベルの上昇は俺の戦闘能力を増大させた。
これにより俺は人間を止める事になった。
皮膚は5.56mmライフル弾を受け止め、ニュータイプ並の未来予知・反射ができる。
青酸カリを始めとする各種毒物についても耐性が付き、胃に入るだけの量を一気飲みしたとしても満腹感以外には何も無い。
おまけに、最低でも四十時間の連続した戦闘行動が可能なだけのスタミナを身に付けている。
この場合の戦闘行動とは、戦術機に乗って圧倒的多数のBETAたち相手に蹂躙戦を実施するというものだ。
どれ一つとっても凄まじい事なのだが、残念なことに今後最前線に出る予定は無い俺にとっては不要なスキルである。
それよりも嬉しいのは、プラント発展レベルの上昇によって可能になった要素である。
ひとつは、コマンダーレベル上昇による制限解除で可能になった航空機・艦艇・宇宙機の製造である。
今まではボーナスポイントでしか入手できなかったこれらの兵器が、今後はプラントで製造可能になる。
前線での航空機の運用はどちらにせよ不可能だが、『やらない』と『できない』の間には越えることの出来ない壁がある。
少なくとも現在確認されているルール上では元の世界に帰還することは不可能であり、それならば戦後を見据えておく事は重要だ。
艦艇については、出番はいくらでもある。
戦闘艦による攻撃、輸送艦艇による上陸支援・物資の輸送。
宇宙機の製造に至っては、無限の可能性を秘めている。
つまり、日本帝国は無料で好きなだけの軍事衛星やステーション、あるいは対地攻撃兵装を打ち上げることが出来るのだ。
衛星軌道から降り注ぐ無数の質量兵器の雨。
もし実際に目にすることが出来たとすれば、それはさぞかし美しい情景だろう。
軌道降下兵団によるハイブへの突入は有効であることがこの世界では実証済みなのだから、その規模を果てしなく巨大化させればきっと大きな意味を持たせることができるに違いない。
話がそれてしまったが、二つ目はプラント発展レベル上昇による生産に必要なクレート量の50%カットボーナスだ。
読んで字の通りの効果だが、その重要度は字面から読み取る事のできない人間がいないほどに大変大きい。
100万トンの弾薬を用意した場合、消費されるクレートは50万トン。
1000万トンならば消費量は500万トンである。
これだけの弾薬があれば、ハイブ相手に気が済むまで砲弾を叩き込むことが出来る。
別に弾薬ではなく、食料や医薬品、資源やその他物資などなんでもいい。
戦術機やG.E.S.Uたちでもいい。
物量とは、力である。
いくら撃破されようとも無限に押し寄せる戦術機を用意できれば、こちらは必ず勝利できる。
「直ちに戦術機揚陸艦の増産に入れ、俺は今からデザインルームに入る。
何かあったら直ぐに呼び出してくれ」
オペレーターたちにそう告げると、俺は新設のデザインルームに向けて足を進めた。
デザインルームとは、先の戦闘中に明らかになった兵器のカスタマイズ機能をより効率的に実施するための部屋だ。
この部屋には高性能な演算室が併設されており、メモリ空間上に様々な演算結果を電子的に表現することが出来る。
2001年11月12日月曜日 23:50 日本帝国 神奈川県 国連軍横浜基地 デザインルーム
「やはりレールガンなのだろうか」
その部屋の中心で、俺は一人苦笑しつつ演算結果を眺めていた。
連発式レールガンというよりもレールマシンガンとでも呼ぶべきそれが、具体的に形に出来るレベルまで達しようとしているのだ。
まったく、チートにも限度というものがある。
このチート兵器の最大の特徴は、従来の兵装に比べて格段に強力でありながら、ドライバソフトのインストールにより、既存の戦術機でも運用可能になることだ。
動力系統を独立させられたという事実がそれを実現している。
保持の姿勢は機体によって異なるが、それくらいは大目に見てもらいたい。
別ウィンドウに広げられている戦車や艦艇、無人兵器を横目で見つつ、次に何をデザインするかを考える。
想定環境の優先順位からすれば、本土防衛、佐渡島への強襲上陸、桜花作戦への支援となる。
本土防衛については第一段階を陣地、第二段階を要塞、第三段階を陸上機動部隊として考えており、その準備が進められている。
先の戦闘により新潟県の防衛体制は我が部隊に完全に依存しきっているもののため、既に貼り付け部隊がいるほかの地方とは違い、好きなように物事を考えられる。
そのおかげで、新潟西岸の防衛体制の構築は俺の思うがままだ。
「こんな時間まで良くやるわね」
不意に声をかけられ、俺は素早く振り返った。
このような口調で俺に話しかける女性は多くは無い。
「これはこれは香月博士。夜分遅くの訪問とは、何か不手際でもありましたでしょうか?」
彼女はこの基地への進入に特別な許可が必要ない一人だ。
しかし、こんな時間に訪問とは何かあったのだろうか。
「ちょっと煮詰まっているのよ。
それで新潟の天才さんに相談してみようかなと思ったワケ。
まぁ、気まぐれよ」
気まぐれで護衛の中隊を引き連れてやってこないで欲しいものだが、彼女の立場からすれば仕方がない。
煮詰まっているという事は、やはり00ユニット関連だろうか。
どうでもいいのだが、俺は天才でもなんでもないただのチート野郎なんだがね。
「例えばさ、やってもやらなくても後悔しそうな時、アンタならどうする?
それが取り返しのつかない事っていう前提でいいわよ」
白銀に鑑の事を正直に話すということだろうか。
それとも、彼女および彼女に同意する帝国上層部では俺を庇いきれなくなってきたのだろうか。
「ああ、アンタの事じゃないわよ。
既に帝国は8492戦闘団を切り捨てるという選択肢は選べなくなっているわ。
胸を張って、そして完璧に、期待にこたえなさい」
内心の不安が顔に出ていたのだろうか、安心させるような優しい口調と表情でそう言われた。
はて、彼女はこのような言葉を口にするキャラクターだったか?
「ありがとうございます。
最初の質問についてですが、どうせならば前を向いて後悔したいですね。
やるのではなかったという後悔は経験の蓄積も含む前向きな後悔ですが、やるべきだったと後悔する事には何も得られません」
俺の言葉に、香月博士はしばらく考えるような表情を浮かべていた。
よほど思いつめていたらしい。
考えてみれば、気まぐれな人物だったとしても、深夜に護衛を引き連れて横浜から新潟まで来る事はそうそう出来る事ではない。
「やらずに後悔するよりもやって後悔する方がマシか。
やっぱりそうなるわよね。
それはそれとして、さっきアンタ独り言でレールガンがどうとか言っていたわよね。
詳しく、聞かせてもらえるかしら」
やれやれ、独り言とはいえ余計な事を言ってしまったかもしれないな。
内心でぼやきつつ、俺は連射式レールガンについての解説を開始した。
第18次BETA殲滅作戦途中経過
2001年11月12日月曜日 23:51:10
コマンダーレベル:7→11
NEW!新しい技術が選択可能になりました
NEW!新しい施設が選択可能になりました
NEW!航空機・艦艇・宇宙機の制限が解除されました
パイロットレベル:7→9
NEW!小火器までの攻撃に耐えられるようになりました
あなたは5.56mm弾までの攻撃に対して無傷で耐える事ができます
銃の種類は問いません
NEW!化学物質に対する耐性がつきました
物質の種類は問いません
なお、生存のために医薬品は適応外となります
NEW!人間離れしたスタミナを手に入れました
貴方は常人を遥かに超えた時間の戦闘が可能です
プラント発展度 :3→5
NEW!兵器レベル4までの装備が製造可能になりました
NEW!兵器レベル5までの装備が製造可能になりました
NEW!製造に必要なクレート量が50%に減りました
NEW!新たな戦力使用可能
現在所持ポイント:150,000
クレート数 :8,509,753t