2001年11月06日火曜日 10:29 日本帝国 新潟県第十五防衛ライン 海岸防衛陣地
「こちらは国連軍第8492戦闘団、コールサイングラーバク01だ」
縦横無尽に暴れまわるリンクスたちに遅れること三十秒。
ようやく到着した俺は、今更感はあるが宣言した。
<<8492戦闘団?司令部が言っていた連中か、ありがたい>>
片腕がない不知火から通信が送られてくる。
コールサインを確認するとパドル01らしい。
なるほど、我々が最後に救援に向かった部隊だというのに隊長機が生き残っているようだ。
<<中隊長殿、救援ですよね?助かるんですよね?>>
よほど手ひどく叩かれたらしい撃震が会話に割り込んでくる。
どうやら精神をやられているようだ。
声に抑揚がない。
出撃。帰還。補給。出撃。帰還。補給。そしてまた出撃。
こちらこそ脳がどうにかなりそうな長い時間だった。
目標をセンターに入れてスイッチ。目標がセンター付近でスイッチ。目標がセンターに入らなくてもスイッチ。
もう僕は疲れたよ。
ゴールしてもいいよね。
だが、目の前の残骸に取り残された衛士はそれどころではない。
「そこの衛士、まだ油断するな。気を抜かずに救出を待て」
こっちもゴールしたいが、大破した撃震の残骸から出られない衛士は精神科医がいない場所で安心させてはいけないだろう。
ここに来るまでの間、不用意に安心させたせいで発狂したり息絶えた衛士を随分と見てきた。
おかげでこちらは一端の部隊指揮官を演じる事が出来るようになってしまった。
<<り、了解。待機します>>
予想以上に厳しい声が出ていたようだ。
撃震のパイロットは慌てて答え、以後一言も発しようとしない。
<<手間をかけた>>
秘匿回線で中隊長が呼びかけてくる。
精神が限界を迎えようとしている部下に難儀していたのだろう。
<<14師団の司令部からの情報を信じると、ここの戦闘でおしまいなのか?>>
中隊長からの問いには、疲れきった笑みで、だが自信を持って答えることが出来る。
第14師団司令部はよほど有能な集団らしい。
彼らは壊走する第12師団残存兵力と我々をうまく連携させ、反撃開始時間を大幅に繰り上げたのだ。
損害を受けた六つの中隊を合流させて臨時編成の増強中隊を三つからなる戦術機甲大隊を作り、そこへ師団予備兵力の一個戦術機甲大隊を合流させたのだ。
この二つの大隊は、我々が師団の要請に応じて引きずり回したBETAたちを効率的に狩っていき、安全なエリアを次々に確立した。
作戦は我々のプラントとG.E.S.Uを最大限に活用する事によって無停止攻撃の連続となり、結果として敵中に取り残されたはずのこの中隊への支援が可能となった。
「ええ、これでおしまいですよ。既に内陸部では後始末が始まっています」
別のモニターにはリンクスたちの激闘が映し出されている。
押し寄せるBETA残存兵力に対し、有澤社長の弾幕射撃が襲い掛かる。
弾幕といっても、無数に放たれる砲弾一つ一つが目標を狙って飛来している。
リンクスたちにとって、大砲とは狙って放つべきものなのだ。
闘士級が戦車級や突撃級と共に吹き飛ばされ、直撃を受けた要塞級が四散する。
BETAたちは連射が出来ないという構造的問題の合間を縫って殺到しようとするが、素早く回り込んだスティレットがそれを許さない。
進行方向に対して素早く的確に攻撃を繰り出し、EN防御など考えてあるはずもないBETAたちを蒸発させていく。
高速で駆け抜けるリンクスたちですら厄介に思うこの二人は、あくまでも二次元での動きしかできないBETAたちから見れば死神である。
<<しかし、彼らは凄い。あなた方は国連の教導部隊か何かなんですか?>>
尋ねる中隊長の言葉遣いが改まる。
ネクストという非常識な装備を操る我々に、警戒心よりも畏怖の気持ちが優先されたようだ。
「先ほども言ったとおり、国連軍第8492戦闘団だ。すまないがそれ以上の事を口に出来ない」
別にこれ以上口にすべき特別な何かはないのだが、あえて機密事項が存在するかのような言い回しをする。
何もないと言われれば、そこには存在を隠すべき何らかの秘密があると考えてしまうのが人間だ。
ところが、軍人相手に機密だというと、それ以上を(表立っては)聞こうとはしなくなる。
その特殊な軍人の習性を利用したわけだ。
<<失礼しました。しかし、戦い方はしっかりと学ばせてもらいますよ>>
中隊長がそう答えている間にも戦闘は継続されている。
弾幕射撃を抜けてきたBETAたちに、この世界の間隔では長距離で迎撃が開始される。
単体で弾幕をすり抜け、全力で走る突撃級の攻撃をクイックブーストで横に回避し、交差する瞬間に必殺のブレードを叩き込むウェン・D・ファンション。
その動きには無駄がない。
一体の突撃級をレーザーで射殺し、素早く移動、別の一体をレールガンで射殺、移動、次の一体をその手前にいた無数の戦車級ごとレーザーで射殺、移動、要塞級をレールガンの一撃で屠り、移動。
彼女の動きには節目はあっても断面がない。
流れるように全ての動作を連結させ、ひたすらに機械的に無停止で家畜を解体するように、人類の宿敵であるはずのBETAを殲滅していく。
そして、それすらも突破してくる敵を、ダン・モロが頑張って射殺していく。
彼らにとっては、疲労しきった後の緩慢な動作である。
だが、敵地に取り残され、全滅を待つばかりだった中隊一同からは違って見える。
使われている技術から、機体の性能から、武器の威力から、パイロットとして乗り込んでいるリンクスたちの基本スペックから、全てが違う。
それは吟遊詩人から見れば語り継ぐべき伝説だった。
ただの兵士であれば、自身の無力を嘆くべき、あるいは歓声をあげるべき他人事だった。
政治家から見れば手に入れるべき対象であり、科学者から見れば調査すべきサンプルだった。
しかし、敵地に取り残されても諦めずに戦い抜いてきた帝国軍衛士たちにとっては、それは学ぶべき教材だった。
<<こちらは第14師団司令部、最後のBETA集団の殲滅を確認しました>>
最後のBETAが有澤社長の放ったグレネードによって吹き飛ばされてから五秒後、司令部からの通信が入った。
「こちらは国連軍第8492戦闘団、自衛戦闘を中止する。
当方の行動は帝国軍の支援ではなく付近の国連軍基地防衛だけであるので、これにて帰還する」
書類上はそうなっているため、そうであった事を再確認するための報告を送る。
転戦を重ねる間に在日国連軍司令部からは戦闘へ加入する事を許可する旨が伝えられていたが、既に始まっていたためにそういう事で処理しなければならないのだ。
軍人も書類で動く公務員であるという事実の再確認にはなったが、馬鹿馬鹿しさを感じる。
<<偶然とはいえ、貴官らの行動は帝国軍の速やかなる反撃と失地回復に多大なる貢献こそあったが、妨害と取れるようなものはなかった。
その結果に感謝すると同時に、今後は円滑な意思疎通の上で共同作戦を実施できるような体制作りが重要であると認識している。
貴官らの功罪は委細漏らさず在日国連軍司令部に報告するのでそのつもりで。
他の組織へ通信である事から、言い回しが硬くなる事はご理解いただきたい。と師団長は申しております>>
司令部からの言葉に思わず顔が緩む。
規則の遵守と信賞必罰の厳守は軍隊の基本である。
それらを踏まえた上で解釈すると、今の言葉は以下のようになる。
『とても助かった。この度の作戦成功は貴官らの助力あってのものだ。
大変感謝している。是非、今後もよろしくお願いしたい。その時までに余計な手間がなくなるよう組織間の調整に尽力する。
また、この度の戦闘での君たちの活躍に叙勲の申請を行うものである。
本件を問題化させないためとはいえ、抽象的な言い方しかできず申し訳ない』
柔軟で視野が広く、軍事組織や官僚機構に慣れ親しんでおり、そして人間的な魅力に富んでいるらしいこの師団長とは良い酒が飲めそうだ。
今後もしばらくBETAの回収作業で新潟に居座る事になるのだから、それは実現可能な未来である。
そして、この地を離れるまでの間は随分と居心地がいいものになりそうだ。
「お話の内容は正しく理解できたつもりです。
そのような言葉をかけられる事は覚悟しておりました。
戦闘の結果としてこちらの基地防衛にご協力いただくような形になっただけとはいえ、その結果に感謝しております。
同じ人類が隣に並んでも協力はできないという現状は無駄が多いと小官は考えていますので、上層部に今後についてを相談してみます。
それでは、8492戦闘団は基地に帰還します」
敵の反応が完全に消失したことを確認し、勝手に帰還を始めたリンクスたちの後を追いつつ、俺は司令部へ慎重かつ丁寧に礼を述べた。
師団長が尽力してくれたおかげか、今回の作戦について我々が何らかの処罰を受ける事はなかった。
2001年11月09日金曜日 12:00 日本帝国 新潟県第十五防衛ライン 海岸より24km地点 国連軍新潟駐屯地
「ハハハこやつめ」
新潟防衛戦が終結してから三日後。
BETAを満載した車両が慌しく行きかう中、俺はプラントの管理用コンソールの前で愉快そうに笑っていた。
今回の作戦で回収されたBETAは一千トンを軽く超え、その総計は今も増加の一途を辿っている。
それは、プラントをアップグレードするのに十分すぎる重量だった。
二回も三回もアップグレードしてもまだまだ余裕がある重量だった。
おかげで、俺に与えられた選択肢は増える一方だった。
「フヒヒこやつめ」
閃光を放ち、魔法か何かのように一瞬で外見を変えたプラントは、その能力も大きく変わっていた。
ついでに言えば、アップグレードボーナスとやらで俺のコマンダーレベルが上がり、おまけにポイントも追加されていた。
さて、これを使って何をどうしようか?
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第18次BETA殲滅作戦途中経過
2001年11月09日12:00:34
コマンダーレベル:2→3→4
NEW!新しい技術が選択可能になりました
NEW!新しい施設が選択可能になりました
プラント発展度 :1→2→3
NEW!兵器レベル2までの装備が製造可能になりました
NEW!兵器レベル3までの装備が製造可能になりました
NEW!製造に必要なクレート量が10%減りました
NEW!新たな戦力使用可能
NEW!増援部隊到着
現在所持ポイント:60,000
保有技術:
01:XM3開発データ
02:新型合金開発
03:エンジンの効率化
04:戦術機携行火器の強化
05:スラスターの改良
06:ブースターの改良
07:発展型不知火
08:第四世代戦術機基礎理論
09:戦車級用近距離防護火器開発
10:発展型不知火改良型
11:生産の効率化技術
12:AL(アンチ・レーザー)弾頭の改良
13:発展型AL弾頭
14:長距離火砲の改良
15:無人防衛システム開発
16:発展型無人防衛システム
17:地中振動監視技術の改良
18:発展型地中振動監視技術
19:G弾(BETA固有の元素使用の大量破壊兵器)の改良
20:発展型G弾技術
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