アークライン特殊探索者養成学園
その名の通り《特殊探索者》――通称冒険者資格をとる為の千年帝国指定の専門教育機関
南方のザイン特殊探索者育成学校、東方のツキノワ特殊探索者育成学院と並ぶ世界三大冒険者育成機関の一つに数えられる
《千年帝国》が支配するこの大陸で最も名高い学園にして、古代遺跡を所有する事を許された数少ない公立機関
ザイン学園には広大な迷宮と幻影で探索者を惑わせる《ザインの夢幻迷宮》
ツキノワ学園には意思があるかの如く探索者を傷つける《ツキノワの人喰い樹海》
そして、ここアークライン学園には凶悪な魔物と罠が探索者を地獄へと導く《アークラインの煉獄塔》
通常各学園では12歳より座学及び教練を1年行い、その後2年をかけて各迷宮内での実地研修
最後に3年をかけて各迷宮内の規定階層へと到達出来れば晴れて《国家特殊探索者》の資格を取得して卒業となる
「今日からこのパーティーのフォワードは彼がつとめるから、皆もしっかり面倒見てやってね!」
「僕はミカエル=プロミネンスです。第58期入学で皆さんの一期後輩に当たります。まだ未熟ですが、精一杯がんばりますのでよろしくお願いします!!」
日に日に暑さが増していく中、唐突にパーティー《金獅子》のリーダー アリス=ワールウィンドは唐突にそう発表したのだった。周囲の誰もが呆けているその間にリーダーたる《青い髪の女帝》は壁際にもたれ掛っている一人の男を指差し憎憎しげに言い放つ
「と、言う訳でアンタはもうお払い箱よ!! さっさとここから出て行きなさい!!」
「ちょ、ちょっとアリスいきなり何いってるのよ!?」
「スズカは黙ってて!! 聞いてるのジークフリート=フォートレス! アンタはもう《金獅子》の副リーダーじゃない・・・・・・いえ、《金獅子》のメンバーですらないんだから早く出て行って」
黒髪ショートの凛々しい少女が慌ててアリスを止めるが、逆にアリスは激昂してジークフリートと呼ばれた男に吠え掛かる
「まあ、リーダーがそう言うなら従うがね・・・・・・除隊の理由は?」
「決まってるじゃない、アンタが無能だからよ! 魔法一つまともに使えない、希少スキルを発現していない無能が後期カリキュラムまで進学出来たのは誰のおかげだと思っているの? それをアンタは当たり前みたいな顔をして!! 本当に鬱陶しかったのよ!」
その発言にジークフリートと呼ばれた青年は一度肩をすくめ、服の左胸に着けていた獅子の徽章を取り外しアリスへと放り投げる
それを受け取りながらアリスは口を開いた
「アンタが今使っている戦槌《黒ノ衝撃》と重装全身鎧《緋ノ残照》は没収だからね」
「へいへい、了解、了解っと」
そう言ってジークフリートはゆっくりと3年と6ヶ月を過ごしたパーティールームから出て行った。
ガラス越しの強烈な日差しを浴びながら大柄な青年は憂鬱そうに溜め息を吐く
「はぁ、雰囲気で出て来ちまったがこれからどうすっかねぇ・・・・・・武器・防具は無し。道具・アクセサリー類は何とか死守
出来た。金は・・・・・・今月の寮費で無くなっちまうな、こりゃ」
「おぉーっすジーク!! どうしたの、そんな顔をして!」
「のわぁっ!!」
唐突な言葉と後ろからの衝撃に思わず驚きの声を漏らすジークだが、背中から首に抱きついている少女の顔を確認した瞬間苦笑を浮かべる
「よ、フィリス、相変わらず元気そうだな」
「あったり前でしょう! 元気が私の取り柄だからね? それよりどうしたの、そんな怖い顔をして?」
「いや、とうとうパーティーを除隊になったんだが「ちょっと待って! 除隊になったってどういうことッ!!?」」
「・・・・・・まずは落ち着け、首が絞まってる!」
先程まで同年代の少女より幾分若く・・・・・・というか幼く見える相貌に天真爛漫な笑顔を咲かせていたフィリスと呼ばれた少女はジークの言葉を聞くなり、憤怒の感情を隠しもせず怒鳴る。
一方、首に抱きつかれている状態で怒鳴られたジークは顔を幾分蒼ざめさせて首に巻きつくその腕を引き剥がそうとする
「・・・・・・で、いったいどういう理由で除隊になったの?」
「いやな、俺の代わりに後期カリキュラムの一年坊を拾ってきたみたいなんだわ。それも希少スキル持ちの超が頭に何個かつくぐらいのエリートだなありゃ。で、パーティーの規定人数の5名を超えてしまったんで誰かが除隊になる必要があるんだが、後衛のアリス、アリサの魔術神術姉妹は外せないだろ。で、罠の解除から道具の鑑定まで何でもござれのカイトも必須。残るは前衛の俺とスズカ嬢だが、スズカ嬢の属性剣術と抜刀術に比べて特に希少スキルを持っている訳ではない俺じゃあどっちが出て行くか分かりきった事だろう?」
160㎝にも満たない少女に右腕を引かれて食堂へと連れて来られたジークは椅子に座ったフィリスに一息に説明をする
その表情は妙にすっきりしていて、事情を知ったフィリスが逆に驚いた表情で問いかける
「・・・・・・えらくすっきりした表情じゃない」
「まあな~。これ以上カイトとアリサに気を使わせるのも嫌だったしな。丁度いい機会だと思ってるよ」
「まあ、ジークがそう言うならいいんだけどね・・・・・・でも課題は如何するのよ? 私と同じ後期カリキュラム2年生だから後6ヶ月で60階層まで到達しないと退学になっちゃうよ?」
「《金獅子》が優秀だったんで現時点で60階層まで到達してるんで、そんなに急ぐ必要は無いし、情報を餌に他の奴等のパーティーに入れてもらうつもりだ。ま、その前に下層で金を稼いで武具をそろえなきゃならんがな」
「・・・・・・んふふ~、ジークちょっと待っててね」
そう言って大げさに肩を竦めるジークを見やり、フィリスは口元を歪めると壁際に設置されている一辺が1m~2m程の箱へと近づき、《学生証》をかざした。するとその箱の上部についている飾り石が輝き始め、数秒後にふっと消え去る
フィリスが鼻歌交じりにその蓋を開けると中には幾つかの迷宮探索用のアクセサリー、道具類に武器・防具までが所狭しと並んでいた。
フィリスはそこから一本のハルバートを取り出し、ジークの元に戻ってきた
「はい、ジーク、これあげるよ。30階層のボス《アベンジャーナイト》が落とした武器なんだけど大きさと重さから使えるメンバーがいなくて置きっ放しになってたんだ。銘は《銀氷の崩落》等級はⅥになるって」
「いや、フィリスもらえるのは有り難いが、貸しもないのにどうしてだ?」
「《シュレディンガーボックス》のスペースの確保と不要アイテムの再利用って事が1番の目的かな?」
「だったら売れば結構いい値段つくだろうが・・・・・・まあいい、ありがたく頂いとく。代わりに何か俺に頼みたい事が出来たら言ってくれ。可能な限り手を貸すから」
「あははは、その時は期待してるよ~。じゃあ頑張ってね」
真剣な顔で言うジークにフィリスは少し目線を逸らしながら言い返し、足早に去っていく
周囲で見ていた者達は、ジークを忌々しそうに見ていた。幼い容姿に見えて、実はスタイルがいいフィリスはその性格の良さも手伝って学園の人気ランキングTOP10から落ちた事がなかった
その周囲の視線を無視してジークは肩にハルバートを担ぎながら箱へと近づき首にかけてあった学生証を翳す
先程のフィリスの時と同様に飾り石が明滅し、蓋を開ける。中には数本の瓶に詰められたポーション類、指輪やネックレス、お守りといったアクセサリーの類が幾つか並べられていた
「とりあえず持てるだけ持って今日の夕飯代を稼ぎに行きますかね・・・・・・」
現状の厳しさに苦笑しながら、だが何処か楽しそうな光を目に宿しジークは《シュレディンガーボックス》を閉じて、《アークラインの煉獄塔》と呼ばれる古代遺跡へと歩を進めるのだった
「よう、ジークフリート! 今日は一人見たいだけど何かあったのか?」
「ああ、トールか。俺は見事に《金獅子》をクビになったんで、しばらくは一人ぼっちでの探索が確定しただけだよ。とりあえず今日の夕飯代でも稼ぎにいく所さ」
「はぃぃ? お前がクビ?」
《アークラインの煉獄塔》地下1階に設置されている転送室前にて数少ない友人と出会った。2m近い長身と筋肉の鎧で包まれた恵まれた体躯、精悍というよりは男くさいと言われる容姿をした男。ジークフリートも恵まれた体格をしていたが、トールと呼ばれた男はさらにその上を行っていた
「どういう事だ!? 同期フォワードで俺と唯一まともに打ち合えるお前が除隊だと!! クソッ、あのクソアマぶっ潰してやる!!」
「お、落ち着けって、トール!! スカウトされて来た新人は希少スキル持ちのエリートだから仕方ねぇって。というか、仮にもパーティー《白銀龍》のリーダーたるお前が《金獅子》とのPT間闘争を起こそうとするな!!」
「そんなもん知ったことかっ! 希少スキルを持っていない? それが3年以上共に闘ってきた戦友を追い出す理由になるってのかよ!? それ以前にお前はまだスキルが発現していないだけで今後発現する機会だって残ってるだろうが!?」
「そんな理屈があの青い女帝に通用するかよ。俺はカイトと違って女心が分からん唐変木なんでね、生理的に嫌われる事をやっちまった可能性があるしな。まあ、気にすんなや」
顔をりんごの様に真っ赤にして怒っていたトールも落ち着いた様子のジークをみて落ち着き始める
「ちっ、お前がそう言うならしょうがねぇ、今回は見逃してやらぁ・・・。その代わりにジーク、これを受け取れ」
「おい、代わりに受け取れって、おかしいだろう?」
「いや、俺は別にいいんだぞ? 受け取らなかったら《金獅子》カチコミかけるだけだしな」
「・・・・・・たちの悪い押し売りか。まあ、感謝しとくわ」
「おお、俺様に感謝しろよ!!」
そう言って、背中に背負った《ペナーテスの法袋》と呼ばれる内部に一部屋分の空間を持つ袋に手をいれ、一対の籠手をとりだした。どちらも銀灰色一色の継ぎ目が見当たらないその籠手は非金属特有の滑らかさと軽量感を醸し出していた
「おい、これは何だ?」
「岩石竜種の幼竜の革で作った特製の籠手、銘は《灰ノ鼓動》等級はⅥになるとさ。俺が後期1年時に使っていた籠手で斬撃・衝撃に強く軽いのが長所の防具だな」
「って、いいのか? 防具としては優良品の部類に入るだろうに?」
「ああ、俺はもう使わないしな。っと、そうだ仲間をまたせてるんだった。すまんが今日はここまでだ。じゃあな、無理するなよ!」
「ああ、サンキュー! この借りはいつか返すよ」
そう言ってトールは学園へと走っていく。その背中を見ながら、溜め息一つついてジークは目の前の扉を開いたのだった
能力表?
NAME:ジークフリート=フォートレス AGE:17
CLASS:第57期アークライン修練生 PT《金獅子》副リーダー
⇒第57期アークライン修練生 ソロ挑戦者
ABILITY: Str:B+ Con:B Int:D Dex:C+ Spr:B Agi:C
評価基準:S/A/B/C/D/E E=一般成人男性の能力
TACTICS: 剣D 槍C 斧C+ 弓D
SKILL: インファイトC ガードC+ 護衛B 罠解除C 抗魔D+
最高到達階層:61階層
Equipment
武器:斧槍《銀氷の崩落》等級Ⅵ
防具
頭 部 :なし
体 部 :夏季制服
腕 部 :革籠手《灰ノ鼓動》等級Ⅵ
脚 部 :革靴
アクセサリー:力の指輪 鷹の指輪 梟の指輪 抗魔のお守り
ITEM:下級ポーション×10 中級ポーション×5 上級ポーション×1
支給品:《ペナーテスの法袋》《学生証》
評価
基礎能力は同学年の中でTOP10に入るが、スキル・戦術ともにごくごく平凡なものしか無い為、総合的な能力評価では学年平均辺りに属している。性格は温厚(微妙にバトルジャンキー気質有り)で周囲の信頼も厚い(極一部を除き)
戦闘スタイルは基本的にフォワードで囮・護衛役を務める事が多いが、その有り余る腕力を活かしアタッカーを務める事もある優秀な前衛と評価される一人
8代前から長年続いてきた《白銀龍》と《金獅子》の抗争を終息させた立役者、学園でも一部の者達にはよく知られている
その割りに交友範囲は狭く、友人と呼べる間柄の人間は両手の指でたりてしまうぐらいしかいない変わり者である