「徐晃殿!楽進隊撤退を確認。ご指示を!」
ってー事は、次はどこが来る!
「李典隊の状況はどうか!」
「継続中です!」
えーい、押されているじゃないか。
「中央だ、次はそこへ誘導しろ!急げ、直に夏侯惇隊が来るぞ!」
「了解しました!」
熱い。辺りは火炎地獄。燃え尽きてしまいそうだ。
しかし、ここでの撤退は許されない。
撤退は死に繋がる。
味方が戻るまでの辛抱だ。
まさかこんな状況の指揮を取る羽目になるなんてな。
つくづく人生って奴は面白い。
「前線より夏侯の旗印を確認!夏侯惇隊です!」
何、早すぎる。予定より遥かに早いじゃないか!
くそ、どうなっているんだ?
落ち着け。指揮を預かる者が取り乱してはいけない。
末端まで動揺が広がってしまう。
落ち着け・・・落ち着け・・・よし、俺はまだやれる。
「夏侯惇隊はひとまず捨て置く。まずは当面の問題を処理していこう」
「了解!」
「支援部隊到着!」
「よし、まだいける。押し返すぞ!皆!
『了解!』」
その後も次々と変わる戦況に対し、矢継ぎ早に指示を出す。
全てが終わったのは、夕方を回ってからだった。
始まりは確か、昼前だったはず・・・
「・・・燃え尽きた・・・燃え尽きちまったよ・・・」
その場でがっくり項垂れてしまった。
全ての始まりは・・・なんだっけ?
「嫌で御座る!戦いたく無いで御座る!」
グルグル巻きに縄で縛られ、連行される俺。
それを馬で引きずって行く、華琳さん。
何でも、洛陽で専横を振るっている董卓さんってのがいるらしいです。
それを皆でやっつけるために、連合を組んだそうな。
いじめですよ、いじめ。
董卓さんも可哀想に。
今はその連合の陣への参加の為に進軍中です。
「そろそろ諦めろ、徐晃。往生際が悪いぞ?」
馬上の人の元譲さん。
ニヤニヤしながら見下ろしてきます。
何かムカツク。
「横暴だ!人権侵害だ!」
「あんた本当に駄目男ね。覚悟を決めなさいよ。だらしない」
この猫娘め。今度蛙の姿焼きを、無理やり食わしてやるぞ。
・・・駄目ですね。
泣かれそうだ。それは出来ん。
「俺、戦場なんて嫌ですよ?逃げますからね?」
「だからこうして縛っているのだろう?」
「戦場でもこのまま!?」
「逃げるならな」
「的にしかならんでしょ!?」
「華琳様への矢を防げるのだ。光栄に思え」
「嫌じゃー!」
なんて事を言うのだこの阿呆毛は。無茶苦茶だ。
君主共々無茶苦茶だ。
「華琳さん・・・いい加減縄ほどいて下さいよ」
「駄目よ」
こちらを見る気配すら感じない。
酷い扱いだ。
「さっき解いたら、貴方逃げ出したじゃない」
「そうだぞ。捕まえるほうの身にもなれ」
「こちとら焼き鳥屋でい!戦場なんかには興味は無いんでい!」
足には自信がありましたが、馬には敵う筈もありませんでした。
追いかけてくる元譲さんの嬉しそうな目は、狂喜のものです。
夢に出そうです。
思い出しただけでも・・・おお、怖っ。
「春蘭」
「っは!」
「黙らせなさい」
「畏まりました」
ええー、猿轡ですかー!!!
もう何を言っても、モゴモゴしか言えません。
くそう・・・こうなったら・・・
「ふぉふぉんふぉんふぉふぉふぉふぉん」
(華琳さんのペチャパイ)
ええ、言ってやりましたとも!
怒れまい!何を言っているのか分かるまい!
恨むのなら、その無いチチを恨むが良い!
「春蘭」
「っは!」
「殴りなさい」
「畏まりました」
なんですとー!!!
何故だ!何故分かる!
思いっきり殴られました。
痛てぇ。
「華琳様。前方に連合の陣が見えます。到着です」
やってきたのは先頭を行く妙才さん。
来た!常識人!
助けてくれ!
「私達が一番最後でしょう。このまま軍議に参加するわ」
「畏まりました」
「春蘭、秋蘭。共をなさい」
「「っは」」
おーい、俺の事忘れてませんかー?
皆さーん。
「桂花は陣張りの指揮を取りなさい。場所は麗羽の所の将が出張ってくるでしょう。それに従いなさい」
「畏まりました」
「では、行くとしましょう」
「「「御意」」」
御意じゃねーよ!
俺!俺!
目一杯フゴフゴ言っていると、気付いて貰えました。
嗚呼、涙が出そう。何か嬉しい。
「静かだから忘れていたわ」
絶対嘘だ。分かってたでしょ?
「外してやりなさい」
「畏まりました」
「ぷはっ・・・華琳さん、やり過ぎでしょ?」
「そんな事はどうでもいいのよ。で、さっき何て言ったのかしら?」
うわー、覚えてやがる。それによくねーし。
こんちくしょうめ。
ああ、縄の跡付いてるし。
何かの後ですか?これは?
「済んだ事じゃないですか」
「済んでいないわ。だって中身が分からないのですもの」
「殴ったじゃないですか!」
「何と無くよ」
ひでぇ。
「言っても怒らないですか?」
「ええ、怒らないわ」
コレは逃げられんぞ?囲まれているしな。
進退ここに窮まる。
馬から降り、正面に立つ華琳さんを前に深呼吸。
「華琳さんのぺちゃぱ――おお、危ない危ない」
振り降ろされる大鎌を真剣白羽取り。
危ない危ない。この人殺す気だったぞ、今。
それにどっから出した。その獲物。
「怒らないはずでは?人の上に立つものとして、言葉に偽りを混ぜるのはどうかと?」
「あら、怒ってないわよ?ただ何と無く殺したいだけ」
「その割にはえらい熱の篭り様ですね」
「気のせいじゃないかしら?今日は割と涼しいわよ」
お互いの視線ががっちり絡み合います。
と、思ったら、
「曹操さん。こちらでしたか」
「顔良か。久しいな」
とあっさり、俺スルー。
何か扱い悪いな~。
まあいいですけど。慣れましたし。
で、俺はどうすればいいのでしょうか?
「徐晃、あなた輜重隊に参加して、兵の食事を担当しなさい」
「は?」
「何?前線に出たいの?」
そんな滅相も無い。
ブンブカ首を横に振ります。
「華琳様?徐晃を戦働きさせるのでは?」
と、元譲さん。
「だれもそんな事は言ってないわ」
「はい?」
「徐晃。先ほど言ったように、貴方連絡があるまで輜重隊に参加して、兵の食事を手伝いなさい」
おいおい。
「それならそうと、最初から言ってくださいよ」
「貴方には驚かされてばかりだから。やられっぱなしは癪に障るじゃない?」
だってさ。
何か釈然としません。
て訳でした。余りの疲れに忘れてしまうところでしたよ。
輜重隊ってのも大変ですね。
米と汁物と漬物。たったコレだけしかないのに、無茶苦茶疲れました。
「おお、こんな所におったか。徐晃」
「何ですか?元譲さん」
「華琳様がお呼びだ。付いて来い」
嫌な予感しかしません。
まあ、付いて行かなくても、連れて行かれる訳ですから、行きますよ?
何か周りの天幕より大きい所へ連れられました。
やっぱり大将さんは違う訳ですね。
「華琳様、連れてまいりました」
「入っていらっしゃい」
「失礼します」
「失礼します」
うーん。何か中身は質素なんですね。他の天幕との違いが余り無いような気がします。
「どうかしたのかしら徐晃、天幕が珍しいのかしら?」
「いえ、質素だなと」
「野外で使用するものに、金を一々掛けていられないわ。まあ、掛けなさい」
と、進められた椅子に腰掛けます。
何の用ですかね。
「徐晃。このべーこん?とやらはなかなか良い出来ね」
「ああ、それですか。保存用に加工してますから味は落ちますけどね。店で出す予定のものはもっと美味いですよ」
「あと、こちらのじゃーきー?とやらは硬いけど旨みが濃厚でなかなかいいわ」
「そうですか?出来は、まぁ悪くは無いですけど。もうちょっと弄りたいですね」
そういえば、そんな物も作りましたね。
依頼されたんですよ。何か保存食で美味いものを作れって。
この国に燻製はあるにはあるんですけど。
これが不味いの何のって。
行軍用の保存方法としてしか存在しないみたいでした。
一般的に、燻製=不味い。見たいな図式が出来てるんですよ。勿体無い。
今日出したベーコンは燻しが短いです。もっと長持ちさせる事も出来ますが、味がちょっと。
その点ジャーキーは良く出来てます。納得はしてませんが。
まあ、お気に召したのであれば幸いですね。
「今回は場所が近かったのもありますし、この味に落ち着いただけですよ。遠征とかになると無理でしょうけど。もっと燻さないといけませんし」
「燻製でここまでね。これほどの物作れる事が分かっただけでも十分よ」
褒めてる・・・よね?多分?
でも、そんな事で呼ばないでしょう。この人は。
「で、御用はなんですか?」
「察しがいいのね。嫌いじゃないわ。これからが本題よ。貴方を連れてきた意味」
輜重隊の手伝いではなかったでしょうか?
「明日、関を攻める」
「帰ります」
と立ち上がり、回れ右をした瞬間。
後の元譲さんに回れ右をさせられました。
オーマイ、ガッ!
「話は最後まで聞きなさい。貴方は私の隣にいればいい。危険な事は一切無いわ。でしょう春蘭?」
「お任せ下さい」
「明日の先陣は劉備が切る事になったわ。寡兵だけどね」
「寡兵?少ない兵隊さんで関を攻めるんですか?」
「功を焦ったか、自信があるかのどちらかね。で、貴方の出番はその後よ」
何をさせる気でしょう。
分かりません。
「劉備が負ければそれはそこでお終い。もし勝てば・・・」
「勝てば?」
「劉備に料理を振舞いなさい」
「・・・ああ、お祝いですか?」
「貴方馬鹿じゃないの?そんな事をしても意味が無いじゃない。人と成りを見たいのよ。劉備とその家臣の。何故、先陣を受け持ったのか。どこからその自信が出てきたのか?貴方の料理は、まあ悪くないわ。話も弾むでしょうし、酒も出しましょう。聞き出しなさい」
つまり何か?スパイ?
あと人を馬鹿って言うな。
まあ、話を聞く位でしたらやりますけど。そんなにうまくいきますかね?
「美味く話を聞き出しなさい。出来れば褒美を出しましょう」
「えー、そんな間者みたいな真似したくないですよ」
「あら?あなた言ったわよね?いいですよ、二言は無い。ってね」
ここでそれを持ってきますか?
あなたはどれだけ先を見てるいんでしょうね。
結構前でしょうに、その話。
嫌になります。
・・・乗り気はしませんが・・・約束ですし・・・
「そこで、ある人物に探りを入れて欲しい。内容は何でもいいわ。こちらが本命ね」
「誰ですか?それは」
劉備さんだから・・・関羽?孔明?
そもそも孔明はいるのか?
何か赤壁の前位じゃなかったっけ?仕官したのは。
「北郷一刀よ」
「北郷一刀?」
うーん・・・そんな武将いたっけな?
「巷では結構有名なのよ『天の御遣い』ってね」
「ああ、あの。所詮占いでしょう?そんなの信じていたんですか?華琳さんにしては珍しい」
「占いはどうでもいいのよ。少しだけ共闘した事があるのよ。なかなかに食えない男だわ。見たことも無い服を着ているの、一目見れば直に分かるわ」
聞いたことはありますが、所詮占い。
それを劉備さんが、名を売るために使っているだけでは?
華琳さんもらしくないですね。
にしても北郷一刀ねぇ・・・日本人っぽい名前です。
日本人だったりして?
まあ、どうでもいいですけど。
「分かりました。でもこれで約束はお終いでいいですよね?」
「結構よ」
「劉備さんが負ける事を祈っています」
「不穏当な発言ね。まあいいけど。なら貴方は明日に控えて寝ておきなさい」
「そうさせてもらいます」
天幕を出てため息を一つ。
面倒臭い仕事になってしまいました。
雨でも降って戦を中止にしてくれませんかね。
・・・嗚呼、なる訳ないか。
あとがきです。
ついに我らが一刀君登場!
でもあんまり絡みませんw
では次回にまたお会いしましょう。
ありがとう御座いました。