「で、話とは?」
今日は珍しい人間が城に来ているわ。
名前は徐晃。字は公明。
街で焼き鳥屋をやっている男よ。
まあ、来るだけならそうでもないのだけれど。私に用があるのは珍しい。
え?お前は誰だ、だって?
誰に口を聞いているのかしらね?
そんなに死にたいの?だったら・・・
「ええ、ちょっと色々ありまして・・・付き合って欲しい訳ですよ。見てもらいたい物もありますし。あと、その大鎌しまって下さい。危ないから」
見てもらいたい物ねぇ・・・
今日は急ぎの案件も無いし。ちょっとした興味もある。
こいつが秘密にしている物は、中々面白い物が多いしね。
「いいわよ。春蘭、秋蘭。共をなさい」
「「御意」」
「で、いつ出るのかしら?」
「いつでも。早い方が好ましいですね」
「じゃあ、直に出るとしましょう。城門前で待っていなさい」
「はい。分かりました」
そう言って、あいつは出て行った。
フフ、何が出てくるのかしらね?
「華琳様、あの男に付いていかれるのですか?」
「そうよ、桂花?問題はないでしょう」
「しかし、あんな奴のいう事聞かなくても宜しいじゃないですか?わざわざ華琳様が出向かれるなんて!」
あんな奴ねぇ~。
除け者にされて拗ねているわね。
「桂花?あなた、春蘭の次に多いでしょう?」
「な、なにが・・・でしょうか?」
可愛いわね。焦っているわ。
何も知らないと思っているのかしら?
「徐晃の店にツケで呑んでいるのでしょう?給金からのツケは私達の中で二番目よ」
「そ、そんな!私は何時も現金で!っは!」
「フフフ、あいつは確かに男だけど、中々見所はあるわ。そう毛嫌いしないの。いえ、嫌ってはいないでしょう桂花も」
この子は知られたくないのか、いつも現金らしいわ。
徐晃からそう聞いた。あの時は笑ったわ。
しかも割と通っているらしいわね。
「か、華琳様!私もお連れ頂けませんか?」
素直にそういえばいいのに。
「桂花、貴方まで出てしまっては、誰がこの城で政務をこなすの?貴方しか居ないじゃない」
「そ、それは」
「フフフ。利口に待っていれば、今晩可愛がってあげるわ」
「か、華琳様~」
本当にこの子は可愛いわね。
最初から一緒に行きたいと言えば、考えてあげたのにね。
さて、準備をするとしましょうか。
「で、どこに連れて行く気かしら?」
「そうだぞ、徐晃。目的地くらいは教えんか」
春蘭も尤もだけど。実は心当たりはあるのよね。
この方角にこの男・・・なら一つしかないわ。
器用に馬の背で寝転ぶ男をチラリと見る。
「まあ、秘密です。良い所、とだけ言っておきましょうか」
春蘭を見ながら、ニヤッと笑う。
この男は本当に春蘭をからかうのが好きね。
そこは私と似ているのかしら?
「むむう。華琳様からも何か言ってやって下さい」
「春蘭、落ち着きなさい。良い所って言っているのだから、気に入らなければ斬っていいわよ?」
「うわ、最悪」
「姉者。徐晃が良い所と言うのだ。きっとそうであろう。それに、こやつが期待を裏切った試しは無いぞ?」
「むう。秋蘭まで・・・いいか、徐晃?気に入らなかったら斬り捨てるぞ?」
「ハハハ、そいつは御免ですよ」
カラカラと笑う。私達の言葉を気にもしていないわね。
本当に失礼な男だわ。でも、悪い気はしない。
時と場合。雰囲気を読み切る力が異常なくらいあるものね。勿体無い。
「あんまり力を入れても仕方無いですよ。別に戦をしに行く訳じゃあないんですから。気楽に、気楽に」
そのまま、馬に揺られて暫く。
徐晃が起き上がり、馬から降りた。
・・・目的地なのかしら?でも違うはず。
「さて、ここいらで飯にしませんか。ちょっと早いけど」
なるほどね。
「いいわよ。準備はどうするのかしら?」
「ああ、火をおこすだけですから。元譲さんと妙才さんは薪拾ってきて貰えませんか?」
「私の将を小間使いにするとはね」
「働かざるもの、食うべからず。役立つ物は、親でも使え。ってね」
なかなか言うじゃない。
「二人とも手伝ってやりなさい」
「御意。ほら姉者、行くぞ。不貞腐れるな」
「しかしだな~。ああ、秋蘭置いていくな。一人で勝手に行くと迷うぞ」
それは貴方でしょ。
「で、私は?」
「華琳さんは何を言ってもやらないでしょ?だから何もしなくていいです」
失礼な奴ね。
「何を出してくれるのかしら?」
「う~ん、何て言いますかね?実験作?ですよ。まあ、味は保障します。完成ではないですけど」
「この私に完成品以外を出すとはね」
「まあ、いいじゃないですか。忌憚の無い意見が聞けるのはお店にとって有益ですから」
私を踏み台にするとはね。いい根性しているわ。
普通の人間なら、ここは私の為に完璧な物を用意するのでしょうけど。
こいつだけは違う。まずは店の事、お客の事。
私達役人なんて、二の次三の次程度にしか思っていないものね。
いや、店に行けば、同じお客としてしか見ていないわ。
まあ、気に入らなかったら、いつぞや見たいにぶっ掛けてやりましょう。
鼻歌を歌いながら、持ってきている太い薪を組んでいく。
馬に積んである、荷物の中から竹筒と薄い鉄の板?が出てきたわね・・・
何を出す気かしら?
「徐晃、何なの。教えなさいよ」
「えー。びっくりさせた方が、お互い楽しいじゃないですか」
一理ある・・・だけど。
こいつだけ知っているのは、何かムカツクのよね。
「・・・暇ね・・・折角の川原だし・・・」
靴と靴下を脱ぎ、そのまま水へと入っていく。
ひんやりしていて気持ちいいわね。
こういうのも悪くない。
・・・ん?
「何よ?」
「いえ。可愛いなと」
「おだてるのが下手ね。もっと他に言いようがあるでしょうに」
「率直な感想ですから」
別にこいつに何を言われても感じないけど、こう何も言われないのは癪ね。
まあ、いいけど。いつもの事だしね。
暫くすると、二人が両手一杯に薪を拾ってきた。
春蘭、それじゃあ前が見えないでしょう?
全く、秋蘭も言えばいいのに・・・ああ。わざとね?
「さてさて・・・始めますかね」
そう言って、剣を抜き、石に打ちつけ火花を散らす。
それを綿に移し、火をおこす。器用なものね。
「おい、徐晃!それは青紅の剣では無いか!」
「そうですけど?」
「そうですけど?では無い!そのような使い方をする武人がいるか!」
春蘭、今のは全然似てないわよ。
「俺、武人じゃないですよ?」
「春蘭、別に構わないわ。あげた物だしね。どう使おうと本人の勝手よ」
「しかし!」
「もう遅いわよ。だって包丁代わりにされているもの」
「な、なんと・・・」
流石に二人とも目が点ね。
まあ、私も例外では無かったけど。
流石に包丁にされているとは思ってもいなかったわね。
やっぱり、あげたのは間違いだったかしら?
「華琳さんが良いって言っている訳ですから、いいじゃないですか」
「良くは無いけどね。どう使おうが勝手なだけ」
「一緒ですよ」
その後も、春蘭が徐晃にあーだ、こーだ言っている。
私は諦めたわ。こいつには何を言っても無駄だしね。
常識が通用しないのだもの。いえ、見ている物が違う、が正しいかしら?
本来なら斬って捨てても良いのだけれどね。
「ご飯も良い感じに炊けて来ましたね~、鉄板も・・・良い感じ。あとはこっちの煮物を温めて~」
鉄の板は何かを焼くのかしら?
更に待つこと暫し。
「もういいかな~、ご飯は・・・うん、良い感じですね。はい、どうぞ。熱いから気を付けて下さいね」
大分、剣の扱いに慣れているわね。竹を容易く扱うなんて。
春蘭ではこうはいかないわ。
あの子は力任せに叩き割る感じだし。
「じゃあ、本日の主品の登場です」
竹から出されたのは、汁に漬けてある肉ね。
多分、牛、豚、鶏、その他には内臓系も漬かっている。それらを均一の大きさに合わせてあるのね。なるほど、これなら焼き上がりがほぼ一緒になるわ。
それらを、油を伸ばした鉄板の上に乗せる。
良い香りね。
「うん。完璧かも。流石俺。煮物は・・・おお良い感じ、これまた流石俺」
何言ってるのだか。春蘭と一緒ね。
「ああ、もう食べてて良いですよ?煮物と御浸しはいけますから。肉は出来たら言いますし」
「貴方は?」
「肉だけで良いです。両方、大体分かってますから」
「では、頂きましょう」
「「はい」」
御浸しとか言ったかしら。茄子を揚げた物を冷まして浸したのね。
見ない手法・・・味も良い。悪くないわ。糸の様な生姜が憎いわね。
こちらの煮物は根菜と鶏ね。
色は茶色で悪いけど、味は・・・
食べた事が無い。何の出汁かしら?
肉系では無いわね。なら魚?
先ほどの茄子といい、何なのかしら?
味も良く染みている。ほんのり甘く仕上げてある。
でも、もっと見た目を良くしないと駄目ね。
・・・って、考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきたわ。
だって、目の前の春蘭が美味そうにバクバク食べているのですもの。
秋蘭は、小首を傾げているわね。
秋蘭にも思い当たるものは無いのね。
ふむ。
「さてさて、焼き上がりです。どうぞ」
竹に移して出された肉類。
香りは・・・良いわね。下ろした生姜と大蒜が良い感じじゃない。
問題は味ね・・・甘辛く仕上げたのね。辛みは分かる。でもこの甘みは何?
蜂蜜を使ったのかしら?砂糖ではないわ。でもそれだけじゃない。
もっと複雑。
思い当たる節がない。いえ知っているはずだけど・・・味が複雑で出てこない。
味は悪くないわね。でもそれ以上に・・・
「徐晃、今日の肉は柔らかいな。良い部位か?」
「いえ、安い奴ですよ。昨日の残りです」
「安い残り物?嘘おっしゃい、こんなに噛み切れるはずが無いわ」
「華琳様の仰る通りだと思うぞ、徐晃」
何よ、ニヤニヤして。腹が立つわね。
どうせ、秘密なんでしょう。
「まあ、答えは・・・秘密です。売り物の予定ですから」
「私達しかいないじゃない」
たまには教えなさいよ。
「コレと同じもの食べたくないですか?」
「そりゃあ食べたいに決まっているじゃないか」
春蘭、それは素直過ぎよ。それじゃあ、あいつの手のひらの上で踊るしかないわ。
まあ、それが春蘭の良い所でもあるけどね。
「だからですよ。また食べたくなったら店に来てください」
ほらね。
こういう場合はもっと駆け引きをしなくてはいけないわ。
でも、こう言われてはもう手遅れね。
あの子は近いうちにお仕置きしておきましょう。
食事は野外でだけど、中々良いわね。
天気も良いし、良い気分転換にもなる。
深く考えずに、頂きましょう。
「で、どうでした?」
片付けを終わらせ、馬で移動を再開する。
そういえば、感想を聞かせろって言っていたわね。
「そうね・・・やはり見た目はどうしようも無いわね。酷いものだわ」
「でしょうね」
「味に関しては、まずまずね」
「なら、十分です。華琳さんのまずまずは美味いって事でしょうし」
何よ、それ。私が捻くれてるみたいじゃない。
「元譲さんと妙才さんは美味そうに食ってましたからね。華琳さんはいつも気難しそうに食ってますから、いまいち掴めないんですよね~・・・さて、見えてきましたね」
指差す先は・・・やっぱりね。
「何だ徐晃。ただの村ではないか?」
「そうですよ、村です。まあ、着いてからのお楽しみって奴ですよ」
到着し、徒歩にて移動する。
こいつは畑で働く者に声を掛けて回る。
なかなか慕われているじゃない。無理に村ごと買い付けを行なったから、煙たがられるかとも思っていたけど、余計なお世話だったわね。
「で、見て欲しい物はあれです」
「徐晃、臭うわよ」
「そりゃそうですよ。だって肥料を作ってますから」
肥料ね・・・この匂いも頷けるわ。
「おーい、波才さーん!」
「あ、大将!これは遠い所をわざわざすみません」
「徐晃、何者なの?」
「紹介しますね。この村での肥料作りの長をやって貰ってます、波才さんです。ちなみに元黄巾の人ですよ」
「「何っ!」」
なるほど、こうやって運営していくつもりね。悪くないわ。
「昔は悪さもしていましたが、今では足を洗ってこうして頑張ってくれてます。ちなみに季衣の紹介でもあります」
戦で職や土地を失った者に斡旋しているのね。
やるじゃない。
「へい。大将達に救っていただいた恩を返すつもりで精一杯働いています」
「徐晃、信用出来るのか?」
「何言ってるんですか?出来るに決まってます。それに信用しないと信用してくれませんよ?」
「なんと!」
なるほどね。人心掌握術も悪くない。衣食住、さらに職を提供し、こちらから絶対の信頼を寄せる。
これで落ちない人間は、本当の屑ね。
いや、こいつにそんな思いは無さそうね。
「それはいいでしょう。で、見せたいものは」
「波才さん、どこですか?」
「御案内します。あちらです」
連れられていった先は・・・
「草しかないではないか」
そう、草しか生えていなかった。けど・・・これは。
「そうです。これらの草は肥料を変えて、効果を測定しているものです」
「波才さん。あの一角かな?」
「そうですね。あの一角の肥料が一番良い出来だと結果が出ていますので。あとはあの肥料で作った農作物の収穫次第です。収穫は後十日程度だと思います」
「うん、良い感じですね。ああ、仕事に戻って下さい。後は俺が」
「すみません、大将。お願いします」
なるほど。一番効果の高い肥料を分析しているのね。
だから、成長具合が均一じゃ無いのね。
フフフ・・・段々読めてきたわよ。
「徐晃。完成した肥料をどうする気かしら?」
「完成した物をですね。華琳さんが一手に買い付けて欲しいわけですよ。で、それを各村に無料で配って下さい」
「独占する気ね」
「まあ、そんな所です。華琳さん達は無料で配る事で皆に良い印象を受けますし、税収も増えれば良い感じでしょ?俺も儲かるし」
考えたわね・・・でも。いや、それも気付いているかしら?
「私の管轄はこれからもどんどん増えていくわよ?足りなくなるわ」
「肥料の製造は人手と設備を整えれば問題無いです。ただ・・・」
「材料ね」
「そうなんですよ。で、各村から使用している肥料の元をかっぱらって来て下さい。交換が正しいかな?」
「問題はそれらを移送する手段ね。難しいわよ」
「それは兵隊さんを使えませんか?訓練とかの成果の悪い隊に罰みたいな感じで。これはいい罰になりませんか。だって材料は糞尿が主ですし、嫌でしょう?」
面白い事を思いつくわね。
少し春蘭の軍部との折衝が必要かしら?
「いいでしょう。金額などの細かい所は私達が決めるわ」
「ありがとう御座います」
フフフ、中々面白いものが手に入りそうね。
「しかし、徐晃。最近のイナゴは米以外にも手を出してくる。成果が上がればその分だけ被害も出ないか?」
秋蘭は良い所に目を付けるわね。さて、どうする?
「ああ、それなら。付いて来てください」
澱みが無い・・・想定済みか。
連れて行かれた先には一件の小屋。
「程遠志さん。お邪魔しますよ?」
「大将!来てたんですか!」
「紹介します。程遠志さんです。ここでイナゴ対策用の網を作ってもらっています。その長です。ちなみに波才さんと同じく黄巾の出です」
また、黄巾!
確かに、黄巾と言っても元は農民。こういった仕事への適応も高いか。
「で、順調ですか?」
「はい。穂が実るまでには完成させますよ。意地でも」
「まあ、実際にどう使うかは、田んぼへ行って見てもらいましょうかね。じゃあ、お仕事頑張って下さい」
「へい。ありがとう御座います」
中々に統率が取れているじゃない。悪くないわね。
「徐晃。他にも黄巾の出の者はいるのかしら?」
「そうですね、結構いますよ。帰る場所も無くなって、食うに困っている人ってのは多いですからね・・・あそこです」
連れて行かれた先は、田の回りに棒を立てており、そこへ先ほどの網を掛け、田を覆う。
網を大きく作り、地に杭で止める訳ね。
この大きさの網目なら、イナゴは殆ど入れないのかしら。
いえ、少しでも効果が出れば十分ね。アレの被害は大きすぎる。
でも、日差しの入りが悪いわね。
「徐晃、これでは作物に影響が出ないか?日の当たりが悪そうだ」
「四六時中、掛けているわけではないですよ。今は掛けたまま作物を作っての実験です。どの程度の差異が出るかを見ないとわかりませんから」
分からないから試す。良い心がけね。
日々研鑽。これは私達にも通ずるわね。
「まあ、今の所はこんな感じですかね。で、ですね」
さて、次は何を言ってくるのかしらね?
「この村の田畑全ては同じ大きさ形に区切り直してあるんですよ。網の製造を一定にする為ですが」
なるほどね・・・コレも読めたわよ。
「で、貴方はどうしたいのかしら?」
「えっとですね。華琳さんのところで、新しい田畑を作る際にはこの形と大きさにして欲しいのですよ。で、網を買ってください。まあ、これに関してはどの程度効果が出るかまだ分かりませんが」
「網は分かるけど、何故田畑の形と大きさも合わせるのかしら?その方が網の製造も楽なのはわかるけど」
「まあ、それもありますけど。それ以上に、その方が分かりやすくないですか?田畑の数さえ分かれば、大体の税収が把握出来るでしょ?」
「「なんと!」」
着眼点が違うわね。悪くない。今までの状態だとバラバラだものね。
管理がかなりやり易いわ。
「そんな所ですかね。見てもらいたいものは。で、どうですか?」
ふむ。正直今ある田畑は難しいわね。どれだけの金額が掛かるか検討も付かないわ。
でも新たに開墾する分に関しては問題なさそうね。
「いいでしょう。網に関しては結果待ちでいいかしら?」
「当然です。効果が無ければ意味無いですし」
「田畑の件に関しては前向きに検討しましょう」
「ありがとう御座います」
面白い。実に面白い。
野にこんな男が埋もれているとはね。
これだから、世の中は面白い。
「他にはないの?」
「まあ、あるにはありますけど。まだまだ試験段階にも至っていないものばかりですね。あとは純粋に作物を作っているだけですから」
「逐一、私の所に報告を入れなさい。気に入れば税の優遇なども考えるわ」
「そいつはありがとう御座います。今日はコレで終わりです。俺は風呂入ってから帰りますので、先に帰ってもらっていいですよ」
「「風呂!」」
村で風呂?こいつは何を考えているのかしら。
「徐晃、村に風呂があるのか?」
「ええ、ありますよ。大きくは無いですけど。だって、肥料を作ってもらってますから。仕事した日は毎日入ってもらわないと、汚いじゃないですか」
「「「毎日!!!」」」
「そうですけど?」
毎日風呂に入るだなんて、聞いたことがないわ。
城の物とは規模が違うとは思うけど、金額が掛かりすぎるでしょうに。
何を考えているのかしら。
いや、汚いって言っていたわね。
なるほど・・・そういう事ね。
「別に長湯をする為に入る訳じゃないので問題は無いです。肥料も買ってもらえるみたいですから、それだけでこの村は独立経営出来ますよ。黒字ですね、黒字。今まではうちの売上を回したりもしてましたけどね」
これが一つの完成形なのかしら。いや、もっと色々変えれば更に良くなるはず。
介入しようかしら?・・・いえ、無粋ね。
それにまだその時ではない。
「今日は良い物を見させて貰ったわ。あとで褒美を出しましょう」
「それは別にいいですよ。俺は何もしていませんし。案を出すだけです。村の皆に丸投げですからね」
「そう言わず受け取って置きなさい。近々店に届けさせるわ。では、私達は帰るとしましょうか。春蘭、秋蘭行くわよ」
「「御意」」
馬に跨り、城への道へと戻る。
今日は思わぬ収穫があったわね。
「華琳様、如何されました?ご機嫌が良いみたいですが?」
「春蘭、あの村を見ての感想は?」
「そうですね。元とは言え、黄巾の者を使うのは正気の沙汰とは思えません」
「そう、秋蘭は?」
「着眼する所が違う・・・と言った所です」
なるほどね。二人はそう見るか。
確かにそれもある。でも・・・
「フフフ・・・本当に世の中は面白い」
「???」
あの男が何を見ているのかは分からない。でも、私に見えた物がある・・・
徐晃。貴方は好きにおやりなさい。
当然だけど、私も好きにやりましょう。
「面白くなってきたわ。二人とも明日から忙しくなるわよ」
世の英雄諸侯よ、この曹孟徳は覇道のその先を垣間見た。
だったら、私はそれを掴むまで。
だが今はまだ乱世。
ならばまず、それを共に謳歌しようではないか!
あとがきです。
その?系は一旦終了です。
また後日第二部をスタートさせたいと思います。
今後も我らが情けない兄様をよろしくお願いします。
お付き合い頂き、ありがとう御座いました。