「これで仕官も叶ったし・・・後は任地へ向かうだけね」
「そうですね~。でも向かう前にご飯にしましょう」
隣の稟ちゃんは鼻息荒いです。
曹操様の所で働くのが夢でしたからね~、仕方ないとは思いますが。
ああ、自己紹介が遅れましたね。
私は・・・
「寝るな!」
「おお!」
風は程昱と言います。この前までは立と名乗っていましたが、少し前に良い夢を見ましたので改名しました。
で、隣の眼鏡を掛けているのが、稟ちゃん。郭嘉と言います。
この度、めでたく曹操様の所に仕官が決まりました。
その前までは、旅をしていたのですよ。
将来、仕える君主を探す旅です。
「稟ちゃん。私はあそこでご飯が食べたいです」
「『徐晃の焼き鳥屋さん』ね。鳥料理かしら。いいわよ」
実はですね。今日、夢を見たのですよ。
日輪を支える風の口に鶏さんが入ってくる夢でした。で、その鶏さんを食べると虹が掛かったんですよ。
きっと鶏さんを食べると良い事がある気がします。
暖簾をくぐって入ると、
「風は背が足りなくて、くぐってはいないけどな」
「これ、ホーケイ野郎は黙っていなさい」
紹介が遅れました。風の頭の上に鎮座するのはホーケイです。
風の良き悪友です。
「いらっしゃいませ、どうぞ」
「風、座りましょう」
「ですね~」
お兄さんと妹さんらしき人が営業していました。
二人でやっているのですかね。
中々の繁盛っぷりですね。
「いらっしゃいませ。何にしましょうか?」
風達はお兄さんの前の席に座りました。
そこしか空いてませんでしたし。
「風達は初めてこのお店に来たのですよ、お兄さん。お勧めは何ですか?」
男前とは言い難いですが、笑顔の良く似合うお兄さんです。
「そうですね~、今日は鶏で良いのが入ってますから、その辺りかな?流琉~、これ三番さんで、こっちが一番さん」
「はーい」
こちらを見ながら会話していますが、手は止まっていません。
職人さんですね~。
「店主殿。ではその鶏をお任せでお願い出来ますか?」
「はいよ。塩焼きで良いかな?綺麗なお嬢さん方」
「後は何かあるのですか?」
「ええ、自家製のタレ焼きですよ。こってりはタレで。あっさりは塩で。って所かな。はい、そちらさん、豚ハラミ五本お待ち」
「では塩焼でお願いします。風は?」
「風も同じもので」
「はいよ。少々お待ちを」
手際が良いです。手元を見ながらも、色々な所を見ていますね。
お店全体を見ているのでしょう。
「お嬢さん達はどちらから?」
「風達はですね~、色々な所を旅して回っていたのですよ」
「旅ですか。良いですよね・・・はい、そちらさん。盛り合わせ、お待ち」
「今しがた曹操様の所に仕官してきた所です」
「へー、華琳さ―曹操さんの所ですか」
流石にびっくりしました。まさか曹操様の真名を知っている男の人がいるなんて。
風は初めて知りましたよ。
稟ちゃんも目が点です。
いえ、違いますね・・・仕方のない子です。
トントンしましょうね~。
「ほら稟ちゃん。鼻血が出てますよ?上向いて下さい」
「ありがとう」
怪訝そうなお兄さん。まあ、普通はそうでしょうね。
稟ちゃんにも困ったものですね。少し前は曹操様と言うだけでも垂れていたのに、真名なんて呼んだ日には鼻血の海が出来てしまいます。危ない危ない。
ご迷惑にもなりますから、これ以上この単語は出されないようにしましょう。
「はい、どうぞ。もも串です。柚子を軽く絞っても美味しいですよ。あとこちらはササミの梅紫蘇焼きです。こちらはそのままどうぞ。あと飲み物はお茶どうぞ」
「風達はお茶なんて頼んでませんよ?」
「そうですよ」
「ああ、これはお酒を頼まない人には出していますから。気にしないで下さい。自家製ですから安いですし。その土地に慣れてないと生水はお腹壊しますからね。まあ、一杯だけですけど・・・はい!ありがとう御座います。またどうぞ。流琉、直片付けてね」
「はい兄様」
まさか、無料でお茶を出すお店があるなんて、驚きです。
確かに、香りは余り良くないです。
「あ、美味しい」
「そうね。とても美味しいわ」
出されたものはとても美味しいです。
びっくりしました。
「ありがとう御座います。えーと、そちらのお嬢さんは良く鼻血が出るのかな?・・・いらっしゃいませ、どうぞ」
「いらっしゃいませー」
また、満席になってしまいましたね。
繁盛しています。
それにしても、このお兄さんは、良く人の会話を聞いていますね。
「そうなんですよ。風もこれには困ってます」
「言わないで風」
「じゃあ、良い物ありますよ」
出された梅紫蘇焼き、とても美味しいです。
やはり夢のお告げは当たっていましたね。
「ありがとう御座います。またどうぞー」
「いらっしゃいませ。直に片付けますねー」
「あ、おやっさん。呑み過ぎは駄目っておばさんから言われてるから今日は一杯だけですよ」
うーん、お客さんの数と座席の数が合っていませんね~。
これだと直に一杯になってしまいます。
「お待たせしました。どうぞ」
「何ですかこれ?稟ちゃん分かりますか」
「私も分からないわ」
「肝臓です。血の塊みたいな物ですよ。出るんだったら補充しないといけませんよ」
「なんと!」
これにもびっくりです。
まあ、風には必要ないですけどね。
珍しい物も扱っているのでしょうかね。
そういうのを食べなくは無いですけど、お店で商品として出しているのは余り見かけません。
「肝臓は新鮮だったら生でも行けますよ。俺としてはそちらをお勧めしたいですけどね。中々生を食べる人は居ませんから」
「どちらの方が体に良いのですか?」
おお、稟ちゃんが食いついています。
中々、見られない光景です。
「お兄さん。もも焼きでこの梅紫蘇、出来ますか?」
「はい、大丈夫ですよ。お待ち下さい。で、生と焼きでしたっけ。俺も良くは知りませんが、生の方が体には良さそうですね」
「では、次は生で!是非!」
「はい、お待ち下さい」
風はこの梅紫蘇焼きが気に入っちゃいました。
しかし、稟ちゃんも大胆ですね。生で食べるとは。
執念を感じます。
「はい、こちらです。こちらのごま油に塩を混ぜたものでお召し上がり下さい」
チョット興味がありますね。
ドキドキ。
「・・・美味しい。これ美味しいわ!」
「ありがとう御座います」
「稟ちゃん・・・本当ですか?」
「ええ、風も是非食べた方がいいわよ。血の為に」
風には要らないと思うのですけどね~。
でも、稟ちゃんが美味しいと言うのですから、一切れだけ・・・
プルプルしてて・・・珍妙です。
「・・・美味しい」
「言った通りでしょ!」
さも自分で敵の首を取ったように・・・出してくれたのはお兄さんですよ。稟ちゃん。
その後も稟ちゃんは肝臓を一心不乱に食べています。
ほら、お兄さんも驚いてますよ?
風はですね、色々美味しいものを頂きましたよ。
タレでも少し頂きましたが、これも美味しかったです。
「ふう、美味しかったです。ご馳走様でした。血の補給も出来ました」
「喜んで貰って何よりですよ。御代はどうしましょうか?華琳さんの所の人ですから、まとめて給金から頂きましょうか?皆さんそうしてますよ。お名前だけ頂きますけど?」
皆さんツケですか。いやはや。でもお願いしましょうかね~。
「じゃあ、そうして下さい。出銭はゲンが悪いですからね~」
「はい、畏まりました。お隣さんもそれでいいですか?」
チラリと見やると・・・
ああ、手遅れです。さっきは大丈夫だったのに。
血が増えたからでしょうか。
そんなに早くは無いと、風は思うのですけど?
嗚呼、病は気からとも言いますし。その逆もまた然りですね。
「か・・・か・・・ぶふーーーー」
あーあ、やっちゃいましたか・・・
何時もより多いですよ、稟ちゃん。虹はやり過ぎです。
今日は多い日ですか?
ほら、お兄さんも妹さんもびっくりしてますよ。
風としては手助けしてあげたい所ですが・・・
まあ、このお兄さんは良い人みたいですし、お任せしましょう。
だって・・・眠くなってきましたので・・・
「ぐぅ・・・」
あとがきです。
調子に乗って一日二本。
余り時間を掛けてないので薄い薄いw
まあ、こんな感じのが続くと思って下さい。
にしても、前回の話との温度差がありすぎw
ではまたお会いしましょう。
お付き合い頂きありがとう御座いました。