どうも、屋台の店主から一件の店持ちにクラスチェンジした徐晃です。
外枠はほぼ完成していましたが、無理を言って少し弄らせてもらいました。
だって煙が篭るでしょう。これじゃあ。
何せ費用は出してくれるとの事なので。
大型の換気扇も作ってもらいました。手動ですけどね。原理は分かっているのであとは丸投げしました。
「うーん、こんなもんですかね」
客間は基本的にカウンター以外認めません。
やっぱり、顔を見ながらが良いですからね。
奥の厨房はここで鳥やらを捌けるように広いスペースを取って、裏手には井戸も完備してあります。
「やっぱり冷蔵庫が欲しいんだけどなー」
在る訳無いですよねー。
基本土壁ですし、厚めに作って貰いましたし、風通しも良い作りになっているので問題は無いのですが・・・
「無いものは仕方ないか。これで完成としましょう」
業者さんに細かいお願いし、俺は二階へと上がります。
二階が自室です。
どんな部屋にしようかな?
「そういえば、完成したら呼べって言われてたっけ?」
そんなこんなで完成です。
今日はレセプション当日。
といっても伝わらないので言いませんが。
「今日はようこそおいで下さいました。腕を振るわせていただきます」
招待客は孟徳さんたちご一行様。
俺はユニフォームに身を包んでいます。
新調しちゃいました。
所謂ハッピです。ジャパニーズハッピです。
焼き鳥屋さんと言えば、ハッピな感じがしませんか?
顔ぶれが以前に比べて増えていますね。
許褚ちゃんという少女と、荀彧ちゃんが初顔ですね。
自己紹介をしたら、やたらときつい反応の荀彧ちゃん。
しかし、ここは我慢の一手です。
サービス業の基本はスマイルですし。
許褚ちゃんは良い子なんですがねー。
にしてもここの出資者は無茶苦茶ですね、はい。
「桂花。徐晃の料理が不味かったら、首を刎ねてもいいわよ?まずは食べてみなさいな」
なんて言うもんですから。
無茶苦茶です。
大事な事なので二回言いました。
まあ、味に自信はありますが。
こんな男が、とか。所詮男の作るものなんて、とか言ってやがりますよ。
反対側では、お口取りで出したおつまみで、早速宴会です。
元譲さん、ペース速すぎ。
「まずは盛り合わせでどうぞ」
うわー。睨んで来ますよ、この猫耳。
とにかく食えっての。
孟徳さんに言われ、渋々といった感じで一口目。
「・・・おいしい」
ポツリと漏らした一言を、聞き漏らさずに小さくガッツポーズ。
目が点になっているお嬢ちゃんをほったらかしにしてドンドン行きます。
この焼き台にも慣れないといけませんし。
「徐晃、変わったところを出して貰えるかしら?」
やっぱり来たよ。ニヤニヤしてますね、孟徳さん。
しっかーし!
準備万端ですよ。
「そう来ると思って用意しましたよ」
次々と焼いている中、焼き台の端に鍋を乗せます。
「温まったら出せますんで、ちょっと待って下さいね」
「徐晃ー、焼き鳥が足りんぞー!」
「はいはい、ちょっと待って下さい・・・はいよ」
出したと思えば、
「酒ー!」
「はいはい」
何ですか、このハイペースは。
と、思ったら。
横の許褚ちゃんがヤバイです。
何がって?
元譲さんより食ってますよ。この子。
マジパネェ。
「はいどうぞ、孟徳さん」
鍋の中身を盛りなおして提供。
柚子の皮を摩り下ろした物を掛けて出来上がり。
「何かしら・・・真ん中に筋が通っている?いえ骨かしら?」
「華琳様!お止め下さい!このような見たことも無い物を召し上がるなんて!それにこんな男が作るものです。不味いに決まってます。見た目も気持ち悪いですし」
「あら、桂花。その割には結構な量を食べてるじゃない?」
そう言って串入れを見てニヤリとします。
どう見てもSな人ですね。分かります。
ん?ちょっと篭ってきたかな?換気扇を回しましょう。
おおー、すげー、煙が裏に流れていく。すっげー。
「これは、その・・・出されたものですので仕方なく・・・」
「ふふふ、可愛いわね。徐晃、桂花にも何か珍しいものを」
「はいよ!」
どんどん焼きますよー。
「妙才さんはどうします?えらく静かですが」
「私はお任せで頼む。ゆっくり目でいい」
向こう側の元譲さんをじっと見てますね、この人は。
目つきが何と無くいやらしいと言うかネットリと言うか。
シスコンなんですかね?
ガンガン行きますよ。
「はいどうぞ。これは柚子を軽く絞ってお召し上がり下さい」
「こちらは横の刻んだ葉山葵とご一緒にどうぞ。辛いですから気をつけて下さいね」
「許褚ちゃんには・・・はい。このままどうぞ」
「妙才さん。こちらのお酒と合いますよ」
「コラー!元譲ー!脱ごうとするなー!」
一部はドンチャン騒ぎです。
こちらとしては一人で獅子奮迅ですよ。
換気扇がしんどいです。コレは打開策を考えなくては。
皆さん楽しそうで何よりですけどね。
結局お金出す訳ですか。孟徳さんは。
今日は奢りだって言ってあるのに。
しかも、金額ハンパネェ。
ちなみに明日の食材もありません。
食い尽くされました。
いきなり休業ですか。
徐晃の焼き鳥屋さんがオープンして、はや一週間ほどでしょうか。
連日大賑わいですよ。なかなか大変です。
雑誌にも載りましたよ。
あ、ちなみ『徐晃の焼き鳥屋さん』が店名です。
まんまですみません。
看板の屋号を書いてくれたのは孟徳さんです。
達筆すぎて読めません。
そんな事はどうでもいいですね。
三人組の女の子のお客さんが来ました。
「ここなのー。阿蘇阿蘇に載ってたお店ー」
なかなかのカワイコちゃん達です。
焼き鳥を焼きながらも、話し声が耳に届きます。
カウンターですし。
「でなぁ、ウチゆーたってん」
「沙和もコレ欲しーのー、追加でお願いするのー」
「もっと辛いのとか出来ますか?」
いやいやいやいや。一人おかしいだろ?
関西弁じゃね?
多分、アレですか。
気にしたら負けって奴?
良く分かりませんが。
にしても、この子達も食うわ飲むわ。
まあ、許褚ちゃんには負けますけど。
話しかけてみたところ、近くの村から竹かごを売りに来たらしいです。
折角なので俺も一つ買いました。
なんでもこの関西弁の女の子は、カラクリを作るのが得意なそうです。
全自動竹カゴ編み機なる物を作ったらしいです。
壊れたらしいけど。
で、冷蔵庫的な物と自動の換気扇を作れないかとお願いしたところ。
「少し時間くれへんか、店長。全く思いつかんわ。でもウチに任しとき、絶対作ってみせたるさかい!」
心強いですねー。
出来るかどうかは判りませんが、やってみようとしてくれる事に感謝です。
彼女の名前は李典さんです。
辛いもの好きな子が楽進さん。
なのー、な子が于禁さんでした。
もはや驚きませんよ。女の子でも。
例え絶影が子猫でも驚きません。
いや。驚きますね、きっと。
「構想が出来たら連絡するさかいな、暫く待っとってー」
「ご馳走様でした」
「美味しかったのー、また来まーす」
「ありがとう御座います。またお越し下さい」
下げる頭に、過ぎるは謝罪。
普通のお客様御免なさい。
また食材無くなりました。
どうも最近はきな臭い感じになってきました。
お客さんの会話を聞いたり、行商のおじさんの話を聞いたりしてますとね。
黄色い布を被った盗賊がかなりの数居るみたいです。
確か黄巾の乱でしたっけ?もう二十年以上も前の記憶なんて良く覚えていません。
孟徳さんの軍隊も出ずっぱりですね。遠征にも出かけたりしてますし。
今日は旅のお客さんが来店されました。閉店間際の事でした。
ちょこちょこ頼んでからの一言。
「店主よ。メンマは無いか?」
ねーよ。
「すみません、うちは焼き鳥専門でして、生憎取り扱ってはいないんですよ」
「ふむ、やはりか。しかし、この焼き鳥の塩は見事だ」
「ありがとう御座います」
「さぞやメンマを漬ければ美味いだろう。さらに<中略>とは思わんか?」
「はぁ」
あまりの長さに、適当な相槌を打つしか思いつきませんでした。
この人の口からはメンマメンマと、メンマ教でしょうか?
聞いた事ないけど。
「店主よ。ここに私が持っているメンマがある」
「?」
「美味く調理は出来ぬか?」
アノ目はお願いじゃないですね。挑戦してきましたね。
いいでしょう。受けてやろうじゃないですか。
「そうですね。コレは調理済みですから・・・三日待ってくれませんか?」
「構わんよ。急ぐ旅路ではないからな」
「では、三日後にまたお越し下さい」
で、三日後。本当に来ました。
俺の考えた結果、いかにシンプルな味わいでかつ、メンマ独特の風味を残すかが問題な訳でして。
黙って一口。
目を閉じ味わってくれています。
孟徳さんに出す時と同じ位緊張します。
「店主よ」
箸を置きました。
目はまだ閉じたまま。
「見事だ!この塩加減、歯ざわりの残し方もまた見事。軽く炙った事により香りも良い。まさに<中略>だな。すばらしいメンマだ」
だからなげーよ!
まあ、気に入って貰えたなら満足ですが。
「ふむ、河北へと向かう途中で良い土産が出来た。感謝する」
「いえいえ、旅のご無事を願っています」
「ありがとう。我が名は趙雲。字は子龍。真名は星。真名は見事なメンマの礼だ。受け取ってくれ」
マジデスカ?
まさかメンマ星人になっているとは。
まさに、小説より奇なり。とか言うんでしたっけ?
それよりもいいのか?こんな事で真名を預けて?
「では、また会おう」
「ありがとう御座います。またお越し下さい」
出て行こうとする星さんでしたが、ふと立ち止まり振り返りました。
「時に店主よ」
「なんでしょう?」
「メンマ専門店を興す気は無いか」
ねーよ。
あとがきです。
駄文にお付き合いいただきありがとう御座います。
少しでも面白いと思っていただければ幸いです。
では、また次回にお会いしましょう。