<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.8484の一覧
[0] 【習作】使い魔ドラゴン (現実→巣作りドラゴン×ゼロの使い魔)転生・TS・オリ主・クロス有[ブラストマイア](2010/11/15 03:08)
[1] プロローグ[ブラストマイア](2009/05/06 14:31)
[2] 第一話[ブラストマイア](2009/05/06 14:32)
[3] 第二話[ブラストマイア](2009/05/06 14:33)
[4] 第三話[ブラストマイア](2009/05/06 14:41)
[5] 第四話[ブラストマイア](2009/05/09 20:34)
[6] 第五話[ブラストマイア](2009/05/13 01:07)
[7] 第六話[ブラストマイア](2009/05/27 12:58)
[8] 第七話[ブラストマイア](2009/06/03 23:20)
[9] 第八話[ブラストマイア](2009/06/11 01:50)
[10] 第九話[ブラストマイア](2009/06/16 01:35)
[11] 第十話[ブラストマイア](2009/06/27 00:03)
[12] 第十一話[ブラストマイア](2009/08/02 19:15)
[13] 第十二話 外伝? メイドな日々[ブラストマイア](2009/11/12 19:46)
[14] 第十三話[ブラストマイア](2009/11/13 06:26)
[15] 第十四話[ブラストマイア](2010/01/16 23:51)
[16] 第十五話[ブラストマイア](2010/11/15 03:07)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[8484] 第八話
Name: ブラストマイア◆e1a266bd ID:fa6fbbea 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/11 01:50

 ベルの一日は、隣で眠るメイドの暖かな体温を感じるところから始まる。
 季節を問わず常に一定の温度・湿度に保たれているので暑苦しい思いをする事は決してなく、ダブルキングサイズの更に上を行く竜族特注のベッドは一家全員で寝てもまだ余裕があるほど大きい。日本人であった頃からすると信じられないほどゆったりと流れる時間を感じながら目を空け、幸せそうに夢の世界を旅している彼女の寝顔を拝んで眼福を得る。


「みゅー……。はれかぁ……、おやすみ」


 次に窓を見ながら今日も平和な一日が始まるのだなあと噛み締め、視界を塞いでいる自らの銀髪を背中へと戻すと、テープを逆回しにするかのように二度寝するのが日課だった。

 人間状態は省エネモードなので精神的に休めれば睡眠など大して重要ではないのだが、ベルの場合はやる気が無いし寝るのは好きなので人間並みに寝ている。
 起きるのは大体9時前後で、ベルは気付いていないが一緒に寝ているはずのメイドはほぼ必ず8時には目を覚ます。その理由は精神的な癒しを補給するためである。ベルはよく夢の中で胸を揉まれたり、頬を突付かれたり、首筋やおへそを舐められたりするので起きた時は大体頬が赤い。そういう時はまず間違いなく一緒に寝ているメイドも顔を赤らめているのだが、変な夢を見ちゃったな、恥ずかしいなあ、なんて寝ぼけた頭で考えながら朝の挨拶をするのが日常だ。

 少し考えれば、メイドらに 『朝のベル様成分』 を補給されまくっている事に気付くかもしれないが、寝起きのベルの頭は冥王星の公転周期よりゆっくりとしか回らない。実は色々と限界突破したシィが暴走したのが5年前で、初めては奪っていないにしろヤッてしまった本人は壁に頭を叩き付けたりと恐慌に陥ったりもしたが、ベルは竜族特有の鈍さもあって全く気付いていなかった。そして冷水で顔を洗う頃にはただの夢として忘れているので、恐らく明日も気付かずに補給されるのだろう。

 ちなみにメイドらはこの時間の事を 『スーパーベル様もふもふタイム』 と呼んでいる。


「べ、べるさま、おあひょ、おはようございます!」


 二度寝から覚めたベルが目を覚ますと、シィは寝ぐせでやや乱れた栗色の髪をばさばさと震わせ、手に持っていた水晶玉型の記録装置を後ろ手に隠す所だった。
 それの中にはベル様ベストアルバムなどと銘打って、あられもない恰好で寝ているベルの姿が大量に保存されている。本人が見たら怒る以前に泣くだろう。黒歴史のページが増えただとか言って。


「ナ、ナンデモナイデスヨ? ……あ、ベル様、お洋服がっ!」


 ベルが着ているピンク色のパジャマのボタンは一つ残らず外れており、白い肌やつるんとしたおへそ、僅かな盛り上がりを見せる胸などが絶賛大公開中になっている。これを行った犯人は本人でも寝相の悪さなどでもなくシィなのだが、意識の9割9分が眠っているベルは曖昧な笑みを浮かべながらお礼を返す有様だった。非常にかわいい。シィは口元を押さえながら込み上げてきた鼻血を押し戻し、主人の身なりがまともな状態に戻った事を確認してから、水晶玉を持ち去りつつ顔を洗うための水を用意しに行く。

 その後ろ姿はかなり挙動不審なのだが、眠気で頭が空っぽ状態のベルは今日も気づかなかった。





「ベル様。お水、持って来ましたよ~」


「ん~……」


 ベルは水桶の水を操って水面を持ち上げ、水飴のように練り上げられた中に顔だけ入れて水流に洗ってもらう。それでも尚ぼんやりしているベルは暫くボコボコと息を吐き続け、5分ほど経った頃に水の温度を急激に下げて覚醒を促した。
 この時の冷却加減はかなり適当なので、水流を止めた瞬間に過冷却を起こして氷の彫刻になる事も多かった。どうやら今回はその典型のようで、水の冷たさに意識を引っ張り上げて貰ったベルが顔を引き抜くと、水は瓢箪のような形のまま凍りつく。人間がこの温度の水に顔を突っ込んだらショックで二度と覚めない眠りに逆戻りしそうであるが、鈍い事には定評のある竜族ならば大丈夫だ。リュミスベルンなどは煮えたぎる油の中に手を突っ込んで揚げ物を作っていた事さえあったし。


「ふぁ……。今日もいい天気ねえ」


 ベルは自分の腰に届くほどの長髪を持っているため、口に何か入っているなあと思ったら自分の髪だった、という経験も多かった。それでも切らないのは長髪の方が可愛いとベルが思っているからであったし、維持の手間が殆ど無かったのも理由の一つだ。癖の無いストレートは気に入っていたし、人間ならば朝の手入れなどは欠かせないだろうけれども、ベルの場合は無意識レベルで魔力を肉体の隅々まで行き渡らせているお陰か常日頃からの細かいケアといった煩雑さとは無縁だった。気が向いた時にメイドに櫛をかけてもらう程度で難しい事はやっていないにも関らず、目覚めたばかりである今も宝石のような色と艶を保っている。

 恐らく日常生活ごときで痛むには頑丈すぎるのだろう。20年ほど前に魔力を込めた竜の肉体の強さが気になったものの、指などで試すのが怖かったので毛髪を切ってみようと思った事があったが、特になんでもない極普通のハサミでは魔力で強化された髪の毛1本さえ切れなかった。それでも無理に切ろうとしたら、鉄製のハサミがベルの力に耐え切れず折れて真っ二つになった。つり橋を支えるワイヤーも真っ青の強度である。

 私の髪の毛はどういう構造をしているのだろうか。不思議パワーで強化されているにしても強靭すぎだ、手触りはいいのに。


「ベル様~。朝ごはんできましたよ~」


「ん、今行く~」


 まだ寝惚けの延長戦に居たベルだったが、本日の料理番であるアルの声を聞いて声を返す。
 途中まで進めていた着替えを手早く終わらせ、皆が待つ食卓へ。いい香りに鼻をくすぐられたベルは、ここでようやく完全に意識を覚醒させる。同時に寝た後から今までの記憶も消去させるのが問題だが、本人は忘れている事さえ忘れているので変えようも無い。
 巣から連れてきたメイド4人にベルを加え、5人はタイミングを合わせて仲良く食事前の挨拶を交わす。


「「「「「いただきま~す」」」」」


 本日のメニューはご飯に味噌汁に卵焼きとアジの干物、という日本的な朝食だった。意外にも燃えるような赤毛かつ男勝りな所があるディーが一番の料理上手で、今日の担当は彼女だったらしい。ご飯の炊き具合は硬すぎず柔らかすぎず丁度いいし、砂糖を入れた甘い卵焼きも焦げたりせずにふんわりと焼きあがっている。味噌汁の加減も申し分ない。
 ベルはメイドらと会話を挟みつつ、楽しく食事を終えた。膨れたお腹をさすりながらベッドへと戻る。


「魔法書は読み終わっちゃったし……。久しぶりに魔法の練習でもするかな」


 食後は済ませたベルは暫くぼんやりしていたが、ふと思い立って竜の村の外れまでやってきた。この前ブラッドが落下して広場になった場所だ。
 竜の村には周囲の森も含めて管理人が居るらしく、戦場跡のようだった悲惨さは影も無い。それでも完全に爪痕を消す事は不可能だったようで、周囲の森と比べるとまだ浮いている。草しか生えていない空白地帯になっていた。


「そういえば、飛ぶ時のポーズどうしよう……。スーパーマンスタイルは恥ずかしいから嫌だし、普通に立ったまま飛ぶと、下からパンツ見られるんだよなあ……。逆に考えるんだ、脱げばいいんだ。パンツじゃないから恥ずかしくないもん! とはいかないし……」


 広場の真ん中に降り立ったベルは、自分のスカートが風圧で捲くれ上がったのを見てばつの悪そうに手で抑える。料理に目覚めつつあるリュミスさんに呼ばれて料理を教えに行った際、特に気にせずに居たらマイトに注意されたのを思い出した。

 魔法少女といえばスカートが鉄板なのに、実際に空を飛べる人間とスカートは相性が悪いらしい。最近ではいい年齢になってきた某魔法少女もスカートだったが、地上に居る一般人が彼女を見上げたら物凄く間抜けなのではないだろうか。それともバリアジャケットは俗に言う絶対領域を発生させる機構も組み込まれているのかもしれない。ベルはアニメを軽く見ただけなので、詳しい設定は知らないのだけれども。


「認識阻害の魔法ってあったかなあ……? 後で探してみよう……。そういえば、そういうのが無いゼロ魔ではどうしているんだろう? パンチラ天国?」


 系統魔法を使えないルイズがミニスカートなのはいいとして、キュルケやタバサなどごく普通にメイジをやっている少女たちはどうやって隠しているのだろう。トリステイン魔法学院の制服はミニスカートのようだし、それを着用したままフライの練習などを行ったらストライク魔女アニメ並みのパンツ天国になりそうである。あの世界のメイジは貴族とほぼ同意義で、貴族の証であるマントを身に着けているはずだから、それで隠すのだろうか。むしろ女性がパンツを隠すためにマントが貴族の証になったとも考えられなくもない。

 それ以前に、メイジの学校で女生徒の制服をミニスカにするとか責任者は頭がおかしいんじゃないだろうか。学院長であるオスマンの趣味にしても年頃の女の子に対して間接的に露出を強制するとか変態すぎるし、そもそもパンチラは日常的にしていてはダメなのだ。偶然にチラッとしか見られないからこそ価値があり、その一瞬を目撃してこそパンチラたりえるのである。秘密の花園は隠されてこそ、だ。


「……ベル、何を言っているんだ?」


「ぬおおっ! ぶ、ブラッドさん?! なぜここに……」


 ベルは突如として背後から掛けられた声に本気で驚いた。気付かぬ内にパンチラについてブツブツと独り言を言っていたらしい。これにはベル自身でもドン引きだった。更には9割以上ジョークとはいえ 『周囲の大気を操り、ごく自然にスカートが軽く捲り上がる程度の突風を起こす魔法』 を練習していた事が露見したら、ダブルコンボでダメージが飛躍的に跳ね上がる事は間違いない。黒歴史とかそんな生易しい言葉では言い表せないだろう。ベルの背中に冷や汗が伝った。


「いや、ただの散歩だが……。ベルの声が聞こえてな。何をやっているんだ?」


「え、そ、そのですね……ま、魔法! 魔法の練習ですよ!」


 ほら! という掛け声と共に悪戯な風さんが広場を吹き抜け、ベルの膝まであるスカートをふわりと持ち上げ通り過ぎて行った。ブラッドの目にはバッチリ純白の下着が捉えられた事だろう。
 彼は何と返したらいいのか分からないようで固まっている。ベルも自分の行動に自分でショックを受けて固まった。


「あー、なんだ……。すまん」


 今日も竜の村は平和だ。










 予期せぬ遭遇から一週間後。ブラッドに 『努力家だけど天然』 属性だと認識されてしまったベルは、ベッドの上で身悶えしながら転がったりメイドに慰めて貰ったりしつつ引き篭もっていた。

 もっとも普段からそんな調子なので第三者から見れば大差ないのだが、自分の容姿は認識していても理解していないベルからすれば可愛い系の女の子にしか似合わないであろう “天然” だなんて萌え属性を身に付けた覚えは無く、特に努力を重ねている気も無かったので二重に恥ずかしかった。
 ベルが魔法の練習をするのは全くの自己満足にして暇つぶしでしかない。人間だって年に何回かは無償に体を鍛えたくなったりするもの、ベルが魔法の練習をするのはそんな衝動に駆られたからだ。ラノベしか読んでいないのに読書家だと持て囃されている気分である。


「失礼します……。ベル様、マイト様がいらっしゃいました」


「……? わかった」


 ベルは一瞬だけ困惑の表情を浮かべたものの、マイトと会うのはいい気晴らしになるだろうと思ったので素直に迎え入れる事にした。ベッドから降りて鏡の前に立ち、軽く衣服の乱れを整える。さりげなく手伝ってくれるメイドに礼を言ってから応接間へ向かうと、やや緊張したような真剣な面持ちをしているマイトの姿が目に入った。


「突然、すまないな。……ライアネさんの事で、話があるんだ」


「ライアネさんですか……? 計画では、もう少しブラッドさんとリュミスさんが親しくなってから、の予定だったと思いましたが」


 聞き様によっては物騒にも聞こえるかもしれないが、ベルとしては極めて平和的な解決を目論んでいた。
 ライアネは珍しい物が大好きだし、彼女のENDでも分かるように一か所に留まり続ける事をよしとしない。ブラッドの事は嫌いではないにしろ執着心を抱くほどではなく、リュミスが正面から頼みさえすれば後腐れなく許嫁の座を譲ってくれるだろうと見ている。これはマイトが可能な限り遠まわしに、だが間違いがないように確かめた。ライアネは巣の中で延々と子作りに励むだけの婚姻生活より、世界中を自らの足で歩きまわる生活を望んでいる。

 彼女を後押しするべく、ベルはギュンギュスカー紹介に依頼して各地に点在する遺跡やダンジョンの情報を集めていた。既にその数は300にも上っており、竜としての力を使わずに攻略するのなら、移動だけでも数十年はかかるだろう。まずライアネさんとリュミスさんが話し合ってブラッドを譲ってもらい、然る後に報酬としてダンジョンの分布図を渡すことで疑似的に行方不明になって貰う。これを建前にリュミスをブラッドの許嫁としてねじ込む算段である。
 原作ではマイトが竜殺しの剣を持ち、命をかけての一騎打ちの結果として導かれた答えを平和的に得られる筈だ。長老達はリュミスが落ち着く事を望んでいるようだし、ライアネさんにはほんの50年ほど世界をうろうろしてもらえば大丈夫だろう。最悪の場合はゼロ魔世界にライアネさんを放り込んで、話し合いが纏まった頃に戻って来てもらうという案もある。

 古代竜の純血種である彼女はリュミス程ではないにしろ戦闘能力がぶっ飛んでおり、もし大暴れされたら火の七日間よろしくハルキゲニアが消えて無くなるかもしれないが、この世界でライアネVSリュミスの大怪獣頂上決戦が繰り広げられるよりはよほどいい。なにせ天界や魔界を踏めて考えても圧倒的な戦闘力においては定評のある竜族である。ガチバトルなど繰り広げられたら世界が持たない。天は狂い地は裂け人間の世界では神話としてしか語られていない黙示録が現実の物となるだろう。単独でも三千世界を震え上がらせた女性を交えての修羅場など、想像するに恐ろしい。


「それは、わかっているんだが……。最近、姉さんが可愛いんだ! ブラッドの事を考えているから可愛いというのは、悔しいが……。ともかく、もっと姉さんを幸せにしてやりたいんだ! ベル、どうにかならないか……?」


「は、はあ……」


 拳を固めて力説するマイトの表情は本気だった。素晴らしい上達ぶりを見せるリュミスの手料理に毎回涙していたし、シスコンを拗らせたのかもしれない。


「この前なんて、ベルに貰った料理の本を読みながら微笑んでいたし……! ああ! この体に流れる高貴な血が憎い!」


 ベルは芝居がかった動作で悲哀を表現する彼を無視しつつ、感極まった彼に迫られても困るので対応策を考える事にする。
 普段はクールで知的なマイトなのだが、姉絡みとなると一周まわって基本馬鹿になってしまうのが珠に傷だ。その一途さが彼のいい所でもあるのだが。


「むう……。ブラッドさんって、人間状態じゃあ血の力を使えませんよね……? なら、その練習にでも誘ってみればどうでしょうか。竜殺しとかで血の力を抑えつけられたとしても、使用できる魔力で使える魔法を覚えておけば、そっちで対処できるみたいですし……。純血種のマイトさんにとっても、いいんじゃないですか?」


 意外にも竜殺しを目的とする人間は普通の魔法に弱いようだった。どうやら大半の竜には自らを鍛えるという発想すらないのが原因であるらしい。

 巣を必要以上に壊さないように手加減されたブレスでさえ、生身の人間が受ければ肉片一つ残らない。鉄壁を思わせる高価な魔法防具を身につけていても、竜の爪が掠っただけで腕や脚は簡単に飛ぶ。必然的に竜を相手にするなら攻撃は可能な限り回避する事が前提であり、避けるのが難しいブレスから生き残るための防具をチョイスするのが一般的のようだ。少なくとも両親の巣では、これが常識だった。

 竜殺しを狙う人間は事前の準備も抜かりなく、烈風竜の巣に挑むなら風属性のブレスを防げる魔法防具を身につけるし、火炎竜なら炎を防ぐ物を選ぶ。すべての竜族に対して効果のある竜殺しの剣や一部特殊な魔法防具でもあれば別にしろ、種族的には下級魔族にさえ劣る人間が竜を相手にしようというのだから、竜の傲慢さや油断を突くしか道はない。どれ程才能があって鍛え上げられた人間でも、正面から竜と組み合って力比べをしたら1秒以下でミンチになる。

 だから竜に一撃を加えるには搦め手を使うか、人間にとっては目玉が飛び出るほど高い魔法武器や防具で身か固めるか。そういった準備をしても研ぎ澄まされたレイピアで鎧の間隙を縫うような綱渡りが必要になるし、勿論本人も極上より更に上のレベルが求められる。どれほど高価な防具でも竜のブレスを防ごうとしたら専用対策になってしまうのが常で、対竜用に特化しているが故に別方向からのアプローチにはものすごく弱くなってしまうのだ。奇跡が百個ほど起きれば竜に勝てるかも知れない人間が、手前にいる漆黒騎士にやられてしまったりするように。


「竜殺しか……。確かに、あれは恐ろしい武器だ。俺も二十年、三十年したら巣作りに励む事になるから、備えておくのは悪い話ではないな」


 長老の元で竜殺しの剣を見たのであろうマイトは身震いをした。心なしか彼の顔が蒼褪めて見える。
 神族が創り出した竜殺しの剣はまさにドラゴンキラーの名に相応しく、限りなく無敵に近い竜族が唯一恐れる物といっても差支えない。特に純血種であるマイトと竜殺しは相性最悪であり、通常なら近づく事はおろか視界に入る事さえ嫌うだろう。


「私は混血なので、多少はましでしょうけど……。やっぱり竜殺しは怖いですからね。備えあれば憂いなしですよ」


 竜殺しの武器や一族は大戦期に神族などによって作られた物であり、当時は全くといっていいほど居なかった混血の竜に対しては著しく効果が劣る。最多の混血竜であるブラッドなどはその最たるもので、彼にとって竜殺しは必殺の武器足りえずに物凄い攻撃力を持っただけの剣にまで成り下がる。その代償として竜としての強さはかなり犠牲になっているが、多少力が減じたとしても竜族は竜族。千人力が九百人力まで落ちたとしても人間から見れば微々たる差だし、周囲を気にする事無く暴れられる場所であれば、落ち零れの部類であるブラッドでも絶対強者である。

 並みの魔族や神族では決して追いつけない速度で、それでも悠々と上空数千メートルにいる竜を撃ち落とす魔法など無い。人間が使用できる魔法では逆立ちしても届かないし、戦闘機を豆鉄砲で撃ち落とそうとするようなものである。単純な頑丈さなら竜族は三大世界一といってもいい種族だ。自重が2000トンを超える竜がうっかり転んでも鱗はびくともしないし、軽く20メートルほどジャンプしただけで足の裏がズタズタになったり骨が折れたりする竜など聞いた事も無い。そこに脆弱な人間の肉体をも鋼のように強化する事ができちゃったりする魔力やら魔法やらが加わったとなれば、竜の鱗がどれほどの強度を持っているのか計算する事を放棄しても誰も責めはすまい。


「だが……。ブラッドのやつが力を暴走させてしまったら、どうするんだ?」


 マイトの言う事はもっともだった。ブラッドは不用意に暴走させないために普段は平常心を心がけているようである。彼の血の力は混ざりすぎて不安定であり、一種の封印状態でもある人間の姿で故意に血の力を引きだし魔法を使わせようとするのは非常に危ないのだが、ベルには絶対に安全だと言い切れるだけの確信があった。


「それについては、リュミスさんが一緒に居れば大丈夫でしょう。多少暴走しても彼女なら睨むだけで抑えられると思いますし、暴走するといってもブラッドさんの本能ですからね。最近は殴られてないので慣れて来たかもしれませんが、リュミスさんに襲い掛かる気概は無いでしょうから」


「なるほど。それなら安心だな」


 さらりと言い切るベルと、納得の表情を浮かべるマイト。
 この時、竜の村のどこかでブラッドさんがくしゃみをしたとか何とか。




-------
ゼロ魔はどうしたって? 幻術だ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024335861206055