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No.8484の一覧
[0] 【習作】使い魔ドラゴン (現実→巣作りドラゴン×ゼロの使い魔)転生・TS・オリ主・クロス有[ブラストマイア](2010/11/15 03:08)
[1] プロローグ[ブラストマイア](2009/05/06 14:31)
[2] 第一話[ブラストマイア](2009/05/06 14:32)
[3] 第二話[ブラストマイア](2009/05/06 14:33)
[4] 第三話[ブラストマイア](2009/05/06 14:41)
[5] 第四話[ブラストマイア](2009/05/09 20:34)
[6] 第五話[ブラストマイア](2009/05/13 01:07)
[7] 第六話[ブラストマイア](2009/05/27 12:58)
[8] 第七話[ブラストマイア](2009/06/03 23:20)
[9] 第八話[ブラストマイア](2009/06/11 01:50)
[10] 第九話[ブラストマイア](2009/06/16 01:35)
[11] 第十話[ブラストマイア](2009/06/27 00:03)
[12] 第十一話[ブラストマイア](2009/08/02 19:15)
[13] 第十二話 外伝? メイドな日々[ブラストマイア](2009/11/12 19:46)
[14] 第十三話[ブラストマイア](2009/11/13 06:26)
[15] 第十四話[ブラストマイア](2010/01/16 23:51)
[16] 第十五話[ブラストマイア](2010/11/15 03:07)
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[8484] 第十四話
Name: ブラストマイア◆e1a266bd ID:fa6fbbea 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/16 23:51
 風の吹きぬける裏庭にて、二人はしばしお互いを見つめ合った。上空では白い雲がゆったりと流れていく。

 平行世界ではトリステイン学院春の使い魔召喚の儀式にて、そりゃあもう色々な使い魔を呼び出しているルイズだが、さすがに自分が召喚されてしまった経験は多くない。そのため二人揃って完全な思考停止状態に陥っており、ベルは 「こんな時の事を何て言うんだっけ? ああ、ポルナレフ状態か」などと考えていた。
 もしかしたらルイズは時計型麻酔銃を装備している少年探偵でも召喚しており、その代わりに黒の組織の取引現場を見てアポトキシン4869でも飲まされたのかと思ったが、どうにも違うようだと思い直す。
 服装がアニメなどでお馴染みのトリステイン学院の制服ではない。動きやすさと丈夫さ、そして着心地を重視した私服のようだ。貴族の証であるマントも羽織っていないし、身長だって10歳にも届いていないように見える。おそらく物語として観測される数年前なのだろう。


「え、えっと……。初めまして、人間さん? 私はこの世界でも最強の部類に入る竜族の一員で、大空を自在に翔る烈風竜の末裔であるベルティーユよ。今年で100歳になるわ。今日は世界を繋ぐ魔法の実験をしていたら、何故か貴方が出てきてしまったのだけれど……」


 もしやルイズではなく、ラ・ヴァリエール夫妻が頑張って四女を作ってしまったのではないかと考えたベルは、ともかく自己紹介をしてみる事にした。
 貴族らしい格式ばった挨拶は竜族にとって不要なものであり、焦っていた事もあってかなり適当だったが、ともかく向こうに通じればいいのだ。そもそもトリステイン風のやり方なんて知らないし、向こうだってこっちのやり方などは知らないのだから、それっぽく聞こえれば十分だろう。
 いきなりこんな事を言われて納得する奴は居ないだろうが、それならちょいと魔法を使って天候の一つでも変えて見せればいい。雪でも雨でも望みどおりに降らしてやれば、よほど疑り深い人間でもなければ信じてくれるはずだ。


「へ!? りゅ、竜……!? あ! そ、その……。私は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです! と、歳は、10歳で、えっと、使い魔召喚の魔法を練習していたら、間違ってゲートに……」


 ルイズも10歳にしては頑張って挨拶を返したが、最後まで言い切る前に顔を真っ青にして慌て始めた。手に持っていた指揮棒サイズの杖を取り落とし、特徴的なピンク色の長い髪を振りまくように首を巡らして、端正な顔に涙を浮かべながら困惑している。
 小さな口からは焦りと恐怖を含んだ小さい悲鳴が漏れており、鳶色の大きな瞳からは今にも涙が零れ落ちてしまいそう。魔法がどうとか竜どうのという以前に、自分が潜ってしまったゲートが消えた事で帰れなくなったと思い込んでいるのだろう。その素振りは小動物染みていて非常に可愛いのだが、非常に罪悪感を誘うものだ。少女を泣かせる趣味のないベルは助け舟を出した。


「ああ、ゲートの事なら心配しないで。足元の魔方陣は私の家の中にゲートを繋ぎ直す作用もあるから、問題が発生していない限りまだ繋がっているはずよ。安全の確認があるから、1,2週間ぐらいは時間を取られるかも知れないけれど、ちゃんと返してあげるわ。私は人間を使い魔にする趣味もないし」


 ベルは自分より少し低い位置にある少女の顔をまっすぐ見つめ、鎮静の作用のある魔法をかけながら優しく抱きしめた。子供らしい高い体温を肌で感じる。
 初対面の相手にいきなり抱きつくなんて、馴れ馴れしいと拒絶されるかと思ったものの、ルイズは多少戸惑った後でそっとベルの腰に手を回してくれた。
 お互いにお胸が小さい体系であるため抱き心地については一抹の不安があったものの、たった独りで異国の地に放り出されてしまったルイズにとっては頼れる温もりになれたようだ。落ち着いた後で先ほど落としてしまった杖を拾い上げると、ルイズは照れながらも感謝の言葉を呟いた。


「あ……あ、ありがとう、ございます……。えっと、私が住んでいたのは、ハルケギニアのトリステインという国で……。ああっ! 本当だ! つ、月が一つしかない! やっぱり、異世界なんだ……」


 冷静になったルイズと情報を交換してみると、見たことのない魔法や月の数が少ない事に多少驚かれたものの、ともかく害意がないとは信じてくれたらしい。帰るまではお客様としてベルの家に滞在する事になり、ルイズはラ・ヴァリエールの名前の下に保護を求め、代価は家名にかけて約束すると宣言した。
 格式ばったそれをしっかりと行うルイズの姿は驚くほど様になっていて、大貴族の娘なのだなあと実感する。驚きを感じたベルが聞いてみると、どうやら浮遊大陸であるアルビオンに家族で旅行へ行った際、万が一にも迷子になった時のために、と覚えこまされたらしい。
 しかし異世界で竜を相手にして言うとは思って居なかったようで、まさかこんな場所で役に経つなんてと笑うルイズに、ベルは心からの微笑を返した。






 ルイズは自分より頭一つ分背の高い銀髪の少女の背中を追いかけながら、多少の不安は残しつつも安堵していた。
 いつものように魔法の訓練を行い、いつものように失敗続きで逃げ出して、まさかそれが異世界へ旅立つ切っ掛けになるとは……。まるでちい姉さまと一緒に読んだお話の主人公になってしまったよう。けれども私は主役になりきれず、ラ・ヴァリエールではない城の影を見て反射的にパニックになってしまった。
 ベルさんが落ち着かせてくれなかったら、きっと泣いてしまっていただろうとルイズは思う。初対面から変なところを見せてしまい、少し恥ずかしい。

 まさかサモン・サーヴァントの呪文が成功したと思ったら、地面に躓いて自分がゲートに飛び込んでしまうなんて、夢にも思っていなかったのだ。
 ルイズは同年代の子供らが次々に成功させている魔法が、自分だけはどれほど努力を重ねても上手く行かない事に、多分の苛立ちと少量の恐怖を感じていた。もしかしたらずっと魔法を使えないままなのではないか。このままではラ・ヴァリエールという長い伝統を持つ名家の三女として相応しくないのではないか。その考えは常にルイズの中にあった。
 そして今日、魔法の練習が上手く行かない事で噴出してしまって、小さな泉の畔で泣いていた時。

(そうだ、あの呪文が成功すれば……!)

 一つ上の姉であるカトレアがたくさんの動物に囲まれている事を思い出し、自分を慰めてくれる存在が欲しくなった。
 サモン・サーヴァントの呪文は危険な動物が召喚される事もあるから、と両親には止められていたが、姉の部屋にいる動物たちは皆優しく仲良しである。自分が呼び出す存在だってきっとそうで、無条件に自分と友達になってくれると信じ込み、何度失敗しても杖を振り続けた。
 そして失敗の回数を数える事さえやめた頃、ついに成功してゲートが開き……。慌てて駆け寄りすぎて、小石に躓いて自分がゲートを潜ってしまったのだ。




「それにしても、異世界かぁ……」


 ルイズは魔法を得るために様々な本を読んだ事がある。各国から取り寄せられた書物の中にはイーヴァルディの勇者のような御伽噺も数多くあり、その中には魔法の暴走で異世界に飛ばされてしまった、という冒頭からスタートする物もいくつかあった。
 魔法の無い世界で苦労しながらも一国の王にまで上り詰めるメイジの話だとか、蔓延っていた化け物を倒して英雄へと成り上がる少年メイジの話、庶子として生まれた平民のメイジが貴族になる話など、どれも胸を躍らせる冒険活劇である。魔法を不得手とするルイズだからこそ、そういった話には憧れていた。
 周りの皆が当然のように使えるのに、自分だけはどれほど願っても手が届かないもの。憧れるなと言う方が無茶だろう。

 しかしお話の中であってさえ、最初は異なる世界の常識だとか不便さに打ちのめされ、挫折しそうになってしまう事が多いのもまた事実。

 様々な物を作り出せる錬金の魔法や、空を自由に駆けるフライ、敵を焼き尽くすファイアーボール、傷を治すヒーリング。そういった貴族ならば使えて当然の魔法さえ満足に扱えない自分が、両親の庇護の及ばない世界に放り込まれてしまっていたら、とても生活してはいけなかっただろうとルイズは思った。
 一人では何も作れず、どこへも行けず、誰も倒せず、誰も治せないメイジなんて、それこそ常日頃から統治されるべき存在であると教えられている平民と同じではないか。お話の中でそうであったように、貴族だからと威張り散らしたとしても意味が無い。それどころか魔法が無ければ馬鹿にされるだけである。

 恥ずかしながら数年ほど前に、私も魔法が暴走してしまったらどうしよう、と姉に泣きついた事がある。今思い出すとちょっと恥ずかしい。
 少々キツイ性格をしているエレオノール姉さまには馬鹿にされたけど、その後で魔法の練習に付き合って貰えたし、優しいカトレア姉さまには優しく諭してもらった。あの時は色々と考えたけれど、まさか事実になるとは。


「ほんと、ゲートの先に居たのがベルさんでよかった」


 もしも物語のように狼の群れの中へ落ちてしまったり、性悪な奴隷商人に捕まったりしたら大変だ。ルイズは人生の大半を屋敷の中で過ごしているし、外に出たとしてもラ・ヴァリエールの領地から出る事は少ない。魔法だって満足に使えないから、絶対に生きては帰れないだろうと分析する。

 異世界、と考えた際、何故か異国風な青い服を着た黒髪の少年が脳裏に浮かんだものの、ルイズの好みからは大きく外れているのですぐに忘れた。
 両親の口約束ながら許婚候補になっている、お隣の領地のワルド青年のような、頼れる存在が好きなのである。鈍感で気が利かない粗野な平民の子供など、よほどの理由がなければ気にも留めないだろう。

 そういう意味では、落ち着いていて話しやすかったベルさんは満点であった。お胸は小さいけどちい姉さまのような包容力が在るとルイズは思う。
 混乱していた自分を優しく抱きしめてくれたし、言葉に詰まれば無闇に急かしたりせず、じっと待っていてくれた。魔法が失敗した時に小石が当たって怪我をしてしまった指先だって、軽く指を動かしただけで治してくれた。多くの大人のように嫌な雰囲気も感じなかったし、貴族の鑑のようではないか。
 彼女は自分の事を竜だと言っていたけれど、見た目からは極普通の人間にしか見えなかったなと思う。


 魔法に詳しくない人間からすれば竜が人の姿を取るなんて思わないだろうけれども、勉強熱心なルイズは知っている。ハルケギニアにも韻竜(いんりゅう)と呼ばれ、高い知能を持ち人間との会話も可能にしている竜の種族がいる、と本に書いてあった。
 成体だと20メイルにもなり、千年以上の寿命を持つ。それにエルフと同じ先住魔法の使い手であるとも書かれていたので、姿形を自由に変えるぐらいは出来るのだろう。恐ろしいエルフとは違って人間に友好的である事が多く、国旗に竜を使用している国もあるほど象徴的な存在だった。
 
 歳経た固体になればスクェアメイジさえ凌ぐと言われていた強さもあってか、韻竜が居たと言われている数百年以上前には、始祖が竜から力を与えられたという説もあったらしい。中には始祖は人に姿を変えた竜であった、という過激な説だってあったほどだそうだ。
 ロマリアなどの神官が 「竜への信仰は始祖への冒涜に繋がる」 等と異を唱えたために今ではほぼ消滅しているそうだが、竜が使い魔の中では特別であるという事実だけは変わっていない。
 多くのメイジにとって竜を使い魔にする事は最上の誉れとされているし、竜の中であってさえ特に優れているとされる韻竜となれば、それだけで特別視されるのも当然と言えよう。ルイズも憧れである母のような強い魔法使いになり、竜を使い魔にしたいと思っているメイジの一人だった。



 彼女が本当に竜であるかは別としても、極めて高い地位に居る事は間違いないだろう、とルイズは思う。

 彼女の着ていた服は布や染料を贅沢に使っており、補修などの跡は一つも無かった。しかもラ・ヴァリエールというトリステインきっての大貴族の三女である自分の服と比べても見劣りしないどころか、むしろベルさんの着ていたそれの方が一枚上手なほど素晴らしい品だったのだ。
 美しい銀髪をした凄く綺麗な人(竜?)だったし、殊更富を主張するような宝石や刺繍など無くとも、そのまま社交界で使うドレスとして通ってしまいそう。
 それに、このお城はベルさん個人の所有物であるらしい。大きさや調度品の質もラ・ヴァリエールの屋敷と比べても遜色が無く、魔法先進国であるガリアの王宮『グラン・トロワ』だってここまでではないかもしれない。ルイズの基準でも凄い人だった。


「ここの魔法なら、私も使えるのかな……?」


 ここに仕えているメイドは一人残らず、メイド村のメイド族という冗談みたいな場所(マカイ、という地名?)の出身らしい。
 しかもベルさんから聞いた限りでは生まれつき魔法が使え、最低でもドット以上の魔法を手足のように使いこなしているのだと言う。主に使っているのは埃を集めて空気を綺麗にする魔法だとか、朝忙しい時に身支度を整える魔法、眠気を覚まして頭をスッキリさせる魔法、などと驚くほど身近な内容で物凄く驚いた。
 そういう風に魔法を使うのは貴族らしくないと思ったけれども、ハルケギニアで一般的な系統魔法が使えないルイズにとっては非常に魅力的に映る。お風呂から上がったらベルさんに頼んで、いくつか呪文書を読ませて貰おうと決めた。


「はあ、凄くいいお湯……」


 ルイズは小さくて細い手足をんーっと伸ばし、全身を蕩かすような暖かさを堪能していた。心地よくて鼻歌の一つでも歌いたくなる。
 詰め込めば三百人近い人間が入れそうなほど広い大浴場を、今はルイズだけで独り占めしているのだ。これで気分がよくならない訳がないだろう。

 それもいくつかある浴槽ごとに湯の温度が微妙に違っていて、熱過ぎず温過ぎず自分の好みの湯加減を探し当てる事ができた。自分の長いピンクの髪が湯船に広がるのを横目で見ながら極限まで脱力していると、このまま魂までぽわぽわと浮かんで行きそうになる。目を凝らしても汚れ一つ浮いていないお湯からは柑橘系の果物の香りが漂っていて、リラックスのあまり寝入ってしまいそうになるのをギリギリの所で防いでくれていた。

 大量の燃料と綺麗な水を必要とする湯浴みは金持ちの特権であり、トリステインでは貴族でも魔法で暖めた湯を浴びる程度で済ませる事が多い。火のメイジなら自分の魔法でお湯を温める事もあるが、これだけ大量の水となればトライアングル以上の腕前が無いとキツイだろう。客人であるからしていきなり無茶は言えないし、後で濡れタオルでも貰おうと思っていたルイズにとっては望外の幸運だった。
 失敗魔法で大量の砂埃を浴びていたため、実を言うと体のあちこちがジャリジャリしてかなり不快だったのである。擦れて肌が赤くなってしまう前にさっぱりできてよかった。


「ちょっと、のぼせちゃったかも……」


 ルイズは新しい生活に対する不安を汗と一緒に流し終えると、長湯のために若干ふらつきながらも脱衣所へと向かう。






 客人の少女が身奇麗にしている頃、ベルと言えば逆に埃を被っていた。
 体に付着する前に防いでいるので汚れはしていないものの、舞い上がる白い粒子を見ると咳が出そうになる。いい加減に掃除が必要だろう。
 最初は広々としてクリーンだった工作室も、数十年以上に渡って作られたガラクタで埋まれば手狭になると言うものだ。隅のほうには棚が乱立しており、しかも馬鹿なアイテムが多すぎて見られると恥ずかしいため、本人以外は掃除が出来ない。そして本人と言えば怠惰なので、掃除をあまりというか殆どしない。

 例えば街でモヒカンの男を見かけたので作ってみた火炎放射器は鋼鉄を数秒で焼ききるパワーがあるし、同じ漫画のネタ繋がりで作った人間大砲は30キロ先まで人間を安全に発射できる。ただし着地までは面倒を見られないので、そこは本人の努力に任せるしかないという欠陥品だ。元ネタは南斗人間砲弾である。
 数年前まではリュミスによって、ブラッドの飛行訓練の教材として実際に活用されており、彼が人間状態でも自在に空を飛べるようになるまでは現役であった。
 その他にも反発係数を1.5倍に設定してあるホッピングシューズ(一度履いたら自力で浮かないと止まらない)とか、両腕につけて羽ばたくと空を飛べるようになる腕輪(普通に飛べるし馬鹿らしくなって10分で飽きた)とか、他人の目線を感知して下着をガードする絶対領域ミニスカート(正式名称:パンツがなくても恥ずかしくないもん!)など、馬鹿なアイテムばかりである。


「流石、私だ。作る物に一貫性が無い。……っと、この指輪は使えそう」


 ベルはロケットパンチが出来る真っ赤なボクシンググローブを投げ捨て、その代わりに小さな箱に入っている一対の指輪を拾い上げる。
 これはブラッドが魔力操作の練習をする際に活用できるだろうと作ったものであり、指輪には竜から見れば少量の、人間から見れば相当な量の魔力が篭っている。これを両の人差し指に嵌めると害にならない程度の魔力が体内を循環するため、魔力の無い状態でも魔法が使えるようになるのだ。
 ブラッドがリュミスの影に怯えながら必死になって魔力の操作を覚え、自前の魔力を活用できるようになってからはお蔵入りしており、たまにアルやベッタの知り合いに(外部バッテリーとして)貸し出される程度だったが、世界観の違いから魔力があるか不明であるルイズにはぴったりだろう。

 その他にも魔力の流れを滑らかにしてくれる効果のあるネックレスを発掘していると、部屋の入り口からノックの音が響いた。


「ベル様、失礼しまーす。ルイズ様がお風呂から出ました」


「わかったー。ありがとね」


 ベルはドアの隙間から顔を覗かせたメイド8号にお礼を返し、魔法で綺麗にしたネックレスと指輪を持って立ち上がった。
 召使いとその主人が交わすには気軽過ぎる物言いだが、権威なんて威張るのに必要なだけだとベルは思っているので、この家では皆こんな感じだ。
 ブラッドやマイトの家でも似たような感じらしく、竜なのに気さくで仕え易いと上々の評判であるらしい。


「さて……。ギュンギュスカーの人が来るまで、ルイズちゃんと魔法の練習でも……。多分、知りたいって言うだろうし」


 ハルケギニアとこの世界の文字が同一であるか不明だが、他にも簡単な魔法書などは確保してあった。最低限、本日はこれでいいだろう。
 それにギュンギュスカー商会には 「新たな世界を発見したので調査団を派遣して欲しい」 と要請を送ってあるし、新たな家族であるルイズのためにメイドを3人ほど追加で雇う事、子供服を買う事も一緒に伝えてあるので、1時間もすれば専門のスタッフが駆けつける。その際には移動店舗のような物を引き連れてやってくるため、追加でやってくるメイドさんと一緒にルイズの服を買ったり、軽い歓迎会を開くための食材を購入したりする予定である。

 急な話だからキッチンメイドらには苦労をかけてしまうし、食べる人数が増えるのだから、そちらの方にも追加で一人二人雇う必要があるかもしれない。
 世界間の交易が認められればお金は腐るほど、というか現状でも腐っている気がするが、ともかくいっぱい手に入るのだ。買い物に付き合わせるという名目で皆を連れ出し、好きな物でも買ってあげようと思う。ルイズには「家に帰れなくて寂しい」と思わせるより、「もう帰らなければならないから寂しい」と言わせたかったし。

 ベルは鼻歌を歌いながら廊下を歩き、小さな客人の待つ部屋へと向かった。



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