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No.8484の一覧
[0] 【習作】使い魔ドラゴン (現実→巣作りドラゴン×ゼロの使い魔)転生・TS・オリ主・クロス有[ブラストマイア](2010/11/15 03:08)
[1] プロローグ[ブラストマイア](2009/05/06 14:31)
[2] 第一話[ブラストマイア](2009/05/06 14:32)
[3] 第二話[ブラストマイア](2009/05/06 14:33)
[4] 第三話[ブラストマイア](2009/05/06 14:41)
[5] 第四話[ブラストマイア](2009/05/09 20:34)
[6] 第五話[ブラストマイア](2009/05/13 01:07)
[7] 第六話[ブラストマイア](2009/05/27 12:58)
[8] 第七話[ブラストマイア](2009/06/03 23:20)
[9] 第八話[ブラストマイア](2009/06/11 01:50)
[10] 第九話[ブラストマイア](2009/06/16 01:35)
[11] 第十話[ブラストマイア](2009/06/27 00:03)
[12] 第十一話[ブラストマイア](2009/08/02 19:15)
[13] 第十二話 外伝? メイドな日々[ブラストマイア](2009/11/12 19:46)
[14] 第十三話[ブラストマイア](2009/11/13 06:26)
[15] 第十四話[ブラストマイア](2010/01/16 23:51)
[16] 第十五話[ブラストマイア](2010/11/15 03:07)
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[8484] 第十三話
Name: ブラストマイア◆e1a266bd ID:fa6fbbea 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/13 06:26
 100歳の誕生日を迎えても肉体的には殆ど成長していないベルは、やはり最初見た時から何も変わっていないリュミスベルンと向き合っていた。
 場所は毎度ながらベル宅の応接間であり、主にリュミスが一方的に喋っているだけではあるが、第62回 「愛の巣作成大作戦(ベル命名)」 が進行中である。
 高級感漂うテーブルを踏み潰さんばかりに身を乗り出しているリュミスに押されながら、ベルは取り繕った苦笑いで聞き返した。


「……ええと、マイトさんに巣作りをさせるんですか? 随分と急ですね」


 これほどブラッドを思っているリュミスであるが、思い過ぎているからと言うべきか、未だにブラッドの婚約者になった事さえ話せていなかった。
 二人っきりになっても彼の事をパシリにしたり、照れ隠しにサンドバッグにしたりする事こそ無くなったものの、普通に話せる領域には未だ達していない。緊張して顔が無愛想になってしまい、不機嫌になったのかと恐怖するブラッドを見ては、どうにかして笑顔になろうと更に緊張して、というループから抜け出せないのだ。


「そう! 私がこんなにブラッドを好きなのに、ブラッドがプロポーズしてこないのは、切っ掛けが無いからよ!」


「はぁ……。それとマイトさんの巣作りと、どういった関係が?」


 ベルは興奮している彼女を宥め、大まかに答えを予測しつつも聞き返した。
 リュミスは額が触れそうなほど近付けていた顔を引き、さも素晴らしいアイデアを聞かせてやるとばかりに胸を張る。


「マイトが巣作りを始めれば、ブラッドだって結婚を意識するに違いないわ! 私がブラッドに思いを伝えるのが難しいなら、向こうから伝えて貰えばいいのよ! プロポーズは男からする物だって、本にも書いてあったし……。それに、マイトがブラッドを手伝えば、巣作りする時だって役に立つ。一石二鳥じゃない」


 熱弁する彼女に対し、はあ、と気の抜けた返事を返す。

 ブラッドの事になると周りが見えなくなる性質のリュミスではあったが、ベルの事は恋愛関係を相談できる数少ない友達として信頼してくれているため、絶対に実現不可能だろう無茶を言われる事は少ない。
 そういうのはいくら酷使しても問題ないと断じている方、つまりマイトに伝えられるからだ。
 まあ重度のシスコンである彼は、リュミスの役に立てるならと大抵の事を受け入れてしまう部分があり、こき使われる姿は何だかんだ言いつつも幸せそうではある。ベルもたまに彼の愚痴に付き合っているものの、リュミスの事を話すマイトの姿はどこか誇らしげだった。


「えっと、それはいいアイデアだと思いますが、そうなったらブラッドはライアネさんのために巣作りしてしまうのでは? 勿論、リュミスさんがライアネさんに劣るという訳ではないですから、自分が新しい許婚だと伝えられれば別でしょうけど……」


 その言葉で自らの前に立ち塞がる問題点を自覚したのか、リュミスの額に刻まれている皺が深くなった。
 人間の学者が数十人がかりでも太刀打ちできないほどの知識を蓄え、5桁の数の二乗を1秒未満で弾きだせる頭脳を持っているのがリュミスという竜だ。生物的には間違いなくこの世界の頂点にいる彼女を、単純な問題にさえ気づけないほど混乱させられるのは、世界広しとはいえおそらくブラッドの事だけだろう。
 彼女の吐くブレスはどんな大国でも一瞬で焼き払える威力があるというのに、好いている男には愛の言葉一つ囁く事も出来ないのだから、世界ってやつは上手く行かないものだった。


「……そうね、いい機会だわ。うん、……私、今日こそブラッドに告白してくる!」


 リュミスは真紅の瞳に強い決意を漲らせ、自らを鼓舞するように両手でガッツポーズを作る。その仕草は普段とのギャップもあって物凄く可愛い。
 普段は見られない一面にこそ惹かれるのが男であるし、ほんのりと赤みが差した頬を膨らませ、好きの一言でも加えればブラッドだってイチコロだろうになあとベルは思った。彼にしても決して嫌っているのではなく、竜族最強と名高い彼女の実力を高く評価している部分はあるのだから、間違いなく落ちる。


「あ、そうだ。ちょっと待ってくださいね……」


 善は急げだと走りだそうとしたリュミスを呼び止め、ベルは数週間前に行った旅行のお土産として買ってきた飴玉をいくつか手渡す。
 大きさは小ぶりだがとても甘くて美味しい飴で、青とピンク色の包装紙には小さなハートマークが描かれており、地方に伝わるちょっとした伝説から恋愛成就の意味があるらしい。
 なんでも親同士の取り決めによって引き離された男女が、お互いに遠慮してしまって自らの思いを伝えられずに困っていたところ、妖精から受け取った木の実を食べたら心が伝わりあった、という伝説だそうだ。現代日本では陳腐な部類に入る話ではあるが、まだ活字印刷などが普及していないこの時代では中々にロマンチック。慎ましく日々を生きる村民からすれば小さな飴玉とはいえ甘く切ない贅沢品であり、実際に告白に使われる事も多々あるらしい。


「この青い方を男性が、桃色の方を女性が一緒に舐めると、お互いに秘めている思いが伝わるらしいんですよ。……まあ、人間の作り話ですし、気休めかもしれませんが、どうぞ」


「へぇ……。ん、ありがと」


 受け取ったリュミスは柔らかい微笑を浮かべ、甘い夢を見るような表情で飴を見つめる。
 恐らくブラッドとイチャイチャしている光景でも妄想しているのだろう。普段の暴君とした雰囲気は完全に消えており、そこには恋する乙女の姿があった。

 やがてそんな姿を微笑ましげに観察していたベルの視線に気付いたのか、リュミスは気恥ずかしそうに感謝の言葉を伝えるなり踵を返す。
 少々恥ずかしかったらしく、慌しくドアに手をかけた後で一瞬だけベルを睨みつけ、今の事は黙っているように、と視線で念を押した。
 その視線には洒落にならないほどの迫力が篭っていたので額に冷や汗が浮いたが、まあ毎度の事だ。何とか取り繕った苦笑いを浮かべながら見送った。




 しかしまあ、アレに晒されるのは心臓に悪い。伝説の勇者でも尻尾を巻いて逃げるに決まっている。立ち向かえるのは同じく恋に燃える女の子ぐらいだろう。
 遠ざかっていく足音が聞こえなくなった頃、ベルはふぅとため息を吐いてソファーへと体を預けた。

 いつの間にか隣に立っていたシィに、冷めてしまった紅茶の変わりにと淹れ立てのカフェオレを手渡され、感謝の言葉と共に受け取る。
 砂糖とミルクは多めに入れるのがベルの好みであり、これを作ったのはベルの嗜好を知り尽くしているシィであるから、これ以上手を加えるのは無粋だ。薄いカップを通して伝わってくる暖かさは心地よく、湯気と共に立ち上る香りも申し分ない。じっくりと時間をかけて味わう。


「ああ、美味しい……」


 竜の村に存在する最大の脅威である友人から解放されたベルは、安寧した日常生活では感じ得ない開放感を歓迎した。
 少々怖かったが、たまには悪くない。長く安定した日々は楽しいながらも少々刺激に欠け、時たまリュミスによって与えられる緊張は程よいスパイスなのだ。

 彼女にしても少々感情のぶれ幅が大きいだけで、決して人格破綻者ではないのだから、なんの意味も無く友人に暴力を振るう事などありはしない。
 竜族にしては格段に空気の読める少女であるベルは、ブラッドの事や結婚の事など地雷が敷設されているポイントも熟知しているので、藪を突付いて竜を出す事も無かった。
 毎日のようにつき合わされると疲れてしまうけれど、たまに相談に乗る分には微笑ましい大切な友達。ベルの中でリュミスはそんな立ち位置だろう。



「ねえ! ベル! 聞いているの?! 私、ついにやったのよ!」


「はいはい、聞いてますよー。……38回目ですし」


 だから今回のように連続して付き合わされるのは、ちょっと疲れる。
 ベルは39回目のエンドレスを聞き流しつつ、朝食代わりの紅茶とクッキーに手を伸ばした。

 気持ちよく朝寝坊しているところを叩き起こされ、最低限の身支度を整えるなり4時間に渡ってつき合わされている此方の身にもなって欲しいなあと思う。
 いくら長寿故に多少の退屈には耐えられる精神構造になっているとはいえ、いい加減に嫌気差してくる頃合だ。


 暇つぶしがてらにリュミスの話を再び検討してみると、どうやらあの飴玉が思わぬ効力を発揮したらしく、リュミス曰くロマンチックに……しかし話を聞く限り、かなり一方的に思いを叩きつける事には成功したらしい。たまに相槌を返すだけになっているベルに気付いていないのか、相変わらずリュミスはいかにして自分がブラッドに思いを伝えたのかを喋り続けている。
 それでもかなりの進歩といえるだろうし、曲がりなりにも思いを伝えられたのだから、それについては非常に良かったと思う。しかし照れ隠しとしてリュミスに背中をド突かれ、ギャグ漫画のように石壁にめり込んだらしいブラッドは災難だった。

 圧倒的な防御力を持つ竜状態ならスポンジにぶつかったようなものだが、人間状態では魔力を使用しにくいため、混血であり特に魔力操作が下手なブラッドでは死んでいてもおかしくない。竜の姿に戻らなかったのだから生きていたのだろうけれども、ピクニックで鍛えていなければ本気で死んでいただろう。
 それでも首の骨の1本や2本は折れている可能性があるので、後で回復魔法をかけに行ってあげようと決める。


「それでね、私はブラッドに向き合って……」


 クッキーと紅茶では朝食にしても軽すぎるが、目の前にある最高の笑顔がツマミになるなら、たまにはこんなのも良いかなと思った。






 全身を5箇所ほど骨折していたブラッドの治療をしてから、1週間。リュミスにせっつかれたマイトは慌ただしく巣作りの準備を始めていた。
 ベルはパラパラと項を巻くっていた手を止め、これから自分が行おうとしている行為は巣作りを補助する上で極めて有用である、と結論付ける。
 巣作りの後押しをするべく書物を読み解き、新たな世界を発見した者にはその世界を所有するにも等しい権利が生まれると突き止めたのだ。

 大陸間の貿易に莫大な富が絡むのは人の世の常であり、それは多少種族が違っても変化しない。自分の所に無い物が向こう側にあるのなら、多少は金がかかっても見てみたい、手に取ってみたい、味わってみたい、と思うもの。むしろ稀少であれば希少であるほど価値は上がる。
 地球でもコショウが同じ重さの金と引き換えに売られた歴史があると言われるし、目新しい物を好むのは知恵ある種族に共通する事柄なのである。
 そして、それが大陸などという小さな括りではなく、一つの世界との繋がりであったとしたら、新航路を発見した者は莫大な富を得る事になるだろう。それこそ帝国の国家予算に匹敵すると言われる竜の財宝さえも凌駕するほどに。


「にしても、やっぱり最初期を狙われた竜の巣って多いんだねえ……」


 ゲームでは序盤の強敵であるフェイさんだとか、中盤の山であるドゥエルナことライアネさんは、特定の条件を満たさなければ襲来してこない仕様になっているけれども、それはあくまでゲームの中だけの話。現実ではレベル1のモンスターを雇ったばかりなのに高ランクの冒険者が来る可能性だってある。
 というか竜の巣とはいえ、序盤は資金不足から警備が手薄になりがちであるため、冒険者にとっては狙い時なのだ。十分に育って強力な魔物が犇いている代わりに莫大な財宝がある巣よりも、多少財宝の量は劣ったとしても、魔物が弱く宝物庫にたどり着ける可能性が高い巣の方が圧倒的にいい。
 なぜならいかに財宝が少ないとはいえ、一人の人間が持ち帰れる金額には限界があるからである。何十人何百人が宝物庫へたどり着ける訳もないし、冒険者からすれば後者の巣の方がお得なのは自明の理だろう。


「あの物語にはハルケギニアしか登場していないけれど、東方だとかいう場所もあるみたいだし……。そういえば、聖地には現代にも通じているゲートもあるんだっけ? こりゃ大儲けだね」


 ハルケギニアなら石油がじゃんじゃん掘り放題~、と他人事のように呟いた。

 マイトやブラッドの為ならば数十億ブレッドの貯金を手放す事も吝かではないが、こちらにも生活がある以上、投資できる金額には限界がある。できる範囲で一肌脱ごうと思ったのだけれども、略奪は人間に愛着が出てきたのであまりやりたくない。自分の血や鱗は売りすぎると価格が下がってしまうし、武力を売るバイトは落ち零れの竜がするものらしく、普通に行うのはイメージが悪いらしい。

 そこで思いついたのが、ハルケギニアや地球との貿易である。
 大航海時代が来ていないのか、それとも東方の他には主だった文明は無いのか、今のところ海には目が向いていないらしい。
 つまり無人地帯が豊富にある可能性が高く、そこを開拓して小麦畑にでもすれば現代で売れるだろう。かすかに残る記憶では小麦が値上がりしていた覚えがあったし、石炭や石油などの資源も大量に眠っている可能性も大きい。実行はギュンギュスカー商会にまかせ、そのマージンを取るだけでも莫大な財になる。


「そう考えると、竜の巣作りって結構酷いよね。お小遣い目当てに手伝ったけど」


 しかしその台詞は、ある意味では人間であるベルだからこそ、言ってはいけない言葉なのかもしれない。
 現代でも家畜や作物に人間と同じ権利を主張する者は誰もおらず、そもそも人間には他種族の言葉が分からない以上、それこそ一方的な押し付けであると言われれば否定できない。
 鉢に植えられた花は地面に植え直せと常々愚痴っているかもしれないし、人間にとって有用かどうかで待遇が著しく違う事についても文句があるかもしれない。犬や猫は可愛いので虐めてはいけません。クジラは頭がいいので食べてはいけません。全ては人間の都合によって人間が行っている事であり、やっている事は竜と大して違いがないか、時にそれよりも遥かに残酷なのだから。


「この世に悪があるとすれば、それは人の心だ。……だっけ? 私は無害な方だと思うんだよねー」


 まあ少なくとも、ベルには大量虐殺を好き好んで行うようなひん曲がった精神と、天下統一だのなんだのという強烈な支配欲は無かった。
 そもそも世界を征服したとして、書類が増える以外に何かいい事があるのか? 根っこが一般市民であるベルにはよく分からなかったし、何より面倒事は嫌いなのだ。寝ても醒めても雪崩のように襲ってくる書類の山に対処し続ける生活はご免被る。

 ハルケギニアに行っても、民主主義最高! 立ち上がれ平民よ! 今こそ武器を取る時! などと政治形態の変更を強要する気も全く存在しておらず、無知な愚民どもを聡明な私が纏め上げてやるぜ、ぐへへへ、なんて行き過ぎた自己顕示欲も無いし、そもそも政治がどうだろうと全く興味が無い。
 何より書類仕事などは1ヶ月で投げ出したくなった口であるからして、強引な改革を進めるにあたって必要になるだろう何千何万という書類を処理する気はなかった。すべて部下に任せるのは言いだしっぺとして間違っていると思うし、そうなれば必然的に事務に参加する事になり、疲れるだろう。働きたくないでござる。


「金儲けするにも、クーさんに頼んで急激な変化は起こらないようにしてもらわないとな……。特に地球の経済は複雑で、デリケートだし、まずはハルケギニア……というか、ハルケギニアが存在する惑星の新規開拓か」


 ベルはちょっと気取った口調で話してみて、すぐに自分には似合わないなと思った。クッキーに手を伸ばしてつまみ、美味しさに頬を緩ませる。

 額に汗して働くより、シィが淹れてくれる紅茶を飲んでいる方が良い。ディーが作ったご飯を食べている方が良い。世界の壁をぶち抜く予定を持つ竜にしては無責任かもしれないが、世界がひっくり返るような影響は与えない、以上の方針は無かった。
 頼るのは世界を超えての商売のプロであるギュンギュスカー商会であるから、具体的にどうするかは完全に丸投げする予定だ。蛇の道は蛇である。
 おそらく地球でもハルケギニアでも、ギュンギュスカー商会という耳慣れない一団の名前を極稀に聞く程度で、大きな目で見れば何も変わらないのだろう。金品を吸い上げるだけのシステムはすぐに破綻してしまうから、気の長い魔族であるからして、多少時間がかかっても経済を循環させる仕組みを作り上げるはず。

 今の地球がそうだから、なんて理由でちょっかいを出すのは横暴。それこそ一方的な歴史と文化の否定でもあると共に、ありがた迷惑以外の何物でもない。
 それに貴族制度というのを人民が真に廃したいと思っているならば、それこそハルケギニアに住む民が自らの手で勝ち取るのが筋だ、とベルは思っていた。


「マイトさんやブラッドさんの巣作りは、やっぱり巣ドラ世界でやった方が良いだろうな……。ハルケギニアは竜に対して決定打を持たないはずだから、安全と言えば安全なのだけど……」


 ハルケギニアは竜が巣作りするのには向いていない。東側をエルフによって蓋をされているために、世界が狭すぎて拡張性に欠けていた。
 この巣作りドラゴンの世界において特出した才能を持つ人間は強いのだが、戦いのために作られた魔物と比べるとどうしても劣っている。
 鍛え上げた魔物を素手で倒せるほどではなく、必然的に神族や魔族が作った、極めて高額な武器防具で全身を固めており、それを奪った方が余程美味しいのだ。

 竜の宝物庫を潤わせるのは、得てして大陸に名を響かせるような勇者だとか英雄が持っている金品や高額な装備である。町や村を襲うのはそういったツワモノを引き寄せるという意味合いが強く、貢物だけで竜の巣を巨大化させようとしたら、よほどの広範囲を攻撃しなければならなくなるだろう。ハルケギニアで言えばトリステインにアルビオン、ゲルマニア、ガリア、ロマリア。全てに喧嘩を売っても足りないかもしれない。

 それに、過度の搾取は弊害も齎す。
 どうせ死ぬのなら命を賭しても憎き竜に一太刀、なんて考える貧乏人が増えるのがまず一つ。そこを治めている王なり貴族なりの力が低下して、隣と戦争になる事があるのが二つ。どちらも後処理が面倒であり、竜の巣にとっては全く美味しくない。
 戦争には莫大な金がかかり、王や貴族の収入をピンハネしている竜からしてみれば損以外の何物でもないのである。無理に取ろうとすれば隣が活気づいて余計に攻め込んできたりするし、人間というのは加減を知っているようで知らないから、やりすぎて村や町を滅ぼしてしまう事も多い。生産力が低下すれば困るのは自分だというのに、延々争い続けて共倒れする国家を見ていると、何がやりたいんだろうなあとため息が出る。


「ルイズがいい子ならいいけど、そうであっても他には実力は隠すべきだろうなぁ……。私みたいな重荷を背負わせちゃ、可哀想だし」


 向こうに行って最初に対面するだろうルイズへの対応に関しては、それはまあ彼女の出方次第というべきか、今のところは深く考えていなかった。
 歩み寄りの姿勢を見せてくれるならば、それは喜ばしい事なので受け入れる。他の竜のように人間だからと見下したりはしない。
 未来を知らないルイズからすれば理解に苦しむ思考だろうが、ベルには本来使い魔となるはずだったサイトを奪ってしまったという弱みがあるから、どこかの山からワイバーン辺りを連れてきて与えるなり、商会から護衛に適したモンスターを購入して与えるなり、ルイズが幸せだと思えるように尽力するだろう。

 だが、こちらの説得や説明に耳を貸さず、ただ一方的に使い魔になれとでも言われれば、詰め寄られた分だけ下がるしかない。
 竜と人とは立場が違う。目線が違う。歩調が違う。竜が人の生き様を尊く思い、共にあろうとするのは素晴らしい事だ。それを原作で好きだったなんて自分勝手な意思で汚すのは、自らの死角となる首の上をたった一人の人間に預け、命を共にする竜騎士という称号に対する冒涜でもある。

 その場合でも、ルイズには慰謝料として一生贅沢しても有り余るほどの金品を贈る程度は考えているものの、一緒に居てもあまり幸せな未来は築けないだろう。
 原作を知っているなどと言っても、これから会う事になるだろう人物は 『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』 という、現実に存在する一人の少女である。物語として描かれた彼女の姿はほんの一面に過ぎず、ただ自伝を読んだだけでその人間を全て理解できるはずも無い。
 原作だとこうだったから、今回もこういう行動を取るだろう、むしろ取るべきだ。などと決めつける気は無かった。結果的にそうなってしまう場合は仕方ないにしろ、原作で馬鹿だったのだから馬鹿に決まっている、だから見下して当然だ、というのはNGである。


「人間の時は、ちょっと軽く考えすぎていたかなあ……。ぶっちゃけ俺TUEEEしたかった、厨二病だし」


 ルイズは今でさえ 『魔法が使えない』 とか 『大貴族の娘』 とか 『虚無のメイジ』 という派手な看板を引っ提げている。最後の奴は無自覚にしろ、作中でもレコン・キスタだとかその黒幕であるガリアなどは知っているのだろう。ロマリア辺りは積極的に利用してきそうだった。
 ラブコメである原作だからいいものの、食事に毒などを仕込まれる理由は無数にあるはず。まだ子供であるのに毒見された後の冷たいスープを飲ませるのは可哀想だし、それだけでも大変なのだから、 『世界を破壊できるドラゴンの主』 などという称号まで追加するのは忍びない。ルイズを見ようとせず、その威光だけを見るような連中の誘蛾灯になる気は無かった。


 人間だった頃は軽く考えていたものの、竜になって百年が経ち、その力の凄まじさはよく理解している。

 思い出すのは20年ほど前にお気に入りだったレストラン。代替わりして味が落ちてしまい、倒産の危機に、なんていう極ありふれた話。
 もう一度あの味を食べたかったので、跡継ぎである息子さんへ修行の費用を投資してみた事がある。ベルからすれば数万ブレッドなど、日常的に使っているクシ1本分でしかない。またアルやベッタを誘って食べに来られるなら、安いものであった。
 しかし一般には流通の制限されている世界において、限られた素朴な素材を磨き上げる事に尽力していた彼にとって、広すぎる世界は害にしかならなかったのである。限定された範囲であってさえ伸び悩んでいた彼は料理の才能に限界を感じ、開始から数ヵ月後に首を吊ってしまった事があった。

 彼が父親を超えようと燃えていたのは事実だったし、客足が遠のいていく現実に絶望していたのもまた事実だ。だからベルはよかれと思って手を貸したのだけれども、結果として彼は自らの料理の腕に見切りをつけ、お金を返せなかった事を詫びる遺言を残して逝ってしまった。

 彼が親父さんの足元で笑っていた頃から知っていたので、今も極たまにだが、自責の念に駆られる事がある。
 ただの客として深く関らない方が良かったのではないか。そうすれば彼は自分の手で困難を乗り越え、切り開き、もっといい未来に辿り着いたのではないか。
 人間の寿命を延ばす方法などいくらでもあるのだから、死のうとする前に一言相談してくれれば、百年でも二百年でも料理の修業が出来ただろうに、と。


「……私は怖かったのかな。人と親しくなって、必ず先立たれ、おいて逝かれる事が……。って、馬鹿しい! 辛気臭く考えてもしょうがないじゃない! ……さあ、アニメを求めていざ日本! そのためにはまず、ルイズちゃんが待つハルケギニアへ!」


 ベルは頭を振って暗い話題を吹き飛ばし、今はまだ肩の力を抜いて気ままに生きようと決めた。
 細かい事を考えすぎると老けてしまう。100歳というピチピチの子供盛りなのだし、慎重になるのはいいが臆病になる必要はない。

 それにハルケギニアへの道を開くなら、やるべき事も多かった。
 転移用の魔方陣を描くために必要な材料の収集、および魔方陣を描いても問題が起きないような場所の確保、万が一の時の為にこの城へと直接ワープできるようなマジックアイテムの調達、防御魔法を展開するための触媒の準備などなど。

 召喚や移動に使用される魔法はかなり高度なもので、必要とする魔力量も膨大だ。人間ではまず間違いなく魔力不足で使えず、また移動先の座標を精確に記憶していなければならないため、遠距離を移動しようとするなら目印となる魔方陣は必須。座標が間違っていた場合はろくな事にならない。
 良くても深海と繋がってしまって鉄砲水に押し流されるとか、移動した先が何も無い宇宙空間で迷子になるとか。酷いと次元の狭間に取り残されて永久に彷徨い続ける事もあるようだ。しっかりと準備は必須だし、ベルの場合は通じている先が有益だと知っているから、他人の目に付く場所に魔方陣を設置する事も問題になるかもしれない。


「まずゲートを開通させるのだけは庭でやって、安全を確認した後で室内に繋ぎなおせばいいか。ちょっと複雑化するだろうけど、時間と魔力には困ってないし」


 やるぞーっと腕を振り上げ、その動作がちょっと恥ずかしかったので、ベルは頬を赤くした。






 それから半年ほど経った頃。怠惰と息抜きの合間にやっと世界移動の準備を整えたベルは、自宅の裏庭にて魔方陣を描いていた。
 しっかりと踏み固められた地面の上に何十枚も張り合わせて作った巨大な紙を敷き、血を混ぜたインクで幾何学的な魔方陣を書くのだ。内容は主に暴走時の補助と座標が間違っていた場合の捕捉、双方に及ぶはずの悪影響を抑えつけるための記述など。空間を超越するのは大変なのである。起動と運用にはかなりの魔力が必要になり、使い勝手がかなり悪いので、これを使うのはフィールドバックの危険がある開通時のみである。


「私の想いよルイズへ届け!! ハルケギニアのルイズへ届けー、っと」


 某コピペの内容を思い出しつつ、ベルは全身から魔力が発されていくのを感じた。
 遠く離れた全く別の世界と繋げるのは大仕事であるが、一度でも貫通してしまえば同調効果とやらで自然と接近していくらしい。部屋の中を気ままに浮いている風船同士に糸をつけるようなもので、その糸が太くなればなるほど効果は大きくなるようだった。
 大抵の場合は接近に伴って時間軸のずれなども修正されていくが、完璧に同調するかは世界の質や構成によって異なり、中には全く影響を受け付けずに存在し続ける特殊な世界もあるらしい。なんでもその世界には葵屋なる高級旅館が建っているそうなので、いつかは行ってみたいものだ。


「よし、完成ーっと。いあ・いあ・はすた~……ぬぉりゃっ!」


 ハルケギニアではなく極めて危険な場所に通じてしまいそうな始動キーを呟き、某錬金術師のように魔方陣へ両手をあて、世界の壁を突き抜けるために大量の魔力を注ぐ。
 やや強引なので余った魔力が雷光となって弾け、魔方陣は様々な色の光を発しつつも明滅を繰り返した。全く未知の世界への道を開くとなれば、暴れ回る巨牛を投げ縄で強引に押さえつけるようなものだ。人間世界や天界、魔界など、既に通じている世界へ移動するのとは訳が違う。

 転移魔法があっても今までハルケギニアが発見されなかったのは、正確な座標を知らなければ何十倍何百倍の規模でぶり返しがあるからである。今だってベルが押さえていなければ、余波として発生した数百のもの雷が周囲をなぎ払っているだろう。ガンダールヴさんを呼んだ時のように、向こうから繋いでくれれば楽なのだが。
 その程度で怪我をする竜はごく一部のみだけれども、そもそも座標が違っていれば何の意味が無いので、準備が面倒な上に大当たりを引ける確率は極めて低い宝くじのようなものである。よほどの暇人でなければ無限に近い座標を組み合わせ続ける気にはなれないし、そんな変人であっても十分な実力がなければ探せない。


「よし、開いた! けど、不安定なのかな? いやに展開が遅いし……。要注意か」


 寄り集まった光が楕円形に薄く広がり、通常なら考えられないようなスローペースでゲートを形成した。ベルはやや額にしわを寄せる。
 普段なら0.1秒以下の時間で開かれるはずで、何かの前兆かと油断なくゲートを観察し続けるが、それ以上の反応を見せず安定していた。どうやら爆発オチかという心配は杞憂に終わったらしい。第一関門を突破した事を喜ぶ。

 アニメ版ならサモン・サーヴァントを何度か失敗していたし、勤勉らしいルイズの事であるから事前の練習も欠かしていないはず。
 地球と繋がりそうになっていたゲートをこじ開けた影響かもしれないし、ハルケギニアにも充満しているだろう魔力の性質や、はたまた単なる偶然、特殊な構成をしている魔法陣の影響。理由などいくらでも思いつく。珍しかっただけで害があるようなものではない。安定さえしていれば許容範囲内だ。

 短く安堵の息を吐いた後で、空中に留まっているゲートから目を離して魔法陣へと手を伸ばす。
 開通した時点でハルケギニアとのリンクは確立しており、後は誰かが通った時点で室内にある転移室へと繋ぎ直される仕掛けである。表面を撫で上げて魔力回路に不備が生じていないかチェック。自分が通過した後で溜まっていた魔力が暴走して大爆発、などという事態になったら目も当てられない。


「きゃあっ!」


 すると、気を緩めた瞬間に見知らぬ桃色髪の少女が胸に飛び込んできた。驚きを感じながらも咄嗟に抱きとめ、ベルは間抜けな声を上げなら目を擦った。


「……えっと、こんにち……はぁ?」


 視界に飛び込んできた少女は、ベルの目が突然おかしくなったりしていない限り、ルイズとそっくりに見える。
 しかも小柄なベルよりも更に背が低く、どこからどう見ても高校生にあたる年齢には見えない。いいとこ中学生になったばかりか、小学校の高学年程度だろう。
 魔力の使いすぎで疲れているのかな? などと思いながら目の周囲をマッサージし、深呼吸してから目を開ける。まだルイズは小さいままだ。もう一度目を擦る。やはり変わらない。
 現実逃避をしてしまいたいところだったが、ルイズらしい少女が困った顔をしてしまったので止めておく。


「こ、こんにちは……」


 舌足らずなCV. 釘宮理恵が響くと同時、足元の魔方陣が作動して光の鏡が消滅する。
 設定通りに室内のほうへと繋ぎ直されたようだったが、それが意味するところはつまり、何故だかルイズのほうがサモン・サーヴァントのゲートを潜ってきてしまったらしい。


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ゼロ魔に行く? 逆に考えるんだ。ゼロ魔が来ればいいやと考えるんだ


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