『前書き』
様々な異世界小説読んでいるうちに、私も書いてみたいと思うようになり、投稿させて頂きました。
初めて小説を書いたので文節や改行がおかしかったりする所も多々あると思います。
よろしければ、ご指摘頂けないでしょうか。
次の作品に生かしたいと思います。生かせるかどうかは私しだいでしょうが。
皆さんに楽しんで頂ける。また、私自身も楽しめる作品にしていきたいと思います。
では、宜しくお願いします。
季節は春。4月の青空が眩しくて気持ちが良いね。嫌な事とか忘れてしまいそうになるな。下から来る声さえなければ。
「創慈! さっさと起きて仕事手伝いなさい!」
母親の大声が1階の階段付近から聞こえてくる。心無しか、こんなに澄み渡った空がどんよりと曇ったような気がした。
「大体、大学に落ちたあんたは無職の青年Aなんだから家の仕事位手伝いなさい。父さんはもう出てるわよ!」
「あいよ~。今から降りるから、青のつなぎを出しといてくれ~」
はぁ。俺の痛い所を的確に抉るその言葉。もう勘弁して下さい。落ちたと分かった日から言われてるからな、無職の青年Aってさ。
気だるげに返事をした俺は布団から抜け出し、引きずる様な足取りで2階にある俺の部屋から歩き出し、1階の居間に用意して貰ったつなぎを着て。
裏口から家の外へと出ようとしている母親に一声掛けた。
「朝飯は?」
「早くに起きないあんたが悪い。昼飯まで我慢しな」
有難いお言葉が返って来るとは。冷蔵庫を漁ってみた物の、おかずになるような物は無かった。昨日は明太子があったはずなんだがな、仕方ないか。
じゃ、さっさと仕事終わらせますか。
長年使い続けて内側の踵部分が剥げた長靴を履き、何処のパチモンだか分からないロゴの付いた青色の帽子を被り、眩しく白く光る手ぬぐいを首に巻く。
そして最後にピンク色のゴム手袋。うん。いかにも農作業するぞ! みたいな格好になりました。
まぁ、農作業なんだけどね。
スクーターに乗って農道を走る事5分弱。目的地に着き、親父が乗って行った軽トラの隣にスクータを止めると男の声が聞こえた。
「やっと来たか。何時まで寝てるつもりだお前は」
呆れた様な親父の声が田んぼの方から聞こえて来る。言いたい事は大体分かってる。ただ今の時刻は10時15分。そりゃ呆れるもするさ。
今から行う作業は苗作りなんだよ。これがまたしんどくてね。今の季節はまだ朝は肌寒いけど、昼間近くになると暖かいでしょ?
その暖かさが棘となって、作業の妨害をしてくれるんだよ。だから重労働する時は、朝から早めにするのが理想なんだよね。
ここは一つ、謝っとくのが吉だな。
「悪い悪い。今から張り切ってくから勘弁してくれ」
「調子の良い奴だ。そんなんだから大学に入れないんだよ」
糞! 言い返せない自分が悔しい。これは今年中は言われ続けるだろうな。来年を見てやがれ! 必ず合格して、この肩身の狭い身分から抜け出してやる!
そんな誓いを俺が立てている最中、俺の顔を見て親父が苦笑しつつ話しかけてきた。
「ほら。さっさと仕事をしろ。張り切ってくんだろ? 俺は畦を作るから、お前は苗だ」
言い終わると同時に、これから大きく成長するであろう小さな苗が沢山入った箱を俺に手渡した。
「はいはい。張り切ってくよ」
苗を受け取り田んぼに向かう。親父も畦作りに向かったしな。さて、自分で張り切ってくって言ったからな。気持ちを切り替えて仕事に集中っと。
あれ? 田んぼに右足を踏み入れた瞬間、途轍もない悪寒を感じた。と、同時に体の力が抜けていく。
突然の事態に思わず声が漏れた。
「え?」
田んぼに向けて傾いていく俺の体。
畦を作る親父の背中が見える。
「助けて」
力の限り叫んだつもりだ。親父は振り向かない。聞こえていないのか?
粘着質な音が聞こえた。田んぼの泥にぶつかったんだろうか?
沈んで行くような感じ。ここは田んぼだぞ、何処に沈むんだ? 何が沈むんだ?
あ。そうか。俺の意識が沈むのか。
これはかなり上手い事言ったんじゃないか俺?
あれ? 何が上手い事なんだ俺?
あはははははは……。
えっと。俺どうしたんだっけ?
確か田んぼに向かって倒れて。それから何だか沈んで行ったような気がしたな。
田んぼで沈むって事は泥に沈むって事だな。あ。泥に沈んだら息できないな。死んでしまうじゃないか。あははは。
「やばい、死ぬ!?」
切羽詰った声と同時にうつ伏せ状態だった俺は跳ね起きた。のは良かったんだが。
「痛って~」
景気好く何かに頭をぶつけてしまった。同時に倒れこむ。
ズキズキ痛む額に右手を当て、俺が頭突きをしてしまった物を睨み付けるとそれは。
「木の枝? いや、木の幹だな。それも相当長い年月を過ごしている樹齢何百年クラスかな? しかも何故こんな大樹が俺の近くに倒れているんだ? 幹が太すぎて向こう側が見えないぞ」
それにしても大きな木だな。俺の知ってる神社にある一番大きな木でも、この大きさには適わないな。
子供の頃に良く木登りをして降りられなくなり、神主さんに怒られたっけ。
「御神木に何をしておるかー!」
こんな感じだったかな。懐かしい。
って。こんな場所で懐古してる場合じゃないじゃないか。それに此処は何処だ?
「俺は田んぼに倒れこんで、溺れてるんじゃなかったか?」
少し冷静さを取り戻し、掛け声と共に立ち上がり砂を掃いながら辺りを見渡してみる。
「ここは砂漠なのか?でも何だ、まるで森が突然砂の大地にほっぽり出されたみたいだな」
見渡す限りに青々と張りのある葉を茂らせ太陽の光を甘受していただろう木々が。後、ついでに稲穂が見えた。
妙な違和感を感じた。何だろう。もう一度辺りを見渡す。
「なっ。何で稲穂?」
稲穂が生えている場所に近づきつつ、何故俺はこんな場所に居るのかを考え始めた。
稲穂が見えるって事は、田んぼだった場所? いや違うだろ、俺がする筈だったのは稲を苗にすることで。って、どんなマジックだよそれは! いや、時間があれば普通に出来るな。あれ?
あ。ヤバイ。俺混乱してる。何か異世界にほっぽり出されたみたいだ。んん? 異世界にほっぽり出される? これだ!
何だ。俺は異世界に飛ばされたのか。まったく焦った。一人で盛り上がってしまって恥ずかしいな。これでやっと冷静になれる。分けも無く。
「無理に決まってるだろ。何が異世界だ! 大体行き成り異世界って単語が出る俺ってどうよ。普通は誘拐とかの方が確立高いだろ! 大体俺はこんなんだから……」
「ふぅ。ふぅ」
十分ほど一人漫才していた俺は、やっと落ち着きを取り戻せた。たかが稲穂如きにここまで混乱したのは俺しか居ないんじゃないか?
いや。ここまで訳の分からない状態で、たったこれだけの混乱ですませる俺が凄いんだ。そう思いたい。
話を混乱する前に戻して、此処が何処かって事なんだよな。
こんな倒れた木々と砂漠に待っていても救助なんて来ないだろう。ん? 砂漠!
そうだ。砂漠化。こんなに大規模な砂漠化なら調査隊が来るかも。マスコミも争ってヘリを飛ばして来るに違いない。
これは希望が見えてきた。動かずじっとしていれば、救援が来るに違いない。もうヘリが飛んでいるかも。
希望を胸に空を見上げ、胸に手を当て希望を握り、フルスイングで放り捨てた。
「うん。諦めが肝心だな」
何故そんな結論が出たか。空に浮かぶある物見て分かってしまった。ここは日本ではない。かといって、海外でもない。さらに地球上でもない。大穴で、別惑星ですらなかった。
太陽に顔が付いてて、にこやかに笑ってるし……。
ここは混乱中の俺が最初に結論付けた答え。異世界だったみたいだ……。
さて。取り合えず食べられそうな玄米だけは確保しとこうかな。朝から何も食べてないから腹が減った。もう玄米でも良いから腹の中に放り込んでおこう。
稲穂の前まで来て、収穫しようとしたんだが……。予想外の籾の大きさに、自分の常識が通用しない事を痛感した。
「さすが異世界」
籾は空豆ほどの大きさに肥大化していた。普通の稲ならば稲穂の重みに耐えられなくなり、地に伏せているだろうに。
気を取り直して左手のゴム手袋を外し、右手で収穫していく。収穫した籾を、外したゴム手袋の中に放り込む。本当は籾を乾燥させるのが理想なんだが、自然乾燥だと時間が掛かり過ぎるので妥協しておこう。
実を採り終え一息入れようとした瞬間、茎だけになった稲がぱたりと根から倒れた。
「あれ。おかしいな? 何故こんな急に倒れたんだ?」
少しだけ疑問に思ったが、異世界だしで片付けた。そんな事より早く玄米を食べたい。
ゴム手袋から一つ籾を取り出し剥いてみる。そこには黄金色に輝く玄米が現れた。
比喩ではなく、本当に光っているのだ、金色に……。
「こっ……。これは食えるのか?」
これは流石に食えないかも。食に関わってくるので、異世界だし仕方ないかではすませられない。
悩んだ。悩んで悩んで出した結論は、最悪の状態になったら食べようだった。
腹は減っている。減ってはいるが、まだまだ我慢出来る。
「はぁ。これからどうしよう」
う~ん。ここは異世界だからな。もう俺の人生詰んでいると思うが、この砂漠地帯から抜け出そう。
なんとかなるさ。そう思っていなければ、やってられないな。
そうと決まれば何処に向かうか決めないと。
ふと倒れこんだ稲の茎が目に止まった。
「よし。もうどうにでもなれ。茎の倒れた方に出発だ」
異世界に来て2日目。砂漠地帯の脱出に成功。後、この星にも月がある事が判った。ついでに顔もあった。だから何だって話だが。
異世界に来て3日目。小さな池を発見。がぶ飲みする。喉が渇いて死にそうだったので助かった。食べられそうな物は発見出来なかった。
異世界に来て4日目。池の生水を飲んだ事で、腹が下る事は無かったが、腹が減った。気が付けば籾を一粒掴んでいた。無意識に掴んでいたようだ。
そして異世界に来て5日目。
もう限界だ。もうこの玄米を食って死んでもかまうもんか。
辺り一面に多い茂る藪の中。座るのに丁度良い大きさの岩に座り、一粒の籾を剥き、いざ食べようとした時茂みが揺れた。
近くに落ちていた石を拾い、茂みを見つめる。そして出てきたのは……。
「猫?」
黒一色で覆われた毛艶の良い猫だった。
猫は俺の姿を見て逃げようともせず、寧ろ俺を観察するような目つきだ。
そして俺と黒猫の目線が合う。暫く見詰め合う形となり。何を思ったのか黒猫は俺の方に近づき、足元付近に座り込んだ。
何がしたいんだこの黒猫は。毛繕いまで始めてるし。
と、黒猫を観察していて閃いた。黒猫を黄金色の玄米の毒見役にしようと。
猫様はかわいいが、俺は自分の身の方が可愛いんだよ。あっはっは。
「ほれほれ黒猫さん。ご飯をあげるよ。甘くて美味しいよ~」
黒猫に甘ったるい声で警戒されないように。どす黒い考えを悟られぬよう声を掛けた。
すると黒猫は俺の言葉を理解しているように毛繕いをやめ。心なしか嬉しそうに擦り寄ってきた。
「ほら。お口をあ~んしてね」
黒猫に理解出来ないであろう事を口にしつつ、俺は馬鹿かと思いながら玄米を手に取り黒猫に差し出す。
が。驚いた事に、黒猫は口を大きく開けて待機していた。この猫。言葉を理解出来るのか?
それはともかく願っても無いチャンス。玄米を黒猫の口に放り込んだ。
急に口に放り込まれた物に驚いたのか噛まないで飲み込んだらしい。黒猫はきょとんとしていた。
そして事態が急変する。黒猫が苦しみ始めたのだ。地面をごろごろと転がり、飲み込んだもの吐き出そうとしているように見える。
「毒だったのか。食べなくて良かったな」
黒猫には申し訳ないと思うが仕方なかったんだよ。俺には余裕って物が無いからな。きちんと成仏しろよ。墓は立ててやるさ。
苦しがっている黒猫を見つめ、手を合わせて拝んでいる最中。猫が悶え転がるのを止めた。
「死んだか……」
黒猫の遺体を運ぼうとして近づき、両手で掴もうとした時、異変が起きた。
「嘘だろ!? なんで急に肉の塊になったんだ!!」
余りの出来事に俺は数歩後ろに下がり、肉の塊を観察する。まるでハンバーグを焼く前の窪を付けた状態の肉がうねうねと動いている。
ハンバーグか。腹減ったな……。あの肉を焼いて食べたら美味しいかもしれない……。
そうじゃないだろ。馬鹿か俺は!
なんて事を考えているうちに、肉の塊が急激に大きくなった。そして徐々に人型になっていき、変化が収まった。
今起きている事態に思考が追いつかない俺に、声を掛けてくる肉の塊だったもの。
「なんて物を食べさせるにゃ。この、に・ん・げ・ん~~~!!!」