転生生徒 裕也
第六話
各々が進級を間近に控えた春休みの最中、裕也は学園長室に呼び出されていた。
「高等部一年、沙霧 裕也です」
裕也はノックの後に名乗る。
「開いとるぞい」
ドアの向こうから学園長の声が返ってくる。
「失礼します」
返事を確認してから部屋に入る。
「ふぉふぉふぉ。久しぶりじゃの、沙霧君」
入って早々に声を掛けてきたのは学園長 。
「久しぶりだね、沙霧君」
それに続くのは高畑・T・タカミチ。
「はい、お久しぶりです。で…今回の要件は?」
裕也は挨拶もそこそこに本題を聞こうとする。
「今回君を呼び出したのはちと話があっての」
学園長が口を開く。
「何か問題でも有りましたか?」
裕也が口を挟む。
「いや、そういった話しじゃないよ。どっちかというと進路相談みたいな物かな」
とタカミチ答える。
「そういう事じゃよ、沙霧君。で…君は将来どうするつもりかね?」
学園長が聞いてくる。
「将来…と言われても、今の所は研究を続けられる所なら何処でもいいとしか…」
裕也は相手側の質問の意図が掴めず曖昧に答える。
「ふぉふぉ、ならば麻帆良で先生を目指してみんかの?」
と学園長が提案してくる。
「麻帆良で先生…ですか?」
裕也が聞き返す。
「うむ、君は特例じゃから大学の単位を学年関係なく取れるしの。二年間で必要科目を習得すれば、君が大学に入る年には教育実習が可能になる」
学園長が説明する。
「ですが…教職になったら研究が」
裕也が難色を示すが…
「大丈夫じゃよ。麻帆良の教員…というか麻帆良に在籍しているなら研究室はそのまま預けよう」
学園長が破格の条件を提示してくる。
「……一応その道も行けるように準備します。今の所の返事はこれで良いですか?」
裕也は少し考えて答える。
「かまわんよ。今ワシが言ったのは沙霧君の数ある選択肢の一つじゃからの…ゆっくり考えて決めとくれ」
と学園長が返す。
「わかりました。では失礼します」
との言葉を残して裕也は学園長室を出て行った。
裕也が学園長室から出て行ってから学園長がタカミチに問いかける。
「で…最初の頃と比べて彼はどうかな、高畑君」
「かなり強くなっていますね。従者としての下地は十分でしょうが…」
タカミチはそこで言葉を切る。
「何と言っても彼のマスターにして師匠がエヴァンジェリンじゃからの…」
学園長も言葉を切る。
「ところで学園長、どうしてあそこまでの条件を出して麻帆良に引き留めようとしたんですか?」
タカミチは話の流れを変える。
「彼が天才であるという事も理由の一つじゃが…エヴァンジェリンの正式な従者という事もある」
学園長が答える。
「あの『闇の福音』の従者だと知れ渡れば彼は狙われますね…」
タカミチは合点がいったように頷く。
「更に彼の両親についてドネット君に調べて貰っているのじゃが…」
学園長が歯切れ悪そうに言う。
「確か夜逃げした…との話でしたよね」
タカミチが書類にあった情報を口にする。
「表向きにはの…現段階で彼の両親は時空魔法の違法研究者だったらしいとの中途報告書が来ておる」
学園長はその書類をタカミチに渡す。
「っ!?これは…」
タカミチは書類に目を通し絶句する。
「彼らは大量の赤子を実験体にしていたのじゃよ…並行世界、パラレルワールドとやらの知識を得る為にの」
学園長が怒りを隠しきれずに言う。
「な…という事は彼は…」
タカミチはある可能性に辿り着く。
「うむ、成功体の可能性がある。更に違法研究者達には独自の情報網がある…故にどこに情報が行ったか感知できん」
と学園長は続ける。
「………学園長、もう一度聞きます。何故彼を麻帆良に留めようとするのですか?その答えによっては…」
タカミチは居合い拳の構えを取りながら再度問いかける。
「断じて言うが知識を得るためではない」
学園長は揺らぐことなく答える。
「そうですか…失礼しました」
タカミチは構えを解いて学園長に謝る。
「気にせんでもええよ…ワシは彼やアスナちゃんの様な存在を守りたいと思っておる」
と学園長が言う。
「それは…「ふん、偽善だな」
タカミチの言葉に被せるように部屋に入ってきたエヴァンジェリンが言う。
「ふぉ、エヴァンジェリンか…」
学園長がエヴァンジェリンに視線を向ける。
「やはりアイツにはそんな裏があったのか…血の魔力に比べて使用できる魔力が少ないのもその実験とやらの影響か」
エヴァンジェリンが言ってくる。
「エヴァンジェリン、お主にも報告書は回す。この事を彼に伝える時期も任せる」
と学園長が伝える。
「当たり前だ。裕也は私の従者だからな。それに、アイツには私の従者として相応しい力をつけて貰うから貴様等が気にする事は無い」
エヴァンジェリンはそれだけ言うと学園長室から出て行った。
「偽善…ですか」
タカミチがエヴァンジェリンの言葉を呟く。
「そう見えるじゃろうな…彼が狙われる理由を作ったのも、それから守ろうとしているのも同じ魔法使いなんじゃからの」
学園長室に学園長の言葉が響いた。
所変わってロリ研…もとい研究室
「という事で…来学年から教員免許取得のため教育学部にも行く事になった」
裕也が戻ってきて試作ガイノイド三型『ドライ』の調整に掛かりっきりになっている超と葉加瀬に伝える。
「は?今度は教職カ。裕也、節操無いにも程があるヨ…」
超が呆れながら言ってくる。
「ガイノイドの研究とエヴァンジェリンさんの修行、更に教員免許取得ですか…正に三足の草鞋ですね」
妙に感心しながら葉加瀬が頷く。
「で…ドライの進捗状況はどうだ?」
二人の言葉をスルーしながら白衣を羽織り裕也は確認する。
「本体は完成してるヨ。飛翔ユニットとプログラムは一度飛ばして見なきゃなんとも…」
超は現状をそのまま伝える。
「そうですね…プログラムでは完璧でもそうなるとは限りませんからね」
葉加瀬も続く。
「マスターの別荘は改装中って事で使えないらしいからな…仕方ない、屋上で行うか」
裕也が提示する。
「屋上ですか。魔法技術は使わないで組み上げたので周りに見られても問題ないですが…」
葉加瀬は問題がないか考え初める。
「いいんじゃないカナ?アインは無理でもツヴァイの御披露目だけでも出来るからネ」
超は賛成する。
「ここの研究室はどこで実験をしているのかと噂になっているしな…アピールにはもってこいだろ。許可が取れたら早速行くぞ」
裕也は早くも携帯で連絡を取り始める。
「との事ネ。ツヴァイも準備を…ってもう終わってるのカ」
超がツヴァイの方を見ながら言う。
「はい、超 鈴音。屋上に行くとの提案があった時点で準備を開始していました」
とツヴァイは無表情のまま答える。
「やはり、加速度的に進歩していますね…」
葉加瀬が超に呟く。
「そうみたいだガ…裕也がいるとそんな片鱗も見せないヨ」
超も小声で返す。
裕也のテストが終わってからの精密検査ではプログラムには何ら変化は見られなかったが明らかに行動はロボットから人それに近づいている。
「許可は取れた。今から屋上に向かうぞ。ツヴァイ、ドライの飛翔ユニットを持ってきてくれ」
裕也は携帯をしまいながら周りに告げる。
「了解しました、ドクター」
ツヴァイは答えてまんまグレー○ブースターな見た目の飛翔ユニットを抱えていく。
「試作ガイノイド三型『ドライ』の本格起動完了…話せるかい、ドライ?」
裕也はドライの起動を終わらせ、話し掛ける。
「ハい、りカいできマす、どクター」
ドライは不安定な発音で答える。
「む…声は馴れていけば問題なくなるな。ツヴァイの経験をインストールしても良いんだが…自分で馴れていってくれ」
裕也はドライに教えていく。
「わカりまシた、努力しマス」
ドライもたどたどしく答える。
「では…早速だが屋上に向かうから着いてきてくれ」
ドライを引き連れて歩き始める。
ゆっくり歩くドライに合わせて来たためかなり時間を掛けて屋上に到着する。
「やっと着いたヨ…」
本来の倍以上の時間を掛けて来たためダレる超。
「飛行制御プログラムに気を取られ歩行プログラムを組み込むのを忘れるとは…」
葉加瀬は反省を口にする。
「…飛翔試験を始めるぞ。ツヴァイ、ドライに飛翔ユニットの装着を頼む」
裕也も若干疲れながらツヴァイに言う。
「はい、ドクター」
とツヴァイはドライの背中に飛翔ユニットを取り付ける。
「では…これから飛翔試験を行う」
と裕也は宣言する。
「ドライと飛翔ユニットの接続状況良好、数値は全て誤差の範囲内ヨ」
超が報告してくる。
「データ収集開始します」
葉加瀬も行動を開始する。
「行きマす」
まだ、しっくりこない発音のドライの掛け声と共に飛翔ユニットが火を噴き飛んでいく。
「…葉加瀬、どうなっている」
飛び立ったドライから目を離す事なく裕也は葉加瀬に聞く。
「今の所、予定通りです」
葉加瀬はデータ収集に集中しながらも答える。
「姿勢制御用バーニアも問題なく働いてるヨ。後はプログラムどうりに…ってハカセ、あのプログラムは抜いたカ?」
ドライの様子を見ていた超が慌てて葉加瀬に確認を取る。
「はい?あのプログラムって…まさかっ!?」
葉加瀬は超の質問を聞いて一気に顔を青くする。
「……どんなプログラムを仕込んだんだ、二人とも」
顔をひきつらせながら裕也は問い掛ける。
「いや…飛翔ユニットの見た目がグレートブー○ターになったからつい…」
と超は目を合わせる事なく答える。
「実際に射出出来るようにしてしまおうと言う話になって…プログラムをちょちょいと追加してしまいまして…」
超に続いて葉加瀬も視線を反らしながら答える。
「という事は…」
裕也が二人から飛翔試験中のドライに目を向けると
「飛翔ユニット射出シマす」
こちらへ一直線に突っ込んでくる飛翔ユニットと、推進力を無くし屋上まで戻れずにそのまま落下していくドライを見た。
「なっ…ドライっ!!」
それを認識した瞬間裕也は瞬動と虚空瞬動を駆使して自由落下を続けるドライへと急ぐ。
「ちょっ…アレと私達は無視カっ!?」
その裕也の背中に超の悲痛な叫びを上げる。
「今回ばかしは自業自得ですかねー」
葉加瀬は最早開き直っていた。
結果、飛翔ユニットはツヴァイのヒートロッドにより着弾寸前で迎撃され、ドライは裕也の文字通り捨て身の救助によりオートバランスシステムが破損するだけで済んだ。
「で…今回の事についての申し開きは?」
ドライの修理を終え、ツヴァイに色々教えるように言いつけた後の研究室で裕也は超と葉加瀬を正座させていた。
「う…今回は私と葉加瀬の悪ふざけが原因ヨ…」
と超がうなだれて言う。
「そうですね…少し調子に乗りすぎましたね」
葉加瀬も反省しているように見える。
「ほう…アソコまで飛翔ユニットに大量の花火を仕込んでいて少しか?」
裕也が机の上に置かれた大量の花火を指差しながら言う。
「いや…アレはただ突っ込んでくるだけじゃ物足りなさそうだったから…」
超がそわそわしながら答える。
「超さんがいっそのことス○ロボみたいにしようと言いまして…」
葉加瀬も答える。
「ちょっ…ハカセもノリノリでプログラムを組んでたじゃないカっ!?私だけ悪者にするのはズルいヨっ」
超が葉加瀬に抗議する。
「なっ…それは超さんもノリノリで花火を調達してきたじゃないですかっ」
と葉加瀬も反論する。
そこからピーピーギャーギャーと口論に発展する。
「どちらが悪い悪くないなんてどうでもいいっ!!」
裕也の一喝で口論が止まる。
「今回はツヴァイが迎撃したから怪我が無かったが、いつもこんな風に済むとは限らないんだぞ。ネタに走るなともリスペクトするなと言わないが…怪我をしかねない無理はするな」
それだけ言って裕也はドライの修理に戻っていった。
「…わかったヨ。これからは自重するヨ」
超は珍しく落ち込んで答える。
「そうですね…少し調子に乗りすぎましたね」
超と同じように葉加瀬も落ち込む。
「……超、葉加瀬。テストの時に破損した薄刃と陽炎の改修を頼む。それが終わったら飛翔ユニットの改善をするからな」
裕也は二人に背中を向けたまま話しかける。
「…わかったヨ。じゃあ早速設計していこうかハカセ」
超は直ぐに立ち上がって行動に移る。
「…そうですね。始めましょうか」
葉加瀬も動き出す。
「で、今度の飛翔ユニットはどんな型にしようカ…」
薄刃と陽炎の改修案を葉加瀬と編みながら超が葉加瀬に話しかける。
「そうですね…今度はウィング○ンダムみたいなのはとかはどうですか?」
葉加瀬もノリノリで答える。
「……大丈夫だろうか」
裕也は二人の会話を聞いて不安になる。
「大丈夫です、ドクター。あの二人はドクターのおっしゃりたい事は理解していますから」
とツヴァイは誰にも聞き取れないレベルで呟く。
「何カ言いマシたか?姉さン」
隣で発音の練習をしているドライが聞き返す。
「いえ、何でもありませんよ。さあ、ドライ練習を続けますよ」
とツヴァイはドライの発音指導に戻る。
「ハい、姉さん」
とドライも練習に戻っていく。
今の騒がしい研究室が裕也が求めているモノになりつつあった。
事故を起こしつつも何とか試作ガイノイド三型『ドライ』の飛翔試験を終わらせた研究室の面々。
そしてエヴァンジェリンの別荘の改装が完了し本格的に裕也の修行が開始する。
あとがき
少し頑張ったTYです。
自分でもややこしい事にしてしまったと…思わなくもないです。
感想その他諸々お待ちしとります。
感想レス
DDp様
編集中の不手際です。
指摘ありがとうございます。