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No.8004の一覧
[0] 転生生徒 裕也(現実?→ネギま) 習作[TY](2009/10/22 23:38)
[1] 転生生徒 裕也 プロローグ[TY](2009/09/28 21:38)
[2] 転生生徒 裕也 第一話[TY](2009/09/28 21:39)
[3] 転生生徒 裕也 第二話[TY](2009/09/28 21:40)
[4] 転生生徒 裕也 第三話[TY](2009/09/28 21:41)
[5] 転生生徒 裕也 第四話[TY](2009/09/28 21:42)
[6] 転生生徒 裕也 第五話[TY](2009/09/28 21:43)
[7] 転生生徒 裕也 第六話[TY](2009/09/28 21:44)
[8] 転生生徒 裕也 第七話[TY](2009/09/28 21:47)
[9] 転生生徒 裕也 第八話[TY](2009/05/14 16:28)
[10] 転生生徒 裕也 第九話[TY](2009/05/16 20:30)
[11] 転生生徒 裕也 第十話[TY](2009/05/22 22:07)
[12] 転生生徒 裕也 第十一話[TY](2009/05/31 21:40)
[13] 転生生徒 裕也 第十二話[TY](2009/06/22 23:54)
[14] 転生生徒 裕也 第十三話[TY](2009/07/15 00:04)
[15] 転生生徒 裕也 第十四話[TY](2009/07/15 00:02)
[16] 転生生徒 裕也 第十五話[TY](2009/09/28 21:37)
[19] 転生生徒 裕也 第十六話[TY](2009/10/22 23:35)
[38] 転生生徒 裕也 第十七話[TY](2011/09/04 18:31)
[49] 転生生徒 裕也 第十八話[TY](2011/09/04 18:25)
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[8004] 転生生徒 裕也 第十八話
Name: TY◆3df3dcb4 ID:7181f3fb 前を表示する
Date: 2011/09/04 18:25


転生生徒 裕也
第十八話

オープニング・セレモニーから一夜あけ、裕也が居城としている研究室に目覚まし時計の音が鳴り響いていた。
川の字に敷かれている中央の布団から気だるそうな仕草で腕が伸び、近くにあった音源を停止させる。

目覚ましを止めた裕也はむっくりと起き上がると
「……2人とも起きてるか?」
両隣で動く気配もなく、丸く盛り上がっている布団に声をかけた。

「一応ネ……」
もぞもぞと掛布から顔だけを出した超が答えるが、いつ二度寝してもおかしくない様子。

それに続くようにもう一方の布団からは
「うーん……あと5分……」
お約束ともとれる葉加瀬の声が返ってきた。

そんな二人に溜め息をついてから立ち上がり
「研究室の都合で2日も休ませる訳にはいかないから、今日は学校に行ってもらうぞ」
そう言い残し、洗面所へ向かう裕也の背中にかけられるのは

「むぅ……前向きに検討するヨ」

「あと……10分……」
再び布団の中へと戻った超と先程よりも時間が増えている葉加瀬の返事。

やはり昨日は早く寝させるんだった、と少し後悔しながらも朝の支度を始める裕也だった。

この後、超と葉加瀬が自力で起きてくる事はなく裕也によって叩き起こされる事になるのは余談である。

「裕也、今日はロボット工学研究会の記念すべき第一回プロジェクトミーティングの日だヨ?」

「知っている」
朝食の席での不機嫌気味な超の問い掛けに三人分のトーストにジャムを塗る手を止める事なく裕也は淡々と答える。

「そうですよ、裕也さん。初回が重要なんですから万全を期して望むべきではないですか?」
つれない態度の裕也に葉加瀬も超の援護にまわるが、

「実験をやる訳じゃないからいいだろ。なにかしらのトラブルがあっても、本番のアドリブでどうにでもなる」
トーストにかじりついたまま受け流されてしまう。

「むぅ……それでも万が一ということが……」

「石橋を叩いて渡るような精神でいくべきです」

それでも食い下がってくる二人にジャムを塗ったトーストを押し付け
「いつも言ってるように義務教育中はしっかり学校に行ってもらうぞ。昨日、学園長からも注意を受けたからな」
呆れた様子ながらも裕也はしっかりと釘を差す。

「学校もつまらない訳ではないんだがネ。それよりも有意義な事が目先にあるとついそちらに行きたくなるのが人の性ヨ」
と、どこか遠くを見ながら超は答え

「そう言う裕也さんも学校には行ってないじゃないですか」
葉加瀬は頬を膨らましながら不満を漏らす。

「何を言っている。定期考査はしっかりと受けているし、書類を出せば出席日数もクリアするから通っていることになるだろ」
それに高校はともかく、中学まではちゃんと通っていたよと締めくくる。

裕也から譲歩を引き出すのが無理だと悟った超は
「……そんな味気ない青春を送たから裕也には友達がいないんだヨ」
トーストをかじりながら苦し紛れの一言を放つ。

超にとっては、いつもの戯れの中での一言に過ぎなかった。
どこか達観している節のある裕也ならばサラリと流すだろうと予測し、昨夜の宴会での魔法先生らとの会話の詳細を問い質す算段を葉加瀬とのアイコンタクトでとっていたのだが

「………………」
愕然とした表情で微動だにしなくなった裕也にそれは頓挫してしまった。

そこそこ長い時間を一緒に生活を送ってきたが、初めて見る予想外の態度に2人もフリーズしてしまう。

「えっと……裕也さん」
いち早く我を取り戻した葉加瀬がおずおずと口を開く。
「実は気にしてました?」

「っ!?そ、そんな事ないぜ!!私にだって同年代の友達くらい……」
テンパりながら指折り人の名前を呟いていくが、徐々に表情が曇っていく。

そんな様子に耐えきれなくなった超は
「裕也……私が悪かたヨ。だからもう……」
涙目で止めようとする。

かなりマジな超の静止を振り切り、脳内で人名の選別を続けていくが
「…………まだだ!まだ終わらんよ!!」
未だに思い当たる節が無いのか声は震え、焦りと若干の悲しみがにじみ出ている。

食事の席からガタンと音をたて荒々しく立ち上がった裕也は棚から書類を引っ張り出し始めた。

そこまでしなきゃ思い出せない人を友達とは呼べないということにも気づけず、裕也の足元には虚しく書類が散らばっていく。

「もういいんです……そんなに必死になっても……」
いないものはいないんですから、という葉加瀬の言葉は超の「ごちそうさまでした」という声によって遮られた。

バサバサと書類を漁り続ける裕也を意図的に無視して
「ハカセ、我らの友は事実という敵と孤独な戦いを始めたヨ」
超は朝食の後片付けをしながら告げる。
「この戦いばかりはいくら最驚を冠している裕也でも勝ち目がないネ」

「いや、最驚とか考えたのは超さんだから今は関係ないですよね?」

「現実に負けて打ちひしがれる裕也を見たい気もするが、そんなイジワルをして嫌われるのは本意ではないからネ」
葉加瀬のツッコミをスルーし、手早く食器をしまいながら続ける。
「それとハカセ、裕也が手渡してくれたトーストだから惜しいのはわかるが、そろそろ食べてくれないと学校に遅れるヨ」

「っ!?そ、そんな事は考えてません!」
超からのいじりで羞恥から顔を赤らめた葉加瀬はトーストにかじりつく。

「初々しいネ」
そんな葉加瀬をニヤニヤと眺めてから
「さて、そろそろ出なきゃ電車に乗り遅れてしまうヨ」
そう言い残しランドセルを取りに離れていく。

頬いっぱいに詰め込んだトーストをむぐむぐしながら葉加瀬が声をかけた。
「ひゃおしゃん、わしゃしにょもおにぇにゃいしましゅ」

「言いたいことは大体わかたが、ちゃんと口のなかのを飲み込んでから喋てほしいヨ……」
裕也が正気なら『はしたない』とか言って叩かれてたとこネ、と続けながら両手に教科書以外のモノを詰め込んだランドセルを重そうに持って戻ってくる。

なんとか口の中のを飲み込み一息ついた葉加瀬は
「ふぅ……でも、本当にいいんですか?」
超から受け取ったランドセルを背負いながら問い掛ける。

「うん?何がカナ?」
ランドセルを装着し終えてから、葉加瀬の顔を見て小首を傾げる超。

「何がって……あれ」
超が本気で聞いているのを察して『あれ』がある方につい、と視線をやる。

葉加瀬の視線をたどっていくとそこには尚も一心不乱に書類をあさっている裕也の姿が。
チラチラと見えてくる書類の中には裕也の若かりし頃の過ちの結晶や、超と葉加瀬によるネタ兵器の図面といった外部の人間に全く関係ないものまである。

「……さ、葉加瀬、学校に行くヨ」
私は何も見なかったヨ、と言わんばかりの態度で部屋から出て行こうとする。

あまりにも迷いなく背を向けた超。しかし、その後ろ姿からは年不相応な哀愁が漂っているように見える。
何かに取り憑かれたように鬼気迫る勢いの裕也。だが、それは今にも燃え尽きてしまいそうな蝋燭の最後の瞬きにさえ感じられる。

この二人によって作られている雰囲気によって、生活臭が漂う研究室が何故か荒廃した街の埃っぽい空気へと変貌していく。

雰囲気と言うには生ぬるく、すでに異世界のレベルに至っていた。

そんな二人の中間点で流れから取り残された葉加瀬が
「え、えっ?」
迷子のようにきょときょととしてしまうのは仕方のない話かもしれない。

しかし、何時までも呆けているわけにもいかずとりあえず流れに乗って
「すみません……裕也さん。私にはあなたを救う事はできませんでしたっ……」
と、言い残し既にドアノブに手をかけている超を追って駆け出した。

この時、葉加瀬の脳裏には
この二人、実は結託していて私をからかっているのでは?
という疑いを掠めていた。

「そんな事ないから嫉妬しなくても大丈夫ヨ」

「さらっと人の思考を読まないでくださいっ!!」

「おや?嫉妬は否定しないのカナ?」

「なっ!?揚げ足を取らないで下さい!」

「これが若さカ……」

「殴ったほうが良かったんですかね?」

コントのような会話を続けながら研究室のある麻帆良大学の工学部を駆けていく超と葉加瀬。

そして研究室に残る裕也。

皆が規格外で高校生一人、小学生二人というアンバランスな共同体の日常がそこにはあった。

棚にあった書類を全て散らした床にへたり込み、虚ろな眼で虚空を捉えた裕也がポツリと言葉をこぼした。
「大きな星がついたり消えたりしている……あれは彗星かな?いや、ちがう……違うなぁ……彗星はもっとばーっと動くもんな……」

訂正、一人だけは非日常を送っていた。

学生が昼休みという限られた時間内で思い思いの自由を謳歌しているころ、葛葉 刀子と学園長は工学部に出向いていた。

最近は学内の至る所に出没するようになった学園長とは違い、高等部で教鞭を取っている刀子が大学にくる事は滅多にない。
しかも工学部となると尚更である。

目的地への道中、目的地に近づくにつれ気が重くなってきた刀子はそれを紛らわすように口を開いた。
「あの、学園長?」

「何かな?葛葉先生」
学園長はいつも通りの調子で返す。

あまりに変化のない態度に毒気を抜かれつつ問いかける。
「今回の件は学園長が出向くほどの内容とは思えないのですが......」

「昨日の件は確かに葛葉先生だけでもよいのじゃろうが、それとは別の要件もあるからの。ついでじゃよ、ついで」

多くを語らずに歩を進め、これ以上の質問を言外に却下していく学園長に
「はぁ......」
なんとも気の抜けた返事が思わず漏れてしまった刀子であった。

昨夜、オープニング・セレモニーを終えた一団は今後の資金源となる予定の超包子に出向いて親睦会を開いていた。

開店セールも兼ねて本来の値段より格段に安くなっており他の一般客も多く、大変賑わいを見せている。

初めは研究会に参加する学生や教員と談笑しながら食事していたのだが、客の増加によって回らなくなってきた厨房へ加勢しに行った超。

それに習って葉加瀬も早々に話を切り上げて、ホールでの接客にあたり、フィーアは聖徳太子もかくやと言わんばかりの勢いで注文を捌いていき、ホールスタッフの心強い戦力となっている。

裕也も学園長を始め来賓として招待した方々の対応をしていたが、中座する。

しかし、店に背を向けて寂しく街灯が照らしていた人気のない並木道へと入っていく。

いつもならば皆の手伝いに加わるのだが、今回は先約を入れてあった。

誰ともすれ違わずに、黙々と歩いていた裕也は目的地に着くと唐突に口を開く。
「世界樹広場についたぞ」
これは完全な独り言で終わるはずだったのだが、
「あなたは1人で何を言ってるんですか?」
裕也の背後から女性の声で反応がくる。

まさかリアクションがあるとは思わず、油断しきっていた裕也はビクッと身を震わせ
「……早かったですね、葛葉先生」
平静を装った声色で返事をしながら振り返る。

そこには呆れた表情の葛葉 刀子が立っていた。

刀子はその表情のまま口を開く。
「まったく、あなたは色々と注目を集めているんですからもう少し言動には注意しなさい」

「すいません……」

「まったく、本当ならもっと言いたいことがあるのですが」
うなだれて謝る裕也を見て、刀子はこれ以上の小言は不用と判断し
「そういった話をするために呼び出したわけでもないでしょう。で、どのような用件です?」
話を進めるように促す。

「はい、そう言っていただけると話が早くて助かります」
そこで言葉を区切ると裕也は居住まいを正し、
「葛葉先生、私に剣術を教えて下さい」
深々と頭を下げた。

「……私でいいんですか?」
それを受けて刀子は困惑しながら問う。
「いや、違う……違いますね。そうじゃなくて......何故、私なのですか?」

よくわからない、と言ったような裕也の表情を見て刀子は続ける。
「あなたは既にエヴァンジェリンという屈指の強者に師事していて、彼女ならばどのような局面にあっても戦い抜けるよう鍛えてくれる。そんな事は聡いあなたなら納得はできなくとも、理解しているはずです」
ここで視線を逸らして言葉を切り
「それに……いえ、なんでもありません」
その後、数瞬迷ったが刀子は口を閉ざした。

「それはわかっています。それでも……」
裕也は眼光を鋭くし、拳を強く握り締めながら答える。
「これ以上、大切なモノを無くさないために……後悔を重ねないために、思いつく全ての事をやっておきたいのです」

「そう......ですか。わかりました」

この時、刀子の内心は穏やかなものではなかった。

裕也が答えた事は先程、口にできなかった
『間に合わなかった私でいいんですか?』
という問いに被るものがあったからである。

闇之 氷夜の一件は明らかに、一度捕縛した危険人物の逃亡を許してしまった学園側の落ち度から生じた事件である。

それに、生徒を危険から守るのは魔法関係者で有る無しに関わらず教職に携わる者の責務だ。

ここで言う危険とは身体的なものだけでなく精神的なものも含まれている。
と、武術を嗜み魔法などの裏側を知るからこそ刀子はより強く考えている。

あの時、現場に到着した刀子は裕也の身体も無事で逃走者の命もあった事から、最悪の事態は防げたと口にしてしまった。

定期考査など年に数えれる程度しか教室に現れないが、自分の生徒である裕也が殺人によって心に傷を負う事はなかった、と。

それは見当違いもいいところだったと気づかされる。

突如、会話に割り込むように放たれたエヴァンジェリンの魔法。

それの安全圏へと退避する際、腕を引っ張られるような形になっていた裕也は状況を把握しつつも、凍りついていく闇乃
氷夜を今にも焼き殺さんと言わんばかりに睨み続けていた。

それに気づいた刀子は腕を掴む力を強くする。

別に、裕也に気押されたということではない。
確かに鬼気迫るモノはあれど、歴戦の剣士である刀子を竦ませるには幼い。

だが、先生と言う面から見れば話は変わってくる。
守るべき生徒が黒い感情に飲まれていく。
激情に任せてあの侵入者を殺めたことがきっかけで狂気に堕ちてしまうかもしれない。

いくら研究室を任され、小学生2人の親代わりをこなしているとは言えまだまだ未完成な子供。
それだけは許していけない。

振り解かれないように、自分の大切な生徒を守るため、さらに力を込めた。

魔法の触媒であろう黒い外套を纏ったエヴァンジェリンが降り立つ。

死に瀕してもなお、喜色満面と言った表情もエヴァンジェリンと言葉を交わすうちに絶望に変わっていき、そのまま闇乃 氷夜は事切れた。

それを見て、刀子はやっと裕也の腕を放す。
足取りもしっかりしており、師であるエヴァンジェリンがいるから大丈夫だろうと判断したのだ。

裕也の方を向いたエヴァンジェリンは
「アレを殺すなよ裕也。いや……もう殺せんか」
挑発するような口調で声をかける。

「何故……ですか?」
言葉足らずの問いを返す裕也。

その内容は端から聞いていた刀子にも
『何故、私に殺させてくれなかったのですか?』
に近いものであろう事は容易に想像がついた。

そこで、刀子は一つの疑問を抱く。
裕也は何故、侵入者の殺害にこだわっているのか。

意味のわからぬ理由で命を狙われた憤りからか、初めての殺意ある者からの攻撃でタガが外れてしまったか……
など、色々選択肢を挙げてみるが釈然としない。

合流してからの様子を思い返してみようとしたところでエヴァンジェリンの言葉がそれを遮る。

「もう死んでいるからな。それよりも大切なことがあるんじゃないのか?」
そう言うとエヴァンジェリンはあるモノへと目をやる。

それにつられるように裕也だけでなく刀子も周囲に見る。

何らかの残骸が散らばっているのは気付いていたが、裕也の戦闘スタイルを又聞きしていた刀子は何らかの兵器のなれの果てかと当たりをつけていた。
だが、それは兵器と呼ぶには人の形に似すぎてる。

一つは四肢のほとんどが欠損したモノ。
右腕は肩から、左腕も肘から先がもがれ、両の足も胴体とは離れた所に落ちている。
表情は無表情。
されど、肘しか残されていない左腕は何かに向かって必死に伸ばされていたようにも見えた。

そのあったであろう腕の先にあったのは、背中から胸を刀に貫かれているモノ。
先程のに比べると素人目には形状は保っているが、動いていない所から内部への損傷があるのかもと思案する。
表情は困惑、とは言っても目を見開いているように見えるからそう感じただけかもしれないが。

最後のは腹部で両断されたモノ。
両断と言っても刀剣の類によってなされたものでは無いのは凍りつき、砕かれたような切り口からわかる。
しかし、表情には安堵。
三つの中でも際立って酷い状態であるに関わらず安心しきった顔は人間と遜色ないものであった。

コレの現状が理解できなかった刀子は声を掛けようとするが、
「あっ……」
裕也かがこぼした声に思わず留まる。
それはあまりにも弱々しく、一瞬誰が発したのかわからない程であった。

そこから裕也はエヴァンジェリンにも刀子にも目をくれずふらふらと動きだす。

横合いから刀子に見えた表情は、先程の静かに憎悪を燃やしていたものから一転し今にも泣き出しそうになっていた。

思わず、また腕を掴みそうになるが
「やめておけ」
とのエヴァンジェリンの言葉に制される。

「……どういうことですか?」

「何も知らずにズカズカと近づくな、と言うことさ」
ふん、と不機嫌気味に鼻を鳴らしてから続ける。
「今のアイツに何かを言ってやれるのは私の知る限りでは2人しかいないし、その中にお前は入っていない」

それを受けて刀子は閉口するしかできなかったが、苦し紛れの問いを出す。
「では、あなたは知っているのですか?」

「ああ、お前が知らぬ事も色々と知ってるよ。貴様がどうしてもと言って頭を下げるなら、暇つぶしがてらに今回の事は教えてやってもいいが?」
ニヤリと口元を歪め愉快気に告げる。

正義感の強い麻帆良学園の魔法先生ならば悪の魔法使いに頭を下げるのなど許せまい。
精々、その顔が屈辱に歪むのを楽しませてもらうか。
などと思考し、本当に暇つぶしの算段をたてていたエヴァンジェリンだったが、

刀子の行動は素早く
「お願いします。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。私に彼のことを教えて下さい」
かつ、予想に反して、深々と頭を下げていた。

「は?」
あまりにも予想外の展開についていけず間の抜けた声を出してしまうが、すぐに我に返って
「いや、待て!貴様には魔法先生としての教示はないのか!?」

「魔法先生なんて先生が魔法を使えるだけであって万人のヒーローなんかではないんです」
これは先程も言っていましたが、と繋ぎ
「私達、魔法先生は生徒の味方です。魔法使いで先生なのではなく先生で魔法使いだという事は知っておいていただきたい。まあ、言葉遊びに感じられるかもしれませんがね」
それに私は神鳴流の剣士ですし魔法使いではありません、と冗談かどうか判断しかねる言葉で締める。

ここでの議論は不毛と判断し、エヴァンジェリンは舌打ちを一つしてから口を開く。
「経緯は面倒だから結論から言わせてもらう。あそこにあるのはあいつが創った人形……ガイノイド?とか言うのだ」

刀子は無言で頷く。
研究の内容に関しては論文など、書類として必要なので目を通していたから知っていた。

「あいつはあれらを溺愛していてな。酒を飲ませていくと馬鹿のように……というか、親馬鹿丸出しでいらぬと言っても喋り続ける」
エヴァンジェリンはその場面を思い出したのかげんなりした表情を見せる。
「素面では歳に合わず生真面目で、いつも何かを考え難しそうな顔をしているあいつが酒を飲ませると年相応のガキみたいに笑う」
しかし、どこか面白いものを思い出すような雰囲気も混ざっている。

アインが
ツヴァイが
トライが
修行後の食事でこの言葉から始まる話を何度聞いたことか。

誰かに我が子の自慢をしたかったのだろう。
友達と言う存在がいなかった裕也にとってはエヴァンジェリンは師である以外に滅多に無い私的な会話のできる人物であった。

誰かに技術的な事でなくヒトとして、自分の大切な家族を自慢したかった。
身内である超や葉伽瀬に自慢してもしょうがない。
科学的な話であればこぞって学者や学生が集まるであろう。
しかし、裕也が望んでいたのは技術的な内容ではなく極ありふれた我が子の自慢。

常人は機械が家族という感情を共有できない。
ならば相手が常人でなければいい。
その点で言えばエヴァンジェリンは最適な人物だった。
不老不死である真祖の吸血鬼。
更に、チャチャゼロを筆頭とした自律した人形達の従者。
科学と魔法
アプローチの仕方に違いはあれど、裕也にとっては理想に近い存在だった。

初めは魔法のプロフェッショナルからの意見を欲して話をしていた。
人形に魂を吹き込むなど術式は理解できなくとも知識として聞いてみたかったからである。

落ち着いて話せる場など別荘での食事時しかなかった。
エヴァンジェリンは色気もムードも無い会話だ、など不満タラタラだったがなんやかんや言いながら付き合ってくれた。

この時、マスターに色気なんてあるのか?と真顔で聞いた裕也が糸で酷い目にあわされたのは余談である。

四散しているパーツを一つ一つ、丁寧に集めている裕也の背中を見ながら刀子は口を開く。
「未成年の飲酒に関して目をつむりますが、それならばアレらは彼にとって……」

「娘、みたいなと言うか愛娘そのものだ。知ってるか?あいつが研究を始めた理由を」
刀子が詰まった部分を告げてから、更に問う。

「............」

茫然とし、反応できないでいる刀子を無視して告げる。
「家族が欲しい。そんな幼稚な願望をよくもまあ面倒な方向から満たそうと思ったものだな。馬鹿となんたらは紙一重とはよく言うが......」

刀子にエヴァンジェリンの言葉はもう届いていない。

裕也の行動、その意味を、心の一端を垣間見た時、刀子の中で何かが音を立てて崩れた。

間に合ってなどいなかった。

守れていたモノなど無く、自分が見ていたのは都合のいい幻想に過ぎなかった。

彼は既に失っていたのだから。

真実に気がつき、茫然自失となった刀子は増援としてシスターシャークティが到着するまで、ただパーツを拾い続ける裕也を見続けることしかできなかった。

つらつらと昨日の出来事を思い出していた刀子は学園長の後ろを歩きながら覚悟を新たにする。

彼が望むのならば手助けをしよう。

守れなかった私が言うにはおこがましいかもしれないが。

彼が望むだけの力を、強さに到れるようできうる限りの事を。

ただ、その力を間違った方向に振るわぬよう、誤った強さにならぬよう気にとめなくてはならない。

力強く足を踏み出す。

早く行かなくては。

まだ、私を先生と呼んでくれる生徒の未来のために......

「おーい。葛葉先生、どこまでいくんじゃ?」

「......えっ?」
足を止めていた学園長が声をかけた時、既に刀子は目的地の研究室を1メートル程通り過ぎていた。


あとがき
えー……もう二年ぶりくらいの更新になるTYです。
申し訳ありません。スランプというか、まったく文章が纏まらずズルズルとここまで......
ちまちまと書き続けたモノなので展開とかに不備や違和感があるかもしれませんが、平にご容赦を......

どんどこどーん様
俺、沙霧裕也(`ェ’)ピャー

コジマ漬け様
恥ずかしながら帰ってまいりました。
これからの更新はもうちょっと早くしたいな......

西博士に関しては番外編とかでやりたいことがあるんですけどまだ無理っぽいです。

瓦様
このような稚拙な作品を見たいと言ってくれてありがとうございます。
原作は既に崩壊が始まっているのでもう手遅れですから気にせずいきます。


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