転生生徒 裕也
第二話
裕也は今、超が連れてきた少女と向き合っている。
最初の内は超が友達を連れてきたのかと思ってほっといたのだが、超に研究の協力者になるかもと言われお互いに自己紹介をするという流れになっていた。
「私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。『闇の福音』とも呼ばれてる吸血鬼の真祖にして最強の魔法使いだ」
何も知らぬ者がきいたら中二病全開な自己紹介をするエヴァンジェリン。
痛々しい空気が研究室を支配する中、なんとか平静を装い裕也も自己紹介をする。
「あ、ああ…この研究室の主任で高等部一年の沙霧 裕也だ。よろしく頼むよ、エヴァンジェリン。いや、マクダウェルと呼んだ方がいいかな?」
そうするとエヴァンジェリンは興味を無くしたのか
「どちらでもいい。好きにしろ」
と言って超が入れてきた緑茶を飲みだした。
会話が途切れてしまった裕也は隣で羊羹を切り分けている超に小声で
「彼女で本当に大丈夫なのか?」
と問いかける。
その問いに超は不思議そうな顔をして
「彼女は世界でもトップクラスの魔法使いネ。何か問題でもあったカ?」
とエヴァンジェリンに羊羹を渡しながら小声で返してくる。
裕也も超から羊羹を受け取りながら本題を切り出した。
「彼女は中二病を患っているようだが…本当に大丈夫なのか?」
と言い切った所で超と聞き耳を立てていたらしいエヴァンジェリンが茶を吹き出した。
奇しくも2人とも裕也の方を向いていたのでモロに浴びてしまう。
「き…貴様っ、この誇り高き悪の魔法使いの私を中二病扱いとはどういう事だっ!」
とエヴァンジェリンは机をバシバシ叩きながら抗議してきた。
「…すまない。中二病は中二病と言われるのを嫌がるんだったな。なに…中二病は症状の重さは人それぞれだが皆かかる精神的な病気だから余り気にするな」
と、浴びせられたお茶を拭きながら裕也が真剣に答えたら…
「だから、中二病では無いっ!ええい、貴様、超からこちら側の話はどの程度の事を聞いているっ!?」
うがぁーと物凄い剣幕でエヴァンジェリンが裕也に問いつめる。
少なくとも隠すような事は無いと判断し
「工学や科学に応用できる範囲と言い触らしてはならないと言った諸注意だ」
と裕也は答えた。
それを聞いたエヴァンジェリンは少し硬直してからまた問いかけてきた。
「な、ならば貴様が自己紹介する時に態度がぎこちなかったのは…」
流石に少し裕也は躊躇ったが
「いや…いきなり中二病全開の自己紹介をされて困惑してしまってな…」
と正直に答えた。
エヴァンジェリンは答えを聞き終えるか終えないかで鉄扇を取り出し超に殴りかかった。
いきなり鉄扇で殴りかかられたのに笑い転げている状態から反応出来ている辺りで超は武術の力量もかなりのものだと伺える
「ちょっ…エヴァンジェリン、いきなりなにするカ!」
「超 鈴音!貴様はコイツにはこちら側と私の事を教えたといっただろ!」
と、攻撃を止めることなく言い放つ。
「ああ、その事カ。いや~裕也とその類の話をしてるとどうしても趣味の方に行ってしまってネ…アナタの事を説明する前に満足して終わってしまうネ」
とそれを凌ぎながら超はお気軽に言ってのける。
「このっ!私が中二病扱いされてしまったのは貴様のせいだろ!」
エヴァンジェリンの猛攻は続く。
徐々に白熱していく戦闘、それに比例して散らかっていく研究室…。
その現状をほっといて裕也は研究に戻っていく。
(研究室は終わったら片付けてくれるのだろうか…)
などと微妙にズレた事を考えながら。
結局、二人の戦闘は裕也が起動させた試作ガイノイド一型『アイン』に止められるまで続いた。
「くっ…魔法さえ使えればこんな簡単には…」
とかエヴァンジェリンは悔しがっていたがスルーした。
裕也と超は試作ガイノイド一型『アイン』の問題点の洗い出しをしていた。
「やはり有線での電力供給だと動きに制約が出来てしまうな…いっそのことバッテリー型にしてみるか?」
「既存のバッテリーではアインの稼働に必要な電力を確保するだけでもかなりの大きさになってしまうネ。それに内蔵している光学兵器を撃てるだけの物となると…重量オーバーで満足に動くことすら難しくなるヨ」
「そうなってしまうよな…というか光学兵器は諦めろ。出力不足なのにかなり電力を喰うんだから」
「仕方ないネ…搭載出来るサイズに出来たことで今は満足しとくヨ。で、ここからが今日の本題なのだが…エヴァンジェリン、私達の研究はお気に召したかナ?」
と超は掃除中のアインを興味津々で見ているエヴァンジェリンに話を振った。
「ん…?ああ、確かにコイツには『人形使い』としては興味があるな。だが…協力するかと言うのとは話は別だ」
アインから超達に視線を移してエヴァンジェリンは
「何より…悪の魔法使いが何の対価や代償も無しに手を貸すと思っているのか?」
と交渉を持ちかけてきた。
「対価や代償…ねぇ。どうするんだい、超?」
「私に交渉を任せてくれるのカ?」
あっさりと自分に話をふってきた裕也に超は驚いたような表情をして見せた。
「君が連れてきたのだし君が交渉に当たるのが筋だろう。基本的に私は隣で聞いているだけだ」
(本音は私なんかよりも超の方が交渉が上手いだろうから任せたのだが…)
などと考えていることはおくびにも出さず裕也は答える。
交渉の結果は
・エヴァンジェリンは魔力機関と試作機たちの稼動実験につかう場所の提供。さらに魔法技術についてのアドバイス。
・最終目的の人のようなロボットの完成体の一体のマスター権限をエヴァンジェリンに渡す。
と大まかにはこのようにまとまった。
そろそろ帰るのかという頃にエヴァンジェリンが裕也に声をかけた。
「確か…沙霧 裕也とか言ったな」
「ああ、どうした?」
「その内に貴様を私がやらされている裏の仕事に連れて行く。超に聞いて武器やら体捌きを付け焼き刃でも良いから何とかしておけ」
「…それは今後に必要なのか?」
「当然だ。貴様が関わっていくモノなんだ。自分の目で見る必要がある」
との台詞を残して帰っていった。
「との事だが…超、どうしようか」
今すぐに先ほどの超やエヴァンジェリンのような立ち回りが出来るようになるなんて無理だ。
「武器はアインの武装を何個か裕也用に改造すれば何とかなるが…流石に体捌きや、裏の仕事に必須の『気』や『魔力』を用いた身体強化は今すぐには無理ネ」
との結論を出した。
「『気』や『魔力』を用いた身体強化…なあ超、強化をするのは生身で『気』や『魔力』じゃなきゃならないのか?」
裕也が思いついた事が可能なのか確認するために問いかける。
「それ以外に生身で裏の攻撃を耐えたり避けたりするのは…ん?生身じゃなければ…」
超も裕也と同じ事に気がついたようだ。
「そう、『気』や『魔力』ではなく『科学』用いた身体強化…いや、強化アーマーとでも言おうか」
裕也が超も思いついたであろう事を口にする。
「それなら対物理防御の問題はなくなるガ…対魔法防御が問題になるヨ」
と超は問題点をあげていく。
「それは…魔力・電力併用バッテリーでカバー出来ないか?」
魔力・電力併用バッテリーとは超の研究の過程で出来上がった電力を魔力に魔力を電力に変換でき、二種類のエネルギーを別々に蓄えて置くことの出来るバッテリーなのだが…
「ガイノイドに搭載するには不十分でも強化アーマーになら十分かもしれないネ。それに呪紋回路を用いた対魔法防御も可能になるヨ」
このバッテリーは超が言うようにガイノイドに搭載するには不十分である。
主な理由は10を変換すると4~5になってしまうという変換率の悪さである。
だが、強化アーマーにはエネルギー変換の機能は必要ない。
装着者の筋力を増幅させるための電力と呪紋回路を用いた障壁を張るのに必要な魔力を持たせるのが目的ならば十分だ。
「では…試作ガイノイド二型『ツヴァイ』の開発と同時進行で行くか」
と今後の研究の方向性を定めていく。
「そうするカ。幸いにして『ツヴァイ』には換装システムを実装する予定だったからネ。それも混ぜていければ多面的な作戦も攻略可能に…」
と、かなり乗り気になっている超を正気に戻して設計にとりかかる。
そして強化アーマーが完成してから1ヶ月後…裕也はエヴァンジェリンに連れられて夜の麻帆良に立っていた。
あとがき
今回から科学面でのオリ設定がかなり出てきます。
矛盾や語意的に変な所があったら指摘してください。
感想レス
beck様
唐突に感じてしまったのは作者の力量不足です…
両親の夜逃げについてはこれからの話しで説明していきます。
a様
文の量は徐々に増やせるよう精進していきます。
Marl様
こちらの不手際の報告ありがとうございます。