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No.8004の一覧
[0] 転生生徒 裕也(現実?→ネギま) 習作[TY](2009/10/22 23:38)
[1] 転生生徒 裕也 プロローグ[TY](2009/09/28 21:38)
[2] 転生生徒 裕也 第一話[TY](2009/09/28 21:39)
[3] 転生生徒 裕也 第二話[TY](2009/09/28 21:40)
[4] 転生生徒 裕也 第三話[TY](2009/09/28 21:41)
[5] 転生生徒 裕也 第四話[TY](2009/09/28 21:42)
[6] 転生生徒 裕也 第五話[TY](2009/09/28 21:43)
[7] 転生生徒 裕也 第六話[TY](2009/09/28 21:44)
[8] 転生生徒 裕也 第七話[TY](2009/09/28 21:47)
[9] 転生生徒 裕也 第八話[TY](2009/05/14 16:28)
[10] 転生生徒 裕也 第九話[TY](2009/05/16 20:30)
[11] 転生生徒 裕也 第十話[TY](2009/05/22 22:07)
[12] 転生生徒 裕也 第十一話[TY](2009/05/31 21:40)
[13] 転生生徒 裕也 第十二話[TY](2009/06/22 23:54)
[14] 転生生徒 裕也 第十三話[TY](2009/07/15 00:04)
[15] 転生生徒 裕也 第十四話[TY](2009/07/15 00:02)
[16] 転生生徒 裕也 第十五話[TY](2009/09/28 21:37)
[19] 転生生徒 裕也 第十六話[TY](2009/10/22 23:35)
[38] 転生生徒 裕也 第十七話[TY](2011/09/04 18:31)
[49] 転生生徒 裕也 第十八話[TY](2011/09/04 18:25)
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[8004] 転生生徒 裕也 第十六話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/22 23:35
転生生徒 裕也
第十六話

どうにかそれっぽい説明で二人を満足させたタカミチが一息つく間もなく話は進んでいく。

「疑問が解消された所で話を戻そうかの」
何か憑き物が落ちたような晴れやかな表情で学園長が告げる。

「そうだな。で…どこまで話した?」

「沙霧君が知識を引き出せるという所までたよ…」
小首を傾げた状態のエヴァンジェリンに教えた後にタカミチは小さく溜め息をついた。

「裕也が何から知識を引き出しているとかその辺りの仮説は話してないんだな?」
問い掛けに頷く二人を確認してからエヴァンジェリンは続きを口にする。
「そこからか…裕也が取り出している知識にはこの世界と食い違っていたり、偏っている箇所が多数見られた。一例としては麻帆良という地名には何一つ情報が無いそうだ」

「世界でも有数な規模を誇る学園都市の麻帆良について何一つ?」

「ああ…ところで、だ。これらの名前に聞き覚えはあるか?これは引き出させた知識の一部を纏めてみた物だ」
タカミチの確認を肯定してから、エヴァンジェリンは服のポケットから取り出した数枚のメモを学園長に放り渡す。

メモを受け取った学園長は興味津々と言った様子で読み始める。
「それは興味深いの。風○学園、国立バ○ベナ学園、学○都市、洛○和高校、国立○宿小学校…どれも知らん名じゃのう。あと、学園とつく学校が異様に多い気がするんじゃが…気のせいかの?」
一通り目を通し、誰にも答えを求めない疑問を呟いてからタカミチにメモを手渡す。

「全竜交○部隊、○神院、神○館、我がカ○テル、ネル○、ジャスティ○アーミー、レプリ○ォース、裏新宿・○限城、ロボ○ボ団…こちらも聞いたこともない名前ですね」

タカミチがメモから目を離したのを確認してからエヴァンジェリンが口を開く。
「裕也が言うには身体に入っている魂からの引き出しているらしい。まあ、意識シンクロの魔法で確認したからほぼ間違いないようだがな」

「どうして沙霧君は自我を保っていられるんだい?複数の魂なんて入っていたら発狂してしまうんじゃ…」
タカミチがメモを学園長に返しながら聞く。

「あいつは無意識のうちに他の魂を封じ込めたんだよ。持ち前の膨大な魔力を使ってな」

受け取ったメモに再び目を落としながら学園長はエヴァンジェリンに問い掛ける。
「ふむ…そんな事をしてしまったら取り出す事など不可能なのではないかの?」

「そこでファイヤーウォールとプロキシサーバーの話になるんだろ。魔力で封じ込めた魂から必要な知識のみを取り出す…説明としては十分だろ」
なかなか上手い例を言う奴もいるもんだ、とエヴァンジェリンは関心したように頷く。

エヴァンジェリンの興味が上手い例を言う奴、アルビレオ・イマに向かう事を恐れた学園長は話題の転換を謀る。
「なる程の…そんな器用なことが無意識に出来るのならば魔法使いとしても大成するかもしれんの」

「…それは無理だ。精霊に嫌われすぎている」
エヴァンジェリンは少し考える様子を見せてから続ける。
「あいつは微妙にズレている。本来なら存在し得ないモノが身体の内にありすぎてな」

「精霊に嫌われる…そんな事もあるのか」
魔法にあまり深い知識を持たないタカミチが呟く。

「ああ…その辺りには疎いのか」

「いや、結界とか魔法の基礎の部分ならまだ解るんだけど少し踏み込んだ所はちょっとね…」
はっはっは、と笑いながらばつの悪そうに目をそらす。

「もうちとタカミチくんも勉強が必要じゃの。沙霧くんは魔法を使えんか…で、話はまだ終わらんようじゃの」
ふぉふぉふぉ、と笑っていた学園長が真面目な表情に切り替えてエヴァンジェリンに問い掛ける。

「そう急かさんでも話すさ…ついさっきだが、裕也をちょっとした荒技で立ち直らせてきた」

「ちょっとした荒技って…エヴァが言うなら余程の事なんじゃ…」
何てこと無いように告げるエヴァンジェリンに引きつった笑みを浮かべたタカミチが呟く。

「何、雪山に1ヶ月放置しただけだ。甘い方だろ」
しれっととんでもない事を言い放つ。

「いや…きちんとした装備がなきゃキツいじゃろ」
冷や汗を浮かべた学園長が即座につっこむが、歯牙にもかけず話を続ける。

「あいつは死に瀕して魔力を扱う術を身につけた。ただそれだけならわざわざ報告にくる必要は皆無だったんだが…」
ニヤリと笑みを浮かべたエヴァンジェリンは一拍間をおき
「崖っぷちの状況を覆す為に膨大な魔力の使用により魂を封じ込めていた魔力の枯渇、それによって溢れ出てきた魂共との肉体争奪戦…それによって裕也はどうなったと思う?」
意地の悪い問い掛けをする。

「あまり想像はしたくないの…下手をすれば肉体が乗っ取られてしまう」

「万が一に負けてしまっても魂と肉体が上手く適合しなければどうなるか…」
学園長とタカミチが各々に悲観的な想像をして青ざめる。

「安心しろ。負けて乗っ取られるなんて醜態は晒していない。乗っ取られるどころか打ち勝って逆に取り込んだしな」
エヴァンジェリンの何気ない回答が二人の不安という感情を違う方向に向ける。

「……なんじゃと?」
ぎしぎしと油の切れたロボットのような動きでエヴァンジェリンに顔を向けた学園長が口を開く。

「肉体を乗っ取られるなんてリスクを背負ってるんだ。それなりのリターンがあってしかるべきだろ」
ふん、と鼻で笑ってから答える。

「取り込んだというのは魂の事でいいのかい?それなら人格にかなりの影響を及ぼすんじゃ…」

「そのまま取り込んだのならな。裕也は己が打ち倒した魂は消滅したと思い込んでいた」
エヴァンジェリンはタカミチの問いに答えるついでに話を進める。
「魂は高いエネルギーを有している…流石にこれは知っているな?」

「まあね…でも、その利用は違法研究者たちでも成功したとは聞いたことはない」

タカミチの答えを聞いたエヴァンジェリンは頷き
「その通り…魂はそれぞれの色が強すぎる。肉体のしがらみが無い分か、余計に我を通そうする」
至極楽しそうに続けていく。
「過去に何処ぞの誰かがやった研究で魂同士を戦わせるというのがあってな…」

「それは知っとるよ。魂同士の戦いは意志の強い方が勝つ…そうじゃったな?」
学園長がセリフを少し強引に引き継ぐ。

「…ああ。確たる意識がある分、生に対する執着はそこいらの悪霊なんて比にならない程の意志を持つ魂共を裕也は打ち倒した」
ほんの少しだが不機嫌になったエヴァンジェリンだったが、話を続ける内に機嫌が戻っていく。
「で、ここから先が問題だ。本来、肉体が死んだ魂は肉体から解放され輪廻転生に加わる。だが、今回裕也に敗れた魂は解放されない」
裕也の肉体は生きているからな、と続ける。
「ならばその魂…正しくは魂が有していたエネルギーはどうなった?裕也のように消えたなんて言うなよ、タカミチ」

先程、知識不足が露呈してしまったタカミチは痛いところ突かれ苦笑いを浮かべてから口を開く。
「こちら側でも基本的にエネルギー保存の法則は通用するからね…ひねくれた考え方をしなくていいなら沙霧君は倒した分の魂のエネルギーを…まさか!?」

苦笑を愕然とした表情へと変えたタカミチを見て満足そうに頷き
「お察しの通り…裕也は膨大なエネルギーを喰らい糧とした。しかもまだ魂は裕也の内に残っているから伸びしろもある」
今回の話の本題を告げる。

「それをどうやって知ったんじゃ?」
いつものボケた雰囲気を感じさせぬ鋭い視線をもって学園長が問い掛ける。

「外からは余程注意深く観察しなければわからないが…気の密度やら魔力の総量は段違いになっている」
私は血を飲んだらからわかったようなものだぞ、とエヴァンジェリンは後者について補足する。

「少なくとも一目で見抜く事はできんのじゃな…全く、こんな事が本国のお偉方の耳に入ったらまたうるさくなるわい」
重々しい溜め息と共に愚痴を吐き出す。

「それに、自分以外の魂の利用に成功した知れば今まで興味を示さなかった輩も手を出してくるかもしれませんね」
タカミチも不安要素を挙げる。

「非合法な手段をとってくる奴らは無視してもいい。タカミチ程度の相手ならば装備が無くても逃亡くらいならできる…まだ勝てはせんだろうがな」
不機嫌な表情を隠そうともせずに忌々しげに口を開くエヴァンジェリン。

「一年もしないでそのレベルなら十分じゃないか」

「別荘もつかってるから既に一年は過ぎている。もっと修行をハードにしていくか…いや、総合力を上げるために巻物に放り込んでみるのも有効…」
タカミチのフォローを一蹴したエヴァンジェリンはぶつぶつと今後の予定を考え始める。

「その辺の話は本人も知っておるのか?それによって此方の対応も変わってくるんじゃが…」
会話に参加せず黙々と思考を巡らせていた学園長がエヴァンジェリンに問い掛ける。

「ん?喋っといたぞ」

「教えても大丈夫だったのかい?結構ショックが大きいような事だと思うんだけど…」
余りにもあっさりと答えたエヴァンジェリンにタカミチが聞く。

「あいつは心の強さだけなら私の従者として合格点をやれる。戦闘の方はまだまだだがな」
先程とは違い、少し誇らしげに答えたエヴァンジェリンは用は済んだと言わんばかりの態度で出口に向かう。

背を向けたエヴァンジェリンに
「そうか…では公の方への対策や情報統制はこちらがやっておこう」
学園長が告げる。

「ふん…」
明確な答えを返さなかったエヴァンジェリンだが扉を開きかけたところで立ち止まり
「じじい、余所よりも身内の方を心配してやれ。貴様の孫は何時か否応無しに巻き込まれるぞ」
振り返らずにそれだけ言うと部屋から出て行った。

バタンと扉の閉まる音がしてある程度時間が経ってから学園長が口を開く。
「ふぉふぉふぉ…痛いところを突かれてしまったの」

「エヴァがあんな事を言うなんて珍しいですね…」
普段の彼女らしからぬ言動に驚愕の表情を露わにしたままタカミチが言う。

「木乃香の事はワシも考えとるんじゃが…組織のバランスやら体面やら面倒くさいもんが多すぎるわい」
溜め息と共に自然と愚痴がこぼれる。

「ナギをも上回る魔力容量の持ち主と言うのもありますしね」
それ以上に孫バカというのも入っていそうだがタカミチは決して口に出さない。

「再来年には彼女もくる予定じゃからその辺が転機になるやもしれんが…今の所は打つ手無しかの」
そう呟くと今まで止まっていた書類整理を再開しようと判子に手を伸ばす。

それを見たタカミチは姿勢を正して口を開く。
「では、僕も仕事に戻ります」

「うむ。忙しいかもしれんが勉強もしっかりするんじゃぞ」
との学園長からの苦言を受けながらタカミチは学園長室を出て行った。


何時もより重い空気の研究室でその原因となる裕也が話を締める。

「以上が私が知っている私についての事だ…」
目を伏せたまま裕也は二人の顔を見ようとしない。

一瞬とも永遠とも思える間を挟んでから超が言葉をこぼす。
「なんと…」

「まさか…」
葉加瀬もそれに続く形で言葉を発する。

何を言われるのかと身を固くしていた裕也は
「「裕也/沙霧さんの両親がショッ○ーの研究員だったなんて!!」」
二人で図ったかのように声を揃えて叫んだ内容を聞いて盛大にずっこけた。

「…なんだと?」
なんとか体制を立て直した裕也が聞き返す。

「え…違ったのカ?じゃあゴル○ム?」
ぱちくりと目を瞬かせた超が首を傾げながら問い掛ける。

「超さん、年代が飛びすぎですよ。おそらくゲル○ョッカー辺りですよね」
これなら大丈夫と自信満々に言う葉加瀬。

「今の話のどこにそんな要素があった!?」
シリアスな流れがくるかと身構えていたら見事に肩すかしをくらった裕也が叫ぶ。

「人体実験をされた的なことを言ってたじゃないですか」
それに葉加瀬が即答する。

「あと変身機能も付いてると…」
超も補足するが…

「葉加瀬は間違ってはいないが超は合っている所がない!!本当に話を聞いていたのか!?」
あんまりな返答にテンションが変になりながらもツッコミは忘れない。

「実は話半分に聞いてました」
てへっ、とかわいい子ぶる葉加瀬と

「私はちゃんと寝ていたヨ」
どうだ、と言わんばかりに胸をはる超に

裕也の中で何かがキレた。

ふらっと立ち上がった裕也を不審に思った超が問い掛ける。
「…あれ?裕也どうしたのカナ?」

「きっと変身機能を見せてくれるんですよ」
ですよね、と裕也に話を振る。

「…………」
しかし裕也は無言のまま瞬動で超と葉加瀬の背後に回り

「ひゃぁ!?」

「にゃあ!?」
むんずと二人の首根っこを掴みあげ、まるで人さらいの山賊のように肩に担ぎ上げ黙々と歩を進めていく。

「ちょっ…裕也?あれ、もしかしなくてもマジギレカ?」
冷や汗を額に浮かべた超が恐る恐る問い掛ける。

「いや…場の空気を和らげる冗談だったんですよ?私は」

「ハカセ!?何1人だけ助かろうとしてるネ!!」
それを皮切りに、じたばたともがきながら口論を始める二人。

それを気にせずに裕也は目的地にたどり着くとそこへ二人を投げ入れる。

「おぉ!?」

「痛い!!」
超はちゃっかり受け身で衝撃を逃がしたようだが、武術の心得など無い葉加瀬はもろに腰から落ちてしまった。

そして裕也も入り、バタンと扉が閉まるとそこは完璧な密室となる。

「ここは…っ!!」
自分がどこに居るのかを認識した超は愕然とする。

「な、なんなんですかぁ~」
腰を打った痛みで涙声になりながら葉加瀬が問い掛ける。

「ハカセ…痛いのは初めてだけだから安心して欲しいヨ」
目のハイライトが消えて虚ろな笑顔を浮かべた超が葉加瀬の後方へ視線をやりながら噛み合わない答えを返す。

「は?何を言って…ふぁ!?」
ぽかんとして再度問い掛けようとする葉加瀬を裕也が後ろから抱え上げて腹這いの状態で膝の上に乗せる。

「え?あれ?まさか…ちょっ!?待って待って!!嫌ですよ!そんな…っ」
恐怖で表情をこわばらせ懇願する葉加瀬だが…

「さあ…お仕置きの始まりだ」
それは叶うこと無く、無情にも振り下ろされる裕也の手に抗う術はなかった。

その日、とある研究室から少女の悲痛な叫び声(?)が聞こえたとか聞こえなかったとか…

数十分後…

「全く…人が真面目に話していたというに…」
ぶつくさと文句言いながらいつもの白衣の代わりにエプロンを装着した裕也は晩御飯の準備を進める。
何時もならば三人で分担してやるのだが他の二人は後ろで何故かへばっていて戦力にならない為、一人でやっている。

「茶化したのは謝るガ…やりすぎヨ」
若干耐性があり、回復をしかけている超が隣に目をやりながら応じる。

その隣には布団にうつ伏せに寝ている葉加瀬がいた。
「…………」
話を振られても枕に顔を埋めたままリアクションが無い。

「む…葉加瀬相手の時には身体強化の類は使ってないんだが」
裕也は鍋がふきこぼれないように目をやりつつも、熱した油から次々と揚げ物を取り上げてそれに軽く塩をまぶしながら会話する。

「年頃の乙女が手込めにされたら仕方ないネ。無垢だった私も裕也の色に染められてしまったようにそのうちハカセも…」
ニヤニヤと歳に不相応な笑みを浮かべた超は葉加瀬を観察する。

そして先程とは違い伏せている顔…というか耳まで真っ赤に染まっている事に気がつき
(あれは、羞恥から来ているのは確かだガ…何か違う要素も見えるヨ。やはりハカセは要注意ネ)
と危険性を再認識していると

「その物言いは高確率で誤解を招く…というか誤解しか招かないからやめてくれ。ほら、葉加瀬もそろそろ料理が出来るから機嫌を直してくれ」
煮干しのだし汁に味噌を溶かし、あらかじめ準備していた豆腐とわかめ、ネギを投入しながら言う。

「むー…今日のおかずは何ですか?」
若干不機嫌そうな声色でだが葉加瀬が久しぶりに返事をする。

「かすぺの煮付けと唐揚げにサラダだ」
火から外した鍋から煮魚を一切れとゴボウ、人参を三枚の中皿に盛り付けながら答える。

「裕也に献立を任せるとほとんど和食になるヨ。ちなみに『かすぺ』とはアカエイの事でコリコリとした軟骨の食感のたまらない白身魚ネ。東北や北海道で主に食されており、地方によっては『かすべ』とも呼ばれているヨ」

「…誰に向かって話している?」
盛り付けを終えた料理をテーブルに並べなていた裕也が唐突に語り出した超に引きながら問い掛ける。

「一応知らない人の為にネ…」

「?まあいい。ご飯をよそえばもう食べれるから大根おろしを頼む」
遠い目をしている超の奇行をいつもの事と割り切り指示を出す。

「…なんか酷い事を思われた気がするヨ」
第六感的な何かで裕也の思考を感じ取りながら超は超・高速大根おろしマシーン~みじん切りもできるよ~(自作)に大根を突っ込む。

「さて…な。ほら、食べるぞ。煮魚はともかく唐揚げの方は温かいうちが美味しい」

「むー…まだ痛いですが我慢します」
幾分か顔の赤みが引いた葉加瀬がもそもそと起き上がり自分の席に座る。

「ほい、おろしも出来たヨ」
深めの皿に入った大根おろしを置きながら超も席に着く。

「唐揚げにはポン酢とおろしも合うからお好みでどうぞ。では…」

「「「いただきます」」」
三人の揃った挨拶で食事が始まった。

「かすぺなんてよく手には入ったネ。麻帆等ではなかなか見ないヨ」
煮魚と白米をむぐむぐと食べながら超が聞く。

「せめて飲み込んでから話せ…チャチャナさんが別荘から出るときに渡してくれたんだ。マスターが食べたいと買ってきたはいいが余ってしまった様でな」
おろしとポン酢を乗せた唐揚げを食べ満足そうに頷き
「それで以前に私の好物だと言っていたのを思い出したらしく少し多めにくれたんだ。今度は礼をしなくては」
何か持っていける物はあったか…などとお裾分けを貰った後の主夫のような独り言を呟く裕也。

「沙霧さんは全体的に味付けが濃いめですよね。ご飯が進みすぎて体重計が怖いです…」
機嫌の戻った葉加瀬も煮汁の染みたゴボウをお茶碗片手に食べながら懸念を口にする。

「そんな心配しなくても大丈夫ネ」
今度は唐揚げで白米を食べていた超が葉加瀬に応える。

「え?どうしてですか?」
まさか画期的な機械をつくったのではと期待がこもった…というか、溢れだしている視線を向ける葉加瀬。

興味が無いのか余り関心を持たずに一人で考え込みながら味噌汁をすする裕也。

そんな二人の様子を知ってか知らずか
「これから二週間とちょっとでガイノイド三体をロールアウトしなきゃならないからネ」
驚愕の事実を告げる。

「は?」
それを聞いた葉加瀬は目を点にして呆ける。

裕也は口に含んでいた味噌汁を吹き出しそうになるのをこらえてから問い詰める。
「な…なんだそれは!!」

「あれ…言ってなかったカナ?あ、ご飯おかわり」
超はお茶碗を裕也に渡してながら小首を傾げる。

「ああ」
自然にお茶碗を受け取った裕也は何も言われなくても一杯目より少な目にご飯を盛って返す。
「ほら…葉加瀬はどうする?」

「ん」
お茶碗を受け取り、再び煮魚に箸を伸ばす超。

「あ、お願いします」
話を振られた葉加瀬も空になっていたお茶碗を渡す。

「そういえば漬け物もあるが出し忘れてたな…」
葉加瀬のお茶碗にもご飯を盛っている途中で思い出したのか裕也が呟く。

「今日はもういいんじゃないカナ?」

「そうですね。おかずもまだありますし」
味噌汁を飲んでいる超とお茶碗を受け取った葉加瀬がざっと食卓を見て答える。

「まあ、すぐに悪くなるようなのじゃないから大丈夫か…」
裕也も自分の椅子に座りサラダに箸を伸ばす。

それからは時計の針が進む音と三人の食事の音だけが研究室に響いていた。

「って違うだろ!!」
小皿に取り分けたサラダを食べ終えた裕也が声をあらげる。
「超、後二週間とちょっとでガイノイド三体をロールアウトしなくてはならないとはどういう事だ!」

「はっ!!つい、いつもの雰囲気に流されてしまいました」
煮魚をつっついていた葉加瀬も思い出したのか叫ぶ。

「おお…その話の途中だったネ」
超は食事の手を止める事なく話始める。
「来月から私達は名称をロボット工学研究会に改めると同時に多数の研究会を傘下に加える事になるのは覚えてるカナ?」

「別荘に1ヶ月近く入っていたがそこまでボケてはいないぞ…」
じと目で超を見ながら裕也が答える。

「それなのに、完成体が一体もいないとなると組織のトップとして体面がよくない…という事ですか?」

「そーゆー事ヨ。しかも外部には三体のガイノイドが起動しているという情報も流れてしまっているしネ…おお、確かにおろしとポン酢も合うヨ」
葉加瀬の台詞を補足しながらも超の箸は止まらない。

「それならば仕方ない…最悪、マスターの別荘を借りるのも視野に入れておくべきか…」
頭の中で軽くスケジュールを組んでみた裕也が肩を落とす。

「そうとう決まれば行動開始です!さあ、片付けを終わらせて作業に移りますよ!!」
気炎を纏った葉加瀬が立ち上がり吼える。

「片付けると言っても料理はまだ残って「ごちそうさまでした」無い!?」
葉加瀬を諫めようとした裕也の発言を超の一言が破砕する。

「障害は無くなりました…さあ、手早く片付けますよ!!」

「超…なんか葉加瀬のテンションがおかしくないか?」
葉加瀬のアッパーテンションに引きながらこそこそと超に話かける。

「そんな事無いヨ。(裕也がご飯を作った時は)大抵あんな感じネ」
と超は心中で付け足しながら立ち上がる。

それに続くように片付けに移ろうとした葉加瀬を裕也が窘める。
「そんなもんか…葉加瀬、せめてごちそうさま位は言ってからにしてくれ」

「あ…そうでした。では、ごちそうさまでした」
指摘を受けていそいそと座り直して手をあわせて丁寧に言う。

「はい、お粗末様でした」

「むー…私の時には返してくれなかった…」
片付けをしながら葉加瀬と裕也のやり取りを見ていた超が不満の声をあげる。

「それはタイミングが悪かっただけだ…」
裕也もごちそうさまと言って立ち上がり片付けに参加する。

「どういったコンセプトで行く?」
泡を立てたスポンジで食器を磨きながら裕也が二人に話を振る。

隣で裕也から受け取った食器の泡を流水ですすぎ落としていた超が答える。
「そうだネ…原点に立ち返る意味も含めてアインに近い形でいいんじゃないカナ」

「そうですね。アインにツヴァイ、そしてドライのデータを用いれば全体的なスペックアップも可能ですし」
さらにその隣で食器をうけとり水気を拭き取っている葉加瀬が締める。

「必要な関連書類はもう提出したが、オープニング・セレモニーの準備もしなくてはならないしな…」
流れ作業の手を止めずに呟かれた裕也の言葉に

「あ…忘れてたヨ」
本気で忘れていた様子で反応する超。

「やんなきゃダメですかねぇ…」
葉加瀬は葉加瀬で先程のテンションが欠片も見られない声でぼやく。

「おい…」
本当にこんなのがトップに立って大丈夫だろうか…と自分の事を棚に上げながら考える裕也だった。


オマケ(蛇足とも言う)

エヴァンジェリンは困惑していた。
面倒な報告を終えて家に戻り明日が学校だと思い出し逃避のために再び別荘に戻った。
ここまでは問題ない。

世間的には問題あるかも知れないがここは無視する。

丁度、夕飯時だったのでドール達が作った食事の準備も万端である。
そしてチャチャゼロを呼んで食事が始まった。

食前酒はシャンパン。
軽く飲む分には丁度良い。
チャチャゼロは物足りなさそうだったが割愛する。

そしてオードブル。
野菜のマリネと薄切り肉の盛り合わせ。
食材に関しては少々値は張っても良いものを買っている。
しかもドール達の調理技術もあり十二分に素材の味も引き出されているから否の打ちようが無い。
肉をめぐってチャチャゼロと骨肉の争いが勃発しかけたが後ろに控えていた一体のドールの『肉を追加する』という機転で回避された。

続いてメインディッシュ。
本来ならば前にスープやパンが入るが正式なコースではないので省かせている。
今までの流れから見て魚料理がくるのは読めていた。
読めていたのだが…

「なぜ煮魚なんだっ!!」

ワインに煮魚…合わない訳では無いだろうが何かが違う。
しかも魚といってもそこいらの魚ではない。
かすぺと言う麻帆良にはなかなか出回らない魚だ。
確かに好みではあるがコースの流れをぶったぎってまで出して欲しい料理ではない。

「今日の料理の責任者はどいつだっ!?」

オッ、ウマイナコレなどと言いながらパクついてるチャチャゼロは完璧に思考の外に追いやる。

「私です」
と先程、見事な機転を見せたドール…チャチャナが前に出る。

「ほう…貴様か。何故、メインディッシュがコレになったか説明してみろ」
頬をひくつかせながらエヴァンジェリンが異彩を放つ和風の皿を指差し問い詰める。

「はっ。前々回に裕也さ…沙霧 裕也様がいらっしゃった時に美味しいと仰っていたので」
一部突っかかったが、表情を変える事なくチャチャナは答える。

「……では材料はどうした?買ってきた覚えはないんだが」
エヴァンジェリンは色々ツッコミたい気持ちを抑えて次の質問に移る。

「それは普通に買いに行って…あ、いえ、倉庫の奥にありました」

「今のは流石に無理があるだろ!!」
明らかにしどろもどろな解答をしてきたチャチャナに我慢しきれずに飛びかかり胸倉を掴み揺する。
「買い物ってここから出たんだな!?というか、どうして外で動けた!さあ、吐け!!」

「なナななな、何をおっしゃる。こねこさん」
ガクガクと揺さぶられながら平坦な声色で動揺を露わにする。

「誰が子猫かーっ!!」
うがーっと血相を変えて叫ぶエヴァンジェリン。

そこからはエヴァンジェリンが一方的に叫び続け、話がどんどん逸れていき真実は暴かれなかった。

それを端から見ていたチャチャゼロは
「ヤッパリアイツノ影響カネ。テカ煮魚ニワインモ悪クナイガ…日本酒ノ方ガイイナ」
いつの間にか日本酒を引っ張り出して一人で飲んでいた。




あとがき
どうにかこうにか今回は1ヶ月以内に更新できたTYです。
説明チックな内容になると話が進まない…
ネギが来るのが4年後とか…今年中にネギを出せるのだろうか。

設定?は色々といじるので一度下げさせてもらいます。
オマケは地の文を増やす練習の過程で出来たモノなのでアドバイス等ありましたら…




感想レス
モリヤーマッ!様
まさか通じる方がいるとは…
覇暗超を登場させ尚且つ活躍させれるような展開を、とも考えたのですがハードルが高すぎました。


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