久しぶりすぎてどうやって書くのか忘れています(なに
『カーペンタリア』
地球連合との停戦協定において、ザフトが地球上に維持する事を認められたジブラルタルと並ぶ軍事拠点である。
「カーペンタリアまで視界良好、静かな南海が広がっているのみです……無事着きましたね?」
そしてそのカーペンタリアの領海内へと踏み入る船が一つあった。
本来ザフトが海上船として配備している潜水母艦 ボスゴロフ級でも、物資運搬の為に民間から徴用した貨物船の類でもない。
「えぇ、そうね」
突き出した艦首を筆頭とした三角形のライン。その更に先端に輝くのは地球上では撃つ事すら憚られるはずの陽電子砲 タンホイザー。
その艦戦の名前はミネルバ。
本来ならば月面軌道上に配備されるはずだった最新鋭艦は新造でありながら、既に歴戦の猛者のような傷が目立つ。
「これも全て……クルー全員が最後まで諦めず、奮戦した結果よ……ありがとう」
女性で在りながらも、常に戦場に在るという意識を失わない歴戦の船乗りたる艦長 タリア・グラディスの優しげな感謝の言葉。
ソレを直接的に受ける事が許された幸運なブリッジクルーは程度の差はあれ、誰もが嬉しそうな満足気な表情。
「そういえば……『もっとも』奮戦した『二人』はいま何処に?」
そんな状況下で一部の人間だけを更に持ち上げるような行為。
本来ならば一切の利益を生まないだろうし、逆にマイナスにしてしまうような行動だったが、ブリッジクルーを始めとした誰もがその事実を当然のモノとして認識していた。
二人のうち一人は赤服であり、オーブ沖の激戦での類を見ない撃墜数を示した新人。
もう一人は軍人ですらなく、戦闘に参加するはずもない……プラントの歌姫。
その二人はミネルバの甲板上。
「まるで……空を飛んでいるみたい♪」
「え~と……コレは何ですか?」
出来る限りの端っこ、肩の高さで手を広げて目を瞑る歌姫。
その見事な腰の括れ当たりに手を廻しているのに、些かにも嬉しそうではない赤服。
艦長の言葉に在った『もっとも奮戦した二人』はそんな感じに僅かな安息の時を過ごしていた。
「え! 知らないの!? 『たいたにっく』ゴッコよ!?」
心底驚いたという表情で振り返る歌姫の名はラクス・クライン(に見えるけど実際の所はミーア・キャンベル)。
前大戦を終結に導いた平和の使者……であるはずなのだが、古参MSパイロットの枠を半歩くらい踏み越える実力者。
「たい……たにっく?」
『うわ~コイツ、遅れてるwww』的な視線を頂戴するのは黒髪に紅の瞳が特徴的な赤服 シン・アスカ。
数日と立つ前に初陣を経験した上、全く想定していない大気圏内海上空中戦を物ともせず、勲章確定の大活躍を見せた若者。
そんな二人には到底見えない。
「シン君は地球生まれなんだから、こういうのは詳しいと思ったんだけどな~」
「はぁ……すんません」
俺ことシン・アスカはなぜか怒られていた……いや問題はそこではないはずだ。
本来ならば命令無視で営倉にぶち込まれているはずなのに、甲板上で潮風を満喫している事……も確かに問題だが、やはりそれも違う。
問題はどうして自分はその……プラントの歌姫にして憧れの人であるラクス・クラインの……その、なんだ……
「シィィン!!」
「うわっ!?」
地の底から響いてくるようなアカデミー以来の腐れ縁の声。
首だけ動かして辺りを見回せば、百鬼夜行をぶった切りそうな鬼の形相を浮かべた赤髪の少女 ルナマリア・ホーク。
そして同じくアカデミー以来の戦友である金髪の赤服 レイ・ザ・バレルが諦めに満ちた表情。
「いい加減にラクス様のお腰から手を離しなさいよ!!」
「オレはこれ以上、戦友が国家的スキャンダルを撒き散らす現場は見たくないぞ? シン」
そうなのだ。最大の問題は……俺の手が……ラクス様の腰に回っているという事なんだ!
なぜこうなったか?と言えば理由は簡単。『たいたにっくゴッコ』である。
『営倉入りを歌姫の権力(笑)で何とかしてあげるから、ちょっと付き合いなさい♪』と言われて、ホイホイ付いてきたらこの様だ。
「いや! 俺だって好きでしている訳じゃ…「むぅ~私の腰はそんなに非魅力的かしら?」……そう言う訳じゃなくて!」
「シン! 死ぬ覚悟があるという事で良いわね!?」
MSでの戦闘は勿論のこと、口論でだって一ミリたりとも勝てる気がしない憧れの御仁に振り回され、そろそろルナがリミットオーバー仕掛けている。
戦場以外で此処まで命の危険を感じたのは初めての事だ。
「あ~楽しかった! ありがとう、シン君♪」
しかしその命の危機は急激な収束を迎える。満たされた表情で感謝の言葉を告げるラクスに、俺は安堵のため息と共に腰から手を離す。
命が助かったことに安心しつつ、僅かに心を過るのは残念だと思う気持ち? そんなバカな!?
「ルナちゃんもやる?」
「えっ!? いや! 私は別にちょっと楽しそうだなんて思っては……」
「良いから良いから♪」
どうやら気まぐれな女神のルナへと矛先を向けたらしい。
「実は後ろで支える役もやりたかったんだよね~」
「いやっ! 駄目です、ラクス様! 私の腰は貴女みたいに素晴らしくないっていうか……」
「そんな事無いわよ……ね? 目を瞑ってみて」
なんか端っこの方で先ほど以上に色々とヤバいアレコレソレが展開されている気がするが、そちらには視線を一切向けず、レイの横へと移動。
落ちつける為に大きく息を吸っては吐き、如何しても分からなかった疑問をぶつける。
「で、さ……『たいたにっく』って結局何なんだ? ルナも何か知っているみたいだけど」
「タイタニック号 旧世紀に実在した豪華客船。またはそこで起こった一連の出来事を題材とした物語。
恐らくラクス様の一連の行動から推測するに後者だろう」
「ふ~ん……それってどんな話なんだ?」
豪華客船を題材にしているラブロマンス……別に珍しいものではない気もする。
だが『空を飛んでいるみたい』ってセリフがいまいちシックリこないのだ。
珍しく言い淀んでいるレイが困ったように口を開く。
「簡単にいえば……氷山にぶつかって沈む船の上で男女が絡む話だ」
「ぶっ!? 船が沈む話ぃ!?」
それはオーブ沖での手荒い歓迎を受けたミネルバでやるのは少々不味い話である。
「本物の海の上に下りた時からやりたかったんだけどね?」
先ほどの俺と同じ態勢で、先ほどの自分と同じポーズをとるルナを支えるラクスは言う。
ていうか結局やってるんだな、ルナ? 凄く嬉しそうだけど……
「流石に不安な長い航海が迫っていたので自重してたけど、カーペンタリアが目の前となると我慢できなくて~」
確かにこの距離で連合なりなんなりに襲撃される事もないだろうし、万が一にも沈没しても助けが直ぐに来るとは思う。
しかし幾らなんでも……
「こんなこと……もう出来ないかもしれない」
「っ!? それは……」
満足気な表情を浮かべるルナから手を離し、潮風で靡くピンク色の髪を掻き揚げて、彼女が見つめるのはカーペンタリアではなかった。
ラクスが見ているのはミネルバの軌跡にして、俺たちの突飛にして困難であり余りにも濃密だった一連の旅路。
「タイタニックはその処女航海を最後の航海にした事で、後世にその名前を刻んだ」
軽いステップ。見えない誰かの手を取ったワルツだった。
それこそタイタニックの上でも行われていただろう優美な舞。
「きっとミネルバはこの突発的で、困難極まる処女航海を無事に乗り越えたことで、歴史に名前を刻む」
既に断定の形。他人に口に出されてみて、自分が凄まじい闘争の一端を担ってきた実感が湧いてきた。
そしてこの人 ラクス・クラインに助けられ、ラクス・クラインの言葉を聴き、ラクス・クラインの歌を聞き、ラクス・クラインの隣で戦った事は、普通の人間 ただのMSパイロットができる経験ではないはずだ。
「そんな航海に、みんなと一緒にいられて……良かった」
見渡した先にいるのは俺とレイとルナだけだったが、その言葉の先には艦長を始めとしたブリッジクルーからヨウランたち整備の連中まで含まれるのだろう。
「そろそろ入港準備だね? 戻ろう」
「あっ……」
言葉を切って、背を向ける間際のラクスの表情……『良い夢から覚めたような残念そうな表情』が何だか心に残った。
私ことラクス・クライン(って事になっているミーア・キャンベル)は戸惑っていた。
ミネルバがカーペンタリアに無事入港し、久しぶりの陸地を眼前にした時、私のボディーガード兼首輪兼お目付け役のサラさんが不意にこんな事を言ったのだ。
『ザフトレッドの上着を羽織って、最初に船を降りるように』
ミーアではなくラクスである以上、ザフト軍人としての体裁に一切の意味はない。
というよりも乗っているはずがないラクスが一番に下りるというのはどうなのだろうか?
本来ならばやはり艦長こそが適任だ。歴史に名を刻むという言葉は偽りでも何でもない。
それだけの事をやった船なのだ。一切の責任を背負うべき艦長こそが与えられる名誉であるはずだ。
「最後の方でこっそり降りるつもりだったのに……まさか……」
何かイヤな予感。脳裏をよぎるこの感覚は……客寄せパンダにされそうなビジョン!
足を止めてクルリと後ろに続くタリア艦長始め、パイロット一同が困惑した表情を浮かべるが気にしない。
駆け出そうとして掴まれるのは左腕。
「どちらへ?」
「イタイです……サラさん」
グキリとイヤな感じの音が一つ。何時の間にか横に立っていたサラさんが何時もの無表情。
逃走は呆気なく失敗したようだ。諦めて逆に早足で扉へと向かう。
「んっ……んん!?」
プラントのように調整などされていない南国の日差しに目を細め、馴れて来た事で目を開ければそこには軍人さんたちが居た。
ミネルバ程の功績を上げた船ならばカーペンタリアでもそれなりの地位にある人物が出迎えるというのは不思議ではない。
問題は目の前にいる人たちの地位などではなく、その『数』である。
司令官職に相当する白服、参謀的な意味を持つ黒服は目の前に列を作るのは当たり前。
対岸にはパイロットに整備、警備に事務。ありとあらゆる職種の制服……ってMSまで列を成しているのはどうした事だ!?
「国賓かなんか来るとか……あぁ~私の出迎えか」
本当に忘れてしまいそうになる……忘れてしまいたいのだが、今の私はラクス・クラインなのだ。
これだけの歓迎をする理由があり、私がこんな恰好で最初に降ろされたのはそういう理由であったのだ。
「ラクス様、一言お願いします」
いやいや、サラさん! 幾らなんでも此処で何を喋ったって聴こえない……おや? 襟に見えるはマイクでしょうか?
そうですか……準備が良いですね。流石は元特殊部隊の敏腕マネージャー……畜生めぇ!
「カーペンタリアを守るザフトのみなさん」
スピーカー越しでもそれは美しく、同時に鋭く響いた。
「みなさんに不安はありませんか?」
ザワリと首脳陣に緊張が走る。戦場に在る軍人に不安や不満を持たない者などありはしないのだから。
「領土的な野心を持たないプラントにおいて、故国より遠く離れたこの場所を守り続ける事に不満はありませんか?」
それは一種の矛盾なのだ。
本来ならば全て撤退されるという選択肢もあったはずの、旧大戦の残り香たる二つの基地が一つ それがこのカーペンタリア。
新プラントである国家群を守る為の防波堤で在り、地球を一色に染め上げない為の楔。
平時であれば諍いの小さな種であり、戦時となれば敵からは真っ先に攻略したい要害。
そんな厳しい場所であるというのに、プラントの民からすれば遠すぎるが故に、興味が薄い場所でもある。
「だけどどうか忘れないでください。此処が破滅と平和がせめぎ合う最前線であるという事を」
手を広げて全てを指すように掻き抱く。夢見心地を与える柔らかさはない。
そこにはしっかりと繋ぎとめる武骨な優しさがあった。今までとは違った印象のラクス・クラインに誰とは無く息を呑んでいた。
「此処はプラントから遠い。みなさんの守るべき者たちからは遠すぎる。
だけどここは未来に近い。平穏な未来に最も近く、それを手繰り寄せられる場所」
期待されている。しかもラクス・クラインにである。呑まれた息は熱を帯び、低い唸りが辺りを満たす。
「手には銃、胸には誇り、背には故郷。見つめる先には未来……きっと貴方たちこそが英雄足りうる」
歓声が辺りを満たした。
「遠すぎるよ」
シン・アスカはそう呟いた。振り返る事もなく、颯爽と歩く背。
マイクが外され、本来の音量になっているはずなのに、振り返る事もなく放たれた言葉はしっかりとオレの耳に届いていた。
「ありがとう……さようなら」
ただ俺はソレに敬礼で答えた。
ヨーロピアンテイストで整えられた室内。照明は落とされ、年代物のレコードからはクラシック。
漆喰の長机にはたった一人の人物のみが座し、優雅に白亜のティーカップから呑むのは優雅な香りを発する紅茶。
桃色の長髪と全てを呑みこんでも色を変えない優しさ。微笑みを向け、言葉を告げる先には虚空。
本来ならばその世界の者が決して認識しない超越者にして傍観者にして観客たちに本物のラクス・クラインは告げた。
「もう少しだけ続きますわ♪」
最後のは唯の閃きの産物です。
ストライクウイッチーズにハマり、ネウロイ主役で何か書きたいな~と叶うはずもない妄想を抱える昨今でした。