次回からその他掲示板に移動したいとおもいます!
『自分たちの操縦技術がコーディどもに及ばない事はちゃんと理解していた。
腹立たしくはあったが軍人としてその事実をしっかりと受け止め、それを補う戦術も学習し訓練を続けてきた。
隣に立つのも気心が知れた同期だったし、機体も最新鋭機。
問題なんて一つも無かった。もっと言えば好条件だと言って良い。
それでもオーブ沖の悪夢は覚めなかった……それだけの事さ』
のちにとある戦史家に語った元連合軍MSパイロットの言葉より
「とっ! 止めろ!! 相手はたった二機なんだぞ!?」
そんな事はその場に居た誰もが分かっている。
最新鋭量産機で揃えられた彼らの視界 ディスプレイに跳び回るエネミー表示は僅か二つ。
誤差などは存在しない。大多数を相手にするソレでは無い。たった二機を相手にした包囲戦だ。
誰もがさっさと終わらせて、敵後方に控える戦艦への攻撃を想定しているのは明白。
「新型とはいえ! これほどなのか!?」
前大戦でモビルアーマー MAのパイロットからMSパイロットに転向した大部分は、ザフトのMSと言う物を少々過大に評価している。
それは対戦前期にジンにメビウスで追い回され、死すら計算して使い潰された経験によるものだ。
それがプラスかマイナス、どちらに働くかと言えばプラスだ。敵を過小評価するよりもずっと良い。
カーペンタリアの包囲戦から慌てて絞り出した戦力とはいえ、その中にはMA上がりの生え抜きも含まれていた。
「くっ! 来るなぁああ!!」
だが今回はその熟練者たちが足を引っ張る形になってしまっている。
敵機は二機、一つはフライトユニットを搭載したGタイプ。V字アンテナを特徴とし、ザフト・連合どちらにも共通するエース級。
「夢だ」
Gタイプが強いのは分かる。それは両軍における強者の証だ。だから誰もが警戒していたし、事前に伝えられた情報にもあった。
だがふたを開けてみれば現れた二機目。
そして問題はもう一機。ザフト特有の一つ目 モノアイ。自前の翼は無く、不格好にも飛翔体に頼る形。
「悪い夢だ」
だが強い。早い。そして怖い……あの憎たらしい一つ目が恐怖を助長する。
不安定な大気圏内での海上航空戦で在りながら、手には巨大なビームアックス。
率先して接近戦を仕掛けることでこちらは同士討ちを避けるために多方面から攻める事が出来ない。
「オーブ沖の悪夢だ」
次々と引き裂かれて行く仲間たち。誰かがそんな事を呟く。
「いや……違う」
否定の言葉。ザフトのMSが強いのは理解している。パイロットの種族が違うのだ。
そしてそれは軍人として超え無ければならないが、同時にものすごく高い壁であると確信している。
だがその壁は自分と同じく戦いに命と誇りを賭けた者である。
故に打ち倒されることにも在る程度の諦めと誇りが持てた。だがこれは駄目だ。
こんな物は認められない。こんな物に倒されるのは不条理……悪夢だ。
一人の連合軍MSパイロットは叫んでいた。
画面に大写しになる不気味なモノアイ。振り上げられた巨大なビームアックス。
そして目が覚めるような……悪趣味と表現して間違いない……それはそれは物凄い……パンクでファンタスティックな……
「ピンクの悪夢だぁ!!」
ショッキングピンクなザクだった。
「たぁあああ!!」
両断する。もう何機目かも数えてなんて居るはずがない。
多分しっかりと数を数えていたらスーパーエース確定コースだろう。
「しっかし……楽しいなぁ!」
大気圏内での戦闘 そして海上での空中戦というのはどちらも初めての体験だ。此処には宇宙には無い多くのモノが存在している。
一つは空気。これがある事により、正確にいえばそこに存在する様々な不純物により、ビーム兵器はその威力を距離に応じて損なう。
真空である宇宙での戦闘時、ビームは距離によって影響されない必殺の兵器だ。
その感覚でいると此処では何度もヒヤリとさせられる。自分の必殺を相手が防ぎ、相手の必死を受け止める誤差。
減衰することで生じるランダム性は更に私 ラクス・クライン(とちょっとだけ似ているミーア・キャンベル)をときめかせてくれる。
コクピット内にはロックオンアラートが大合唱。ディスプレイには空を埋めつくさんとするように広がるウィンダムの群れ。
「あぁ! 私はいま……輝いてる!!」
全くダメ人間である。
頭部へのコースを辿るだろう射撃を首だけ僅かに逸らして回避。
グゥルに指示、急加速で距離を詰める。自身の加速と向かってくる迎撃が交差する。
相対速度は倍になり、時間の感覚は半分へ。従来の機銃とは異なり、ビームはいかに出力を絞っていても概ね致命傷足りうる。
暴れる視界と暴れさせるビームガトリング。宇宙以上に一撃が致命傷足りえる大気圏内空中戦。
当たれば当然のように態勢が崩れ、当然のように攻撃を妨げる事が出来る。
「はぁああ!!」
攻撃を止めた敵というのは良い的であると同時に盾だ。ビームアックスの射程に収める為に一機に接近すれば、それよりも多くの敵機が攻撃を躊躇う。
だが近づかれた機体からすれば敵が自ら当てやすい場所によってくるようなモノ。
ビームガトリングで体勢を崩しているとはいえ、何時までも接近している訳にはいかない。
故に切り捨てる。
「つぎっ!!」
盾を自ら切り捨ててしまえば、敵からの攻撃が再開される。多数を敵に囲まれた状況ならば反撃は厳しい。
故に先ほどの行動を繰り返す。敵が多いという事は盾が多いという事。一歩間違えれば盾を失い、四方からハチの巣にされるだろう。
綱渡りの連続。ハリの山をスキップで駆け上がるような死と隣り合わせ。
そういうのが良いのだ。あぁ……この幸せな気持ちのまま死んでしまっても良いかも……
『ラクス、大丈夫ですか!?』
「っ!?」
通信機越しに響く最近聞き慣れていた声。トリップしかけていた意識が僅かながらに引き戻される。
ギリギリ過ぎた回避が安心できるギリギリへと変わったのが分かった。
タナトスに惹かれていたダンスの誘いを振り払い、再びアテナと矛を交える。
「っ……誰の心配をしているの?」
意識が引き戻されると同時に私が吐き出したのは強気なセリフ。
それだけで通信機越しに安堵のため息が返ってくる。これがラクス・クラインなのだ……心底憎たらしい。
そして……嬉しい。だからこう返す。
「貴方は大丈夫?」
まぁ、聞いておいてなんだが大丈夫な訳がないのだ。あっちもこっちも火の車。
ロックオンアラートと爆発音の大合唱。無茶な機動と爆発で機体が頼んでも無いのに揺れる。
何時でもミネルバなり、私のザクなり、彼のインパルスが撃墜されても可笑しくはない状況だ。
だからこそ聞く。答える事は確認だ。『落とされまい!』とする意識をしっかりと持っていて貰わなければ。
その返答は想像以上に嬉しいモノだった。シン・アスカは至って真面目調子でこんな事を言った。
「貴方の歌を守るから、こんな事では堕ちてられない!!」
幸せな色のため息が零れ落ちた。
「あぁ……もう、何も怖くないわ」
「どうやら始まったようだね」
オーブの海岸沿いにあるその邸宅には静かな空気が満たされていた。
その静寂を引き裂いたのは武骨な通信機の前に座し、自家焙煎コーヒーをすする浅黒い肌の男。
「忠告は少し間に合わなかったようね」
答えるのは茶色の長い髪と豊満な胸が印象的な女性。
小奇麗なリビングには似合わない武骨な通信機の雑音に耳を傾け、受け取った自家製コーヒーに口を付け、渋い顔をする。
「あぁ……ミーアさん」
そんな二人から少し離れたソファーに横になりながら、ピンク色の猫のぬいぐるみを抱きしめるのは少女と女性の半ば。
綺麗な桃色の長髪がゴロゴロと寝返りを打つたびに揺れる。常に微笑を湛えている表情には分かり易い『偏愛』の熱。
「少し風に当たってきます」
ふらりとソファーから立ち上がり、テラスへと歩を進める彼女に付き従うのは球状のペットロボット数色数種。
「いやはや……我らの女神が『ただの人間』にここまで入れ込むとは」
整った顔立ちながら片目に走る裂傷が印象的な男が面白そうに呟く。
「そうね。彼女の『ニセモノ』への入れ込みようは……違うベクトルでキラ君へのソレをも超えているわ」
同じ女として、人生の先輩として、恋人にはもう少し心を割くべきだと思わないでもない女性はため息。
「……」
そんな会話の輪には加わらず、壁際で手を組んでいた紫色のコートとサングラスの青年は少し置いて、少女の後を追ってテラスへ。
「そういえばあの青年も彼女のお気に入りだったね」
「俗な言い方をすれば『二人目』ということかしら?」
最近この家、もしくは少女の周りに現れた青年 ブレラ・ストーンの事を男女二人は在る程度、肯定的に捉えていた。
世界中の全てを愛していると公言して止まない彼らの女神が、単純な個人に興味を持つのは良い事である。
だが『若い女性が権力にモノを言わせて恋人でもない男を侍らせる』というのは世間的には色々と問題があるだろう。
しかしそんな『世間的』なんて言葉の外側に彼女が居る事を、他のどんな『友人』よりも近くにいる彼らは理解していた。
それに前から『ボディーガードの一人も雇うべき』だと進言していたから問題はない。
「しかしこんな時期に二人も『お気に入り』が生まれ……片方は間違いなくこれからの世界を動かす人物とは」
感慨深げに頷き男は手に持ったコーヒーを煽る。
「でもその世界を動かすだろうニセモノが乗った船は大丈夫なのかしら?
『元艦長』から言わせていただけば、かなり危機的状況だと思うのだけど」
そんな女性の言葉に浅黒い肌の男は声を出して笑い始めた。
「?」
疑問符を浮かべる女性に片方の目から笑い涙まで零した男は得意げに問う。
「『かなり危機的状況』を何度も打ち破り、オレ達に痛撃を与え続けた大天使の船乗りがそんな事を言うとは」
「もう……茶化さないで」
女性は困ったような顔と共になんとか飲み終えたコーヒーをテーブルへ。
ふとテラスへと視線を向ければ、何があったか分からないけどラクスがブレラの手を取り、ぶんぶんと縦に振っていた。
握手というには一方的な感じである。何かうれしい事でも言われたのだろうか?
「俺は君や女神さまのように心配はしていないんだ」
「どうして?」
「女神さま ラクス・クラインが気に入った相手が乗っている船だぞ?
世界の激動を目の前にして、何もなす事無く沈むなんて在りえないだろ?」
男 アンドリュー・バルドフェルドの言葉には一切の理由が存在しない。
しかし女 マリュー・ラミアスは思わず納得して、頷いていた。
テラスでは強引な握手から何故か手を取り合ってのダンスへと移行している。
両方ともコーディネーター、片方はMS傭兵なのだから、そのダンスは即興にしては美しく洗練されていた。
「彼女に掛かれば……MS傭兵はもちろん、砂漠の虎も、大天使の艦長も、最強のコーディネーターも、戦女神も、この国も、運命さえも……ただのダンスの相手なのかもしれないね」
「あ~少し落ち着いた」
戦闘での熱も含めて、深い息一つで色々と吐き出す。
圧倒的な安心感と自身は闘争本能に火をつけるず、逆に落ちつけてしまうモノらしい。
そこまで考えて私を熱暴走させるようなセリフを吐いたのなら、シン君は間違いなく将来は大物になるだろう。
「ちっ……キツイな」
そして覚めた思考が新ためて状況を的確に理解させられる。
確かに私は多くの敵MSを撃破している。ミネルバはもちろん、シン君を手始めにMSの一機たりとて撃墜されていない。
だが私たちの危機的状況は変わらない。
『状況』とは目の前の敵を一定数撃破すれば変化するような分かり易いモノではないのだ。
周りにはいまだに多くのMSが飛び交っているし、前方には殆ど無傷の敵艦隊。
後方には扉を閉ざすオーブ艦。そして何よりも自分たちの母艦ミネルバは危機に陥ったままなのだ。
いかに上手く立ち回ろうとこの状況が一つでも変わらない限り、私たちに生き残る術は無い。
純粋な数では圧倒的に劣る私たちにとって、現状の維持をする作業は緩慢に死を引き延ばしているだけに過ぎない。
逆にいえば敵は急ぐ必要など無い。突破さえされなければ時が進めば進むほど、簡単な勝利が彼らの元へと転がり込んでくるのだから。
つまりこちらが生き残るには守っているだけでは駄目なのだ。
今の命をつなぐだけではなく、前方に聳える大きな壁を打ち破らなければ。
「だけど……超えられる?」
余りにも厚い壁に思わず弱音が零れた時、メイリンちゃんの声がコクピットに響いた。
『後方のオーブ艦に増援!』
「っ!?」
オーブ軍の役目は戦闘では無く、『領海内に戻ることは許さない』というメッセージを発する事だ。
ミネルバとしても領海内に戻っても何一つ良い事など無いのだから、無視していた訳なのだが……ここで増援があるとなると話が変わってくる。
『艦種照合……え?』
「艦種は!?」
いま展開している艦と同様の種ならば少しは安心できる。思わず報告を急がせてしまった。
「艦種は……オーブ海上艦隊旗艦……機動空母タケミカズチです!!」
「!?」
海洋国であるオーブの防衛の要であり、MSを海上運用する為に無くてはならない存在。
国防面から必要とされ続けるも、中立の看板を掲げる国には出過ぎた代物だと、内外から不満が噴出。
それでも復興にキリキリ舞いする予算を絞り出し、何とか完成に漕ぎ付けた一隻。ただの警告の為に出してくるだろうか?
「タケミカズチ甲板にMSを多数確認……全て起動状態です!!」
しかもタケミカズチは連合に多数存在する『後からMS運用に切り替えた空母』ではない。
最初からMSを収容し、整備し、修理し、運用する為に作られた。故に無駄が無くその搭載数は自艦の戦闘力を殺していても、お釣がくる。
『『『『『!?』』』』』
誰もが驚きのうめき声を上げるのが分かった。誰もが考えているのだろう。
『オーブもやる気なのか!?』と
「MSの機種は?」
『……ムラサメです』
暗い声で報告しないで欲しい。
ムラサメと言えば初の量産型可変MSとして名高い傑作機。
海上での運用を主眼に置き、それぞれの場面でMS形態と飛行形態を使い分ける。
MS単独の性能で見るならば連合軍よりも闘いたくはない相手だ。
「あれ?……ムラサメ以外の機種を確認! 数は1!!」
送られてきた情報と映像に僅かながら目を落とす。見たところムラサメの改造機らしい。目立つのは追加装甲とウェポンラック。増えた重量を支え、なおかつ従来機以上の速度を叩きだす為の無数のバーニア。
はっきりいって無茶苦茶な構造だ。白とオレンジが印象的なオーブカラーでは無く、黄色味が強い赤が目立つ。
その機体だがMS形態が手を組んだ形で仁王立ちしている様は威圧感を放っていた。
不意にその機体から通信。ザフト、連合のどちらともなく全てに。
『当機はオーブ軍機動母艦タケミカズチ所属 ミネグモ! 私はオーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハ直属特務大尉 アレックス・ディノである!!』
この声!? アレックス……アスラン・ザラ!? このクソ忙しい時に新型機なんて乗って何の用だ!?
『ザフト、連合の両軍に警告する』
「?」
その言葉に感じたのは何はともあれ妙な違和感だった。
ザフト つまり私たちに対して警告を行うのは分かる。何せ領海を僅かに出た場所で立ち往生しているのだから。
『ザフト軍ミネルバへ、貴艦は我が国の領海に接近し過ぎている。これ以上の接近は認められない』
ふとここで音声通信以外に文章での暗号通信を受信……前大戦の前期にザフト間で使われていた暗号通信。
発進場所は……アスラン? 確かに彼が現役だった時に使われていた代物だ。
「なに……これ?」
久しぶりの解読で僅かに手間取りつつも、文字列を確認して首を傾げる。
『赤い目の君へ。故郷の獅子を信じろ。道は開く』
全く意味が分からない。
『そして連合軍艦隊に告げる』
なるほど……遺和感の正体はコレだ。普通に考えれば連合に情報を流した時点で、ここでの戦闘行為を黙認していると考えるだろう。
私たちもそうだったし、連合もそのつもりだったはずだ。だがそれは決してあのバカなライオンの意思では無いらしい。
『貴艦らの攻撃は我が国の領海を攻撃している。これ以上の蹂躙は認められない』
そりゃ~ミネルバがオーブを背にして闘っている以上、ミネルバへの攻撃の幾つかはオーブの領海へと着弾するだろう。
そんな事は仕方がない事で在り、今更そんな事を言い出した所で、連合軍はただただ困惑するしかない。
『タケミカズチよりムラサメの発艦を多数確認!!』
メイリンちゃんの声に続いて、アスラン……いやアレックス・ディノ特務大尉は胸を張ってこう仰った。
『我らオーブは中立国として、そのどちらをも平等に排除する用意がある!!』
そして暗号通信はなお唱え続けていた。
『赤い目の君へ。故郷の獅子を信じろ。道は開く』
この瞬間、私はオーブの……カガリ・ユラ・アスハの思惑を理解した。
連合の砲撃が戸惑ったように緩む。隙が出来た敵機を切り捨てながら、私はタリア艦長に叫ぶ。
「道が出来ました!!」
後ろを閉ざしていたはずのオーブはこの瞬間、盾になった。
前へと突破出来ないならば……左右を攻めるしかない。
前大戦時からの軍艦乗りたるタリア艦長もこの暗号を解析し、その意味まで理解したのだろう。
でなければさっきまでの厳しい美貌が僅かながらも、希望のソレで輝きはしないはずだ。
『ミネルバはオーブを背にしたまま左に回り込むわ! インパルス! ザク! しっかりスコートしなさい!!』
『え?』
状況が理解できないシン君に手短に告げた。
「オーブは君の信頼に答えた……ってことかな?」
さぁ、後は進むのみ!
どうしてアスラン機 ムラサメの改修型がミネグモなのか?
分かった人には偽ラクス様に『勝ちに行くわよ!』と言われる権利をあげよう(ぇ