どうも、神月ひかりです。
国防と資源博覧会に来ている私は今、原田さんによる扶桑海事変の解説を聞き、陸海軍ウィッチ関連の展示コーナーへ来ています。
事変のジオラマの所は、どちらかというと大人が多かったんですが、こっちは家族連れというか、子供、特に女の子が沢山いますね。
「原田さん、こっちには女の子が沢山いますね?」
「こっちはウィッチ関連の展示だもの。ウィッチに憧れてる子が見に来てるから、ひかりちゃんがそう思うのも当然よ」
ウィッチに憧れるなら、こっちの展示だけじゃなくて、向こうの事変のジオラマも見とけよ~。ウィッチはとっても大変なんだぞ~。
と心の内で言いながら展示コーナーを見ると、入り口真正面に『扶桑海の閃光』のダイジェスト版が上映されていますね。
順路に沿って、ウィッチの写真と、簡単な経歴や事変での戦果などが表されて・・・・・・・・・ナンデスカ、アノバカデッカイ銃ハ?
「あの~、原田さん。あのでっかい銃は一体なんでせうか・・・・・・?」
「でっかい銃?ああ、あれね。あれは樫出悠子准尉が使った97式自動砲改よ。全長2000ミリ、重さ約60キロ、事変でウィッチが使用した火器の中でも最大のものよ。
この20ミリ弾に当たれば、中型怪異も文字通り一撃必殺だったの。もっとも、これを扱えるウィッチはそんなにいないけどね」
「そうでしょうね」
こんな、本人よりも大きくて重い銃(砲?)を振り回して戦っただなんて、恐るべしです。というか、横に置かれているオロナミンの空瓶みたいな弾頭が当たれば、
小型の怪異は問答無用で木っ端微塵なんでしょうね。
なになに『樫出准尉は、実家の樫出流鉄砲術を修め、扶桑海事変では遠距離からの狙撃により、中型種を中心に20体近い怪異を撃破』ですか。
まるで扶桑版リーネちゃんですね。使っている銃も似たようなモノですし、遠距離からの狙撃という点では同じですしね。
そして、やっぱりというべきか、展示スペースのど真ん中にでかでかと『三人娘』の展示がありました。
今扶桑で有名なウィッチのトップ3ですから、当然といえば当然なんですが。
しかしまあ、レプリカとは思いますが、戦闘脚に服と銃、刀まで展示されてますね。その横には写真を使った紹介ですか。
「そして、これが扶桑陸軍が誇る最新鋭ストライカーユニット『キ27』よ。『キ27』っていうのは開発時の呼称で、正式名称は『九七式戦闘脚』ね。
ここにも書いてあるけど、従来のストライカーは魔導エンジンを艇体と呼ばれるのに収納して別に持つ必要があったから、ウィッチの自由度は今一つだったの。
でも、宮藤理論を採用して魔導エンジンをストライカー内部に納めることに成功したこの『キ27』は、今までのストライカーとは別次元の自由度を
ウィッチに与えることが可能になったの。この形状のストライカーとしては、海軍の九六式戦闘脚の方が先に正式化されたんだけど、
あっちはどちらかというと試験機的な運用もあったし、九六式で得た戦訓も取り入れたから、今現在各国が使用している戦闘脚の中では、
トップクラス。特に機動性能に関しては、現状最高峰と言っても過言じゃないわ」
なるほどなるほど。ただ説明文を読んでるだけよりも、元ウィッチの原田さんから聞くとこれはまた違った感じがしますね。
……あれ?
『加東圭子 中距離からの見越し射撃を得意とし、事変では怪異23体を撃破』
『穴拭智子 扶桑刀を用いた近接戦を得意とし、事変では怪異7体を撃破』
『加藤武子 戦闘での指揮に長け、怪異撃破数は2体と少ないものの、加東、穴吹との編隊を指揮し、両名の戦果及び事変の勝利に多大な貢献を寄せる』
あれあれ?撃墜数が加東さんの方がぶっちぎりで多いじゃないですか。なぜに映画の主役じゃなかったんですかね?
「原田さん、原田さん。この加東さんって人の方が沢山撃墜してるんですよね?何で映画の主役じゃなかったんですか?」
「あ~、え~っと、その~。それはね・・・・・・・・・」
何か言いにくそうな原田さん。聞いちゃマズかったんでしょうか?
「えっとね、言うのもちょっと恥ずかしいんだけど、圭ちゃん。加東さんって、中距離からの射撃って書いてあるでしょ。それじゃ見栄えが悪いって上層部から注文が
入っちゃって、近接戦での撃墜数トップだった穴拭さんが映画の主役に決まったの」
と思ったら、耳元で小声で教えてくれましたが、ちょっと呆れる理由ですね。
そりゃ確かに淡々と銃を撃ってるよりは、扶桑刀でバッサリと切り裂く方が見栄えはいいかもしれませんけどさ………
格闘戦至上主義というか扶桑刀至上主義って言えばいいのでしょうか?そういうのはやっぱりあるんですね。
と、ちょっと考え込みかけてたんですが、話題を変える為なのか原田さんが話しかけてくれました。
「それより、どうかしら?扶桑陸軍ウィッチ隊の装束は。純白の小袖に緋色の袴。ウィッチ用の手甲と脚甲も格好いいでしょ」
「そうですね。見た目も鮮やかですし、手甲と脚甲で戦う者の雰囲気も合わさってますね」
「でしょ?そして、首元には小袖と同じく純白のマフラーをたなびかせて空を舞うの。現役の頃を思い出すわ」
「原田さんが現役の時も同じだったんですか?」
「そうよ。陸軍ウィッチの装束は、ずっと昔からあの姿のままよ。多分だけど、ここ50年は変殆どわってない筈よ。
昔と比べて変わった所っていっても、銃を使うウィッチに合わせて弾薬盒が新しく開発されたくらいじゃないかしら?」
「へえ~。伝統ある装束なんですね。あ、あのマフラーになんか書いてありますね。え~っと…豪……勇…穴拭?字が下手でちょっと見にくいですね。
模造した人ももう少し綺麗に書いて欲しいですよ」
「あれ実物よ」
「ゑ゛?!」
うわ~~。やっちゃいました。よりによって国民的有名人の直筆を下手くそって言っちゃいましたよ。
「……あ~。え~と、その、原田さん。さっきのは聞かなかったことでお願いします」
「別に構わないわよ。私も同じこと言っちゃったし」
「ハハハハ…そうですか。原田さん、あっちに何か行列ができてますけど、なんなんですか?」
「ああ、あれはウィッチの装束で写真を撮ってくれる所があるんだけど、その順番待ちの列よ。といっても、簡略化した装束に付け耳をして、
ストライカーの外装を固定した台に座って。ってやつだけどね。ひかりちゃんも記念に一枚どう?」
「いや~~、遠慮しておきます。少し経てばウィッチになりますから」
「予想してたけど、やっぱりひかりちゃんならそう言うわよね~。あ、そうだ。ひかりちゃん、ストライカー着けてみない?」
「はい?」
原田さんったら、いきなりトンでもない事を言ってきました。猫の耳と尻尾は幻視ですよね?
「原田さん。ストライカーって」
「当然ストライカーユニットよ。陸軍最新鋭のキ27、もちろん本物よ」
「いやいやいやいや。さすがに無理ですって」
「それがそうでも無いのよね。偶然にも、私の教え子がココに来てるの。その子に頼めば一発解決よ」
「それって公私混同じゃないんですか?」
「ひかりちゃん、良いことを教えてあげるわ。権力とコネはね、使うためにあるのよ!」
「さらっと凄い事言いましたね。ところで、そのこころは?」
「ひかりちゃんに陸軍のストライカーも良い事をアピールすること………あ゛………そ、それじゃちょっと聞いてくるわね~」
そう言うと、原田さんは『関係者以外立ち入り禁止』と書かれている扉を開けて中へ入ってしまいました。
原田さん、あなたが戻ってくるまで私たちはどうしてればいいんでしょうね?とりあえず、近くの展示品を見ておきましょうか…
数分して、原田さんが戻ってきました。
「許可貰ったわよ。五時半に、ここの前に来てくれればいいって。それで、私もこっちで準備を手伝うから、時間まで別行動になっちゃうの。ごめんなさい」
「いえ、それは構いませんけど」
「それじゃ、五時半前にここの前で待ってるわね」
と言って原田さんは扉の中に戻っていきました。というか、本当にアッサリと許可取って来ましたね。時間は五時半ですか…
「五時半……お父さん。今何時?」
「今は三時を少しまわったところだね」
「あと二時間ちょっと……どうしよう」
「そうだね。それじゃあ、移動動物園に行ってみるかい?」
「ん~~、それじゃそうしよっか。行こう、お父さん」
というわけで、約束の時間まで会場の一角にある移動動物園に行ってきました。
犬や猫等の小動物とのふれあいコーナーで思う存分モフモフしてきました。個人的なことですが、やはり犬は柴犬ですよ。
さて、約束の時間が近づいてきたので、名残惜しいのですがモフモフは終了させて、ウィッチ館の前まで来ましたが……
『本日は国防と資源博覧会にご来場いただき、誠にありがとうございました。あと少々の時間をもって、本日は閉場となります。
お忘れ物の無いようお気をつけてお帰りください。本日はご来場いただき、誠にありがとうございました』
ってアナウンスが流れてきました。このままだと会場が閉まってしまうんですけど、どうなるんでしょう……
「お待たせ、ひかりちゃん」
「いえいえ、私達も今来たところですから。ところで原田さん、もうすぐ閉場しますってアナウンスがされてますけど、私達はどうなるんですか?」
「既に連絡済みだから大丈夫。今日は関係者用出入り口から出れば良いって許可も貰ってるわ。さ、こっちよ。ついてきて」
原田さんに案内されたのは、ウィッチ館裏手にある倉庫のような建物でした。原田さんの説明によると、展示している武器や機械を整備する建物だそうです。
その建物の真中にある台座にストライカーユニット「キ27」が固定されていました。そして、その横に陸軍の軍服(上着)を着用した女性がジッとこっちを見ています。
眼鏡越しにもの凄く鋭い視線がビシバシとこちらに来てます。やっぱり、原田さんが無茶を言ったからなんでしょうか……ちょっと怖いんですけど……
「貴方が神月ひかりさんね?私は所沢陸軍飛行学校教官、川崎マヤです。よろしく」
後編へ続く
あとがき(と言えるほどのものでもないボヤキ)
まさかの前中後編になってしまいました。微妙な終わり方で後編へと続きますが、国防博覧会編は次で終わり。
私生活でいろいろとあって、一回書くの辞めかけたけど、二期開始に励まされた。
カタツムリ並みの速度でも頑張っていきます。