あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!
たった今、俺は事故った。というか事故られた。
休日出勤を繰り返して溜まった仕事を片付け、漸く作った連休で小旅行の帰り道、居眠り運転の10tトラックに乗ってた車ごと崖下に吹っ飛ばされました。
即死こそしなかったものの、下手に意識が残るってーのも考え物ですな。どんどん力が抜けてくわ、寒くなるわ、意識が薄れるわと散々です。
徐々に薄れて行く意識の片隅で思ったのは、
居眠り運転で事故起こすなら、誰も巻き込まずに一人で事故りやがれ、運転手のド阿呆め
明日から仕事だったのに、どーすっかね。しかも納期前の仕事が結構あったのに……
こんな終わり方なんて納得できるわけないだろーが。生きたい…生きて……いた………い………
そして俺の意識はそこでぷっつりと途切れた。
『光だ』
意識が戻った時、こんな考えしか頭になかった。少々の怪我や病気ならば関西人故に「知らない天じ(ry」とか「もっと光を!天帝様は(ry」というネタに突っ走るのだが、
当然のことながらさすがに今はそういう気分ではない。
一度行った賽の河原じゃないのは確定だが、ここはいったい何処だ?
あそこ(賽の河原)は三途の川の渡し船の待ち行列や説教大好きな鬼達で結構ガヤガヤ騒がしいけど、ここは静かだし、なにより天井がある。
周りを見渡そうにも体どころか首すら動かん。それどころか喋ることも出来ない。事故の影響で全身麻痺状態なのか?
これでは助かったところで意味なさげではないか……いやいや、命があっただけマシと考えるべきなのかどうかと考えていたら
「あなた、あの子が起きましたよ」
って女性の声がした。少なくとも『オカン』の声じゃない、もっと若い女性の声だ。
「そうかそうか。やっとお目覚めか」
という声と共に視界に入ってきたのはこれまた若い男女………誰だコイツ?という俺の疑問そっちのけで話し始めてますよ。
「やっと起きましたね~」とか、「顔立ちは母さんによく似てるな」とか、「あら、目もとは貴方にそっくりですよ」とか、
この会話でなんとなく状況を理解しつつあったが、理解したくない。夢ならさっさと覚めろと必死に思ったが、
その思いをアッサリと否定する決定的一言を女性の口から出た。出てしまった。
「はじめまして。私たちがあなたのお父さんとお母さんですよ~」
やっぱりそう来ましたか。薄々は解ってたんですよ、あの事故で俺は現世からTHE・グッバイして、何の因果か記憶を持ったまま輪廻転生したって事ですよね。
正直言って、前世には未練タラタラですよ。家族の事とか、仕上げる直前だった仕事の事とか色々とありますよ。
でもこうなった以上はどうしようもできん、神仏ならどうにかしようがあるのかもしれんが、あいにくと俺は人間なんで。
もう一回人生やれるって事だけでも感謝しておくべきなんでしょうか?
「ところで貴方、この子の名前は考えてあるの?」
「勿論だ。この子の名前はひかり。『神月ひかり』だ」
「ひかり……良い名前ね。貴女は今日からひかりよ。元気に育ってね」
「大丈夫だ、この子、ひかりなら元気に、そして母さんみたいな美人になるさ」
「やだ、貴方ったらお上手ですこと」
………ちょっと待てい!!
今聞き捨てならんことをおっしゃいませんでしたか?母さんみたいな美人?
…………マジですか…
こうして、『俺』は死に、女の『神月ひかり』となってしまった。
あれから約4ヶ月、俺は赤ん坊の仕事である「寝て、食べて、泣く」のサイクルを順調に繰り返している。
いきなり見ず知らずの世界にポンと放り出されたら、帰れないと理解しててもホームシックにもなる。そういう時は夜泣きに見せかけてコッソリと泣いている。
こうなってしまった以上は『神月ひかり』として生きる他に選択肢は無いのだから、できるだけ後悔しないように生きていこうと、もう会えない親兄弟に誓った。
さて、そうなるとまずは情報収集である。
首も据ったので、しばらくモゾモゾと寝返りで体を動かして視界を確保、ちょうど視界に入ってきたカレンダーをまじまじと観察。
1928年3月6日
まず、1928年というところで焦った。太平洋戦争前じゃないですか、お父さん。俺に機銃掃射と焼夷弾の雨の中を逃げ惑えと?
すみません、前世のマイファミリーよ。さっきの誓いは五分と経たずに破ってしまいました。 orz
なんてテンパってたら、その横に書いてある文字を見て強制的に再起動させられた。
扶桑皇国春季皇霊祭
大日本帝国じゃない…扶桑皇国?……扶桑皇国?!
もしかしてアレですか。ストライクウィッチーズな世界に、最近流行りの転生モノってヤツですか。こんなのってアリですか?